息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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攻撃は最大の防御

ヨハンが再起し、戦うことを決意した。

全ては(おの)が自由と捨て駒という運命から抜け出すため。

そして、弟妹(きょうだい)の解放のために。

実に兄らしい望みだ。

ヨハンが1人の人間として生きていくことに必要でもある。

 

だが、トリニティの更生は終わりじゃない。

先頭のヨハンをこちらに引き込んだのはあくまで前提の話。

問題はミハエルとネーナだ。

まあこの二人はおいおい人間性を変えていけばいい。

今のままではとてもじゃないが同じ志を持って戦えないが、あいつらの問題点は人間性で、それは戦闘中に特に際立つ。

比較的ではあるが戦闘後の方が更生しやすいというのが持論だ。

深雪は2人のことを知らないので知ってもらうという狙いもある。

 

さて、まずはヨハンを利害関係により味方につけたわけだが、次にやることは決まってない。

もちろん俺の中では既に確定してるけど深雪達にも伝えなければならない。

特に深雪は俺と志を共にし、あくまで俺の考案通りに動いてもらっているからな。

トリニティを一晩休息させた後、卓を囲んでさっそくミーティングを開始した。

 

「今ある擬似太陽炉は5つ…だが、ヨハン、お前はミハエルとネーナをどうする?戦わせるのか」

「は?そんなの決まってんだろ。戦うっての!なんたって俺達はガンダム――」

「ミハエル」

 

お前には聞いてない。と、いう前にヨハンが遮ってくれた。

ヨハンの指示には口答えできないのかミハエルは顔を顰めながら悪態をつく。

まあミハエルは今どうでもいい。

ミハエルとネーナを解放するという目標も持つヨハンが果たして本人達も巻き込むのか、こちら側からすればミハエル達も貴重な戦力だから欲しいがここでヨハンと決別してもしょうがない。

ヨハンの意思は尊重すべきだ。

最悪スローネさえあればいいからな。

 

「こっちとしてはどっちでもいいが…こいつらが納得することも考えてやれよ」

「……えぇ、分かっています。理解した上で私は2人も戦わせたい」

「ほう。何故だ?」

 

少し意外だった。

もっと私情を挟んでくるかと思ったが、やはり頭は冴えるか。

スローネに慣れているミハエルとネーナが各愛機に乗った方が手っ取り早い。

戦力のこともあってスローネ3機にはこれからも使わねければならない。

相手は擬似太陽炉搭載型MSを有する国連軍。

状況からしてヨハンは冷静に判断したのだろう。

ミハエルとネーナは戦闘に導入すべきだと。

 

「理由は察しがつくからいい。本当にいいのか?」

「言ってもスローネを降りないでしょう。…それに、兄としての在り方をもう一度考え直したい」

「……?」

 

どういう心変わりだ?

戦う意志が芽生えたのは分かるし、ミハエルとネーナを戦いに導入する理由も理解できる。

ただ何か兄として成長しようとしているように見えた。

ヨハンはまだ完全に回復してないのか、疲労の残る顔を上げる。

視線の先にはレナがいた。

そういえば昨日は暫くレナに面倒を見て貰っていたらしいがそこで何かしら心境の変化に繋がることが起きたのだろうか。

ま、いい方向に向かおうとしてるならなんでもいいか。

 

「ミハエル。ヨハンの一存で勝手に決めてしまったが、俺達と一緒に戦ってくれるか?」

「当たり前だろ!寧ろなんでガンダム降りなきゃいけねーんだよ」

「ミハエル…!」

「うぇ…?な、なんだよ。兄貴…」

 

早速ヨハンが注意する。

しかし、ミハエルはサーシェスの襲撃をほとんど覚えてなかったし、平常運転なのは仕方ないだろ。

恐らく言葉遣いを注意したいんだろうが、肝心のヨハンが言葉足らずな気がする。

まあこっちとしても無理に敬意払ってもらう程距離を置いた関係になるつもりはないので口を挟むか。

というかミハエルが敬意を払ってきたらちょっと気持ち悪い。

 

