精霊の如き姿のガンダムが1機、
ガンダムナドレ。
対ガンダム用ガンダムだ。
『ヴェーダ』の加護を受けている
まあ人革連の機体に『ヴェーダ』とリンクしている機体はないが、機動性がヴァーチェと比べた点では上になる。
『デカブツが…』
『…パージした』
呆気に取られる中佐とソーマ。
その隙を得てナドレはGNキャノンを構える。
ナドレの戦闘態勢にはさすがに中佐やソーマも、当然俺も身構えた。
『一掃する!』
『当たるかよ!』
照準は俺のティエレンチーツー、また俺を狙ってきやがった。
GNキャノンから放たれるビーム砲撃がチーツーに迫り、スラスターを噴射して回避行動を取る。
『ぐあああ…っ!』
さすがに無理だったか。
ヴァーチェと違って撃つまでの予備動作も短くなっている。
チーツーの右足が粒子ビームで粉砕されてしまった。
キュリオスもそうだがほんと右足ばかり狙ってくるな。
そういう趣味か?
悪いが受け付けられないな。
それより衝撃で振動が辛い。
『よくも…!』
30mm機銃を発砲する。
だが、他3機のガンダムに劣らぬ機動力で避けられた。
くそ…機銃が軽いからか狙いは上手く言ったのに…。
まあ当たってもダメージはないと思うが妨害にすらならなかった。
『ガンダム…!』
『その機動性、奪わせてもらうっ!』
『なっ…!?』
タオツーが200mm×25口径長滑腔砲を構えつつナドレに接近したが、上から回り込まれソーマは驚愕する。
ナドレの手には既にGNキャノンがない。
ティエリアのやつ、GNキャノンを手放して軽量化したか。
『墜ちるがいい…!』
『ぐあっ…!』
『ソーマ!』
タオツーの片足がGNビームサーベルで切断され、肩部を貫かれてタオツーは爆発する。
煙を上げて損傷した。
チーツーに武装が無い今、ソーマのタオツーが頼りだってのに…!
『少尉!くっ…撤退だ!』
『中佐…!ですが…っ!』
『命令だ!』
『…了解』
ヴァーチェで戦力が低下したチーツーに、損傷してしまったタオツー。
客観的に見て勝ち目はない。
中佐が撤退を命じるのも仕方ない。
「撤退した…」
ティエリアは中佐のティエレン宇宙型が俺のチーツーやソーマのタオツーが逃げていくのをただ眺めていた。
慈悲ではないな。
ナドレで深追いしたくないのか。
中佐のティエレンは俺達を運んでるだけあって通常より遅いが、それでも追撃はしないようだ。
まあもうそんなことはいい。
中佐のティエレンに導かれる中、俺の視線は小さくなるまでナドレを捉えていた。
感情的になってしまったがこの際反省はしない。
どうせソーマに関わったり、金髪のイノベイターに出会ったり改変要素はある。今更だ。
それに仲間が殺されて黙っていられるわけない。
だから、中佐の撤退命令もほんとは聞きたくなかった。
ただ俺の機体状況とソーマや中佐を巻き込むわけにはいかないから撤退はやむを得ない。
『四番艦と護衛部隊の消息を確認する。羽付がまだいるかもしれん。警戒しろ』
『了解しました』
『……』
『デスペア少尉、聞こえていないのか』
『え?あ、あぁ…了解、しました…』
こう、映像で見ると重要でない限り誰かが死んでも淡々と描写が進んでいくが実際に現場に居合わせて知ってる人が死ぬのはきつい。
中佐の話でさえ耳に入ってこなかった。
今回ばかりは肉体的に疲れたが、それ以上に精神的に負担が大きい。
軍人になったからには慣れなければいけないのは分かってるんだが入隊したというよりさせられた身としては無茶な話だ。
とにかく今は帰還に集中しよう。
相手は防衛戦だったとはいえ、油断はできない。
『中佐、接近する機体が…!』
『羽付きか!』
そう、まだキュリオスがいる。
俺の目にもこちらに向かってくるガンダムの姿が見えた。
『見つけたぜ!ティエレンの高機動超兵仕様。あぁー間違いねぇ!散々ぱら俺の脳量子波に干渉してきやがって!てめえは同類なんだろ!そうさ、俺と同じ!体をあちこち強化されて、脳をいじくりまわされて出来た化物なんだよー!』
『…行きます』
『ピーリス少尉、その機体状況では…!』
『ソーマ…!』
ソーマが先行してしまった。
同じ存在だから導かれるのか?
