ナオヤの周りのキャラでは唯一2ndでも活躍する予定のオリキャラです。
てかナオヤより出番ある予定。
ちょっと番外短編みたいになってますが、一応本編です。
ちなみにまた三人称。
「カタギリ。 アイリス社軍需工場に現れた新型のガンダムについてどう思う?」
「唐突だね。出撃する機会がなくて暇になったのかい?」
「ふっ、否定はできんな」
ユニオンのトップガン、グラハム・エーカー。
その隣でMSWADの技術顧問ビリー・カタギリは苦笑いする。
ソレスタルビーイングの裏切り者から三国家群へと擬似太陽炉搭載型30機が贈られ、ユニオンに配備されたのは10機。
しかし、GN-Xの内1機はグラハムの要望によってフラッグに太陽炉を付ける為に、折角提供された機体から太陽炉を外すことになった。
なんでもグラハムの戦死してしまった部下――ハワード・メイスンの墓前にフラッグでガンダムを倒すと誓ったとのことだ。
ビリーはまたしても無茶振りを要求してくる友に呆れつつ、彼の決意を素直に尊敬してそれに応えた。
今はグラハムのGN-Xを解体し、太陽炉をフラッグへと移しているところだった。
勿論突貫作業でだ。
だが、グラハムという男は我慢弱い。
長年の付き合いでビリーはそれを知っているからこそ、苦笑いしながら彼の問いに答える。
「君の言いたいことは分かるよ。アイリス社の軍需工場での新型ガンダム襲来…エイフマン教授を襲ったあの機体を退けたのは最新型だった」
「最新型、か。機体の性能自体は違って見えた」
「というと?」
「あの機体は旧型を使いまわしているのさ。映像に映っていた直前の粒子ビーム…新型を退けた機体が放ったものではないと私は考えている」
「映像?軍需工場から撮影されたものかい?」
「あぁ」
グラハムが頷き、ビリーにデータを渡す。
ビリーは預かると端末にデータを移し、流れる映像を見た。
液晶に映るのは軍需工場を守った最新型と合同軍事演習の時の新型との対決。
3機と1機のガンダムが衝突する前、最新型が新型の死角から粒子ビームを放って新型の厄介な武装を破壊し――ているように見える。
だが、グラハムに指摘されてよく目を凝らして集中して見ると、映像の端過ぎて見づらいが確かに粒子ビームは最新型の隣を通過し、さらに後方から現れていた。
「グラハム…これは…」
「続きを見ろ」
真剣に液晶を睨むグラハムの短い言葉にビリーは息を呑んで再び視線を画面へと戻す。
新型の三色の3機への奇襲に成功した黒の最新型はそのまま3機の乱戦へ移行。
しかし、あれ程正確な射撃能力を持っておきながら距離を取る気配はなく、寧ろ接近戦に持ち込もうとしているとグラハムは分析した。
さらに彼は続ける。
「カタギリ、最新型…という言葉を否定したのはこの接近戦に理由がある。最新型と言うにはこの機体の装備は貧相だ、目立った新兵器を披露していない。もちろん全貌を掴めていないと言われればそれまでだが、その後の苦しい展開を覆す兵器を用いてないことから、合同軍事演習の時の新型よりは性能が下だと私は見ている」
「凄いね…。どれも頷ける。パイロットの腕が極端に良くない限り、この機体が出し惜しみをする必要はない。僕からすれば合同軍事演習の新型のほうが新装備を積んでるような気がするよ」
「あぁ。つまり、あの黒の機体は旧式の可能性が高い。となるとソレスタルビーイングには武力介入で姿を現している機体だけでなく、他にも機体を有している可能性もある…と見るがカタギリはどうだ?」
「有り得るね。ガンダムといえど
「一体何機ガンダムがいるのか分からんな」
「そうだね。こうなった以上何機出てきてもおかしくないよ。まったく、恐ろしい話だね」
「ふっ、出来るのなら存在する限りの全機口説かしてもらいたいなっ!」
「はは…、それが実現しないことを祈るよ」
さすがのビリーも物怖じけないグラハムに恐れを抱く。
まさに怖いもの知らずだ。
まだ見ぬガンダムの可能性。
2人はそれだけでなく、プルトーネとスローネの激突から内部分裂がソレスタルビーイングに起きていることも推測した。
国連軍に機体を提供してきた裏切り者といい、ソレスタルビーイングは内部的に崩壊しつつあるのかもしれない、と。
