痛みに耐えているのか、やがてキュリオスは動かなくなった。
スミルノフ中佐やミン中尉、俺やソーマのいる『頂武』
『中佐、羽付の動きが妙です。特殊粒子も出ていません』
『機体の変調か?それとも罠か?』
キュリオスの様子を訝しむ『頂武』のパイロット達。
中佐も首を傾げる中、前に出るティエレンがいた。
『中佐、私が先行します』
『カーボンネットを使ってからだ、ミン中尉!』
『了解』
ティエレンタオツー、ソーマが先行しようとするも一度制止され、キュリオスにカーボンネットが全包囲から撃たれる。
あっという間にキュリオスは拘束されてしまった。
アレルヤは苦しんでるんだろうが音声は拾えない。
『相対速度同調。接近します』
ソーマが操縦するタオツーがキュリオスへと接近。
タオツーがキュリオスへと触れた時。
『うあああああああああ…!ぐああああああ!?』
『なに…?』
これも本筋通り、アレルヤの悲痛の叫びが通信で響いてきた。
ソーマだけでなく皆も困惑する。
と、中佐は異変に気付き始める。
『ガンダムのパイロットが苦しんでいる…?ピーリス少尉を拒んでいるように見える…。まさか、これがデスペア少尉の言っていたピーリス少尉と同類か?』
『……恐らく』
超人機関の技術者曰く、貴重な意見である俺の推測もとい原作知識であるソーマと同類の存在の可能性。
重力ブロックの件が無くともそこからアレルヤの正体を結びつける中佐は流石だ。
誤魔化して答えたが、勿論俺は確信している。
というか知ってると言った方が正しいか。
『中佐、パイロットの意識が途絶えました』
中佐が推測している内にアレルヤがダウン。
お疲れ。
脳量子波を有するイノベイターの俺には少しだけ辛さが分かる、あくまで辛かろうなって程度だけどな。
よく頑張った。
『了解した。各機羽付を4番艦に収容後、安全領域まで離脱。ユアン軍曹は本隊に合流し、撤退信号を送れ』
中佐の指示でキュリオスを拘束しながら四番艦、ラオホゥへと戻っていく『頂武』
中佐の的確な指示でキュリオスをラオホゥへと収納する。
『羽付の収納完了』
『作業兵はパイロットを機体から離し拘束せよ』
『作業班了解!』
そんなやり取りを中佐と作業兵で交わす。
『……』
キュリオスの収納される様子をいつの間にか眺めていた。
作業兵がキュリオスの断層撮影などに失敗している。
誰もが危険な戦場でガンダム鹵獲のために尽力している。
だが、そんな彼らもすぐに殺されてしまう。
あぁ…ったく。
覚悟は決めた筈なのにまだ後ろめたさが残ってる。
事前に知っているのに見捨てる行為はいつまでも慣れないし、胸を締め付ける。
どうにかして自分を抑えないと。
たまたま転生してしまっただけなんだ。
間違っても物語に介入して死ぬ筈だった人達を救うような存在ではない。
勘違いしては駄目だ。
救ってしまったらそれはただの偽善だ。
救った気になって何もかも失ってしまうかもしれない。
『ピーリス少尉にしては物足りぬ初陣となったな』
『私にそのような感情はありません。作戦を完遂させることが……、させることと生きて帰ることが私の全てです』
『ピーリス少尉…?』
ティエレンチーツーと共にラオホゥを眺めていると、ソーマと中佐の会話が改変してるなこれ。
まあこの程度ならいいだろう。
ソーマに関しては俺との約束があったからな、影響されてもおかしくない。
中佐はそんなソーマの変化に気付いたようだ。
と、今はそれどころではない。
熱源反応だ。
『……?中佐、熱源が来ます…っ!』
『なに!?』
いち早くソーマが気付き、警告する。
その警告に秒間を空けずに極太のビーム砲撃が誰の視界にも映った。
中佐やミン中尉、ソーマは砲撃の軌道から逃れ、ティエレン宇宙型が2機餌食になってしまう。
断末魔さえ聞けず、2機のティエレンが爆散した。
『……っ!』
知っていた。
予めここで二人死ぬのは知っていた。
だが、実際に目の前で殺されると――なんだ?この気持ちは。
待て、俺は何を考えてる?
