未だに信じられいくらい嬉しい。
偵察に向かわせたデルやトレミーチームと繋がっている
遂に国連軍がソレスタルビーイングへ襲撃を仕掛けたようだな。
頂武ジンクス部隊は地上のトリニティ本拠を襲い、迎え撃ったスローネと交戦を開始。
だが、俺が知ってるよりトレミーに向かったジンクスの機体数が少ない気がする。
確か本来は19機だったと思うが…。
「
『間違いありません』
「……そうか。わかった」
真実を受け止めて、通信を切る。
18機か…。
減っている機体数は1、4機減っていたらナオヤ達だと思うんだが違うみたいだな。
ナオヤの階級的にジンクス部隊に選ばれるのは間違いないだろう。
あの囲いの女共はどうか知らないが、ひっつき虫具合からしてた多分一緒。
もしくはジンクスのパイロットにナオヤだけが選ばれ、
頭が痛い。
今更だが、なんであいつらのことなんか考えてるんだ。
話を戻そう。なんだっけか。
機体の数か。
まあ何にせよ1機だけってのは嫌な予感がするな。
一見無視していいような些細な改変な気がするが、あまりにことが小さすぎて気になる。
寧ろこんなにも事が小さいのは珍しいだろ。
AEUとユニオンのジンクスは今回が初戦闘の筈だから既に撃墜されてる線はない。
……分からないこと考えても仕方ないな。
「そうそう。今はそれより必要な準備を済ませなきゃね」
「だから、思考読むなっての。まったく…」
新装備の開発だとかで忙しそうに格納庫を駆けずり回っていた深雪が一旦切り上げて俺の隣にやってくる。
必要な準備というのは俺たちの次の行動の為に自身を鍛えることだ。
実は結構重要なことで、場合によっては肉弾戦になるかもしれない。
相手は凄腕の傭兵だし、深雪もスナイパーライフルを用意して狙撃練習をしていた。
恐ろしいことに俺の妹は
俺の知らない十年間ですっかり知らない子に育ってしまった、お兄ちゃん悲しい。
「お兄ちゃんも少しくらいは射撃の腕、上げないとね」
「あ、あぁ。そのうちな」
「むっ…それはいつまで経ってもしないやつ!決めた、今日から私がお兄ちゃんに特訓付ける!」
「今日から!?」
次の行動についての話し合いの時に話を聞いた深雪が俺の射撃精度を見てくれたが、これまた見事に絶句。
その日にちょっとだけ教えてもらったがこれがまた人が変わったようなスパルタに……。
出来ればもう経験したくない。
「せ、せめて明日からにしてくれないか?」
「ダメ!そうやってすぐ先延ばしにするとこほんとに変わってない!今日から、これは譲らないから!」
「そう言わずに頼むよ深雪ー」
「だから、レナだってば。まったく…」
みゆ――じゃなくてレナが呆れたように溜息をつく。
その隙に逃げようとしたが、腕をがっしりとホールドされてしまった。
今世紀最大のピンチだ。
「逃がさないよ?」
「ひっ…」
見たことないくらい素敵な笑顔で顔を覗き込んできたレナに、もがきながらも施設内の射撃場まで強制連行された。
無骨な何の塗装もされていない黒い壁に床、どう考えても切れかけてる蛍光灯、光の差し込まない完全密閉な薄暗い空間に射撃の的だけが佇んでいる。
もはやトラウマとなってる射撃台に立ち、並べれられてる銃をセレクトする。
「早く」
「わ、分かってる」
後に立つレナが急かしてくる、怖い。
適当に
銃口は的を捉えている。
とりあえず一発銃弾を放った。
「ぐっ!」
「……」
いつも通りの反動という名の衝撃。
確かに的を狙った筈が全く関係ないところに飛んでいく。
一連を見て、レナが口を開いた。
「反動くらい抑え込んで!じゃないといつまで経っても当たらないよ」
「わ、分かってるよ…」
もう一発放つ。
今度は隣の的に当たった。
「い、一応的には当たった!」
「身体の軸は固定して」
「はい…」
冷静な指摘を浴びて俺の興奮も鎮火する。
さらにもう一発、次は大きく上に逸れた。
「……もう反動抑えられないならそれを考慮して最初から的の下を狙ったら?」
「すみません…」
明らかに呆れてるレナに俺は兄の威厳などボロ雑巾のように捨てられて謝罪した。
国連軍のうちAEUとユニオンのGN-X部隊は
しかし、ナオヤとその取り巻きの女性達は地上に残った。
彼らに――否、ネルシェン・グッドマン准尉に与えられた任務ゆえに。
「なぁ、なんで俺達はジンクス降りなきゃなんねえんだよ。ネルシェン」
「……我々には必要ない」
「はぁ?ちょっと!私達の機体を勝手に他人にあげて、その態度は何よ!?」
「どうどう……落ち着けよ、マイン。なっ?」
「……っ、しかし……っ」
マインの言う通り、ネルシェンはナオヤ達の是非を問わずに彼らのジンクスを宇宙の部隊に渡してしまった。
