ナオヤが搭乗するイナクトと対峙する。
相手は指揮官型のようだが、確か一般機と大差なかった筈だ。
指揮官型は通信機能を強化してるんだったかそれくらいしか利点がなかった筈。
一応そういう意味では公平な戦いを望んでいるのは本当らしい。
まあ実際は俺は使い慣れてない機体を操縦するわけだから公平さなんて欠片もない。
とりあえず予め了承を得て少し試運転を……と思ったがおかしいな、レバーを引いても反応しない。
故障か?
このイナクト動かないぞ。
『おい、この機体なんか壊れて――』
『先制攻撃貰ったぁ!!』
『がはっ…!?』
突如なんの合図もなくナオヤのイナクトから放たれた鉄拳。
俺のイナクトは直撃し、倒れ伏せた。
あの野郎、いきなり始めやがった!
何が先制攻撃だ。
思い切りズルじゃねえか。
『お前…!』
『はんっ。そんなもんかよ』
『不意打ちしておいて何を!』
立ち上がろとするが操作が効かない。
おい、まさか終始動かないのかこの機体。
完全に不良品を寄越してきやがった。
初めからまともに勝負する気はなかったのか…!
『まだまだ行くぜ!』
『ぐあっ…!?』
俺のイナクトが起き上がらないことを良い事に至近距離からリニアライフルで撃ち抜かれる。
左腕の関節部分を貫かれ、使い物にならなくなった。
元々動かないから使えるもクソもないけどな。
『なんだよ、こんなもんかよ。つまんねぇ、なっ!!』
『がっっ…!?』
思い切り腹部を蹴り込まれた。
俺のイナクトは巨大な岩石に背をぶつけるまで吹き飛ぶ。
衝撃が蹴りを入れられた前方と勢いよく機体をぶつけた後方とで二重に俺の身体に振動が伝わる。
身体がはち切れそうな痛みが全身に流れて痛い。
こんな状況でやってられるか。
これの何処が公平だ、一度決闘を中断して文句を言ってやろう。
『さぁて、どうやら終わりのようだな』
『ま、待て…』
『ん?なんだよ、もう降参か?』
『違う!いい加減にしろ!こっちの機体は壊れてて動かないんだよ…!』
『はぁ?何言ってんだ』
リニアライフルを下ろすイナクトから本気で首を傾げているようなナオヤの声がする。
様子がおかしいな。
俺の機体が動かないのはナオヤの仕業じゃないのか。
なら誰が――。
と、モニターから下方へと視線を走らせた時、あるものを捉えてしまった。
確かナオヤの取り巻きのビッチ。
1番主張の激しかったピンク髪が俺の方を見て小馬鹿にするように笑いを堪えていた。
『あいつの仕業か…!』
『はっ、負け犬の遠吠えか?諦めろ!』
『ちげえよ!?』
くそ、聞く耳持たずか。
あの女と結託してるのか?
