息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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ゼロ

善は急げ、という訳ではないが国連軍の勢いが強まっている今悠長にはしてられない。

飯を食い終わって休憩が終わるとすぐ、プルトーネ ブラック、スローネ各機で出撃した。

 

『でもよぉ、一体どこに向かうってんだよ』

『ミハ兄、話聞いてなかったの?アフリカ地域に建設中だった軍事用ファクトリーだって』

 

ミハエルの呟きにネーナが呆れたように返す。

まあ出撃前に告げたしな。

ミハエルは新装備の開発を行っているレナを見てるだけで、俺の話を聞いてなかったが。

妹をああいう目で見られるのは不快だが、あいつ中性なんだよなぁ。

知った時にショックを受けなきゃいいが。

 

と、話が逸れた。

俺達が向かっているのは四、五年程前にAEUによるアフリカ地域に建設中の軍事用ファクトリーと思われる施設だった場所だ。

攻められる前に攻めるとは言ったが相手の懐の居場所が分からない。

だが、俺は二つだけ知っていた。

本来は化石採掘場だった場所だが、既に化石は掘り尽くされている。

そして、今となっては立派なGN粒子に関する開発を行う場所になっている。

正確には軍事用ファクトリーとほぼ同地点にある洞窟だけどな。

とにかく各地にある点々としたコーナー家の開発施設の一つということになる。

ジンクスが生まれた原因の一つがこの施設だろう。

 

今となっては各国で開発が進んでいるだろうが、まだ準備段階の施設を攻撃しても仕方ない。

それよりも早急に潰すべき場所を潰し、相手の反応を見る。

現在の敵はまだ世界全体よりアレハンドロとリボンズである。

まだアロウズは存在してないしな。

故に知られているはずのない懐の居場所を把握されてるとなると多少なりとも衝撃を受ける筈だ。

今回やるべきことは洞窟を含めた施設の破壊と他の施設の居場所を捜索すること。

当然GN粒子に関連する開発物は処分する。

 

だが、人を殺す必要は無い。

よく人員を減らさなければ終わらないなどとあるが、今回に限ってはその逆だ。

GN関連の開発物は限られてるし、開発できる場所も限られている。

人数だけあっても意味が無いのだ。

その内世界全体にまで規模が広がるが、そんなのは後回しでいい。

気の遠くなるほど後の話だしな。

未来のことより今のことを優先する。

とりあえず相手の腹の中をかき乱し、一泡吹かせてやる。

本来国連軍も纏まって行動したからソレスタルビーイングは崩壊したんだ。

こうなったらとことん打ち崩して慌てふためかせる。

しかし、俺の手に余る人物が2人もいた。

 

『いけよ、ファングっ!!』

 

スローネ ツヴァイから放たれるGNファング。

それは残酷にも施設だけでなく、逃げ惑う人々をも粉砕していった。

 

『やめろ!ミハエル!殺さなくていいんだ!!』

『あははは!死んじゃえ死んじゃえ!』

『ネーナまで…っ!』

 

スローネ ドライのGNハンドガンは粒子ビームを噴き、施設護衛のMS(モビルスーツ)を破壊していく。

貫くのはコクピット。

確実に殺している。

ネーナはサーシェスの影響で多少マシになったと思ってたんだが…。

 

『死んじゃえ!!あたしは死なない!兄々ズもっ!死ぬのはあんたちなんだからっ!』

 

なるほど。

死の恐怖、失うことへの恐怖がネーナを狂わせているのか。

思っていより重症だ。

これは俺のケアサポートが足りなかった。

クソ…!

少なくとも殺しを楽しんだりはしてないが、狂気的な笑いを上げている。

より深刻な方に変わってしまったかもしれない。

 

『よせ!我々の目的は蹂躙ではない!!』

『ヨ、ヨハン兄…』

 

スローネ アインで道を塞ぎ、ヨハンが2人を制止する。

ネーナはそれで少しだけ冷静を取り戻してくれた。

機体の動きも止まる。

しかし、ミハエルは違った。

 

『えー、兄貴それはねぇよ。一方的な蹂躙!楽しなきゃ損ってもんだぜ!!』

『ミハエル…!!』

 

嗤うミハエルにヨハンが怒りを露にする。

さすがにミハエルも舌打ちし、身を引いた。

 

『わーったよ。なんか兄貴口煩くなったなー』

『口を慎め』

『へいへい』

 

全く反省しないままGNファングを収容するミハエル。

これはヨハンの言うことを聞くのかも怪しくなってきたぞ…。

マズい、ほんとにマズい。

こっちにとっての切り札だったが効果が薄まっている。

 

『……予定通り、施設に侵入する。トリニティは護衛のMS(モビルスーツ)の交戦を続行してくれ。さっきみたいに先行するなよ』

『りょ、了解…』

『へいへい』

 

ネーナはともかくミハエルは本当に分かってるのか?

