ブラック家の御曹司 作:修造
最近ちょっと温かくなってきたなと思う今日このごろ。友人が花粉がヤバいと言っているのですが、まだ早すぎると思うのは私だけですかね?私も花粉症ですが(笑)
──夢を見ていた。
あれは、ロックハートとの茶番劇が始まって間もない頃である。当時、話題になりかけていたものの、未だに寮ではほぼ孤独な生活を送っていたシグナスは、おそらくドラコの取り巻きたちによる、陰湿な攻撃に遭っていた。
ドラコの取り巻き──というと、少し語弊があるかもしれない。正しくは、ルシウスの影響でドラコに付いている者たちが、ルシウスの指示を受けてやっていることだ。ドラコは直接的には関わっていない。
初めは、故意にぶつかって来ることだった。シグナスは、"逆転時計"を使用する関係があって1人で行動しなければならない。
移動教室の合間に人のいないところに行って"飛ぼう"としたときに限って集団でやってくる。1人でやるほどホネのある者がいないことが嘆かわしく、なお悪質だ。頭数だけ揃えればいいのだろうか。
最初の2、3回こそぶつかられるままだったシグナスだったが、相手が調子に乗り始めて行動が大胆になってきたところでついにキレた。
当たり屋という言葉をご存知だろうか?
簡単に言えば、故意に事故を起こし、因縁をつけ、相手の精神的動揺につけこんでまんまと当該目的を達成しようとする行為である。
例えば金品を強奪したり、保険金狙いだったり、その他etc…
シグナスがこれを知ったのは必死に日本語を勉強していた頃にジャパニーズマンガを見た時で、いかにも不良そうな人間がわざと相手にぶつかり、"いってぇ〜なあんちゃん"、"これ折れたな。どうしてくれんだコラ"的なシチュを見た時は衝撃を覚えたものである。
シグナスはぶつかりにいくわけではないが、いわゆる逆当たり屋的なことをやったのである。そこ、当たられ屋とか言わない。違うから。ぶつかってくるのは向こうだから。
ドンッ!
「いってぇ~~~(棒)テメェら俺を誰だと思ってる?最近舐めてねぇかオラ。」
「ひっ、すっすみません!」とモブA。
迫真(笑)の演技に騙されたのか、自分が誰に喧嘩売っているのか、自分の過ちに気づいたようである。シグナスが逆ギレし滅多に見せない憤怒の顔つきを見たモブBからEは、さっさと逃げようと構えている。薄情なやつらだ。
「おい、おまえら。」
ピクっと反応して逃げるのを辞めた4人。
「今ので骨折れたわ。どうしてくれんの、コレ。」
「マッマダム・ポンプリーのところに……」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ。んなこと言われなくても分かるわ。お前らみたいに頭にゴミ詰まってねぇからよ。俺の言いたいこと、分かるよな?」
「………」
「分かるよな?(怒)」
『ひっヒィィィ……ガクッ(白目)』
「おいおい嘘だろ……なんてホネのないやつらだよおい。」
余りにも物足りなくて、もはやキャラ崩壊を通り越してただムカついたシグナスは、魔法で彼らの身ぐるみを剥がしてその場で燃やし、彼らの脳を弄った上で、5人をロープでグルグル巻きにしてその辺に捨てておいた。近くに灰となった身ぐるみを添えて。
その日からだろうか──。
次からは、よく物を隠されるようになった。
最初は教科書、次に提出するハズだったレポート、果ては靴などの生活必需品。
いかにも初歩的で小心者がやりそうな手口だが、姿が見えず最も悪質で断ずるべきだとシグナスは考える。どうしてコソコソとことを行うのか。少年よ、堂々とせい。
半ばグリフィンドール生らしくなったシグナスだったが、概ね呼び寄せ呪文を使えばコトは済んだし、イタズラ書きされていたら清め呪文、ズタズタにされていればレパロで直せばいい。
おそらく相手は箒を盗って万が一にもクィディッチに復帰できなくしたり、重要な品を奪って弱みを握ろうとしたのだろうが、そういったものは検知不可能拡大呪文がかかったバッグに入れて肌身離さずに持ち運んでいる。
