息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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ミン中尉の口調は適当です。


双翼の残痕と誘い

「超人機関の被験体が一部行方不明?」

「うむ。調査をした結果、5年程前に。デスペア中尉はどう見る?」

「そうですね…」

 

スミルノフ中佐に尋ねられるが、ぶっちゃけわからない。

俺の知ってる話じゃそんな出来事はなかった。

アレルヤ…ではないだろう、彼らの脱走はもっと前の筈。

じゃあなんだ?

可能性としてはまた改変か…。

 

とにかく中佐にはどうとも答えられないな。

ここは正直に話そう。

 

「すみません…俺には…」

「そうか…。私は5年前にも超人機関の研究施設に襲撃があったと考えている」

「襲撃…?」

「これを見たまえ」

 

中佐が憶測と共に端末に映し出した映像を俺に見せてくる。

なんだろうか…画像はぶれてて鮮明には読み取れない。

ただ、よくよく目を凝らして見るとぶれている物体はMS(モビルスーツ)だ。

機体だと分かっても全貌は把握しづらないな…。

 

「あの、中佐…この白いのはなんだと思いますか?」

「ふむ…翼のように見えるがMS(モビルスーツ)に白翼など不可解極まりない」

 

翼か…。

まあ見えなくもない。

言われてみれば天使の翼に見えてきた。

とにかく確認できるのは機体の背中から露出している白い何かと――ん?この赤い点は…粒子…?

 

「中尉も気付いたか」

「え?」

「この機体は例の特殊粒子を放っているようにも見える」

「……っ!」

 

馬鹿な、ならガンダムだとでも言うのか?

原作開始5年前に超人機関研究施設にガンダムの襲撃。

もしそれが本当なら確実に改変だ。

こんな出来事を俺は知らないからな。

 

「中佐、ガンダムであれなんであれ襲撃があったのなら報告が上がってるのでは?」

「あぁ。それがこれだ。だが、被害は極小でこの襲撃時に被験者の一部が消えている」

「つまり…ずっとこれは秘匿されていたと?」

「そうなるな」

 

ほんとどこまで闇が深いんだ、人革連(ブラック企業)は。

早速辞めたくなってきた。

まあ冗談はこのくらいにして真剣に考えよう。

ガンダムの襲撃で被験者が消えた。

いや、拉致されたと考えるのが自然だろう。

なんの為だ?目的が見えない。

 

そもそも襲撃してきたガンダムは1機だけなのか。

今確認できる報告書では1機しか把握できないが、他にもいるかもしれない。

ガンダムじゃなくても他に乗り込んだ機体がいるかもな。

1番濃い線はソレスタルビーイングだが…翼持ちのガンダムなんていたか?

羽付きのキュリオスならいるが、翼持ちは聞いたことがない。

 

赤い粒子ってことは擬似太陽炉を積んでるってことだろ?

なら少なくともソレスタルビーイングではない。

トリニティ兄妹…だとしたら翼持ちは説明がつかない。

彼らの乗るスローネにそんな機体はない。

 

「赤い粒子…ソレスタルビーイングのガンダムの特殊粒子の色とは違う。奴らのガンダムは青い粒子を放っていたが…」

「中佐。確かガンダム鹵獲作戦の時、羽付きを退けた粒子ビームも赤色でしたよね?」

「むっ…確かに。まさかあれは…!」

「可能性はあるかと」

 

そう、キュリオスを退けた粒子ビームでの精密狙撃。

後で調査しても人革連の静止軌道衛星領域内では特にガンダムらしき痕跡はなかった。

粒子の残痕もなし。

探査機の通信が遮断されている地点もソレスタルビーイングのものしか見当たらない。

 

じゃあ粒子ビームはどこから放たれたのか。

粒子の色からソレスタルビーイングの兵器ではない。

改変が起こっていれば可能性がないわけではないが、かなり低いだろう。

まさかとは思うが人革連の静止軌道衛星領域の外からキュリオスを狙ったとかなら説明はつく。

はは、我ながら有り得ないな。

そこまでくれば腕前どころの話ではない。

てことでスローネ アイン、ヨハン・トリニティである可能性は無きに等しいな。

 

中佐とうんうん唸るがそれ以上は出てこない。

資料に真剣に目を通す中佐だが、やがて全て机上に置いた。

 

