登録番号04361-AZ734、人間名レイ・デスペア。
新たなミッションへ移行。
必要データのダウンロード……九十%完了。
接続中……。
リボンズからの進呈をヴェーダが肯定。
ヴェーダによる命令が下された。
俺――レイ・デスペアは――。
「……」
意識が戻り、瞳を開く。
すると視界には白さの目立つ一室が映った。
赤い長椅子の上に俺は座っている。
「やあ、目が覚めたかい?」
「リボンズ・アルマーク……」
目の前で優雅に腰掛ける美少年の容貌が俺と目を合わせた。
リボンズ・アルマーク。
イノベイドでありながら、その存在を超越し、イノベイターとなった存在。
「そう。そして、君は僕らの為に働いてもらうよ」
「……脳量子波か」
思考を読まれた。
当然だな。
もう遮断スーツは身にまとっていない。
リボンズの双眼が金色に輝き、恐らく俺も同じ。
なんら不思議はない。
「どうやって俺を回収した?それにこの身体は……」
自身の肉体を見下ろす。
右腕の負傷も右眼の傷もまるで元からなかったかのように修復されている。
それも気になるが、何故俺はここに居るのか。
最も尋ねたいことだ。
『あの戦い』の後、俺は
「ボディに関してはそれしか持ち合わせがなくてね、不満かい?」
「いや……」
先にどうでもいい方を答えてくれる。
大方『ヴェーダ』にサブボディを要求したのだろう。
前の身体は傷が酷かったからな。
ま、その結果リボンズも予想してなかった肉体を寄越されたらしいが。
下半身に違和感があるのはそのせいか。
何をもって『ヴェーダ』が判断したのか全く理解できんな。
まあそれはいい。
肝心なのはもうひとつの疑問だ。
それに関してもリボンズはきちんと教えてくれた。
「君を激戦の中、回収してくれたのはヒリングとリヴァイヴさ」
「は~い。久しぶりね、レイ」
「まさか生きていたとはね」
リボンズが二人の名前を出すと背後から本人達が現れた。
相変わらずの態度だ。
そういや最後に会ってから半年にはなるか…。
「あぁ、久しぶりだな」
「んっ」
「君も相変わらずだね」
ヒリングは俺の肩を軽く叩いてリボンズの隣へ、リヴァイヴはやれやれとでも言いたげな様子で俺の隣に腰を下ろした。
だが、二人ともすぐに俺に鋭い視線を向ける。
「……なんだ、不満か?」
何が、とは言わない。
俺を回収したということは少なくとも俺がどこにいたのかは知っている筈だ。
それにトリニティの行動もずっと監視していたと見ていいだろう。
彼らに協力する謎のパイロットもな。
そのことに関して尋ねるとヒリングが真っ先に剣呑を解いて微笑んできた。
「あたしは結構面白かったわよ?……あのアレハンドロとかいうやつ、リボンズにベタベタ触ってて気に入らなかったし」
「やめろ」
「あんっ」
俺に近寄り、鼻を人差し指で突いてきたので払う。
ちなみにセリフの後半は俺にこっそりと告げてきた。
多分本人に聞こえてると思うけどな。
アレハンドロはあいつの『お気に入りの人間』だったし、後がどうなっても俺は知らないぞ。
「君と行動していたあの『翼持ち』のパイロットは何者だい?」
「それに関しては答えられない」
「なに…?」
リヴァイヴの質問を断ると当然疑った目を向けられる。
そう、何故か思い出せない。
『翼持ち』のパイロットが誰なのかは知ってる。
だが、何か重要なことが抜け落ちている
同タイプのイノベイドの少女、そして名前。
素性はわかってる筈なのに何故か足りないような感覚に襲われる。
俺はもっと彼女のことを知っているような……。
あぁ、そもそも中性であるマイスタータイプを『少女』と表現しているのが自分自身でも謎だ。
なんとなく俺の記憶の中から何かが抜け落ちている。
とにかくリヴァイヴに言えることは限られているな。
「思い出せないんだ。悪いな」
「……なるほど」
淡々と伝えるとリヴァイヴは信じていないようだが、身を引いた。
だが、真実なのだから仕方ない。
ハッキリ知ってる筈なのに情報が足りない気がするんだ。
こんな不確定な情報を与えて混乱させるわけにもいくまい。
二人を退けたのち、俺は再度リボンズに目を向ける。
さて、本当に説得しなきゃいけないのはこいつだ。
「俺はトリニティの在り方に納得出来なかっただけだ。だから、行動を起こした。しかし、『ヴェーダ』からの指示には従おう」
「それはつまり、君も僕らの一員として戦ってくれるという意味合いでいいかい?」
イノベイドに囲まれてる状況でノーとは言えないだろ。
切り替えが早いと言っていいのか分からないが、懐に放り込まれたからにはそれなりの対応はする。
今はリボンズに従うのが吉だ。
仕方ない。
「あぁ。だが、1つ疑問がある」
「疑問……?」
リボンズの反復に俺は頷く。
俺は以前リボンズに言われた。
まだ未熟なマイスタータイプなのだと。
その能力を真に発揮するために戦争へと投入され、経験を積んだ。
しかし、俺は途中で退場した身。
条件を満たしているとは思えない。
一体どういう心境の変化で俺を他のマイスタータイプと同列に並べ始めたんだ?
