ブラック家の御曹司   作:修造

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こんにちは。久しぶりの投稿です。

まずは謝罪を。
長らくお待たせしてすみませんでした。

また、作者からお知らせがあるので、よろしければ後ほど活動報告を見てください。

ざっくりいうとこれからは不定期更新になりそうです。また、少しプロットを変更しています。


今回は戦後処理がほとんどということで、シグナス視点中心に、最後にちょっぴりダンブルドア視点です。

一部残酷な表現を含みます。タグ付けてるので大丈夫だとは思いますが、十分注意してください。





何!?水のないところでこれ程の水遁を───!!※魔法です。

  やってしまった…そう感じた。

 

  覚悟はしていたはずなのに、周りの喧騒がどこか遠く聞こえる。

 

  目下では相手シーカー、ポッターが地面にうずくまり、周りにグリフィンドールのメンバーが揃って囲んでいる。

 

  一般には、ウロンスキー・フェイントは熟練のシーカーでこそ繰り出せる技で、初心者なんぞに出していい訳ではない。

 

  スリザリンらしく勝つためには手段を選ばない…とはいえ、今更自分のしたことに冷や汗が流れる。

 

  一時の感情に流されてしまった結果がこれだ。憎々しげに向けられる相手チームからの目線。それに気づかない振りをしてさっさとスニッチを探す。

 

  集中して目を凝らすと、今までの試合展開が嘘のように黄金色に輝くものを見つけた。追いながらぼんやりと考える。そう、まるでダフネの髪の毛の色のような──

 

 

 

 

  途端に世界に音が戻る。

 

  歓喜に満ち溢れるスリザリンのクィディッチメンバーや観客席。最前列にいるのはドラコとダフネとその取り巻きだろうか。

 

  その歓声よりも大きく、他3寮の応援席と実況からは罵声と怒号が上がっていた。なんだか恐ろしくなって身がすくんだ。

 

「シグナス!よくやったな!」

 

「フリント先輩…」

 

「どうしたんだシグ、らしくないぞ」

 

「まあまあ、ハワード。

 さっさとずらかるぞ。」

 

 

 

 

 

  その後は流れるように時間が過ぎていった。

 

  控え室にてメンバーとどんちゃん騒ぎ。

  ようやく着替えて外を出ると出待ちのスリザリン生たち。周りを囲まれて寮まで引きずられていく。

 

  寮につく頃にはポッターのことは既に頭になく、祝勝会で騒ぎまくってその日はそのまま寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

  翌日、この日は名残惜しくもダフネとではなく、取り巻きたちと朝食を取りに大広間へ向かった。

 

  理由は言わずもがな弾除けである。否、呪文避けである。我ながら酷い話だとは思うが決して冗談ではない。

 

  例年、クィディッチ対抗戦の後にはよく敗者が勝者の寮にやっかみをかけるのだ。負け惜しみ精神でよくもまあここまでやると思う。

 

  自分のせいで彼女を傷つけるわけにはいかない。

 

  よって各寮のクィディッチ選手は、試合後のほとぼりが冷めるまで何も言わずとも同寮の生徒がやってきて共に行動する。

 

 

 

  しかし、今回ばかりはやっかみがいつもと違った。

 

 

 ──この腰抜け!

 ──もっと正々堂々やれよ

 ──貴様、よくも俺たちのハリーを!!

 

 

  取り巻きたちが相手方に睨みをきかせ、こちらに話を振ってくれたのであまり良く聞こえなかったが、どうやら此度の標的は僕のようだ。

 

  無理もない。初陣の選手を潰したのだから。

  しかも相手はハリー・ポッター。

  おそらくスリザリン以外はほとんど全体を敵に回したのではないだろうか。もちろん生徒だけでなく、教師たちもその中に含まれる。

 

  時が流れればいつも通り風化していくだろうが、怒りの矛先が寮ではなく個人に向かうのは異常事態ともいえる。

 

  それだけ"生き残った男の子"に対する期待が強かったということだろう。

 

