息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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途中からソーマ視点です。


失われた約束

そもそもの話。

俺は『ヴェーダ』の居場所を知っている。

ならばアレハンドロとリボンズが掌握するのを妨害すればいいのではないか。

もちろん俺もその考えには至った。

 

だが、問題点が2つある。

一つは『ヴェーダ』が月にあるということ。

月に行くには当然宇宙(そら)へ上がる必要がある。

遠出するならまだしも宇宙へ行くのは訳が違う。

つまりは時間が掛かるということだ。

簡単には向かえない。

 

もう一つはそもそも俺達には人手が足りない。

絹江の救出を無視すればリボンズ妨害までの時間は充分あっただろう。

しかし、絹江を見殺しにするなど以ての外。

誰かを犠牲にして止められるならずっと前からやってる。

元超兵機関に居た子供達は居れども彼らはまだ幼い。

人を殺すなんて出来る訳がない。

レナが人殺しを教えるなんて有り得ない。

 

ならレオにやらせるのは?ジンクスの偵察に行ってもらったので無理だ。

ジンクスを振り切るのはデルでは不可能、レオの出撃は必須事項だった。

ではデルは?彼女は人を殺せない。

よって、リボンズを止める術はない。

 

やはりまずはこの人手不足をどうにかしなくてはならない。

その為に次に助けようと思ってる奴らの()()とスカウトは重要だ。

だが、それより前にレナがとある構築済みシステムを紅龍(ホンロン)へと渡した。

(ワン)家はソレスタルビーイングの支援を行っている。

 

経由してソレスタルビーイングに渡してくれるだろう。

『ヴェーダ』掌握を免れない今、俺達が出来ることはそれくらいしかない。

もちろんシステムとは『ヴェーダ』を用いないバックアップシステムだ。

これでわざわざ構築せずとも対策ができる。

ちなみにレナのバックアップシステムは普段俺達が使っているシステムだな。

 

紅龍(ホンロン)、ついでに俺達のこともチラつかせる程度でトレミーチームに教えておいてくれ」

『それは……何故?』

「アイリス社軍需工場防衛の時、既に俺のプルトーネは世界に晒されている。俺の知る限り、全貌は分からずとも三国家群の合同軍事演習でサハクエルの存在も……ソレスタルビーイングは知っている筈だ」

『……確かに』

「だから、(ワン)家の隠し玉って形で紹介しておいてくれ。……まあスメラギ・李・ノリエガにはバレバレの嘘だろうがな」

『お任せを。伝えておきます』

「あぁ。それと――」

 

追加で紅龍(ホンロン)に連絡を取っている。

伝えたかった要件は俺達の存在と、もう一つ。

 

「刹那・F・セイエイにトリニティへの助けは要らないと伝えておけ」

『分かりました。ではこれにて』

 

伝達を終えて、通信が切れる。

さてと……一仕事終えたレオを一応『ヴェーダ』に向かわせたし、俺とレナも行動に移るとしよう。

珈琲を飲み干し、スローネを撃退し、人革連 広州方面軍駐屯基地を守り切ったジンクス部隊の映像を見遣る。

俺の視線は自然と後退するガンダムに追撃を是が非でも行おうとしている機体を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国連軍。

一つに纏まった三国家群に擬似太陽炉搭載型MSが配備され、元人革連にもGN-X――ジンクスが10機配備された。

ジンクスのパイロットはもちろん人革連のエリート部隊『頂武』のメンバーから選ばれ、優れた10人のパイロットが選出された。

その中の1人、他のメンバーがセルゲイ・スミルノフに選出されたにも関わらず彼女だけは必然的にジンクスのパイロットへと組み込まれた。

超兵、ソーマ・ピーリスは与えられた自身のジンクスに乗り込み、思考の海へと身を投げ出していた。

 

「あぁ……」

 

ジンクスを与えられてからソーマはその性能に驚愕し、歓喜した。

超兵の、自らの能力についてくる機体。

初めての感覚に喜びを感じるのも無理はない。

超兵の反応速度はそれ程までに優れていた。

 

だが、その喜びさえも一瞬の出来事。

あの憎きガンダムを、あの醜い機体を追い詰めたが奴らはあろう事か背を見せて逃げ始めた。

瞬間、戦いの中で喜びを感じていたソーマが抱いたのは激しい怒り。

 

