息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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尋問

イノベイター達の本拠に随分と久しぶりに帰ってきた。

馴染み深い長椅子とそこに腰を下ろしている整った顔立ちの同種と対峙している状況だ。

その名もリボンズ・アルマーク。

 

「突然帰ってきたと思ったら、僕に何かようかい?レイ・デスペア」

「とぼけるな。ナオヤを送り込んできたのはお前だろ」

「ナオヤ?あぁ…彼か」

 

白々しい、まるで今の今まで忘れていたような反応だ。

この様子だと俺のことも忘れてると思ったがそんなことはなかったな。

まあいい。

どうせあの女たらしに聞いても答えないんだ。

リボンズに直接問いただしてやる。

 

「何が目的だ。俺はお前の指示通りやってただろ。もう用済みか?」

「あはは、それはないよ。そうだね…彼について説明しよう」

「やっとその気になったか」

 

かれこれ数時間。

有給を犠牲にしてやって来たってのに割に合わない待ち時間だった。

というか有給取りすぎて無くなった。

これだからブラック企業は嫌なんだよ。

と、まあそんな話は置いておいてリボンズの口が開くのを待つ。

 

「ナオヤ・ヒンダレス。彼は君とほぼ同時に生まれたイノベイターさ」

「ほう。誰と同タイプなんだ?」

「君と同じ、誰の同タイプでもないよ」

 

まあ金髪のイノベイターなんていないしな。

金髪枠はルイス・ハレヴィか?

ルイスはナノマシン入りの薬を服用し、身体の仕組みをイノベイドへと一部変換されていっていた。

これは擬似GN粒子の持つ毒性に身体を蝕まれていたルイスにリボンズが人類をイノベイドへと変質させる実験のためにやっていたこと。

 

元々ナノマシン入りの薬には細胞異常を抑制することができ、ルイスの体の障害も一時的には緩和されていただろう。

だが、麻薬と同じで快楽や安らぎは一時的なものにしか過ぎない。

ルイスが飲んでいた薬も結局は代償に身体の構造を変質させるものだった。

そして、そのような危険な真似をリボンズというイノベイターはやる。

だから今回も裏があると睨んでいる。

 

「それで?あいつにはなんて言ってAEU軍に配属させた。いや、潜り込ませること自体には疑問はない。奴と俺をぶつかり合わせるよう仕向けたな?何故そんなことをした」

「ふふっ、随分とせっかちだね。もう本題かい?」

「世間話をするために来たわけじゃないからな。それに、もう随分と待たせてもらった」

「そうか…なら話さないといけないね」

 

さっきからそればっかだな。

露骨に先延ばししてやがる。

一体何を隠してんだ?『ヴェーダ』を掌握した時のリボンズと違って思考は読めない。

脳量子波を送れば即刻バレてしまう。

 

いや、アリだな。

今は真っ向から対立してるんだ。

あっちが本音をさらけ出さない以上思考を読もうとするのは当然の行為だ。

なに、バレても脅しに使える。

 

「……」

「っ、脳量子波…僕の思考に訴えかけてきたね…」

『お前が素直にならないなら強硬策に出るだけだ。不快なら全て話せばいい』

「……分かったよ。彼を…ナオヤを送り込み、君に敵意を向けるように指示した理由を語ろう」

『先延ばしにするようなら――』

「ちゃんと話すさ」

「……」

 

いつになくリボンズが真剣な表情になる。

ふむ、これ以上詮索して敵認識されても困る。

信じてリボンズの口から語られる内容から情報を得よう。

 

「さっきも言った通り、ナオヤは君とほぼ同時に生まれたイノベイター。まだまだ未熟な部分の多い、マイスタータイプさ」

「……」

「君に人革連への配属を命じたように、彼にはAEUへと潜り込ませたのは勿論僕が指示したこと」

「……前から気になってたんだが、俺も軍に配属されたのは何故だ。リヴァイヴ達はまだ待機中なんだろ?」

「鋭いね。そこに着目するとは」

「いいから話せっての」

 

まったく、すぐに話を逸らそうとする。

今は賞賛とか要らねえよ。

 

「君とナオヤはまだ生まれて間もない。リヴァイヴやヒリングとは違い、まだ完全にはマイスタータイプの力を引き出せてないのさ」

「マイスタータイプの力を引き出せてない…?」

「覚えはないかい?」

「……」

 

ない訳では無い。

寧ろ少し前に悩んでいた程だ。

マイスタータイプのイノベイターにしては俺は弱過ぎる、と。

リボンズの言うことを真に受けるなら俺はまだ未熟で本来の能力を発揮し切れていない、ということか?

