息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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ラスト・デスペア

ラグランジュ1へと侵入してから1時間。

トレミーと国連軍の戦闘宙域まであと少しだ。

もう粒子ビームの光が飛び交う乱戦が目に見えている。

後はプトレマイオス、各ガンダム、国連軍のMS、戦艦の位置を把握すれば導入もスムーズに、尚且つ『高機動』で奇襲できるはず。

レナは既に超長距離射撃を開始している。

だから、俺が着いた時にまだ犠牲者が居なければいいが……。

こればっかりは祈るばかりだ。

 

「さて、そろそろ――敵機接近…!この識別番号は……っ」

 

レーダーに視線を落とし、再度迫り来る方角に目を向ける。

すると、丁度弾道が飛んできた。

 

『くっ……!』

 

不意打ちだったが、なんとか避けた。

プルトーネ ブラックの軽さに救われたな、これは。

後で礼を言っておこう。

そして、そんな奇襲を仕掛けてきたのは――。

 

『ナオヤか…!』

『待たせたな、人革連の!!』

『チッ!邪魔を…!』

 

現れたアドヴァンスドジンクス。

トレミーと国連軍の戦闘宙域、国連軍側からこちらへと向かってきたようだ。

クソ、ここで対峙するのは望まない。

一刻でも早く宙域に向かいたいってのに……!

 

『お前の相手をしている暇はないんだよ!』

『さぁ、決着と行こうぜ!』

『……っ!』

 

有視界通信越しに挑戦的な笑みを浮かべるナオヤ。

プロトGNランスから放つ弾丸でプルトーネ ブラックを落とそうとしてくる。

こいつ、全く話を聞かない。

自分のことしか考えてねえのかよ。

それにしても決着、ね……。

奴ら一派に殺されたヨハンとミハエルの顔が浮かぶ。

 

『……確かに因縁はある』

『お前はイベントボスだろ?その為にオレに与えられたライバル。要するにお前を倒せば次に進めるってわけだ』

 

俺の睨みを無視して弾丸を全て避けた俺に対して仕切り直すようにプロトGNランスを構えたまま静止するアドヴァンスドジンクス、ナオヤはまるで意気揚々といった様子で語ってくる。

なるほど……随分とゲーム思考が強い。

アレルヤの名前を間違えたり、転生者だというのに知識が穴にある場面は今までチラホラ垣間見てきた。

 

恐らくこいつは基本的にはファンタジー系とかMMOとかを好むゲーマーで、たまたまアニメを見てたんだろう。

ま、ガンダムって世代的に流れで目にすることは少なくない。

偶然自分の知ってるガンダムの世界に飛び込んだ、といったところか。

なににせよ、転生だ。

典型的なやつならどんな世界でも大概は喜ぶよな。

俺は肩を落としたけど。

 

『相変わらずのゲーム脳だな』

『んあ?お前は違うのかよ』

『一緒にするな』

 

心外だ。

なんでこんな奴と一緒にされなきゃならない。

大体ゲームと現実を混同させてどうすん――待てよ。

その考えとあいつの口振りから察するにナオヤはこの世界をゲームか何か勘違いてる節がないか?

いや、実際にゲーム視してる。

ならもしかすると……。

息が詰まるのを感じる。

俺の脳内に許し難い思考が浮かんだからだ。

 

『なぁ。……1つ、聞いていいか?』

『あ?なんだよ』

『お前、人を殺すことに躊躇いはないのか…?』

『はぁ…?』

 

恐る恐る聞いてみる。

有視界通信上のナオヤは訳が分からないといった表情をしている。

だが、重要なことだ。

ナオヤはヨハンとミハエルを殺した。

他にも誰か殺してるかもしれない。

しかし、ただのゲーマーが抵抗もなく人を殺れるものか?

答えは否。

よっぽどでない限り常人が手をかけるなんて無理だろう。

ならば自ずと答えは見えてくる。

ナオヤは人を殺してる気など更々ない。

そう、この世界の住人を人だとは思っていない。

 

『あっ。もしかしてあの時の兄弟のこと知ってんのか?気にすんなよ!たかがN()P()C()()()…?』

『なっ……!?』

 

予想はしてたが、軽々と何も疑ってない瞳で告げられて息を詰まらせる。

ゲーム脳ここに極まれり。

こいつは……っ!