しかし、どうしても困ったのが、呼び寄せ呪文でも届かない場所に置かれたか、どこかに引っかかった場合である。そういう時は探しに行かねばならなかった。
最初は試行錯誤でやっていた首謀者も、こうすればシグナスが困ると分かり、一時のシグナスは行方不明なものが増えた。
かといってすべて例のカバンには入れられない。仮に盗まれたときのリスクがデカすぎる。
そして、提出するハズの課題を横取りされて期限内に提出できず、罰則を受けるハメになることも増えた。その時には先生たちもダフネを始めとした近くにいる友人も気づいていて、罰則は軽めに、友人たちは率先して探してくれるようになった。
分かってても罰則はあるのかとは思うが、あくまでも形だけはやっておかないといけないらしい。しかし、各先生は全権を寮監のスネイプに委ね、スネイプは魔法薬学の教室の掃除を命じた。
といっても、長期的な問題とされたため、ある日は棚のみ、またある日は器具の整理など簡単なもので済ませてくれた。
また、ダフネやジャックだけでなく、他寮のセドリックや双子たちも精力的に探すのを手伝ってくれて、本当に感謝してもしきれない。
そして、ある日の罰則──。
この日は、備品の教科書を綺麗にすることが命じられていた。1つ1つの教科書を丁寧に磨いていると、1つだけすごく使い込まれた教科書を見つけた。
それは薄紫色をした「上級魔法薬」の教科書で酷く傷んでおり、これは処分かなと思って中身の損傷具合を見ようと捲って驚いた。
教科書の魔法薬の作り方を自ら訂正して書き込み、余白がなくなるまで塗り潰された注釈のオンパレードだったのである。
『半純血のプリンスの蔵書』と署名されているその教科書には、本人が開発したと思われる魔法薬も書き込まれており、まるで相手に教えるように丁寧に書き込まれていた。
特に理論は素晴らしく明快であったので、この人物は先生でも目指していたのではないだろうか。
魔法薬学におけるスキルアップのチャンスだと思ったシグナスは、帳簿に"1冊廃棄"と書いてそれを持ち帰った。
そしてある日──。
この日は予備の羊皮紙がごっそりと無くなって呼び寄せ呪文でも帰って来なかったので、いつも通り皆に協力を要請して手分けして探していた。
羊皮紙くらい買えばいいと思うが、次のホグズミード村行きまではまだ時間がかかるし、それまで貰い続けるのも申し訳ない。
城内をいくら探しても見つからなかったシグナスは、業を煮やして外に飛び出した。まさか禁じられた森とかに隠してないよな。とか突飛な考えを持って向かっていると、森の中に見慣れないダークブロンドの髪が見えた。
なんだ?エルフかな?とか思って近づいていくと、それははたして人だった。しかしどこかおかしい。ここは舗装もされていないのに裸足だったのである。
「君、こんなところでどうしたの?」
相手はビクっと震える小鹿のように反応すると、ゆっくりと振り返った。
色白でかわいい女の子だったが、どこか不思議な雰囲気があった。銀白色の瞳はどこまでも澄んでいて、まるで引き込まれそうになった。
「捜し物だよ。」
女の子は簡潔に答えた。寮を示す色は黄色。レイブンクロー生だ。
「奇遇だね。俺もなんだ。」
「あんた、シグナス・ブラックだ。」
「俺を知ってるのか?」
「うん。だってあんた、意外と有名なんだよ?」
「そう。それで君、何を探してるの?」
「ルーナ。」
「ん?」
「ルーナ・ラブグッド。それが名前。」
「あ、ああ。」
それがレイブンクローの1年生、ラブグッドとの出会いだった。まだ入学して2ヶ月も経たないのに、よく物を隠されているようだ。
「どうしてみんな、ラブグッドの物を隠すようになったんだい?」
「ああ………うーん・・・みんな、あたしがちょっと変だって思ってるみたい。実際、あたしのこと『ルーニー』ラブグッドって呼ぶ人もいるもンね。」
「変かな? 俺は面白い子だと思うけど。」
「そう?あんたいい奴だね。」
その時、不意に嬉しくなったのを覚えている。
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その後無事にラブグッドの靴を"呼び寄せ呪文"で見つけると、そのまま別れた。しかし後日、気になってまた森の中にいくと、今度は森の動物に餌をやっていた。
