息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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悲劇襲来

アレハンドロ・コーナーを倒し、国連軍を生み出し、擬似太陽炉を世界にばら撒いた元凶が消えた。

だが、世界の加速は止まらない。

アレハンドロの言う通り、統一国家は始まりつつある。

ソレスタルビーイングやガンダムという共通の敵により武力で纏まった世界。

そんな世界は未だ争いを止める気配はない。

やはりまだ擬似太陽炉が蔓延するのは早かった。

 

「俺達のやるべきことは命を奪わないこと、救うことだけじゃない。ソレスタルビーイングが本来やるであろう戦争根絶も行う。その結果が俺とレナの理想を叶える」

『そうだね。本来の流れで行われることが必ずしも起きるわけじゃない。私達はもう手を抜けないから、最後までやらなきゃね』

「あぁ。その為に国連軍を淘汰し、俺達の手で紛争を根絶する。アロウズなど生まれてしまってはならない」

『うん、そうだね』

 

通信越しで今後についてレナと話していた。

俺の言葉にレナは何度も相槌を打ちつつ先の戦闘で傷付いた機体の改修作業を行っている。

俺はというといつもの本拠からは離れ、現在(ワン)家へと向かっているところだった。

飛行艇を使って、脳量子波遮断スーツを着用している。

 

「と、なるとやっぱり次に相手するのは国連軍ってことになるそうだな」

『まずは地上の頂武をなんとかしないといけないよ。……戦わないと』

「分かってるさ。ただ戦わなくてもいい方法はある筈だ。まずはそれを探ってからにしよう」

『了解。頂武を退けたら擬似太陽炉を製造する施設を壊して回る?』

「あぁ。だが、その前にトレミーチームと合流しよう」

『じゃあ連絡入れておくね。あっ、あっちの都合も考慮してからの方がいいかな』

「トレミーチームが国連軍相手に苦戦しているならな。出来るだけ早くは頼む」

『分かった』

 

そんな感じで次の行動が決まっていく。

そして、話し合いたいことは大概終えたのでミーティングを切り上げようとした時。

俺達の通信にネーナを始めとしたトリニティが介入してきた。

 

『やっほー、聞こえる?レイ』

「あぁ。聞こえてるよ」

『土産、忘れんなよ!』

『そそ、帰ったら祝勝会するんだからっ!』

「はいはい。分かってるって」

 

アレハンドロを倒し、支配から開放されたトリニティはガンダムを所有する限り戦いから逃れられないとしても自由を得ることが出来た。

少なくとももう戦わされることはない。

今後も戦うことがあればそれは真に己の意思で行うことだ。

ちなみに解放されたことを祝って帰ったら騒ぎ倒す約束をしている。

まだ戦いは終わってないが、俺もレナも了承してる。

それくらいはいいだろうってな。

 

ただその前にガンダムの改修に足りないパーツをこうして俺が(ワン)家まで取りに行っている。

経費は(ワン)家だからな、有難いが送料無料まで付けられると申し訳ない気持ちになった。

だから、俺自らが向かっている。

改修中はやることもないしな。

俺整備とか手伝えないし。

 

『ミハエル、ネーナ。あまり彼を困らせるな』

『はーい』

『はいよ』

 

通信にヨハンも割って入ってきてミハエルとネーナが散る。

こうして見ると兄弟間の関係は完全に修復したな。

良かった。

 

「俺が留守の間、頼むぞヨハン」

『把握している』

 

応じるようにヨハンが頷く。

アレハンドロは排除したが、リボンズには俺達の本拠の場所を知られている筈だ。

ならば次期に襲撃を受けるのは避けられない。

俺が留守にしている間、防衛に関してはヨハンに期待している。

トリニティの指揮に、整備で手が離せないレナのサポートをしてもらいたい。

 

『まさか貴方に託されるとは…正直、とても嬉しく感じる』

「そうか?お前のことはもう信用してる。意志は見せてもらったし、なによりここまで一緒に戦ってきた」

『レイ・デスペア…』

 

