息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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ケジメ

先の戦闘。

その映像を、相変わらず整備や新装備開発に追われていたレナは眺めていた。

 

「ブラックアストレアの機動性がやっぱり限界を超えてる…」

 

特に重点的に観察しているのはレイのブラックアストレア。

デスペア・フォーメーションにて、あの機体はレナの予想を超える機動力を見せた。

機体のみの動きであれば性能として有り得なくはない。

しかし、それはパイロットがいない状態のこと。

パイロットがいなければ当然ブラックアストレアは動くことはできない。

過去にレナの出会ったガンダムマイスター874はコクピットに乗り込まずに操縦を可能とするが、電子状態ではあそこまでの機動は生み出せないだろう。

故にレイの駆るブラックアストレアがどれ程に異常かが理解できる。

 

「アストレアの限界を無理矢理引き出してる…こんなこと、人間じゃ無理…。そもそもコクピットに掛かる負担が……あっ」

 

考察の最中、レナはひとつの結論にたどり着いた。

ブラックアストレアのパイロットは自身の兄であるレイ・デスペア。

彼は塩基配列パターン0000イノベイドであること。

そこに盲点があった。

 

兄と再会した頃を思い出す。

すると、レナはレイの話を聞いて疑問を抱いていたことがあった。

 

『その人って総合的にお兄さんより劣ってたの?』

『まあ射撃以外は…』

『射撃は得意だった?』

『いや?そんなこともなかったと思うぞ』

『え…?』

『おかしいな…。そんな筈は…』

 

レイから聞いた同配列のイノベイド、ナオヤ・ヒンダレス。

レイは彼に目立った能力はないと言った。

同時にレイ自身にも。

だが、これは本来()()()()()ことだ。

 

「私達には必ず何か突出した能力が生まれるはず…。あっ、もしかしてお兄ちゃんの能力は…!」

 

レナがブラックアストレアの限界を超えた機動力の真相に辿り着こうかという時。

端末に通信コールが表示される。

モニターに表示された名前は『フォン・スパーク』。

 

「えっ!?フォンさん!?」

 

突然の連絡に戸惑うレナ。

彼は何かと鋭く、油断ならない相手だ。

故に不意打ちで連絡が来ると非常に困った。

それに通話となれば見透かされることも多くなるだろう。

だが、無視するわけにはいかない。

レナは仕方なく溜息をついて通信を繋いだ。

 

『あげゃ。よぉ、久しぶりだな。レナ』

「う、うん。どうしたの?フォンさん」

『いや、ちょっとな』

 

通信を繋ぐ前に音声のみに切り替え、対応するレナ。

ブラックアストレアの映像は閉じ、フォンに意識を向ける。

 

「……ヴェーダの方が上手くいってないの?」

『はっ、痛いとこ突いてくるな』

「やっぱりソレスタルビーイングに情報渡した方がいいんだよ、きっと」

『そいつにはまだ早い。まずは俺の目でお前の兄とかいうやつの情報の真偽を見極めたい』

「……そっか。でもあまり悠長にされると困るな」

『あげゃ!その時はお前を相手にするだけだ』

「はは…変わらないね」

 

用件があるとすればフォンと彼の所属する組織フェレシュテとレオに任せたヴェーダ奪還の件だと推測し、レナから話を切り出す。

これはフォンに流れを持っていかれないためだ。

彼の返答にも苦笑いだけを返す。

 

『―――で、お前トランザムって知ってるか?いや、知ってるよな』

「え?」

 

突如フォンが切り込んできた。

あまりにも突然、対応不可な程に隙をついてきた。

レナは思わず虚をつかれたような反応を取ってしまう。

これでは答えを教えているようなものだ。

 

「そ、それは…」

『いや、いい。その反応が見れただけで充分だ』

「……フォンさん、それはずるいよ」

『あげゃげゃ!久しぶりに1本取れたな!』

「もう…」

 

呆れ、疲れるようにレナは嘆息をつく。

フォンの洞察力と判断力を相手にしているとこの世の対人の中で最も気力を消費するのだ。

 

『やはりシステムを知ってるか。つまり、お前はイオリアから事前に情報を得ている。自身の太陽炉にその機能も詰んだな?』

「そうだね。でもイオリアさんに直接聞いたわけじゃないよ」

『やっぱりか。ハロか何か情報を独占できる端末を持ってるな?』

「……正解」

 

