息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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否定する者(下)

『あたしは自由になって、咎を受けて…兄々ズと生きていく。そして、私達を救ってくれたあの人達に恩返しをする…。その為にも、あんたは邪魔なのっ!!』

『吠えるな、小娘。頭に響く』

『馬鹿にしてくれちゃって…!』

 

GNビームサーベルを二刀構え、ドライがアドヴァンスドジンクスに突っ込む。

だが、突如ネーナの視界で天地がひっくり返った。

現実は、アドヴァンスドジンクスが急速に回転したのだ。

 

『えっ?』

『その両腕、頂くとしよう』

 

刹那、一閃が走る。

GNバスターソードの刀身が下から孤を描くようにネーナの目に映り、ついさっきまで繋がっていた筈のドライの腕は綺麗に斬り落ちた。

 

『う、そ…っ』

 

いつか見たプルトーネ ブラックの無茶な機動。

それをアドヴァンスドジンクスは完璧に体現して見せ、ネーナには大きな衝撃でもあった。

明らかに動揺するネーナに隙が生まれたのを敵は見逃さない。

 

『フッ、貰った――ぐっ!?』

 

だが、重心の概念を捨てた無茶な機動の対価はすぐにやって来る。

苦しみに顔を顰めた敵のパイロットはドライを追撃することを諦め、逆に自身の隙を埋めるためにドライを蹴り飛ばす。

 

『きゃあああっ!?』

『チッ、やはりこの大きさは邪魔か。ん?』

 

GNバスターソードの欠点である小回りの効かなさに舌打ちする中、レーダーはしっかりと接近する機影を捉える。

 

『例え技量差があろうとも…っ!』

『愚かな。しつこい男だ』

 

GNランチャーの砲口を構えつつ迫り来るアインに、目を細める。

GNビームライフルを失い、もはや五体満足な唯一の機体。

それを倒す算段を既に頭の中で構築されていた。

だが、アドヴァンスドジンクスのパイロットは見過ごしていた。

蹴り飛ばしたドライの行動を。

 

『ステルスフィールド…!!』

『なに!?』

『いっけぇぇぇぇぇええええーーー!!』

 

突如横殴りされるが如く展開される粒子の波。

至近距離からの粒子の大量散布は凄まじい輝きを放ち、明らかに巻き込まれたものの視界を傷付ける。

それが敵の妨害となった。

 

『ぐっ…!小娘が…っ!』

『よくやった、ネーナ!』

 

ネーナの作った隙を無駄にさせまいとヨハンはアドヴァンスドジンクスを狙う。

目にダメージを受け、苦しむ敵にその仲間も心配そうに通信で声を掛けてくる。

 

『お、おい。ほんとに大丈夫なのか?なんなら俺が…』

『……っ。大丈夫だ、安心しろ。――もう終わる』

 

次の瞬間、アドヴァンスドジンクスはGNバスターソードをスローネ アインに向けて投擲した。

 

『なっ…、そんなもの…!』

 

だが、ヨハンも距離さえあれば意表を突かれても回避できる。

ただしその意表が相手の目的だった。

 

『ははっ!貰った!!』

『なに……っ、GNランチャーが…』

 

思わず目を見開くヨハン。

アドヴァンスドジンクスを墜とそうと粒子をチャージし、構えていたGNランチャーが突如爆発した。

否、撃ち抜かれた。

アドヴァンスドGNビームライフルの放った粒子ビームによって。

 

『フッ…機体の重心軸から右側、私から見れば左側か。そちらを優先した投擲、やはり逆に避けるのが人間の心理…。誘導、させてもらったぞ…!』

『馬鹿な…。そんなことが…!』

 

GNランチャーを破壊され、相手の心理誘導にヨハンが驚愕する。

しかし、基地防衛に燃えるヨハンがこの程度で諦めることはなかった。

すぐに表情を強ばらせて端末を操作する。

 

『トゥルブレンツ!』

『粒子ビーム…!?一体何処から…、新たな機影だと!』

『GNミサイル…!!』

 

施設から飛び出た支援機、トゥルブレンツユニット。

トゥルブレンツはヨハンの指示でGNミサイルコンテナからミサイルを発射し、アドヴァンスドジンクスに向かってGNブラスターで粒子ビームを放ちながら攻め入った。

トゥルブレンツも施設の襲撃を企む敵を討ち倒そうと言わんばかりに。

 

『面倒な…しかし、私の敵ではない』

『────────────!』

 

粒子ビームにGNミサイル、その両方を後退することで躱すアドヴァンスドジンクスがミサイル同士のぶつかり合いで起きた爆発。

それにより視界が黒煙で埋まってしまう。

 

