息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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翼持ち

『ヴェーダ』本体。

掌握作業を終えたリボンズは以降も世界の情勢を眺め、アレハンドロに伝えていた。

アルヴァトーレの準備は出来ている。

しかし、あの機体を宇宙(そら)に上げるには地上に不安要素が多過ぎた。

その最もの原因であるのがリボンズが『ヴェーダ』を通して追跡している5つの擬似太陽炉だ。

 

「リボンズ。トリニティの様子は?」

「現在コーナー家のファクトリーを三箇所破壊し、尚も続ける様子です」

「ふむ。あのトリニティがここまで粘るとは…」

「誰かが入れ知恵していると見ていいでしょう」

「そうだな」

 

眼下の端末。

その画面には2機の擬似太陽炉搭載機が映っている。

内、1機はアレハンドロも知っていた。

第二世代ガンダムのガンダムプルトーネ、塗装こそ変わっているものの間違いない。

問題は現在プルトーネはソレスタルビーイングを支援する組織フェレシュテが管轄している筈だ。

しかし、このプルトーネはフェレシュテのものではない。

彼らならば擬似太陽炉ではなくオリジナルの太陽炉を使うからだ。

 

「しかし…」

 

もう1機。

画面に映る、双翼を有する機体。

まるで黒い天使のようなその容姿を持ったガンダムをアレハンドロは知らない。

リボンズに尋ねても知らず、『ヴェーダ』にデータもなかった。

完全に謎に包まれた機体。

ソレスタルビーイングが作ったのならば必ず機体データが『ヴェーダ』に保存される。

故に『翼持ち』は、ソレスタルビーイングの機体ではないと考えるのが普通だ。

しかし、コーナー家以外に極秘に太陽炉搭載機を作ることなどほぼ不可能といえるだろう。

 

必要なものが多すぎる。

まずは資金、開発するのに膨大な資金が必ず必要になる。

そして、技術。

腕のいいメカニックに、人員が必須だ。

さらに『ヴェーダ』に計画を歪める要因ではない、寧ろ助けになると思わせなければならない。

そうでないと『ヴェーダ』に敵として認識され、すぐにソレスタルビーイングが潰しにかかることになる。

実はこれが一番重要である。

 

「三度の襲撃でトリニティの暴走性が沈静化している…。アレハンドロ様、これは一体…」

「……分からん」

 

トリニティと共に行動している最低でも2人。

彼らがどのようにしてトリニティと協力関係にあるのか不明だ。

リボンズはHAROへのハッキングを妨害され、逆探知したがシステムブロックされた。

『ヴェーダ』を掌握し、高いアクセス権を持つリボンズが。

故にリボンズは正体をつき務めることの方が尽力しているように見える。

結果は芳しくないが。

 

翼持ちが有する追跡できない擬似太陽炉。

『ヴェーダ』、否、イオリアのシステムによって守られた者。

全貌どころか掴みどころがない。

完全なる正体不明だ。

幸い、5基の擬似太陽炉を彼らは有しており、それらは追跡可能だ。

既に基地ともいえる隠れ蓑も特定していた。

ただし座標だけだが。

 

「アレハンドロ様。何故こちらから襲撃をなさらないのですか?」

「敵の本拠の情報も掴めない。座標だけしかわからない今、突入して返り討ちを受けるのは避けたいのだよ。国連軍に、擬似太陽炉搭載機、そして私の姫騎士(プリンセス)。全ての駒を揃え、万全の姿勢を整えてから攻め込みたい」

「……ではアルヴァトーレは」

宇宙(そら)の国連軍が危うい状態に至らない限りは地上に残しておく。だが、宇宙(そら)へ上げる準備はしておいてくれ」

「了解しました」

 

アレハンドロの指示にリボンズは頷く。

今はこちらが懐を荒らされている状況、まずは相手の勢いを止めるのが先決だとアレハンドロは判断した。

それから全ての駒を揃え、確実に潰す。

相手はガンダムが5機以上。

全貌が掴めない故にそれくらいの対策は必要だ。

 

「リボンズ。次の襲撃予測ポイントは?」

「最初に襲撃されたアフリカ地域の軍事用ファクトリー。そこから得られる情報を辿ったのだとすると…候補は5つ程」

「ではその全てにヴァラヌスを配備しよう。対応中、敵が出没したファクトリーに国連軍を派遣。これで…」

「挟み撃ち」

 

返答の代わりにふっ、と微笑むアレハンドロ。

リボンズは内心悪い御方だ…などと苦笑いしていた。

 

「それにしても何者か…」

 