いや、今はそれよりソーマを援護しなくては。
もう第三者として見てるわけじゃない、当事者なんだ。
ここにミン中尉はいない。
ならばその代わりを、それ以上の成果を出す。
『ソーマ、1人で行くな!』
スラスターを噴射して俺もソーマの後を追う。
だが、タオツーよりも機体状況が悪い上にタオツー程の速度は出ない…やはり追いつかないか。
俺が辿り着く前に向かい来るタオツーにキュリオスがGNビームサブマシンガンを構える。
本筋通り、遊ばれるか。
『あぁ…随分と苛つかせてくれたからなぁ。ぶっ殺してやるよ!』
『くっ…!』
『なっ!?』
違う!ハレルヤのやつ、完全に戦闘モードだ…!
何故だ。
考えてる暇はない。
ソーマのサポートをしなくては。
『どけ、ソーマ!』
『……っ』
この際、身体の負担は考えず加速し、タオツーを突き飛ばす様にソーマと代わる。
さすが人革連の
ソーマに代わって俺がハレルヤと対峙すると、キュリオスはGNビームサブマシンガンではなく、GNシールドを展開してクローを得物にチーツーに突撃してくる。
『ぐぅ…っ!』
『邪魔すんなよ一般兵!命あっての物種だろうがーっ!』
『ソーマはやらせん!これは、お前のためでもあるんだぞ!』
『はぁ!?何言ってんだ、寝言は寝て言うもんだぜぇ!!』
『ぐあっ…!?』
マリーの存在をそれとなく勘づかせようとしたが無理か。
逆にハレルヤを興奮させてしまった。
そういえばハレルヤはソーマがマリーであることを知っていて、尚、ソーマと本気で戦ったんだった。
寧ろ逆効果だったわけか、くそ…。
ちなみに味方との通信は切ってあった。
下手にソーマや中佐に聞かせるわけにはいかないからな。
それより中々危険な状況になってきた。
チーツーのコクピットはクローの刃に挟まれ、俺に命の危機が迫っている。
これだから拷問器具とか呼ばれるんだよ。
『ガンダム…!デスペア少尉から離れろ!』
『いい度胸だな、女!だがなぁ、まずはこいつからってもう決めてんだよ!』
『ぐっ…、あああっ…!』
『ソ、ソーマ…っ…!』
『はははは!女、てめぇは後のお楽しみだ!』
俺を助けに来たソーマのタオツーがキュリオスによって撃ち阻まれた。
ていうか優先順位が変わってやがる。
ソーマはメインディッシュ、俺は前菜ってか?舐めやがって…。
『まずは無駄にでかいティエレン、てめぇを殺すぜ!』
『デスペア少尉…!』
『邪魔はさせるわけねえだろうがー!』
『くっ…』
中佐のティエレンも俺を助けようと接近仕掛けたが、GNビームサブマシンガンの射撃で牽制され迂闊には近付けない。
くそ、俺もなんとか足掻いてみたが機体がびくともしない。
損傷している上にハレルヤに押さえつけられてるのか。
『動けねえ…!』
『諦めろよ!てめぇは今から死ぬんだよ!!』
『ぐあっ…!?』
クローがコクピットを抉る。
はは…目の前で溶けてやがる…めっちゃ怖い。
いや、怖いどころじゃない。
底知れない絶望感に浸される。
『どうよ。一方的な暴力に為す術も無く命を擦り減らしていく気分は?』
『……っ、あぁ…ああぁ…!よせ!やめろ…!』
『こいつは命乞いってやつだなぁ、最後はなんだ?ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供の頃からやり直している最中か!?』
『やめろぉぉお!!』
遂に刃が、GNシールドニードルがモニターを溶かし貫いて現れた。
最悪の役目だ、ミン中尉はこんな思いをしていたのか…!
もし俺が転生ものの主人公ならこんな仕打ちはあんまりだ。
主人公には似合わない醜態を晒している。
でも、無理だ。
こんなの、こんなの…!
恐怖に駆られて絶望するに決まってるだろ!
嫌だ、死にたくない…。
俺は、死にたくない。
『誰かっ!助けてくれえぇぇぇえーーー!!』
『ははははは!いい声で鳴くじゃねえかっ!でもなぁ、助けなくてこな――ぐおっ!?』
『なっ…』
なんだ…?
俺が死を確信した瞬間、キュリオスが吹き飛んだ。
当然チーツーのコクピットを抉っていたGNシールドニードルやクローも消える。
俺の目に映るのは半壊したモニターと――その穴から見える損傷したキュリオス。
『誰が撃ってきやがった!ぐあっ…!?またかよ!』
『粒子、ビーム…?』
キュリオスのGNシールドは既に粉々にされていて、今の赤い粒子ビームがキュリオスの右腕を持っていった。
人革連の新兵器の話は聞いてない、隠していたとしても今更出すとは思えない。
それに粒子ビームを放つ兵器なんてこの時期に持っている筈がない。
じゃあ、なんだ?
