息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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難産でした。


過ち

翌朝、アーバ・リント少佐が構築した作戦プランが艦内に行き渡った。

作戦はソレスタルビーイングの心理面から推測される座標に網を張り、新型のGNドライブ搭載型のMA(モビルアーマー)【トリロバイト】のGN魚雷を用いての奇襲攻撃。

 

小型のもので先制し、敵が体勢を崩したところにGNフィールドの突破が可能とされる大型で敵艦の損傷を狙う。

そして、敵艦が混乱したところに2分間の爆撃の後、トリロバイトで近接戦闘を行い、敵艦を圧壊させる――というものだ。

 

ほう。初期行動までは中々上手い。さらに索敵も優れている。

だが、わざわざ索敵不能のトリロバイトを接近させるのはちょっとリスクが高いな。もちろんトリロバイトの近接戦闘が最も敵艦に直接ダメージを与えることができるが……。

 

まあ戦闘中はプトレマイオス2もMS(モビルスーツ)を出撃できる深度ではないだろうし、大丈夫か。

うーん、やっぱりこの辺はネルシェンと話した方がハッキリするか。

俺だけで考えても結論に至りそうではない。

 

「……とりあえず朝食取るか」

 

作戦プランを表示していた端末の画面を閉じて自室のベッドから腰を上げる。そろそろ艦内の食堂が開く頃だ。

食事のために自室のオート式の扉を開く。すると、朝の陽光に相応しい白髪が目に映る。

 

「うおっ!?なんだ。ソーマか……」

「あぁ。おはよう、デスペア大尉」

「お、おう。おはよう」

 

唐突に現れるもんだからちょっと驚いた。

というかいつから部屋の前に居たんだ?

 

「朝からどうした?」

「いや……一緒に朝食を、と思って……」

 

ソーマが言っていいのか戸惑うように、しかし俺の様子をチラチラと伺いつつ小さく呟いた。

なるほど。一緒に飯が食いたかったのか。

その為にいつからか知らんがずっと待っていたと。ここまでされちゃ誘いに乗るしかないよな。

 

「わかった。行こうか」

「い、良いの?」

「もちろん。えっ?何かおかしいか?」

「いえ……とても、嬉しい……」

 

ソーマが頬を紅潮させて微笑む。

まあ別に断る理由なんてないだろ。

 

「デスペア大尉と一緒に……」

 

ソーマはなにやらずっと呟いてる。

そんなに嬉しいもんかね。

 

「ん?」

「………」

 

ソーマと歩いていると珍しい人物が前から歩いてくるのを見掛けた。顔の殆どを仮面で覆った変人、もとい同僚。ああいう仮面って兜って言うんだっけか。

確か元ユニオン領土の国の文化だな。それはともかく、現れたのは改造が施されたアロウズの軍服に身を包むライセンス持ち、ミスター・ブシドーだ。

そんなブシドーと目が合う。

 

「よぉ、珍しいな。あんたと会うなんて」

「………」

 

一応声を掛ける。

ブシドーも歩みは止めないが、無視する気もないらしく瞳の動きだけで応じる。

 

「次の作戦参加するのか?だったらよろしく頼むよ」

「失礼する」

「あっ……」

 

気さくに話し掛けたつもりだがブシドーはそのまま通り過ぎて行ってしまった。

ま、元々話すような仲でもないし当然といえば当然だが。

まったく……。

 

「釣れないな」

「デスペア大尉。彼は……?」

「ん?あぁ、ミスター・ブシドーだ」

「ミスター・ブシドー?」

 

ソーマが名前を聞いた途端怪訝そうな表情をする。

まあブシドーも格好が格好だったし、さっきもソーマは敬礼するか悩んでたな。

結局してなかったけど。

 

「本名はグラハム・エーカー、元ユニオンのトップガンだ。だが、まあ今はどういう訳かあんな感じになってる」

「ユニオンのトップガン……あれが?」

「あぁ。階級は知らんが少なくとも俺よりは上だぞ、ソーマ」

「そ、そうなの?本当に?」

 

