『私達はソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶するために創設された武装組織です』
巨大なモニターに映し出されているイオリア・シュヘンベルグ。
世界に変革をもたらすイオリアの宣言が人々を困惑させる。
人々は勿論、ユニオンやAEU、人革連もソレスタルビーイングの宣戦布告を聞いて空いた口が塞がらなくなっている頃だろう。
グラハムなんかは矛盾してるとかいって笑ってた気がする。
元々イオリアの計画を知っていたイノベイター側の俺からすると――というか転生者で話を全部分かってる俺は生でイオリアを見て感激しただけだった。
イオリアほんとにいたもん!ってどこぞのメイちゃんみたいに元の世界のオタク共に知らせてやりたい。
ちなみにパトリック・コーラサワーの見世物は見てて凄い楽しかった。
「遂に始まったね」
「そのようだ」
「ねえ私っていつになったら戦えるの?」
「……」
前世では画面の中で見たイノベイター達の本拠にある長椅子。
そこに腰掛ける俺と他のイノベイター達。
本来なら2ndで出てくるリヴァイヴやヒリングだ。
皆してAEUのイナクトがガンダムに蹂躙される映像やイオリアの宣言を視聴していた。
「まだ僕らには関係ないさ。人類の上位種として、来るべき時まで僕らは観測するのみ」
「やっぱりそうなのね。ほんとつまんない」
ティエリアと同タイプのリジェネ・レジェッタ。
リジェネの言葉を聞いて落胆したのがリボンズと同タイプのヒリング・ケアだ。
ヒリングが好戦的なのは相変わらずらしい。
アニューの時とか見てるとちょっと残酷な性格持ちだよな。
まあそんな日頃の行いのせいかアレルヤとハレルヤの餌食になる最期を迎えるのだが、口が裂けても本人には言えないな。
「さて、ソレスタルビーイングはこれからどう動くのか見させてもらおう。イオリアの計画に彼らは相応しいのか…ね」
アニューと同タイプのリヴァイヴが楽しみとでも言うように笑っている。
まあ俺達はまだ高みの見物だからな。
ソレスタルビーイングがどのようにイオリアの計画を遂行していくのか、まだそれを見定める段階だ。
最終決定はリボンズだけどな。
と、まあアニメでみたイノベイター達。
まさか生で見れるとは思ってなかった。
オタクとしては最高の体験だと思う。俺がイノベイターじゃなければ。
今更だがリジェネといいヒリングといいリヴァイヴといい女っぽいやつが多い。
まあどいつもこいつもマイスタータイプだから性別はないんだけどさ。
そんな中一人男っぽいイノベイターがいる。
その名もブリング・スタビティ。
赤髪のイケメンだ。
俺もマイスタータイプで性別はないけど前世が男だけに話し掛けやすいのがブリングだ。
ただ――。
「なあブリング。ソレスタルビーイングの武力介入で世界は変わると思うか?」
「……」
はい、無視。
ブリングは基本返答をくれない。
知ってたけどこれが中々辛い。
そんな俺の問いにはリヴァイヴが答えてくれた。
「変わるだろうね。彼らが望む形かどうかはまだ分からないけどね」
「ガンダムを投入した武力介入…やっぱ変革は免れないってことか」
とりあえず適当に返した。
まあブリングに投げた問いの答えも分かってたからな。
世界は変わる。
ソレスタルビーイングの武力介入は歪んだ形で紛争を根絶しようとする世界を作ることになる。
そして、紛争根絶だのなんだのを建前に虐殺行為などに訴えるアロウズを背後から操るのが俺達となる。
その時には部外者でいたいな。
「ところで僕とは初めてましてだったね。レイ・デスペア。ソレスタルビーイングが動き出して挨拶をするタイミングを見失っていたよ」
「え?あ、あぁ…そういえば、そうだな」
モニターから目線を外していきなり話を変えてきたリヴァイヴ。
言われて気付いた。
リヴァイヴとはまだ挨拶を済ませてなかったんだった。
原作知識で既に知ってたからもはや済ませたものだと思ってた。
「リヴァイヴ・リバイバル。よろしく」
「レイ・デスペアだ。よろしくな」
リヴァイヴと握手を交わす。
これで大体のイノベイターとは会ったことになるな。
情報タイプは世間に紛れ込んでたり、アニューもまだイノベイターを自覚してないから少なくとも2ndの時期になるまでは顔を合わせることはないだろう。
リヴァイヴとの挨拶を済ませるとヒリングが顔を覗かせてきた。
いきなり距離が近い。女の子みたいに美形だから少し驚いた。
「レイはさっきAEUのイナクトを真剣に見てたけどさぁ、もしかしてあんなしょっぼい
「しょぼいってお前な…」
ヒリングといえばさっき俺がパトリック・コーラサワーの模擬戦を楽しく見ていた時にパトリックを盛大に指を指して馬鹿にしていた。
まったく気分が台無しだったな。
ヒリング達は
あんなでかいロボットが機敏に動くのは生で見るのとアニメーションで見るのとはまったく違う。
密かに喜んで視聴してたんだけどヒリングに見つかったらしい。