ヨハンの決意はしかと見てきた。

もはや他人から与えられた使命で戦うヨハンではない。

己の意志で、己が未来と弟妹(きょうだい)達のために戦い、これまでの罪を認めた。

銃弾に重いも軽いもない。

ネーナの言葉には憎しみや私欲で放つ銃弾と他人や正義のために放つ弾丸の同一性について意味が込められていると少なくとも俺は考えている。

目的がどうであれ放つ弾丸の重みは変わらない。

弾丸は放てば等しく命を奪っていく。

 

戦争根絶のためとはいえ、トリニティがやってきたことも同じだ。

目的がどうであれ命を奪うこと自体は罪として捉えられる。

サーシェスを撃ったライルもそうだった。

その上で考えるとやはりトリニティは必要以上に殺し過ぎた。

ヨハンはその罪を認めてくれた。

とても重要なことで、未来への一歩になってくれると信じている。

そんなヨハンを、ミハエルとネーナも仲間として信頼してもいいだろう。

それに値するだけの改心をあいつらはして見せたのだから。

 

「ま、とにかくそっちは任せたぜ」

『あぁ。何が起きても可能な限り対処しよう』

「了解」

 

その言葉を最後に俺達は通信を切った。

それにしてもヨハンはやる気に満ち溢れてるな。

頼りになる。

まあアレハンドロは倒したし、地上では脅威となるのも後は頂武ジンクス部隊くらいだ。

ささっと物資を受け取って帰って、騒ぎ倒したら任務を決行するとしよう。

頂武をなんとかすれば地上での活動も楽になる筈だからな。

 

と、まあそれはまずは帰ってからの話なわけで。

やっと飛行艇が(ワン)家の領地に入った。

着地地点はまだあと5km程先だ。

相変わらず敷地が広い。

見渡す限りこれ(ワン)家の領地っぽいな。

とにかく視界に入る分は。

 

「こちらレイ・デスペア。着地体勢に入る」

『了解しました』

 

通信を送ると従者と思わしき男の声の返答が返ってくる。

指示された通りに飛行艇を操縦し、着地は無事に終わった。

物資を受け取るためにハッチを開け、本来ならそれだけで済むし降りる必要はないが、挨拶もなしというわけにはいかないだろう。

飛行艇を降りて家主に会いに行った。

 

「ごきげんよう。お待ちしておりました」

「悪いな、わざわざ出迎えてくれて」

「いえ。こちらから申し出たことですから…お気になさらずに」

 

従者の方々に連れられて館内に入るとすぐに出迎えてくれた少女、王留美(ワン・リューミン)

チャイナドレスに身を包み、丁寧に頭を下げてくる。

何処となく高貴な振舞いを見せるのでこっちはこっちで緊張してくる…。

 

「そういえば紅龍(ホンロン)は…?」

「お兄様は今手が離せない状況ですので、代わりに私が対応させて頂きます。物資を積む間、あちらに腰掛けお休みください。私しが極上のお茶を用意致しますわ」

「い、いや別にそこまでしてもらわなくても…」

「ご遠慮なさらずに」

 

王留美(ワン・リューミン)が有無を言わせず微笑を浮かべてくる。

凄く、断りづらいです…。

仕方ない、受け入れよう。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

「はい!是非」

 

俺が応じると王留美(ワン・リューミン)は嬉しそうに笑顔で応えた。

突然俺の手を取ってソファーまで連れて行き、卓に置かれた高価なお茶を囲んで向かい合って座る。

王留美(ワン・リューミン)はご機嫌でお茶を注いでくれた。

 

「ありがとう」

「いえ、どうぞお口に合えば…」

「大丈夫、美味しいよ」

「それは良かったです」

 

華のように微笑を浮かべる王留美(ワン・リューミン)はとても満足そうだ。

奥で従者が胸を撫で下ろしてるし、もしかしたら俺が気に入らなかったらお叱りを受けていたのかもしれない。

まあ不味いなんて言うことは常識的にない。

あとこんな高価なものを否定したら間違いなくレナに領収書でビンタされる。

ちょっと想像したらめっちゃ怒ってた。ごめん。

 

「ところで、その後進展はありましたか?」

「あぁ。ソレスタルビーイングの裏切り者…監視者アレハンドロ・コーナーを倒した。トリニティはあいつに作られた存在だったから解放するって意味もあるが」

「まあ。あのお方が裏切り者だったなんて…」

 