ソーマが困惑といった表情でブシドーの去った方と俺を交互に見遣る。

まあブシドーは規律守ってない代表みたいなのだから気持ちは分からなくもないが、グラハム・エーカーはユニオン軍で上級大尉だったらしいから少なくとも俺よりは上で間違いない。

『ヴェーダ』のデータバンクで拝見した。

ヴェーダ最高、ヴェーダ万歳。プライバシーとかゴミ箱に捨てた。

 

「そういえばソーマ、リント少佐の作戦プランは目を通したか?」

「あぁ。海中での奇襲に新型のMA(モビルアーマー)を使用すると……」

「そうだ。で、そのモビルアーマーってのが丁度あれだな」

「あっ、外に……!」

 

窓から見える海面を指差すとソーマもその影を確認する。シルエットはさながら三葉虫の如く、水中を何の苦労もなく推進していく。

擬似太陽炉搭載型のMA(モビルアーマー)・トリロバイト。見ての通り水中専用機で、確か元ユニオンの技術者が開発に関わっていたはず。センサー類はフラッグから流用したんだとか。

なんで俺がそんなとこまで目を通したのかは自分でも分からんが。

 

「GNドライブ搭載型のモビルアーマーまで開発しているとは……」

「多額の寄付をした資産家の娘がいる。今じゃ彼女もアロウズだがな」

「知り合いなの?」

「あぁ。宇宙(そら)で一緒だった」

 

部隊が違うから殆ど喋ってないけど。なんなら最初の挨拶以来話してない気がするまである。

リボンズが目に掛けてるのは知ってたけど、関わる必要も対してないしなぁ。強いて言うならリボンズが何故あの娘と接触しているのかは気になりはする。

 

「………大尉はそういう女性が……その、好みだったり?」

「は?」

 

突然ソーマが意味のわからないことを尋ねてきた。目は俺から逸らして表情は伺えない。

ただ不安そうに俺の服の裾を摘んでいた。対する俺はほんとに唐突すぎて思わず硬直してしまう。思考も一瞬回らなかった。

えー……えっとこれってどういう意図で聞かれてるんだ?

 

「いや、別にそんなことないけど……」

「……っ!そ、それは!……良かった」

 

好みでないと返すとソーマは凄まじい反応速度で振り返り、嬉しそうに笑みを浮かべた後。俺と顔を合わせて恥ずかしくなったのか、また視線を逸らして呟いた。

……良かった、ね。鈍感じゃないつもりなのでソーマの想いに気付いてないわけじゃないが、どう対応していいのかも困る。

 

なにせ5年だ。あまりにも状況が変わり過ぎている。

ソーマも以前の俺ではないことに気付いている。

だから、やたらと接触して距離を縮めようとしてるんだろう。

 

俺はイノベイターで、『来るべき対話』のために計画を完遂しなければならない。計画の第一段階はソレスタルビーイングの武力介入を発端とする世界の統合、第二段階はアロウズによる人類意志の統一、第三段階は人類を外宇宙へ進出させ、来るべき対話に備える――それがリボンズ・アルマーク(イオリア・シュヘンベルグ)の計画。

 

宇宙環境に最適な俺達が計画を実現させる。

そして、今は第二段階であるアロウズによる統一世界の実現。俺はその為に戦い、実現するまで戦い続ける。

もしソーマの想いを受け取ったとして、俺は計画と彼女を両立し、逃れなられない戦乱から守れるのか?

