主人公機はティエレンとキュリオスを主軸として開発されたアヘッドです。
今回は地文を一人称と三人称の合成で書くことで、プトレマイオス側の描写も追加しました。
それが影響してか文章が長くなったので時間がある時に読むことをオススメします。
アロウズの戦艦バイカル級航宙巡洋艦の艦内にて。
上官であるアーサー・グッドマン准将は顰めっ面で見下ろしてきた。
「先の掃討作戦。カタロンの艦を取り逃し、ガンダムが出現したとはいえ、オートマトンでの襲撃も何者かの介入により全機ロスト。MS部隊含め死者が0とは……失態だなぁ、デスペア大尉」
「面目しようもありません」
「ふん!もういい!」
「ハッ!」
呆れ果てたのか、手で撒かれた俺は敬礼して一歩下がる。
問題はソレスタルビーイングが現れたこと。
これからの行動についてMS部隊長である俺やネルシェン、ジニンに司令官と副官であるアーサー・グッドマン准将とジェジャン中佐を混じえて話し合わなければならない。
一本下がった俺の隣にネルシェン、その隣にジニンがいる。
艦内のメインモニターには新型のガンダム――セラヴィーが映っていた。
「アヘッドのメインカメラから拾った映像だ。新型のガンダム……いずれまた我々の作戦に介入してくるであろう」
「ソレスタルビーイングのスペースシップの居場所が掴めればこちらから打って出れます」
「ほう、まるで可能だと言いたげな口振りだな」
「……恐らくだがな」
「イノベイターか…」
ネルシェンの鋭い視線を避け、グッドマン准将の忌む視線を受ける。
まったく、風当たりの強い職場だ。
「それが可能ならば話は早いが、そうでない場合。やはりガンダムへの対策は必要だろう」
「勿論だ、ジニン。それは俺とグッドマン大尉で受け持つ」
「構わんが。足を引っ張るなよ、デスペア」
「……分かってるさ」
皮肉を漏らしてくるネルシェンに渋りながらも頷く。
今更あたりの強いことに目くじらは立てない。
さて、俺とグッドマンがセラヴィーの相手をするとしてそれでも問題が残る。
それは――。
「ガンダムが1機だけならいいんだがな……」
「5年前のように4機も出てこられちゃ、今の戦力じゃ太刀打ちできん。そうなったら地上の部隊と合流するしかないな」
「全ては想定の話だ。そんなものは後でいい」
「ま、それもそうだが……」
俺の不安とジニンの呟きをネルシェンがバッサリと切り捨てる。
ほんと、竹を割ったような性格してるな。
「ふむ。とにかく現段階でガンダムは1機存在している。その対応はデスペア大尉とネルシェンに任せるとしよう、いいな?」
「ハッ!」
「……心得ている」
ネルシェンが切ったことにより話に区切りがつき、グッドマン准将がまとめる。
俺は敬礼し、ネルシェンは血縁なこともあってか素っ気ない態度で応える。
血縁でも軍人としての上下関係はあると思っていたが、アーサー・グッドマン准将もネルシェンのことを階級で呼ばないところを見るに二人の間柄は謎だ。
まあ別に知りたいわけじゃないけど。
とりあえずこうしてミーティングは終えた。
ちなみにジェジャン中佐は空気だった。
ミーティングを終え、先の戦闘での休養を取った後、普段通りの訓練をこなす。
地上では体力向上を軸としたメニューを渡されるが俺達は
となると必然的に
工夫にもよるが通常の訓練は無重力では楽になってしまうからな。
今日もグッドマン大尉とのフォーメーションのシミュレーション訓練をこなし、脱衣場にてネルシェンと休憩していた。
「ほう」
「ん?妙に嬉しそうだな。何かあったか?」
「なに…?」
「顔に出てるぞ」
「……」
端末を見つめながら少し頬を緩めたのを見逃さなかった。
ネルシェンは指摘されて表情を険しくする。
おぉ、怖い怖い。
「貴様には関係のない話だ」
「あっそ」
一蹴されては仕方ない。
珍しく笑うもんだから少しは気になったのは本音なんだがな。
エースパイロットであるネルシェン・グッドマン大尉とイノベイターであるレイ・デスペア。
実力を踏まえてタッグを組まされてから数ヶ月は経ち、144通りもあるフォーメーションも馴染みつつある。
だが、俺達の間には明らかに溝があり、それを埋めようとは互いに思っていない。
俺からすれば以前は『敵』だった相手。
ネルシェンからすればナオヤ以外はさほど興味がないのだろう。
故に互いに関与せず、今も一蹴されたら話を切って目を逸らした。
「そういえば今日のフォーメーション
「……ふん。どうせ実践では使わんやつだろう」
「そういう問題じゃあないだろ」
ま、実際言う通りではあるけど。
使うなら俺が囮になる
あれは俺の高機動能力を活かして相手を惑わし、俺に意識を集めてその隙にネルシェンが敵機を墜とすというもの。
多少マシになったとはいえ、射撃が苦手な俺が後ろ手に回るなんて悪手だ。
「貴様にどうこう言われる筋合いはない。実践で失敗ばかりする貴様にはな」
「……そりゃ悪かったな。こっちも努力はしてるさ」
「実らねば意味は無い」
「手厳しいことで」
鋭い指摘に肩を竦めて立ち上がる。
水分補給も終わった。
また訓練に戻らなくてはならない。
経験談だが人革連軍では訓練量も多く、内容もかなりハードだった。
しかし、アロウズはそれを遥かに凌ぐキツさだ。
実際こうして休憩も少ししか与えてもらえない。
……俺ってブラック企業の就職率高くないか?