一服して報告してなかった事項を話すと王留美(ワン・リューミン)は実に令嬢らしく口元を片手で覆った。

当主が紅龍(ホンロン)に代わってもアレハンドロとは会ったみたいだな。

恐らく紅龍(ホンロン)のお付きだったんだろうが、それならそうと事前に伝えておくべきだった。

紅龍(ホンロン)も大切な妹を危険なやつの前に連れ出したくはなかっただろうし。

ま、もう無事に終わった話だからいいけどな。

 

「どうか致しましたか?」

「いや。貴女が無事でよかったと思ってね」

「……ご、ご心配していただけるのですね。少し驚きました…」

「ん?まあそりゃな。えっ、ダメだった?」

「い、いえ!とても嬉しく思っております」

 

よく分からないが王留美(ワン・リューミン)は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯いてしまった。

何か失言したっけ?

心当たりがないからどうしようもないな。

本人に聞くのも憚られる。

 

まあ深く考えなくていいか。

とにかく俺と話す王留美(ワン・リューミン)は本当に貴族のお嬢様って感じで俺の知ってる歪んだ感情の持ち主には見えない。

やはり紅龍(ホンロン)が当主になったことが幸いしたんだな。

レナには感謝しなくてはならない。

彼女の未来を救ったこともそうだが、あの歪んだ感情を持って欲しくはなかった。

それに、変革するこの世界に絶望して欲しくない。

俺達の理想が叶ったその時、改めて世界を見て欲しいと思っている。

それまで……いや、それ以降もどうか生きて欲しい。

生き続けて欲しいんだ。

 

「あの、私しの顔になにか?」

「いや…やっぱ俺の知ってる王留美(ワン・リューミン)とは違うなっと思って…」

「あぁ。なるほど」

 

どうやら凝視してしまったらしく問われ、正直に返すと王留美(ワン・リューミン)は怒るわけでもなく納得したように頷いた。

そして、茶を一口だけ口に含み、困ったように苦笑いを浮かべる。

 

「私し自身、別の世界線の私しが歪んだ感情を持ってるなんて信じられません。お兄様が当主に選ばれず、私しが(ワン)家の当主となった、世界…。当てつけに世界の変革を望むなんて考えられません」

「そうか…。まあ結局は(ワン)家の先代と当主が教育を間違えた結果だ。紅龍(ホンロン)も先代は厳しかったとだけは言っていた」

「お兄様がそんなことを…。いえ、でも…」

 

ま、大分包んだ表現ではあるよな。

その辺察しがついてるのだろう。

先代が厳しかったのを自覚しつつそれでも紅龍(ホンロン)は先代を尊敬していた。

そんな紅龍(ホンロン)王留美(ワン・リューミン)はきっと。

 

「私しはお兄様を尊敬しております。少なくとも恨むことなどありません」

「なら良かった」

 

心の底から安堵できる言葉を貰えた。

カップをお淑やかに置き、そっと微笑む王留美(ワン・リューミン)は何処かとても柔らかい雰囲気を醸し出している。

これなら歪むことはそうそうないだろう。

俺も美味な茶を飲み干して立ち上がる。

 

「ありがとう、美味しかったよ」

「もう行かれるのですか?」

「あぁ。あまり余裕がなくてな。それに、妹が待ってるんだ」

「そうですか…。残念ですが、お見送りします」

「よろしく頼むよ」

 

短い時間だったけど楽しい一時を過ごさせてもらい、戦いばかりの疲労から少しだけ癒された。

もう物資は積み終えてるだろうし、飛行艇に向かう。

すると、外に出ようとする俺に背中から飛び込んできた華奢な女の子がいた。

王留美(ワン・リューミン)だ。

 

「私しは…レイさんを好いております。どうか、このお気持ちを受け取って頂けませんか?」

「……ありがとう。でも、ごめん」

 

王留美(ワン・リューミン)の、少女の勇気ある告白を俺はキッパリと断った。

妹と出会い、理想のためにソーマと敵対してしまった俺に応える資格はない。

それにやっぱり…。

 

「本当にすまない」

「いえ。ご迷惑をお掛けしました。ご武運を」

 