 

『違う!ここはゲームの世界なんかじゃない、現実だ!あいつらも生きてた。みんな生きてる!!』

『あははは。なーに言ってんだよ。まあリアル過ぎてそう言いたい気分は分かるけどさ。そろそろ気付かないとやばいぜ?きっとこの世界はガンダムのVRゲームの中なんだよ』

『はぁ!?』

『おっと……マジで転生だと思ってたのか。いいねぇ、夢見るねぇ』

『……もういい。黙れ、喋るな。ぶっ潰す!』

『おいおい、そんな怒んなよ……。夢潰して悪かったって』

 

あぁ、ある意味潰されたよ。

ヨハンとミハエルの未来が、命が奪われて。

その結果、俺とレナの理想がな……っ!

 

『貴様…!』

『多分開発途中で実験体とかにされてんのかなぁ。ま、でも楽しいし逆に有難いよな!俺も主人公になった気分だぜ。いや、実際そうか。はははは!!』

『……』

 

こんな、こんな奴のためにあいつらの未来は奪われた。

現実も直視できてないこのクソ野郎のせいで……!

何が開発途中だ、何がVRゲームだ。

ふざけるな!

あいつらは必死に生きてた。

前を向いて歩き始めていた。

この世界に住む人々も、画面に映ることさえなかった人々も。

この世界で生きている。

それを、ゲーム感覚で奪うことなど……認めるか。

 

『……気が変わった』

『あ?なんだって?』

『お前なんて眼中にもなかったし、実際弱い。俺は仇討ちしたいわけじゃなかったからお前()今だけ見逃すつもりだった。だが――』

 

正直相手にしてる暇はなかった。

俺の目的はもっと先だった。

そもそもヨハンとミハエルが仇を取って喜ぶなんて思っちゃいない。

だから、ナオヤは後回しにしようとしていた。

でも、今変わった。

俺が倒すべき相手は。

蹂躙すべき敵は目の前にいる。

 

『ナオヤ、お前はこの世界に巣食う歪みだ。その歪み……この俺が断ち切る!!』

『なっ……!?』

 

GNバーニアを噴射して一気に加速する。

プルトーネ ブラックの右手の指先全てから粒子ビームの刃を生成し、高出力状態で一つに纏める。

そうすることで通常のGNビームサーベルより極太のビームソードが出来る。

これでナオヤ(歪み)を斬る!!

 

『うおっ!?いきなり始めんなよ!ズルいぞ…!』

『戦場で……!』

 

一振り目を偶然にも躱したアドヴァンスドジンクス。

腐ってもイノベイドか。

だが、遅い。

 

『甘ったれたこと言ってんじゃねえっ!!』

『ぐあっ…!?』

 

────《Zero Mode Boost System》────

 

俺の双眼が色彩に輝き、プルトーネ ブラックの端末がそれを読み込む。

すると、画面上に文字が浮かび、それと同時に身体が軽くなった。

プルトーネ ブラックの刃はアドヴァンスドジンクスの手にあったプロトGNランスを切り落としている。

 

『てめぇ…!』

『特別大サービスだ。お前如きに本気を出してやる』

『はぁ!?舐めんな!』

 

ビームソードを向けて挑発するとナオヤは簡単に乗る。

アドヴァンスドジンクスはそんなナオヤに従って、GNビームサーベルを抜刀した。

武装が変わったな。

アドヴァンスドGNビームライフルをやめてわざわざ分けたようだな。

腰にGNビームライフルが見えることを考慮すると間違いない。

やはり下手くそにはあの武器は使いづらかったか。

利点に気付いてるのかすら怪しいな。

もちろん得意不得意、合う合わないはあるが、恐らくゴミだの使えないだの言って捨てたんだろう。

偏見かもしれないが、そんな印象を抱いても仕方ない。

 

『何が本気だ!せこい事しやがって…!』

『お前が……言うセリフかぁぁぁああーーっ!!』

『ぐおっ!?』

 

アドヴァンスドジンクスのGNビームサーベル、プルトーネ ブラックのビームソードが衝突し合い、競り合っていたところに下段から左手に形成したビームソードでアドヴァンスドジンクスの右腕を斬り上げる。

