息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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開戦

レナと真っ先に向かったのは格納庫。

まずはデル達に整備の催促をしなくてはならない。

プルトーネブラックが復活するまであと3日と聞いたが、そんなに待ってられるほど今の俺達は悠長じゃないからな。

 

「レナ、大丈夫か?デル達に無理を言っても恐らく時間が掛かる。その間は休んでくれても……」

「もう。大丈夫だって……えっ?そ、それよりあれ!あれ見てお兄ちゃん!」

「ん?一体どうした…ん、だ」

 

もうじき格納庫に着こうかという時。

丁度最後の扉が開くと、レナは何やら驚いて指を差し、俺も言われるがままに見上げる。

すると、そこには大破した筈のプルトーネブラックが完全に元の姿を取り戻して俺達を見下ろしていた。

 

「プルトーネ ブラック!?どうして…!」

「武装が、ない?ううん……指が太い。あの指、もしかして…」

 

レナが何ら考察しているが、全然耳に入ってこない。

復元するまで3日掛かると言われていたプルトーネ ブラックが今こうして俺の目の前に存在している。

そのことに驚愕して意識を全てそっちに持っていかれていた。

そんな俺の元にデルが無重力に乗って現れる。

絶妙なタイミングだ、問わずにはいわれない。

 

「デル!一体どうなってるんだ!?」

「おや、思ったより来るのが遅かったね」

 

デルも俺に気付いて端末を操る手を止める。

遅かったって、どういうことだ?

 

「プルトーネの修復には3日掛かるんじゃなかったのか?」

「もちろん無理をしたのさ。国連軍が宇宙(そら)に上がるって話を聞いた時から決めてたことだけどね」

「俺を信じていたのか……」

「その点に関しては私よりあの子の方があんたを信じていたよ」

「えっ…?」

 

デルが指を差す方には襲撃を受けた時に俺を責めた男の子がいた。

確かシンとかいう子供だ。

プルトーネ ブラックの整備に一生懸命取り組んでいた彼をデルは手招きする。

……俺を見ると露骨に顔を顰めたが。

 

「なに」

「話したいことがあるそうだ」

「はぁ?」

 

それだけ言い残すとデルはシンにバトンタッチして整備に戻っていく。

残されたシンは首を傾げつつ俺を睨んだ。

 

「なんだよ」

「いや、プルトーネブラックを修復してくれたってお前なのか…?」

「……主に担当してたのは俺だけど、なんか文句でもあんの?」

 

また鋭い目を向けてくる。

基本俺には敵意を向けているのか…。

でも、顔や身体にはちらほらと炭で汚れているのが見受けられる。

プルトーネブラックのために相当頑張ってくれたようだ。

俺は再度プルトーネ ブラックを見上げる。

 

「ありがとう。これで俺も戦える」

「別にお前のためじゃない。先生のためだ」

「シン…」

 

俺の腕に掴まるレナが今にも泣きそうな顔で微笑む。

よっぽど嬉しいのだろう。

少年はそんなレナに気恥しいのか、顔を赤くして逸らしながら機体状況について説明を始める。

 

「あのプルトーネはもう最低限のものしか積んでない。手に持つ武装は全部とっぱらって寄せ集めたありったけのビームサーベルを指部に詰め込んだ。これに関しては悪いとは思ってる……武装が足りないんだ」

「ビームクローか…。いや、申し分ない」

 

口調から察するに整備中に考えて実行したことなんだろうな。

つまりビームクローのことは知らなかった筈だ。

武装に余りがない今、そういう機転は助かる。

さらにビームクローにすれば指部を被弾しない限り武装を手放すことはない、と補足してくれた。

そこまで考えていたのか……。

 

「……ちなみに使ってるビームサーベルは主にスローネから持ってきた」

「そうか…」

 

俺の顔を見ずにプルトーネブラックを見てスローネについて触れる少年。

それだけでプルトーネ ブラックをどんな思いで整備したのかが分かる。

その想いに、応えよう。

 

「ここまでやったんだ。勝てよ」

「分かってるさ」

 

また強く睨まれ、俺は笑みで返す。

丁度その時、端末に紅龍(ホンロン)からの通信が届いた。

 