「ヨハン。別にいい、気にするな」

「し、しかし…」

「大丈夫だ」

「……」

 

それだけ言うとヨハンは黙る。

次にネーナに問い掛けた。

 

「ネーナ、お前もいいか?」

「ヨ、ヨハン兄…」

「お前の意思で決めるんだ。ネーナ」

「え…。う、うん。私は…」

 

ネーナが言葉に詰まる。

ここに着いた時は殆ど知らないミハエルのテンションに釣られて騒いでいたが、ネーナはすべてを奪われる直前だった。

感じることはあったはずだ。

少なくとも失うことの恐怖、これまで自尊心が高かったと気付いただろう。

そんなネーナの答えは。

 

「……ヨハン兄とミハ兄が戦うならあたしも戦いたい。2人を見送ってもう帰ってこないなんて嫌だもん…」

「そうか…」

「それに。あたしも…」

 

言い掛けて止まる。

辛くなったのか、表情を暗くし、俯く。

ヨハンやネーナが考えていたほど事態は簡単ではなかった。

ラグナは裏切ったのではなく、処分された。

あのラグナでさえ捨て駒に過ぎなかった。

それ以下のネーナ達は意図的に組み込まれたマイスターとして予め定めた段階まで使命をこなすだけ。

以降は不要となって捨てられる。

 

ヨハン達は知らない。

こいつらにとっての親玉は、トリニティなど道具としてか見てなかった。

そのことを送り込まれたサーシェスによって嫌でも理解させられる。

『マイスター』というだけの存在を。

完全に支配された捨て駒という運命を。

ネーナもヨハンが打ちのめされ、絶望する姿を見て察しぐらいはついたはず。

だから、ネーナも運命を変えたいと思ったのだろう。

故に戦うと言った。

 

あとは単純にヨハンに頼り切りになるのは申し訳なかったのか、じっとしてられないのか、変わったとはいえヨハンに不安を感じたのか、真意までは流石に分からん。

とにかく各々の意思は聞いた。

理想に挑む態度の改善はそのうちすることになるだろうが。

 

「さて、意思は聞いたしさっそく次に取る具体的な行動について話す――」

 

言葉を遮るようにぐぅ~と誰かの腹から音が鳴る。

全員の視線がミハエルに釘付けになった。

 

「は、腹減ったぁ…」

 

注目されて恥ずかしくなったのか、誤魔化すように腹を擦るミハエル。

苦笑いするネーナもそれに続くように項垂れた。

 

「あたしもスイーツとか食べたーぃ!」

「肉食いてぇー」

 

そういやここ最近こいつら殆ど食ってないんだっけか。

…まったく。

仕方ないな。

 

「レナ、頼む」

「任せて!」

 

頼まれたレナは笑みを浮かべて承諾した。

腕によりをかけると言い残して厨房へと入ったので期待しておこう。

深雪の飯は昔から美味いからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飯ができるまでの間、少し仮眠していた。

1時間程経つと何処か懐かしくそれでいて食欲をそそる匂いが鼻孔をつく。

だが、俺は目を開けない。

この後に起きる一連の流れを想定して敢えて閉じていた。

 

「お兄ちゃん、起きて」

 

深雪が起こしに来る。

俺の身体をゆさゆさと優しく揺らし、柔らかい声音が耳をくすぐる。

そこでやっと俺は目を覚ました。

 

「……おはよう、深雪」

「もう。ほんとは起きてたんでしょ」

「さぁな」

 

仮眠室の簡易ベッドから身を起こす。

こっちの世界に来てから深雪に起こされるのが心地よくなった。

深雪がいるのが当たり前だと思ってた以前はちょっと鬱陶しく思ったりもあったが、今はそのありがたみを実感している。

やっぱ妹に起こされるのは最高だぜ。

 

「馬鹿なこと思ってないでご飯食べるよ。みんなもう待ってるんだから」

「おう」

 

思考読まれた。

どうせなら弁解しておこう。

決して妹フェチではない。

俺は深雪が妹であることが好きなのだと…!

