少し前、深雪と二人で理想を掲げた時のこと。
あの時レナにリボンズのことをさらに詳しく話した。
するとあいつが俺に渡したものがあった。
『はい。これ』
『ん?…なんだこれ』
手のひらに収まるサイズの何か。
深雪から渡されたそれに俺は首を傾げた。
形状から察するにコードの両端を耳と首元に掛ける感じの使用法だとは思うが…。
『それは変声機。リボンズさんに正体がバレないよう出撃中はずっとつけてた方がいいと思うの』
『あ、あぁ…』
言われて納得した。
確かにそれっぽい。
よく見ればマイク的なのがある。
それにしてもなるほど…声かぁ。
全然気にしてなかったな。
時と場合によっては必要だろう。
それこそうっかり声を漏らした時の対策だ。
常に予防しておいて損はない。
『サンキュー、深雪』
『もうレナだってば…。お兄ちゃん、ほんとは慣れる気ないでしょ?』
『悪い悪い、そのうちな』
『もぉ…』
いつものやり取りでレナがむくれる。
怒らせてる身だが愛らしい。
料理はできるし頭はいいし演算が得意だから家計だってきちんと管理するだろう。
我が妹ながら最良物件だと思う。
深雪の時もレナの時も容姿は悪くないから尚更だ。
ちょっとレナの方が美形かもしれんが。
人工的に作られたから綺麗に作られてるだろうし仕方ないか。
『むっ…お兄ちゃんが失礼なことを考えてる気がする…』
『気のせいだ。敏感になり過ぎなんだよ、きっと』
『そうかなぁ…』
俺の言葉を真に受けてレナがんーっと悩む。
変なところで真面目だよな。
まあそれはさておき折角貰ったのだし変声機は使わせてもらおう。
考えてこなかったけど声バレは状況が悪化するしな。
レイ・デスペアを特定できる要素なんだし。
というわけで出撃の際には付けることにした。
試しに引っ掛けてみると案外位置取りが難しい。
とにかくこういった小さそうで重大なことも対策していこうと改めて考えた。
一度レナと話し合ってみるのもいいな…。
そんな思考を巡らせる。
上空に残る機体はスローネ ヴァラヌスが7機、地上には500を超える
態勢を立て直しつつあるみたいだが、そう簡単に解決できる問題ではない。
まだ余裕はある。
そのうちにスローネ ヴァラヌスの編隊を崩そう。
上下挟み撃ちで攻められたら敵わないからな。
『ブラックアストレア、目標を蹂躙する…!』
GNドライヴから粒子を噴射して加速、ヴァラヌスの陣形へとファングと共に突っ込む。
『もっと荒らせよ、ファングっ!』
『狙い撃ちっ!』
GNハンドガンで牽制しつつファングで敵陣を乱すスローネ ツヴァイ、ミハエル。
後方からマシンキャノンでバラついた散弾を撒き、ヴァラヌスの編隊を少しでも崩す。
さらにGNツインバスターライフルから放たれる連射撃が正確にヴァラヌスの装備を捉えたり、腕や足を持っていったりするお陰で敵も焦りと困惑が生まれつつある。
まあ避けたと確信したところに必中するし、気持ちは分からんでもない。
今の所レナは1発も外していないことも影響しているだろうな。
『行くぞ、ミハエル…っ!』
『おうよ!』
掛け声に応え、ツヴァイがGNバスターソードを抜刀する。
俺もブラックアストレアのGNソードをソードモードで構え、陣形から露出したスローネ ヴァラヌスへと接近した。
『瞬足で墜とす!』
『いくぜぇ!』
『――――っ!』
俺達の接近にヴァラヌスが気付いてGNロングバレルライフルの銃口を向けるが遅い。
ミハエルが引き金を引き、ツヴァイがGNハンドガンで牽制、ヴァラヌスは回避しつつこちらを狙って射撃するため放つ弾道は予定していたより少なくなる。
10にも満たさない弾道を俺とミハエルは避け、ヴァラヌスの間合いに入る。
ここまで来ればGNロングバレルライフルのリーチの長さ故に射撃を捨てざる負えない上に遠距離を狙える利点は皆無になる。
接近戦に持ち込んだ俺とミハエルは互いに剣を横薙ぎに叩き込んだ。
『――――っ!!』
『こいつ…!』
『耐えるか!』
ヴァラヌスは必死の抵抗ともみえる守りに移り、右膝にマウントされているGNビームサーベルを抜刀し、ツヴァイのGNバスターソードを受け止め。
右肩のGNシールドでブラックアストレアの斬撃をふせいだ。
圧されている上に2体1、両側からパワーで押し潰さん限りに攻めているからヴァラヌスのこの防御も時間を消費するだけでしかない。
だが、時間の惜しい俺達にとってこの乱戦の中での時間稼ぎはかなり辛い。
このまま押し切りたいが力任せよりも追撃を叩き込んだ方がいいか、個人の判断が尊重される……!