いや、ナオヤのやつは気づいてないのか。
おそらく言及したところで嘘だと跳ねられるのが落ちか。
大抵こういう奴は仲間を信じきってるからな。
ちっ!嵌められた。
初めからワンサイドゲームだってか。
ふざけやがって。
決闘に賛同した時点で計画通りだったというわけだ。
『ピーリスちゃんを苦しめた罰だ』
『くっ…!』
『今度こそ終わりにしてやるぜ!』
ナオヤのイナクトが飛び上がり、リニアライフルを構える。
銃口は俺のイナクトの関節に照準が合わされていた。
事前に打ち合わせた敗北条件は
関節を外せば機体は立てなくなる。
当然の狙いだが、そもそも最初から動けないんじゃこの条件も意味を成してない。
『くそ…、動け…っ!』
『トドメだぁぁぁぁああっ!!』
『動け!!』
リニアライフルが発砲される。
ソーマが賭けられてるんだ、諦めるわけにはいかない。
俺は幾度もレバーを引いた。
反応がなくても何度でも。
「デスペア中尉……!」
ソーマが俺の名を叫ぶ。
リニアライフルの弾が迫っている時だった。
絶望的に勝ち目のない状況、時間が静止したような感覚の中、俺のイナクトのシステムが稼働した。
『動いた…!』
『なっ、避けただと…!?』
やっとのことで動けるようになったのも束の間。
自身の負担は考えず、緊急回避を行った。
正直無理矢理転がるように避けたから振動が酷い。
痛てぇ……!これじゃあティエレンと大して乗り心地が変わらないな。
とにかく操縦が可能になった。
相手が驚愕している隙を利用しない手はない。
なに、随分と汚い手を使われ続けたんだ。
それくらいしても罰は当たらないさ。
俺は小さく旋回を掛けながらナオヤのイナクトへと接近する。
『くっ…!』
『卑怯な手を使われた分、やり返させてもらう!』
『さっきと動きが違う!?』
ナオヤのイナクトがリニアライフルで限界まで連射し、接近してくる俺のイナクトを止めようとするが弾は掠りもしない。
容易に懐に入れた俺はナオヤのイナクトに突進し、岩石にぶつけてやった。
『がはっ…!』
『なあ、確実に射撃が当たる方法って知ってるか?』
『いきなり何の話だ…!』
『こうするんだよ』
俺はリニアライフルの銃口をナオヤのイナクトの装甲に突きつける。
顔は見えないがナオヤは真っ青になったように焦り始めた。
『お、おい。まさか…正気か!?』
『勿論』
リニアライフルの引き金を引く。
特徴である実弾がナオヤのイナクトの装甲を抉り、チーツーの500mm多段階加速砲とは違って威力が低いから何度でも撃ち込めた。
俺がスイッチを押す度、イナクトが引き金を引く度、ナオヤのイナクト 指揮官型の胴体は跳ねる。
『ぐあっ!ぐおっ!?ぐがっ!て、てめぇ、うぐっ…!?』
『どうした?さっきまでの威勢は…!』
『ふざけんな!ぐっ…汚ねえ!』
お前が言うな!
ちなみに俺のイナクトが全身と総重量を利用してナオヤのイナクト 指揮官型の動きを抑えてる為、奴は動けない。
文字通り胃に穴が空くまで撃ってやる。
まあ俺にも衝撃は来るがな。
『お前もタダではっ、済まないぞっ!』
『ティエレン乗り舐めんな!』
普段からパイロットのことなど微塵も考えられてない人革連の
この程度でへばるか。
だが、先に残弾が尽きた。
ふん、俺の零距離連射撃に付いてこられない銃とかもはや不要だな。
『弾が尽きたか!チャンス!さっきはよくも――』
『オラァ!!』
『かはっ…』
何も射撃だけに使うのが銃ではない。
どうせ借り物なんだ、リニアライフルが折れようが知ったこっちゃない。
ということで俺はリニアライフルでナオヤのイナクト 指揮官型の腹部を殴った。
既に穴が空き気味だった為、もう一撃ぶっ刺すと装甲を貫いた。
『ば、馬鹿な…、何やってるんだ!?』
『知るか!』
ぶっちゃけ俺もよく分からん。
絶対使い方間違ってる自信しかないけどうちの機体じゃないしどうでもいい。
ソニックブレイドを取り出し、刃の周囲にプラズマを纏わせたプラズマソードにする。
