息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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一部オリキャラが出ますがもう今回限りのキャラです。
ちなみに決闘シーンは某ネット小説のオマージュのつもりです。


絶望デスペア

『中佐、ガンダムを鹵獲します』

『注意しろ、少尉。以前のようにいきなり動き出すやもしれん』

『了解』

 

中佐とやり取りを交わし、飛び降りるタオツーことソーマ。

パイロットのアレルヤが疲弊しているせいで上空に跳んだ機影に反応が遅れたキュリオスにタオツーは上から突っ込み、取り押さえた。

既にアレルヤは限界に近いのかすぐにダウンし、キュリオスも倒れた。

 

キュリオスを引き摺り、帰還ルートを辿る。

そういえば帰還ルートを変えれば…などと考えたがどうせ来るだろし意味は無い。

それにしても加速砲をやられたのは痛いな…。

くそ、あの粒子ビームめ。

一体何が目的で誰が撃ってるんだ。

 

この戦いに参戦してきたということはやはりスローネかと睨んだが、レーダーに味方と4機のガンダム以外の反応なし。

司令塔の方にも機体の情報は入ってない。

またしても範囲外からの狙撃。

絡繰があるとしても厄介過ぎる。

 

『中佐』

『む…?』

『あの粒子ビームの足取りは…』

『掴めてはいない。確かに警戒は必要だが、今は羽付きに専念せよ。いつ動き出すか分からん』

『…了解』

 

中佐には一蹴されたが、やはり気になる。

なんというか惹かれるんだよな。

なんとなく。

それはそうと素直に中佐の指示に従おう。

何が起こるか分からない今、キュリオスを警戒すべきなのは頷ける。

それに今は他のことを考えている暇はない。

 

専念しなくては。

周囲に目を配り、機影を探す。

本編のように突如襲ってきて誰かを失うなんてさせない。

キュリオスを逃しててでも皆を死なせはしない。

すると、見つけた。

 

『総員油断するな!羽付がいつまた暴れ出すやも知れん!』

『了解!』

『全員、避けろぉぉぉぉおおおーー!!』

『……!?』

 

喉が張り裂けるほど声を張って叫ぶ。

『頂武』の皆が驚愕する中、敏感な者は声に反応して咄嗟にレバー引いたり、ただ驚くだけで動かない者もいる。

呆気に取られていたやつはチーツーに装備していた200mm×25口径長滑腔砲で撃ち飛ばす。

なんとか全員現位置から離脱し、飛来するミサイル――否、GNファングを回避する。

 

『なっ…』

『このプレッシャーは…!?』

『敵襲か…!?何だ、この武器は…!』

『他の部隊がしくじったのか…!?』

『デスペア中尉、感謝します!』

『馬鹿が!礼を言ってる暇があったら回避に専念しろ!来るぞ…!』

 

初撃を避けたとはいえ、再び向かってくるのがGNファング。

脳天気なやつらも見上げてそれを理解したようで青ざめる。

俺はチーツーで200mm×25口径長滑腔砲を構えてスラスターを噴射した。

プロペラントタンクを使い切る勢いで最大加速を掛ける!

 

『ミン中尉、左と右上から来ます!』

『了解…!』

『シイナ准尉、損傷してもいいから前方からのを避けろ!タイムラグで後方から来るのをリンユー准尉は撃って妨害しろ!撃ち落とせとは言わん』

『り、了解…!』

『はっ!』

『デスペア中尉の的確な指示が…』

 

中佐が驚愕し、後から訝しむかもしれないが構っている暇はない。

例えどれほど後で尋問されようと仲間は守ってみせる。

飛び交うGNファングに怒号の如き指示を飛ばす。

俺も避けつつってのは難しい上にティエレンの動きが鈍く損傷し続けているが、イノベイターだからか視野が広い。

この土壇場で初めて気付いた。

緊急時になるとここまでか。

 

『ミサイルじゃない!?』

『驚いてる暇はないぞソーマ!出来るだけ撃ち落とせ!』

『分かった…!』

 

タオツーの性能ならある程度回避しながら撃てる。

ソーマには多少無理をしてもらおう。

じゃなきゃ誰かがやられる。

それは俺かもしれない。

 

『集まれ…!固まって対応するんだ…!』

『……っ。総員、デスペア中尉の言う通りにしろ!』

 

キュリオスを置いたまま各自散開していたのを集める。

中佐の指示もあり、順調に動いた。

GNファングが一度収容されていくタイムラグのうちに互いに背を合わせ、守り合う。

スミルノフ中佐がGN-Xの部隊でやっていた指揮だが、流石と言うべきか有効だ。

 

『あぁ?なんか動きがいいな。読まれたか?くそ、面倒な奴らめ』

 

『中尉、まさか知っていたのか。ガンダムが他にもあることを』

『知りません。事前に把握してもいません。ですが、どうか俺の直感を信じてください。そして、もし善戦したとしても撤退を優先しましょう。あのガンダムは…未知だ』

『……了解した。貴官を信じよう』

『ありがとうございます』

 