「んっ、なんか落ちたぞ」
ロッカーを閉め、退室しようとしていたネルシェンの懐から落ちた端末を拾う。
さっき見てたやつか。
ふと画面が目に映ったが、どうやら一通のメールのようだ。
宛先はわからんがアロウズに着任したとの内容が見えた。
「勝手に見るな」
ネルシェンが即座に俺から端末を奪い取る。
ついでに強く睨んできた。
「見えたんだよ、悪かったな。で、誰か知り合いでも来たのか?」
「……カティ・マネキン大佐だ」
「あぁ、『鉄の女』か」
「私の恩人だ。その名で呼ぶな」
元AEU軍の作戦指揮官。
『鉄の女』にしてカティ・マネキン、か。
優秀な指揮官だと聞いたことがある。
まああまり気持ちのいい異名じゃないからネルシェンが睨むのも分かるがな。
恩人みたいだし。
そういえばネルシェンは元AEU軍か。
接点があってもおかしくはない。
「よかったな」
「余計なお世話だ」
ネルシェンが端末を閉じて懐に戻す。
相変わらず冷たいのは変わらない。
すぐに背を向けてしまった。
「……そういえば人革連からも着任した者がいるらしい」
「え?えっと、スミルノフ大佐か?」
立ち止まったかと思えば突然告げられたので困惑する。
思わず口に出したがスミルノフ大佐は確か正規軍所属だったはず。
階級も上がってらっしゃる。
となるとミン少佐……も正規軍だな。
「ロシアの荒熊か。だが、違う」
「じゃあ――」
『モビルスーツ部隊出動。これより我が艦はガンダムを搭載したスペースシップへの奇襲作戦を開始します。繰り返します、奇襲作戦を開始します。アヘッド特別小隊出撃準備。ならびに、アヘッド第1、第2小隊出撃準備―――』
俺の言葉を遮るように艦内で大音量の招集ブザーが鳴り響く。
ガンダムのスペースシップへの奇襲作戦、か。
リボンズのやつ、早速見つけたみたいだな。
だが、オリジナルの太陽炉は『ヴェーダ』で追えなかった筈だ。
どこからか情報を得たのか?
「貴様の苦手な実践だ」
「……の、ようだな」
隣にいるネルシェンの皮肉に苦笑いで返す。
はだけていたパイロットスーツを身に纏い直し、ヘルメットを抱えてネルシェンと共に廊下を駆けた。
特別小隊とは俺とネルシェンのタッグのことだ。
出撃命令が下された。
5分後にはアヘッドに乗り込んでなくてはならない。
即座に格納庫に向かい、辿り着くと慌ただしい周囲を無視して自身のアヘッドを目指す。
コクピットへ乗り込んでシステムを確認した。
同時にグッドマン大尉も一通り目を通して準備する。
「システム、オールグリーン。アヘッド起動!」
『同じく。起動する』
アヘッド デスペア機とネルシェン機の凶悪な四つ目に赤い光が宿る。
GNドライヴも擬似GN粒子を噴き始めた。
粒子が関係する武装の全ても操作可能になる。
「大尉!私にも出撃の許可を!」
「それを決めるのは私ではない!待機していろ、ハレヴィ准尉」
「脚周りのセッティング、OKです」
「ご苦労」
俺のアヘッドの前でジニンが部下に手を焼かれている。
大変だな、上官ってのも。
俺には直属の部下がいなくて助かってる。
ただでさえ面倒臭いのを相手にしてるんだ、これ以上増えてもらっては困る。
『何か言ったか?』
「いや、何も」
地獄耳かよ。
脳量子派でも使えるのか?
