息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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協力者の存在

時間がない。

今頃三国家群が擬似GNドライヴを手に入れた頃だろう。

まだGNドライヴが南極にある間に深雪…じゃなくてレナのいう『会わせたい人物』とやらに会うなどやるべき事は済ませておく。

だが、急がなければならない。

 

擬似GNドライヴ搭載機、ジンクスが登場する前に一つ悲劇が起こるのを俺は知っている。

その際死んでしまう人物…俺はその人を救いたい。

レナにも既にそれを伝えた。

もちろん彼女は承諾し、スケジュールを立ててくれた。

悲劇には間に合う。

 

「お兄ちゃん。もうすぐ着くよ」

「わかった」

 

飛行艇の運転席から教えてくれるレナ。

眼下を見下ろすと豪邸が構えていた。

誰の豪邸なのかは事前に聞いて知っている。

レナが到着を通信で伝えると降下許可も出た。

降下し、飛行艇から降りると案内人が来るので彼の指示に従う。

 

「こちらへ」

 

導かれるがままに豪邸へと踏み込むと目が凝らす程の豪勢な作りと高い天井、凄まじく広い玄関が俺達を迎えた。

そして、沢山の従者を従えた男女が1組。

扉から登場し、こっちにやってくる。

チャイナ服に身を包んだ兄妹だ。

 

「始めしまして。私は当主の王紅龍(ワン・ホンロン)と申します。こちらは妹の――」

王留美(ワン・リューミン)です。お見知り置きを」

 

現れたのは(ワン)家の兄弟。

ただ…兄の紅龍(ホンロン)が当主とか言った気がする。

聞き間違いではない。

どういうことだ?確か紅龍(ホンロン)は当主としての器に欠けていることから留美(リューミン)が当主になったはず。

まあ今は尋ねづらいし後で聞くとしよう。

 

「貴方がレイ・デスペア様ですね」

「あ、あぁ…」

「我々は妹君のレナ・デスペア様を支援を行うと共に何かと依頼を任せております。日頃から彼女には助けてもらっています。そのことに関して兄君の貴方に無断で彼女に戦わせていたことを謝罪すると同時に感謝をしています。本当に申し訳ありません」

「い、いや…こちらこそ深雪…じゃなくてレナが死にそうなのを救ってくれたみたいで、感謝してもしきれない。ありがとう」

「いえ…私が当主になったのもレナ・デスペア様のおかげですから…」

「え?」

 

そうなのか。

つまり紅龍(ホンロン)が当主になった改変はレナの影響?

ふと本人の方を振り返ると会釈はされたが何があったのかは理解出来てなさそうだ。

笑顔は最高にキュートだが自分のしたことの重大さに気付いていないのかよ…なんか抜けててそこも可愛いけどさ。

 

「えっと…レナのおかげで当主になれたってのはなんで?」

 

一応聞いておく。

 

「恥ずかしながら元々私は行動力がなく、当主には向いていないと周囲から言われていました…。しかし、事故の中の彼女に出会い、初めて自分で行動し、他人を救い…それから関わるようになった彼女に感化されて当主としての器を身につけました」

「そうだったのか…」

「私のせいで妹の留美(リューミン)に不本意な形で当主を任せることもなくなり、本当に感謝しています…」

「だってさ」

「そんな…私は何も…」

 

頭を下げる紅龍(ホンロン)

留美(リューミン)も微笑み、俺もレナに会釈するとレナは恥ずかしそうに紅潮しながらも嬉しそうに笑っていた。

そうか…こんな幸せな改変もあるんだな。

レナに先を越されたみたいだが、俺もこういうのを求めてるのかもしれない。

 

挨拶を済ませたので面会室へと行き、紅龍(ホンロン)が淹れたお茶を留美(リューミン)が用意してくれ、兄妹同士向かい合うように座った。

長居する気はないが話し合わなければならないことはある。

要点は2つ。

一つはこれからも繋がりを持つため、俺達がやろうとしていることを伝えなればいけない。

だが、その前に――。

 

「事前に聞いた。レナが違う世界から来た…ということは知ってるんだよな?」

「はい。まだ混乱していた彼女の言葉を整理し、我々も理解しました。同時に秘匿し、当時の彼女をサポートしました」

「そうか。改めて感謝する。だが、どうして秘匿してくれた?俺達はかなり異質な存在であることも理解しているだろ」

「それに関しては我々で保護すると私や留美(リューミン)の説得により、先代も判断してくれました」

 

ほう。

まあ無欲で行動力のない紅龍(ホンロン)が必死に頼んできたら驚くだろうな。

留美(リューミン)をチラ見すると当時の思い出に耽るように頷いていた。

きっと留美(リューミン)にとっても良い思い出で嬉しかった瞬間なのだろう。

 

「ちなみにどこまで知ってる?」

「彼女が当時抱えていた情報端末HAROからも情報を入手していますので…」

「じゃあほぼ全て知ってるわけか…。それで今の関係なら好都合だ」

「何かありまして?」

「あぁ。俺達のこれからについてだ。だが、それを話すにはまずは俺達がどういう存在か、知ってもらおうとしたが……その必要はないみたいだな」

「はい。私達には気兼ねなくなんなりと申し付けください」

「正直助かる」

 