『なるほど…私の視界を奪ったか。考えたな』

『今だ!』

『ケリを付けるぜ!』

『はああああっ!』

 

黒煙から各々方角から飛び出すスローネ。

アインはGNビームサーベルを二刀構え、ツヴァイは一本を手に、ドライは両腕を失ったため鋭い蹴りの体勢でアドヴァンスドジンクスを捉える。

そして、黒煙の向こうでは敵から見えないトゥルブレンツの狙撃。

もはや敵には逃げ場もなく、トリニティは勝利を確信していた。

だが―――。

 

『茶番は終わりだ』

『えっ?』

 

アドヴァンスドGNビームライフルから放たれた一筋の赤黒い光。

粒子ビームが一閃し、一点のみ黒煙を晴らす。

その先には貫かれるトゥルブレンツの姿、やがてトゥルブレンツは爆発し、塵となった。

 

『なに!?』

『んだとっ!?』

『悪いが、私はAEU軍で最も優れた狙撃手(スナイパー)だ。後は黒煙が展開される前の座標と一目見た機動性での行動範囲さえ分かればどうとでもなる』

 

――そして、お前らのポジションから最も効果的に支援できる位置を算出した。ただそれだけだ。

 

そう、淡々とまるで当たり前の事かのように敵のパイロットは口にした。

その一言でトリニティは旋律し、絶望を悟る。

 

『さて、フィナーレといくか』

『ぐあっ…!』

『がはっ!?』

『きゃあああっ!?』

 

横薙ぎに払われた粒子ビームの散弾にスローネは3機とも地上に墜ちる。

唯一の武器であったGNビームサーベルも衝撃で手放してしまった。

 

『こんなものか』

『ま、まだだ』

『ふん』

『……!』

 

ツヴァイにはもう一本GNビームサーベルがマウントされていたものが残っていた。

しかし、抜き出すと同時に撃ち落とされ、刃を生成することさえ許されない。

 

『アグリッサ部隊、ガンダムを鹵獲しろ。パイロットを殺せ』

『了解!やっと俺の出番だな…!』

『全くなんで私がこんなことを…』

『が、頑張りますわ!』

 

戦闘区域から外れて待機していた3機のMA(モビルアーマー)、アグリッサがアドヴァンスドジンクスのパイロットの指示により、移動を開始する。

倒れ込むガンダムスローネへと6基のクローを展開し、覆い被さるように地上へと降り立った。

 

『くっ…まさか…』

『お、おい…よせ…』

『いや…嫌…っ!』

 

なんとかアグリッサの下から抜け出そうとするスローネだが、アインもツヴァイもドライも損傷が酷く動きが取れない。

そして、アグリッサのプラズマフィールドが起動した。

 

『ぐああああああああああああーーーっ!!』

『うああああああああああああーーーっ!!』

『きゃあああああああああああーーーっ!!』

 

木霊する3人の悲痛の叫び。

稲妻さえ走るプラズマの光がガンダムスローネを包み、中のパイロットを苦しめる。

地上からも見える悪夢の光――それはレナもしっかりと目にしていた。

 

「あっ…ああ…っ!ト、トリニ……ティ、が…。ミハエルが…!」

「先生!まだ動いちゃ…」

「離して!助けなくちゃ!このままじゃ3人とも死んじゃう…!!」

「……っ」

 

施設内で子供達に必死に止められながらもその制止を解こうとするレナ。

だが、子供の非力な拘束でさえレナは振りほどかなかった。

何度もサハクエルに手を伸ばすが届かない。

そんなレナを見て辛くなった男の子――後に俺を責めた子供――が端末を起動させて通信を要請する。

相手は俺だが、暫くしても出なかった。

 

「ミハエル…!」

『レナ…!』

 

子供達の制止の中、サハクエルへ向けて必死に手を伸ばすレナと。

プラズマの走るスローネ ツヴァイのコクピット内で施設へ向けて必死に手を伸ばすミハエル。

ツヴァイも苦しみの中、格納庫に向けて手を伸ばした。

それに見向きもせずアドヴァンスドジンクスは施設へと近付いていく。

アドヴァンスドGNビームライフルを手に持って。

 

『よ、よせ…やめやがれ…。せめて、俺を倒してから…』

『ミハ、エル…』

『ミハ兄…っ』

 

必死に制止を呼び掛けるがアドヴァンスドジンクスが足を止める様子はない。

そして、遂に施設への攻撃を始めた。

 

『やめろぉぉぉぉおおおおおーーーっ!!』

 