ソレスタルビーイングを攻めるには今が好機と見ていた。
擬似太陽炉搭載型
チームトリニティとトレミーチーム両方同時攻撃を行おうとしていた。
人革連、頂武ジンクス部隊は地上のチームトリニティ。
そして、AEUとユニオンのジンクス部隊は宇宙のトレミーチームを担当することになった。
作戦に搭載される
その筈だったが、
それによっては作戦に参加する機体の数も減るのだ。
そんなことをつゆ知らずナオヤは彼を取り囲む2人の女性に問う。
五月蝿いピンク色の髪と同じく育ちのいい金髪ロールの女性だ。
「そういえばネルシェンはどこに行ったんだ?」
いつもは傍に居る黒髪ロングのクールな女性、見渡すがその姿は見えない。
ナオヤのそんな疑問に彼と楽しく、しかし競い合うように談笑していた2人の女性はここには居ない女に意識を向けることにジェラシーを感じながらも、それを隠しつつピンク色の髪の女性――マインが返答した。
「あの女――じゃなくてあの方はお偉い様の会議に呼ばれたとかで席を外しましたわ」
「会議?なんでネルシェンがそんなのに呼ばれるんだ?」
「さぁ…、そんなことよりナオヤ様!今はティータイムを満喫しましょう!」
「あ、あぁ…。でもちょっと気になる――」
「さぁどうぞ、ナオヤ様!私しともっと話しましょう!」
「ずるいですわ、私しも!」
「ははは、まあ順番にな」
抵抗虚しく、無類の女性好きであるナオヤは身体の至る所をマイン達に押し付けられると思考など放り捨てた。
頬を緩ませ、デレデレと為されるがままである。
一方、彼が一瞬は気にしたネルシェンは薄暗い会議室の中で上層部の重鎮達の鋭い視線を一心に浴びている。
当の本人は苛つき気味で、良く手入れのされた艶のある美しく長い黒髪は怒りを象徴するように小さく揺れ続けている。
「要件があるなら早くしろ。私も暇ではない」
「貴様、誰に向かってその態度を…っ!」
「静粛に」
「くっ…!」
社会の上下関係すら無視して暴言を吐くネルシェンに年老いた男が怒るが、この場での最高責任者の一言で悔しそうに再び腰を下ろす。
制止した男性も静かに怒りを感じているが、話を進める為に大型モニターの前で待機する
頷き、応じる技術顧問の男性は端末を操作してモニターに1機の
擬似太陽炉搭載型の最新型だ。
誰も見た事のないその機体に一同がおぉ…と感嘆する中、ネルシェンは黙って鋭い視線をモニターの
「なんだこれは」
「擬似太陽炉搭載型
ネルシェンの問いに答えるように技術顧問が説明する。
しかし、ネルシェンは疑問点を抱いた。
元々GN-XはAEU…否、それどころか三国家群が開発したものではなく、ソレスタルビーイングの裏切り者を名乗る者が提供してきた機体。
提供されたのはつい最近の話で、AEU軍がこうも早期にカスタム機を開発できるとは思っていなかった。
寧ろ不可能だ。
擬似太陽炉搭載型
「頭部に大型アンテナを取り付け、通信機能が強化されています。さらに脚部にGNバーニアを増設するなどして機動性を向上。特に特徴としてはパイロットの特性を極限にまで引き出すシステムも搭載され――」
「説明はいい。単刀直入に聞く、何処でこの機体を手に入れた?」
「そ、それは…」
技術顧問が目を泳がす。
やはり、AEUが開発したものではないのだろう。
理由は分からないがソレスタルビーイングの裏切り者とやらがまたしても寄越してきた機体だとネルシェンは睨んだ。
納得できる持論が成立したので、円卓に座る老人達が騒ぎ出す前にもういい、と自ら話を切る。
それでも彼女の態度に憤りを感じた者が席を立ち、激昴しようとするが代表の老男性がそれより早く口を開いた。
「ネルシェン・グッドマン准尉。君にこの機体を授けたい」
「断る」
『なっ…!?』
即答するネルシェンに場の一同が動揺する。
こればかりは四方八方から罵声を浴びた。
「貴様…!わざわざ貴官の為に特注した機体だぞ!?」
「ふざけるのもいい加減にしたまえ!!」
「これまでは目を瞑ってきたが今回は許されんぞ!」
「もう我慢ならん!准尉はクビにすべきだ!」
「……まったく」
予想通りの有様に代表の老男性も嘆息する。