「何をしてるんだ?」
「りんごをあげてるだけだよ?」
そう言って無垢な瞳を向けてくる。キラキラしすぎて俺には眩しい。
「ここにはよく来るんだ。」
「そうだよ。大体はここで過ごすんだもン。」
「……またここに来てもいいか?」
「好きにすれば?」
この奇妙な関係は、ロックハートの茶番のおかげで周りに人が集まるようになり、物を隠されることが自然に止むまで続いた。
そういえば、最近あの森に行っていない。彼女はまだあそこにいるのだろうか。
イギリス魔法界のクリスマスは、1年の中で最も賑やかな日の1つだろう。
かつてから魔法界の中心であった純血の家系がパーティーを至る所で開き、ホームパーティー的なものもあれば各界の重鎮が揃い踏みすることもしばしば。会によって招待客のジャンルや性別、年齢層も異なり、そのパーティー独特の色を出す。
中には魔法省大臣などのように身分によって各パーティーに招待されて、マグルでは禁忌とされているハシゴを敢行する者もいる。
もちろんシグナスはそんなことをやったことはないが、今年の冬は驚くほど招待の数が少なかった。一昨年まではむしろ断っていたことを考えると、何とも寂しい限りである。
理由はもちろんルシウスが圧力をかけて招待を差し押さえたことに他ならないが、"発言の1つや2つで何もそこまでしなくたって……"と思うシグナスであった。
しかし、世間一般で見たらむしろシグナスの方が非常識であり、現在最も勢いのあるマルフォイ家に口答えするとは何事だ。と言われることをやってのけたのである。
シグナスにとっては単なる認識の齟齬であっても、ルシウスを始め純血主義の重鎮たちはそれを許さない。
よって、今回シグナスが招待されたのは家族ぐるみの付き合いが続くグリーングラス家、純血貴族として招待された魔法省パーティー、クィディッチメンバー脱退後もなにかと気にかけてくれるフリントのお膝元、フリント家のホームパーティーくらいである。
毎年"これだけは"と欠かさずに行ってきたマルフォイ家のパーティーからの招待は届いていない。ココ最近は、魔法省のパーティーよりマルフォイ家のパーティーの方が大規模で、マルフォイ家の栄華ぶりが分かる。
もちろんこれらはクリスマスの時期に行われるパーティーのうちのほんの一部であり、ほとんど全てにルシウスは招待されているだろう。
チャンスは3回。しかし、始めの1回で話をつけて、さっさと楽になりたいものである。
シグナスの目的は、マルフォイ家当主、ルシウスに許しを乞うこと……ではなく、ひとまず両家の緊張を緩和し、付き合いを再開させることである。
今まで通り家族ぐるみの付き合いをしようとはさらさら思っていない。形だけで十分なのだ。何より、シグナスはマルフォイ家とは距離を置きたいと思っていたし、だからといってコネクションを失うのも惜しい。
仮にルシウスが全てを許して今まで通りにしようと言ったところで、もうあの関係には戻れない。時間は戻ってこないのだ。
──そして迎えたクリスマス当日。この日は例年マルフォイ家がパーティーを開催し、その翌日に魔法省のパーティーが催されるのが最近のお決まりとなってきている。
よって今日はオフなのだ。シグナスはブラック家に届いたプレゼントを明けつつ、式神を形成する熟練度を上げようと練習に入った。
手のひらを合わせて魔力を練りながら思う。──今年は、ルシウスとドラコからはプレゼントが届かなかった。別に悲しいわけではない。予想はしていたことなので、シグナスもクリスマスカードを送るだけに留めた。
しかし、ナルシッサからは今年もプレゼントが届いた。これは大変喜ばしいことなのだが、その選択が問題だった。闇の魔術にどっぷり浸かった本だったのである。
包を開けてこの本を見たとき、ナルシッサからというのは名ばかりで、これはルシウスからのメッセージなのだと悟った。