まあ万が一使えても俺のスーツは遮断するけど。
「……と、来たか」
俺の端末が微かに振動する。
仲間内との通信を遮断して、受け付け不可能にした。
周囲はこれをデスペア大尉の精神統一と称するが実際は違う。
端末に来たメッセージに視線を落とした。
「『ダブルオーガンダム』……粒子発生率の二乗化を可能とするツインドライヴ搭載型の新型か。また新型かよ、まったく……」
悪態をつくが着目すべきはそこではないことくらい分かってる。
ツインドライヴ。
粒子の二乗化だと?
そんなことが本当に可能なのか?
だが、『本来の流れ』
レナから来るこの未来予知のメッセージはそれなりの頻度で当たる……のだが、最近は的中率がおかしい。
疑ってた新型のガンダム――セラヴィーは本当に現れた。
ならばこれも……。
「考えても、仕方ないな」
分からないことは一旦保留に限る。
ツインドライヴとやらが本当なのかは定かではないが、そんなものを搭載したダブルオーとかいう化け物。
もしそれが出てきても仲間は誰も殺らせない。
――俺が必ず仲間を守る。
「……俺は、イノベイターだ」
『アヘッド起動!各機、発進準備急げ!ソレスタルビーイングめ……、アヘッド、出撃する!』
「了解!デスペア機、出る…!」
ハッチが開き、アヘッドで飛び出した。
第1、第2小隊の前にネルシェン機と共に出る。
前回のセラヴィー戦でのデータを参照にネルシェン機はGNバスターソードIIを背負っていた。
デスペア機は変わらずGNビームライフルとGNシールドを構える。
『特別小隊、先行する!俺達に続け!』
『了解した!』
GNバーニアを噴射して加速する俺とネルシェンにジニンともう一人の小隊長が連れた小隊がつく。
暫くして先行した俺達のモニターにソレスタルビーイングの戦艦が入った。
ガンダムを搭載したスペースシップ――プトレマイオス2が。
『第2デッキ、ハッチオープンです。セラヴィー、カタパルトデッキへ。リニアカタパルトボルテージ、230から520へ上昇。機体をフィールドに固定。射出タイミングをセラヴィーに譲渡するです』
『了解。セラヴィー。ティエリア・アーデ、行きます』
一方、プトレマイオス2では
フェルトはイアン共にダブルオーガンダムのマッチング作業を続け、刹那はスメラギ・李・ノリエガと
アロウズを迎え撃つために発進したセラヴィーガンダムはたったの1機でアロウズ艦隊へと向かう。
その先には2機のアヘッドが待ち構えていた――。
敵機を確認した。
以前現れた新型、セラヴィーガンダムだ。
しかし、たったの1機。
どうやらレナの情報通り、1機しかロールアウトしていないようだな。
「新型を確認した。グッドマン、行くぞ!」
『分かっている』
ネルシェンのアヘッドが俺にGNビームライフルを投げ渡し、GNバスターソードを抜刀する。
俺はGNビームライフルを二丁構えた。
『俺とグッドマン大尉で新型の相手をする!第1、第2小隊は対艦攻撃を……!』
『オーライ!第1、第2小隊は私に続け!』
ジニンが通信で叫び、命令を飛ばす。
アヘッド ジニン機を筆頭に第1、第2小隊はセラヴィーを迂回した。
『……っ!トレミーが狙いか!行かせるわけには…!』
『貴様の相手は私だ』
『アロウズの新型…!』
ネルシェン機の接近にセラヴィーが身構える。
GNバズーカIIの砲口をアヘッド ネルシェン機へと向けた。
そのまま粒子ビームを二連速射する。
『無駄だ』
「バスターソードを盾に…!」