口々に罵声を言われ続けたネルシェンは各国家代表などの輩を睨み、凍らされるような鋭い視線で黙らせた後、冷たく言い放つ。
「退職させたければ好きにしろ。……私が抜けてもいいのならな」
「ぐっ…っ!」
ネルシェンの一言に誰もが苦虫を噛み潰したような表情をする。
ネルシェン・グッドマン准尉。
その実体はAEU軍本来のエースパイロットだった。
どんな機体を操縦しても常に最高値を導き出し、
常人には成しえないまさに天才の領域、入隊して数ヶ月でユニオンのトップガンをも思わす才能を見せつけた。
彼女の実力に比例するように戦果を上げた分階級は准尉にまで上昇した。
しかし、准尉になってからネルシェン・グッドマンは人が変わった。
丁度その時入隊してきたナオヤ・ヒンダレスと共に行動するようになり、彼女は自身の上げた戦果は全て彼の物に偽装し、軍から与えられた報酬も階級も実力と恩で周囲や軍の上層部を黙らせ、全て合法的にナオヤ・ヒンダレスへと捧げていた。
おかげでナオヤ・ヒンダレス二等兵は大尉までに登り詰め、ネルシェンは准尉であり続け、自身は目立たぬまま戦果を拡大してきた。
実際にAEUの勝利にネルシェン・グッドマンは大きく影響し、影のエースパイロットである彼女に退職されると相当な痛手となる。
故に代表の老男性が慌てて撤回した。
「退職は受け付けん、准尉。どうか考え直して欲しい」
「返答は変わらん。その機体を受け取るわけにはいかない。失礼する」
形だけ敬礼し、勝手に話を切り上げて退室するネルシェン。
背に激しい怒声の荒らしが降り掛かるが興味なく、ネルシェンはナオヤへの元へと足早へ向かった。
そんな彼女と交代するように会議室に入室する女性が一人。
カティ・マネキン大佐、彼女は事の一端を部屋の外から聞くように指示されていた。
「話は聞いたな。マネキン大佐。貴官にグッドマン准尉を説得してもらいたい」
「はっ。お任せを」
新たな命令に敬礼するマネキン。
だが、不安げな声も上がる。
「大丈夫なのか…?アレは頑固だぞ」
「…私に秘策があります」
苛つき気味に文句を垂らす男性にマネキンは自信ありげな笑みを浮かべた。
マインらとは出遅れ気味に軍寮のナオヤの一室へと戻ってきたネルシェン。
扉が開くと目を合わせたナオヤがネルシェンの顔を見るや表情を明るくした。
双方の腕に絡みついている害虫は忌々しそうに歪めたが。
「ネルシェン!帰ってきたのか!」
「あぁ。待たせたな」
「ちっ…!」
笑顔と微笑を交わすナオヤとネルシェン。
彼の隣でマインが舌打ちするがネルシェンは視界にも止めずに入室しようとする。
しかし、折角の待望の再会を邪魔するように声を掛けてきた者がいた。
そちらは視界の端くらいには映っている。
「ネルシェン・グッドマン准尉、少しいいか」
「……カティ・マネキン大佐。何か用でしょうか」
「ふっ、そう嫌な顔をするな。ヒンダレス大尉、彼女を少し借りても良いか?」
「え?あ、あぁ…」
「すまない。すぐに返す」
半ば強引にネルシェンを連れ出すマネキン。
ネルシェンは隠すことなく苛つきと不機嫌を表に出しながら愛しの男の扉が閉まっていくのを虚しく眺める。
「場所を移そう。聞かれてはまずい話だ。…特に彼にはな」
「……いいだろう」
薄い扉の向こうには聞こえないよう配慮して小声で伝えてきたマネキンにネルシェンは頷き、彼女について行く。
暫く移動した誰もいないミーティングルームにて落ち着いた。
「……新型の
「さすが准尉。しかし、口が悪いな。上司への礼儀を教えてやろうか?」
「御託は良い。要件を済ませろ」
「ほう…、まあいい。率直に聞く。貴官が新型の提供を断ったのはヒンダレス大尉への遠慮だな?」
「……」
「その沈黙は肯定と取ろう」
押し黙るネルシェンに結論をつけたマネキンの言う通り、的中していた。
ナオヤは大尉までに登りつめたのを自身の実力だと自負している。
そんな彼を差し置いて彼よりも高性能な機体に乗ることはネルシェンにはできない。
機体の性能差をつけてしまったらこれまでのカモフラージュが全て無駄になる。
目を伏せるネルシェンにマネキンは口角を吊り上げた。
「しかし、准尉。これは貴官にとってまたとないチャンスだぞ」
「なに…?」
何を言い出すのだと思わずマネキンを見る。