「これ以上考えても埒が明かん。一旦切り上げてキム司令へ報告するとしよう」

「お役に立てず申し訳ありません、中佐」

「いや、貴官の意見はとても助かった。ピーリス少尉のスーツのことといい貴官は発想力がある。これからも頼りにしているぞ」

「はっ!」

「うむ」

 

勿体ないお言葉を貰うと中佐は資料やらをまとめて退室した。

力になれたのは粒子ビームとの関連性くらいだけど無いよりマシか、中佐は細かく報告するらしい。

 

さて、また時間が空いたわけだがどうしようか。

……久しぶりに世界の情勢に目を向けるのもいい。

最近はそんな気分じゃなかったが、周囲に目を当てることも必要だ。

確か超人機関崩壊の次はアザディスタンの話だよな。

 

アザディスタン王国、中東に存在するカスピ海とペルシャ湾に挟まれた国だ。

元々石油輸出産業で経済を立てていたが、太陽発電システム建設により石油が存在意義をなくしつつあり、今はそのせいで衰退している。

国連会議で一部を除いて石油輸出の規制がかけられ、中東が反発。

それによって中東国家が武力行使を行ったことにより、太陽光発電紛争が起こり、疲弊した中東国家は世界に見放され、今も貧困に苦しんでいる。

 

そういえば刹那・F・セイエイの故郷であるクルジス共和国はアザディスタン王国に統合された筈。

そのことにより、国民が二教徒に分かれ、いつでも一触即発の状況になっているとか。

 

中東は恐ろしい状況だな。

近付くのも危険だ。

だが、マリナ・イスマイールは奮闘している。

結果は芳しくないが彼女は刹那と出会い、世界の変革が彼女の運命を揺るがす。

結局アザディスタンは滅んでしまうがな。

 

まあ御復習いはこの辺りにして次に起こる出来事(イベント)について考えよう。

アリー・アル・サーシェスや超保守派によって宗教的指導者マスード・ラフマディーが拉致され、ちょっとした内戦…というかテロが始まる。

 

まったく…またテロか。

そうだな、そういえばテロだった。

ソレスタルビーイングが対処するとはいえ、やはり関わるのはやめるか?

関わるといっても介入するわけじゃないが、というかしたくない。

あぁ、くそ…今になって思い出したから不意打ちで頭が痛てぇ…。

 

「くっ…!」

 

休憩室で思わず屈む。

すると、丁度ソーマが入ってきた。

 

「デスペア中尉…?」

「ソー、マ…っ」

「……っ!一体、何が…!?」

 

頭を抑える俺にソーマが駆け寄ってくる。

どうも脳量子派が乱れる。

頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようだ。

 

「だ、大丈夫だ…」

「しかし…」

「ありがとう。本当に、大丈夫」

「そうか…良かった…」

 

ソーマがホッと胸を撫で下ろし、安堵する。

心配を掛けてしまったか。

悪い事をした。

なんか癖になっている気がするが撫でてやろう。

 

「んっ…」

 

そっと髪に触れ、撫でるとソーマは気持ちよさそうに声を漏らす。

うんうん、可愛いなぁソーマは。

さすがはアレルヤのヒロインだ。

こう、なんかアレルヤに渡す時になると妹に彼氏ができたような感覚になりそうだな。

 

それはそうと今回は頭痛が短かった。

深雪(みゆき)の幻覚も見えなかったし、症状が緩和しているのか?

分からん。

まあ苦痛が和らいだのは良い事だ、きっと。

 

「そうだ、ソーマ。予定空いてるか?」

「……?特に用事はないが…」

「そうか。じゃあ――」

 

と、気分転換にソーマを連れ回そうかと思った時、俺の端末が振動した。

こんな時になんだろうか。

リボンズからの連絡の可能性はあるが、内容が予想できない。

嫌なことじゃないといいけどなぁ。

 

「……暗号通信?」

「なに?」

 

端末を起動するとソーマも顔を覗かせる。

おっと、ちょっといい匂いがする。

これはあれだな、超人機関関係者が消えたことにより少し自由になったソーマで女性兵達が遊んだんだな。

もといこれまで異常な生活だった分、普通の生活待遇をしてあげたのか。

シャンプーの香りが俺の鼻を刺激する。

 

と、そんなことより暗号通信だ。

危ない危ない、ソーマに思考を全て奪われるところだった。

暗号通信の内容は容易に解読できた。

というか完全に俺が解けるようになってるな。

宛先は不明だ、身を明かさないとは無礼だな。

 