『一件報告を。プトレマイオスが国連軍の艦隊を捕捉しました』

「了解」

『戦うのですね…』

「あぁ」

 

紅龍(ホンロン)の問いに間髪開けずに頷く。

もう決心したことを意思表示した感じでもある。

それに対し紅龍(ホンロン)は一端静かに目を瞑って、俺の目を見た。

 

『ご武運を、と。留美も申しております。私も同意見です』

「…了解」

 

画面の隅っこに少しだけ揺れる黒髪のテールが映る。

俺達の安全を第一に考え、心配してくれる兄妹(二人)に俺は力強くもう一度頷いた。

そして、通信を切り、今度はレナと目を合わせる。

 

「出撃だ、レナ」

「うん。あっ。ちょっと待って」

「ん?」

 

なんだ?

何やらレナが辺りを伺っている。

人には聞かれたくない話なのか…。

いいだろう、耳を傾けて最低限の音量で話すとしよう。

 

「どうかしたか」

「うん…あのね、厳しいことを言うけど…今のままじゃ多分あのネルシェンさんには勝てない。お兄ちゃんも私も」

「……」

 

なるほど。その事に関しては確かにぐうの音も出ない。

ナオヤ一派にいる凄腕のパイロット。

ネルシェンに俺は完膚なきまでに負けた。

レナはなんとか退けたが、それでも届かなかったという。

あの女は必ず戦場に出てくるだろう。

それは間違いない。

そして、俺達は必ずあの女を倒さなくてはならない。

仇討ちではなく、奴を止めない限りトレミーチームの誰かが死んでしまう。

もしくは全滅……なんてことも想定していおいた方がいい。

 

そんな敵について小声でどうするか語りかけて来たレナだが、そもそも今から対策を打てるものなのか。

と思わないでもない。

だが、どうやらレナに考えがあるらしい。

 

「考えって言うほど作戦でもないんだけど、要はお兄ちゃんにちょっと強くなってもらいたいの」

「い、今から…?」

 

それはさすがに無理じゃないのか?

もう猶予は殆どないだろうに……。

 

「うーん、お兄ちゃんが考えてる事は半分正解。半分間違いってところかな…。ひとつは確かにMS(モビルスーツ)での射撃のコツを教えようとは思ってたんだけど……。もうひとつはただお兄ちゃんはそろそろ自覚してもらおうと思ってたの」

「自覚…?何の話だ」

「やっぱり気付いてないんだね」

 

脳量子波でレナの思考を読み取る。

もう口頭で伝えてるのも煩わしいと脳内で先に言われた。

言う通りに読み取ってるが……とんでもない事実が発覚した。

 

――塩基配列パターン0000イノベイド、つまり俺達には隠された能力がある。

 

主にMSの操縦で真価を発揮する能力。

俺達、塩基配列パターン0000にはマイスタータイプの能力を半分失っている代わりにそれを補うように特殊能力タイプのような特殊能力がマイスタータイプ用にカスタマイズされて組み込まれている。

レナにとっては『超長距離射撃』を可能にする狙撃能力。

遥か彼方への弾道を完璧にするものだ。

 

「私達はそれぞれ能力を持ってる筈なの。お兄ちゃんにもそれはある。私は見つけた…」

「桁外れの機動力を可能にする肉体強化。それでいて、反射の向上に圧倒的なスピード、か」

「うん…、つまりお兄ちゃんは遊撃系と見て間違いないと思う」

「……なるほど」

 

確かに心当たりがある。

瞳が色彩に輝いた時、よく無茶な機動をそれとなくこなしてみせた。

これまで危機的な場面は凄まじい『高機動』で覆してきた。

俺の能力は、体内のナノマシンを消費して肉体の負担の肩代わりとし、無茶な『高機動』をほぼノーリスクで行うというもの。

レナは、脳細胞の代わりに体内のナノマシンを消費して、限界を超えた思考域へと到達し、それが正確な射撃と狙撃を生む。

こんなところか。

 

「そう、理解力が早くて助かるよ。でも、私達がこの能力を使うにはある条件を満たさなきゃいけないのは覚えておいて?」

「条件だと…?」

 

ある意味、能力を使うための引き金(トリガー)的な要素か。

イオリアが親切心でこんな能力を組み込んでくれたのかは分からないが、引き金(トリガー)があるなら任意で能力が使えるということになる。

本人にとっては素晴らしいが、他人から見れば恐ろしい奥の手だ。

イオリアはどういう意図で俺達にこの力を授けたんだ…?

