温かい…気持ちのいい感触を肌身に感じる…。
何だろうか、懐かしいようなこの温もりは。
もう随分と前のものだった気がする。
それでいてずっと求めていたような――。
そんな温もりに包まれる中、意識が覚醒し、徐々に現実へと戻されていく。
目に映るのは無骨な天井。
寝惚け眼だが、被されているのは布団か。
これもまた懐かしい匂いがする、どこで匂ったっけな。
「ん…ここ、何処だ…?」
視界の半分も開いてないせいで辺りを把握しづらい。
まだちょっと眠いな…。
目を擦って見渡すが知らない部屋だ。
大きなガラス窓がある、広くはない個室。
外は窓が暗視化されてて見えない。
一体何処だ?そもそもなんでこんな所で寝てるんだ。
まるで記憶が無い…。
「あっ」
「ん…?」
不意に扉が横にスライドし、見知らぬ黒髪の少女が出てきた。
髪は肩に掛かるか掛からないかというくらいのショートヘアで、温厚さを感じる大人しそうな雰囲気と顔立ち。
背丈は俺の肩くらいだろうか、小柄だというのに身体の凹凸は激しい。
特に胸辺りは豊富な双丘が――っとコホン、初対面でこれは失礼だな。
で、誰だ?
「目が覚めたんだ。良かった…」
「あ、あぁ。君が俺を助けてくれたのか?」
「うん。そうだよ」
黒髪の少女が肯定する。
実際はあまり思い出せないが状況から見て多分助けてもらったと見ていいだろう。
いや、少し思い出したぞ。
確か俺はティエレン チーツーでガンダムスローネ ツヴァイと交戦し、負けたんだ。
GNハンドガンで貫かれたからきっと死んだと思ってたが助けてくれたんだろう。
……どうやって?
戦場だぞ、タクラマカン砂漠で1000機近い
その中で俺を救出?この少女が?
怪しさが増した少女を見つめる。
病み上がりだが探ってみるか。
「助けてくれたことには感謝する…。ありがとう」
「ううん、当然のことだよ」
「そうか…。それで、俺のことどうやって助けたのか聞いていいかな?あの戦場の中で俺を助けるなんてハッキリ言って常人じゃない」
「あー…それは…」
言葉に詰まってるな。
この様子を見るに戦争の跡地から発見したとかでは無さそうだな。
そもそも相手はガンダムだったんだから俺が生きてたら生体反応を嗅ぎつけてトドメを刺す筈だ。
ミハエルなら必ず殺す。
ヨハンに止められた可能性もあるが…どうだろうな。
任務の時間を割くことになるならまだしもヨハンは人命に構う性格ではない。
俺が兵士であるなら尚更だ。
それに奴らは別々で行動していた。
現地の判断はミハエル個人にある。
俺一人を殺すくらいならすぐに済ませてヨハンに従うだろう。
ならやはり…戦場で俺を助けたことになるのか、この子は。
「……」
「答えられないのか?」
少女の沈黙が長い。
助けてもらって尋問って今思えば酷いがこちらも緊急事態だ。
ここが何処かわからない上に状況が分からない。
悪いが誰かに配慮する余裕はない。
「その…私は…」
「……」
少女の目が泳いでる。
うーん、ちょっと問い詰め過ぎたか?
と思ったが決心したのか俺と目を合わせる。
覚悟を決めた顔は結構凛々しい。
「正直に、話すね」
「あぁ」
真剣な表情からして嘘はつかないだろう。
少女は隅にある台所から珈琲を入れて俺に差し出し、床に座る。
どうでもいいが黒色濃いな、この珈琲。
実に俺好みだ。
口に含むとかなり美味しい。
「多分お兄さんも同じなんだと思うけど私はイノベイドなの」
「ぶはっ!?」
思わず珈琲を吹いた。
お邪魔している側だというのに卓の下に敷かれた丸い絨毯に染み込ませてしまった。
いやいやいや、そんなことよりも重要視すべきことがある。
イノベイドって言わなかったか!?
「イ、イノベイドって…」
「うん。多分思い浮かべてるやつだよ。『ヴェーダ』によって作り出された人口生命体…簡単に説明するとそんな感じかな」
「なっ…」
間違いない、俺の知ってるイノベイド。
聞き間違いでもなくすれ違いでもなく正真正銘俺の同胞。
黒髪のイノベイド…ってまさか。
「もしかして…同タイプ、だったりするのか…?」
「え?んー…」
恐る恐る聞くとイノベイドの少女は何やら考え込む。
そういえばさっきからこの少女に何かシンパシーを感じていた気がする。
今は確信になった。
そんな彼女の感情は俺にも少なからず共有される。
これは本気で悩んでる。
一体何を考えてるんだ?
