セイロン島でのソレスタルビーイングの武力介入を経て、人革連は軍備を増強した。
武力介入に対抗するための特別軍事措置法を制定したらしく、海だろうが地上だろうが
どこの過激派だよ。
蜂でも縄張りに侵入者が入ってきた時一度目は警告で済ませるんだぞ。
堅いのは
まああれは堅そうなだけだが。
だが、これはちょっと前の話……というのも人革連の宣言の後にスミルノフ中佐の部隊が新設された。
部隊はスミルノフ中佐専任で、人選も中佐によって決められた。
勿論集められたのは精鋭ばかりで人革連は超兵1号、ソーマ・ピーリスをも導入してきた。
あ、俺は精鋭じゃないからな。
未だに射撃は外す。
狙い撃つぜは言えなさそうだな。
そんで次はタリビア共和国だ。
人革連の宣言に続いて大きな動きといえる。
タリビア共和国はユニオンを脱退して独自のエネルギー使用権を主張し始めた。
確かタリビアは反米意識が高かったとかスメラギが言ってた気がする。
どうやらユニオンに太陽光発電システムを独占されるのは我慢ならないらしい。
これまた他国からの圧力には軍事的反発を、とのこと。
それにしてもユニオンに反抗するとはな。
グラハムスペシャルでも受けとけ。
俺は嫌だ。
見た瞬間に戦場投げて逃げてやる。
「少尉、タリビアが何故このような強硬策に出たか分かるか?」
一緒に声明を映像で見ていたスミルノフ中佐がソーマに尋ねている。
社会勉強だな。
「ユニオンが軍事行動を起こせば、ソレスタルビーイングが介入してくると考えての行動だと思います」
「その通りだ」
あーそういえばそうだっけ。
なるほど。
結局目当てはソレスタルビーイングな訳ね。
ソレスタルビーイングとユニオンをぶつかり合わせるつもりか。
タリビアは軌道エレベーターが近くにあるからな。
強硬姿勢に打って出ることができる。
賢いっちゃ賢いが結果は大体見える。
今回はソレスタルビーイングとユニオン、タリビアの問題だ。
人革連の俺はお留守番だな。
丁度いい。
見物こそが求めてたものだ。
折角だしちょっとだけ戦場近くまで行こう。
見たいものがあるんだ。
「デスペア少尉。何処に行く?」
「少し準備を。戦場を見に行こうと思いまして」
「なに?戦場を見に行くだと?」
「ダメですか?遠目でもいいので少しだけ見ておきたいものがあって」
「ガンダムか…」
スミルノフ中佐が呆れたように俺を見る。
しかし、違うんだよな。
ガンダムを見に行くんじゃタリビアに侵入することになる。
もしくはタリビア海域。
だけど俺の目的地はどちらでもない。
タリビアもユニオンもどうでもいいし、ガンダムに近付けば戦場に入ってると同じだ。
いや、一応ガンダムも見ることになるのかな?