――あんなにも簡単に私の大事な人を殺しておいて、死ぬ覚悟はないのか。

 

そんな感情がソーマの中で荒れ狂っていた。

若いソーマは感情のままにガンダムを追う。

だが、セルゲイが動かすジンクスが制止してきた。

超兵という兵器として生まれ、育てられたソーマは上司の命令に背くことはない。

しかし、あの時のソーマは本来ならば有り得ない行動に出た。

彼女のジンクスの肩部を掴むジンクスの腕を、セルゲイを跳ね除けたのだ。

 

『邪魔をッ!するなッ!!』

『なに…?』

 

初めて反抗的な態度を取ったソーマに驚愕するセルゲイ。

ソーマは自身のやってしまった失態を理解することすらできず、それどころか命令違反を犯した。

 

『ガンダムッ!!待て!逃がしはしない!そんな事は許されない…!絶対に…!』

 

セルゲイの制止すら振り切り、戦闘区域から離脱しようとする3機の新型ガンダムを追う。

GNロングバレルビームライフルを構え、照準を合わせて発砲した。

超兵の能力を最大限活用し、正確な射撃。

追う形での射撃は新型のガンダムに多少なりともダメージを与え、しつこく深追いするソーマは射撃が狙撃になるのも構わず追い続けた。

 

『殺す!!殺してやるっ!!』

 

激しく荒れる感情に従い、吼えるソーマ。

彼女の瞳が捉えるのはガンダムのみ。

視界は目の前の敵しか映っておらず、特にあの――緋色の機体を必ず撃ち落とそうと照準は殆どが緋色に釘付けだった。

いつか中佐が言っていた――あの緋色の機体のパイロットは若く、激情しやすいと。

戦いの上で分かるものがある、いつか『あの人』とそんな話を聞いたことがあった。

 

中佐はそんな彼と緋色の戦いを見て分析したのだろう。

あの時ソーマを止めたのも最終的にはセルゲイだったのだから。

歳の近いシイナやリンユーの制止を振り切ったが結局はセルゲイに止められた。

あの時は、『あの人』を失ったショックでまともに操縦すらできなかった。

だから、無抵抗のままセルゲイに連れて行かれたのだった。

 

そんなセルゲイの言ったことが本当ならば。

しつこく追えば、優先的に狙われれば緋色がこちらに乗って交戦して来るかもしれない。

もしそうなれば四肢を斬り裂いて、お得意の武装という武装を破壊し、蹂躙して絶望させてやろう。

ガンダムというアドバンテージを失った今、同じ舞台に立った今、負けはパイロットの技量の差を意味する。

だから、緋色のパイロットのプライドをズタボロにし、奴の大事な仲間を虐殺し、自身と同じ絶望を味合わせる。

そう決め込み、さらに深追いしようとするソーマだったが……。

 

『いい加減にしろ!!少尉…!』

『中佐!?離してください…!ガンダムが!緋色が…っ!デスペア中尉の仇が目の前に!!』

『落ち着け、少尉!眼下の基地を見ろ。勝利の美酒というものを――』

『知らない!私はただ…デスペア中尉の仇を!』

『ピーリス少尉。いい加減にしなさい』

『……ミン中尉』

 

立ち塞がるセルゲイのジンクス。

肩を掴み、優しい声で首を横に振るミン。

ジンクスで駆け付ける仲間であり友の2人。

ソーマはそこでやっと我を取り戻した。

そして、自身が命令違反を犯したという酷い現実を顔を青ざめて受け止めた。

 

『わた、しは……っ』

『少尉…』

 

超兵としてあるまじき醜態。

軍人としてやってはいけない失敗。

だが、それでもソーマの瞳は乱れる表情とは別に、新型のガンダムの逃げた方向を見つめていた。

 

「私は……なんてことを……」

 

命令違反を犯した。

その事に関して自身を責める気持ちが収まらない。

しかし、ソーマが苦悩しているのは命令違反のことではなかった。

命令違反よりも、新型のガンダムを取り逃したことに、追撃を妨害した中佐や仲間へ憤りを感じる自分がいた。

 

そんなことは許されない。

あってはならないのに。

でも、あと少し。

ガンダムを追い詰めていた。

あと少し、止められさえしなければ新型のガンダムを墜すことができた。

ジンクスと超兵の能力があればあの程度の敵ならば蹂躙し、絶望を与え、最高の状態で殺すことが可能だった。

だというのに―――。

 

