息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

51 / 88
儚き願い

人革連領の軌道エレベーター『天柱』。

それを利用して俺達は宇宙(そら)へ向かっていた。

ナオヤとネルシェンという女パイロットとの戦いの後、ネーナと再会したがスローネ ドライは格納庫から忽然と消えてしまっていた。

その為スローネ ドライは回収できず、俺とネーナはリアルドを拝借して子供達を連れたデルとの合流地点地点へと向かった。

なんとかデル達と合流でき、まだ体調が辛そうなレナをフォローしながらも『天柱』へと到着。

そして、軌道エレベーターで宇宙(そら)にある基地施設に一時身を隠そうと上がっている。

そんな中、レナの為に金を叩いて予約したエレベーターの個室で俺はデルと話し合う。

 

「国連軍のジンクス部隊も全機宇宙(そら)に上がるか…」

「地上にガンダムの脅威がなくなった今、当然の対応だ」

「まあな…。ただ集まったGN-Xの数が本来より格段に多い。トレミーチームに対応しきれるかどうか…」

「本来ならばアルヴァトーレという疑似太陽炉搭載型MAがいたのだろう。だが、地上で叩いた。ならば少なくともトレミーそのものが初手で詰むことはないと思うが…?」

「それは、そうなんだが……」

 

デルの言葉に歯切れの悪い返答を返す。

トレミーと国連軍、一度目の衝突の時はデュナメスの損傷とロックオンが効き目を失うという代償を経て国連軍を退けた。

それでも苦戦し、圧されていたのは間違いない。

そこに頂武ジンクス部隊、ナオヤの一派が混じれば……アルヴァトーレがいなくとも充分な被害が予想できる。

あくまで想定の域は出ないが楽観視はできない。

それに、俺達も打撃を受けた。

レナは戦えないし、俺も再生治療する時間がなかったから右腕と右脚、右眼を応急処置で済ませたのみで負傷している。

今やロックオンより容態が酷いかもしれない。

 

「フェレシュテから連絡があった。『ヴェーダ』へ侵入したが、もぬけの殻…。その後、フォン・スパークは『ヴェーダ』に閉じ込められたらしい」

「『ヴェーダ』を端末ごと別の場所に移動した…!?」

「あぁ」

 

少し時期は早いが、リボンズは『ヴェーダ』を奪還しようとするフォンとレオに対策を討ったらしい。

本来より早く『ヴェーダ』の本体データを別の場所に移動し、元々『ヴェーダ』のあった場所は巨大な端末だけを残したもぬけの殻となってしまった。

まあフォンに関しては閉じ込められてもまた自分用の端末(マイ・ヴェーダ)に変換してやっていくだろう。

 

帰ってきたレオがフォンを救えなかったと嘆いているらしいが、後でフォローしておく。

あいつは閉じ込められた程度じゃ死なないしな。

恐らくマイスター874もいるだろうし、心配することはない。

それよりもフォン・スパークと共に戦えなくなってしまった今の状況の方が痛手だ。

実質補給以外の支援をフェレシュテには期待できなくなった。

それでも充分助かりはするけどな。

 

「態勢を立て直したいが、それ程余裕があるわけでもない。トレミーチームの支援は最悪不可能だと考えた方が…」

「諦めてるのかい?」

「なに?」

 

影のある表情のまま顔を上げるとデルが険しい目で俺を見つめていた。

確かにさっきから俺は不安要素ばかりを口にしている。

指摘されてそうかもしれない、と思ってしまった。

 

「少しは、その通りなのかもしれない…。正直俺達の現状も厳しい。それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない」

 

口にするともうダメになってしまうような気がする。

俺の思考を微かに過ぎるのは俺達の理想の断念に繋がること。

改変には対になる因果律というものがある。

俺はレナと共に犠牲のない恒久和平のために本来の流れを改変しようとしていた。

だが、トリニティを救い出し、未来へ向けて歩み始めてくれたと思った矢先、ヨハンとミハエルが死んだ。

あの二人だけが、ネーナを残して逝ってしまった。

俺にはそれが本来の流れへと強制的に引き戻そうとする因果律に思えて仕方ない。

もちろん俺が目を離し、楽観して本拠から離れてしまったことが原因で起こった悲劇でもある。

でも、それでもふと頭の中で過ぎるんだ。

 