 

とてもじゃないが自信が無い。

それに【レイ・デスペア】は一人の人間ではなく、計画に必要な『存在(イノベイター)』だ。ソーマの好意を受け取ってそれが計画の支障となるならば、リボンズは真っ先にソーマを切り捨てる。

……つまり、俺の独断では決められない。

 

例えそれが俺自身のことだとしても。俺の想いを優先して一時的に二人で幸せになれたとしてもそれはやはり一時のものでしかない可能性がある。

だから、俺はソーマの想いをそう簡単には受け入れることができない……。何よりもソーマの幸せの為だ。

 

「デスペア大尉?何か考え事でも?」

「いや。なんでもない。飯だったな、行くか」

「……っ。えぇ」

 

俺が先に歩み始めるとソーマも後から追いかけるように駆け、俺の隣へと追いつく。歩行中、何度か俺の手に微かに触れた感触は恐らく気の所為ではない。

とにかく。安堵したような表情を浮かべるのは胸に来るのでやめて欲しい。

ちなみに朝食は俺が頼んだのと同じのをソーマは頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始12分前。

既にパイロットスーツに身を包み、あと2分後には格納庫に向かうつもりだ。予定では3分前に出撃するのだが、ライセンス持ちなので知ったこっちゃない。俺は俺のやりたいようにやる。

掃討作戦を得意とするってことは圧倒的な物量差または力量差がなければ得意の範疇から外れてしまうということだ。

故に今回は念の為に先に出撃させてもらう。

 

「よし」

 

パイロットスーツの万全を確認し、ヘルメットを抱えて端末を懐にしまう。

そして、更衣室を出ようとするとちょうどネルシェンが入室してきた。

退室しようとした俺と必然的に目が合う。

 

「ほう。貴様もか」

「まあな」

 

短いやり取りを交わし、すれ違う。

そのままネルシェンは着替えのためにロッカーを開ける。

一応声は掛けておくか。

 

「それじゃあお先に失礼」

「待て」

「ん?」

 

自動扉が俺の退室を促すが、振り返る。

すると、軍服を脱ぎ、フィットネスウエア姿を晒したネルシェンが俺を睨んでいた。タッグを組んで暫く経つ俺だから知ってることだが、ネルシェンのは睨んでるわけじゃなくて単に目付きが悪いだけなんだよな。

まあたまに本気の眼光だけど。

 

「今回は作戦には介入しない。よって貴様とのフォーメーションは取らん。好きにやらせてもらうぞ」

「あぁ。俺もそのつもりだ」

「そうか。ならば即座に失せろ」

「めちゃくちゃだな……」

 

横暴なネルシェンに呆れ笑いを残して廊下に出る。

自動扉がやっとかとでも言うように俺とネルシェンの間を断ち切った。

あとは格納庫に向かうのみだが……本日何度目だろうか。

今度はソーマと出くわした。

 

「デスペア大尉。もう準備を?」

「あぁ。俺はライセンスがあるからな。今回は作戦を無視させてもらう」

「そ、そう……。それもイノベイターの権限……?」

「まあそんなとこだな」

 

ソーマが考え込むように言い当てる。

表情は少し曇っていた。

イノベイターがどれ程特別に扱われているのか実感したのだろう。

同時に、俺との隔たりが大きくなった。

 

「私にも。超兵にもライセンスがあれば……」

「はは。一応上と掛け合っておくよ、顔見知りがいるし」

「あっ……」

 

おっと、自然と頭を撫でてしまった。……昔の癖だな。でも、あの頃はなんで撫でてたんだ?

それはともかくソーマがここ最近で一番嬉しそうに頬を紅潮させ、髪を弄り出す。それにしても綺麗に艶の出る髪になったな。白さも際立って美しい。

ソーマもそういうのを気にする年頃になったのかもしれないと思うと少し寂しくもある。俺の知ってるソーマじゃないんだな、ってな。

 

「んじゃ、行ってくる」

「了解。……死なないで、デスペア大尉」

「了解。お互いにな」

 

このまま送り出すのは不安なのか、哀しそうに告げてきたソーマにサムズアップと笑みで返す。

そして、すぐに背を向けて格納庫へ向かった。

ソーマの姿は歩みを進める事に小さくなる。

 

数分後。

少し時間をロスしてしまったが、問題なく先に出撃することができた。

作戦開始まで残り5分。俺のアヘッドがベーリング級海上空母のカタパルトから射出されると海上を飛翔。

一番乗りかと思いきや……既に空に浮遊していた先客がいた。

 