 

 

 

  影響はすぐに出始めた。

 

  授業が始まると、いつになく他寮からの視線を感じる。それはやや咎めるような視線というべきか厳しい目つきだ。

 

  レイブンクローやハッフルパフの場合はそうでもないが、相手だったグリフィンドールになるとその限りではない。

 

  いくら取り巻きたちに囲まれていようとも、生徒たちからは殺さんばかりの殺気を、そして寮監であるマクゴナガルからは"どうして?"と問わんばかりの厳しい目で見られた。

 

(やっぱり少しやりすぎたよな。

 マクゴナガルってみんな公正だとかいうけどグリフィンドール贔屓なんだよね。知ってた。

教授に頼みたいことがあったんだけど今は無理かな。)

 

 

 

  こうして、シグナスは常に身を囲われなければ生活できなくなってしまったのである。

 

 

 

 

  試合が終わって1週間後、いつもより随分と長引いたやっかみも鳴りを潜めたので、この日はいつも通りダフネと朝食をとりに大広間へ向かった。

 

「なんかシグが隣にいるのは久しぶりね。この1週間、一緒にいられなくて寂しかったわ。あなた、少し痩せたんじゃない?」

「ああ、僕も寂しかったよ。やっぱり常に周りを固められていると、どうしてもストレスが溜まってね。常に視線を感じるのは慣れないよ。」

「(シグったらいつも熱い視線を浴びているのに気づいていないのかしら。)」

「?」

 

 

 

  久しぶりにダフネと一緒にいるのが嬉しくて、周囲への警戒を怠ったのがいけなかった。

 

  スリザリン寮は地下にある。各寮ともに大広間まではそれなりに時間がかかるが、スリザリンの場合は階段を登って地上に出てからも長い。

 

  2人が階段を登ってすぐの十字路に差し掛かったとき、三方向から大勢の生徒がこちらに殺到してきて、あっという間に進路を失ってしまった。

 

  その数は20人ほどだろうか。寮を示す色は赤。

 グリフィンドールの上級生たちである。

 

 

 

 

 

「シ、シグ!」

「何ですかみなさん。杖を構えるなんて物騒ですね。すぐに下ろした方が賢明ですよ。」

 

 

 ──よくも…よくも俺たちのハリーを!!

 

  始まりは一瞬だった。

 

『ステューピファイ!!麻痺せよ』

 

「きゃっ!」

 

「プロテゴ!護れ」

 

  ダフネの手を引いて自分の身に隠すと、防御呪文を唱えた。

 

  何人もの術者から放たれた失神呪文特有の赤い光線は、幾重にも重なって盾を破り、その場で弾けた。

 

 

「くっ!(プロテゴでは威力が足りないか。)

 ダフネ、寮に戻るんだ!

 

 

 プロテゴ・トタラム!!万全の護り」

 

  ダフネが急いで駆けていくうちにも防護の壁には呪文が撃ち込まれていく。

 

「くそ!くそ!!どうして当たらねえんだ!!!」

 

「慌てるな!一点集中で突破するぞ!!」

 

 

  焦ったように呪文を乱発する上級生たちは、どうにも話を聞いてくれそうにない。

 

  シグナスはゆっくり後退しながら防御呪文を重ね掛けしていく。

 

「行くぞ!『コンフリンゴ!!爆発せよ』」

 

 

 

  BAReeeeeeeeeeN!!

 

 

 

 

  流石に上級生だけあって呪文の精度が高い。

  重ね掛けした分まで一気に破壊された。

 

 

「突撃ィ!!」

 

  三方向から襲撃犯たちが一気に駆けてくる。

 

「コンフリンゴ・マキシマ!」

 

  十字路の合流地点まで引きつけてから地面に向かって放たれたソレは、先頭を走ってくる巨漢と近くの上級生を吹き飛ばす。そこからは──

 

 ──乱戦となった。

 

 

「エクスペリアームス!!武器よ去れ」

 

「コンファンド!!錯乱せよ」

 

「ペトリフィカス・トタルス!石になれ」

 

  明らかに正気を失っている彼らは、攻撃の手を緩めることはない。

 

「なんだよコイツ!3年のくせに!!」

 

「くそ、ハリーの仇だ!喰らえ!!」

 

  無言呪文でプロテゴを展開しつつ失神呪文で対応していたが、流石に捌ききれない!