あっさりと言い当てられてしまった。

レナの返答にフォンは満足そうに口角を上げる。

 

「この調子だとすぐに辿り着きそうだね」

『あげゃ!まだまだお前の正体は掴めないさ』

 

楽しそうに笑うフォン。

このように彼は昔からレナの正体を探ろうとしてくる。

いつか自分から話そうとしたレナだったが、フォンに拒否されてしまった。

自分で辿り着いた方が面白い、という理由で。

それからというものレナの正体に自力で辿り着こうとするフォンの掛け合いにレナは付き合わされることになっている。

これが心底疲れるのだ。

 

「で、結局なんの用だったの?」

『そう急かすなよ。もう用は殆ど済んだ』

「結局それなんだね…」

『あげゃげゃげゃげや!』

 

呆れるレナにフォンはただ爆笑を返す。

ただでさえ忙しいというのにトランザムシステムについても見抜かれ、掛け合いに付き合われレナは一気に疲労が溜まった。

心なしか視界も揺れている。

 

「じゃあ、もう切るね」

『いや、待て』

 

整備な新装備の開発、やらなければならないことを片付けたいレナは通信を切ろうとする。

だが、フォンはまたも拒否した。

そして、また見抜く。

 

『お前の声帯から疲れを感じる。何日寝てない?』

「……そういえば暫く数えてないかな」

 

声だけで気付かれてしまった。

レナは一瞬ここまでで一番動揺し、間を開けて冷静に返した。

だが、効果は皆無だったが。

 

『そうか。要件は終わりだ』

「じゃあ切るね」

『あぁ』

 

見抜いてきたフォンは労うわけでも注意する訳でもなく、ただ通信を遮断してしまう。

レナは焦点の合わない視線を泳がせたのち、また大きく嘆息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局軌道エレベーターの極秘ファクトリー破壊は失敗。

俺はソーマと再会し、また離別した。

 

「……」

 

大型の窓越しにブラックアストレアを見つめる。

アストレア(あいつ)もソーマと対峙した。

ソーマの駆るジンクスとほんの一瞬だけど戦うことになってしまった…。

 

「まさか声でバレるとはな…」

 

結局肝心な時に役に立たなかったな、変声機。

別に責めるつもりはないし、激戦だから仕方なかった。

レナには感謝してるからソーマのことは話していない。

たぶん話したら謝ってきそうだし。

 

「はぁ…」

「なにため息ついてるの?」

「うおっ、ビックリした」

 

いつの間にか部屋にネーナが入ってきていた。

ネーナは俺の隣に腰掛け、絨毯の上で俺の視線の先――ブラックアストレアを見遣る。

 

「アストレアがどうかした?」

「いや、別に…」

「ふーん」

 

気付かない振りしたがネーナが俺を一瞥した後、視線を落とした。

何か事情があるのは見透かされてるようだし、単に話してもらえなかったのがショックだったのかもしれない。

信頼してないわけじゃないんだけどな。

俺達の間に壁なんてもうないも同然だ。

 

「ネーナだから話さない訳じゃない。俺にも内に秘めておきたいことがあるんだ」

「あら、そう…。それってどんな事かだけでも聞かせて貰えないの?」

「そうだな…」

 

撒いたつもりだが気になってしょうがないみたいだな。

探り探り俺の機嫌を損ねないようにネーナは俺を不安そうに見つめている。

仕方ない、核心には触れずに話すか。

 

「まず俺は元人革連軍に所属していたんだ」

「えっ…あたし初耳なんだけど…」

「そりゃ初めて言ったからな。それで昨日ジンクスの編隊と戦っただろ?」

「う、うん」

「あれは頂武ジンクス部隊…かつての仲間達なんだ」

「……っ!」

 

衝撃を受けたのかネーナは言葉を詰まらせる。

ソーマについては触れなかったが、かつての仲間達と対峙することになった心境は紛れもなく真実だ。

実際悩んではいたし、話してもいいのだが…。

 

「そんな…わ、私…どうしよ…っ!」

「落ち着け」

 

明らかに焦燥し、顔面蒼白するネーナだがどうやら少しだけ勘違いしている。

 