心の底から中佐に感謝し、意識を目の前の機体に集中する。

少しでも気を逸らしちゃ駄目だ。

常に相手の動きを見ろ。

ここで予測外のことが起きれば終わり、それに対応する気も余裕もない。

今はただ目の前の相手だけを見て、そいつのためだけに行動する。

『頂武』は…俺が守る。

 

『あの機体は…!?』

 

ソーマが驚くのも無理はない。

未知の機体、誰も知らないガンダム。

誰も予測してなかった新戦力。

画面越しの情報はあれどもこれほど緊迫した対面はない。

生身の情報がないのは俺も同じ。

ここでは前世の知識をフル活用させてもらう。

 

『まあいい。ガンダムスローネ2号機、スローネ・ツヴァイ!ミハエル・トリニティ、エクスタミネート!!』

 

『本来のようにはさせない…!』

 

『いけよ!ファング!!』

 

目の前に映る緋色のフレーム、白銀の収容ユニット。

再び放たれるGNファング。

その全てを目で追う――いや、多い!

一度に発進できるのは6基だってのは知ってる。

だが、動きが自在な上にGN系の能力を持っているため機動が速い。

 

『陣形は崩すな、撃てっ!!』

『うおおおおおおおおおおおっ!!』

 

全ティエレンが背中合わせで発砲する。

くっ…ティエレンの機動力と200mm×25口径長滑腔砲の弾速ではGNファングを捉えられない。

マグレでも当たれば多少は妨害に…。

 

『ぐああっ!?』

『リンユー…!』

 

仲間のティエレン 高機動B型が脚部と腕部をやられた。

あれではもう戦えない。

 

『准尉を陣形の中に押し込め!我々はあの兵器に対応する!』

『り、了解…!』

 

中佐の素早い対応で動きに鈍りはない。

助かった…少しでも隙ができれば、できなくても終わりかもしれない。

さすがは中佐、才があるのは勿論のこと俺よりも指示が通る分助かる。

 

『あぁ?くそ、鬱陶しいな…なんなんだあいつらは。もっと舞え!ファング!』

 

『くっ…』

 

部隊の半数が損傷した。

さすがにティエレンじゃGN-Xのようにはいかないか。

一度退けてGNファングを収納するスローネ ツヴァイ。

次が来たらおしまいだ。

何が善戦だ、少し前の自分を殴ってやりたい。

これじゃ一方的だ。

 

『……』

『どうすれば…!?』

 

ソーマの戸惑う声が耳に届く。

……やるしかない。

死ぬ気はなかった。

だが、覚悟はあった。

これは死ではない。

仲間達が生きるための…彼らの明日を繋ぐ捨て身の奮闘だ。

 

『ああああああああああっ!!』

『デスペア中尉!?』

『何故前に出る!』

 

チーツーのスラスターを最大噴射してスローネ ツヴァイへと飛び向かう。

陣形から飛び出した俺にソーマや中佐が驚きの声を上げるが振り払うように加速する。

 

『ぜりゃああああっ!!』

『ぬおっ!?』

 

プロペラントタンクを捨て、軽量化してさらに加速。

身体の負担など全力無視、ただの特攻。

空中に浮かぶスローネ ツヴァイにティエレン チーツーは突っ込んだ。

そして、通信をオンにして全身全霊で叫ぶ。

 

『逃げろぉ!!』

『なっ…』

 

ティエレンの性能ではいくら『頂武』でも敵わない。

だからこれはただの我儘だ。

仲間を逃がすための犠牲。

その役目は俺が引き受ける。

 

『デスペア中尉…!』

『総員、撤退する!』

『そんな…っ。中佐、デスペア中尉が…っ!』

『……諦めろ。情報のないガンダムにあの兵器…我々だけでは』

『嫌…嫌です…』

『誰かピーリス少尉を連行しろ』

『…了解』

 

俺の意図を瞬時に理解してくれた中佐は有難いことにソーマのタオツーを連れて撤退行動に移ってくれた。

他の負傷した仲間も肩を貸し合い連れていかれる。

全員行ったか…。

 

ふっ、ガンダム相手の上にこの場面で全員生還したことは奇跡に近いな。

あぁ…俺は除外して、か。

まあタダではいかん、本当は死にたくないし抵抗はさせてもらう。

運を呼び込む、なんて言葉もある。

奇跡をもう一度起こしてやるさ。

 

『てめぇ…邪魔すんな!』

『はっ、やだね』

 

しがみつくチーツーを突き落とそうとするスローネ ツヴァイ。

この態勢でGNバスターソードは使えない。

だからか、GNハンドガンで密着するチーツーの左腕を撃ち飛ばした。

 

『ぐあっ…!』

『雑魚が頑張ってんじゃねえよ!死んじまいなぁ!』

『そういう荒っぽいのは1人で充分なんだよ!』

 

