やって来たのはAEUの領土と人革連の領土の間、どちらにも属さない更地だ。
モスクワの外れの方が分かりやすいな。
で、俺とソーマは何もない地へと訪れたわけだが最初に目に映ったのはAEUの
それも2機。
どちらもパイロットが乗ってないのか動かない。
なんでこんなところにAEUの機体があるのか、それはこれから聞けそうだな。
「俺達を呼び出したのはお前だな」
「おっ、やっと来たか」
俺の声に振り向く金髪の男。
こいつは…いつかのイケメン…。
国際テロネットワークによる全世界同時多発テロの時、人革連のテロ襲撃予測地点へ向かった帰りに高速道路で並走してきた男だ。
確か奴の瞳は色彩に輝き――奴はイノベイターだった。
「久しぶりだな。人革連の…っとそう睨むなよ。仲間の前では禁句なのか?」
「答える義理はない」
「……デスペア中尉、知り合いなのか」
「ちょっとな」
正確には一方的に話し掛けられただけだが面倒なので適当に返す。
それにイノベイター関連だから口には出せないしな。
金髪のイノベイター…そうか、AEU所属の軍人だったのか。
俺が人革連のイノベイターならAEUのイノベイターってとこか。
さて、誰に送り込まれた。
まずは探りを入れるか。
「要件の前に少し話がしたい」
「ふーん……ん?あぁ、いいぜ。話な」
「どこ見て話してるんだ?」
さっきから金髪の視線が俺を捉えてない。
俺の後ろ…ソーマ?
ソーマを見てるのか。
凄く嫌な予感がする上に人の目を見て話さないとは不快だな。
「軍にはどうやって入隊した?リボ…俺達の統率者的な存在を知ってるか?」
まずはどういう経緯でAEUの軍隊に所属しているのか。
リボンズはこいつのことを知ってるのか、あいつが入隊させ、俺に送り込んできたのか。
リボンズの名前を出すわけにはいかないので少し誤魔化して話した。
統率者って時点で不可解だが、まあ仕方ない。
ソーマは理解できないって感じで首を傾げて俺を見ている。
「統率者?あー…大体誰のことかはわかった。会ったことあるぜ。寧ろあいつの差金で俺はここにいる」
「そうか」
やはりか。
リボンズのやつ、何を考えてるんだ。
勿論俺は知らされていない。
俺に金髪の存在を隠していた?
なんの為だ。
くそ、情報がまだ足りない。
「本題に移る。何が目的で俺を呼び出した?なぜ俺に近付く?」
「はぁ…んなこったぁどうでもいいだろ。そんなことより早く後ろの女の子紹介してくれよ」
「は?」
金髪が急に俺の話を断ち切ってソーマに目をやる。
というかあいつの目線は最初からソーマに釘付けだ。
おい、まだ核心に触れてすらいないぞ。
元から話す気はないのか?ふざけんな。
急に話題が自身に移ってソーマも困惑している。
「ソ、ソーマ・ピーリスだ」
「ソーマちゃん!へぇ…いい名前」
「おい!まだ話の途中――」
「ん?ソーマ…ピーリス…どっかで聞いたことが…あっ!!」
こいつ、もはや視界から俺を消していやがる。
金髪はソーマの顔をまじまじと見た後、平手に拳を打って何か思い出したような仕草をした。
「あ、あ…っ!そ、その子はアルレヤ・ハップティスムのヒロインじゃないか!」
「はぁ…?」
いや、誰だよ。
多分アレルヤ・ハプティズムだな。
ソーマも首を傾げてるぞ。
まあ間違えてて良かった。
アレルヤの名前を聞いてソーマが何かしら思い出してしまうかもしれなかった。
思い出すこと自体はいいけどタイミングが早過ぎる。
そんなことよりわかったことが一つあるな。
金髪は転生者だ。
俺と同じ存在、転生者のイノベイター。
世界的に知られてないガンダムマイスターの名前を知っているのはイノベイターなら有り得るが、ヒロインといった時点でアウト。
口調的に俺と同じ第三者目線でこの世界を見てきたものだ。
なるほど、道理で俺の知らない存在の筈だ。
最悪だな。
「うわぁ…!間近で見るとめっちゃ可愛いな!お前のヒロイン、ピーリスちゃんかよ!羨ましい!」
「うるせぇな…」
金髪がソーマを指差しながら地団駄を踏む。
子供か、お前は。
それとソーマは俺のヒロインじゃなくてアレルヤのヒロインだぞ。
俺達はあくまで仲間だ。
まあ信頼関係であることは認める。
それにしても金髪の興奮具合に嫌な予感がする。
これはあれだ。
普段から女を誑かし、侍らせ、とにかく可愛い女の子に手当り次第手を出していく感じの男だ。
イケメンの特権、モテ男であることを利用して女を囲む。
なんとも苦手な人種だな。
「一応、聞く。お前ここに来た経緯は?」
「ん?……あぁ、そういう。そうだな…」
敢えてボヤして尋ねたが理解したか。
この理解力、質問内容からしてどう考えても転生者だ。
もはや確定事項。
まさか俺以外にも居たとはな。
リボンズは後で尋問だ。
「やっぱり話を変える。なんで俺達を呼び出した?女を連れてこいってのは……まあ大体予想がついた」
「それなら話が早い」
金髪は指を弾き鳴らすと俺にパイロットのスーツを投げてきた。
反射神経でキャッチしたが前世ならヘルメットで顔面強打だ。
イノベイターで良かった。
「なんの真似だ?」
「俺の送ったメッセージは見たよな」
「あぁ。あの無礼なやつならな」
「あれは挑戦状だ。俺と決闘しろ」
「はぁ!?」
いきなり決闘とか何を言ってるんだ?