「違いますよ。見に行くのはフラッグです」
「フラッグ…?」
それだけ言い残して俺はモニターのある部屋を後にした。
外出許可を貰って向かうのは戦場になるであろうタリビアから少しだけ離れた場所。
転生者が物語に介入して本筋が変わるなんて話はよくある。
だが、俺はまだ直接的に戦争には介入していない。
ならばタリビアの声明の結末は本筋と同じ筈。
目当てのものを見れる場所も変わらないと睨んでいる。
と、俺が車を出そうとしたら運転席の隣に飛び乗ってきた者がいた。
作り物のような美しい白髪は揺らいだ後、彼女の肩へと落ち着く。
飛び乗ってきたのはソーマ・ピーリスだ。
「どうしたんだソーマ。俺がこれから行くのはタリビア近海だぞ」
「私も同行する。既に中佐の許可と、外出許可は取ってある」
「中佐が許可を?」
俺は半ば強引に出てきたがちゃんと中佐から了承を得たのか。
「中佐は戦場を見てこいと仰った。私自身もこの眼で見ておきたい」
「あぁ、なるほどね。だが戦場の映像は常に見ておいた方がいいぞ。これから見に行くのは多分期待と外れる」
「……?」
おそらく御目付け役のソーマ。
彼女が首を傾げるが、もう言うより見た方が早いだろう。
車にエンジンを掛けてタリビア近隣へと向かった。
波風に揺らされる船の上。
ソーマが見つめていた画面越しにタリビアとユニオンの一触即発な場面を見ていた。
ユニオンは艦隊やらでタリビアを包囲。
タリビアは完全に戦闘態勢だ。
第三者から見ればユニオンが一方的に軍事力を展開しているということになる。
タリビアはあくまで防衛だ。
これでタリビアが折れれば話は解決だが、タリビアの覚悟からして声明を引っ込める気はないだろう。
「デスペア少尉、ガンダムが…!」
「もう来たか」
予想より早かった。
声明を受けて出発したけどそれでもギリギリか。
アニメで見るとそういう細かい時間感覚は省略されるから現実だとタイミングを計りづらいな。
「あの…デスペア少尉。何故私達はここに…」
「ん?今にわかる」
ソーマがまだ怪訝そうにしている。
まあ確かにタリビアの海域にユニオンの艦隊がいて、タリビアは海域に面している地域に三ヶ所
寧ろ戦場なんて見えない場所に向かっていた。
ソーマは不安そうにしているが直に分かる。
というか俺が見たいだけだから付いて来なくて良かったのにな。
「あ、到着したら着替えておけよ」
「は?」
「……人革連ってバレたら不味いだろ」
「あぁ、なる…ほど?」
ソレスタルビーイング、ユニオン、タリビアの戦場に人革連の人間がいるのが見つかるのは駄目だということは分かるのだろうが、さらに怪訝さを増している様子を見るにやはり向かってる場所が問題なんだろうな。
何もないとこに行って何故そこまでしないと行けないのかとか思ってそうだが、戦場から凄く離れてるわけでもないからと無理矢理納得してるみたいだ。
「……っ!ガンダムがタリビアに攻撃を!?何故!?」
ソーマの実況は熱いな。
画面を見てない俺にも伝わってくる。
ソレスタルビーイングは軍備を展開しているユニオンではなく、防衛のため
タリビアはまだ何もしてない。
ただユニオンが攻めてきた時の為に構えているだけだ。
だから、タリビアが攻撃されたことにソーマは驚いているのだろう。
仕方ない。
説明役の中佐がいないからな。
事前に知ってただけだが説明してあげるとしよう。
「ソレスタルビーイングの最初の声明で言ってただろ。戦争を幇助する国も武力介入の対象に入るってな」
「ソレスタルビーイングはタリビアを紛争を引き起こす存在として見た…ということか…」
「そういうことだ。今頃ユニオンが脱退を撤回すれば防衛してやるとか言ってるんじゃないか?」
「なるほど…。撤回すれば反米意識は薄まり、タリビアの現政権も安泰することになる」
「それだけじゃない。他国もタリビアの二の舞は避けて反米政策を取ることはなくなる筈だ」
「そこまで考えて…。それが、ソレスタルビーイング…」
「……」
まったく、解説役は大変だ。
それも自分の意見じゃないと引け目を感じて面倒臭い。