ネルシェンがGNバスターソードを盾代わりに近接での粒子ビームを防ぐ。
そして、ネルシェン機の背後から俺のアヘッドが飛び出て二丁のGNビームライフルで上から連射撃を放った。
ネルシェン機を影に攻撃タイミングの反応が遅れたティエリアはGNフィールドが間に合わず、セラヴィーで後退する。
『フォーメーションα-21!』
『くっ…この前の2機か!』
ご名答。
一定間の間合いで粒子ビームを交わす。
互いに二門から放つため、回避行動しながらの射撃を強いられていた。
まあセラヴィーはGNフィールドも用いているが。
『クソ!ズルいな、あれ。俺も欲しい』
『無駄口を叩くな』
『分かってる!』
例え防がれようと攻撃の手は緩めない。
俺の役割は弾圧だ。
防がれても相手の動きをある程度制限できていればそれでいい。
あとはネルシェンがGNバスターソードで勝手に斬り込んでくれる。
『ふっ!』
『こちらからも……っ!』
バスターソードの斬撃をセラヴィーは後退して避ける。
だが、即座に突きがGNフィールドを貫いた。
『うぐっ…!』
装甲が厚いからか、貫けはしなかったが胸部を突かれた衝撃でセラヴィーが吹き飛ぶ。
ネルシェンはさらに振り落としをお見舞いした。
『はああっ!』
『ぐっ!?』
咄嗟に振り下ろされたGNバスターソードをセラヴィーはGNバズーカIIを盾代わりに防ぐ。
しかし、それを機にGNバズーカIIは大破してしまった。
小規模な爆破がセラヴィーの目前で起きる。
『ぐああああーーっ!?』
爆炎の影響でさらに吹き飛ぶセラヴィー。
GNバズーカIIはお釈迦になった。
これであの時の砲撃は使えない!
『一気に畳み掛けるぞ!』
『待て』
『……っ!』
ネルシェンの冷静な制止に俺も急停止する。
目前を粒子ビームが四線通り過ぎた。
見下ろすと咄嗟にGNキャノンII四門から粒子ビームを放ったセラヴィーが映る。
今のを加速していればあれに当たるところだった。
『すまん。助かった』
『イノベイターだというのならばこのくらい反応して見せろ』
『くっ…、なんという反射神経!この2機、手練れか…!』
『フォーメーションα-12』
『了解!』
淡々とした指示に応じ、ネルシェン機からGNバスターソードを受け取る。
同時にGNビームライフルを二丁とも投げ渡し、俺が前に出た。
一気に加速してセラヴィーに斬り掛る。
『はあっ!』
『……っ!』
『ビームサーベル…!』
『まだ諦めん!』
両腕に収納されていたと思わしきGNビームサーベルでバスターソードの斬撃を防がれた。
だが、勢いはこちらが圧している。
『押し切る!』
『ぐあっ…!』
ブーストとパワーで弾き飛ばした。
その上にさらにGNバスターソードを叩き込む。
『はああっ!』
『まだだ!』
『隠し腕だと!?』
腰部のGNキャノンIIから腕が出現し、GNビームサーベルの刃を生成した。
追撃の叩き込みもそれで防がれる。
なんて身持ちが硬いんだ……!
『しつこいぞ!!』
『うぐっ!?』
腹部に蹴り込み、蹴り飛ばす。
隙だらけのセラヴィーに後方からネルシェンが二丁での速射を撃ち込んだ。
『貰った…!』
『まだ!まだ耐えてみせる…!』
『なに!?』
『GNフィールドか!』
GNフィールドを発生させたセラヴィーがギリギリで粒子ビームを遮断する。
満身創痍のくせに!
『ダブルオーが、刹那が来るまでは……っ!!』
『クソ…!』
『チッ』
距離を取られ、GNキャノンIIから四閃の粒子ビームが放たれる。
このままでは詰めきれない…!