ルシウスは、このままシグナスと縁を切るつもりはさらさら無い。これはシグナスにとっては大変都合の良いことなのだが、問題は、ルシウスがこのまま"こちら側"へ引きずり込もうとしているのである。
今までは"こちら側"の陣営と言えどもマルフォイ家の庇護下に入っていた印象が強かったし、今回を機に確実に味方にしておこうという腹なのだろう。
──さて、大変困った。
飛び込むのは簡単だ。躊躇う必要はない。しかし、飛び込んだら最後、闇の陣営まで一直線である。闇の帝王の復活時期は分からないが、抜け出すことは不可能だろう。
──困った。
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迎えた魔法省パーティーの日──。
ここは魔法界の重鎮があらゆる分野で集められ、"ブラック家当主"という肩書きがあるシグナスが最年少か。
どこどこ家の一人息子が当主を継いだ──とか、コイツはこの分野での期待のホープなんです──など、多種多様の話題が行き交い、出会い、情報交換、腹の探り合いの場と化している。
受付にて招待状を見せたシグナスは、今回の主賓(今回は魔法省大臣のコーネリウス・ファッジだ)に挨拶をすべく、いつもの小心顔を探した。
「こんばんは、ミスターファッジ。今年もお招きいただきましてありがとうございます。相変わらず元気そうでなによりでございます。……ルシウスもお久しぶりですね。」
ちょうどルシウスと話し込んでいるところだったので、これ幸いとばかりに突撃する。ルシウスは獲物を見極める目に変わり、ファッジは所在なさげにオロオロしている。
ファッジとて魔法省大臣だ。だから今学期に入ってからの2人の関係が険悪なものになっていることは知っている。ただ理由は分からないから、思わぬスイッチを押さぬように細心の注意を払わねばならない。
かつて表舞台から退いて影響力を失ったとはいえ相手はブラック家。ファッジにとってはどちらも敵に回したくないからどうやってこの場を乗り切ろうか考えているようだ。
それにファッジとしても遺憾なことながら、魔法省の抜き打ち検査がマルフォイ家に対して行われる予定だ。これ以上ルシウスの機嫌を損ねる訳にも行かない。
まさに正念場である。胃がキリキリする思いをしながら、ファッジは口を開く。
「おお、シグナス。今年もようこそ。さっそくだがね、『これはこれはシグナス。また会うのを楽しみにしていたよ。』(ry」
ルシウスが口を挟む。あれ?このまま2人をくっつけてこの場を離れればいいんじゃね?そう思ったファッジは、ゆっくり退却の構えを始める。
「ええ、最後にあったのがかなり昔に感じられるくらいです。お変わりないようで本当に良かったです。」
「ふっ、そんなことよりシグナス、今学期はどうだったかね?」
──コイツ……切り込みやがった!
自分そっちのけで応酬を始めた2人に、完全に自分が撤退するタイミングを失ったファッジはそう思う。そして切に願う。早くこの地獄の時間が終わってくれ──と。
「ええ、なかなか楽しかったですよ。"新たな時間"が生まれたことによって出来ることも増えましたし、無能ですが面白い教師が来たので毎日楽しくやらせてもらっています。」
──この若造も心にもないことを…!
ファッジは心の中でつぶやく。
こういうときは、自分がいかに堪えていないかをアピールする必要がある。しかし、シグナスが言ったことは全て事実なので、ルシウスにはそれを突く穴がほとんどない。
「ほう、それは結構なことだ。シーカーも世代交代できたことだし、何でもその無能と茶番を楽しんでいるとか。」
──あーもう私のSAN値をゴリゴリ削るのをやめてくれ。
否が応でも周りの雰囲気が凍てついて、ファッジは凍死しそうだ。
「ええ、世代交代にはいくら何でも早いと思いましたがね。後続の技量もまだまだだったようですし。寮に貢献できなくては意味がない。
何でも、試合中に相手を嘲っていたらまんまとスニッチを取られて逆転負けをしたようで。まあ私は直接見ていないので何とも言えませんが、客観的にはまだまだだと思われているようですね。」
──コイツも参戦しやがった!よりにもよってご子息のことを……!