王留美(ワン・リューミン)は意外にもあっさりと身を引いた。

そんな彼女は、振り返ればやはり年相応の辛そうな表情で俯いている。

さすがにご令嬢を撫でるわけにはいかない。

とうすべきか…。

 

「そうだ、何か欲しいものはあるか?」

「え?」

 

思いついたので問いかけてみると王留美(ワン・リューミン)は唐突のことで首を傾げる。

そして、暫く考えると名案を浮かんだように満面の笑みを浮かべて要求してきた。

 

「ではレイさんを」

「却下」

 

思わず即答してしまった。

何を言ってるんだ、この娘は…。

まさかこんなところでお嬢様な一面と俺の知る彼女を垣間見るとは思わなかった。

なんたる不意打ち。

 

「冗談です。最近、洋服が乏しくて困っていますね」

「そうか。ならお茶のお返しに今度奢るよ」

「ふふっ、高いですよ?」

「ぜ、善処する」

 

代わりとでも言うように小悪魔のような笑みで上目遣いで見つめてくる王留美(ワン・リューミン)

俺は少しドキッとしつつ苦笑いした。

これは軍人時代の資金が吹っ飛ぶ予感がするな。

まあ必要経費だ、良しとしよう。

 

それにしても王留美(ワン・リューミン)は何処で俺に惚れたのか。

思い当たる節といえば…よく前世の癖が抜けなくて紅龍(ホンロン)ではなく、王留美(ワン・リューミン)に頼み事をしてしまう時がある。

その時によく接するが…まさか、な。

一介の令嬢となるとここまで初心になるのか。

悪い男に騙されないか心配になるな。

天に唾吐いていない、俺は悪いやつじゃない…はず。

 

「じゃあな、また会おう。王留美(ワン・リューミン)

 

用事を済ましたので飛行艇に乗り込み、風でなびく髪を抑える王留美(ワン・リューミン)に手を振る。

すると、何故か彼女は俺に近付いてきて少しだけ操縦席に乗り出してきた。

 

「レイさん。私しのことは留美と呼んでください」

「え?あぁ…別にいいけど。なんで?」

「……お兄様だけズルいからですっ」

 

従者の制止も構わず近付いてきたかと思えば、王留美(ワン・リューミン)――留美はそう言って頬を紅潮させ、膨らませた。

その姿は年相応…いや、それ以上に子供っぽい程に拗ねた様子に見える。

男を惑わす美貌なことだけあって俺の目から見てもとても可愛らしく見えた。

て、てかやばいな…凄いドキドキする。

 

「わ、分かった。じゃあ、今後とも支援頼む。留美」

「えぇ!」

 

別れ際にこれからの縁も結び、留美は華のような笑みで頷いてくれた。

俺が戦う身でなければこんな素敵な女性と付き合ってたのかもしれない…自惚れかもしれないけどそう感じた。

だが、レナに出会い、共に戦っていなければ俺は留美と出会うことはなかった。

ほんの少しだけ矛盾を感じないでもない。

 

物資を積み終えたので、留美とも別れを済ませ、俺は飛行艇で(ワン)家を後にした。

時間も限られてるので本拠には寄り道せずに正規ルートを通る。

そういえばお土産としてあの高級な茶葉を頂いた。

レナとネーナはきっと喜ぶだろう。

ミハエルは喜ばないだろうが。

その辺は後でツヴァイの武装を増やしてやるとかするか。

 

と、帰還のための飛行中。

俺は飛行艇のレーダーに何が引っ掛かったのに気付いた。

これは……MS(モビルスーツ)

全4機の反応だ。

でもこの辺りって結構本拠に近いような…。

 

「モニターに表示っと…。うーん、拡大してもあまり分からな―――待て、これは…」

 

確かに見えた。

レーダーじゃない、映像で。

鮮明度は高くないが目に映ったのは赤い粒子だった。

間違いない。

あれは、擬似太陽炉のGN粒子に激しく酷似する。

 

「ま、待て…そんな…そんな、ことは…!」

 

すぐに嫌な予感と直結する。

だって、奴らの進行方向を逆算すればその方角は……俺達の本拠と一致するんだ。

最悪の場合を考えないのがおかしい。

待て、落ち着け。

粒子を発してるのは4機中、肉眼で捉えたものだが1機だけのはず。

たった1機だ。

断定するには早まり過ぎだろう。

 

「頼む…頼むから無事でいてくれ…」

 

分かっていても焦燥する。

既に最高速度である飛行艇を何度も急かす。

頼む、急いでくれ。

もっと速く動けるだろ!