プラズマソードで抑えつけていたイナクト 指揮官型の右腕を切断した。
当然その手に握っていたリニアライフルも落とす。
『なっ…てめぇ!』
『くっ…』
腕の切断の間、抑えがなくなり自由になった短い刹那の時間を逃さずナオヤのイナクト 指揮官型は俺のイナクトの拘束から抜け出す。
腐ってもイノベイター。
一瞬の隙は見逃さないか。
『ちゃんと戦いやがれ!』
『鏡見てもう1度言ってみろ!』
盛大なブーメランだ。
俺のイナクトとナオヤのイナクト 指揮官型が殴り合う。
ナオヤが先に俺のイナクトの顔面へと拳を入れ、俺がナオヤのイナクト 指揮官型の顎にアッパーを打ち込んだ。
両機体が蹌踉めき、踏み込んだのは俺のイナクト。
全力で腹部に蹴りを入れた。
『ぐはっ…!?』
なんとか耐えるもナオヤのイナクト 指揮官型は態勢を崩す。
腹にリニアライフルがぶっ刺さってるからな。
上手く機体の平行を保てないみたいだ。
誰だよ、銃器で刺したやつ。
とんだ奇行だな。
『俺の勝ちだ』
『……っ!』
プラズマソードの刃先をナオヤのコクピットに突きつける。
少しでも動けば刺し殺せる距離だ、実質行動不能みたいなものだろう。
まあ抵抗してきてももう1度叩くだけだ。
『くっ…認める…っ…。俺の負けだ…』
『はぁ』
ナオヤが負けを認めた。
これにて決闘終了、結果は俺の勝利だ。
疲れた……。コクピットの中で溜息をつく。
本人の意思ではないとしても相手の機体を弄って、出来レースをした結果がこれとは高が知れているな。
「……」
「デスペア中尉!」
「勝ちましたか…。お疲れ様です」
「ソーマ、ミン中尉…」
実は形勢が逆転した時点でミン中尉が飛び出し、ソーマを解放していたらしい。
なるほど、俺に決闘を受けさせたのは相手側の気を引くためか。
大男達やビッチ達もまんまと隙を突かれたとミン中尉は言っていた。
ちょっと見たかったな、やはりミン中尉はできる男だ。 かっこいい、素直に尊敬する。
イナクトから降りた俺をソーマは真っ先に迎えに来た。
その瞳は何処か負い目を感じているような暗い表情をしている。
「す、すまない…私のせいでデスペア中尉に――」
「そういうのはなしだ。ソーマは悪くない。それにもう終わったことだ、そうだろ?」
「……あぁ」
俺の言葉にソーマは気を取り直したのか頷く。
まだ俯いているので微笑みかけると恥ずかしそうに目を逸らす。
「くそ…!」
「な、なんで…」
少し離れたところでナオヤが悔しがって壁を殴り、俺のイナクトに妨害を施したであろうビッチな女の方はイナクトが復活したことに唖然としているようだ。
そういえばなんで動いたんだろうな。
「約束通り、俺達はこれまで通りにさせてもらうぞ」
「貴様…!」
ナオヤが怒りの形相で睨んでくる。
ていうか超人機関はもう無いんだからソーマに救いは要らねえっての。
大体ただハーレムを形成したいだけの奴なんかよりスミルノフ中佐に任せた方がいいに決まってる。
もちろん、俺も責任を持ってソーマに人間らしさを持たせるつもりだ。
俺に掴み掛かろうとしてきたナオヤだが、ソーマが俺を無言で庇うと顔を顰めて下がった。
すると、交代するようにビッチな女が前に出てくる。
「反則よ!きっと何かズルをしたんだわ!」
「してねえよ…」
「有り得ないわ、ナオヤ様が負けるなんて…!」
諦めの悪い女だ。
しかも細工をしたのはあっちの方だ。
俺は正々堂々と戦った方だろう。
いい加減にして欲しいな。
「最初、レイの機体が不自然に動こなかったを見るに何か隠し事があるのはそちらの方ではないか」
「はぁ?何の話だ」
「……っ」
「マイン?」
あぁ、マインって名前なのか。
どうでもいいな。
これほど興味が湧かない相手は初めてだ。怒りも感じるがそれ以上にもうこいつと関わりたくないって気持ちの方が遥かに上にある。
「とにかく俺の勝ちだ。帰らせてもらうぞ」
「……ピーリスちゃんは必ず解放するからな」