微塵もミスできない緊張感に支配されそうだ!
『狙い撃ちっ!』
『――――――っ!』
真っ先に判断したのは意外にもレナだった。
左右から俺達がヴァラヌスを抑えているのを利用し、動きの取れないヴァラヌスの両腕接続部を撃ち抜いた。
当然、GNソードを握る右手とGNシールドを装備している左腕は重力に従って落ちる!
『ナイス、深雪!はあああっ!』
『ぶった斬ってやるぜー!』
『――――っ!?』
俺とミハエルの叫びに応えるようにGNソードとGNバスターソードがヴァラヌスの腰を一閃する。
双方の刀身はヴァラヌスの身体を滑り、上半身と下半身を切り離す。
手順を覚えた俺たちは流れるように担当を分け、俺がブラックアストレアのGNソードをライフルモードでGNドライヴのついた上半身を捉え、ミハエルはコクピットのある下半身を戦場から即座に追い出すために追う。
ブラックアストレアのGNソードの銃口が粒子ビームを噴き、ツヴァイの脚がヴァラヌスのコクピットを蹴り落とした。
『残り6機…っ!』
『このペースならいけるんじゃねえの?』
『バカ、目的は戦闘じゃないんだよ!』
『やっべぇ。忘れてたぜ』
……ミハエルが不安を駆るが無視しよう。
目的はファクトリーの破壊とGNドライヴを可能な限り減らすことだ。
後者は今の状況に準じてる気もしないではないが、最優先は前者。
今回の最大目的といっていい。
だから、ここで時間を取られるのは中々辛いのだ。
『二人共避けて!下から来るよ…!』
『遂に来たか!』
『了解!』
レナの言葉に従い、眼下にも意識を向ける。
すると
凄まじい数の弾道を俺とミハエル、レナは躱していく。
『くっ…ヨハン、ネーナ!』
『……っ!これは…!』
『ちょ、今度は何よ…!』
動きの鈍っていた2人にも声を掛けて、アインとドライが回避行動を取る。
その隙にヴァラヌスの編隊はアインとドライに進路を変更していた。
動きのに打っている2人を狙うつもりだろうが、俺達に目もくれず素通りとは舐められたものだ。
黙って通すわけがないだろ!
『行かせるか…!』
『兄貴!ネーナ!てめぇらの相手は俺だ!』
『ハロちゃん、弾道予測…!』
『了解、了解』
レナが黒HAROに下からの弾道を読ませ、回避から意識を割いて、急速飛行する。
既にGNツインバスターライフルの砲口はヴァラヌス編隊の進行ルートに向いている。
行く手を阻むのか、粒子ビームで。
『ミハエル!同時牽制だ』
『了解!』
急速接近はしているが間に合いそうにはない。
ブラックアストレアのGNソードを刀身を折り畳み、ライフルモードに。
さらにツインバスターライフル、GNハンドガン。
計4つの砲門から粒子ビームが射出された。
『――――っ!?』
『――――っ!?』
『――――っ!』
目の前を粒子ビームが通り、進行を止めるヴァラヌスが4機。
だが、残り2機は先行していたため粒子ビームを背にする形になってしまった。
当然奴らはそのまま進行し、アインとドライそれぞれに衝突する。
『――――っ!』
『くっ…!』
『――――っ!』
『きゃあああっ!』
『ネーナ…!』
迎え撃とうとしたがアインとドライは衝突を受け、高度が下がる。
ネーナの悲鳴にミハエルが叫ぶが、2人を助けに行こうとすると俺達が進行を止めたヴァラヌス達が今度は行く手を阻む。
『てめぇら…
『――――っ!』
『ミハエル…!』
頭に血が昇ったミハエルには俺の声が聞こえてない。
ツヴァイで力任せに突破しようとヴァラヌス2機と交戦している。
ヴァラヌスは連携し、1機がGNビームサーベルでツヴァイ競り合い、もう1機がツヴァイの背後に回り込んでGNロングバレルビームライフルを構えている。
あのままいけばミハエルは…!
