息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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警戒する敵の影

宇宙(そら)でのトレミーチームと国連軍の戦い。

地上でのチームトリニティと頂武ジンクス部隊との戦い。

どちらも本来の結果と変わらず、落ち着いた。

トリニティの方は何も関与していないから当然だろうが、トレミーチームにはレナのバックアップシステムを渡した筈だった。

確かにスメラギ・李・ノリエガの手に届いたらしいが、どうやら――出撃前からシステムを変更しておけ――という俺の伝達を無視したらしい。

まったく頭が痛い。何のために事前に渡したと思ってるんだか。

 

しかし、まあ気持ちは分からなくもない。

紅龍(ホンロン)の話だとシステムの話を持ち込んだスメラギに対してティエリアが反発したらしい。

……『ヴェーダ』を信じたかったのだろう。

それを聞くと仕方ない。

ティエリアの反論にスメラギはすんなりと折れてしまったとのことだが、それも。

ティエリアだけではなく、トレミーチームも今まで『ヴェーダ』に助けられてきた。

ギリギリの局面まで万が一がないことを祈ったか。

とにかく俺達の手回しは無駄に終わった。

 

「……はぁ」

 

無意識に嘆息する。

望んでやってることだが忙しい。

随分と疲れも溜まっているようだ。

主にレナの訓練とか、レナの訓練とか、レナの訓練とか。

もう射撃場は見たくない。

 

……なんか思い出したら余計に疲労が押し寄せてきたな。

と、俺が自分の肩を揉み始めた時、レナ同様格納庫を駆けずり回っていたデルが切り上げて俺の隣にやって来た。

意図的にというわけではないようだ。

真っ直ぐきたらたまたま隣だったんだろう、俺も今は休憩してレナ達の開発作業を眺めてるからな。

 

「随分とお疲れなようだな…」

「そっちこそ」

「私はこれが仕事だ」

 

デルも自身の肩を交互に揉み始め、2人して脱力する。

疲れ具合はお互い様だな。

 

「そういえば。お前は人革連に所属していたらしいな」

「なんだよ急に…あ、そうか。レオとデルも…」

「私達の配属は次世代開発技術研究所だがな」

 

次世代開発技術研究所。

人革連のティエレンに代わる、次期主力モビルスーツを開発するための組織。

組織は超兵機関から逃げ出した被検体E-57、アレルヤ・ハプティズムを追っていた。

その過程でガンダムラジエルを見つけ、追っていたのがティエレンチーツーのパイロット――レナード・ファインズとデルフィーヌ・べデリアだ。

 

藪から棒に話を切り出してきたデル。

それも不思議ではない。

俺達は細かい配属は違えど同じ軍出身者なのだから。

逆にこれまで話してこなかったのが不思議なくらいだ。

 

「あの時はコードネームではなく、本名で……デルフィーヌ・べデリアとして戦っていた。超兵とはいえ、幼いレナードを連れてね」

「まあコードネームはソレスタルビーイングと接触してから付けるものだからな。当然だろう。それよりもいいのか?本名俺に教えて」

「あっ…」

 

指摘されて初めて思い出したのか、デルは思わず口を抑える。

だが、俺が転生してきたこともこの世界を物語として見てきたことデルは知ってる。

そっちも思い出したんだろう、顔を紅潮させて睨みつけてきた。

 

「からかったな!」

「はは、すまんすまん」

「……まあいい」

 

おっ、笑って済ませたらほんとに許してもらえた。

まあ冗談に本気で怒るようなことはデルならないな。

充分大人になって――身体も――作業している皆の中から一つだけ鋭い視線を感じた。

今のはなしだ。

 

それにしてもこうした小休憩の中でレオやデルと話せるのはいいな。

ファンにとってはご褒美だ。

思い出話だろうとなんだろうと聞いていて高揚する。

そんな理由でデルから話を切らない限り、俺は長く会話を交わすようにしている。

すると、話は昔話から愛機の話になった。

もちろんデルフィーヌの愛機と言ったら――。

 

「ティエレンチーツー、だな」

「何故それを…っとそうか。生前の知識とやらだな」

「いや、それもあるが俺も乗ってたんだよ。チーツーに」

「なんだと…?」

 

デルが思わず身を起こして振り向く。

そう、俺とデルフィーヌ、レナードの共通点は同じ機体を操縦していたこともある。

国際テロネットワークによる全世界同時多発テロが収まった後、リボンズとアレハンドロの手回しで手に入れたティエレンチーツー。

俺専用に単座に改造され、塗装も黒一色になっていた。

折角だ。その話をデルにしてやろう。

いつもはこちらが楽しませてもらってばかりだからな。

お返しに…なるかはわからないがなることを祈るとしよう。

 

「そうそう、俺専用に改造されて単座になってさ」

「単座!?」

「それで黒一色に…」

「黒一色!?」

 