200mm×25口径長滑腔砲の砲口をスローネ ツヴァイの装甲に零距離で突きつける。

迷わず引き金を引いた。

 

『な、なに…っ』

『ああああああああああっ!!』

『ぐああっ!野郎…っ!』

 

スローネ ツヴァイの装甲に傷はない。

はは、当たり前だよな。

この程度の装備、弾丸で効くわけがない。

まあだが引き金を引く手を止めるつもりもない。

 

『ぐっ、がっ、てめぇ…ぐあっ!』

『お前の相手は俺だ!』

『調子に乗ってんじゃねえ!ぶっ潰せ、ファング…!』

『させるか!』

 

よし、挑発に乗った。

相手がミハエルだからこそ使える戦法。

トリニティ兄妹は機体の性能に頼る癖がある。

特にツヴァイはそうだ、GNファングなんてもんを積んでるからな。

こんな万能兵器、頼らない方がおかしい。

そして、ミハエルの性格。

煽りに弱く、沸点が低い。

だからこそ俺に釘付けにできる。

 

『ふんっ!』

『こいつ、発射ユニットを…!けどもう一つあるんだよぉ!馬鹿がっ!』

『くっ…知ってるっての…!』

 

ブレードでGNファングの発射ユニットを片方ぶっ潰したが、もう片方あるためそちらから4基のGNファングが放たれる。

ちなみにチーツーのブレードは全力で叩き込んだせいで原型を留めてない。

こりゃもう200mm×25口径長滑腔砲としては使えないな。

 

『はあっ!』

『ぐおっ…』

『全て捌くっ!』

 

スローネ ツヴァイを蹴り飛ばし、スラスターで浮遊しながらもはや鈍器となっているブレードを構える。

飛び交うGNファングの数は4基。

……いけるか?

 

『ふっ!』

 

向かい来るGNファングの1基にブレードを振るう。

しかし、機動性の高い遠隔操作兵器だけあって避けられる。

射撃でもないのに兵器に躱されたか…敵わないな。

 

続いて上方から来るGNファング1基も捌こうとするが、先端からビームサーベルを発生させるとかいうえげつないスタイルでチーツーのブレードへと突っ込んできた。

目的はブレードの破壊か。

チーツーの腕部先端で爆発が起こるも砕け散ったのはブレードだけでGNファングは健在、その後も飛び交う。

 

『くっ…』

『はっ。敵う訳ねえっての』

 

ミハエルのやつ、GNファングに任せて高みの見物か…。

しかし、得物を無くしたのは辛い。

30mm機銃で対応するが弾が当たるはずもなければ当たっても効果はない。

無駄な抵抗と分かりつつ狙い、GNファング2基により残った腕と片足を持っていかれた。

 

『ぐあっ…!』

『ははは!そろそろ墜ちろ!』

『……っ。まずい!』

 

GNファング4基がチーツーの周囲を回る。

そして、スラスターを全て破壊した。

当然チーツーは墜落する。

 

『ぐああああッ!?がっっ…!?』

 

墜落した衝撃。

思わず血反吐を吐いた。

くそ…これだからうちの機体は…。

コクピットが薄すぎるんだよ。

衝撃をやわらげる気が全く無い。

 

『無駄に手こずらせやがって…』

 

GNファングが収容されていく。

……終わりか。

チーツーも動けなくなったし、武装もない。

ここまでという訳だ。

 

『これで終わりにしてやるよ!』

 

スローネ ツヴァイがGNハンドガンを構える。

俺は操縦から手を離し、涙を流した。

回避しようもない死。

とても怖いがとても冷静だ。

もう終わりなのだと心の何処かで静かに告げられている。

 

『死ねよ!』

 

GNハンドガンから赤い粒子ビームが放たれた。

俺の手は無意識に撤退していった仲間の方へと伸ばされる。

心なしかモニターに小さな点が映っているのはソーマの乗るタオツーに見えるが、きっとそれはないだろう。

中佐に託したんだ、きっと撤退してくれている筈…。

 

『デスペア中尉…!』

『ソーマ…』

 

おかしいな、ソーマの声が聞こえる。

あぁ、走馬灯か。

それか幻聴だな。

どうも目を逸らしがちだったけどこの瀬戸際でソーマの声が聞こえるってことは…やっぱり俺…。

 

『ソーマ…』

『……っ!?』

『好きだよ』

 

その言葉を最後にティエレン チーツーは粒子ビームに貫かれた。

耳に入るのはソーマの叫声と嗚咽。

他の仲間の声も入ってくる。

だが、その全てを爆炎と爆音が消し去り。

やがて、俺は意識を手放した。

 

『嫌…嫌ぁぁぁああああああっ!?』

 

あぁ、とても熱い。

全身を焦がす炎の中で最後に聞いたのはソーマの泣き声だった。




諸事情により次の投稿までの期間を空けます。

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