息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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スローネ救済

『今回、我々国連軍はガンダムに対抗出来うる新型モビルスーツを開発。この新型機で特別部隊を編成し、ガンダム掃討作戦を開始します。作戦名は―――【フォーリンエンジェルス】』

「…………」

 

国防長官が会見にて作戦を宣言する。

擬似太陽炉搭載型の存在も公表した。

ソレスタルビーイングが崩壊する原因となるこの作戦(フォーリンエンジェルス)

これが始まる前には『ヴェーダ』の方をなんとかしたかったが、無理だったか。

レオは尚、月付近のラグランジュ1に留まっている。

一応レナの伝手を辿ってフェレシュテの宇宙船(スペースシップ)をレオのブラックアブルホールへと向かわせ、補給を頼んでいる。

 

これで粒子残量の枯渇も対策が打てるだろう。

あとはフォンさえ起きてくれれば……。

と、思考する俺の元にレナがマグカップを手にやって来る。

マグカップには真っ黒な珈琲が注がれていた。

二つあるうちの片方のマグカップを俺に渡してくるので受け取る。

 

「サンキュ」

「どういたしまして。やっぱり護衛の機体(ヴァラヌス)がいるうちはレオ1人では苦しいね」

「あぁ。というか無理だろ。フォンの容態は?」

「シェリリン曰く、いい傾向ではあるみたいだけど…」

「いつ起きるかは分からない、か」

 

原作通りだが、安心はできない。

そのまま眠り続けるなんて充分有り得る。

フォンが起きてくれるなら『ヴェーダ』奪還は容易いだろう。

起きないようなら……最悪、俺が宇宙(そら)に上がる。

まあその前にやるべきことが一つだけあるが。

 

「とりあえず俺達は俺達で動こう。宇宙(そら)の方はフェレシュテと連携するしかない」

「そうだね。一応デルを向かわせる?」

「いや、太陽炉が足りない。それに()()()に不備があった時あいつがいないのは痛い」

「そっか」

 

格納庫の中に佇む機体を見上げながら、レナが頷くと共に携帯端末を閉じる。

中東のドウルでトリニティが国連軍の追撃を受けていた。

予定通り、それを合図に動き出す。

生身の武装もMS(モビルスーツ)に乗せたところだ。

すると丁度デルが通り掛かった。

作業の途中だからか、整った容姿は、特に顔は黒い汚れが付いていた。

 

「呼んだか?」

「噂をすれば…。こいつ、動かせるよな」

「勿論だ。GNコンデンサーに圧縮粒子をチャージしてある」

「でも戦闘時間は出来るだけ10分に抑えてね。それまでに――」

「分かってる。一方的に蹂躙してみせる」

 

レナの言葉を遮って、表情を強ばらせる。

最先端どころか未来の技術すら使った機体、活動時間はダッシュユニットのない状態より延長されているがそれでも時間制限はある。

10分――『奴』を相手にできるのはそれくらいの時間しか猶予はないだろう。

レナの計算ではそれ以降戦うことは出来ても圧倒することはできないとのこと。

粒子残量と俺の技量が原因だ。

だが、今はそれで充分。無いものねだりをするつもりはない。

やれることを、やるしかない。

そんな覚悟を持って粒子の光で輝くガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュを見上げる。

どうでもいいけど名前長い、ブラックが追加されたせいかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中東のドウルにての国連軍との交戦。

頂武ジンクス部隊に完全に圧されたトリニティは撤退し、身を隠していた。

粒子残量の少ない損傷も多いガンダムスローネと同じくトリニティも疲弊した。

特に損傷の酷いスローネ ドライの前でネーナは膝をつき、叫ぶ。

 

「うわああーーん!私のドライがぁっ!」

 

愛機を傷つけられたのがよほどショックだったのか、瞳は少し潤み、今にも泣きそうだった。

その隣で可愛い妹の悲しむ姿を見ながらミハエルがヨハンに苛つきげに問う。

 

「どうすんだよ?兄貴!」

「……」

 

本来の流れとは違い、彼らトリニティに王留美(ワン・リューミン)は近付かなかった。

故にヨハンには頼る宛はない。

ラグナとは連絡が取れず、完全に参っていた。

ドライだけでなく、他の機体も損傷しているのにはそういった理由もある。

 

「ん?」

「何だ?」

 

ふとMS(モビルスーツ)特有の接近音が聞こえ、ヨハンとミハエルが見上げる。

すると、スローネから見て正面からAEUのイナクトと思わしき赤い機体がトリニティを見下げていた。

反射的にヨハンとミハエルが警戒するが、イナクトに搭載されたライトが点滅し、彼らにメッセージを送り付けてくる。

 