「とにかく着いたらすぐ、私達はプルトーネ ブラックとサハクエルの整備に取り掛かるつもりだよ。あんたはどうする?カプセルに入るかい?修理が完了するまで時間はあるよ」

「どれだけ掛かる?」

「少なくとも3日は欲しいね」

「そうか…」

 

サハクエルは細かい整備で済むが、プルトーネ ブラックの損傷具合は酷いからな。

アルヴァトーレとの戦闘の後からレナはまだ手をつけていないらしいし、子供達が多少手を加えたようだがそれでも足りていない。

単純に時間が足りなかったのとレナが倒れてしまったこと。

襲撃を受けたことなど理由は多々ある。

デル曰く、コクピットが無傷なのが唯一幸いしてるとのこと。

各パーツの入れ替えと外装さえ整えば後はコアファイターを埋め込むだけで整備は完了する。

ただそれでも3日。

その間、動ける機体はない。

レオのブラックアブルホールも出撃不可な程の打撃を受けている。

 

「俺達に出来ることは暫くないな…。トレミーチームには自力で切り抜けてもらうしかない」

「……」

 

少し申し訳なくなって俯き、そのまま嘆息と共に目を閉じる。

デルからの返答はなかった。

俺は眠りにつくその時まで彼女の顔を窺っていないからこの時デルがどんな表情をしていたのかは知らない。

ただ意識を深いところに落ち着かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…」

 

酷く重い瞼を開く。

まず初めに映ったのは身を起こす私に気付いたネーナだった。

 

「あっ。レナ!目、覚めた?」

「ネ、ネーナ?なんで……」

「……あたしだけ生き残ったの。事情は後で話すわ」

「そう、なんだ…。ここは…」

 

私の顔を見るや表情を明るくするネーナ。

でもネーナが生きてたことに驚いた私に、すぐに表情を暗くして俯いてしまう。

やっぱりヨハンさんとミハエルは……。

頭がズキリと痛む。

あの時の光景のフラッシュバック、私の伸ばす手は誰にも届かなかった。

私が自己管理を怠ったばっかりに…。

 

ふと辺りを見渡す。

4人座席しかない個室、窓から映るのは真っ暗闇と滑走路。

少なくともいつもの部屋じゃない。

滑走路というより、ロープ?

あ、見覚えあると思ったらこの個室、確か軌道エレベーターの…。

あれ?でもいつの間に……。

前後の記憶がない。

それになんで個室を私とネーナで贅沢に使ってるんだろ?

また紅龍(ホンロン)さんに借りたのかな…。

 

「ネーナ。なんで私、軌道エレベーターに…」

「ふーん、やっぱ何も覚えてないのね」

「……?」

「レナ、ずっと目を覚まさないものだからずっとレイがおぶって来たのよ?」

「え…?」

 

お兄ちゃんが私を?

途端、ネーナが首を傾げる私を見て良いことを考えたとでも言いそうな表情をする。

い、嫌な予感しかしない…。

 

「やーん、何も覚えてないなんて残念っ。レナってばずっと『お兄ちゃん…お兄ちゃん…』って言って部屋割りの時もレイから片時も離れようとしなかったのに」

「えぇ!?」

 

ネーナがとんでもないことを言う。

ちょ、この歳でお兄ちゃんっ子なんて…は、恥ずかしいよぉ……。

ううっ…。

高校生になった時にお兄ちゃん離れした筈なのに…。

 

「あははっ!レナってば顔真っ赤ね!」

「ネ、ネーナが余計なこと言うからでしょ…!」

「だってあの時のレナすっごく可愛かったんだもの。『おにいちゃん。大好きだよ――」

「も、もういいからっ!!」

「えーーっ」

 

ネーナがまた私のモノマネするから遮った。

だ、大体私そんなこと言ってないし…多分…。

それに寝言なんて言ったうちに入らないよっ。

たぶん…。

 

なににせよ、凄く顔が熱い。

どうしよう。

自分じゃ見えないけど紅潮してるんだと思う。

だってネーナが急に黙って私の顔を覗いて楽しそうに笑ってるんだから間違いない。

とにかく一刻も早くこの恥ずかしさから解放されたい。

じゃないといつか顔が本当に燃えちゃうよ…。

何か都合のいい言い訳ないかなぁ。

そういえば寝起きだからか、まだ頭がクラクラする。

頭痛も酷いから今は横になるより少し歩きたい気分かな…。

 