 

  やがて全方位囲まれると、防御呪文が意味をなさなくなって肉弾戦になる。

 

 

  ひときわ体格の良い上級生が一歩前に出てくる。一対一で対峙すると、風を切るような右ストレートが飛んできた。しかし、それは空振りで終わる。

 

  シグナスは最小限の動きでこれを避けると、左カウンターで相手の顎を打ち砕く。その一撃で相手は気を失い身を沈めた。

 

  それを皮切りに、いつの間にかボクシングのリングのように2人を囲んでいた上級生たちが、ハッとしたように杖を構え直して攻撃してきた。

 

「レヴィコーパス!!浮き上がれ」

 

  天井まで飛んで避け、人の輪を抜けると、近くにいた上級生が着地の瞬間を狙ってドロップキックを仕掛けてくる。

 

「グッ!!」

 

  手をクロスさせてガードするも、体制を崩して後ろへ吹っ飛ばされてしまった。

 

  復讐に燃えるグリフィンドール生たちに、その隙を見逃す道理はない。

 

「デパルソ!退け」

 すぐに起き上がろうとした所をまた後ろへ転がされる。

 

「デイフェンドォ!裂けよ」

 脇腹が裂けて瞬間的な熱さを感じる。

 

「インセンディオ!燃えろ」

 身にまとっていたローブか燃え始める。

 

「レダクト!砕けよ」

 足に激痛が走り、立っていられなくなる。

 

 

 いつの間にか杖はどこかへ吹っ飛ばされてしまった。このままではやられてしまう。

 

「エイビス!鳥よ

 

  エンゴージオ!肥大せよ

 

  オパグノ!襲え」

 大人数だからこそできる連携によって、もはや怪獣とでも呼ぶべき鳥が襲ってくる。

 

「ググっ…」

 完全に身動きが取れなくなったシグナスは、手のひらを上に向けて指をまさぐった。

 

「(ルーモス・マキシマ!!強き光よ!)」

 強い発光は目くらましになって攻撃を止める。

 

「(アグアメンディ!水よ)

(ロコモーター・モイスチャー!水分よ、動け)」

 

  水を呼び出し、操作して自身を消火する。

 

  シグナスは魔力を総動員させて水を召喚しつづける。それは図ったように上級生たちの方へ、濁流のように迫っていく。その高さは天井に迫る勢いだ。

 

 

 

「何!?水のないところでこれ程の水遁を──!!」

 うわぁぁぁ!

 

  シグナスの呼び出した水は、堰を切ったように流れていく。上級生たちは足を取られて地面と熱いキスをかわす。そして次に顔をあげた時──

 

 

 濁流が分裂し、いくつもの水球が迫ってきていた──

 

 

 ―――

  水を呼び出したシグナスは、両手の指を合わせて丸を作って水の球を作り出していく。制御が難しいのか顔に汗を浮かばせ、両手は震えている。

 

 不格好だったそれは、やがて安定して球の形に固まっていって──

 

「(フリペンド!!撃て)」

 思うままに乱射した。

 

 

 シグナスは足をぐしゃぐしゃにされてからは顔を伏せている。よって攻撃はとても制御できたものではなく──あたりは地獄絵図になっていた。

 

 

 気がついたときには怪獣もどきは消え、廊下は原型をとどめることなく所々で爆げ、水浸しになり、グリフィンドール生たちはそこかしこに倒れていた。

 

 シグナスの最初の攻撃で倒れていた生徒たちにも二次災害が起こったようだ。

 

 

 

 

 

 