「俺の目の前で頂武の誰かがお前達に殺されたのを目撃してはいない」

「そうなんだ…。あっ、でも…」

「あぁ。頂武に所属していない仲間達、人革連軍にいた顔見知り達は数多くお前達に殺されている」

「……」

 

ネーナは遂に話すことさえできず俯く。

俺とは決して目を合わせない。

合わせる顔がないのだろう。

そんなネーナの紅髪にそっと触れた。

 

「レイ…?」

「俺達は戦争をしている。人が死ぬのは当然だ。別に責めたり、追い立てたりしようとはしない。でもお前達はやはり奪い過ぎた、だからこそ咎を受ける必要がある」

「うん、わかってる…」

「でもお前達も自由を迫害されている。まずはお前達の戦いを終わらせることが先決だ。その後に俺とヨハン達と一緒に贖罪を果たそう。きっと永遠に拭えない罪だろうが、それでもだ」

「…うん」

 

涙を拭うとネーナは少しだけ微笑を浮かべ、頷いた。

俺はネーナの頭をなるべく優しく撫でてやる。

こうしてるとソーマを思い出す。

ソーマにもよく撫でてやっていた。

もうあの繊細な白髪に触れることはないだろう。

少し頬を紅潮させていたネーナだったが、ふと何かを思い出したようにまた蒼白した。

 

「そういえばあたし意味もなく気まぐれで人を殺したことあったの…」

「……それは」

 

ハレヴィ家の悲劇か。

連続出撃に疲れたネーナが暴走し、鬱憤晴らしにルイスの親戚の結婚式会場に破壊活動を行ってしまった。

もちろん忘れてはいない。

どういう心境の変化か、推測でしか分からないがあの時の行動をネーナは反省するようになったか。

あそこまで狂気を持っていたのに成長…と言っていいのかは分からないがかなり変わったな。

 

俺はネーナをドライの暴走から解放する時も、その他の時もいつも罪を意識するよう叫んでいるつもりだ。

俺自身も罪を背負っている。

だから、贖罪を、咎を決して忘れたように前提として想いを吠えてきた。

それが応えたと考えていいのか…。

正直分からないが、重要なのは原因よりもネーナ自身の変化と成長だ。

深くは考えなくていいだろう。

その代わり、少し教えてみようか。

 

「スペインの病院にあの時の被害者が入院している。唯一の生き残りだそうだ」

「えっ?」

 

予想通り、ネーナは驚愕して即座に反応する。

これはちょっとした褒美のようなものだ。

どちらかというと祝杯に近いのかもしれない。

ネーナの踏み出した一歩を無駄にしないための。

 

「ルイス・ハレヴィ。それがあの事故で…ドライの攻撃で左腕を失った女の子の名だ。まだ学生だった」

「……あたし、謝っても許されないよね」

「あぁ」

 

ここで否定して慰めるのはネーナのためにもならない。

敢えて肯定して頷く。

 

「……」

「……」

 

暫く沈黙が続く。

ネーナが答えを出すまでいつまででも待つつもりだ。

やがて、ネーナはゆっくりと口を開いた。

 

「あたし、今まで自分の幸せだけを考えて生きてきた。今だってあたし自身の為だけに…あたしの自由の為にだけ戦ってる。そこは絶対に譲るつもりはない。でも、あたし、ケジメをつけたい」

「あぁ。決して許されはしないだろう…だがら、一緒に謝りに行こう」

「うん…。その為にもあたしは、戦う。戦って、生きて、自由を掴んで清算する…!」

「ネーナ…」

 

凄まじい前進だ。

ネーナはネーナなりに前を向いて突き進んでいる。

もう兄に引っ張られるだけじゃない。

己の意思で強く生き始めた。

そんなネーナの、ネーナ達の人生を物のように握る奴らはやはり断罪すべきだ。

抗い、否定し、裁く。

 

その為に俺はネーナと共に戦う。




決意を固めたネーナ。
トリニティは各々想いを抱いて戦いに身を宿していく。
己の意思でガンダムを駆るトリニティとデスペア、彼らの前に遂に黄金の悪魔が現れる。
生きるために、戦え。
それが例え創造主でも。



つまり金ジム来るぜ。
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