「光通信…?」

「攻撃の意思はないだと?ネーナ、スローネで待機だ」

「ラージャ!」

 

ヨハンの指示に従い、ドライへと乗り込むネーナ。

ヨハンは銃を、ミハエルはナイフを懐から取り出し、イナクトのコクピットが開くのを息を呑んで待つ。

中から出てきたパイロットに警戒した。

 

「よう!世界を敵に回して難儀してるってのはあんたらか?」

「何者だ!」

 

赤いパイロットスーツに身を包み、尋ねてきた相手にヨハンも問いで返す。

イナクトのパイロットはそれに応じるようにメットを脱いだ。

 

「アリー・アル・サーシェス。ご覧の通り傭兵だ。スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれてなぁ」

「援軍って1機だけじゃねぇか」

「誰に頼まれた?ラグナか?」

 

サーシェスと名乗る傭兵の男。

濃い髭に荒れた髪、まさに戦場を駆け巡ってきたことを象徴する強面が特徴的だった。

サーシェスの言葉にミハエルを始めとしてヨハンも援軍と思い込んだ。

『スポンサー』とやらが誰かはわからない故に問うが、トリニティの位置を把握することは太陽炉を追跡できる『ヴェーダ』のみ。

 

故になぜ国連軍がトリニティの居場所を正確に知っていたのか、始めは不思議だったが、ラグナが裏切ったのであればあり得るとヨハンは考えている。

だが、トリニティの救出を傭兵に頼み込むなどトレミーチームでは考えにくく、やはり自ら行動出来ないラグナなのではないかという結論に落ち着いた。

――しかし、サーシェスから出た言葉は呆気なく、それでいて衝撃的なものだった。

 

「ラグナ?ああ、ラグナ・ハーヴェイの事か。(やっこ)さんは死んだよ」

「何?」

「………っ!?」

 

響く銃声。

1秒にも満たないその時間で時は止まった。

ミハエルは目を見開き、ヨハンは思考が加速し始めた。

そして、サーシェスの手には銃が、放たれた弾丸はしっかりとミハエルの心臓を貫いていた。

その現状をヨハンが理解した時、サーシェスから冷酷な呟きが放たれる。

 

「俺が殺した」

「ミハエル!」

『ミハ兄!』

「ご臨終だ」

 

ラグナを殺したという男。

それだけに留まらず、ミハエルすら殺したサーシェス。

状況を理解したヨハンは急速に頭に血が昇り、珍しくも激昴しながら銃口をサーシェスへと向ける。

 

「貴様っ!う!ぐっ!……くっ…ぐあっ!」

『ヨハン兄!』

 

しかし、構えるのが遅く、ヨハンの放った銃弾の軌道はサーシェスに簡単に読まれ、既に懐に飛び込んでいたサーシェスはそれを避けた。

そこからは流れるようにヨハンが倒され、銃を持ち替えようとした手は踏みつけられて苦痛の声を上げる。

ミハエルが殺され、ヨハンが淘汰される地獄にネーナが叫んだ。

 

「に、逃げろ、ネーナ!」

『でも!』

「行けぇー!!」

『はいっ!』

 

いつもは穏やかなヨハンが必死に叫ぶ姿を見て、ネーナはドライと共に飛翔する。

一連を眺めながらサーシェスはヨハンを解放する。

口角を歪めながら。

 

「美しい兄弟愛だ。早く機体に乗ったらどうだ?これじゃ戦い甲斐がない」

「くっ…」

「いい子だ」

 

情けか本当に愉しみか。

逃がされたヨハンは腕を抑えながらスローネ アインに乗り込む。

飛翔し、ドライと肩を並べた。

 

『ヨハン兄!ミハ兄が……ミハ兄がっ!」

『仇は討つ!』

 

たった3人の家族のうち、愛する弟を失ったヨハンは怒りを込めて出てくるであろうイナクトを睨む。

だが、森から飛び出たのはよく知る緋色の機体――ガンダムスローネ ツヴァイだった。

 

『何っ!?』

『ハッハァ~!』

 

驚愕するヨハンを嘲笑うかのようにサーシェスはツヴァイで接近してくる。

 

『馬鹿な!ツヴァイはミハエルのバイオメトリクスがなければ…っ。……書き換えたというのか!?ヴェーダを使って!!』

『馴れねぇとちと扱い辛ぇが、武装さえわかりゃ後は何とかなるってなぁ!!』

 