「一体何が起こったというのだ…」

 ダフネに呼ばれてすぐに駆けつけたスネイプは、呆然と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

「知らない天井だ…」

  はっと目が覚めると、先ほどいたはずのホグワーツの廊下ではなく、清潔感あふれる白の空間。

 

  ここは天国なのだろうか。

 

  確かに全身やけどだらけで、蹴りの衝撃で多分腕は折れてるし、呪文によって足は使い物にならなくなっていた。さらに切り裂き呪文を腹に受けた。

 

 最後は、体全体に感じる水が自分の血なのか、それとも呼び出した水なのか分からなくなったから、もしかしたら血が足りなくなっていたのかもしれない。

 

 

  ──かつてこんな死刑の方法があった。

 

  目隠しをして、首筋に針をさすことで血を吹き出させる。痛みと恐怖に呻く死刑囚を他所に、執行人は患部にただの水を流す。

 

  決して流血する量は変わらないはずなのに、死刑囚は自分の血と錯覚して、ショックで天へ召されていく──

 

 

 

  自分は何か罪を犯したわけではないが、無意識のうちに召喚した水を出血した血と錯覚したのかもしれない。

 

 

  ああ、願わくばもう一度あの娘の顔を──

 

 

 

  物思いに耽っていたシグナスは、ゆっくりと身体を起こそうとして……痛みに呻いた。

 

「うぐぐ!(まだ、生きているのか…?)」

 状況を確認しようと周りを見渡すと、白いカーテンで周りが隠されている。

 

  そして何故か周囲のカーテンの範囲の中に、ベッドがもう一つ。黄金に輝く艶やかな髪に、あどけない表情を浮かべて熟睡する美少女が1人。

 

 ああ、保健室だ。

 

  まだ周りは暗いが、カーテンの隙間から見える周囲のベッドには、見覚えのあるグリフィンドール生がいる。

 

  眠っているが、傷が痛むのか、それとも悪夢でも見ているのか苦しんでいる声が聞こえてくる。

 

 その痛々しい姿に多少やりすぎたかなと思いながらも、シグナスはもういっかと先ほどから努めて存在を無視していた人物へと目を向ける。

 

 すると爺は嬉しそうに微笑んだ。

 

「おお、シグナスや。気づいたかね?」

 

「ええ……ダンブルドア校長。

 お久しぶりですね。何か御用でも?」

 

 世界最強と言われ、魔法界のありとあらゆる方面で多大な貢献をしている人物、アルバス・ダンブルドア。

 

  かつて闇の帝王が魔法界を暗躍していた時代には、自らを御旗に抵抗し、弱者の心の拠り所となっていた。

 

  その威光はイギリスに留まることを知らず世界中に轟き、数多くの民の信仰を集めている。

 

 

 

  そんな傑者にも全く動じた様子を見せずに普通に対応するシグナスは、やはり大物かもしれない。

 

「もちろんじゃとも。具合はどうかね?」

 

「身体中がだるいです。…麻酔薬の影響でしょうか?」

 

「ホホホ、その通りじゃ。スリザリンに10点。

 さて、シグナスや。此度の件でわしは君に聞かなければいけない事があるのじゃ──

 

 

 

 

 ダンブルドアに事情を説明し終わると、もう要件は済んだとばかりに彼は立ち上がった。

 

「あの、」

 

「うん?何だねシグナス?」

 

  振り返ってそのキラキラした青い目で問いかけてくる。何もかも見透かしているようなその瞳は、やはり好きにはなれない。

 

「これだけのことをしてしまってタダでは済まされないことは分かっています。しかし僕はダフネを巻き込んでしまった。彼女はこの件に無関係です。彼女だけは退学させないでください。お願いします。」

 

「ホッホッホ。ダフネ嬢のことを随分と大切に思っているようじゃな。安心せい。お主も彼女も退学になることはない。そもそもお主たちは被害者なのじゃ。お主は彼女が攻撃を受けないように立ち回り、逃げる時間稼ぎをして彼女を守り抜いた。ダフネ嬢からも説明を受けておる。」

 