これで利き手は奪った。

次の手も簡単に読める。

 

『クソ…!』

『取らせるか!』

 

GNバーニアを逆噴射して距離を取り、腰部にマウントされたGNビームライフルへと手を伸ばそうとするアドヴァンスドジンクス。

だが、それよりも速く距離を詰め、顔面部GNビームライフルを貫いた。

 

『ぐあああーーっ!?』

『これで……』

 

頭と腰の爆発で機体体勢を崩したアドヴァンスドジンクス、なけなしのGNビームサーベルを抜刀するがメインモニターが壊れ、狙いは定まっていない。

ただ持ってるだけだ。

そこにビームソードを容赦なく振るう。

 

『終わりだ』

『……っ!』

 

ナオヤも気付いたのだろう。

レバーを引いてももう操縦できる機体はないのだと。

アドヴァンスドジンクスは腰と胴体で二等に分かれ、擬似太陽炉のある胴体の方を俺は貫き、破壊した。

必然的に残るのはコクピットのある下半身だが、もはや脚部以外はない。

 

『クソ!クソ…!な、なんで…!?』

『……』

 

悔しそうに反応のないレバーを引くナオヤ。

モニターはないが、音で分かる。

俺は粒子の節約のためにサーベルを消し、指を通常時に戻した。

確かさっきあいつは自分のことを『主人公』だとかどうとか言ってたな。

 

『なんで…!こんなところで!?オレは…オレは主人公の筈だ。こんなあっさり負けるわけ――』

『これが、この世界を生きる俺と現実を直視できていないお前の差だ』

『は、はぁ!?』

 

ナオヤがキレる。

俺の言ってることを理解出来ていなのだろう。

当然だな。

もはやこいつに用はない。

プルトーネ ブラックでアドヴァンスドジンクスから背を向ける。

 

『お、おい。待てよ!オレはまだ負けてない!き、きっとコンティニュー機能が――』

『悪いが付き合ってられん』

『待ってくれよ!このままじゃオレ、どうやって帰れば……』

『そこまで面倒は見ない。お前は俺の敵だ』

『あっ…あぁ……』

 

外宇宙へ流れようが、何処かで拾われようが知ったこっちゃない。

どっちでもいいさ。

それよりも早く戦場に向かわなくてはならない。

俺は、ナオヤを放ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

ナオヤで多少時間を食われたが、それでも諦めずに目的の宙域へと向かう。

そういえばラグランジュ2終点からの粒子ビームが見えなくなった。

超長距離狙撃が途絶えた。

心配ではあるが……。

 

『レナ…』

 

デルに連絡すると問題ない、と返ってきた。

それを信じて進行する。

目標宙域まであと数キロ。

もうすぐ戦場に……。

必ず戦いを止めて見せる。

奪い合いの連鎖を。

と、その時レーダーが接近する物体を捉えた。

 

『なに…?この速度は…!』

 

物体は二つ。

MS(モビルスーツ)の速度じゃない!

これはミサイル、もしくは――。

 

『GNファングか!!』

 

振り返ると2基のGNファングが飛来してきた。

まだ詰めきれてない間合いで粒子ビームを放ってくる。

俺はそれをプルトーネ ブラックで後方に退って避け、左右から向かい来るGNファングを両指のビームソードを展開して双翼のように振るって斬り落とす。

破壊したGNファングは――異常に爆発した!?

爆炎と衝撃がデカい!

罠か…!

 

『ぐあっ…!?』

 

プルトーネ ブラックが衝撃で吹き飛ぶ。

コクピットも激しく揺れた。

クソ…めっちゃ傷に響く。

目が痛てぇ。

 

『ど、どこから……』

 

ファングが飛来してきた方向を見る。

爆煙がまだ晴れないせいで前方が確認できない。

GNファングってことはスローネ ツヴァイ……サーシェスか?

 

『くっ……!』

 

焦れったいからビームソードで煙を裂いた。

すると、レーダーが敵機を捉える。

この反応……上か!