「くっ…!私は、またそんな事を…!!」

 

ジンクスのコクピットの中にいるソーマは自身への怒りに任せてコクピットにか細い腕を振るう。

小さな拳が虚しく音を立てた。

身体強化が施されていようとその程度ではメインコンピューターへの影響はない。

その事がソーマに自身の無力さを伝えているようだった。

 

「私がこんな感情を抱いていいはずがない…。私は超兵。任務をこなすことが、全て…………」

 

『ソーマ。1番大切なのは生きて帰ってくることだ。忘れるなよ』

『いいから、約束だ』

『いい子だ』

 

言葉の途中でガンダム鹵獲作戦出撃前の出来事がフラッシュバックする。

あの時にレイと約束したことがあった。

任務をこなすだけじゃない。

生きて帰ること。

それが1番なのだと。

小指を交えて彼と約束したのだ。

ソーマにとってあれはソーマ・ピーリスとして生きてきた中で1番嬉しかった思い出だった。

 

「生きて……帰る……こ、と」

 

任務をこなすことと生きて帰ること。

生きて、帰ってきて、それでなんだというのだ。

帰ったところで『あの人』はいないのだ。

自身の小さな手で自らの頭に触れる。

もうこの白髪が乱されることはない。

撫でてくれる人はいない。

無意識のうちにコクピットの液晶に雫が落ちた。

頬を何か冷たいものが伝うのを感じた。

 

「ああ……ああああっ!うああっ、ああああああああああーーーーーーっ!!」

 

これから出撃だというのに。

ずっと前からコクピットに引きこもり、彼女は泣いた。

拭っても拭っても止まらぬ涙にソーマ自身も驚き、どうしようもできず、ただコクピットを濡らした。

潤む視界には様々な思い出がフラッシュバックする。

 

1度彼と船に乗ったことがある。

隣で彼はユニオンの変わったフラッグを見て興奮していた。

真っ黒な彼の珈琲を口に含み、とても苦い経験をした。

隣には呆れるように笑う彼が居た。

パイロットスーツを改良し、自然と痛みから守ってくれたのは彼だった。

そして、いつの時も優しく頭に触れるあの温かくて大きな手。

あの温もりを記憶の中で感じているとそれを断ち切るようにセルゲイからの通信が入った。

 

『各機に伝える。これより頂武ジンクス部隊、ソレスタルビーイングの施設襲撃作戦を実行する。――ジンクス、起動っ!』

 

「……了解」

 

現実へと戻されたソーマは指示に従い、ジンクスを起こす。

赤い四つ目が輝いた。

隣を見遣るとなんとなく視線を感じたのか、シイナが通信を繋いでくる。

 

『なになに?どうしたの、ソーマ』

「いや……なんでもない」

 

聞こえてきたのは彼の声ではなかった。

もう隣に彼はいない。

既に知っていることだというのに再認識するだけで事実がソーマの胸に空いた穴を再び抉った。

 

「う、ぐっ……!」

 

心臓のある方の胸を抑える。

酷く息苦しい。

パイロットスーツは快適な作りにされている筈なのに。

 

『頂武ジンクス部隊、出撃…!』

『了解!』

「りょ、了解…!」

 

少し出遅れてソーマのジンクスも出撃する。

これから行われるのはソレスタルビーイングの施設への襲撃作戦。

新型のガンダムの潜伏場所がソレスタルビーイングを裏切ったという内通者からの情報が判明したのだ。

だが、そんなことはソーマにとってどうでもいい。

重要なのはまたしてもガンダムと戦う機会を得たということだ。

 

そして、今度は敵の基地への攻撃。

つまりは壊滅が目的となる。

今度こそ、ガンダムをこの手で倒すことができるのだ。

新型のガンダム――緋色の機体を。

 

「今度こそ。今度こそ、逃がさない」

 

ジンクスを最大加速させ、陣形を保ちながらソーマは呟く。

レバーを持つ手には力が込められていた。

 

「ガンダムは……私が蹂躙する」

 

戦意を剥き出しにするソーマ。

数十分後、トリニティは国連軍の襲撃を受けた。




人革連軍に所属していたレイ・デスペアは男性隊員として軍務をこなしていたので三人称は彼にしました。
もちろん本当は中性。
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