「そう…ですか。」

 

「シグナスや。此度のことはとやかく言わん。しかしお主はもっと仲間に頼るべきじゃ。お主は学校の中でもかなり慕われているようじゃの。そこにあるお菓子はお主の信奉者たちからの贈り物じゃ。」

 

 ダンブルドアの視線の先には、シグナスのベッドを挟んだ机の上に山のように積まれたものが大量にある。

 

 その種類も様々で、お菓子だけでなく、イタズラ用の道具(どう見てもフレッドとジョージの作だろう)やら、お見舞いのメッセージカードやらが散乱している。

 

  よく見ると、ハグリッドが作ったと思わしき犬の木人形が置いてある。モデルはファングだろうか。

 

  机の端には、ここ2日分と思われる授業のレポートが置いてある。作者はジャックのようだ。

 

  あれ、2日も寝ていたのか?

 

「信奉者、ですか?」

 

「そうじゃ。お主は反応を見る限り気づいておらんかもしれんがのぉ、いつも注目されているのじゃ。良い意味でも、悪い意味でも…

 

  敵意を向けられているのではなく、お主に興味をもって見ていることがほとんどのようじゃ。……大変言いづらいことながら、その大半が女子生徒なんじゃがの。視野を他寮へ向けてみるのじゃ。良い出会いはきっとたくさんあるぞい。」

 

  ダンブルドアは、山の中から百味ビーンズを取り出した。

 

「わしは昔からこれが嫌いでの。食べるたびに何故か変な味しか当たらぬのじゃ。天はわしを見放しているのかのぉ。」

 

「じゃあ食べなければいいんじゃないんですか?」

 

「この赤い色のビーンズならいけそうじゃの。どれ。」

 

  シグナスの忠告を無視したダンブルドアは、赤いソレを口に入れた。瞬間に顔を顰めた。

 

「ぬおっ、こ、これはミミズ味じゃ。」

 

  と言うなり、ダンブルドアはカーテンから出ていってしまった。外からむせる音と、"エバネスコ"と消失呪文を掛けているのが聞こえる。

 

  賢者ってなんだろう。

  ていうかミミズ味とかよく分かったな。

 

  遠い目をしていると、やがてダンブルドアがまた入ってきた。

 

「いやぁすまんのう。またハズレをひいてしもうたみたいじゃ。マダム・ポンプリーを呼んでくるから、もうしばらく安静にしていなさい。朝早くに失礼したのぉ。」

 

「いえ、ありがとうございました。」

 

「ああ、そうじゃシグナス。これは提案なんじゃがの────」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

「全く無茶して!ホントに心配したんだからね!」

 

  …現在、隣で寝ていたダフネに抱きしめられています。何とかしてくれ。

 

 

 

  ダフネは、寮に向かって走ると、すぐにスネイプ教授を叩き起こして連れてきてくれたらしい。

 

  今回の事件には、スネイプ教授も、相手のグリフィンドール寮監のマクゴナガル教授もカンカンで、襲撃犯は軒並み大ケガを負い何人かは聖マンゴへ、僕も一時は生死をさまようほど容体が悪かったという。

 

  我ながら全く実感が沸かないが、あの時残っていた魔力が少なすぎてなかなか回復しなかったらしい。

 

  ダフネは怪我こそなかったものの、今回の事件による精神的な疲労及び再び襲撃される可能性を考慮して、シグナスとともに面会謝絶となっていた。

 

  本人曰くただ暇だったそうだが。

 

「それで先生によると、今のスリザリンとグリフィンドールは一触即発な雰囲気みたいで…

 それでクィディッチのエキシビションマッチをやるらしいよ。」

 

「なるほど。だからそこに繋がったのか。」

 

「あら、知ってたの?」

 

「うん。さっきダンブルドアから聞いた。」

 

  そう、ダンブルドアは最後の最後に爆弾を落としていった。何でも、寮杯に関係なくただ楽しむことを目的としているようで、両寮…というか主にスリザリンの不満を反らすらしい。