 

辻褄は合う。

俺はイノベイターの性質や生態そのものを熟知しているわけではないからリボンズの言うことが正しいのかは分からない。

ただ本当のことだと納得ができる程には信憑性がある。

さて、信じるか信じないか。

もう少し探るか。

 

「仮にお前の言う通りだとして俺とナオヤが未熟なのは分かった。それと入隊したのはなんの関係がある。……真のマイスタータイプへとなる為か?」

「正解だ」

 

リボンズの奴、驚いたように笑顔で頷きやがった。

まるで子供が予想外の解答を言い当てたように。

それはそうと予測があたった。

そうか、そういう事だったのか。

 

「レイ・デスペアとナオヤ・ヒンダレスの成長、その為の軍への配属…。君達には()()()()()()()までに本来の力を付けてもらいたいんだよ」

「来たるべき時代…」

 

一瞬何の話かと思ったけど転生者である俺なら理解できる。

来たるべき時代――即ちイノベイター勢が本格的に活動し始める時。

つまりは【2nd season】だ。

 

アロウズが成立し、偽りの恒久和平の為の虐殺が行われる中でイノベイター達はリヴァイヴを筆頭に戦いへと参入する。

アロウズへ入隊し、アロウズが恒久和平を成し遂げた時、人類の上位種として降臨する為に。

自らの、イノベイターの存在を、その力強さを主張する時代(とき)

 

それまでに俺とナオヤはリヴァイヴやヒリングのように完成されたマイスタータイプのイノベイターとならねばならない。

例えばリボンズが『イノベイド』を『イノベイター』と称するように。

成長して進化しなければならない、それが俺に与えられた使命。

 

勿論逃げ出すことも今の役割を放棄することも使命を捨てることもできない。

処分される可能性は高いし、俺は死にたくない。

はぁ…結局俺は戦うしかない。

強くなるしかないということか。

 

「未熟な俺達がリヴァイヴ達と肩を並べるまでどれくらいかかる?」

「それは君次第さ。ただそのリヴァイヴから聞いた話じゃ君の射撃性能は著しく低いと聞いたから随分先の話になるかもしれないね」

「うっ…」

 

痛いとこを突かれた。

やっぱ問題視されてるんだな。

リヴァイヴのやつ、肝心な時に言い渡ってない癖に後から伝達したのか。

余計なことを。

 

とにかくリボンズの目的は分かった。

単純明快、ただ俺が一人前になればいいだけの話。

ただまだ一つ気になることがある。

 

「もう一つ質問していた筈だ、答えてもらうぞ。ナオヤに俺と対立するよう唆したのはなんでだ?」

「それも君達の成長の為かな。競い合った方が成長が早まるのは僕達イノベイターも同じさ。これは生命の原理、僕らのような上位種でも逃れられない運命なのさ」

「そうか…分かった」

 

大体聞きたいことは聞き出せた。

正直一分一秒でもリボンズと対峙していたくない。

だって黒幕だし、何を企んでるか分からない。

主に俺やナオヤといった異物のせいでな。

 

だから、足早に去るとしよう。

かなり時間を食ったが地獄のような対面時間がやっと終わった。

 

「誰かさんが軍に入隊させてくれたおかげで俺は忙しい。聞きたいことも聞けたしそろそろ帰らせてもらう」

「そうだね。君の成長を願っているよ」

「抜かせ」

 

最後に皮肉を吐いてから広間を後にした。

リボンズもそのうちアレハンドロの元へと戻るだろう。そういえばずっと付きっきりかと思ってたが、俺のために戻ってきてくれたのかもな。

リボンズも忙しい身だ、そこは感謝するとしよう。

 

と、まあリボンズと別れて廊下を歩いていると同種と出会った。

そりゃ本拠で待機してるんだから当然か。

リボンズとの会話に何度も名前を出していたのに遭遇する可能性を忘れていた。

 

「あら?レイじゃない、久しぶりねー」

「おう。確かにイオリアの宣言以来だな」

「……」

 

ばったり出会したのはヒリング・ケアとリヴァイヴ・リバイバル。

リボンズと同タイプの緑髪はパーマがかかっていて個性を主張している。

ヒリングの場合、髪型だけでなくずいずいと俺に近付いてきて陽気に話し掛けてきた。

態度まで主張が激しいのはヒリングの性格だ。

てか顔が近い、相変わらずだな。

 

それと相対するようにリヴァイヴ。

露骨に俺から目を逸らしている。

 

「おい、リヴァイヴ」

「や、やあ…げ、元気そうでなによりだね…」

「目を見て話せよ」

 

俺が1歩踏む込むとリヴァイヴも1歩下がる。

こいつ…。

 

「ははは…僕は用があるからここらでお暇させて頂くよ」

「いーや、逃がさん」

 

全くさり気なくない立ち去り方をしようとするリヴァイヴの肩を掴む。

絶対に許さん、俺を見捨てた罪は重い。

 

「なっ!?離せ!」

「あー!二人共なになに?ちょっと楽しそうじゃない!私も混ぜなさいよ!」

「ちょ、ヒリ――」

「うおっ!?馬鹿、飛び込むなゴハッ!?」

 

俺とリヴァイヴが取っ組み合いをしている中、ヒリングが突っ込んできて衝突し合う。

もう滅茶苦茶、それからはじゃれあってヒリングの拳が俺の顔面にクリーンヒットしてリヴァイヴとヒリングが喧嘩を始める。

発端はヒリングがリヴァイヴの腹に蹴りを入れてしまったから。

やられたからやり返し、やられたらやり返すの繰り返し。

痛いし、二人は止められないし、散々だったが久しぶりに何も考えずに暴れ回った俺は密かに楽しさを感じていた。

 

「……ふっ」

「はは…」

「あはは!いったーい!」

 

最後は俺もリヴァイヴ、ヒリングも三人で笑い合い、幕を閉じる。

まったく馬鹿なやり取りだ。

後から考えるとあいつらが俺の目指すべきマイスタータイプの完成系だとか呆れる。

そして、俺は再び戦場へと戻った。

 


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