「わ、私ちょっと船内探検してくるね?」

「あら。だったらあたしも行くよ」

「ううん。ちょっとしたらすぐ帰るから大丈夫だよ」

「ふーん…そうやって逃げる気なんだ…」

「い、いってきます!」

 

ネーナがまた意地悪な笑みを浮かべるから早急に個室を出た。

あそこでネーナといたら一生恥ずかしいこと掘り返されそう…。

もうっ、覚えてないんだから確証もないのに……。

ネーナの言ってることが否定できないから取り乱してしまう。

言ってる傍からお兄ちゃんにちょっと会いたくなってきたかも…。

でもわざわざ部屋を分けてる理由は検討がつく。

今会いに行くのは迷惑だから、進言通り少しだけ散歩しようかな。

 

「久しぶりだな…。エレベーターに乗るのも」

 

まだ足取りがおぼつかないからゆっくりと廊下を歩いていく。

最後にエレベーターに乗ったのは1年以上前の話になる。

宇宙(そら)でキュリオスからお兄ちゃんを助けて、地上に降りた時はサハクエルで大気圏を突破した。

それからスローネ ツヴァイからお兄ちゃんの命を救い、私達は再会した。

その後はずっと地上だから……やっぱり最後に軌道エレベーターに乗ったのはグラーべさんと乗った時かも。

あれ?一緒に乗ったのは887(ハヤナ)ちゃんだっけ。

ヒクサーさんだった気もする。

うーん…まだ頭が働いてなくて記憶が混濁してるなぁ。

どの道、あの頃の思い出はもう返ってこないけど…。

 

「そういえばフォンさんや874(ハナヨ)さん、レオはどうなったんだろ…。後で、ネーナに……聞かないと…」

 

独り言を呟きながらふらついた。

や、やっぱりまだ身体が怠い。

あの時は痙攣して動かなかったことを考えればマシだけど凄くしんどい。

まだ目眩もするし…。

一旦自由席を見つけて休もう。

そうしないとまた倒れ、ちゃ――。

 

「あっ……」

「危ない…っ!」

 

足を踏み出すして前のめりに倒れ込みそうになった時、歪む私の視界に長く、なびく白髪が映った。

倒れる直前にその人に支えてもらう。

知らない人に助けてもらっちゃった…。

 

「す、すみません…」

「問題ありません。お怪我、ありませんか?」

「はい。大丈夫で――あっ」

「……?私の顔に何か」

 

目線を上げ、相手のしっかりとした輪郭を捉えた私は思わず声を漏らした。

左右に分けた前髪、腰に届くか届かないかまでに伸びきった白髪。

細く鋭く綺麗に弧を描いた眉毛に純粋な瞳。

めったにいないであろう整った顔立ちにお兄ちゃんから聞いた話の人を思い出した。

恐らく最も原因は軍服から。

あとは直感で何故か確信している。

私を助けてくれたソーマ・ピーリスさんは怪訝そうに私の顔を覗いていた。

 

「あぁ、いえ…。ごめんなさい。同じ歳くらいの女の子だと思ったら軍人さんだったので」

「はぁ…なるほど…。あの、どうぞあちらへ。一度腰を休めてください」

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

ソーマさんが後方に指さす自由席に身を支えてもらいながら腰を下ろす。

華奢な腕なのにちょっと力持ちだったなぁ。

軍人さんだからかな。

以前の私と歳も変わらないのに……お互いなんでこんなに戦いのために身体を費やすんだろう。

 

「戦いですか?」

「え?」

「最近、世の中騒がしいので…」

「……はい」

 

私が尋ねるとソーマさんは重く頷いた。

この様子を見てると、戦争を好んでるわけではないみたい。

軍人として正式採用された超兵だから、義務に執着してる…とかいうのもないかな。

少しだけ、安心した。

助けてもらった手前こんな探るようなことはしたくないけど、お兄ちゃんの好きな人はちょっと気になる。

ソーマさんは超兵だけど、軍が思い描いていたような超兵じゃない。

レオや子供達のように自分の意志を持ってる。

でも、少しだけ表情に影がある。

 

