息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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悪戦苦闘

軌道エレベーターまでの道のりはさすがにガンダムで行くわけにもいかないのでレナの操る飛行艇にガンダム各機を乗せて人革連領に侵入した。

ちなみに飛行艇に無理矢理乗せたガンダムはギリギリ5機収容できただけあって詰め放題みたいな状況になっている。

出撃する時はコクピットに座ってすぐ落ちるように出ることになるだろう。

ハッチなんてもんはないからな。

……そういえば、特にサハクエルは場所を食ってる気がする。

 

「何か言った…?」

「いえ。ナンデモナイデス」

 

こっわ。

操縦席に座っているレナが目を除いて笑顔で尋ねてきた。

脳量子波遮断スーツ着ているのになんで考えがバレたんだ…。

まあ長年一緒にいる妹だからこそ成せる技なのだろう。

恐ろしいことだ、遮断スーツを着ていても用心しておこう。

特に表情とか。

 

「……」

「ねえ、まーだー?」

「ふわぁ…腹減ったぜー…」

「もうすぐ着くから待ってね、ネーナ。ミハエルは帰ったら何か作ってあげる」

「りょーかーい」

「マジかよ、やったぜ!」

 

なんてやり取りも後部座席に座っているトリニティから聞こえる。

深雪は操縦しながら対応してて大変そうだ。

ちなみにヨハンは集中力を練っている。

目を瞑って心を静めているようだ。

振り返ったら身体がピクリと動いたので寝てる訳では無いのが証拠だな。

 

さて、人革連領に入ったがもちろん無断で飛べるわけではない。

金持ちの自家用ジェットのサイズでもないしな。

一応偽装はしてある。

『ヴェーダ』に見抜かれるかは賭けだが―――と、その時飛行艇が激しく揺れた。

ヨハンも目を開く。

賭けに負けたか…。

 

「敵襲!バレてるよ…!」

「みたいだな。情報操作で仕掛けてきたか」

 

眼下を映すモニターを見ると人革連のMS(モビルスーツ)が編隊を組んで地上から砲撃していた。

丁度人口密集区を抜けたところだ。

さすがに人の多いところでは軍も手を出しづらいと思って人口密集区を出来るだけ広範囲通過するようなルートにしたが、穴場を狙ってきたか。

当然だが、軍需工場や軍事用ファクトリーは迂回している。

まあ攻撃された今となっては関係ないが。

 

「人革連のMS(モビルスーツ)…!」

「狙いは時間稼ぎか」

 

ヨハンもモニターを覗いて顔を顰めている。

相手の狙いはわかった。

場所的に大型の部隊を置けない故の少数部隊。

決してガンダムに対抗できないMS(モビルスーツ)での攻撃。

飛行艇を落とそうとしているのだろうが、こっちの移動手段を完全に特定したというよりは現場の判断に近い。

よって少しでも軌道エレベーターの極秘ファクトリーの襲撃時間を遅らせようとしていると見ていい。

ここまでしてくるとなると、極秘ファクトリーにはかなりの防衛ラインが用意されるだろう。

その為のゆとり、与えるわけにはいかないがな…!

 

「行くぞ、レナ!」

「うん!」

「ミハエル、ネーナ。出撃だ」

「おうよ!」

「ラージャっ!」

 

俺の呼び掛けにレナが飛行艇の操縦をオートモードにして、艦内データを全削除。

(のち)、自動で周辺に着陸するであろう飛行艇の操縦席から離れる。

ミハエルとネーナもヨハンの指示に笑みで応え、各々垂直のコクピットに多少苦労しつつも乗り込んだ。

 

『オープン!』

 

レナの掛け声と操作に反応して機体が晒される。

出撃順は下から積み上げられた機体から。

一番下は俺のアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュだ。

 

『ブラックアストレア、レイ・デスペア!出撃する…!』

 

刹那、太陽炉とダッシュユニットからGN粒子が噴射され、飛行艇から出る。

姿を見せた俺のブラックアストレアに銃弾が集中するが、愚策だな。

どうせ効かないガンダムより飛行艇を落とせば出撃できずに飛行艇の爆発に巻き込まれた者もいるだろうに、その判断ができないようだ。

こちらとしては有難い。

 

『サハクエル、レナ・デスペア!行くよ…!』

 

次にマントをローブのように纏ったサハクエルが落ちるように出現し、双翼を展開して空に降臨する。

機体が安定したと同時にGNツインバスターライフルを構えた。

 

『狙い撃ち…っ!』

 

上空からの狙撃に地上のMS(モビルスーツ)が四肢を失い、武装も破壊され、無力化される。

飛行艇からは続いてスローネ各機が出撃した。

 

