タリビアの一件が終わると人革連側で重大な
未来形なのはまあ言わなくてもわかると思うけど本筋を知ってるから。
スミルノフ中佐とソーマ、俺は機体の性能実験のために宇宙へ行くことになった。
人革連の軌道エレベーターを使って三人で宇宙へと上がる。
スミルノフ中佐とアレルヤの初対面…じゃないな、声だけだが初めての出会いとなる。
つまりソーマの
機体ごと軌道エレベーターで
なんで俺が同行するかというと実は特に理由はないらしい。
なんかたまたま予定空いてたから誘われてしまった。
ちなみに俺の機体は『ティエレン宇宙型』、言ったら中佐と同じだな。
よく見る青いティエレンだ。
アレハンドロ経由でリボンズが手回しして特別な機体を用意してるとのことだが間に合ってないらしい。
しかし、俺としては都合が良い。
いきなり高性能の
まずはティエレン宇宙型で操縦に慣れておきたい。
ちなみに一応スカウトではあるが超兵でもない俺に特別な機体が用意されていることに少なからず反感を持つ者がいるらしいが知ったこっちゃない。
あまりにもうるさいやつは撃ち落としてやろう。
当たらないから安心しろ。
「手続きは済ませた。行くぞ、二人共」
「了解しました」
「了解」
スミルノフ中佐の指示に頷き、彼の後をソーマと追っていく。
中佐は大人なので面倒な手続きなどは全てやってくれたらしい。
ソーマは子供だからな、中佐は保護者気分なのかもしれない。
俺も実質1歳以下だけど絶対に口にしてはいけない。
「ほら、早く早く~」
「ま、待ってよルイス!」
はは。バカップルの声が聞こえるな。
今の内に幸せを噛み締めておけよ、マジで。
だが、ちょっと羨ましい。
俺にも癒しを分けてくれ。
隣にいるのは未だ超兵、哀しいなぁ。
でもうちのソーマも充分可愛い。
寧ろルイスには負けてない。アレルヤのヒロインだけど。
って何を張り合ってるんだ俺は。
「デスペア少尉、私の顔に何か?」
ソーマが尋ねてくる。
おっと、無意識にソーマを見つめていたらしい。
駄目だな。ヒロイン不足だ。
俺にヒロインをくれ。
大体転生ものにはハーレムが付き物だろうに。
今のところ俺のヒロインはティエレン宇宙型だ。
「いや、ソーマは美形だから見惚れてたんだよ」
「はぁ…?」
めっちゃ微妙そうな顔された。
なんか口説きが失敗したみたいで恥ずかしくなってきた。
今のソーマはまだ感情が薄いからな。
返ってきた反応も頷ける。
ソーマとの変なやり取りも経て、軌道エレベーターに搭乗するまでは問題なく済んだ。
さすが軍人だけあって個室を用意されている。
中佐がいるからな。
当然の待遇といえばその通りだ。
座席はスミルノフ中佐とソーマが向かい合わせになり、俺はソーマの隣。
軌道エレベーターは俺の
ガンダムキュリオスも乗っていることは誰も知らない。
「何か?中佐」
「ん、いいや…」
出発してから暫く落ち着ける時間になってから中佐が何かを考え込んでソーマを時々見遣る。
超兵計画に思うところがある中佐はこの時も『超兵1号』の説明をされた時のことを思い出している。
『超兵1号』は体内に埋め込んだナノマシンで身体機能を保全、宇宙環境でも活動しやすくなってるだのなんたら。
俺ならそこまで聞いて殴ってる。
頭がおかしい連中だからな。
移動中暇なので好きに寛がさせてもらった。
ソーマは人形みたいに動かない、中佐はずっと考え事をしている。
そんな中、珈琲をブラックで頼む。
昔から何故か珈琲はブラックでしか飲めない。
代わりというか甘いものは苦手だ。
キャビンアテンダントのお姉さんに珈琲を頼むとソーマが同じものを注文。
スミルノフ中佐が不安そうな目線をソーマに送る。
「ピーリス少尉、本当にブラックで良かったのか…?」