不安だ…。

しかし、こっちにも予め決めた作戦時間がある。

今は目的を優先しよう。

プルトーネブラックで降下し、施設に侵入。

AEUの施設だが、何かしら分かることはないか調べる。

そもそもAEUの施設なのか怪しかったが、護衛のMS(モビルスーツ)はヘリオンやリアルドだった。

それを根拠にAEUだと思ったがまだ確定はできない。

偽装のためにわざわざ用意したのかもしれんしな。

全部アレハンドロの隠れ開発施設でも頷ける。

 

「よし」

 

必要なデータは取って、再びプルトーネ ブラックに戻る。

次は洞窟だが――モニターを復活させて絶句した。

 

『なんだ…これ…』

 

視界を埋め尽くすのは地に墜ちたヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、リアルド、リアルド、リアルド――。

もはや原型すらないものもある。

MS(モビルスーツ)どころかワークローダーやジャーチョーの全てが散り散りとなって散らばっていた。

辺りは静かで人独りすら見当たらない。

生体反応も反応しないとか嘘だろ…。

 

『おい』

『……申し訳ない』

 

声を掛けると同時に謝ってたのは当然ヨハンだ。

だが、ヨハンに謝って欲しいわけじゃない。

 

『ミハエル。お前か』

『あぁ?知んねえよ、()()()()()()()()()()()()()

『……なんだと?』

 

こいつ、信じられないこと抜かしやがった。

何が勝手に、だ。

もっとマシな言い訳を考えろよ。

頭が痛いな。

もう1人別の意味で手のかかるやつもいるし。

 

『はぁ…はぁ…失うのはあたし達じゃない…、あんたたちなのよ…!』

 

未だに興奮状態だ。

肩で息をしているのか、荒い息遣いが通信越しに伝わってくる。

ダメだな。

これ以上こいつらを参加させるわけにはいかない。

洞窟には俺単独でいくとしよう。

 

『ヨハン、2人を連れて帰還してくれ』

『……申し訳ない』

 

ヨハンはまたも同じ謝罪を繰り返した。

まあ気持ちは分かる。

兄として情けないとかそんなところだろう。

この程度で負い目を感じなければいいが。

 

『えー、もう帰んのかよ。まだやりたんねえよ』

『我儘を言うな。ミハエル。もう口答えは許さん』

『ちっ。へいへーい』

『生きて、帰れる…兄々ズも一緒に…』

 

ミハエルがヨハンに反抗するようになってきた。

最終的には言うことを聞いているがどうなることやら…。

ネーナは3人で帰還できることを心底から安堵している。

…これ大丈夫なのか?

 

『ま、まあ…お疲れ。後は任せろ』

『申し訳ない』

『もういいって』

 

別れを済ませるとヨハンのスローネ アインがミハエルとネーナを連れて帰還ルートへと進路を変更した。

そのまま軍事用ファクトリーを後にしたのを見届けて俺もプルトーネ ブラックを駆る。

目指すはビサイド・ペインが仕切っていたGN武装の開発施設だ。

洞窟などで見つけにくいが、プルトーネ ブラックに搭乗していれば問題ない。

 

『はぁ…こりゃ先が思いやられるな』

 

トリニティの問題に疲労を感じながら移動する。

人が悪いとは自覚しているが、彼らを助ける時、ヨハンとネーナを更生しやすいタイミングで助太刀に入った。

ヨハンとネーナには真実を知ってもらおうと。

しかし、思った以上にネーナの傷が深い。

ミハエルはヨハンに反抗的な感情を抱くようになったこと以外は想定内だが、ネーナはこのままいくと危険な思考まっしぐらだ。

どうにか対策を打たねばなるまい。

 

『と、ここか』

 

洞窟を発見した。

ここからが大仕事だ。

接近すると、イナクトが6機出現した。

交戦は避けられまいし、必要でもある。

故に粒子を散布しつつ、通信を遮断させ、プルトーネ ブラックのGNビームライフルを右に構え、左にはGNビームサーベルを抜刀した。

 

『プルトーネ ブラック、目標を無力化する――っ!』

 