『スローネ アイン、ヨハン・トリニティ。目標のファクトリー襲撃作戦を開始する』

『スローネ ツヴァイ、ミハエル・トリニティ…っ!エクスタミネート!!』

『スローネ ドライ、ネーナ・トリニティ!出撃するわ』

 

兄弟各々違った出撃の仕方をする。

ツヴァイは早々にGNファングを射出し、サハクエルが撃ち漏らした残機を無力化する。

もう確認するまでもないが、コクピットは無事だ。

それくらいにはもう信頼してるよ。

最後に出撃したネーナはキラッと星のエフェクトが出そうなポージングを取るが、無視でいいか。

全員に繋がっているモニターに指を2本立てて主張してくるが、悲しいことにあのヨハンでさえ反応しない。

ミハエルは空笑いしていた。せめて愛想笑いにしてやれ。

 

『敵MS(モビルスーツ)部隊を殲滅、軌道エレベーターへ向かうぞ!』

『『『『――了解っ!!』』』』

 

指示に応じ、俺のアヴァランチブラックアストレアダッシュを筆頭に軌道エレベーター『天柱(てんちゅう)』へ飛翔する。

ダッシュユニットを高速移動モードで使ってるだけあって俺のアヴァランチブラックアストレアダッシュが最も速く、その後を追うように飛行形態に可変したサハクエル、それに掴まるツヴァイが続く。

残されたヨハンとネーナはというと飛行形態に変形したスローネ アイン トゥルブレンツにドライが掴まり、サハクエルと並行するようにトップスピードで加速している。

 

トゥルブレンツとはガンダムスローネ アインの飛行用装備で、それを三度目のファクトリー襲撃の時に発見した。

一目見て俺はトゥルブレンツだと気付いたので持ち帰ることを提案し、全員合致で回収した。

後からアイン本体とは別に装備に搭載されている筈の太陽炉がなかったので、以前俺が持ち帰った余りの擬似太陽炉で代用した。

予備で拾って帰ったやつだがまさかこんな形で役に立つとは思わなかったな…。

トゥルブレンツを装備すると高い機動力と飛行形態への簡易変形機能が付加されて特に時間に縛られた今回の襲撃にもってこいだ。

ただ欠点としてGNランチャーが使えなくなるが…まあ代わりのGNブラスターがあるから火力に心配は要らない、と思う。多分な。

 

とりあえず3組で加速した俺達は人革領の軌道エレベーター『天柱』へと最短で辿り着くことが出来た。

作戦開始から30分に近いくらいか…。

やっぱ最初で少し足止めを食らったのは痛いな。

その証拠に軌道エレベーターに着いた頃には敵機がわんさか出てきた。

どれも旧型の機体や軌道エレベーター防衛用の機体だけどな。

後者は元々配置されているが、前者は急ぎで駆け付けた部隊だろう。

総数は500機は超えているな…多くないか?

 

『どうなってる?俺達の接近に気付いたにせよ――っと!準備が良すぎる!』

『う、うん…』

 

敵機が俺達を補足した同時に銃撃を開始し、レナが俺の言葉に同意しながらサハクエルのウィングバインダーをローブの中に隠す。

ちなみにマントを纏っているのはアレハンドロ達には見せたが、まだ世界に見せるには早いと思ったからだ。

特に国連軍にはな。

せめてアレハンドロを倒し、国連軍の戦力を削り尽くすまでは世界単位に晒したくはない。

そこまでそう時間は長くない筈だ。

 

それはそうと軌道エレベーター防衛のMS(モビルスーツ)の対応が良すぎる上に、旧型も合わせて数が多過ぎる。

軌道エレベーター周辺の見張りの一番少ない時間帯を特定したというのに水の泡だ。

実際レナが珍しく顔を顰めている。

とにかくこちらも反撃しなくてはならない。

それにまだ嫌な予感がする。

ここまで対応がいいと手回しされてると見ていいだろう。

相手の読みが一枚上手だった。

ならば、まさか太陽炉も積んでない機体を50機如き用意しただけではあるまい。

 

『ちょ、どうなってるのよ!?』

『くそ!いけよ、ファングっ!』

『無力化を開始する…!』

 

スローネが各々武装を構えて攻撃態勢に入る。

対象は眼下のMS(モビルスーツ)部隊だ。

しかし、考えろ。

相手は何を用意して、どのタイミングで仕掛けてくる?