時間を稼いでいるのか、ツインドライヴのマッチングを完成させるまでの時間を――。
一方、プトレマイオス2にて。
「あっ。アイオンさん、ノリエガさんから緊急暗号通信が来たです」
「ノリエガ!?スメラギさんから!?」
「戦術プランです。開始予定まで0032」
「そいつは無茶だぜ……刹那の奴、本当に連れて来やがった」
スメラギ・李・ノリエガからの作戦プラン。
それに目を通してラッセは苦笑いする。
同時に、戦術予報士の復活に震え、引き金を引く。
『敵艦を捕捉。我が小隊と第2小隊で輸送艦を叩く!」
『大尉、輸送艦から!』
『……っ!?』
プトレマイオス2へと接近していたジニン小隊と第2小隊のアヘッド率いるジンクスの
ガンダムの輸送艦であるプトレマイオス2が迎え撃つようにミサイルを放った。
突如放たれたミサイルに味方機がところどころで命中する。
『ぐわっ!き、機雷か…!これくらいの事――うわあっ!』
『センサーに障害だと!?時間稼ぎのつもりか…。軌道修正!迂回する!』
ジンクスを駆るパイロット達の被害が出る中、行く手を阻むように展開されたスモークにより、MS部隊は迂回を強いられる。
ジニンの機転で1機以外の被害を抑え。
時間を稼いだ隙にスメラギ・李・ノリエガとライル・ディランディを乗せた輸送艦は敵部隊とは逆サイドへと進路を変えた。
「ST27のルートを通って!」
「了解」
「なるほど。そういう事か」
最短ルートを通る飛行艇にスメラギの意図に勘づいたライルが感心する。
そして、刹那はイアンへと通信を繋いだ。
「イアン!ダブルオーを出す!」
『ちょ、ちょっと待て、刹那!こっちはまだ…!』
「時間がない。操縦を頼む」
「な、何だって!?」
無茶振りを連発する刹那にイアンは虚しくも通信を切断され、ライルは飛行艇の操縦は丸投げする。
無茶過ぎるぜそれは…!とボヤくライルの言葉を刹那は知らない。
聞かずに飛び出て単独でプトレマイオス2のハッチまで泳ぎ始めた。
『小型艇着艦準備、及び、ダブルオー発進シークエンスに入るです。第1デッキ、ハッチオープンです』
ミレイナのアナウンスと共に開くプトレマイオス2のハッチ。
そこに刹那は飛び込む。
『ダブルオー、カタパルトデッキに搬送です』
『ったく、何なんだ!』
ミレイナのアナウンス、イアンのボヤキ。
そして、ハッチに現れる青と白の機体。
肩に二つの太陽炉を付けた未知のガンダム――ダブルオーガンダム。
ツインドライヴを両肩に搭載した新型がハッチに入った刹那を迎えた。
――(ダブルオー……0ガンダムと、エクシアの太陽炉を乗せた機体)
――(俺のガンダム!)
ダブルオーを前に近付く刹那。
遂にそのコクピットへと乗り込む。
そして、即座にシステムを確認した。
「ツインドライブシステム、いけるか?」
『刹那!ダブルオーはまだ……!』
「トランザムを使う」
『無茶だ!刹那よせ!』
「トランザム、始動!!」
『やりやがった……』
イアンの制止も聞かず、刹那はトランザムを起動する。
トランザム状態となったダブルオーガンダムはその姿を赤い輝きに染めた。
しかし――
『ダメです!粒子融合率、73%で停滞!』
『トランザムでもダメか……!』
『敵モビルスーツ2機、急速接近中です!』
フェルトの言葉にイアンが頭を抱え、その間にミレイナの絶望にも等しい警告が入る。
さらにダブルオーの起動まで時間を稼いでいたティエリアもそろそろ限界が来ていた。
『貰った!』
『ぐあっ!?』
アヘッド デスペア機によるGNバスターソードの突きがセラヴィーの胸を捉え、遂には装甲も削れる。
『グッドマン大尉、今だ!』
『私に命令するなと何度言えば分かる!』
『ぐっ……、来る!』
態勢を崩したセラヴィーにデスペア機を超えたネルシェン機が通り、その際にGNバスターソードを受け取ってセラヴィーへと接近する。
獲物がバスターソードに変わったことでGNフィールドも通用しない。
まさに絶体絶命の危機がティエリアにも迫っていた。
『ダブルオーは……っ!?』
そんなティエリアの悲痛の願い。
刹那もまた、この窮地で応えてくれないダブルオーへと語り掛けていた。
――(目覚めてくれ、ダブルオー!)
しかし、ダブルオーは応えない。
それでも刹那は強烈な想いを込め、レバーを強く握った。
――(ここには、0ガンダムと!エクシアと!)