未だに払拭しきれず残る疑問。

送り込んだサーシェスも返り討ちに合い、ここまで攻め込まれた。

トリニティを更生し、丸め込み、彼らと共に行動することが可能な存在。

追跡不可能な擬似太陽炉を作り出すことが出来、最初に襲撃したファクトリーの居場所は予め知っていたと見て間違いない。

そして、『ヴェーダ』にデータのない、作られた形跡のない太陽炉搭載機の作成。

それら全てを可能とするのは一体、誰か。

 

「リボンズ。君はどう思う?私は他の監視者と睨んでいるが」

「その可能性は否定できません。僕も憶測程度でしか…」

「言ってみたまえ」

 

自信がなさそうに困った笑いを浮かべるリボンズ。

そんなリボンズも天使のように尊いと見惚れるアレハンドロだが、状況のこともあり、思考を振り払う。

今はリボンズの意見を参考にしたかった。

 

「僕の勝手な妄想ですが、もし仮にイオリア計画を守護する存在。『ヴェーダ』にも認められ、イオリア計画の狂いを修正する役割を持った守護者的な者がいるのなら有り得るかと…」

「守護者、か」

 

それは高度な『ヴェーダ』アクセス権を持ち、イオリア計画の修正を担当し、他からは干渉不可な『ヴェーダ』に守られた存在。

そんなものが本当にいるのならば、今の世界の状況。

太陽炉搭載機を有する国連軍が現れたことにより歪んだ計画を修正するために行動するのはおかしくない。

しかし、仮定に過ぎないが。

 

「すみません。さすがに有り得ませんね」

「いや」

 

アレハンドロは否定する。

過去に1つだけ似たようなケースがあった。

ソレスタルビーイングに裏切り者が出現し、第三世代ガンダムテスト時にソレスタルビーイングが大きな打撃を受けた時のこと。

第二世代ガンダムのガンダムマイスター874が裏切り者の対応に向かい、圧倒的不利な状況に陥った後から記録が殆どない。

アレハンドロのアクセス権ならばガンダムラジエルによって抹殺されたと記されていたが、リボンズのアクセス権で検索すると、結果は同じものの過程がほぼ白紙だった。

まるで何かを秘匿するように。

わかり易い嘘もなく。

そこにはガンダムラジエルの文字はなかった。

 

「もしかすると、第三世代ガンダム開発時からいたかもしれん。裏切り者の抹殺…計画の修正か。リボンズ、君の意見。中々バカにはできんよ」

「そうですか?なら良かったです」

 

安堵したようにリボンズは微笑する。

アレハンドロはその笑顔に見惚れながらも思考する。

追跡不可能な擬似太陽炉を載せた『翼持ち』の機体。

そして、『ヴェーダ』本体に侵入しようとするもう1機の追跡不可能な擬似太陽炉搭載機。

イオリア計画の修正し、守護する存在。

アレハンドロは『翼持ち』を睨む。

 

「リボンズ。襲撃予測ポイントの中に軌道エレベーターの極秘ファクトリーと南極のファクトリーも入れておいてくれたまえ」

「構いませんが、何故?」

「なに。念の為だよ。まだ潰されては敵わんからな。それとアルヴァトーレの準備を。奴らの本拠を叩き次第、宇宙(そら)へ上げる」

「そのように手配しておきます」

「あぁ、頼んだよ」

 

さて…と世界を見下ろす。

まさかここまで手こずらせてくる者がいるとは思っていなかったが、これはこれで面白い。

まだ焦るほどの異常(イレギュラー)ではない。

あちらの出方を見て、こちらもそれ相当の対応をさせてもらおう。

再度微笑すると、今度は月面の映像へと目を向けた。

 

「そろそろお灸を据えてやらねばな」

 

未だ攻め込もうと悪戦苦闘する第二世代ガンダムが2機。

擬似太陽炉の光を放つアブルホールとオリジナル太陽炉の光を放つアストレア。

侵入を拒むMS(モビルスーツ)部隊との交戦をアレハンドロは余裕のある笑みで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定を変更した。

襲撃の回数を減らし、一旦休養を取る。

トリニティも働き詰めで文句を言ってたこともあったしな。

もちろんそれが理由じゃないが、正直無理して連続出撃するほどファクトリーを1つでも多く破壊するのが得策なわけではない。

寧ろ限られた時間の中で襲撃できる回数も限られる中、敵に大打撃を与えれればいいのだ。

そうなると狙うは軌道エレベーターの極秘ファクトリーか南極だ。

話し合いの結果、次の対象は軌道エレベーターの極秘ファクトリーとなった。

 

「ま、南極までの距離を考えたら当然か」

「しかし、軌道エレベーターの周辺も容易にガンダムでは近付けない。黒幕だけでなく、国連軍や各国家の妨害が入るのでは?」

「そうだね。その点どうするの?お兄ちゃん」

 