俺なら…。

 

『そうか!ヨハン、ミハエル、ネーナ避けろ…!』

『なに…?』

『あぁん?』

『えー?』

 

俺の叫びにトリニティが反応する。

目の前の敵から意識を逸らしたあいつらの視界にも入った。

反射神経もそれを捉える。

攻撃直前で動きの固定されたスローネの集団を撃ち落とそうとせんばかりの赤い粒子ビームの雨を。

 

『スローネ、散開せよ!!』

『な、なんだ…!?』

『うそ…っ!』

 

ヨハンの指示よりも速く、トリニティ全員が回避行動を取る。

咄嗟にも関わらず粒子ビームは掠りさえしなかった。

凄い反射神経だ。

マイスター用人造人間としての能力が皮肉だが幸いした。

 

『上から来たか…!』

『敵機、新たに8機捕捉!お、お兄ちゃん。あれって…』

『あぁ』

 

はは、嫌なほど見覚えがある。

なんて悪趣味な展開だ。

俺達よりさらに高度から攻めてきたのは擬似太陽炉搭載機。

その姿を目にしなくても赤い粒子ビームを飛んできた時点で察しがつく。

だが、やって来た機体は決してトリニティの前に現れてはならないMS(モビルスーツ)だった。

 

『スローネ ヴァラヌス…っ!!』

 

『――――っ』

 

現れたのはスローネ ヴァラヌスが8機。

月面でレオ・ジークとフォン・スパークによる『ヴェーダ』への侵入を妨害している機体と同一のMSだ。

そして、こいつらは主にスローネのデータをベースに生み出された機体でもある…。

 

『スローネ、だと…!?』

『お、おい。なんか俺達と同じパーツ使ってねえか?あの機体…』

『なによ…あれ…』

 

スローネ3機の動きが鈍い。

その隙を逃す敵ではない。

粒子ビームの集中砲火がスローネを捉えていた。

くそ、仕方ない…!

 

『レナ!』

『了解、狙い撃ち…っ!』

『狙い撃つ…!』

 

サハクエルが引き金を引き、ローブから覗くGNツインバスターライフルの銃口から粒子ビームが連射される。

前段的確に敵の粒子ビームを相殺し、ブラックアストレアもGNソードをライフルモードにして構え、粒子ビームをできるだけ多く落とす。

多少外したが今はレナのお叱りを受ける余裕もない!

 

『パージ…!』

 

長期戦のため粒子消費量のことを考えてアヴァランチ・ダッシュユニットを捨てる。

上空にはスローネ ヴァラヌスの編隊、地上には軌道エレベーター防衛用のMS(モビルスーツ)部隊。

 

『挟み撃ちか…。だが!レナ、ユニットを破壊しろ!』

『そっか!目眩し…っ!』

 

レナが俺の指示の意図を瞬時に見抜いて重力に従って落下するアヴァランチ・ダッシュユニットに照準を合わせる。

あれを撃ち抜けば大規模の爆発と大量の粒子を散布できる。

出来る限り地上に展開された部隊全てにかかる高度まで待ち、尚且つ爆発の被害で死者が出ないよう考慮する。

 

『絶対に狙い撃つんだから…っ!』

 

サハクエルがGNツインバスターライフルをドッキングさせ、レナが意識を集中する。

凄まじい集中力、緻密な演算に脳のエネルギーを急速に消費していく。

その瞳は色彩に輝いていた。

 

『今…!狙い撃ちっ!』

 

軌道エレベーター最下層、地上の施設と同じ程の高度を越えようとした時を狙ってレナが引き金を引く。

サハクエルの放った粒子砲撃はアヴァランチ・ダッシュユニット双方を1発で貫いた。

タイミング完璧、寸分のズレのない高度。

撃ち抜かれたアヴランチ・ダッシュユニットは空中の爆散し、大量の粒子が地上のMS部隊に降り掛かる。

これで通信機器は全滅だろう。

暫くしないうちに地上の部隊に混乱が見れる。

よし、さすが自慢の妹(深雪)だ。

 

『やった…!』

『よくやった、レナ』

『うん!』

 

褒めるとレナは満面の笑みで頷く。

撫でたい。

まあ後にするとして地上を抑えているうちに空中戦といこうか。

GNソードをソードモードで構え、加速する。

 

『俺が相手だ!掛かって来やがれ…!』

『援護するよ…!』

 

8機の編隊に一直線に飛び込む。

後方ではサハクエルがGNツインバスターライフルを2本に分けて構えていた。

深雪の支援か…。

この世、いや、どの世でも一番信頼できる!