一気に加速。

イナクトがプルトーネ ブラックに的を絞ってリニアキャノンを発砲する。

一斉に放たれた弾丸は殆どがプルトーネ ブラックへと命中するが、Eカーボンの装甲はその程度では傷つかない。

気にせず、イナクトの1機との間合いを詰め、GNビームライフルから粒子ビームを放った。

 

粒子ビームはイナクトの羽を貫き、蹌踉めく隙に背後に回って主エンジンを撃ち抜いた。

飛ぶための主導力を失ったイナクトは当然重力に逆らえず、地へと吸収されていく。

そして、そのまま墜落した。

下は砂漠なのでクッション替わりになって衝撃吸収のおかげか爆発はしない。

殺さず、無力化。

少々骨が折れるがこの性能差ならいけるだろう。

 

『げっ』

 

と、安心しきっていた時、不意を突くように奴は現れた。

まさかのお約束。

水をぶっかけられた気分だ。

 

――姿を見せたのはGN-X、通称ジンクス。

 

2機のジンクスが施設からゆっくりと浮上してきた。

イナクトを全機無力化した直後の出来事だ。

まったく…イナクトでさえ無力化に苦労したってのに。

果たしてジンクス相手に本気を出さずにいられるのだろうか。

 

『――――っ!』

 

『くっ…!』

 

ジンクスの内1機がGNビームライフルの銃口をこちらに向け、もう1機がGNビームサーベルを抜刀して接近してくる。

なんとか粒子ビームを躱しつつ、斬りかかってきたジンクスには最初から抜刀していたGNビームサーベルで対応した。

ビームサーベル同士でぶつかり合い、火花を散らす。

その一瞬の競り合いを利用して初撃の牽制を放ってきたジンクスが隣に滑り込み、銃口でプルトーネ ブラックを捉えていた。

 

『思い通りにさせるかよ…!』

 

だが、黙って撃たれる程ではない。

衝突していたジンクスを腹部に足を掛けて蹴り飛ばし、GNドライヴの推進力でジンクスの粒子ビームを避ける。

機体に掠ったようだ。

危なかった…。

 

『クソ…!』

 

大体なんなんだこのジンクスは。

なんでこんなところにジンクスがいる。

国連軍に流出したジンクスが30機。

それで全てではなかったか、考えれば案外単純明快な話だ。

確かにジンクスがより多く作られている可能性はある。

擬似太陽炉だって30個で全部ではないし、国連軍に渡すためのジンクスなんてもっと前から出来ていただろう。

国連軍にジンクスを贈る直前までも開発作業は各地で行われている。

贈った後も、だ。

各地の開発パーツが軌道エレベーター内の極秘ファクトリーに運ばれ、ジンクスが完成する。

もし贈った後にも新しいジンクスが完成していたら?

充分に有り得る。

 

通常、発注する分だけ作って終わったりしない。

その後にも事業は続くし、これからも売り続ける。

なら製品の在庫が増えていても何らおかしくない。

それと同一視するのもあれだが、要は国連軍に渡した30機で全てではないということだ。

30機はあくまで国連軍のために用意された数。

そして、決して多くないジンクスや擬似太陽炉搭載型が存在するのだろう。

ソレスタルビーイングが壊滅してやっと開発を加速させることが出来る、ということか。

 

それにしてもそのジンクスをこんなところに配備するとは。

ヒクサー・フェルミが紛れ込んだことで警戒心を抱いているのか?

迷惑な話だ。

だが、まあやることは決まった。

施設を手当り次第破壊し、開発を遅らせる。

これは当初の予定通り。そしてもう一つ。

開発が拡大する前に一掃する。

要するにやることは変わらない。

一掃して足元を掬ってやる…!

 

『その為にもお前らを倒さないとな』

 

戦意を瞳に宿らせる。

対峙するジンクス2機を必ず無力化し、施設を潰す。

 

『――――っ!』

『――――っ!』

 

『来い…!』

 

正直キツい。

トレミーチームと違ってトランザムは使えない。

擬似太陽炉のトランザムの原理をレナに話して組み込んでもらいたいが、いかんせん時間が無い。

ここは己の力で乗り切るしかない!

 

片方に照準を合わせ、粒子ビームを放つ。

だが、同時に接近しつつ撃ったせいか上手く合わせられず、手元が狂った。

粒子ビームが大きく外れる。

 

『ああ、クソ…!』

 

どうしてこうも射撃だけは下手なんだ。

深雪との特訓も効果は出ているはずなのにMS(モビルスーツ)での射撃は以前と大して変わっていない。

狙っていたジンクスが掠りもしなかった粒子ビームに視線を向ける。

悪かったな、下手くそで…!