「多分、そうかなー…」
暫く考え出してそれかよ。
人差し指を唇に当てる仕草は思わず目に捉えてしまう。
こ、これはソーマとはまた違った所謂女の子だ。
ってそんなことはどうでもいい。
同タイプであり、暫く悩んだにしては曖昧な答えだ。
何かおかしいな。
同胞にしては随分鈍いというかあまりイノベイドって感じがしない。
「お兄さん。何か失礼なこと考えてない?」
「間違いなく同タイプじゃねえか!」
思わず叫んじまったよ。
微弱な脳量子波でそこまで察することができたら同タイプだろ。
今のがブリングとかだとなんとなく何か考えてるなくらいしか分からないと思う。
勿論怒りや悲しみといった分かりやすい感情なら面と向かっているだけで感じ取ることができるだろうが。
「はぁ…とりあえず同タイプのイノベイドなのは分かった。もう既に色々聞いちゃったがいくつか聞いていいか?」
「うん。お兄さんが混乱してるのは分かってるし、答えられることは答えるよ」
ふむ、返答から察するに敵意はない。
寧ろ助けてくれた時点でそれは当たり前か。
さらに敵意は感じ取れない。
だからといって白とは断定できない。
イノベイドってことはリボンズの差し金かもしれない。
戦いに負けた俺を廃棄するために回収したのか?いや、それなら放置して、ミハイルが俺を殺すのを見逃すか。
どうやって回収したのかも気になるがリボンズが関わっているかどうかが気になる。
聞いてみるか。
「リボンズ・アルマークって名前知ってるか?」
「ううん」
知らないのか?
なんと、予想が外れた。
ていうかリボンズと接触してないのか。
まさかリボンズが把握してないイノベイド?
情報タイプでリボンズが裏から誘導した可能性は高いが…うーん、どれも断言出来ないのが痛い。
情報タイプならエージェントかもしれないな。
戦場で俺を回収できるとなると他は有り得ない。
「えっと…君は情報タイプなのか?それともマイスタータイプ?」
「うえぇ…タイプ?えーと…ごめん、分かんない」
「いや…今思い出した、自分がイノベイドだっていう認識はあるんだよな」
「う、うん…」
「ならマイスタータイプ…あぁ、いや、イノベイドだと自覚させられた場合があるかぁ」
くそ、どうも纏まらない。
情報タイプで今回の救出をする際、イノベイドだと自覚してから回収した線が濃いかもしれない。
……それならリボンズの存在を知ってる必要があるか?
いや、『救出する』という一点にかけて指示を飛ばせば本能で俺を回収することに専念するか。
なんだかイノベイドの自覚に対してあやふやなのも少し不調なのかもしれない。
と、悩むのも馬鹿らしくなってきた。
もう核心に触れてしまおう。
これを聞けば大分正解に近付ける筈だ。
「そういえばさ、どうやって俺を助けたか聞いていいかな?」
「あ、それなら答えられるよ。ガンダムで助けたんだ」
「そっかー。ガンダムかぁ――」
……は?
今聞き間違いじゃなければガンダムって言わなかったか。
ガンダム?ガンダムってあのガンダムか?
機動戦士ガンダム、この世界ではGNドライヴを詰んだ
もしかしなくてもとんでもないことが発覚してしまった。
「ちょ、ちょっといいか?ガンダムに乗って俺を助けた?」
「うん」
「ガ、ガンダムってソレスタルビーイングの
「私のは個人で作った機体だから知ってる人は少ないよ。ソレスタルビーイング、だっけ?直接的にはあんまり関係してないかなぁ」
「はぁ!?」
待て待て、遂に混乱してきたぞ。
ガンダムを作った?
ソレスタルビーイングは関係してない?
新たなトリニティか?
いや、今いる場所は彼らの潜伏場所とは酷似してない。
じゃあ誰だ。
こいつ、何者だ…!?
「お前――っ!」
「あー…ちょっと一気に話し過ぎちゃった?混乱しちゃってるね…。どうしようかなぁ」
随分とおっとりした軽い口調で俺の思考を読んできやがる。
「まずは自己紹介するね。私はレナ・デスペア。お兄さんを殺そうとしてたガンダムと戦って、お兄さんを助けたガンダムのパイロットだよ」