いっそうエスカレートしていく(表面上)和やかな会話に、ファッジは気絶寸前だ。ルシウスも顔が真っ赤になっている。
「ふっ、代替わりをしたばかりはそんなものだ。いきなり上手くいくとは思っておらんよ。さて、本日は……」
──やっと終わった。
ファッジは歓喜した。ルシウスが矛先を収めてようやく前哨戦が終わろうとしている。
「ハハハ、まさか練習態度すらなってない選手にまだ期待されているのですか?少しボケるにはまだ早いと思っていましたが。良い病院を紹介しますよ。といっても聖マンゴの腕のいい癒者に限りますがね。」
──ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ヤメテグレェェい
天国から地獄へ真っ逆さまのファッジは、逃すつもりのないシグナスに戦慄した。もういいじゃん、終わりにすればよかったじゃん!わしもう知らないよ?ホントに。うん。
「何?今何か言ったかね?あー、まだそんな選手に期待しているのか、お前の頭は大丈夫か、と私にはそう聞こえたがね。」
「ええ、概ね間違ってないですよ。最近"お仕事"にお疲れのようで、少し休養を取った方が良いかと思いまして。」
──ああ、今晩は味噌ラーメン食べたいな。
正面から格上の権力者をコケにしたシグナスに、ファッジは悟りを開いた。
「クックック、アーッハハハハハハハ!ここまでコケにされるとはいっそ清々しいよ、シグナス。それで今日は何をしに来た。」
──あれ?これ何とかなっちゃう系?
未だ混乱の極地にいるファッジには、何が何だか分からなかった。
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交渉は上手くいった。もうマルフォイ家とは対立する必要は無い。だが完全に傘下に入った訳でも無い。シグナスが純血を迎え入れることを条件に、概ねシグナスが望んだ距離で関係が再スタートすることになるのである。
今までのように無償の援助を頼むのは難しいが、利害関係が一致すれば利用することができる。ナルシッサとか、個人レベルの付き合いなら許されるだろう。
そして尚且つ"ダンブルドアはシグナスの敵だ"ということを印象づけられたシグナスは、内心今日すべきことはやり切ったとばかりに笑みを浮かべた。
シグナスは、ダンブルドアのことがハッキリ言って嫌いだ。しかし、今はある程度近いところにいるので、最終的にどちらへ付くかにせよ、闇の帝王が復活したときにはスムーズに鞍替えができるだろう。
その後の2つのパーティーへ行ったシグナスは再びグリーングラス家に招待された。大晦日にどうぞとのことだった。恐らく年越しを一緒にということだろう。これが意味することは1つ。
「シグナスくん、今度から一緒に住まないかね?マルフォイ家の庇護下を抜けた今、我々が権力の傘になろうではないか。」
──こういう話がくるとは思っていた。
「いえ、屋敷には家族がいますし、家を空ける訳には行きません。しかし、たまには寝泊まりしたいと思っていることも事実。」
「失礼、その家族というのは?」
「ああ、屋敷しもべ妖精です。特に私が5歳のときからは、私の家族は彼しかいないのです。」
──正直に打ち明けた。しかし、残念なことながら屋敷しもべ妖精というのは揃って地位が低く、主人に仕え、労働をするのは本能とされており、主のストレス発散のためにサンドバッグになることさえ普通の家もある。
この点から見ればシグナスがいかに異質かが分かるが、幸いにもグリーングラス氏は認めてくれた。グリーングラス家にももちろん妖精はおり、手を上げられたりはされていないようである。
「ふむ、それはならばいつでも来たい時に来なさい。いつでも歓迎しよう。」
「感謝します。」
年越し後は速やかにホグワーツに戻る準備をして、やがてホグワーツ特急に乗り込んだ。
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クリスマス休暇が終わってからしばらく、3件目の事件のあとから"継承者"による襲撃はピッタリと止んでいた。
仮初の平和に過ぎないが、それでも生徒たちは喜んでいた。ロックハートは例によって自分が襲撃事件を止めさせたなどと主張しているが、もはや誰も聞く耳を持たない。
更に、ロックハートはマクゴナガルに、"もう厄介な事はない"と前置きした上で、
「今学校に必要なのは気分を盛り上げる事ですよ。ハハッ、先学期の嫌な思い出を一掃しましょう!今はこれ以上申し上げませんけどね。まさにこれだという考えがあるんですよ。」