分からないとしか言えないな。
だが、一つ言えることは……。
『来る…!そう何度も当たるわけ――ぐうっ…!?なんだ、この精密な狙撃は!?どっから撃ってやがる…!』
そう、狙撃。
遥か離れた場所から赤い粒子ビームはキュリオスの左腕を的確に奪った。
ハレルヤが回避行動を取ったにも関わらず、だ。
「ちっ……!粒子ビームはガンダムの専売特許だろ、そうだよなぁ!!ソレスタルビーイングさんよぉ!!」
『ハレルヤ……』
「あぁん?なんだよ」
『もうやめよう……撤退だ』
「……腰抜けが。だが、今回ばかりは賛成だ。この粒子ビーム、避けても当たりやがる……」
『……』
「粒子ビームを撃つとは……一体何者だ?味方じゃねえよなぁ。クソがっ」
結果的とはいえアレルヤの指示に従うことになったこと、避けても当たる粒子ビームにハレルヤは舌打ちを残し、キュリオスを飛行形態に変形させる。
そのまま逃げるようにトレミーへと向かった。
……逃げた、のか?
あっという間のことでよく分からなかったが謎の粒子ビームがキュリオスを圧倒した。
あのビームがどこから飛んできたのか、誰が撃ったのか、目的も分からない。
ただキュリオスが撤退した後、警戒しても飛んでこない。
俺達を助けたのか…?
一体誰が……考えても、分かるわけないか……。
『羽付が逃げた……』
『先程の粒子ビームが我々を助けたのか……、なににせよ帰還するぞ。ピーリス少尉、デスペア少尉。長居は危険だ、あの粒子ビームが我々を狙ってくる可能性がある。この宙域を抜けるまで常に警戒しろ』
『了解しました』
『……了解』
中佐の指示で撤退する。
結局戦果はほぼなかった。
ヴァーチェを追い詰めることはできたが、ナドレに圧倒され、ガンダムを1機すら鹵獲できなかった。
残存したのはプトレマイオスと防衛に徹していた
そして、ミン中尉。
キュリオスに追い詰められる役目を俺が引き受けたからか、ミン中尉は生きていた。
ただミン中尉と共にいた四番艦護衛
ハレルヤ、キュリオスに一方的にやられたらしい。
俺が知っているより被害が大きい。
ソーマに関わりすぎたからか、ヴァーチェと戦ったからか、金髪の同種と出会ったからか。
原因がどれで、どこで改変が起きたのかは分からない。
だが、突き詰めれば全て発端は俺だ。
正直俺自身何をしたいのか理解できなくなってきた。
最初は世界を傍観することが願いだった。
だが、リボンズによって介入せざるを得なくなり、なし崩し的に戦うことになった。
その過程でソーマを見捨てることができず、何度か助けたり人として接してきた。
それだけでなく、本筋通りに事が進むよう取り組んでいたにも関わらず、目の前で仲間が死んで感情的に暴走してしまった。
思い返せば思い返す程俺の愚行は多い。
そもそも人革連に入隊させられた時点で本筋通りに事を進めるなんて無理だったのか?
もう分からない。
何をすればただ傍観できる存在になれるのか。
もし戦う運命上では本筋通りに行かないのなら教えて欲しい。
最初から情報が無さすぎる。
俺は一体何故転生したんだ。
何故こんな運命を辿っているんだ。
俺に世界を変えろと言っているのか、戦えと言っているのか?
その答えを誰も教えてくれない。
「俺は一体どうすればいいんだ……」
不安定な存在で孤独な俺の問いは誰にも届かない。
数滴の涙が俺のコクピット内で浮遊していた。
人革連の静止軌道衛星領域外。
双翼を広げる1機の
「『あの声』の人、助けられたかな……?」
『マニアッタ、マニアッタ』
「そうなの?まあ……ハロちゃんが言うなら信じるけど……」
その瞳には『あの声』の主、彼の感情が共有されていた。
浮かぶのは悲しみと不安。
「なんでこんなにもあの人の気持ちが伝わってくるんだろう…」
『キョウメイ、キョウメイ』
「共、鳴……?ごめん。何言ってるのかよくわかんないや」
少女の前でパタパタと動く黒いハロ。
少女はそんなハロに苦笑いを浮かべ、首を傾げる。
そして、再び『彼』のいた方へと視線を向けた。
「助けてって声、私以外には届いてなかったのかな……」
その言葉を最後に少女の機体は大気圏へと突入する。