俺が話す度にデルが驚愕する。

うんうん、いい反応だ。

話し甲斐があるってものだ。

眉間に皺がよって顔を顰めてる気もするけど、勘違いだろう。

間違いなく好反応だ。

そして、予想通りデルは食い付いてきた。

 

「それで今そのティエレンチーツーはどこに…?」

「今?あ、そういやスローネ ツヴァイに破壊されたな」

「破かっ!?貴様…っ!!」

「うおっ!?何だ急に!」

「理由は自分の胸に手を当てて考えろ!!」

 

デルが俺を張ったおそうと襲い掛かってくる。

おかしいな、楽しく談笑のつもりだったんだが……。

それ以降はデルに追いかけ回される俺を見て作業中だった子が止めに介入すると、今度はその子が何故かデルの餌食になるという珍妙な絵が出来上がり、他のみんなは笑っていた。

俺は死ぬかと思ったので笑い事ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デルから逃げるようにミーティングルームに駆け込み、後からレナが合流する。

わざわざ作業を切り上げて来た理由は察しがついた。

 

「レオか」

「うん。苦戦してるみたい」

「苦戦だと…?」

 

月にある『ヴェーダ』へと向かわせたレオ。

元々レナの予備機だった機体の一つ、ガンダムアブルホールTYPE-Fブラックに乗って万が一のために戦闘できるようにしたが、第二世代とはいえ、ガンダムが苦戦するとなれば只事ではない。

ちなみにレナは第二世代ガンダムを全て再生済みとのことらしい。

それも御丁寧なことにTYPE-F仕様、つまりフェレシュテとも繋がっているということだ。

まだ連絡は取ってないが、その気になればフェレシュテとは連絡が取れるらしい。

それはそうと今はレオに何があったか、だ。

サハクエルの擬似太陽炉を積んだアブルホールがそう簡単に苦戦するとは思えない。

 

「映像はあるか?」

「ううん。あるにはあるけど戦闘に必死で何も映ってない」

「戦闘…?まさか『ヴェーダ』付近にMS(モビルスーツ)を配備してたのか。数は?」

「4機。全機、擬似太陽炉搭載型だって」

「くっ…!」

 

やはりそうか。

アブルホールTYPE-Fブラックも擬似太陽炉を積んだガンダム、それにたった4機で対抗するなんて擬似太陽炉搭載型しかない。

アレハンドロかリボンズ、またはそのどちらかは知らないが何かを警戒して擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)を配備しやがったか。

もしくは俺達を警戒してのことかもしれない。

プルトーネブラックはユニオンに晒したし、サハクエルもレナ曰くローブ姿で人革連にバレている可能性があるらしい。

ならば充分に後者も有り得る。

 

「レオは地上に戻ってきたのか?」

「ううん。まだ宇宙(そら)にいるみたい、粒子残量がまだあるからあと1回の戦闘はできるかもーだって」

「そうか…」

 

どうするか。

さっそくフェレシュテに助けを求めるか?

フォンが目覚めるのは本来トランザムが解放された時。

まだフォンが目覚めてないかもしれないが、もしもの可能性に欠けるか。

フォンでなくてもエコ・カローレでもレオと連携すればなんとかなるかもしれない。

とにかく情報が少ないから結論に辿り着けない。

まともに何も映ってないとの話なだけで、映像自体は撮れていると言っていた。

無駄かもしれないが俺も目を通すとしよう。

 

「レナ。映像を見せてくれ」

「え?でも…」

「機体の切れ端でもそれを手掛かりに機体を特定できるかもしれない。……俺ならば」

「そっか。分かった、流すね」

 

納得して了承したレナが大型モニターに映像を流す。

映るのは目まぐるしく回る視界、それを埋めるのはただの宇宙(ほしぞら)だった。

しかし、アブルホールが赤い粒子ビーム――間違いなく敵は擬似太陽炉搭載型である証拠――を避けた時、俺の目に捉えたものがある。

 

「レナ!ストップだ」

「了解」

 

兄妹に対する反応速度、さらに脳量子波の強い繋がりでコンマの差もなく丁度狙い通りに映像が止まる。

映像の中にはなにかの物体が浮かんでいたところで止まっていた。

 

「これは…何かの破片?」

MS(モビルスーツ)のな。ほら、見てみろ。破片に目を凝らせば……敵機の姿が反射して写って見える」

「……っ!ほんとだ!」

 

俺の言う通りに目を凝らすとレナも見つける。

ただ凄く薄い。

レナが拡大鮮明化しても全貌は掴めない。

だが、特徴は掴めた。

 

「これは……ジンクス?」

「いや、これは…」

 

確かに外見はジンクスに似ている。

だが、違う。

ところどころスローネの技術が活用されたあの機体は――。

 

「スローネ ヴァラヌス…」

 

その呟きに答えるようにスローネ ヴァラヌスの複眼は赤く揺らめいていた。


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