真相に辿り着き、驚愕に支配されるヨハン。

純粋にガンダムを操る興奮に駆られるサーシェス。

スローネ ツヴァイがGNバスターソードで斬り掛かってきた。

スローネ アインは振り下ろされるバスターソードをGNビームサーベルで防ぎ、競り合う二刀の間には火花が散る。

 

『何故だ!?何故私達を!』

 

困惑するヨハンは敵であるサーシェスに思わず問い掛けてしまう。

GNハンドガンとGNビームライフルによる粒子ビームの撃ち合いの中、サーシェスは口端を上げて答えた。

 

『生け贄なんだとよ!』

『そんな事が!!』

『同情するぜ!可哀想になぁ!!』

 

激しい粒子ビームと斬り合いの接近戦。

未だに信じることが出来ないヨハンをサーシェスは容赦なく攻め続ける。

 

『私達は、ガンダムマイスターだ!!』

 

突き飛ばしてツヴァイとの距離を取ったヨハンはGNランチャーによる狙撃で落とそうと信念と共に粒子ビームを放つが、サーシェスのツヴァイはそれを全て避け、寧ろ機動がパイロットの素質により通常より速く、GNランチャーの粒子ビームはただツヴァイを追うだけとなった。

 

『この世界を変える為にーーっ!!』

『ご託はぁ!!沢山なんだよォー!!』

 

粒子ビームが命中することはなく、ツヴァイの接近を許してしまい、バスターソードに備えてビームサーベルを構える。

だが、ツヴァイのバスターソードはビームライフルの突きを防ぎ、そのまま刀身の打ち消し縮められたビームサーベルの上を滑るようにバスターソードの刃は綺麗に一閃を描いた。

ツヴァイがアインの背後に流れた時にアインの片腕が墜ちる。

そして、アインに背を向けていたツヴァイが反転してGNハンドガンの銃口をアインに向けてしまった。

 

『ヨハン兄!』

『逝っちまいなぁ!!』

 

放たれる粒子ビーム。

連射されるビームは的確にアインの装甲を貫いていく。

限界を迎えそうになったアインは機体から紫電が走り、最後にツヴァイから放たれた粒子ビーム2発はアインの太陽炉へと目掛けていた。

死の数秒前に自身の運命、トリニティの存在意味、真実に辿り着いたヨハンは涙を流す。

 

『馬鹿な……、私達はマイスターになる為に生み出され……その為に…生きて……っ』

 

涙が頬を伝ったと同時、スローネ アインは太陽炉を粒子ビームによって貫かれる――――ことはなかった。

ツヴァイの放った粒子ビームをアインを守るように割って入った機影が断ち切った。

 

『なんだとっ!?』

『……っ?』

 

全身漆黒に染まる巨体のMS(モビルスーツ)の乱入にサーシェスは目を見開く。

ヨハンは潤む視界と霞む意識で力なく堕ちていくスローネ アインのコクピットでその機体を見上げた。

吹き荒れるGN粒子、粒子ビームをも真っ二つにした純白の刀身。

 

―――それは、まさしく『ガンダム』。

 

ヨハンも知っているガンダムが戦場の視線と空を支配していた。

機体名はガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ。

アヴァランチ・ダッシュ両ユニットを身にまとったブラックアストレアの姿が確かに存在していた。

 

『あれは…』

『ガンダム、アスト…レア…』

『ヨハン兄!』

 

呆気に取られたネーナだが、意識を完全に失い、重力に任されて堕ちていくアインを咄嗟に駆け付け拾う。

そのままドライを操り、アインと共に静かに着陸した。

 

そして、上空。

ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュを操縦するレイ・デスペアはコクピットの中で目の前のツヴァイを睨む。

 

『てめぇ…一体何者(なにもん)だ!?』

『……貴様を倒す、ガンダムマイスターだっ!!』

 

予想外の乱入に困惑するサーシェスに、レイは誇りを借りて名乗る。

瞬間、ブラックアストレアの太陽炉はさらに粒子を噴射した。

 

「ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ、レイ・デスペア!目標を蹂躙するっ!!」

『上等だ、来やがれガンダム……っ!』

 

双方の交えない叫びを合図に、2機のガンダムは衝突した。

GNバスターソードとGNソードはそれを象徴するかのように火花を散らす。




最後のレイ名乗りは通信切ってます。

・ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ

レナが再生したアストレアブラックをフェレシュテの協力でTYPE-F仕様とし、データを参考にレナがコピーしたアヴァランチ・ダッシュユニットをフォン・スパーク方式で無理矢理ブラックアストレアが纏った姿。
パイロットはレイ・デスペアで、レナが構成したバックアップシステムを借りて操縦する。

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