「ほざけ」
まったく、まだ言ってるのか。
ささっとソーマを連れて帰るとしよう。
ナオヤに聞きたいことがないわけではないが、リボンズに聞いた方が早そうだ。
というかナオヤは話が通じない。
会話が成立しない脳みそ下半身と話すほど俺も暇じゃないからな。
「ピーリスちゃん!」
「……」
ナオヤがソーマの名を叫ぶが、ソーマは振り返るどころか反応すらしなかった。
こうしてモスクワ近隣の更地を後にした。
モスクワ近海。
もう1人の転生者、レイ・デスペアに決闘を申し込んだ金髪のイノベイター、ナオヤ・ヒンダレスは彼の仲間を連れて海の上をイナクトで飛行していた。
『はぁ…まさか負けるなんてなぁ。ピーリスちゃんを救えなかった…なんて力不足なんだ、俺は…』
『ナオヤ様は尽力されました!気に病むことはございません。私が――私達が付いてます!』
『……っ。ありがとう!マイン!』
『いえ…それ程でも…』
『……』
求めてもいない救済に失敗し、悔しがるナオヤに通信で励ますように見せて自分以外の女に興味を抱く彼に自身を主張するマイン。
ナオヤと共に搭乗している女やマインの隣で彼女を強く睨んでいる女は内心隙があれば媚を売るマインに不快な顔をする。
と、一行がいつものやり取りをしている中、センサーに機影の反応があった。
『ん…?センサーに何か…』
『ナオヤ様!あれを…!』
『え?』
マインに呼ばれ、視線を上げるナオヤ。
その目に映ったのは空を飛来する物体。
全身をローブで覆い隠した機体がローブの奥から目を光らせることで
『なんだ…?あれ』
『
『なに!?』
マインに言われて初めてナオヤもその双眼を捉える。
思わず戦慄した。
『敵意はあるのか!?』
『わ、分かりません』
『ナオヤ様、機体がライフルをこちらに…!』
『なっ…』
イナクト2機に向けられた二門の砲口。
刹那、赤い粒子ビームを放った。
『ぐおっ!?』
『きゃあっ!!』
なんとか回避したマインのイナクトとは違い、負傷しているナオヤのイナクトは足を奪われる。
突然の攻撃にナオヤは顔を顰めた。
『くそ!どこの機体だ!?人革か?ユニオンか?』
『粒子ビームを撃ってきている時点でどちらでもない』
『くっ…なににせよ、飛ぶのがやっとのこの機体じゃ分が悪い!』
マインと共に搭乗している長髪の女性の言葉にナオヤはさらに表情を歪ませる。
代わるようにマインのイナクトが前に出た。
『貴様、誰に攻撃したか分かってるのか!?』
『マイン!』
ナオヤの制止も聞かないマイン。
頭では分かっているはずなのに激情していて自身でも抑えられなくなっている。
そう、相手はガンダムだと理解しているというのにだ。
「おい、粒子ビームを使ってきたということは相手はガンダムだ」
「分かってるわよ!」
「危険だ。貴様はどうでもいいが、ナオヤと私の安全を考慮してもらおう」
「うっさい!命令してんじゃないわよ!」
長髪の女性、ビッチ3の言葉も振り切りマインはイナクトでローブのガンダムへと接近する。
リニアライフルを構える。
『落ちろ!』
『……』
リニアライフルの引き金が引かれ、発砲される六連の実弾。
その全てをローブのガンダムは回避した。
『なっ…』
「来るぞ!」
回避行動から連続して射撃態勢に移るローブのガンダムに、呆気に取られていたマインを押しのけ、長髪の女性が操縦権を奪う。
『――――!』
『ぐあっ…!?』
『マイン!ネルシェン!』
放たれた赤色の粒子ビームがイナクトの左腕を消し飛ばす。
さらに三本のビーム追撃により、四肢を失った。
それだけ負傷させるとローブのガンダムは旋回し、飛び去る。
『ま、待て…!』
『ガンダムゥ…!』
『……っ。あのガンダム…わざと外した?』
追うにも機体状況で追えないナオヤ。
怒りの形相で唇を噛みちぎるマイン。
一人、ローブのガンダムの無駄のない動きに驚愕し、疑問を抱える長髪の女性。
それぞれの反応すら置いてローブのガンダムは姿を消した。