「なになに?」

「これは…っ!」

 

俺より先にソーマが驚愕する。

文面を読むうちに俺も目を見開いた。

なんだこれ…。

 

『座標の位置に来い。その際、必ず女を1人連れてくること。それ以外の人員は認めない。もし、複数で来た場合はお前の大事なものを奪う』

 

なんとも定番というかわかりやすいというか、そんな感じのメッセージ。

名を名乗らずに呼び出しとは…いい度胸だ。

それにしても女を連れてこいってどういうことだ。

なんか嫌な予感がする。

 

当然仲間を連れていけば、って脅しか。

女はいいのかよ。

よく分からん。

それにしても俺の大事なものってなんだ?

 

「あぁ、ソーマか」

「私が何か…?」

「いや、こっちの話だ」

 

ソーマには適当にぼやかす。

正直転生してから大事なものってソーマや中佐、ミン中尉はもちろん仲間のことぐらいしか浮かんでこない。

どこぞのアルマークのせいでほとんど人革連にいたからな。

『頂武』にいる期間が1番長い。

必然的に大事なものは決まってくる。

 

「これ、場合によっては話のスケールが大き過ぎるだろ…」

「中佐に報告しに行こう」

「いや、どこかで知れてしまえば相手を刺激することになる。ここは指示通りに動こう」

「だが、独断で動くのは最適ではない」

「分かってるさ。でも変に刺激するのも最適とは言えない」

「それは…」

 

ソーマが言葉に詰まる。

つまりはどっちも駄目ということだ。

ならば出来るだけ情報の漏洩を防ぎつつ尚且つその可能性のない人物に頼ればいい。

 

「1人、声を掛けよう。口止めすれば相手に漏れることもない」

「……中佐程の御方ではなく、頼れる人物」

「そういうことだ。ちなみに俺は1人しか思い当たらない。ソーマは?」

「奇遇だな。私も同じだ」

「そうか、なら決まりだ」

 

互いに頷き合い、俺とソーマはすぐにミン中尉の元へ向かった。

ミン中尉が1人の時を狙って話があると個室へ入ってもらう。

 

「……ここなら誰にも聞かれません。何がありました?」

「私から事を話させて頂きます。実は――」

 

ソーマが挙手し、ミン中尉に説明する。

話を聞いたミン中尉はなるほどと頷いて暫く考え込んだ。

 

「レイを狙った脅迫メッセージですか…」

「はい。相手を刺激するわけにもいかず、2人で行くわけにもいかないのでミン中尉にご相談を…。面倒事に巻き込んで申し訳ありません」

「いえ、頼ってくれたことは嬉しいです。是非力になりましょう」

「ありがとうございます!」

 

寛大な人だ。

思わず敬礼してしまった。

 

「レイ。階級は同じなのですから畏まらなくてもいいのですよ」

「いえ…さすがにそれは…。年齢差もありますし」

 

階級が上がったからといって態度を改める気はないなー。

心使いは嬉しいがやはりミン中尉は俺の上司だ。

そこに階級なんて関係ない。

 

それにしてもミン中尉に話したのは正解だった。

予想通り、かなり話がわかる人。

相手の要望に応えつつ警戒するには用心棒は少ないほうがいい。

失礼だが中尉の階級なら他者に漏れることもないだろう。

繋がりは上と比べて少ないからな。

 

それはそうと俺を呼び出すなんて誰の仕業だろうか。

心当たりが無さすぎる。

今にして思えば俺は人の繋がり少ないよな。

悲しい。

まあそんなことはどうでもいいんだよ。

ほんとに誰が何の為にこんなことするんだか。

 

「時間も迫ってますし早速行動しましょうか」

「はっ」

「連れていく女性は…」

「私が役割を務めます」

「ではピーリス少尉、お願いします」

「了解しました」

 

なんか勝手に進行していく。

ていうかソーマのやつ、今自分から立候補しなかったか?

まあ戦力的にもソーマは優秀だし採用するけどさ。

もしもの時、ソーマなら敵を倒せる。

 

「私は周囲を警戒しつつ隠密します。2人は相手の要望通り、目的地に向かいなさい。時間差でスミルノフ中佐にも報告しましょう」

「了解…!」

 

ミン中尉の的確な指示に俺とソーマは敬礼した。


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