 

「よし、もうすぐ――――っ!?」

 

思わず息を呑んだ。

ようやく山を超え、俺達の本拠が見える地点。

乗り越えてそこから見えたのは――焼け野原だった。

戦闘の跡を意味する黒煙に、レナがいつか教えてくれた防衛システムである砲台の大破も確認した。

そんな、馬鹿な…。

 

「嘘だ…そんな…っ。み、みんなは!?クソ…!」

 

急いで着地の準備をする。

一刻も早く生存者の確認がしたいから、飛行艇の着地地点など考えずに決めた。

そのせいで不時着に近いような形になり、振動が伝わるがそれどころじゃない。

飛行艇を止めるとすぐさま廃地となった地上に降りて走り出す。

 

「レナ!ヨハン…!ミハエル、ネーナ!!みんな何処にいる!?生きてるなら答えろ!!」

 

叫びが響き渡るが誰からの返答もない。

クソ、まずは施設の中に入る。

非常口を見つけたので侵入しようとしたが扉が歪んでいた。

 

「クソ!急いでんだよ!!」

 

開かない扉にイライラして銃弾でこじ開けた。

扉は役割を放棄して俺はそれを蹴り飛ばす。

中の様子も酷い。

壁は一面殆ど焦げていて、先に続く廊下もところどころ瓦礫で閉鎖されていた。

なんとか隙間を見つけては奥へと進んでいく。

 

「おい!誰か返事してくれ…!!」

「――――え?」

「……っ」

 

やっと反響した俺の声以外が聞こえた。

近くで拾ったので見渡すと背後に瓦礫からこちらを覗く男の子がいた。

軍事ファクトリーを襲撃した時に別働隊として避難誘導してくれていた男の子だ。

 

「よ、よく無事でいた!レナは見なかったか!?」

「なっ……ふざけんな!!」

「え?」

 

勢いに任せて両肩に掴み掛かって尋ねたら返答には逆に激昴が返ってきた。

俺の襟元を男の子は凄い形相で掴みあげる。

まるで憎き相手のように。

 

「お前が!お前が早く戻ってきていれば、こんなことにはならなかったのに…!!」

「……っ、なにが、あったんだ…?」

「みんな…みんな死んだ。俺達を守ってあの3人が…っ!!」

「あの3人…。まさか…!?」

 

3人の纏まりでくくられる奴らなんて俺達の中ではあいつらしかいない。

そんな…嘘だ…。

やっと、やっと前を向いて未来へ向かって歩み始めたのに…。

罪を認めて悔やんでくれたのに。

一緒に戦おうと手を取り合ったあいつらが、死んだ…?

 

「うそ、だろ…。だってあいつらはまだ、何も…何もできてないじゃないか。これからだろう!!やっとこれから咎を受け、生きていける筈だったのに――」

「黙れ!お前のせいだ!お前が助けに来なかったから……お前が、殺したんだ!!」

「……っ、俺が…っ?」

「――――や、やめて…!!」

 

思わず男の子に切迫していた俺、俺に怒りをぶちまける男の子。

その口論の中に制止の呼び掛けを叫ぶものがいた。

俺はその声を誰よりも知っている。

何度も聞いてきた、大切な人の声だ。

聞き間違える筈など絶対にない。

 

「レ、レナ…!!」

「お兄、ちゃん…」

 

瓦礫の奥から小さい女の子に支えられたレナが顔を覗かせていた。

俺はすぐにレナに駆け寄り、その身体を支える。

触れてわかった。

何故かレナの身体が凄く熱い。

 

「凄い熱だ…」

 

まさかと思ってレナの額に触れてみたら高熱を発していた。

道理でレナの顔色が悪い訳だ。

表情も何処か覇気がない。

 

「わ、私のことはいいから…」

「いい訳あるかよ。ほら、一旦座れ」

「うん…」

 