 

 そう上手くいくといいが。

 

 

 

 

 

 ―――

 

  時は夕刻。授業が終わるとようやく面会謝絶が解かれた。

 

「よう、シグナス。心配したんだぜ。」

「全く、無茶しやがって。」

「「シグナスー!無事でよかった〜」」

 

  代わるがわる面会に訪れる友人や寮生になにやら山になっているプレゼントを贈ってくれた人たちを見て、自分が慕われている、というのがあながち間違いじゃないのではとようやく気づいた。

 

「(これからはダンブルドアの言うように他寮とも交流しよう。フレッドとジョージとは別に。)」

 

 

 ―――

 

  今回の事件は、わしも全く予想しておらんかった。

 

  わしはハリーの初陣を見たわけではないが、試合後に多少のいざこざがあるのはクィディッチの風物詩ともいえる。

 

  しかし、今回のように大人数で少数を叩くような行為は決して起こってはならんことじゃ。

 

  今回、シグナス・ブラックの仕打ちに憤ったグリフィンドールの7年生の一部、述べ22名が彼を襲撃し全員が返り討ちにあった。

 

 もちろんシグナスも無事では済まなかったが、3年生で最上級生たちを退けたその技量には恐れ入る。

 

  幸いにも死者は出なかったが、おかげでNEWT(めちゃくちゃ疲れる)試験を控える7年生は大きなハンディを背負った(もちろん自業自得なのじゃが)。

 

 セブルスにも、理事会にも、事態を把握した保護者たちからも、襲った7年生全員を退学にすべきだと訴えがきた。本来なら然るべき判断…なのじゃが、彼らはこの7年間頑張ってやってきた優秀な生徒たちじゃ。

 

 もはや、あとは試験だけ…という状況で退学させるとはなんとも酷なことか。

 

 そう思ったわしは周りの意見を突っぱねて、今後のシグナス・ブラックへの接触禁止と重い罰則を執り行うとしてこの事態を締めくくった。

 

 ルシウス・マルフォイたちの策略で日刊預言者新聞に大きく取り上げられた故に彼らの経歴には傷が付くだろうが、強く生きて欲しい。

 

 

 

    背後では、シグナス・ブラックが校医のマダムポンプリーにガミガミ説教を受けている。

 

  その姿を見ながら、わしは彼との初対面を思い出していた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 8年前…

 

  この日は彼の祖母、ヴァルブルガ・ブラックの告別式が行われていた。

 

  彼女はマクゴナガル先生と同じ学年で、わしが直接変身術を教え、生存していた数少ない生徒じゃった。

 

  もう動くことのない顔を見て彼女の学生時代を思い出し、時の流れを実感した。

 

  顔は多少やつれ、頬は少しコケ落ちているものの、美しく気品に溢れていた頃の面影を感じさせる顔だった。

 

  そんななかで、孫のシグナスは毅然とした態度で喪主を務め、涙を見せなかった。

 

  周りをブラック家の縁者で囲まれながらも、マルフォイ家以外を全て拒絶している姿勢を見て、わしは彼の将来が不安になった。

 

 

  別にマルフォイ家が悪いという話ではない。現当主のルシウスは、かつて死喰い人に所属しながらも、愛する家族のためにこちら側へ戻ってきた。彼は愛の本質を知っておる。シグナスのことも大切にしているだろう。

 

  しかし、彼はその年齢にしてはげっそりと痩せており、ろくに食事をとっていないようだった。確かに唯一の肉親を失ったショックもあるかもしれないが、痩せ方が異常じゃった。

 

  ブラック家は曲がりなりにも名家の一つ。お金には困らないはずだ。むしろブラック家の財産(正確にはどれほどの規模かは分からないが)からして、恐らく世界でも有数のお金持ちではないだろうか。家の財産を1人で全て使えるのだから、彼が望めば大体のことはできるはずだ。尤も、お金と幸せが直結する訳では決してないのだが。

 

 

 

  ──どうして食事を抜かしているのか?