 

「はいはい。恥ずかしいことは表に出さないでよ」

「出してねえよ。お前が勝手に入り込んでくるんだろうが」

「あ、そっか」

 

などと気の抜けた会話を交わしながら食堂にたどり着いた。

既にヨハンを初めとしてミハエルとネーナが食卓に並べられた食事を食べている。

ミハエルなんかは骨付き肉にがっつき、グラタンや鶏肉に手を伸ばしている。

ネーナはパンケーキやフルーツケーキを頬張っていた。

 

「うんめぇ!めっちゃ美味ぇ!!」

「んーーっ!幸せ~っ!」

 

口々に料理を絶賛する。

白菜と鶏肉のスープグラタンを口に含んだ時のミハエルはまたしても美味ぇ美味ぇ繰り返しながら次々と胃に流し込んでいく。

ネーナもフルーツケーキを頬張ったと思ったら頬を抑えて悶えていた。

そういえばあのフルーツケーキは昨日深雪が作ったやつか。

恐らく残り物だろう。

とにかく深雪は料理に関してもスペックが高くて、比べると俺の長所が見当たらなくなった。

やめよう、悲しい。

 

「さ、私達も食べよ。お兄ちゃん」

「あぁ」

 

深雪に促されて俺も席につく。

食卓にいるのは俺と深雪、トリニティのみ。

まだちょっと夕食には早いからな、子供たちは後で食べるようだ。

デルも然り。

レオは未だにラグランジュ1にて、『ヴェーダ』の奪還を試みている。

フェレシュテでの補給を済まし、目覚めたフォンと挑むようだ。

フォンが協力してくれるか若干不安だったが、『ヴェーダ』の場所を話すと面白いと言って協力してくれた。

まあ『ヴェーダ』の位置って普通知らないからな。

興味が向いたら俺の方まで探りを入れてくるかもしれん。

別に構わんが。

 

「さて、食いながら聞いてくれ」

「んあ?」

「んーー?」

 

ミハエルとネーナが口にものを含みながら視線を向けてくる。

どうでもいいけどミハエルの口からエビフライだったと思わしきエビの尾が4本咥えられている。

一気食いすんなよ。

 

「お前達の目的は自由を得ること。その過程で戦争を根絶する。イオリアの計画ではなく、自らの意思で」

「そふぇがどうひかしふぁのかよ」

「食いながら喋るな」

 

行儀が悪いな。

ヨハンにも注意されてミハエルがバツの悪そうな顔をして素直に謝っている。

基本ヨハンには従順だよな。

まあ今はどうでもいい。

 

「これからの行動を具体的に決めていこうと思う。さっそくだが、世界は現在進行形で動いているし、国連軍のこともあって悠長にはしてられない」

「そうだね。スローネが無事だから擬似太陽炉搭載型MSは地上にも残ってるけど、あっちがどう行動するか分からないもんね」

「あぁ。それにスローネの太陽炉は『ヴェーダ』に追跡される。ここが割れるのも時間の問題だ」

 

『ヴェーダ』の追跡についてトリニティが渋い顔をする。

サーシェスがツヴァイを奪取したことでヨハンとネーナは納得するところもあるみたいだが、やはり『ヴェーダ』の奪還は未だに信じられないんだろう。

色々と状況を飲み込むのにも時間が要りそうだ。

ラグナですら捨て駒だったからな。

 

「ほんとにヴェーダは掌握されちまったのかよ」

「リボンズによってな。リボンズに利用されてる身だが、首謀者はソレスタルビーイングを裏切った監視者、アレハンドロ・コーナー。お前達の生みの親だ」

「なっ…!?」

 

つまりトリニティを生かすも捨てるも道具のように支配しているのはアレハンドロ、ヨハン達が倒すべき対象だとミハエルも理解した。

捨て駒としての運命を変えるにはアレハンドロがいなくならなければならない、と。

 

トリニティの最終的な敵はアレハンドロになるだろう。

だが、黒幕はリボンズなわけで…。

そのリボンズについてはあまり知らないようだ。

 