ナオヤも思うところはあるが当のネルシェンが受け答えをしてはくれない。
こうなると彼女には何を言っても無駄だと理解してるが上に苦笑いしていた。
だが、マインは納得出来ないのか苛付きを露わにして舌打ちを打つ。
同時に格納庫に存在感を放つモビルアーマーを爪を噛みながら睨みつけるように見下ろす。
「で?私し達の機体の代わりが太陽炉も積んでないあのモビルアーマーだとでも言うの!?」
「あぁ。我々に必要なのはアグリッサが
「じゃあ、あんたがあのモビルアーマーに乗りなさいよ!自分だけ専用機になんて乗って……っ!」
「あ、それは俺も気になった。なんでネルシェンは専用機渡されたんだ?しかもあれ…新型じゃないか」
「…………」
ナオヤに問われ、ようやくネルシェンが反応して振り返る。
その表情は申し訳なさからか少し曇らせたが、内心葛藤しつつ真摯に答える。
「ナオヤの言う通り、確かにあれは擬似太陽炉搭載型
「……こう言うのもなんだが、本来俺が渡される機体じゃないのか?なんたって俺はAEU唯一のイノベイター、エースパイロットなんだからさ!」
「ナオヤの言っていることは最もだ。だが、まだあの機体は不安定かつ初機動なこともあって私に割り振られた。私が動かして問題がなければナオヤのものとなるだろう」
「そうなのか?」
「あぁ」
頷くネルシェンに、性格のせいか彼女は疑えないナオヤも渋々と引き下がる。
ただ納得は出来ないようで顔を顰めていた。
マインも同じなのか、いつものように噛み付く。
「納得できないわ!だったら尚更そんな高性能な機体、貴女如きがカスタム機に乗るなんて危険ですわ!」
「そ、そうだよな!確かに…」
マインの言い分にナオヤも同意して何度も相槌を打ち、その様子を見てネルシェンはマインを睨む。
彼女はネルシェンの本当の腕を知っているからだ。
視線に気付いたマインは一瞬口角を上げ、舌をベーっと出してきた。
―――この女っ。
ネルシェンに対する不信感を増させてナオヤとの距離を引き剥がそうとしている。
何処までも汚らしい女だ。
マインの狙いに気づいたネルシェンは怒りを内に秘め、こちらも口角を上げて返す。
「まだ分からないのか…?」
「はぁ?」
ネルシェンが小馬鹿にするように尋ねるが、マインはその態度が気に入らず、怒りを剥き出しにして乗り出す。
「ナオヤ程の人材を死なせるわけにはいかないだろう」
「それはつまり……っ!?」
ネルシェンなら何らかの不慮で死んでしまっても良い。
必要なのは機体のデータのみ。
その意図が読み取れる。
無論、有り得ない。
そもそもネルシェンの専用機となったアドヴァンスドジンクスはGN-Xのカスタム機、操縦はかなり難しい機体となっている。
それ相応の腕の持ち主じゃないと試運転だとしても任されない筈だ。
カスタム機とは知らず、言葉を無くすほどナオヤともう1人の金髪の女性、名をシャーロットという彼女は絶句する。
ただ1人、最初こそ絶句したもののマインだけはハッと真相に辿り着いた。
「ネルシェンお前……」
「だから、ナオヤ。お前が私を守ってくれ。いいだろう?」
「あ、あぁ…。もちろん……だけど…っ」
困惑するナオヤだが、ネルシェンに優しく微笑みかけられ胸に手を触れられると頬を紅潮させ逆らえなくなった。
ネルシェンは徐々に身を寄せて、肌の密着は増えていく。
彼女の小さな胸もナオヤの身体に押し付けられてしまう程に。
ナオヤも腰の上辺りに当たる柔らかい感触に思考を奪われた。
「ちっ…!」
「あ、あの…でも本当に、たった4人で新型のガンダムを
ネルシェンに敗北して舌打ちを鳴らすマインの隣で不安げな声を上げるシャーロット。
ジンクス部隊を降り、ジンクスすらネルシェン以外は宇宙の部隊に渡してしまった今の状況で与えられた任務は酷だった。
頂武ジンクス部隊とは別に行動し、彼らが追い詰めた合同軍事演習時の新型ガンダムを全機鹵獲する。
そんな過酷な任務に4人で挑もうとしている現状にシャーロットの金髪ロールが怯えるように震える。
それに対し、ネルシェンはナオヤから離れて一切震えぬ声で答える。
「安心しろ、作戦上は問題ない。アグリッサがあれば必ず鹵獲できる」
「……どこにそんな保証があるのよ」
「カティ・マネキン大佐の練った策だ。信用しろ」
反抗的なマインを諭すように目を瞑り、返すネルシェン。
だが、マインはさらに視線を鋭くした。
「本当なんでしょうね」
「さぁな」
なっ――と表情を歪めるマインに、ネルシェンは不敵に笑う。
2人の間で喧騒が繰り広げられるのには一秒も満たず。
ナオヤはその2人の間にどちらの味方にもなりきれず落ち着かせようとするだけだった。
レイの知らない流れが始まろうとしている。