 

『何者だ!』

 

ビームソードを構えて見上げるように睨む。

目線の先は衛星に乗ったMS(モビルスーツ)の影がいた。

だが、全貌を確認できない。

シルエットだけで捉えるなら……。

 

『エクシア…?』

 

いや、違う。

晴れ始めた煙幕から真っ先に現れたのは巨大な剣、GNバスターソードか。

剣先から腕、そして胴体が徐々に明らかになっていく。

漆黒に赤のラインが入った外装。

さらに鋭い深紅の眼光。

一瞬エクシアに見えたのは基本装甲が同じだからかもしれない。

 

それでも違う。

エクシアとは異なり、凶悪な禍々しいフォルムに、肩から露出する粒子の色も赤だ。

それを目に捉えてハッキリした。

あれは……擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)…!

 

『ガンダム……っ!』

 

国連か!?

だが、周囲に他の機体反応はない。

俺の目の前にいる機体だけだ。

 

『一体誰なんだ…!』

 

見たことのないガンダム、そのパイロットの正体も掴めない。

単独行動しているならグラハムと結びつけられるがあの男が駆るのはGNフラッグ。

ガンダムではない。

……探るしかないか。

 

『何者だ!貴様は…!』

『……』

 

音声のみの通信をオンにして呼び掛けるが、返答はない。

いや、代わりに光通信が送られてきた。

たった一言。

 

――【GUNDAM AZRAEL】と。

 

『アズラエル……』

 

赤黒のガンダムの名を呟く。

GNバスターソードを持つ擬似太陽炉搭載型のガンダム。

ガンダムアズラエル。

俺の知らないガンダムタイプの機体……。

 

だから、どうした。

結局やることは変わらない!

アズラエルは俺を攻撃してきた、つまり敵対心があるということ。

そして、俺は戦争を止めるために戦闘宙域へと向かっていたところを妨害された。

これだけで戦う理由は充分にある。

邪魔する者は敵だ…!

 

『プルトーネ ブラック、レイ・デスペア。目標を蹂躙する!!』

『……』

 

ビームソードを形成してGNバーニアを噴射。

プルトーネ ブラックは加速する。

目標はガンダムアズラエル、GNバスターソードは無視して関節部を狙う。

誰だか知らないが殺しはしない。

全力で無力化する…!

 

『はあっ!』

 

左のビームソードを振り下ろす。

すると、アズラエルGNバスターソードを盾に防いだ。

だが、狙い通りの動きだ。

俺はビームソードをバスターソードの刀身の上で滑らせ、機体も滑り込むように懐に侵入する。

そして、右手のビームソードを構えた。

狙いは相手の右腕関節部。

まずは片腕と武装を奪う!

 

『貰った…!』

 

機体の軽さ故か俺の速さにアズラエルは反応しきれていない。

この一瞬が好機。

寧ろ逃せばもうないと思ってもいい。

絶対に決める…!

だが、放った突きは一筋走る深紅の刃に阻まれた。

これは――!

 

『ビームサーベル!?』

 

アズラエルの左手に構えられGNビームサーベル。

粒子の色から赤黒いサーベルは俺のビームソードを防ぎ、身を守るように生成された。

柄が黒い。

機体の色と同じにすることでマウントを悟られないようにしたのか。

宇宙空間ではさらに目立たない。

上手い…!

 

『だが!』

 

指部を展開してビームソードをビームクローにする。

一度後退して広範囲に振るった。

 

『……』

『くっ…!』

 

GNバスターソードで完全に衝撃を吸収された。

やはり防がれるか。

弾き飛ばそうとしたがバスターソードが邪魔だ。

先に武装を奪うのが先決だな。

得物は完全にパワーが違う。

勝負に出るなら速度(スピード)だ…!

 

『行くぞ…!』

『……』

 

GNビームクローを得物とし、斬り掛かる。

まずは正面から。

これはGNバスターソードで防がれた。

次にアズラエルはバスターソードの影で隠れた懐からGNビームサーベルを出現させ、プルトーネ ブラックを貫こうとするが持ち前の軽さでそれを回避。

滑り込むように左に潜り込んで振り払われたバスターソードを右のビームクローをビームソードにして受け止める。

 

勢いは止めない。

そのまま左のGNビームクローでアズラエルの右腕関節部を切断しつつ、振るわれたGNビームサーベルの斬撃を瞬時に後退して避けた。

これで相手はバスターソードを失った…!