プラズマによる激痛も意に介さず叫ぶミハエルだが、それを裏切るように粒子ビームが施設を破壊していく。

やがて、爆炎が本拠を包んだ時。

ミハエルの意識はプラズマと共に遠ざかっていった。

 

『クソ……やっぱ、ダメなのかよ…。夢見ちゃ…奪ってきたもんと釣り合いが、取れてねえのか…っ。クソ…、クソっ!あぁ、ちくしょう……当然だよな…これは、罰だ…。ごめんな、レナ……。俺、レナのこと――――』

 

それを最後にツヴァイの伸ばした腕は地に落ちた。

通信も途端に切れてしまう。

 

『ミハエルーーーーーーーー!!』

『ミハ兄ィィィィィーーーー!!』

 

何度申請しても繋がならない通信に、ヨハンとネーナが苦しみすら無視して叫ぶ。

格納庫で、破壊工作をされて損傷を受けた施設の中、レナもそれを目の当たりにして涙を流す。

 

「そんな…嘘だよ…。ねえ、ミハエル…嘘って、言ってよ…」

「先生…」

「あぁ…」

 

子供達も思わず目を伏せる。

一人脱落したのを相手側も見て通信内で会話を始めたという。

 

『うわっ…えぐいな。あー、そうだ。こん中に赤いガンダムいない?あ、マインの下にいるその機体。それに乗ってるの結構可愛い女の子なんだよね。それでさ、その子悪いお兄さん達に感化されてるだけだから殺さないでくれよ、マイン』

『はい!了解しました、ナオヤ様!……チッ、また新しい女か。節操ないわね』

「……っ!」

 

目の前で人が死に、殺しておいて能天気な話をする男の声。

レナは自分に似た何かとそれに混じる不快なものを感じた。

そして、襲撃の衝撃で落ちた端末の画面を見遣る。

そこに映るアドヴァンスドジンクスを睨んだ。

 

「この人は…まさか…」

 

レナがわなわなと震える中、命は次々と消えていく。

次に悲劇が訪れたのはヨハンだった。

 

『ミハ…エル…。ネーナ…わた、しは…』

『ヨハン兄?』

『……』

 

ネーナが話し掛けるが反応はない。

真面目なヨハンの声は二度と返ってこなかった。

そして、ネーナも…。

 

『あたし…まだ、何も……してない…のに…』

 

スローネ ドライの中で意識を落とす。

トリニティ全員との通信が切れたレナは、戦慄する。

 

「ヨハンさん…ネーナ…そん、な…」

 

外の様子を見つめながら絶句するレナ。

絶望のどん底へと突き落とされたような気分になり、スローネを回収するアグリッサ達を目にした時、身を乗り出した。

 

「待って…!」

「あ、先生!」

 

連れて行かれようとしているスローネに居ても立ってもいられなくなったレナは遂に子供達の拘束を抜け出し、サハクエルへと駆けた。

しかし、力が込めれずすぐに倒れ伏せてしまう。

 

「先生!」

「大丈夫!?」

「……っ、こんな…ところで…」

 

思わず駆け寄る子供達。

だが、レナは進行を止めようとせず、這いつくばるようにしてでもコクピットを目指す。

柵を掴み、なんとか身体を起こしながらレナはミハエルの最後の言葉を思い出す。

 

――これは、罰だ。

 

「違う!罰なんかじゃない!こんなただ奪われただけのことが罰なわけがない!!」

 

レナは必死に否定する。

その想いの強さで少しずつ前へ、前へと歩き始めた。

 

「神様が天罰だと言っても私は否定する!奪い合いの連鎖なんて間違ってる…!」

 

レナの言葉と気迫に子供達も止めることはできなくなり、サハクエルへと向かうレナに女の子がせめてものフォローをした。

 

「先生!まだサハクエルは修理が終わってない。だから、使うならあっち…!」

「……っ」

 

指さされたのはサハクエルと橋を挟んで隣に構えるブラックサダルスード。

女の子の誘導にレナは力強く頷いた。

 

「ありがとう!」

 

パイロットスーツを着込み、子供達にサポートされながらもレナはブラックサダルスードに乗り込んだ。

大切な仲間を取り戻すために。

 

「はぁ…はぁ…っ。ハロちゃん…ごめん、私こんなだから…。代わりに計算して?……私は何分戦えるのか」

『レナ。レナ』

「お願い…」

 

顔色を悪くしながらもレナが精一杯笑顔を作ると、黒HAROは応じ、耳をパカパカと開閉させる。

暫くすると演算結果を導き出した。

 

『10分ダケ。10分ダケ』

「10分、か…」

 