 

「私もそこには至ったけど、今は置いておいて。なりふり構ってられないから使えるものは使おう。そのつもりでお兄ちゃんには教える」

「分かった。だが、俺の引き金(トリガー)ってなんなんだ?」

「それは、『想い』だよ」

「『想い』……」

 

レナ曰く、強烈な想い。

それが俺の能力を発動する条件、引き金(トリガー)となる。

ふと思い返してみる。

心当たりのある描写を……。

自覚したのは、ネーナとスローネ ドライをアレハンドロ達のコントロールから解放する時、俺はネーナからこれ以上奪うなと叫んだ。

さらにデスペア・フォーメーションの時、俺は戦場の命を全て救いたいと思い、その気持ちをフォーメーションにぶつけた。

アレハンドロのアルヴァトーレを墜とした時にはレナを渡したくない一心で貫いた。

最後は、ネルシェンと交戦した時。

あの女を、奪い合いの連鎖を壊すために負けるわけにはいかないと敵の攻撃を避け、剣を振るった。

――確かに全て俺の強烈な『想い』が発端となっている。

 

「私が極限の『集中』で、限界を乗り越える権利を得るように、お兄ちゃんの想いにその身体は応えてくれる」

「俺の、身体……」

 

塩基配列パターン0000イノベイドの肉体。

(たちばな) 深也(しんや)の想いをレイ・デスペアが体現する……ということか。

 

「そうか…。あれが俺の力…」

「うん。その力で私達の望むことをしよう」

 

そう言ってレナはパイロットスーツを差し出す。

俺は決心し、それを受け取った。

レナが念を押してきたのは例え能力があってもそれを悪用するなという意図だ。

俺はそんなことをしない。

レナも知っているだろう。

だが、それでも注意を促す程の力だ。

それについてはきちんと自覚している。

そして、ヘルメットは脇に抱えて各々のコクピットへと向かおうとした時、今度は呼び止める声がした。

 

「レイ…!レナ!」

「ネーナ…」

 

息を切らしながら駆け寄ってくるネーナにレナが名を呟く。

同じくパイロットスーツ姿だったネーナは俺達の元に辿り着くと急いで息を整えて、顔を上げる。

 

「あ、あたしも行く…!」

「でも機体が……」

「それでも行く!戦えるならなんでもいいからあたしも連れて行って…!」

 

必死の形相でレナの肩に掴みかかるネーナ。

だが、レナは首を横に振ってその手を取った。

 

「レナ…?」

「……ネーナはここに居て」

「で、でも」

「お願い。ネーナを守りたいの。私も、ネーナが1番辛いの分かってるから」

「それは……」

 

ネーナが俯く。

すると、レナはそんなネーナの両手を自身のもので包み込んだ。

優しく、温かく。

 

「ネーナ。大丈夫、私達は帰ってくる。ネーナを1人になんてさせない!」

「レナ…」

 

ネーナの顔を覗き込んで微笑むレナ。

その笑顔にネーナの表情も自然と明るくなり、さらに上からレナの手を取った。

 

「うん!約束よ?生きて帰ってこなかったら許さないんだからっ!」

「了解。任せて、ネーナ」

 

交わす笑みから一転、レナは真摯な表情に変わる。

そして、ネーナの手をそっと放して俺と向き合った。

 

「行こう、お兄ちゃん。戦いを止めに」

「あぁ!」

 

レナの言葉に力強く頷き返すと俺は眼帯を外し、傷付いた瞳を露わにした。

俺の記憶が正しければ幾度か機体内の端末が俺の瞳から何かを読み取っていた。

恐らく俺の能力が発動すると同時にそれを読み取り、機体に反映させているのだろう。

ならば、双眼は必要だ。

開閉させるだけでも激痛が走るが我慢するしかない。

 