いける、勝機は充分にあるぞ。

アズラエルのパイロットの腕は大したことない!

 

『――へぇ、中々やるじゃん』

『通信…!』

 

俺が優勢に立ったと同時。

アズラエルのパイロットと思わしき者との有視界線通信が繋がる。

パイロットは……バイザーが暗視化してて顔は伺えないが、声は少し若かった。

黒いパイロットスーツに身を包み、モニター越しに対峙する俺を見ている。

アズラエルのパイロットは続けて口を開いた。

 

『思ってたよりは強いね。ま、及第点か』

『ほう…随分と上からだな』

 

俺を見下してるのがすぐに分かる。

まったく、この世界には同じ分類の人間が多過ぎるだろう。

 

『言っとくけど、僕は何処ぞの金色(きんしょく)とかとは違うから。別に世界とか支配したくないし』

『……っ!』

 

思考を読まれたかと思ったが、脳量子波遮断スーツを着ている。

偶然か。

だが、アレハンドロのような黒幕でないなら何故俺の邪魔をする?

まさかリボンズの差し金か。

 

『お前は一体何者だ!』

『……あんたが1番知ってる筈だろ』

『なに?』

 

何を言ってるんだ、こいつは。

俺が生まれたのはソレスタルビーイングが武力介入を始めた直前から。

そこから人革連軍に入り、失踪し、レナと出会って理想の為に戦った。

その間でアズラエルなんて機体は見たことないし、この声にも聞き覚えはない。

初対面のはずだ。

 

『俺はお前なんて知らない』

『はぁ?そんなわけ――いや、あんた脳量子波を絶ってるのか。クソつまんない玩具なんて着やがって……っ!』

『……ッ。脳量子波を知ってる、お前イノベイドか!』

『ハッ。今更気付いたのかよ』

 

肯定した。

超兵の可能性もあるが、自然と口から出たのはイノベイドだった。

やはりリボンズの差し金か。

俺達の行動はバレているはず、おかしくはない。

正体まではバレてない……と思いたいが、アズラエルのパイロットの口調だと俺を知っていそうだな。

もう少し探りを入れるか。

戦闘は一時中止して構えは解かないまま問い掛ける。

 

『俺が1番知ってるとはどういうことだ?少なくともお前には会ったことはないと思うが……』

『……会ったことがあるかは僕も知らないけど、知ってる筈だ。あんたなら』

『はぁ?』

 

なんだそれ。

自分でも知らないのかよ。

そんなの俺が分かるわけないだろ…。

だが、何処か期待の混じったようなことを言われた。

ここまで確信的に告げられると気になるな。

1つ、思い至ることはある。

今世で会ったことがないなら前世だ。

 

『お前も転生者か……』

『正解。やっとそこに辿り着いたのかよ。頭の回転遅いな、クソがっ』

 

アズラエルのパイロットが悪態をつく。

このガキ、言ってるくれるな。

転生者ってのは礼儀がなってない奴しかいないのかよ……。

 

『それで?何故俺の邪魔をする』

『……別に邪魔をしに来たわけじゃないさ』

『なんだと…?』

 

ならリボンズの差し金じゃないのか?

これはリボンズとは関係のない転生者イノベイドって可能性も出てきた。

待て待て、今は相手の正体よりも何故俺に攻撃を仕掛けてくるかだ。

もしかしたらただの食い違いで、俺を誰かと勘違いしてる線もなくはない。

相互理解は重要だ。

まずは相手の目的を探ろう。

 

『ならなぜ俺を攻撃する?』

『――ははっ』

 

笑った?

一瞬間の空いた、馬鹿にした嘲笑。

僅かに聞こえたそれと同時にアズラエルがGNビームサーベルを捨てる。

 

『そんなの……あんたをぶっ殺すために決まってんだろ!!』

『来るか…っ!』

 

GNバスターソードを拾ってアズラエルのスラスターが噴射した。

さっきより速い!