『全機散開!4番艦は現宙域より緊急離脱せよ!この攻撃はデカブツか?』
『ガンダム…!』
中佐の迅速な指示、ソーマが熱源の正体を忌々しげに呟く。
でもどちらも頭に入ってこない。
何故か俺の目は未だに跡形もなく消えたティエレン2機だ。
『ぐあああああ!?』
『……っ』
また1機、砲撃の餌食になる。
今度はしっかりと俺の仲間の声が耳に届いた。
ティエレンチーツーのモニターに映るのはこちらに向かってくるガンダムヴァーチェ、ティエリア・アーデだ。
ティエリア…俺と、同種のイノベイド…。
そうか、本筋通りか。
エクシアとヴァーチェの位置も、出現時間も場面も。
なら俺のやるべきことは決まっている。
出来るだけ本筋通りになるように動くだけだ。
……待て。なんだ、このモヤモヤとした胸がつっかえる感じは。
酷く苦しい。
出撃前に先ほど死んでしまった仲間と顔を合わせたからか?
言葉を交わしあったからか?
確かにアニメではモブ扱いで顔すら出ていない。
でも俺は彼らの顔を知っている。
だからどうした。
やるべきことは決まっている。
何度も言わせるな。
分かっているのに――。
なら――なら、何故――。
『何故…俺は…こんなにも悲しんでるんだ!!』
もう自分が分からない。
ティエレンチーツーがブースターユニットによって加速する。
最高速度、ティエレン宇宙型の数倍には及ぶ速度だ。
誰の意思で動いているのか。
勿論俺だ。
『中佐、敵が射撃態勢に――』
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『――っ!?』
ソーマの通信をも遮って俺は怒号する。
俺の感情に応えるようにティエレンチーツーはガンダムヴァーチェへと向かっていた。
『……っ。接近する機体、あれは他のティエレンとは違う!何者だ!』
GNフィールドを展開して中佐やミン中尉などの総射撃に擦り傷すら与えられていないヴァーチェの目線がティエレンチーツーを捉える。
気付かれたか、だが些細な問題ですらない。
『粉砕する!』
『うおおおおおおおおお!』
ヴァーチェが四番艦からティエレンチーツーへと照準を変える。
本来ならティエレンタオツー、ソーマがヴァーチェを妨害するシーンだったか。
今はどうでもいい、考えるのは止めた。
いや、考えることができない。
ヴァーチェは胸部のGNコンデンサーとGNバズーカを直結させ、砲口を完全に俺のティエレンチーツーに固定する。
どう考えても砲撃までに辿り着くことは叶わない。
だから、俺は、ティエレンチーツーは加速を中止し、500mm多段加速砲を構えた。
『ヴァーチェに対抗するつもりか、愚かなっ!』
『俺もイノベイターだあぁぁぁぁぁあああっ!』
500mm多段加速砲が火を噴く。
くっ…!反動が大きい。
大分狙いが外れた。
砲弾を多段的に加速させることにより、威力と弾速が飛躍的に高まるこの加速砲。
その性能に一切恥じぬ弾速はヴァーチェがGNバズーカのチャージを完了させるより早かった。
『なに!?』
相変わらず下手な俺の射撃に加えて反動が大きく、衝撃を考慮しないと照準がズレるため、ヴァーチェには掠りもしてない。
だが、加速砲の砲弾がヴァーチェ周辺の衛星を粉砕し、ヴァーチェの動きが一瞬止まった。
ティエリアでさえ予想してなかった速度だったのか。
外したが、注意を引くには充分だ。
元々俺の射撃には期待してないしな…!