深雪の用意した飯を口にしつつヨハンの意見に同意した深雪が尋ねてくる。

言ってることは最もだ。

そこが問題だと言ってもいい。

ただでさえ守りが厳重な軌道エレベーターだ。

騒ぎを起こせば駆け付けるのは国連軍だけではないだろう。

元々軌道エレベーターの護衛を担当しているMS(モビルスーツ)部隊、国連軍の頂武ジンクス部隊、領土内で交戦があった場合に駆け付けてくるであろう国家群のMS(モビルスーツ)部隊。

考えられるだけでそれだけは集結する。

ガンダムといえどたった5機では数の利に敵わない。

合同軍事演習がいい例だが、今回はその上にジンクスもいる。

 

「どうにかして数を減らせるよう工面するか…」

「それか速攻かな。30分で片をつける、とか」

「厳しいな…」

 

さすがにちょっときつい。

ファクトリー内と軌道エレベーター内の避難が終わるまで極力ファクトリーを襲いたくはない。

いつもならファクトリーの避難さえ待てばいいが、軌道エレベーターでの混乱を考えるとやはりあちらも待たねばならない。

その間に国連軍が駆けつけるのは確実だろう。

 

「うーん…あたしのドライのステルスフィールドで増援無くせないの?」

「電波障害のジャミングか…。確かにレーダーは作動しなくなり、俺達の位置は割れにくいが…」

 

如何せん時間稼ぎにしかならないんだよな、これが。

どうせ国連軍には出撃前に軌道エレベーターが目的なのはバレてるし、頂武ジンクス部隊には事前に伝わるだろう。

軌道エレベーターにさえ辿り着けば後は目視でなんとかなる。

他の増援部隊も然り。

ま、稼げる分は稼いでおくか。

無いより全然良い。

 

「一応張ってくれ。欲しいのは時間だ。最悪撤退時に国連軍と鉢合わせしていい。切り抜けるだけだからな」

「中々ハードね…。ネーナ、憂鬱だわ」

「仕方ないもんは仕方ない。レナ、脱出ルートを算出しておいてくれ」

「了解。任せて、お兄ちゃん」

 

レナから二つ返事の了承を貰い、表情を曇らせてチーズケーキを頬張るネーナに視線を向ける。

すると明るく朗らかに微笑んでウインクして見せた。

口では文句を言ってもやる気はあるみたいだ。

自分達のために戦っているんだからな。

前回のこともあり、覚悟は決まっているようだ。

 

「機体はどうする?」

「うーん」

 

ヨハン達はもちろんスローネだが、俺とレナに関しては状況に合わせて機体を変える。

レナもサダルスードで出撃する場合もあるからな。

まあ今回はサハクエル一択だが。

逆に俺は選択肢が多い。

なんとなく最初に使ったプルトーネが馴染んでいるが、今回重視すべきなのは何か、考慮して選択しなければ。

遠距離砲はスローネ アインとサハクエルで足りている。

ネーナはステルスフィールド使用のため、スローネ ドライ。

ドライは遊撃型で、ツヴァイは接近型。

バランスを考えるのなら接近も対応できる遊撃型が理想か。

 

「まあそれは脱出ルートの算出だったり、作戦内容を具体的にしてから決めようかな。その方が必要な要素も見えてくるし」

「それもそうだな」

 

異論はない。

どれでも出撃できる状態に保っておこう。

ちなみに1度目の襲撃からサハクエルを隠すことなく出しているが、理由は2つほどある。

まずはトリニティの駆るスローネを圧倒するにはサハクエルでないと不可能だということ。

実はこれは後から聞いた話だけどな。

事前に聞いてたら元から淘汰する気だったのかと顔がひくつきそうだ。

 

もうひとつは国連軍対策だ。

もし仮に予測より早く国連軍と衝突することになったらサハクエルはかなり戦力の足しになる。

相手も擬似太陽炉搭載機、レナの技量が優れていても防御の薄いサダルスードでジンクスと接戦するのは難しい。

サハクエルとサダルスード以外はレナが慣れてないこともあって論外だ。

作った本人だからといって全部に乗ったわけではないらしい。

まあ俺と再会するまでは予備の機体だったって聞いたしな。

 

「とりあえず次に攻めるのは軌道エレベーターの極秘ファクトリーだ。激戦も視野に入れ、いつもより長時間の作戦になる。肝に銘じておけよ、あとミハエル話聞いてるか?」

「聞いふぇるふぇっ!」

 

ミハエルが口の中いっぱいに鶏肉のチキンを詰め、どデカいハンバーガーにかぶりつきながら大きく頷く。

全然信用できん。

ま、後で詳細を決めてもう一度話すし、ヨハンからも説明するだろうからいいか。

飯を食いながら大まかな作戦会議は終えた。

 

数時間後、出撃する機体はスローネとアヴァランチブラックアストレアダッシュ、サハクエルとなり。

各機体整備と調整に追われる中、襲撃は明日となった。


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