 

 

  また、その肌は病的なまでに白く、クマがひどい。普段外に出ていない証拠じゃろう。そして、ギラギラ光るその目はどこかで見たことがある者の目をしていた。

 

 ──力を求めるものの目。かつてわしが向き合うことを恐れ、目を背けていたばかりに闇の道に走り、闇の帝王と呼ばれるようになってしまった教え子と同じ目をしている。

 

  ああ、危険じゃと思った。このまま力に溺れればこの子もまた闇に堕ちてしまう。

 

  この日から校長室の肖像画のひとつ、彼の先祖にあたるフィニアス・ナイジェラス・ブラックに彼の動向を報告してもらうことにした。

 

  最初は我がブラック家最後の末裔なのだからと渋っていたが、もし闇に落堕ちてしまうようなことがあってはたまらぬ。それに歴代校長は現役の校長の意向に従わなければならないという盟約があるため、どちらにしろ断ることはできない。

 

  職権乱用だろうが腹に背は変えられぬ。

 

 

 

 

 

  フィニアスからの報告は受けていた(なんとも爺バカのようで、要らんことも事細かく伝えてくれた)が、その年の入学予定者の中に彼の名前が浮かんできているのを認め、この目で彼の生存が確認できた。

 

  今のところ闇の魔術には手を出していないものの、一日中書庫に籠っているという。これは入学してからわしが直接導かねばと警戒を強めていたが、その必要はなくなった。

 

  新学期が近くなると、ある時を境に彼は見違えるように変わった。

 

  それはフィニアスからの報告にも表れていた。以前にも増して嬉しそうに語るフィニアスに、彼が変わったのだと感じた。

 

  その後彼が入学して、その生活をこの目で直接見ていると実感した。魔法ばかりに情熱を注いでいた頃とは違い、友を作り、そして何より人生を楽しんでいる。

 

 ──彼は大丈夫じゃ。

 

 

 

 

  わしは、今になってその変化の理由に気づいた。現在、わしの目の前では、ポピーの説教で起きたと思わしき金髪の少女がシグナスに抱きついて泣いている。

 

  そうか、彼女が──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シグナス・ブラックの未来に栄光があらんことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

  リハビリを経てようやく退院できたときには、事件からすっかり1週間も経ってしまった。

 

 

  エキシビションマッチはもうすぐだ。

 

 

 




いかがでしたか?
ご意見、感想心待ちにしております。

いやーこのセリフ(タイトル)1回使ってみたかったんですよね。

戦闘描写は難しいですね。
臨場感を維持することが果たして出来ているだろうか…
回を追うごとに総文字数が増えていく今日この頃。

何か矛盾点とかおかしい点があったら教えて頂けると助かります。

ご意見、感想を心待ちにしております。

❁❀✿✾プロテゴについて。❁❀✿✾

原作では特にどれが強いとか明記されていなかったと記憶していますが、本作では次のように設定いたします。

✾プロテゴ・トタラム
プロテゴの上位互換

✾プロテゴ・ホリビリス 恐ろしきものから護れ
プロテゴ・トタラムの上位互換。敵の侵入を防ぐ。

✾プロテゴ・マキシマ
プロテゴの最上位互換。
オリジナル設定として、多大な魔力を消費するが1度だけ死の呪文を防ぐことができる。

※死の呪文には反対呪文がありませんが、防ぐ術があったかなかったかはハッキリしていません。
映画では触れた死喰い人が消失していました。(マキシマによって。)

また、ハリーが仲間に向かったお辞儀さんのアバダを、おそらくただのプロテゴで防いで?助けていました。(勘違いだったらご指摘ください)

そこらへんはだいぶ曖昧ですよね。そこで本作では、死の呪文を防ぐのは限りなく難しいという設定でいきます。プロテゴでも呪文の軌道を反らすことは可能ですが、感覚が重くてなかなか反らすのは難しい。