とにかくソーマはソレスタルビーイングの動きに関心を持ってきたみたいだな。
少なくとも今回の動きには納得できたんだろう。
じゃあそのついでに面白いものを見ておこうぜ。
「到着だ」
「ここは…」
タリビア近海の海域にたどり着いたところで船を留める。
船が留まるとソーマが辺りを見渡すが何もないただの水平線しか視界には映らない。
まあそう焦るなって。
「ここにフラッグが?」
「ん?まあな」
なんでフラッグが来ること知ってるんだ、と思ったら中佐との去り際に言い残したもんな。
忘れてた。
到着したんでソーマの端末映像を俺も覗く。
丁度ユニオンが動き出した時だった。
ユニオンの部隊がタリビア領土に侵入。
一見踏み込んだにも見えるが明らかに防衛だろう。
この時点でタリビアはユニオン脱退を撤回したということになる。
確かそれがソレスタルビーイングの目的だったな。
ガンダム達も撤退を始めた。
もうすぐだな。
釣りでもして待っておくとしよう。
暇な時間があるかなと思って釣竿を持ってきておいて良かった。
さっきから一匹も釣れないけど。
魚類には好かれないらしい。
そんなどうでもいいことを考えつつ双眼鏡でタリビア方面を眺めると、やっと来た。
双眼鏡が粒子を散布する
青い機体、ガンダムエクシアだ。
「ソーマ。ガンダムが来たぞ」
「ガンダムが…っ!?」
いちいちオーバーリアクションだな。
あ、エクシアが来るとは言ってなかったっけ。
当然の反応か。
すまんな、反省する気はないが。
だって勝手に付いてきたし。
「……っ!本当に…!」
ソーマが俺の双眼鏡でエクシアを発見する。
フラッグの時には返せよ。
ちなみにエクシアの進行方向はタリビアの反対方面で、俺達は進行ルート上にはいないしかなり離れている。
なので気付かれないだろう、多分。
まあ気付かれたとしても私服に着替えてるしたまたま目撃した一般人で済む筈だ。
これで撃たれたらもう笑ってやる。
その件についてはガンダムよりフラッグの方が心配だな。
この頃の刹那はまだ幼いというか自制心があまりないが目撃者を殺すのは目的に沿わない。
刹那よりフラッグファイターの二人が撃ってきそうでちょっと怖い。
まあその時はその時だ。
いざとなったら脳量子波でリボンズに悪口言って死のう。
多分大丈夫だと思うけどな。
民間人を撃つとは思えないし…人革連ってバレたら終わりかもしれないけど。
まあそんなことはどうでもいいんだよ。
ガンダムエクシアに急接近する機影が一つ。
通常の二倍以上のスペックのフラッグが現れた。
「来た!ソーマ、貸せ!」
「あ、あぁ…」
半ばソーマからぶん取った双眼鏡でフラッグを追う。
速い!速すぎる!追いつけねえ。
黒いフラッグがエクシアに射撃する。
エクシアは回避行動に徹するしかない程の精密な射撃だ。
あの射撃の腕、めっちゃ羨ましい。
教えて貰えないかな。
エクシアに避けられて行き過ぎた黒いフラッグは旋回、空中変形した。
確かフラッグの空中変形は重力だかなんだか忘れたが負荷が凄まじかった筈だ。
空中変形を出来るものはそれだけで凄腕だとか。
そして、フラッグの空中変形を初めて成し遂げた人物があの黒いフラッグには乗っている。
その名も――。
「グラハムスペシャル…。グラハム・エーカー!」
「……っ」
ソーマの息を呑む音が鳴る。
超兵は目もいいのな。
双眼鏡がなくとも黒いフラッグの動きを見れてるらしい。
超兵のソーマが言葉を失うほどあの黒いフラッグには無駄がない。
スミルノフ中佐が言っていた。
この世界にガンダムに対抗できる機体はないと。
だが、グラハムはカスタムフラッグで性能差があれども技術で縋りついてみせた。
俺はその瞬間をしっかりと目に焼き付けた。
もう感動を言葉で表すこともできない。
予想外の苦戦にエクシア――刹那は海中に逃亡。
黒いフラッグ――カスタムフラッグのグラハムはガンダムを取り逃した。
「これが…デスペア少尉の見たかったもの…」
ソーマが唖然としている。
悪いが応える余裕がない。
そうだ、こういうのを見たかったんだ。
生で見た凄まじい戦闘。
たった数秒でもとてもいい思い出ができたと素直にそう思えた。