『ミハエル!後ろ…っ!!』
『――――っ!!』
『えっ…?ぐあああああっ!!な、なんだ!?』
背後から粒子ビームを受けたツヴァイは損傷し、背部から煙を上げる。
一気に高度も下がり、それを追うように近接に徹していたヴァラヌスが上から下へ叩きつけるようにGNビームサーベルを振るって追撃する。
『うぐっ…!てめぇ…っ!』
『――――――っ!』
なんとかバスターソードで防いだが圧されている。
もう1機のヴァラヌスも後方支援に徹してミハエルを追い込んでいた。
『ミハエル!』
『――――っ』
『……っ!邪魔っ!』
レナがミハエルを助けようとサハクエルを加速させるが、残った2機のヴァラヌスが塞がる。
2機ともGNビームサーベルを右膝からマウントされているのを抜刀して、刃を形成。
サハクエルに詰め寄った。
『レナ…!』
サハクエルは遊撃型だが、レナは遠距離を得意とし、近接を嫌う。
そのレナに対して複数相手は厳しい!
『――――っ!』
『――――っ!』
『ハ、ハロちゃん!近接のサポートを――』
『敵機セッキン!敵機セッキン!』
『そんな…!』
レナが黒HAROに助けを求めるが間に合わない。
咄嗟にGNビームサーベルを抜刀し、ヴァラヌスの振り下ろされた斬撃を防ぐが受け方が雑だ。
勢いに押された上に腰ががら空きになっている。
正直動きが甘い。
『――――っ!』
『――――っ!』
『うぅ…!』
双方から同時に攻められるレナ。
苦しそうに声を漏らす。
瞬間、湧き上がる感情があった。
『深雪に、触れるなぁぁぁああーーっ!!』
『――――っ!?』
かなり飛んだが後を目で追ってないので知らん。
不意打ちに成功するとすぐに視線を上へ向けて、深雪を苦しめる奴を睨む。
瞳は色彩に輝き、ロスタイムすら惜しいがために急速で下がった高度を下への加速を殺さず、上へと上げた。
大量のGN粒子を噴射し、動力という動力をフル活用する。
重力と加速度、下方へ掛かる力全てに抵抗し、上昇する。
コクピット内の重圧と振動が過激なアトラクションみたいになってるが、血反吐を吐いて俺が苦しむ程度ならいくらでも代償を払ってやる。
この命に代えても深雪は守る!