頭が湧いてるとしか思えない。
金髪の存在についてはある程度知れた。
受ける義理はないな。
「断る」
「俺が勝ったらピーリスちゃんを俺にくれ!」
「話聞けよ!」
こいつ馬鹿なのか?ソーマは超兵だぞ。
国際問題でも起こすつもりか?
俺はソーマを庇うように立つ。
「ピーリスちゃんはあれだろ?あの…超人なんたらの…とにかく!人革連に利用されて兵器扱いされてる可哀想な子だ!これ以上その子に非人道的なことはさせないからな!」
「な、何の話を…。貴様、デスペア中尉に決闘を仕掛けるとは何事だ!」
「安心して、ピーリスちゃん。俺が助けるよ!」
「おい!」
駄目だ、会話が成立してない。
ソーマ本人ですら無理みたいだな。
ソーマが超人機関出身で人革連に利用されてることは当然知ってるか。
で、それを解放して俺のヒロインにする……ってか?
バカバカしい。金髪の脳内はどこまでお花畑なんだ。
差詰め自分を
なるほど、女を連れてこいというのは俺から俺のヒロイン候補であろう身近にいる女を連れてこさせ奪うつもりだったのか。
元から話し合うつもりはなし。
決闘に持ち込んでヒロインゲット、段取りが滅茶苦茶だがな。
とにかく俺自身は目的ではなく、呼び出したのはソーマを奪うため。
金髪は予め俺が転生者であることを知っていて、自分のようにヒロインをそろそろゲットする頃合だと思っていたのか。
違う意味で頭痛がするな。
まさか金髪がこんなクソ野郎だとは思わなかった。
一応話をある程度合わせるか、会話を少しでも噛み合わさなければ。
「もし仮に俺が決闘を受けるとして俺が勝った場合は?」
「は?俺が勝つに決まってんだろ?何言ってんだ?」
「……え?はっ?」
嘘だろ。なんだこいつ。
ダメだ、本当に会話にならない。こいつから意思疎通の可能性が微塵も見いだせない。
クソ、こんな奴に付き合ってられるか!
「バカバカしい。俺達は帰らせてもらうぞ」
「待てよ。逃げるつもりか?」
「なに…?」
「デスペア中尉…!」
「なっ…ソーマ!?」
振り返るとソーマが屈強な男2人組に捕えられていた。
さすがのソーマでもおそらく軍人であろう男2人は振り払えない。
というか想定していたのか、かなり力持ちのやつを連れてきたようだ。
一体なんの真似だ?