「……?何か問題でも?デスペア少尉が頼んでいたので私も頂こうと思いました」
「ふむ…しかし…」
「まあいいじゃないですか。コーヒーフレッシュを後で持ってこさせましょう」
「……分かった」
多分純粋に食事や休息を楽しんだことがないのだろう。
俺の見様見真似でソーマは便乗してきたみたいだ。
ま、物は試しだ。
一度飲ませてもいいし、体験は大切だということも中佐に分かってもらえた。
やがて珈琲がブラックで運ばれてくる。
俺は美味しく頂き、ソーマは俺の飲む姿や珈琲を暫く様子見した後、小さく口を触れさせた。
「うっ…に、苦っ…!」
「やはりか…」
スミルノフ中佐が呆れたように呟く。
やっぱり駄目だったか。
「デスペア少尉はこんなものを私に…」
俺のせいなのかよ。
「そう睨むな。俺のスティックもやるから」
「うぅ…有難く頂戴する…」
盛大に甘くしてやっと飲めるようになったソーマはほんのり残る苦味を感じるのか顔を顰めてる。
可愛いなお前。
だが、ちょっといじめすぎた。
こっそりショートケーキを頼んでおいたからそれで満足してもらうとしよう。
到着するまでの間先日見たフラッグを思い出したので軌道エレベーターのネットワークで調べた。
人革連のネットワークだから詳細までは知れないけどフラッグの空中変形については人革連側の仮説だが少しだけ調べることが可能だった。
フラッグの空中変形は重力がどうとかこの前は言ったが違った。
空気抵抗で機体が墜落する危険があるとのことらしい。
やはりそれを幾度となく成し遂げるフラッグファイターは凄い。
グラハムだけじゃなくフラッグファイターを見たら逃げることにしよう。
テスト飛行で空中変形をしてみせたグラハムはマジでやべーやつだ。
ハロとかゲットしたらグラハム発見時に伝えてもらおう。
絶対に逃げてやる。
あ、フラッグについて誤ってたことには全国のフラッグファンにも謝罪するからグラハムスペシャルは止めてね。
そんなことを考えてるうちに
本来ならここからが事件の始まりとなる。
「少尉。機体の元へ行くぞ。30分後には性能実験を開始する」
「了解しました」
スミルノフ中佐と共にティエレンへと向かう。
沙慈やルイスとは研修でお別れだ。
性能実験を行いにきた俺達はティエレンへと乗り込み、宇宙空間へと飛び立つ。
ソーマのティエレンタオツー、俺と中佐のティエレン宇宙型。
三つの機影が宇宙環境に浮かぶ。
『少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回ってみろ』
『了解しました、中佐』
ソーマが中佐の指示に従ってティエレンタオツーで飛び回る。
本筋ならこの後コース中に第7重力区画に近付く場所でアレルヤとの脳量子波が共鳴し合い、ソーマが暴走してしまう。
その結果重力ブロックが漂流。
人命を救うために中佐が奮闘するも絶望的な状況は覆らず、ガンダムキュリオス――アレルヤ・ハプティズムの助力を得ることとなる。
だが、同じ轍は二度踏まない。
俺は事前にソーマのスーツに脳量子波を遮断するよう超人機関の技術者に進言しておいた。
転生において一番怖いものは原作改変だ。
しかし、本筋に沿うためとはいえ俺にはソーマを見捨てることはできない。
故意にソーマが苦しむ姿を見る程悪趣味でもなければ非情でもない。
ソーマ・ピーリスは俺……いや、レイ・デスペアにとってキャラクター以前に仲間だ。
例え原作を改変してしまうといえどそこは譲れない。
ソーマとアレルヤの共鳴をなくせばスメラギの言っていた『プランの大幅な修正』は無くなるだろう。
だが、それでも俺はソーマの苦しみを一つでも減らしたかった。
ただの偽善だ。
何かが改善されるわけでもない。
分かっていても知っていて無視はできない。
『最大加速に到達』