 

『――――っ』

「……っ!」

 

GNロングバレルライフルから放たれる弾圧を掻い潜り、1機のヴァラヌスと衝突する。

敵機はGNビームサーベルを抜刀し、ブラックアストレアのGNソードの刃と競り合い、火花を散らした。

 

『ミハエル、ファングで他の奴らを牽制しろ…!』

『え?あっ…お、おうよ!』

 

声を掛けられて初めて我に返ったか。

いや、ミハエルは衝撃を受けつつも呆けていただけだった。

ヨハンとネーナは考えが巡りに巡って混乱し、我ここにあらずだ。

そう考えるとミハエルの症状はマシか。

モニターで2人の様子を一瞥すると目の焦点が合っていない。

これはダメだ。

呼び戻してやりたいが、如何せん俺にも余裕がない…!

 

『いけよ、ファングっ!もう2基あるんだよ…!』

 

珍しく全GNファングを放出したか!

ミハエルにしてはよくやった。

状況判断でしたかはわからんがこの際なんでもいい!

敵の数が多い、ファングも多数放ってもらった方が助かる。

 

『――――っ!?』

 

『やれ、レナ…!』

 

俺と接戦していたスローネ ヴァラヌスが多数のGNファングと散ってしまった味方に驚く。

その隙を絶対に逃さない。

恐らく対峙する機体のパイロットは陣形を気にしたのだろうが戦場で目の前の敵から目を逸らすなど言語道断!

やはり頂部やオーバーフラッグス、パトリック達程の手練ではない。

甘くは見れないが、奴らを相手にするより何倍も勝機がある…!

 

『狙い撃ちっ!お腕とお顔は貰ってくね』

 

軽く申し訳なさそうに苦い笑みを浮かべるレナの言葉通り、ブラックアストレアと交戦していたスローネ ヴァラヌスの両腕と顔面が撃ち抜かれて爆散する。

これでモニターが死に、攻撃手段を殆ど失った。

 

「墜ちろ…!」

『――――っ!?』

 

GNソードの刀身がスローネ ヴァラヌスの身体を一閃する。

時間差でスローネ ヴァラヌスは両断され、上半身と下半身は各々重力に従って落下していく。

そのうちの上半身、太陽炉のある方をGNソードをライフルモードにして撃ち抜いた。

スローネ ヴァラヌスやジンクスはGNドライヴが本来のコクピット部を占めているため、コクピットが腰前にある。

コクピットは下半身に付属してるから上半身とGNドライヴは破壊しても斬り分けてさえいれば問題ない。

粒子ビームで貫かれたGNドライヴは爆発し、スローネ ヴァラヌスの上半身も蒸発して消えた。

 

『よし、まずは1機――ぐうっ!?』

 

突如コクピットが激しく振動した。

痛てぇ…。

 

『――――っ!』

『――――っ!』

 

『クソ…っ!』

 

ファングから逃げ延びた上に、1機墜とした頃にはGNファングの粒子再チャージか。

俺が態勢を立て直す時には再び射出している。

 

『もう一度アタックだ…!』

『ミハエル、同時に攻めるぞ。ファングとレナの後方支援で敵を散らしつつ各個撃破する』

『分かったぜ、やってやろうじゃんかよ!』

 

ミハエルはやる気を取り戻したか。

逆に燃えるタイプなのかもな。

それか違和感を抱きつつも気付いてないか。

多分後者だ。

なににせよ、人手が多い方が助かる。

ミハエルは近接だし尚更だな。

後は後方支援が欲しいところだ。

 

『ヨハン、ネーナ。聞こえるか』

『我々は、本当に…。なんの、ために…』

『なんでよ…。なんであたし達ばっかりこんな目に!』

 

ヨハンはあの時のように真実を知り、動揺したような様子でネーナは怒りで声が届かなくなっている。

こればっかりは性格か…。

ヨハンのやつはもうわかってることだってのに…。

ショックを受けやすいみたいだな。

緊急事態に弱いのもそこから来るのかもしれない。

 

『はぁ…はぁ…。あと、7機か…。はは…っ!きついな』

 

切迫しながら空で衝突し、辺りを飛び交うスローネ ヴァラヌスを数えて失笑する。

地上の部隊もモニターや通信機器の障害から徐々に態勢を立て直しつつある。

双方から蜂の巣にされたらかなり厳しくなるな。

襲撃に使える残り時間も限られている…。

こうして間にも刻一刻と時は進むと考えると、なんだか心が落ち着かなくなる。

速く、もっと速くと自身を急かす。

苦戦の中、額から顎下へと伝う雫を感じた。




これを書いてる途中でサハクエルを秘匿しなくてはいけなかったと気付いて苦し紛れのマント被せた感が拭えなかった…。
ちなみにマント被りの元ネタはサンドロック改です。

ヴァラヌスというか擬似太陽炉搭載機が普通に公衆の面前に出てますが、詳しい描写や背景は後に書きます。覚えていれば。

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