なんとかレナを椅子代わりにした瓦礫に座らせる。

腰を落ち着かせるとレナはすぐにぐったりと脱力した。

 

「レナ。ほら、水だ」

「ありがとう…」

 

たまたま持ってた水分をレナに与える。

すると、レナは飲み干すと同時に俺に弱々しく掴み掛かってきた。

 

「お、おい。まだ安静に…」

「それどころじゃ、ないの…。敵が、攻めてきて…。ヨハンさんと、ミハエルと、ネーナが――――うっ!」

「レナ!」

 

必死に俺に伝えようとしてきたレナが突然嘔吐した。

高熱を発してるだけじゃない、危険な状態で何かをした後だ。

 

「まさかお前、その身体でMSに…」

「ごめ…っ。ごめん、なさい…あの3人を助けられ、なかった…っ。ごめんなさい…ごめんなさい…!」

「レナ…」

 

涙を流し、嗚咽を響かせるレナの背中をさすってやる。

ここまで話を聞いてきたが、感情的になったり満身創痍だったりで全貌は分からない。

断片を繋ぎ合わせて唯一分かるのは『敵が攻めてきて、トリニティが殺された』ということ。

俺のいない間に一体何が…。

 

「お、お兄ちゃん…」

「なんだ?まだ安静にしてろ」

「ダメ…伝えないと…。お兄ちゃんも知らないこと、だから…」

「どういうことだ?」

 

辛そうに肩で息をしながら貧弱な力で俺にしがみつくレナ。

やはり話が見えない。

しかし、俺の知らないこと…というのはもしかしたら俺の知識にないこと、つまり本筋ではなかったものの話ということなのかもしれない。

とにかくレナを落ち着かせつつ話を聞こう。

こうなると深雪は頑固だ。

 

「ヨハンさんとミハエル、ネーナを…殺した人…。ここを襲撃してきた人のこと…。その人は――」

「おい、レナ…?」

 

急にレナが言葉を切った。

脱力したかのように手を離し、地に落ちる。

死んではいない。

見るからに体調を悪くし、意識を失ってしまったようだ。

眠りにつき、呼吸はマシにはなったがやはりまだ荒い。

 

「はぁ…はぁ…お兄、ちゃん…」

「レナ…」

 

かなりしんどそうだ。

身体を横にしてやり、女の子に介抱させる。

俺は聞かなければならない話がありそうだ。

 

「頼む」

「う、うん」

「さて…」

 

女の子の承諾を得て、俺はさっきまで口論し合っていた男の子に視線を向けた。

レナを心配しそうに見つめていた少年は俺と目が合うと途端に顔を顰める。

悪いな、今はいがみ合ってる暇もない。

 

「まず最初に俺のせいだというのはどういうことだ」

「通信に応じなかった。助けを求めたのに…」

「なに?」

 

慌てて端末を開くと確かに連絡が来てる。

クソ、気付かなかった。

確かにこれは俺の落ち度だ。

 

「そうか…。悪かった、で済むと問題ではないな。分かった。罪を認めよう。それで何があった?」

「認める気あんのかよ」

「緊急事態だ。頼む」

「……」

 

レナを見遣って頼むと少年も黙った。

暫く思考に浸り、決断してくれる。

 

「分かった。教える。でも、先生を安全な場所に運んでからだ」

「あぁ」

 

俺も同意見なので賛同する。

幸い、メディカルルームは崩壊していたが、レナの自室が残っていた。

というかみんなそこに避難してたみたいで子供達は皆そこにいた。

ベッドにレナを寝かせて、落ち着かせ、話を聞く。

 

「よし。……聞かせてくれ」

「――襲撃があったのはお前が出てちょっとあとだった」

 

間を空け、辛そうに俯き、話してくれた。

地獄のような蹂躙の話を。




攻勢だった盤面が逆転する。
襲来する最強の敵にトリニティは勇敢にも立ち向かう、恩義のために。
だが、崩壊は一瞬の出来事だった。
これは、罰なのか。
翼持ちが否定する。



また長くなってしまった…。
短過ぎて困ってた時間はどこへ。
>追記
王留美の口調が間違ってたので修正しました。
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