『最大加速時でルート誤差が0.25しかないとは、これが超兵の力…。しかし、彼女はまだ乙女だ…』
『……』
ソーマは順調にティエレンタオツーを制御している。
機体の性能も充分に活かせているだろう。
さすが超兵だ。
余談だが超人機関の技術者にスーツの改良を進言した時快く承諾された。
寧ろそういう意見はもっと欲しいとのこと。
超兵…いや、ソーマのことを兵器としてしか見てないようだ。
本当に殴りたくなったがどうせその内中佐によって退場するやつだ。
放っておいてもいい。
とにかく本筋を知ってる俺だからこそソーマを守れる機会はある筈だ。
仲間として、ソーマ・ピーリスという一人の少女をできる限り守ろうと決めていた。
さて、俺は俺のするべきことをしようと思う。
確かアレルヤはティエレンタオツーの性能実験の偵察が
悪いが偵察を許すわけにはいかない。
せめて少しくらいは原作改変を避けるように取り組まなければならない。
アレルヤがソーマと交戦する時、重力ブロックの事件のせいで事前にティエレンタオツーの性能を知ることは叶わなかった。
その状況を覆してはいけない。
ということで俺はアレルヤを探すことにしよう。
『中佐。他軍の偵察などを警戒して見張りに行ってもいいでしょうか?』
『む?構わんがあまり離れるなよ』
『了解!』
中佐の許可も貰ってキュリオス探索に乗り出せた。
ソーマは順調にメニューをこなしてるようだ。
同期が優秀なのは頼もしい。
年齢にやや問題はあるが。
さて、キュリオスは何処にいるかな。
ティエレン宇宙型で衛星をかき分けていく。
しかし一向に見つからない。
おかしいな、大体居そうな衛星の影とかは探したんだけどな。
もう帰還したのか?
俺の予測ではまだ居ると思ってたんだが思い過ごしみたいだ。
タオツーの性能を見れば黙ってはいないと思ってたんだけどな。
ソーマや脳量子波どうこう抜きでさ。
まあタオツーの性能をプトレマイオスに報告しに行ったのかもしれない。
とにかく見つからないものは仕方ない。
そろそろソーマの試験も終わる筈だ、帰るとするか。
『……待てよ』
機体を旋回させて、ある事に気付いた。
タオツーの性能に黙っていないならなんらかの行動を起こすまでは考えた。
だが、それなら報告や帰還以外の方法もある。
寧ろそちらの方が可能性は大きい。
確かスメラギからのミッションプランはタオツーの性能実験の監視、場合によっては破壊だった。
なんでこの考えに至らなかったんだ。
このままではソーマが危ない…!
『くそ…!何がイノベイターだ、この無能がっ!』
自身を罵りながらソーマの元へ加速する。
俺のティエレンは既に性能実験の宙域から少しだけ離れている。
キュリオスを見つけられなくて可能性のある限り遠くまで探し続けたからだ。
最悪だ、キュリオスはもっと近くにいたんだ。
ソーマを――タオツーを破壊するために!
『灯台もと暗しってか?ふざけんな!』
全速力で戻るとキュリオスを発見した。
ソーマのタオツーと中佐のティエレンからそう遠くない。
これから襲撃すると見えるが様子がおかしい。
キュリオスは脱力したまま動かなくなっていた。
しかし、俺のティエレンが近付くと――。
『うわああああああああああーーーっっ!!』
『……っ!?』
突如通信で悲痛な叫びが響いた。
間違いなくアレルヤ・ハプティズムの声だ。
そうか、ソーマは既にスーツに脳量子波遮断を施しているがアレルヤには影響が出るのか。
これは好機だ。
苦しんでいるアレルヤには悪いがこの機会を逃すわけにはいかない。
中距離から牽制射撃で逃げてもらおう。
あの状態で戦闘には発展しようとしないはずだ。
『うっ…ぐっ…クソがっ。誰だ俺の中に入ってきやがるのは…』
アレルヤの口調が荒々しくなった…?