両肩の太陽炉。
Oガンダムとエクシアから受け継がれたもの。
そして――
「俺がいる!!」
瞬間、ダブルオーの双眼に光が宿り、ツインドライヴのマッチング率が80%を超えた安定領域へと辿り着いた。
ダブルオーが起動する。
刹那の想いが、ダブルオーを呼び起こしたのだ。
『き、起動した!二乗化のタイムラグか!?」
『ツインドライブ、安定領域に達しています!』
プトレマイオスクルーでさえ、驚愕に包まれる中、プトレマイオス2にはもうジンクスIIIが迫っていた。
ハッチ内が晒されているため、露わになったダブルオーに2機のジンクスIIIがGNランスを構えて接近する。
『刹那…っ!』
思わずフェルトが涙を浮かべて名を叫ぶ中、ハッチ内で弾圧によりダブルオーが襲われる。
だが――
『や、やったのか!?』
ジンクスIIIのパイロットの一人が爆発による白煙でまだ動かぬ新型を始末したかと叫んだが、突如、大量の粒子が―――緑光がハッチから溢れ出る。
『何だあの光は!?』
もう一人のパイロットも驚愕するGN粒子の波。
その中から1機の機影が飛び出した。
『ダブルオーガンダム!刹那・F・セイエイ、出る!』
『新型!?』
『我々で叩くぞ!』
突如出現したダブルオーガンダムに迎え撃とうとするジンクスIIIのパイロット。
だが、彼らを横切る機影が彼らを制止した。
『どけ!俺がやる…!』
『デスペア大尉!?』
『どうしてここに……、まさかあの距離から!?』
『黙って言うことを聞け!』
『り、了解…!』
第2小隊のジンクスIIIを駆る部下達に怒号じみた指示を飛ばし、割って入る。
少し言い方がきつかったかもしれないが、土壇場だ。
許せ。
それよりも新たに現れた新型のガンダム……。
両肩に太陽炉を一つずつ、計二つ搭載しているのが確認できる。
つまり、こいつが――
『ツインドライヴか!』
『ダブルオー、目標を駆逐する!』
腰部から近接武装である剣を抜き出すダブルオーガンダム。
確かGNソードIIだ。
エクシアのものから改良された似ても似つかないGNブレイドのような形状。
レナの情報が正しければソードモード、ライフルモード、ビームサーベルモードと時と場合によって対応できる万能武装。
そして、GNビームサーベルを抜刀した俺に、刹那はビームサーベルモードでGNソードIIを振るった。
『なっ……!?』
すれ違い様に一閃。
間合いに入った瞬間の加速でダブルオーはいつの間にか俺の背後に回っていた。
遅れて俺のアヘッドの右腕が切断される。
馬鹿な……ッ、この俺がスピードで負けた!?
『これが、俺達の!ガンダムだ!!』
『ぐああっ!?』
機体の損傷で起きた爆発でコクピットに衝撃を受ける。
なんて性能だ!!
塩基配列パターン0000の力を持ってしても見えなかった……っ!
『くっ…!ジニン、撤退命令を出せ!』
『なに?』
『頼む!!』
モニター越しでジニンに懇願する。
ダブルオーは初見では対策が取れない。
それに、あの性能で来られたら対策なしじゃ間違いなく全滅だ!
『了解。第1、第2小隊、撤退する…!』
『……っ』
切羽詰まった俺を見たからか。
ジニンは早急に対応してくれた。
本艦からの撤退信号もあって、第1、第2小隊は撤退していく。
だが、未だセラヴィーと刃を交えるアヘッドがいた。
『ネルシェン!一旦、引くぞ!』
『くっ…、私に命令するな!』
『そんなことを言っている場合か…!』
まったく、なんて頑固なんだ。
この際仕方ない。
俺のアヘッドでネルシェン機を無理やり掴んだ。
『……っ!貴様、勝手に――』
『撤退信号が見えないのか?』
『ぐっ……』
確かにセラヴィーを追い詰めていた。
あともう一歩だったが、ダブルオーガンダムが迫っていたんだ。
ここは撤退するのが最善手。
ネルシェンだってそれくらいは理解しているだろう。
ただ――。
『私は…また、ガンダムに……っ!!』
『……』
彼女の底に眠る復讐心が理性を失わせる。
周りが見えなくなるほどにあの壁を超えられないことがネルシェン・グッドマンにとって障害となっていた。
『レナ…』
彼女にとっての好敵手。
そして、俺にとっての――大切な人。
大切な理由は分からない。
同タイプだからか?仲間だからか?
ただ大切だということはハッキリしている。
刹那、俺の頭に激しい痛みが走った。
「……っ!ダブル、オー……以前、どこかで……」
ブレる視界にフラッシュバックする光景。
それがなんなのかも分からない。
操作もおぼつかないので帰還ルート設定し、自動操縦にした後。
俺は知らない名前の少女の笑顔を脳裏に浮かべていた。
失われた、散らつく記憶。
ツインドライヴの存在にイノベイターがレイを問いただす。そんな時、一人のガンダムマイスターが囚われの身となっていた。
ソーマ。それはかつて仲間だった者の名前。
次回『守りたかった人』。
会いたい、ただそれだけを――。
※次回予告は現段階プロットの内容ですのでご注意ください。