呟きながら操縦舵を握る。

しかし、その手は震えて上手く力が込められない。

さらにどうも落ち着いて座っていられない。

身体が熱く、疼いていた。

思考も鈍り、焦点も定かではない。

それでも――。

 

『ブラックサダルスード、行くよ…』

 

GNスナイパーライフルを装備したガンダムサダルスードTYPE-Fブラック。

その機影は本拠から飛び出し、去っていったアドヴァンスドジンクスとアグリッサの編隊を追った。

 

 

 

 

 

ソレスタルビーイングのものと思わしき施設への襲撃。

その任務を終えた少数部隊はガンダムスローネの鹵獲に成功し、基地へと帰投を目指していた。

その道中、彼らは他愛もない話を繰り広げる。

 

『ナオヤ様!(わたくし)でもやれましたわ…!』

『あぁ。凄いぞ、シャルロット!』

『……』

 

犬のように賞賛を求める良いとこ出の女性パイロットを求められた通りの回答を返すナオヤ。

そんな茶番を無言で見守るネルシェンはマインの呟きを拾う。

 

『はっ、犬みたいに尻尾振っちゃって…惨めな女ね』

『貴様も大概だがな』

『はぁ!?』

 

冷たく一言言い放つネルシェンにマインは噛み付き、いつも通りのやり取りを広げる。

ただネルシェンも戦闘の後で疲労を感じていたため普段より一層面倒そうにしていた。

そんな中、一筋の光が彼らの編隊を襲う。

 

『きゃっ!?』

『シャルロット!』

『なに!?』

 

ネルシェンでさえ驚愕するアグリッサを貫いた一撃。

――この私が、全く察知できなかっただと!?

 

『粒子ビーム…まさか!』

 

思わず振り返るネルシェンはもはや遠く、小さくなった施設からこちらへ接近する機影を見つける。

かなり距離が空いていて、目測で15kmはあった。

 

『あの距離から…!?』

『あ、ネナちゃんが…!』

『1機落としたか!』

『ひぃ…!死ぬかと思いましたぁ!』

 

アグリッサから逃れたイナクトは間一髪パイロットの命は助かり、ネルシェンはそれを一瞥しつつ敵を睨む。

戦闘中に聞いた名前とナオヤの呼んだ名前が違っていたが、それすら無視した。

そして、接近する機影の姿が明らかになっていく。

黒い狙撃銃を持った星の如く存在感を放つ機体、その名は――。

 

『ガンダム…っ』

 

脳裏で各所で集めた情報が思い浮かぶ。

人革連の鹵獲作戦で介入したという出処不明の粒子ビーム、同日にAEU領にて大気圏を突破した特定不能の物体、合同軍事演習にて現れた全身ローブに身を包んだMS(モビルスーツ)、ユニオン領のアイリス社軍需工場にてガンダム同士の戦闘――そこに映る不可解な粒子ビーム。

その全ての辻褄を合わせる為のガンダムがどうしても1機足りなかった。

その1機が、世界には見られていないガンダムがネルシェンの目の前には居た。

 

『そうか…貴様が…。やはり居たか』

『はぁ…はぁ…貴女―――を――』

『通信?』

 

途切れ途切れで聞こえる少女の声。

反射的に通信を繋ぐ。

すると、怒りのこもったガンダムのパイロットの声が聞こえてきた。

 

『私は…貴女を、許さない…!』

『ほう。だったらなんだ?』

『くっ…、ネルシェン!』

 

ナオヤが粒子ビームを回避しながらネルシェンに呼び掛けるが、ネルシェンは一瞥して問題ないと対応すると、すぐ様意識を迫り来るガンダムに向けた。

 

『貴女を、倒す…!』

『ははっ。やってみろ!!』

 

刹那、戦闘態勢に入ったアドヴァンスドジンクスと狙撃するブラックサダルスードとの衝突が始まる。

距離は十全に空いている。

それは、レナの間合いだ。

 

『ブラックサダルスード、目標を淘汰するよ…!』

『アドヴァンスドジンクス、任務を続行する』

 

そして、10分間に渡る激戦が始まり、レナは負けた。




崩壊したブラックサダルスード。
大きな打撃を受けたデスぺアは満身創痍の中、絶望に沈む。
だが、たった一人歪みを知ったレイが正義の刃を振り下ろす。



トリニティが生き残るor生き返るとか実は生きてたとか考察してはみたのですが、どうしてもこの3話くらい後に想定してるシーンが茶番になるので断念しました。すみません。
本編その後のトリニティを気に入ってくださりありがとうございます。

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