 

『くっ…!』

『貰った!!来た!!僕の……っ!間合いだぁぁあ!!』

『なっ!?』

 

右下下段からGNバスターソードが放たれ、左のGNビームクローが切り上げられたと思ったら刀身の向きを変えずに右のビームクローも弾かれた。

さらにバスターソードは剣先をそのままプルトーネ ブラックの胸に向ける。

 

『ま、まず――ごはっ!?』

 

予想通り突かれた!

咄嗟に後退したおかげで貫かれるのは阻止したが、バスターソードの衝突で後方の衛星まで突き飛ばされる。

複合装甲を無くした分、ダメージと衝撃が来るなこれ…っ!

前と後ろの両方からの衝撃で正直吐きそうだ。

それでもアズラエルの追撃は止まない。

余裕を与えてくれるなんてこともなく、肉迫してきた。

というか接近時の動きに無駄がない!

間合いに詰めるまでの流れを完全に最適なものに、自分のものにしている……!

 

『速い…っ』

『言っただろ、僕の間合いだって!この距離なら僕は無敵だ!!』

『ぐっ……!』

 

叩きつけられるように振り下ろされたGNバスターソードをGNビームクローを双方重ね合わせて防ぐ。

よし…!

このままビームソードにしてバスターソードを両断する――。

 

『下が薄い!』

『うぐっ……!』

 

空いた懐を蹴り込まれた。

マズい、機体の体勢が……っ!

 

『くっ……!』

『そんな申し訳ない程度の斬撃が、当たるもんか!』

 

本当にその通りな、なけなしに振るったGNビームクロー。

射程が届かず、空を斬った。

対するバスターソードの刀身は顔面に飛んでくる。

プルトーネ ブラックの頭を取られた。

 

『メインモニターが……っ!』

『見えなければ自慢の高機動もお釈迦だな!』

『何故それを……!?』

 

こいつ、俺の塩基配列パターン0000としての能力を知っているのか!?

馬鹿な、その情報はヴェーダにも載ってなかったはず……。

同じ転生者でも知らない筈だ。

 

『知ってるさ。あんたらのことは全て……あんたらよりもなっ!!』

『……っ!』

 

またバスターソードを叩きつけられGNビームクローを重ねて防御する。

しかし、瞬きの間にバスターソードは目の前から消え、下段から振り上げられていた。

 

『なに……っ!?』

『遅いんだよ…!!』

 

プルトーネ ブラックの右腕接続部に一閃が走りGNビームクローと共に片腕を失う。

モニターの故障と近接での立ち回りが速すぎて見えない。

さらにアズラエルは振り切ったバスターソードの刀身の向きを変えず、逆刃のまま腹の部分でプルトーネ ブラックを殴打してくる。

 

『ぐっ……!』

 

左肩に強い打撃を受けて衝撃が俺の身体に走った。

だが、アズラエルは追撃を止めない。

そのまま一閃。

返しでプルトーネ ブラックの左腕も奪った。

 

『しまった!武装が……っ』

『そんなもんかよ!』

『……っ』

 

追い討ちといわんばかりのバスターソードが降ってくる。

武装はない。

だが、まだやりようはある…!

 

『舐めるな!』

 

数ミリにまで迫ったバスターソードを予備動作なしで避け、アズラエルの腹部を狙った膝蹴りを放つ。

 

『ハッ、そう簡単に行くかよ』

『なに…!?』

 

脚部のスラスターを噴射したアズラエルの足先から突如GNビームサーベルが出現した。

それを蹴り上げて俺の脚が奪われる。

ここまで隠し武器を温存してたのか……!

 

『クソ…!』

『終わりだ、あんたは死ぬ!』

『そうはいくか…!』

『いくさ。お前らに僕は殺されたんだ!!その復讐を…!』

『なんだと…?』

 

何の話だ?