『二度と失ってたまるか!!』
『――――っ!?』
最短で戻ってきた俺にヴァラヌスのパイロットは反応できていない。
予想外の速度に対応出来ないところをブラックアストレアのGNソードをソードモードにして、その刀身でGNビームサーベルを持つヴァラヌスの腕ごと斬り上げた。
肘から下にケーブルのようなものが露出している。
だが、これで終わりではない。
GNソードをライフルモードに、銃口を目の前のヴァラヌスの顔面に向ける。
『いけよ…!』
『――――っ!?』
粒子ビームに貫かれて顔面部が大破。
ヴァラヌスのパイロットはモニターを失い、周囲が見えなくなっている筈だ。
その隙にGNソードの刀身を展開してソードモードで身体を横薙ぎに両断する。
『深雪は俺が守る…!』
『――――っ』
上半身と下半身に分かれたヴァラヌスは例の如く重力に従って落ちる。
太陽炉のある上半身は撃ち抜き、すぐさま俺はレナに、ブラックアストレアがサハクエルに寄り添った。
『大丈夫か!?深雪!』
『う、うん…。ありがとう、お兄ちゃん…』
モニターに映る深雪の表情に少し疲れが見える。
妙に疲弊してるな…。
心配だ。
『深雪…』
『お兄ちゃん、私は…いいからっ。皆を…』
『だ、だが…』
『お願い』
深雪から祈るように見つめられて何も言えなくなる。
ここで頷かないと兄として廃る気がする。
『分かった。任せろ』
『うん…!』
精一杯笑う深雪。
応えために振り返る。
地上からの弾圧はまだ続いていて、ミハエルは追い込まれている。
『クソ…っ!』
『――――っ』
『ぐああっ!?』
2機の連携により、近距離で優位に立った途端隙をついた射撃がきてまたもツヴァイが損傷する。
ミハエルの苦しむ声も聞こえた。
一方、ヨハンはトゥルブレンツの機動性を活かして相手を翻弄している。
トリニティの中では最も優勢だ。
だが、右腕に装着されたGNブラスターの粒子ビーム砲撃をスローネ ヴァラヌスがGNディフェンスロッドを回転させて防ぐと驚きのあまり動きが止まる。
『なっ!?あれはスローネ アインの…っ。貴様!』
『――――っ!』
ヴァラヌスと一進一退の攻防に移るヨハン。
『その存在をっ!許してなるものかぁぁあ!』
そして、GNブラスターの粒子ビーム砲撃でスローネ ヴァラヌスを撃ち抜いた。
運良くコクピットは無事で、落ちていったがヨハンらしからぬ強引さだ。
スローネ ヴァラヌスも防御していたような気がするが全部意に返さずぶち抜いたのか?
いつも冷静なヨハンとは思えないな。
『当たれ当たれ当たれぇーー!!』
『――――っ!』
『きゃあっ!?』
ネーナはGNハンドガンを乱射しているが、ヴァラヌスに回避されている。
それどころか反撃されていた。
『……っ』
どうする?
ヨハンの手が空いた。
俺とヨハンで分かれてネーナとミハエルの援護に行くか?
だが、ヨハンは冷静さをかいてパイロットの安全性を無視している節がある。
一声掛ければ我に返るかもしれないが確実ではない。
そして、そうこう悩んでいるうちにも時間は経過する。
今俺にはこの一瞬で最良の選択肢を要求されている――。
この場面で、最も最善手なのはなんだ!?
『……レナ』
『あ、あれを使えば…でも、使ったら…』
意を決して声を掛けたがレナは上の空だ。
後方支援も忘れてる。
ていうか『あれ』ってなんだ?
まあいい。
時間がない!
『レナ!!』
『えっ…!あ、はっ、はい!なに!?』
叫ぶとやっとレナが気付いた。
俺と同じで考えを巡らせすぎて混乱していたのかもしれない。
だが、もう決めた。
『あのフォーメーションを使う。すまないが、力を貸してくれ』
『えっ…。あの、フォーメーションって…』
『俺達の必殺フォーメーションだ』
俺の言葉にレナが驚愕し、目を見開く。
疲弊しているのを確認した手前、頼まれまでしてレナに頼りたくはなかったが…。
確実に全て完璧に解決するにはあのフォーメーションしかない。
俺達の『もしも』のとっておき。
『了解。デスペア・フォーメーション、行くよ』
レナが決心したように力を込めて頷く。
実践初めてだが、シミュレーションと訓練を詰んできた。
何度も解いた完成度の高い計算結果もある。
データ上成功する筈だ。
心配事としてはレナが心配だが…。
『すまない。酷使するみたいで…』
『ふふっ、今更だよ。じゃ、やろっか』
『あぁ』
飛び交う弾道に粒子ビーム。
激戦が繰り広げられる戦場の中で俺達は消えた。