金髪を睨むと先程まではいなかった女共を3人従えて金髪は不敵に笑った。
「ふん。逃げようたってそうは行かないぜ!人革連に染まったクズ野郎!ピーリスちゃんを解放するために決闘は受けてもらう!」
「そこまで言うなら肝心のソーマを傷つけてんじゃねえ!」
「くっ…!」
ソーマが抗おうとするも屈強な男達に抑えられる。
力任せに抑えられるソーマは苦痛に顔を歪ませていた。
「ごめんね、ピーリスちゃん!これは君のためなんだ!少しの間我慢しててくれ、俺がこいつを倒す」
「この…!人の話を聞けっての。無理矢理に話を自分好みに進行させるな!」
「黙れ!非道野郎!ピーリスちゃんを解放するために洗脳を受けているピーリスちゃんにはああするしかないんだ…。だが、お前を倒した暁にはあの子を幸せにしてみせる」
「お前は女が欲しいだけだろ!」
何が幸せにしてみせるだ。
欲望に忠実な奴め、下半身でしか物事を考えられないのか。
しかし、金髪は自分を信じきってるみたいだな。
俺は転生者でありながら人革連に染まって、ソーマを利用する存在に見えているらしい。
くそ、これだから
俺と人革連の闇の部分を混濁されてしまった。
金髪は俺を倒してソーマを人革連から解放しようとしている。
言葉だけ見ればいい事だが、本音はただのエゴ。
自己満足。自身の欲望のため。
「デスペア中尉…!」
「ピーリスちゃん…!こんな奴、倒して君を解放してあげよう!君は明日から、いや、今日から自由の身だ」
金髪がソーマにアピールして周りの女共は嫉妬からかソーマを睨んでる。
そんなことしてるから刺されるんだよ。
「さぁ!決闘を受けてもらうぜ!」
「ちっ…!」
相手が計画的過ぎる。
手順にハマってしまったせいで思惑通りになってしまった。
ミン中尉はまだ隠れているのか…。
ミン中尉の方がベテランだ。
何か考えがあるのだろう。
今は出てくるタイミングじゃないか。
ならば俺が決闘するのはありなのか?
そんな疑問を浮かべると、懐にある端末が震える。
直感と状況で分かる、肯定の合図。
俺に決闘を受けろと言っているのか。
「……わかった。決闘を受けよう」
「ふん。やっと決心したか」
「デスペア中尉…!私など放って中佐にこの事を…!」
「ソーマ…。悪いがそれはできない」
「何故…!?」
ソーマが信じられないといった目で俺を見る。
ここは自分を置いて撤退し、中佐に伝えるのが最適だと考えたんだろう。
だが、俺はそんなソーマの目を真っ直ぐに捉えて告げた。
「俺はソーマを見捨てない。どんな状況でも救い出してみせる」
「……っ」
俺の言葉にソーマは衝撃に打たれたように泣きそうな目になる。
やはり感情が本筋より豊かだ。
それは俺が変えたこと。
ならば最後まで責任を持たなくてはならない。
それに、アレルヤと会わせるまでソーマを誰かに渡す気はない。
「ルールは簡単だ。公平な勝負をするために同じ機体を用意した。あれで一騎打ち、真の実力勝負といこうぜ…!」
「……いいだろう」
AEUのイナクトを見上げて承諾する。
この為に用意したのか。
独断で持ってきたのか、もしそうならかなりの権力持ちだな。
男を2人、部下も従えてるようだし。
女共が3人、チヤホヤされるぐらいには階級はあるか。
「俺は
「ナオヤ様には敵わないわ!」
「そうよそうよ!」
「戦力差は歴然だな!」
外野の女共がうるさい。まあどうでもいいが。
金髪の名前はナオヤか。
イノベイターにしては日本人っぽい名前だな…。
いちいちかっこつけて女共に手を振ってはキャーキャー言わせて
普通に乗れっての。
あと大尉の階級ならイナクトは無断で持ってきた可能性が高いな。
絶対ぶっ倒してやろう。
その後、それなりの処罰を受けると思うと爽快だ。
俺もワイヤーを掴んで上昇していく。
その途中でソーマと目が合った。
「デスペア中尉…。くっ!私の、せいで…」
「……ソーマ」
どうも自分の責任だと思ってるようだな。
ソーマの悪い癖、役に立つことが
足を引っ張るのは許せないんだろう。
そんな考えは後で砕いてやろう。
俺は上昇していく中でナオヤを睨む。
「はっ。お前の魔の手からピーリスちゃんを必ず解放してみせるぜ」
「ソーマは絶対に渡さない」
互いに睨み合いの末、イナクトに乗り込んだ。
はぁ。
何が公平な勝負だ、イナクトなんて操縦したことなしティエレンとは勝手が違うんだから公平なわけがない。
それであっちは慣れた手付きで準備を済ませる。
最低だな。
だが、どれほどハンデを付けられようとも勝ってみせる。
ソーマが賭けられてる以上、負けは許されない。
『負けないさ…、必ず勝つ』
『白髪の美少女とか最高だぜ』
そして、向かい合う双方のイナクトは起動した。
ナオヤについてそのうち活動報告に上げます。