「軍人さんは戦争を起こしに行くんですか?」

「えっ…」

 

わざと踏み込んでみた。

ソーマさんはわかりやすいほどに顔を顰める。

 

「それは……っ」

「……」

「私達は…戦争を起こしに行くわけでは、ありません…。戦争を終わらせる為に戦います」

「そうですか」

 

返答はテンプレートなもの。

まるで教科書でも見たような解答。

でもその中にソーマさんの想いも少しだけ混じっていた。

きっと、戦争が悲しみを生むものだから。

それを知ってるから…かな。

そういうのは大抵失った人にしか分からない。

もちろん例外もあるけど。

 

「じゃあ、私と約束してください」

「約束…っ?」

「はい。戦いを終わらせるって。そして、生きてください。またお話がしたいです」

「……」

 

小指を立てると、ソーマさんは無言でそれを見つめた。

何かを思い出したのか辛そうに俯いて。

そんなソーマさんに微笑むと、ソーマさんはおずおずと、でもしっかりと小指を絡めてくれた。

 

「約束ですよ?」

「はい…」

 

楽しげ半分虚しさ半分といったソーマさんと約束を交わす。

私はこの人の胸の隙間を埋めてあげたい。

未来に生きる意思を持って欲しい。

お兄ちゃんの好きな人だからじゃない。

レオのように己の意志で未来を掴んで欲しいと、ソーマさんと接してそう思ったから。

 

「ごめんなさい。なんだか厚かましくて……。一般人が、おかしいですよね」

「いえ…。市民の安全と願いのために期待を背負って戦うのが、軍人なので…」

「そうですか…。介抱ありがとうございます。自分の部屋に戻ります」

「はっ。お気を付けて」

 

まだふらつく中、立ちがる私を支えた後敬礼するソーマ・ピーリスさん。

私も思わず返しそうになったけど会釈で済ませる。

さて、思わぬ出会いだったけどそろそろ戻らないとネーナに……。

と、来た道を歩きだそうとした時。

 

「あ、あの!」

「……はい。なんでしょう?」

 

ソーマさんに呼び止められて振り返る。

そして、言いにくそうにしてたけど振り絞って尋ねてきた。

 

「お名前を。お聞かせ頂けませんか?」

「それは……」

 

どうしようかな。

偽名を使うのも申し訳ないし、かといって本名は気付かれちゃうし。

橘 深雪の名前を使おうにももう実在しないし……うーん。

よし、決めた。

 

「デスペア」

「えっ…」

「レナ・デスペアです。ソーマ・ピーリスさん」

「デ、デスペ……そんな…」

 

本当の名前を教えるとソーマさんは自然と胸に手を当てた。

苦しそうに、力を込めて。

……ソーマさんには死んで欲しくない。

他の軍人も、戦いで落とす命は嫌だ。

だから、未来への希望を持ってもらうためにもう一声掛けよう。

 

「兄は死んでません。まだ葬式も上げていません」

「……っ」

「きっと生きてます。だから、ソーマさんも生きてください。戦いで消えてしまう多くの命をこれ以上増やして欲しくないです…。お願いします」

「私は……」

 

頭を下げる私にソーマさんは戸惑う。

そんなソーマさんの返答を私は待たずに再度頭を下げて後にした。

結果的には話せてよかったかな。

ソーマさんは失ったものが大きくて心に傷を負っていた。

あれ以上もう失って欲しくはない。

 

ソーマさんと出会って。

私は改めて戦うことを決意した。

例えサハクエルを晒してでも戦いを止める。

その為に戦う。

奪い合いの連鎖を撃ち抜くために。

部屋に戻ると私の意識はすぐ落ちた。




あと2、3話くらいでファーストは終わり(の予定)です。
今回からプレビューという最強味方を見つけたので誤字はないと信じたい…!
あったら是非ご報告ください。
ちなみにデルの口調がちょっと合ってるのか心配なのですが、あの人OOPと2317の口調が違うから掴みにくい…。
もし、この場面ならこんな口調じゃね?っていうのがあったら報告して頂ければ検討します(必ず通るとは限りません)。
次回は久しぶりにガッツリ絹江さん出そうかな、とか。主人公とネーナの絡みも書けたらなぁと思っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。