「リボンズ・アルマーク。人類の進化系、イノベイターを模して『ヴェーダ』によって作られた人造人間イノベイドの1人だ。一応、俺達もそうだが」

「イノベイド…」

「なんじゃそりゃ…」

「イノベイターってなに?」

 

ミハエルはともかくネーナの質問には答えよう。

 

「さっきも言った通り、人間の進化した姿だ。具体的には脳量子波を扱え、意思疎通が図れるようになる」

「なるほど。確かにイオリアの計画に必要な存在…。まさか私達も知らないそれほど重要なことがあったとは」

「組織の中でも知ってるものは限られてるし、第二世代ガンダム開発時でもマイスターやメンバーの勧誘を担当していたグラーべやサダルスードのガンダムマイスター874しか知らなかったしな。無理もない」

 

ガンダムマイスターとしての価値しかなかった3人に教える義理もなかったのだろう。

アレハンドロは知っていたのか…多分知っていたんだろうな。

リボンズをベースにしてトリニティを作り出したわけだし。

ただリボンズってイノベイドとして見られるのは嫌う筈なんだが…人造人間として見られ、参考にされたと思うのは間違いなのだろうか。

もしかすると進化した人類、イノベイターとして見れ、悪い気はしなかったのかもしれない。

まあどうでもいいか。

 

「ダメだ、分かんねえ…」

「あははは。ミハ兄、難しいこと考える柄じゃないもんね」

「うっせー」

 

既視感のあるやり取りだな。

国連軍が攻めてきそうだ。

来たら対応できるか微妙だからやめて欲しいけど。

最悪俺の分の太陽炉をサハクエルに回してレナに出てもらおう。

 

「でもさー、『ヴェーダ』が掌握されたってことは太陽炉が追跡されるんじゃねーの?」

 

それさっきも言ったな。

そう、問題はそこだ。

レナに調べさせたところ、俺達の太陽炉は追跡されないようだがスローネの太陽炉はきっちり追跡されている。

国連軍が来るのも時間の問題だろう。

それにしても俺達の太陽炉も擬似太陽炉なのだが、何故追跡されてないのか謎だ。

 

レナに聞いたが、わかんなーい、しか言わないし。

太陽炉自体レナ自身が作ったらしいから製作途中で何かしら細工をしたと俺は睨んでいる。

本人は心当たりがないと言っているので恐らく原因は設計図。

イオリアが制作過程で何かしら細工を仕込むよう設計図にそれとなく記して、レナが知らずのうちに組み込んでいた…というのが無難だろう。

詳細は知らんけどな。

 

と、話が逸れた。

元超兵機関の子供達の一部とデルが宇宙(そら)に上がる手配と準備に集中してることも含め、既に考えている次の行動について話そう。

レナ曰く、驚いたことに宇宙にも拠点があるらしい。

だから、地上の本拠は最小人数に留めて宇宙へと大人数を事前に逃がした。

残ったのは子供達の中でも腕のいい子とマイスターだけだ。

デルは宇宙(そら)に上がった子供達のお守りをしてもらっている。

 

本当ならデルも残って欲しかったが仕方ない。

故に戦闘もなるべく損傷は避けたいな。

まあそこは対策を既に練ってるので後でいい。

今は必要なのは太陽炉の追跡状況下をどうするかだ。

ミハエルの発言にヨハンが表情を曇らせている。

迷惑をかけたとでも思っているのか、それとも匿ったのは間違いだとでも言いたいのか。

恐らく後者で助けもらった手前口に出しにくいのだろう。

だが、そんな不安は必要ない。

 

「簡単な話だ」

「なにを…」

「あん?」

「んー?」

 

一言放つとトリニティが各々の反応をする。

気負うヨハンは顔を上げ、ミハエルは単純に発言者へと視線を移動させ、ネーナは可愛らしく小首を傾げる。

そんな3人に俺は不敵な笑みを向けた。

 

「やられる前にやる。こっちから攻めてしまえばいい」

 

単純明快。

先行を取ろうってことだ。




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