ヒリングは暇そうにしてたからな。適当に目を泳がせていたら楽しんでる俺を捉えたんだろう。
「まあいいじゃないか。趣味は人それぞれだ」
「あはは!何言ってるのリヴァイヴ?イナクトってどう見てもフラッグのパクリじゃない。それにあのパトリックって操縦者がいちいちウザイのよね」
「ヒリング。思ったことを口にしていいわけじゃない。レイはまだ生まれて時間が経っていない。
「あーそれでイナクトなんかに感動してるの?それならしょうがないか。いいねぇ、これから見るのも全て新しい!最高ね」
「まあ、な」
当然のように繰り広げられる会話に圧倒されてしまった。
初々しい感じはリヴァイヴが誤魔化してくれたな。
ま、画面の中でならフラッグを見たことがあるが黙っておこう。
リヴァイヴの言ってる事は半分正しい。
実物のフラッグなんて見たことないからな。
とにかく重要なのはまだ俺達の出番はないということだ。
1stの時期が過ぎるまではリジェネが言ったように観測者として外見できる。
わざわざ物語の中心になんて行かなくともこの世界を現実に堪能出来るわけだ。
そうそう、これなら嬉しいんだよな。
ファンとして最高のプレゼントだ。
できればずっと部外者がいい。
だが、それはそうとして1stの期間の間何をしようか。
勿論ソレスタルビーイングの動きやその戦い、物語の世界情勢などには目を見張るつもりだけど大体いつ何が起こるかは知ってしまっている。
それ以外の時間となるとかなり暇だ。
「出番が来るまで案外やることないのか…」
「なになに、やっぱりレイも早く戦いたいの?いえ、戦いたいのよね?そうよね。ね?ね?」
まるで人が戦闘好きみたいな言い方やめてくれませんかね。
そもそも
あ、そこら辺はマイスタータイプのイノベイターの能力が働くのか?
実際乗ってみないと分からないな。
あとヒリングはいちいち顔が近い。
ときめくからやめろ。
「ヒリング…少しは落ち着きを持ったらどうだい?」
「リヴァイヴには分からないのよ。私はとにかく早く戦いたいの!」
リヴァイヴの言葉には聞く耳持たず。
ヒリングの戦いたい病は暫く続きそうだ。
やっぱりこの二人はセット感があるな。
最終戦もリボンズの加勢に来た二人だし気が合うのかもしれない。
さて、これからどうするかだがまあアニメでは見れなかった舞台の裏側を見ていればいいだろう。
他には文明は前世と変わらないんだしアニメを見たりゲームしたりもできる筈。
金は……働くかリボンズに貰うかだな。
画面に描かれる部分だけでない、転生したからこそもっと深く見れるものがある筈だ。
そう考えると良い案に思えてきた。
と、そこで端末の振動音が鳴る。
「ん?誰かのが鳴ってるわよ」
「私のじゃないな」
「僕のでもないよ」
「……俺も違う」
ヒリングを筆頭に誰もが首を振る。
じゃあ一体誰なんだ?
あ、俺か。
リボンズに会った日に受け取った端末。
俺は懐から取り出すと一通のメールが来ていた。
宛先はリボンズだ。
「なんかリボンズから連絡があるみたいだ」
「へぇ。リボンズからの連絡…何かあるのかしら?」
「興味深いね」
「大したことじゃないといいけどなー」
なんて言いながらメールを開く。
近未来的な小さなモニターが映る。
リボンズからのメールをクリックし、その文面をヒリングやリヴァイヴが覗いた。
えーと、なになに?
『レイ・デスペア。人類革新連盟軍への配属を命ず』
この一通が俺を戦場へと導いた。
監視者アレハンドロ・コーナーは監視者としての役目を放棄した。
自身の計画のため、ソレスタルビーイングを利用する。
彼らがイオリアの計画を遂行していると思っているものは全て彼の計画の一部。
故に世界に変革をもたらすための最初の武力介入もアレハンドロの掌の上だ。
そんな彼の側近であるリボンズはとあるイノベイターに連絡を取った後、アレハンドロの元へと戻ってくる。
「君が推奨してきた彼のことはどうなったかな?」
「断れないよう手配しておきました。指示通り、人革連への入隊手続きも済ませておきましたよ」
「さすがリボンズ。君はまさしく私の天使だ」
「勿体なきお言葉です…。元々は私の我儘でしたから」
忠実なリボンズが頭を下げる。
ワインを口に含むアレハンドロは上機嫌で
「塩基配列パターン0000。これが何を意味するのか、私も見せてもらおう」
「えぇ。一緒にご覧になりましょう。きっと彼はご期待に応えられるかと思います」
「はははは。君が言うなら間違いないだろう、リボンズ」
端末の画面に映るのは黒髪のイノベイター。
表示のバグか、それとも何かを意味するのか。
彼の塩基配列パターンをリボンズも目に焼き付ける。
『ヴェーダ』が生み出した一人のイノベイターを見極めるためにリボンズは自らの掌の上でほくそ笑むアレハンドロに彼を委ねてみることにした。
「レイ・デスペア。君がなにであれ、イノベイドである限り僕から逃れられないよ」
ワインを揺らし、静かに微笑むリボンズ。
その瞳は色彩に輝いていた。