紅龍(ホンロン)と握手を交わす。

想定以上に頼りになる存在だった。

これには驚いたな。

レナを見遣るとほら、会っておいて良かったでしょ?と得意げに微笑んでいる。

可愛いなお前。分かったよ、俺の負けだ。

しかし、わざわざここまで来た甲斐はあった。

(ワン)家兄妹の支援関係、それも紅龍(ホンロン)が当主で安全だという点を加えて素晴らしい。

金銭面も全く問題がなくなった。

 

「それでこれからのことなんだが――」

 

俺は紅龍(ホンロン)留美(リューミン)に全て話した。

前の世界ではこの世界の出来事が物語となって鑑賞できること。

これはレナが作品を見ていなかったので彼らは知らない事実だった。

他人に鑑賞されるなんて気持ちの悪いと2人は感じたらしくあまりいい顔をしなかったが当然だろう。

俺も他人を楽しませるために苛酷な試練を乗り越えたくないし、自分の人生や生きる世界を見世物にはされたくない。

 

話は逸れたがこれから起きることを本筋の話ではあるが全て把握していることも2人に話した。

7年先までと伝えた時には驚愕を隠せないようで、特に留美(リューミン)は息を呑んでいた。

だが、邪魔にはならないよう必死に押し殺していて、そのおかげで話はスムーズに進んだ。

急いでいるし助かる。

紅龍(ホンロン)も驚きはするものの黙って最後まで聞いていた。

 

「なるほど…。正直衝撃を受ける内容でしたが、貴方々の理念にひとまず私個人は賛同します」

(わたくし)も賛同しますわ。世界がよりよく変わるならそれに越した事はありませんもの」

「良かったね…!お兄ちゃん」

「あぁ」

 

王留美(ワン・リューミン)の台詞を聞き逃しはしなかった。

あれほどまでに狂気的に世界の変革を求めていた彼女だが、歪めていた原因がなくなったことによりしっかり変わっている。

とにかく世界を変えたいという思考は持ってないようだ。

レナを褒めてやらないとな。

 

「よく頑張ったな、レナ」

「え?なんのこと…?」

 

撫でてやるがレナは不思議そうに首を傾げる。

あぁ…このまま無限に撫で続けたい。

ぐっと耐えて、話を進めよう。

何度も言うが時間がない。

それを伝えて飛行艇のある屋上まで戻ってきた。

今度は(ワン)兄妹も一緒に、だ。

 

「共感してくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」

「えぇ、何かお力になれることがあれば申し付けください」

「そういえばソレスタルビーイングには…」

「妹君のことも、貴方のことも、貴方々のこれからの行動のことも秘匿します。我々が直接賛同し、支援するのは貴方々だけです」

「そうか。……ありがとう」

 

再度握手を交わす。

確かに(ワン)家はイオリアには賛同してもソレスタルビーイングと共にあるわけではない。

だが、俺達と彼らは直接繋がっている。

とても頼もしい後ろ盾だ。

 

「もう行ってしまうのね…。もう少しゆっくりしていらっしても良かったですのに…」

「ごめんね、留美(リューミン)。まだやることがあるから」

 

俺達の後ろでは妹同士感傷に浸っていた。

レナと留美(リューミン)は仲が良く、その関係は友達に近い。

せっかく来たのに早々に去ってしまうのが寂しいようだ。

 

「またすぐ会えるのでして?」

「うん。また会いに行くよ。だから、今日は…」

「分かりましたわ。その代わりお気を付けて。無理はよくなくてよ?レナ」

「うん!ありがとう、留美(リューミン)。またね」

「えぇ、また」

 

手を取り合い、別れを済ませた二人。

今度は手を振り合い、会釈して離れた。

留美(リューミン)との別れの挨拶を済ませたレナは俺の元に戻ってくる。

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

「あぁ。もういいのか?」

「うん。急がないと…でしょ?早く行こっ」

「わかってる。紅龍(ホンロン)、それじゃあまたな」

「えぇ。お待ちしております」

 

繋がりは完璧だ。

また連絡したり、あっちはエージェントでもある。

必要によっては会いに来たりしてくれるだろう。

ただソレスタルビーイングの支援もあって頻繁には無理だというだけ。

とにかく要件を済ませたので俺とレナは飛行艇に乗って(ワン)家を後にした。

 

「レナ。このまま次の目的地に向かおう」

「了解。目的地をリニアトレイン公社別荘に設定するね」

 

目的地を変更するとそこまでのルートが演算され表示される。

次に向かうのはリニアトレイン公社の会長別荘。

リニアトレイン公社とはラグナ・ハーヴェイが経営する会社だ。

社長は勿論ラグナ・ハーヴェイ、奴は擬似GNドライヴやGN粒子に関係する武装などを開発した者。

だが、目的は彼ではない。

彼を取材しようと訪れたが空振りし、その結果とんでもない危険な人物と出会ってしまうジャーナリストの女性だ。

 

危険な人物とは傭兵のアリー・アル・サーシェス。

誰もが知ってるクソ・オブ・クソ野郎だ。

あいつに近付くのは危険だが、特に関わりなく公衆の場なら大丈夫のはず。

だが、今回はリニアトレイン公社会長別荘から出てくるあいつを見る前に彼女に声を掛けて誘い出さなければならない。

俺達がどれだけ興味を唆る誘い文句を吐いても別荘から奴の車が出てくれば彼女の視線と興味はそちらに向いてしまう。

だからこそ一刻も早く出会う必要があるのだ。

絹江・クロスロードに。




主人公ちょっとシスコンかも…?

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