見事に餌に掛かったネルシェンにマネキンは交渉成立を確信した。
「貴官があの機体に乗れば、これまで以上に戦果を上げることができるだろう。あのカスタム機は操作もかなり難しい機体となっているが、貴官の実力ならば問題ない筈だ。あとは今まで通り……いや、今まで以上にカモフラージュを完璧にすればいい。そうすればヒンダレス大尉はさらに成り上がるぞ?」
「……っ!?だ、だが…ナオヤと機体で差をつけてしまうのは露骨すぎる…。さすがに誤魔化しが効かない、ナオヤを落胆させてしてしまうことも…」
「なに。試験機として先にチューンされたとでも嘘をついて誤魔化せばいい。すぐに大尉にも試験パイロットをしてもらうと付け足せ」
マネキンの頭のキレの良さ、頭が回るだけでなくずる賢さにネルシェンも驚愕を隠せず目を見開く。
さらにマネキンは続けた。
「どうせならば貴官の功績は全て大尉のものとなるように私が上に掛け合っても良い。それを条件に貴官が機体に乗ると言えば向こうも口出しは出来んだろう。……最も、大尉本人を誤魔化すのは貴官次第だがな」
「な、なんという…馬鹿な…っ」
マネキンの話は両方に美味い。
ネルシェンはナオヤを喜ばせたいだけが為に自身の階級すら彼に捧げている。
勿論、アドヴァンスドジンクスを使えばネルシェンが上げる戦果は格段に増えるだろう。
マネキンの話通りに事が進めばナオヤはさらに昇格することは間違いない。
ネルシェンにとって今まで以上に効率的になり、後は彼の心を奪うだけだ。
そこに関してはあの2人に負ける気はしない。
同時に、ネルシェンがアドヴァンスドジンクスに乗って戦果を上げれば上げるほどAEUの上層部も国連軍としても万々歳だ。
彼らが欲しいのは彼女の戦果のみ。
ならば後はどうでもいいだろう。
それを理解しつつもネルシェンにとっては後者には興味が無い。
別に利用にされる分には構わないので、前者がある時点で彼女は大満足だ。
上手く口に乗せられたが、マネキンも協力することに関して素直に感謝し、尊敬する気持ちを込めてネルシェンは丁寧に敬礼した。
「ありがとうございます。カスタム機、提供の件…大佐の交渉次第で前向きに受けさせて頂く」
「良かろう。時間を取ってすまなかった」
「いや…いえ、構いません」
「そうか。では私はこれにて失礼する」
「はっ!」
説得に成功し、背を向けるマネキン。
その頬は僅かに吊り上げっていた。
「ふっ、勝ったな」
暫くしてマネキンの交渉に折れたAEU側は条件を飲むと共にアドヴァンスドジンクスをネルシェンへと授けた。
正式導入されたアドヴァンスドジンクス。
偶然にも迷い込んで格納庫にあるそれを見つけたパトリック・コーラサワーが機体を見上げて笑う。
「こいつはラッキー!ここにあるってことは俺様の専用機ってことだろ!なんたって俺様はAEUのエースパイロット、パトリック・コーラサ――」
「いや、私の機体だ」
「うへっ…?」
コーラサワーの言葉を遮り、パイロットスーツに身を包んだネルシェンがヘルメットを抱えて現れる。
思わず振り返ったコーラサワーだが、目に映ったのはなびく長い黒髪だけ。
顔を見ることなくただ困惑するが、ネルシェンはコーラサワーに意識を止めることすらなく、アドヴァンスドジンクスを見上げた。
「例え口車に乗せられようとも、ナオヤの為に貢献できるのならば…」
「お、おいおい…あんたの機体ってどういうことだ?大体あんた誰よ」
「……ネルシェン・グッドマン准尉だ」
「准尉って、俺より階級下じゃ…ん?あんた案外綺麗な顔してるな!」
「……」
「無視かよ!」
初めて顔を見たコーラサワーが褒めるがネルシェンには心に決めた相手がいるだけに全く揺れないし、なんなら要らない記憶として一瞬で消した。
そして、再び見上げる。
後から何やら声を掛けてくるが、無視して試運転の為にコクピットに乗り込んだ。
アーサー・グッドマンの姪です。
ここで少し報告を。
最近投稿していなかったのは最終話まで書き溜めしようとしていたのですが、思っていた尺のほぼ倍くらいになって長引くと思ったのでとりあえず5話分溜めたところで更新再開しました。
なので5日間ほど連続更新になります。