また、マキシマは"最上位互換"ですので習得はかなり難しいです。原作でも、魔法省に勤める人間の多くがプロテゴすら習得は難しかったと記述されていたので、死の呪文を防ぐのはかなりハードルを高く設定できていると思います。




―――――――――――ここから解説

・やっぱり後悔するシグナス

"生き残った男の子"の影響力を目の当たりにして、箒の上で愕然としています。


・物騒な世の中

まさか活躍した選手が逆恨みで襲撃を受けるなんて、誰が予想していたかね?おそらくホグワーツ開校以来数える程もなかったのではないでしょうか。

原作でも一時期のハリーは上げて落とされて嫌われまくってましたが、結局幕内では襲撃を受けたりしませんでしたから。

それは、ひとえに彼がグリフィンドールで、そういうことをしそうな生徒が同寮だったからじゃないかと思ってたりします。

少年よ、杖ではなく羽ペンを持て。


・戸惑うマクゴナガル

昨年のシグナスは、反則は当然である(偏見あり)というスリザリンの戦い方にそぐわずに優雅にプレーしていました。スニッチ取るのに優雅もなにもと思うかもしれませんが、まあ他のシーカーよりもお淑やかにプレーしてたってことです。

それなのに今回は容赦なくお気に入りを潰してくれたので彼女は怒っていますが、曲がりなりにも彼は優秀な生徒で表向き素行がいいので責めるにも責められずに中途半端な態度になっています。


・肉弾戦

映画ではどんなに近づいてもフェンシングのように呪文を掛け合うだけでしたが、実際は絶対そんなことないと思います。だってある程度接近したらさっさと近づいて張り倒したほうが早いもん。

シグナスは日々の練習で体は鍛え上げられているので、年齢によるフィジカルの差はほとんどありませんでした。

また、周りをボクシングのリングのように取り囲んでいた──は、殴り合いにいつの間にか夢中になって思わず応援(もちろんグリフィンドール側を)していたからです。まあ下手に呪文掛けて味方に当てるわけにはいきませんし。

・レヴィコーパス 身体浮上

公式では半純血のプリンスが開発した。となっていますが(無言呪文設定)、シグナスも一応オリジナルスペルを開発しているので…ね?


・杖なしで魔法を行使

公式でも、杖が無くても魔法は使えると作者が言及しています。ただ恐ろしく制御が難しくなるというだけで。杖は補助的な役割を果たしているわけですね。

シグナスは幼い頃から魔法に慣れ親しんでいたので、感覚的にはバッチシです。これが以降にどう影響してくるのか……。


・さらっと日刊預言者新聞の記事(もちろん一面)に載る。

裏設定として、現在のシグナスの後見人は血縁のナルシッサ(女性ですが、直接血が繋がっていて普通に生活しているのは彼女しかいません)です。

よってシグナスはマルフォイ家に家族同然のようにされていますし、夫のルシウスもシグナスのことを息子同然のように思っています。

そんなシグナスが襲撃が受けたとなっては黙っているわけにはいきません。当然のようにダンブルドアは加害者側に寛大な処置を下すと予想した(実際そうなった)ルシウスは先手を打ちました。

その結果理事会からだけでなく保護者たちからも問い合わせが殺到。穏便にコトを終わらせたかったダンブルドアを悩ませています。


・マクゴナガルと同学年のおばあさま。

2人の生まれた年は同じです。(※公式設定)
少なくともトム・リドルがいた頃(50年前)まではダンブルドアも教鞭を取っていました。

本作では、その後の動乱(闇の帝王の暗躍)などで多くの人が犠牲になったため、直接ダンブルドアが教師をしていた頃の世代は現在ほとんど生き残っていないと設定。


・がっつりシグナスを監視していたダンブルドア

闇に堕ちそうなら未然に防げばいい。出来るか出来ないかはおいといて。プライバシーもあったもんじゃない。
現在はただの一生徒として見ています。
やはりどこか色眼鏡で見てしまう所もありますが。


・マダム・ポンプリー=ポピー

ダンブルドアは、普段校医をポピーと呼んでいるようです。


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