「俺はまだ未熟じゃなかったのか?」
「あぁ、なんだ。そんなこと……」
リボンズが微笑を漏らす。
この様子だと返答は予想できるな。
「君はもう充分成長したさ。MSの操縦技術も、心もね。なんなら試してみるかい?」
「……いや、止めとくよ」
ヒリングの目が一瞬輝いたのを見逃さなかった。
なんで起きて早々ヒリングにボコられなきゃならない。
却下だ、却下。
まあそれはともかく、大体状況は理解した。
少なくとも過去のことは水に流してリボンズは俺のことを仲間と認めてくれるようだ。
そして、いつか話していた『来るべき時代』に恐らく投入される。
それも『ヴェーダ』からの指示によるとかなり早い時期から、連邦軍に送り込まれるようだ。
「いいのか?俺を信頼して……」
「何を今更。君はもうそれに値するだけの存在となったんだよ」
「それは、光栄だな」
賛辞を適当に流し、リヴァイヴとヒリングを見遣る。
どちらも笑みを浮かべながら俺を見つめている――こいつらと、本物のマイスタータイプと俺は肩を並べることができた。
1年前なら考えられないことだな。
ちょっと嬉しいのは本音だ。
そういえば国連軍とソレスタルビーイングの戦いはどうなったんだ?
急に気になってきたな……。
何しろ、あれを止めようとしたわけだしな。
トリニティのように誰にも死んで欲しくなくて…。
だが、俺は戦闘宙域に辿り着くまでもなく倒されてしまった。
その後のことがどうしても気掛かりだ。
「ソレスタルビーイングは壊滅したよ」
「……っ!」
思考を読んだのか突如リボンズが告げた。
それと同時に隠れていたイノベイドが、ブリング、デヴァインの二人も姿を現す。
「いずれ各国家群が地球連邦として1つに纏まることになる。そして、その頂点に立つ者こそが僕達。いや、導くと言った方がいいかな?」
「ソレスタルビーイングによって破壊された世界は再生を始める」
「人類の変革ってやつね」
「その為の重要な使命を私達は担っている」
リヴァイヴを始めに口々に計画を口にする。
イオリアのプランに沿った忠実なイノベイドによる計画。
そして、俺もその為に戦わなければならない。
だからこそ新たなボディが与えられたんだ。
この肉体は計画のために存在している。
「始まるよ、人類の未来が」
瞳に輝きを宿らせるリボンズ。
イノベイターを背に宣言する。
ソレスタルビーイングが壊滅した今、後はイオリアの計画を俺達の手で遂行するだけだ。
そうだ、俺たちはその為に生み出された。
そして、その未来を導く者。
それは――。
「俺が、いや……」
「俺達がイノベイターだ」
俺の瞳も金色に輝き、世界を見下ろす。
そして、再生が始まった。
エピローグ:イオリアが求めたもの、それは――
リジェネ・レジェッタは俗にいうリボンズ・アルマーク率いるイノベイド勢力には属さないとあるイノベイドへと会いに来ていた。
そのイノベイドは《デスペア》の名を持つ者。
「新たな情報、お気に召しました?」
「独立治安維持部隊アロウズ……ね。ハッ、リボンズが考えそうなことじゃん」
「まあ…言いたいことは分かりますよ」
レンズを押し上げ、表情を隠すリジェネにデスペアは目を細めながら振り向く。
胡散臭いとでも思われてるのだろう、とリジェネは内心苦笑い混じりに感じた。
「とにかく興味ないね。大体あんたらが何をしようと僕には関係ないし」
「ですが、あなたの兄も――」
「あんなのは兄じゃない!!」
リジェネの言葉を遮り、怒鳴り声が響く。
勢いよく立ち上がった
感情的になるのを珍しく目にしたリジェネは驚愕した。
「……何かありました?」
「ふん…。あいつにとって僕は記憶にも留まらないどうでもいい存在なんだ。だったら僕も、あんなやつ……」
「失礼、地雷だとは知らなかった」
「……」
謝るリジェネ。
心のこもってない謝罪にデスペアは舌打ちしてそっぽを向く。
その目線の先には広い
「僕は、生きる。イオリア・シュヘンベルグの与えたこの命で。その為にあいつらを殺る必要がある。もはやそれ以外の期待なんて抱いてない」
「なるほど…。まあ今後は触れないように気をつけるよ。ところで、君は僕達に協力する気はないのかい?」
「またそれか。ハッ、あんただってリボンズの寝首をいつ搔こうか機を窺ってる癖によく言うよ」
「……」
「失礼。地雷とは知らなかったよ」
してやったりといった表情で嘲笑され、リジェネの感情も揺れる。
表情に出さないよう必死にレンズに光を反射させて顔を伏せているがデスペアは全てを見抜いている。
何をしても無駄だろう。
そして、気に触ったのかデスペアは色彩に輝く瞳でリジェネを見下すように見下ろした。
「たかがイノベイド如きに僕の力を貸す?笑わせんな。あんたらとは違う、僕らはイオリアに最も求められた存在なんだ」
「上位種だとでもいう言う気かい…?」
「そう言ったのさ。いくら僕に近付こうが無駄だよ。あんたらただのイノベイドは僕らのようにはなれない」
視線を落としているリジェネがピクリと反応する。
それを目にしてデスペアはさらに嘲笑を浮かべた。
さらに続ける。
「塩基配列パターン0000だけがイオリアの求めたものに唯一なれる。例え僕らと同じ遺伝子を用いようとあんたらが使えばナオヤ・ヒンダレスのような失敗作しかできないことがそれを証明している筈だ」
リジェネが悔しそうに苦虫を噛み潰したような表情をする中、デスペアは続ける。
より優越感を身にまとって。
「最後に残ったデスペアだけが選ばれる。そうさ、僕がなるんだ……!」
色彩の輝きにより強みが増す。
まるで、命を宿すが如く。
レン・デスペアはその存在を口にした。
「