あぁ、人格がハレルヤに変わったのか。
アレルヤは痛みに耐えるので精一杯だからな。
その隙を使って表に出てきたか。
しかし、アレルヤだろうがハレルヤだろうが知ったことではない。
ティエレンの腕部に装着している200mm×25口径長滑腔砲の銃口をガンダムキュリオスへと向ける。
ティエレンの主兵装だ。
照準をキュリオスへと定める。
『奴か…ぶっ殺すっ!!』
まずい、ハレルヤがソーマに気付いた。
やはりハレルヤの方が脳量子波においては鋭いのか。
厄介だな。
そういえばマリーの正体にハレルヤはアレルヤより早く気付いてたんだったな。
今はそんなことどうでもいいか。
キュリオスが遂に動き出す。
GNビームサブマシンガンはタオツーを捉えている。
『させるかっ!!』
不意打ちで撃たれたらいくらタオツーでも損害は受ける。
だが、そんなことはさせない。
200mm×25口径長滑腔砲が火を噴いた。
『ぐっ…!なんだ!?』
初めて射撃が当たった…。
3発だけだが充分だ。
キュリオスを気を引いたところで俺は急接近する。
『人革連のモビルスーツ?うぅ…!』
『ソーマは傷つけさせはしない!』
『なっ…!?』
苦痛に苦しむ声が聞こえる。
アレルヤか。
200mm×25口径長滑腔砲の放熱板を利用し、ブレイドでキュリオスに斬り掛かる。
キュリオスはGNビームサーベルを抜刀し、ブレイドを防ぐ。
さすが対応が早い。
しかし、感心している暇はなかった。
ブレイドとGNビームサーベルが火花を散らす中、キュリオスは空いた片手でGNビームサブマシンガンを構える。
この態勢で撃てるのか!?
『まずい…!』
あまりに近距離過ぎる。
逆噴射で緊急回避したおかげでGNビームサブマシンガンの弾道はティエレン宇宙型を通らなかった。
だが、キュリオスのGNビームサブマシンガンの脅威はその連射性。
ここからが勝負だ。
『……ッ!』
『避けきる…!』
ひたすら上昇してビームを避けるが、キュリオスの機動力のせいで次第にビームが俺のティエレンに追いつく。
遂にキュリオスのビームがティエレンの片足を吹き飛ばした。
『ぐうっ…!!』
衝撃が俺の身体に伝わってくる。
片足を失ったティエレンをキュリオスのGNビームサブマシンガンの銃口は捉えていた。
容赦がないな!
『撃墜する――っぁ!?』
ティエレンを追い詰めるキュリオス、アレルヤ。
しかし、狙った照準がズレる。
先程から『何か』が頭を刺激するせいだ。
引き金を引くも弾丸は照準を大幅に外し、衛星を破壊する。
『外した?』
当然アレルヤの痛みを瞬時に理解することはできず、後から理解する。
そうか、脳量子波がアレルヤを蝕み始めたのか。
ということはその原因が近付いているということだ。
『ガンダム…!』
『デスペア少尉無事か…!』
『ソーマ…中佐…』
交戦を嗅ぎつけたのかソーマのタオツーとスミルノフ中佐のティエレンが駆け付けてくれた。
2機による援護射撃にキュリオスは後退していく。
『逃がすか、ガンダム…!』
『少尉!深追いはしなくていい!』
『し、しかし…』
『上からの命令だ』
『……了解しました』
ソーマとスミルノフ中佐の援軍でキュリオスは引き上げていった。
おそらくソーマが近くにいるせいでアレルヤが頭痛に耐えられなくなったんだろう。
なんという因果だ。
ずっと求めていた人物が目の前にいるのにな。
……と気休めはこれで充分か?レイ・デスペア。
俺はもう限界だ。
『はぁ…はぁ…』
操縦席で荒い呼吸と共に項垂れる。
初めての戦闘。
ほんの数分、だがこれ程までに死と隣合わせの時間はあるだろうか。
肉体は疲れてはいない。
腐ってもイノベイターだということだ。
けど中身はただの一般人だ。
運悪く転生してしまっただけの人間。
いや、イノベイターである分特典は付いてる。
運は良いのかもしれない。俺はそうは思いたくないけど。
とにかく――。
『疲れた…』
意識は保てた。
きっと身体がマイスタータイプのイノベイターだからだ。
スミルノフ中佐の指示でタオツーの性能実験も終えたことだし帰還することになった。
だが、俺は終始脱力してソーマや中佐が話し掛けてきても声はよく聞こえなかった。
日間ランキング2位に乗りました。ありがとうございます!
ティエレン全領域対応型は時系列的に登場していないのでティエレン宇宙型に修正しました。
全領域対応型→宇宙型(2018/01/17 18:37:47)