前世の話だとしても橘の一家の中で誰からも殺人経験があるなんて聞いたことがない。

交通事故だって覚えがないくらいだ。

本当に、こいつが何を言ってるのか理解できない。

 

『だから、今度は僕があんたを殺す!世界なんてどうでもいい、あんたらを殺せさえすれば…!』

『ぐ…っ!』

 

GNバスターソードがプルトーネ ブラックに残された最後の脚を切断し、四肢を奪われたプルトーネ ブラックが宇宙(そら)に流れる。

最後に右眼に激痛が走って片目を瞑った俺に、残された左の瞳が振り上げられたアズラエルの脚部を捉えた。

そして――。

 

『僕が唯一の()()()()だ……っ!!』

『ぐあああああっ!?』

 

爪先から伸びるGNビームサーベルがプルトーネ ブラックを両断した。

機体は爆散し、プルトーネ ブラックは宇宙の塵となって消える。

しかし、爆炎からは被弾したコア・ファイターがアズラエルに背を向けて飛び出した。

かろうじて脱出できたが……。

 

『かはっ……!』

 

コア・ファイターで逃げながら血反吐を吐く。

ヘルメットのバイザーが鮮血で汚れ、元々負傷していた右腕が激しく痛む。

血の涙腺すら伝う右眼を瞑り、右腕を抑えつつコア・ファイターで必死に操縦した。

黒煙でコア・ファイターの姿はアズラエルから見えない。

逃げるなら今しかない……!

 

『うぐっ!?』

 

突然衝撃がコクピットを襲った。

どうやら衛星に衝突したらしい。

コア・ファイターがめり込んで動かなくなった。

だが、レーダーに映るアズラエルの座標も静止している。

それにこの距離なら見つからない可能性も……。

 

『意、識…が……』

 

視界が朦朧とする。

限界か…。

 

『せめて……太陽炉を…』

 

そうだ、プルトーネ ブラックの擬似太陽炉はレナの作ったGNドライヴ。

擬似太陽炉でありながらヴェーダに追跡されない貴重なものだ。

例え俺の命がここで尽きるとしてもレナやレオに託すことができる……。

まだ、諦めるわけには――いかない。

 

『これで、ようやく……』

 

擬似太陽炉を射出して脱力する。

やっと楽になれる…。

でも、この結果はレナの期待を裏切ったことになる。

戦いを止めると決意したのに……。

結局、戦場には辿り着かず、作戦プランを何一つ達成できなかった……。

 

『ごめん、レナ……』

 

届かないと分かっていても謝る。

折角、理想を共に目指してくれたというのに。

俺はこんなところで……。

 

『ほ―とに――た。リボ――の言う――ね、―ヴァ―ヴ』

『あぁ――、さっそ――れて―――。彼は――立派な――――ターだ』

 

落ちゆく意識の中で妙に透き通る声が耳に入る。

徐々に歪みの強くなる視界。

その中で黒い影を二つ捉えていた。

俺は――その2人に手を伸ばし、力尽きるように意識を落とした。




MS紹介
・ガンダムプロトアズラエル

パイロット:レン・デスペア
開発組織︰イノベイド?
主動力︰GNドライヴ[Τ]
装備︰GNバスターソード×1、GNビームサーベル×3、GNファング×2
詳細:レイの前に突如現れた擬似太陽炉搭載型のガンダム。武装は少なく、未だ開発途中の機体。本来は第4世代ガンダムと同時期の完成を予定している。レイのガンダムプルトーネ ブラックとの戦いで右腕を失ったが、それ以降は苦戦する様子を見せずに勝利する。

人物紹介
ㅇレン・デスペア

塩基配列パターン0000の転生者イノベイド。髪は黒髪で、レイやレナと同タイプだと目視と脳量子波で判断できる。相手を見下した口調で話し、戦闘時は突然感情が昂ぶるなど情緒不安定な面も持ち合わせている。レイの前世を知るようだが、当の本人は最後まで心当たりを見つけられず、レンの手によって倒される。セカンドネームが『デスペア』なこともあり、関係性があると思われるが真相は闇の中――。


⚪︎後書き
正直訳わかんない最終決戦だと感じた読者様もいると思います。
ただ、このレン・デスペアは重要で、サブタイの通り『ラスト・デスペア』です。
レンが一体何者なのか、それは塩基配列パターン0000の真相と共に2ndで語られていきます。
突然過激になる行動と言動の意味、それは2ndで明かされるレンのことを知ればこの回の戦闘シーンの感じ方も変わるかと。
今後の展開をお楽しみください。
ちなみに最終決戦、1stのラスボスはこの回でもVSネルシェンでもVSアレハンドロでも捉え方はそれぞれで変えて頂いて構いません。
これからもよろしくお願いします。

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