 

『貰っ――ふっ!!』

 

余所見をしたジンクスにビームサーベルで斬り掛かろうとしたが、もう1機から捉えられているのを感じ、接近を中断した。

急停止したお陰で横入りした粒子ビームは回避する。

ちなみに折角接近したので傍らにいるジンクスにはGNビームライフルをぶん投げた。

戦闘中の余所見をした間抜けは態勢を崩している。

天に唾など吐いていない。

 

『邪魔だ!』

『――――っ!』

 

GNビームサーベルを二刀抜刀し、GNバーニアを噴射し加速する。

ジンクスのGNビームライフルからプルトーネ ブラックを墜とそうと粒子ビームを放ってくるが、機体の態勢を操って全て避ける。

攻撃を受けずに間合いに詰められた。

 

『今度こそ!』

『――っ!』

 

銃口をこちらに向けるが、ビームライフルの銃口を切り落としてやった。

すると、ジンクスはすぐにビームライフルを捨て、二刀流に。

プルトーネ ブラックと衝突する。

 

『くっ…!』

『――っ!』

 

誰が操縦しているのか知る由もないがさすが擬似太陽炉搭載型だけあって手強い。

そう簡単には攻めさせて貰えないか…!

 

『しかし…!』

 

一旦離れ、GNシールドを投げる。

ブーメランのように回転するGNシールドが真っ直ぐとジンクスの上体を狙うが、ジンクスは二刀のGNビームサーベルでGNシールドを三等分する。

だが、あの斬り方だと――中央の破片がジンクスの顔面を抉る!

 

『貰った!』

 

顔面の取れたジンクスはモニターが作動してないのか、見るからに慌て始める。

その隙に両腕を落とそうと二刀共に振りかざすが、俺の視界の端に粒子ビームを捉える。

同時に粒子反応もプルトーネ ブラックが拾った。

 

『当たるかよ!』

『――――っ!?』

 

10mには迫っていたから完全に避けることは出来ない。

だから、自らプルトーネ ブラックの装甲を削って散らし、盾代わりにする。

粒子ビームは防ぎきり、接近してくるジンクスのその勢いを利用させてもらう。

 

『こいつを受け取れ』

 

後退し、顔面を失ったジンクスの腕を掴み、もう1機に投げた。

プルトーネ ブラックを追っていたジンクスは当然そいつを受ける。

 

『――――っ!?』

『――――っ!?』

 

衝突し合うジンクス。

顔面の無い方は困惑する。

2機共に態勢を崩した。

 

『はああああああああああっ!!』

 

俺の双眼が色彩に染まり、急速に接近する。

動きの制限されている今に畳み掛ける。

まずは上から下へ同時に一閃。

二刀のビームサーベルで両方のジンクスの両腕を斬り落とす。

次に脚部を、そして、顔ありの顔面をも。

四肢のないジンクス2機の完成だ。

 

『墜ちろ…っ!!』

 

無防備になったジンクス2機を蹴り落とす。

衝撃と重力に従ってジンクスは地上に墜落した。

例の如く爆破はしていない。

どうせ戦闘不能だ。

パイロットもそのうち出てくるか、出てこなくてもどっちでもいい。

 

『ふぅ…余計な手間をとったな』

 

墜ちたジンクスを見下げて息を吐く。

さすがに疲弊したな。

とはいえ、当初の目的は戦闘じゃない。

これからが本番で、その為にもGNビームライフルを拾う。

GN粒子関連の軍事用ファクトリーとなっている洞窟にモニターを合わせると、中から逃亡する者達の姿が見える。

戦闘中にも逃げた者もいるだろうが、こっちとしてはありがたい。

殺人は最小限にしたいからな。

 

「……さて」

 

プルトーネ ブラックが降下する。

砂漠に足がついたところでGNビームライフルの銃口を洞窟の入口へと向けた。

そして、差し込む。

 

何をやるのか、大体想像つくだろうが洞窟内を撃ち抜き、一掃するつもりだ。

適当に粒子ビームを打ち込めば、中が軍事用ファクトリーとなっている洞窟内は自然と誘爆し、壊滅する。

何せ中にはGN粒子(爆薬)が腐るほどある。

上手くGNコンデンサーでも撃ち抜けば、大爆発が起きるだろう。

 

……場所が洞窟である以上施設だけの破壊は難しい。

出来るだけ逃亡者は見逃し、逃げる時間も与えた。

それでも残る者はいくら待っても逃げはしないだろう。

こちらとて時間は限られている。

多少の犠牲は仕方ない。

 

『すまない』

 

そして、俺は引き金を引いた。


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