と不吉な宣言を残して去っていった。
そして彼の考えとやらが実現されたのはバレンタインの日──。
この日、シグナスはいつものようにダフネと2人で朝食を取ろうと大広間まて来ていた……のだが。
「うわっ、何だここ?」
「場所を間違えたわけでは……ないようね。」
2人が見たものとは、壁という壁がけばけばしいショッキングピンクの花で覆いつくされ、加えて淡いブルーの天井からハート型の紙吹雪が舞い落ちていた。
「朝から食欲が失せたな。ダフネ、談話室で食べよう。」
ダフネが肯定しようとしたところで歓声が上がる。何事かと目線で探すと、そこにはけばけばしいショッキングピンクのローブを着たロックハートがいた。何アレ、イタイ。目に入れるのも毒だ。
大半は絶対零度の目で見ているが、彼は数少ないファンの方に気を取られているようだ。うん、サービス精神旺盛なのはいいことだ。
シグナスとダフネが引き攣った顔を見合わせていると、ロックハートは手を挙げて"皆さん、静粛に"と合図をした。
ロックハートは、「バレンタインおめでとう!」と挨拶したあと、今の所ところ46人にをカードを貰ったとか、これはサプライズだとかワーワー言ったあと、ポンと手を叩くと、金色の翼をつけハープを持った無愛想な顔の小人が12人入って来た。
「私の愛すべき配達キューピットです!」
ロックハートは満面の笑みで紹介する。しかし小人たちは心底無表情だった。イヤイヤやらされているのが良くわかる。
また、ロックハートは"スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せて貰ってはどうでしょう?"、"フリットウィック先生は、『魅惑の呪文』については他のどの魔法使いよりも「よくご存知」だそうです。素知らぬ顔をして憎いですね!"と紹介した。
正直笑い事では済まない。特にシグナスは非公式ながらファンクラブが存在する。格好の的となってしまったのだ。
皆が救いを求めて教職員テーブルに目を向けると、マクゴナガルは頬を痙攣させていた。フリットウィックは頭を抱え、スネイプもまた不機嫌な顔を隠しもしなかった。
あ、ダメなやつですねコレ。
ロックハートによると、今日はこの小人たちが学校中を巡回し、バレンタイン・カードを配達するのだそうだ。直接渡した方がいいんですね。分かります。
だがもう手遅れだ。イギリスでは、誰からかの手紙かを明記せずに贈るのが主流だ。
シグナスが夏に行った日本では、"女性から男性にチョコレートをプレゼントして、愛を伝える日"として一大イベントと化している。しかし、イギリスのバレンタインは女性に限らず男性からも愛を伝える日である。
チョコレートもプレゼントに選ばれることもあるが、カードや赤いバラの花束の方がポピュラーだ。
つまり、この小人たちは過労死するまで働かされる運命にあるということだ。
しかし、誰もそれを不幸だとは思わなかった。なぜなら、小人たちは一日中どこにいても構わずやってきて、たとえ授業中だろうと教室に乱入して来たのだ。
おまけに名前は間違えるわその場で手紙の内容を大声で読み始めるわで大変だった。シグナスは恐らく全校で最もカードを受け取ったが、ずっと
──HAAPPY バレンタイン!
もし差出人が誰か分かったのなら、貴方にバラの花束を贈ります。
──From your Valentine
作者的にも色々詰め込んだ第14話、いかがでしたか?
ルーナと出会う、ファッジの憂鬱、ロックハートの企み~バレンタイン編~の3本立てでした。
ルーナ編はいつか入れたかったんですが、もう会ったことにしちゃいました。すみません。しかしあまり物語に影響はない……でしょう。
秘密の部屋は、あと2、3話で終わらせる予定です。
ご意見、感想お待ちしております。
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・ハロウィーンになる前の出来事
ルーナと出会いました。不思議な女の子ルーナは私も好きなキャラだったりします。彼女の雰囲気出せてるかは分かりませんが。
・ファッジの憂鬱
自分にマーリン勲章贈っちゃうくらいですから権力には人一倍敏感です。そんな中、かつての中心ブラック家と現在の中心マルフォイ家に板挟みにされる不憫な人。2人も狙ってやってんじゃないでしょうか?
・またもやらかすロックハート
もはや求心力は0に等しい。
・From your Valentine
あなたのバレンタイン。
密かにあなたを慕っています。