『ティエリアァァァァァアアア!!』
『うぐっ…、ぐああああ…っ!?』
ティエレンチーツーでヴァーチェに突進する。
持ち前の堅さ、頑丈さを活かさせて貰った。
機体が触れることでティエリアの苦痛も聞こえる。
勿論突進できたのはヴァーチェがGNフィールドを解いていたから。
俺が既に砲撃の軌道から外れていたからGNフィールドを解いて、攻撃法をGNキャノンに切り替えたが遅い。
砲撃なんて放たせるまでもなくそこらの衛星まで叩きつけてやった。
『な、なんだ…!このパワーは!このティエレンは、いや、パイロットは何者だ…!』
『それくらい、自分で感じろ…!!』
『うぐっ…!調子に、乗るな…っ!』
GNキャノンが下に、ティエレンチーツーを狙う。
だが、もう俺の捕捉範囲だ。
500mm多段加速砲の砲口をヴァーチェの装甲に突きつける。
『まさか!?この近距離で撃つつもりか…!』
『この距離なら外さないからなぁ!!』
加速砲の引き金を引く。
『うぐ、ぐああああっ!うああああああ…っ!』
『ぐうっ…うわあああああああ!?』
零距離射撃での大爆破。
俺のティエレンチーツーもティエリアのヴァーチェも吹き飛び、それぞれ別の衛星へと背をぶつける。
無茶な零距離射撃で500mm多段加速砲は砲口が完全に消え失せた。
もはや使い物にならないから腰部から加速砲を接続してるアームを断ち切る。
500mm多段加速砲は捨て、ティエレンチーツーに残った武装は30mm機銃だけだ。
ふん、どうせ当たらないんだ。
あってもなくてもいい。
さて、ヴァーチェだが…腹部の装甲とGNキャノンを片方破壊できたみたいだ。
内部に眠る機体がちょっと暗いが晒されている。
我ながら初のナイス射撃だ。
GNキャノンを破壊できたということはGNフィールドは展開できない。
ヴァーチェは防御を半分失ったも同じだ。
『はぁ…はぁ…。よくも、ガンダムを…!』
『ティエリア…!』
『万死に値する!』
『お前は俺の仲間を殺した!』
ヴァーチェがGNバズーカを構える。
俺も500mm多段加速砲を構えようとしたが、そうかないのか。
誰だ、要らないとか言ったやつ。
俺か。
くそ、やらかした。
GNバズーカのチャージが完了する前に接近することは不可能だ。
だからといって回避も成功するかギリギリのライン。
30mm機銃は死亡確実なので論外。
ここで冷静になってみればなんで俺はヴァーチェと戦ってる?
……はぁ。最悪だ。
あれほど感情的にはならないと決めたのに。
今更だ。
そんなことに思考を取られていたら殺される。
ヴァーチェを、ティエリアをなんとか倒さなくては。
今は戦うしかない。
『デスペア少尉!』
『くっ…新手かっ!』
ヴァーチェのチャージを邪魔するように的確に狙われた弾丸がヴァーチェの装甲に着弾する。
GNフィールドを展開できないのと装甲が減っていることでヴァーチェはダメージを受けているようだ。
そして、勿論駆けつけたのはティエレンタオツーとティエレン宇宙型が1機。
『デスペア少尉、無事か!』
『ガンダム…!』
『中佐…ソーマ…』
ティエレンチーツーの前に援護しにきたスミルノフ中佐とソーマ。
そういえば戦いに夢中でみんなに気を配ってなかった。
モニターを見ると他の
中佐の指示か。
確か本筋ではソーマがタオツーでヴァーチェと対抗し、ヴァーチェは自分に任せて四番艦を頼むと中佐らにお願いしていた。
俺の場合は声すら掛けずに無茶な特攻をヴァーチェに行ったな。
馬鹿か、俺。
『デスペア少尉。勝手な行動はするな』
『すみません…』
案の定怒られた。
普段から良くしてもらってる上司に怒られると本気で反省する。
『3対1…巨体のティエレンと機動性に長けたティエレン、おそらく隊長格が1人…。くっ、こんなことをしているうちにも輸送艦が…っ!』
もう姿の見えなくなってしまった輸送艦に顔を顰めるティエリア。
モニターに映る『巨体のティエレン』を見遣る。
『新型らしき機体の他に…あの機体から特別なものを感じる…。妙に馴染むような…。不快だ!』
『中佐、来ます!』
『ピーリス少尉はデカブツの気を引け!私とデスペア少尉で畳み掛ける!』
『了解!』
機動力に長けたタオツーで敵を誘導し、実力ある中佐と火力に長けた俺でトドメを刺す。
たった3機でも最適なフォーメーションだ。
『中佐、四番艦が…っ!』