その上からヘルメットを被ると俺達を待っているかのようにコクピットを開け放つプルトーネブラックとサハクエルにそれぞれ乗り込んだ。

既に国連軍のMS(モビルスーツ)部隊とトレミーチームはエンカウントしている。

そんな中、ラグランジュ3の極秘コロニーから宇宙船(スペースシップ)が飛び出し、数十分後。

ラグランジュ2終点にて2機のガンダムが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主に月と地球間の宇宙空間を示すラグランジュ1では国連軍とソレスタルビーイングが戦闘の火蓋が切られている。

国連軍はジンクスを26機、スローネ ヴァラヌスを13機、そしてスローネ ツヴァイという編隊の情報を得た。

対するプトレマイオスはガンダムエクシア、ガンダムキュリオス、ガンダムヴァーチェ。

エクシアはGNアームズでの戦闘で対艦攻撃を主に担当し、キュリオスはテールブースターを用いた高速戦闘、ヴァーチェは2艇のGNバズーカでの高火力砲撃、デュナメスことロックオン・ストラトスはトレミーで待機といったところだろう。

この様子だとやはりロックオン・ストラトスは利き目を負傷していると見ていい。

だが――。

 

『スローネ ツヴァイ……』

『ミハエル…』

 

紅龍(ホンロン)から送られてきた映像を目にしてレナが哀しそうに呟く。

スローネ ツヴァイ、またしても鹵獲され、パイロットもアリー・アル・サーシェスだ。

果たしてロックオンは留守番に徹せるのか……。

正直敵の戦力も本来より格段に多い。

エクシアがいるとはいえ、戦線をどこまで維持できるかが重要だ。

戦況によってはロックオンが出撃してしまう。

 

『国連軍の戦力の注ぎ具合を見るにこの戦いに全力を投入してくる筈だ。本来とは違う流れ……アルヴァトーレもいない今、二戦目があるのか分からない』

『ここで死んでしまう人が、ロックオン・ストラトスさんだけじゃない可能性も……』

『充分にある。だが、逆にロックオンが生きる未来もある筈だ。いや、犠牲もなく戦いを止める方法が……』

『分かってる。私はその為に戦うから…。両方淘汰して、無力化する。それが今回の作戦プラン』

『犠牲を無くすための戦いか、スローネとの初戦闘を思い出すな』

 

そうさ、要はあの時と同じ。

レナと俺で無力化して命を守る。

戦う相手の命だって奪わない。

偽善だと言われようともそれが、俺達のやり方だ。

個人的にはソレスタルビーイングとやってることはさほど変わらないとは思うがな。

結局、圧倒的な力で鎮圧するのみだからだ…!

 

『先行する!』

『了解。サハクエルの座標固定、目標範囲捕捉、戦場までの道筋の障害物全てを確認。無重力状況下、狙撃態勢に入るよ』

 

ラグランジュ1へと侵入したと同時、サハクエルがGNツインバスターライフルをドッキングして静止する。

以前とは違い、俺は反応を示さず、ただ真っ直ぐに戦場を目指す。

それを合図に俺とレナの戦場掌握ミッションが開始した。




・プルトーネブラック 短期決戦型(最終決戦仕様)

パイロット:レイ・デスペア
開発者:レナ・デスペア→シン(リペア)
武装:GNビームクロー×2、GNバルカン×1
装甲:Eカーボン

アレハンドロ・コーナーのアルヴァトーレ、アルヴァアロンとの交戦で、大きな打撃を受けたプルトーネブラックをレナの生徒である元超兵の男の子、シンが改修した機体。
これまでの戦闘データによりレイの高い回避能力を期待して、破損した複合装甲は撤廃し、代わりに重さを軽減した。
さらに腰部のGNコンデンサーは移動用のみとし、戦闘区域に入るとパージできる仕様に変更され、これも軽量化へと繋がっている。
武装は在庫が乏しいこともあり、ありったけのビームサーベルを両指分揃えてプルトーネブラックの両指部に内蔵し、GNビームクローに変更した。
これは両腕を破損しない限り、武装を失わないという利点もある。
カレルでは手に負える状況ではなく、コロニーのファクトリーまで持ち帰って修復したが、実際は3日掛かると予見されていたにも関わらずシンを中心としてデルも協力し、軽量化や武装の変更を試しみることで最短で終わらせた。
だが、これはレイが必ず再び立ち上がると信じたシンが最短かつレイに最も合うスタイルを模索した結果でもある。

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