『そうか…是が非でもデカブツを鹵獲する!』
『……』
四番艦が……そうか。
ハレルヤが暴走したか。
あちらは本筋通り…本筋、通り…。
『くそ…。くそ…!救えなかった…!』
自分でも矛盾していると分かっていても言わずにはいられない。
とにかく今は目の前のヴァーチェに集中しなくては。
『堕ちろ、ガンダム!』
『舐められたものだ!』
ソーマのタオツーが機動性を活かして距離を起きながらヴァーチェを射撃している。
ヴァーチェはそれに対してGNバズーカで対応、ソーマは気を引きつつ砲撃を避けるので精一杯だ。
『ピーリス少尉、その調子だ!』
『こちらからも…!だが、関係はない!』
中佐のティエレン宇宙型がタオツーとは逆方面から接近するもGNキャノンは全包囲砲撃可能、片方しかないとはいえ中佐のティエレン宇宙型の動きを妨害する。
だが、今ヴァーチェに残された武装はGNビームサーベルのみ。
二人に対応してる武装を俺には回すと誰かにその隙を入り込まれるのはティエリアも理解している。
それほどまでにソーマと中佐は侮れない。
スラスターで加速するチーツー。
ヴァーチェとの距離を詰める。
『これしきのことで…!』
『なっ…!?』
ヴァーチェがビームサーベルを投げてきた。
間一髪避けたが、お前はエクシアか。
予想してなかったから危なかった。
『くっ…それでも!』
今度はGNバズーカの砲口をチーツーに向ける。
馬鹿め、タオツーに少しでも自由を与えるか。
『させない!』
『しまっ――、だとしても!』
タオツーの急速接近からの蹴りでGNバズーカをタオツーが奪っていく。
主武装を失ったヴァーチェだが、今の介入でタオツーが戻ってくるまでは時間がある。
GNキャノンをチーツーに向けてきた。
『デスペア少尉はやらせん!』
『なに!?』
中佐のティエレン宇宙型がGNキャノンとヴァーチェの接続部分を切断する。
よく見えないがあのまま放置だと後で使われそうだ。
出来れば破壊したいができそうか?
『デスペア少尉!ここまでくれば多少傷つけても構わん、デカブツを戦闘不能にしろ!』
『了解!』
『舐めるな!』
チーツーで詰めるが、ヴァーチェはGN粒子を散布し始めた。
ティエリアのやつ…逃げるつもりか。
『逃がすか!』
『ぐあっ…!?』
背後から突進して衛星に押し付け、固定する。
ここまでくれば必ず逃がしはしない。
中佐じゃないが是が非でも仇を取る。
『ヴァーチェに対抗する気か…!だが、こちらにもパワーはある…!ぐおおおおおお!』
『なっ…この野郎…!』
思わず野郎と言ったがこいつは性別不詳か。
今は心底どうでもいい――というか本気で押し返されそうだ!
『ぐっ…!』
『邪魔をするなーー!』
ヴァーチェのパワーで押し返され、反転された。
ヴァーチェは衛星を背後に、俺はブースターユニットを推進力に力比べの正面からの押し合いを始める。
くそ、ガンダムの方がそりゃ有利だよな。
徐々に押し負けてきた。
『ある程度押し返して撤退する!』
『援護する!』
『少尉!』
『くっ…』
ソーマのタオツーと中佐の宇宙型が向かってくるが間に合わない。
よし、奥の手を使うか。
『なっ――』
まさか俺が放すと思ってなかったのだろう、プロペラントタンクを残して降下したチーツーにティエリアは驚愕した。
行き場のないパワーでヴァーチェは態勢を崩し、空を掴んだ。
『パージした!?』
先手必勝。
プロペラントタンクをパージし、ヴァーチェの下に潜り込んだ。
スラスターは3基搭載されている。
プロペラントタンクがなくとも行動可能だ、多少機動性は落ちるがな。
『終わりだ!』
背後に回り、チーツーで拘束を狙う。
タオツーは主武装200mm×25口径長滑腔砲の銃口をヴァーチェに。
ティエレン宇宙型はチーツーで動きを止められタオツーの射撃で怯んだヴァーチェを捉えようと全速力で接近。
だが、ヴァーチェの装甲が突如外れ、背後に回ったチーツーは衛星に叩きつけられる羽目に合い、タオツーと宇宙型も態勢を崩して回避行動を取るしかなかった。
『なんだ!?』
『パージした…!』
中佐とソーマの驚愕した声が聞こえる。
ガンダムヴァーチェは持ち前の分厚い装甲を
ってどこだ?
見当たらん。
いや、こういうのは相場が決まってる。
『上か!』
『ガンダムナドレ、目標を消滅させる!』
俺の狙い通り、ティエリアはナドレとして俺達の前に降臨した。