『あのアヘッドは……』

 

通常とは違い、胸部に取り付けられた増加装甲、縦向きに設置しなおされた肩のスラスター。顔面部のムシャのような強面。

アヘッド 近接戦闘型、またの名を【アヘッド・サキガケ】だ。

パイロットはブシドー。故にミスター・ブシドー専用アヘッドとも呼ばれている。

近接武器しか積んでないとか聞いたことはあるが……まあ、さすがにそんなことはないだろう。

 

『ブシドー』

『むっ?』

 

残り3分。

一応ブシドーに忠告しておきたいことがあるので通信を繋いで声を掛ける。

 

『ガンダムは4機いる。さすがに1人じゃ無理な数だ。作戦が始まったら分担して戦うぞ。まあ敵母艦は海底にいるから全機海上に上がることもそうないことだとは思うが―――』

『否。ガンダムは全て私が相見える。干渉、手助け、一切無用!』

 

……際ですか。

ブシドーは言い放つともはや一切の文句を受け付けないとでも言うように通信を一方的に切った。

もうこうなったらどうしようもない。

 

『アヘッド、出るぞ』

『んっ?』

 

偶然にも拾った声の方、ベーリング級海上空母のカタパルトからアヘッドが1機放たれた。

ネルシェン専用機だ。

どうやらライセンス持ちは出揃ったらしい。

 

「さてと、後はプトレマイオスが網に掛かるのを待つだけか……」

 

眼下を見下ろすと海中底深くで深淵の黒に時たま混じる爆雷の赤が見える。丁度トリロバイトがGN魚雷による奇襲をプトレマイオスに行っているところだ。

まずは小型での先制攻撃と作戦プランには書いてあったので恐らく今の爆発は小型のGN魚雷の仕業。

 

そして、間髪開けずに先程よりさらに大きい色合いが海底を色褪せる。

大型のGN魚雷で打撃を与えつつケミカルジェリーボムを艦を取り巻くように張る。

これで砲門も封じ、敵母艦の打つ手をなくすことが出来る。ガンダムを出撃できる深度ではないからな。

 

そうなるとプトレマイオスはやはり深度を上げようとする以外手立ては無くなる。

ガンダムを出撃できる深度までケツに火がついた状態で急ぐが、我らがベーリング級海上空母がさせまいと海上からの爆雷を仕掛ける。プトレマイオスの深度が上昇したおかげでまだ漠然ではあるが、アヘッドの端末があれば敵母艦の動きを探ることができた。

現在、プトレマイオスは攻撃の手段を失い、上下挟み撃ちの状態にある。海上からの爆雷も十二分に効いている。

 

『ここまでは完璧、なんだがな』

 

正直感心したくらいにはいい作戦だとは思う。

この調子でいけば、確実に敵母艦は海中にて圧壊する。

そうなれば俺としても都合はいいんだが……。

 

「さぁ、どう出る?スメラギ・李・ノリエガ」

 

少し笑みを作って海底を見つめる。

俺の方にもトリロバイトが敵母艦へ接近するとの報告を受けた。

随分と経由したみたいだから既に交戦を始めたとは思うがな。

 

『ネルシェン、ブシドー。用心しろ。ここからが勝負だ』

『ふん。貴様に言われなくとも理解している』

『皆まで言うな。心眼は鍛えている』

 

へいへい。どいつもこいつも素直になれんのか。了解の二文字も言えないとは疲れる……。

と、まあ二人に忠告したのはリント少佐の作戦プランに関して俺の不安な箇所に作戦が進行したからだ。わざわざ索敵不能のトリロバイトでの近接攻撃。相手に位置を知られてしまうが、それを逆手に取られなけれか……。

一応ガンダムは出撃できる深度ではないというのが俺の保険だ。

しかし――。

 

『………』

『さぁ、現れるがいいガンダムッ!私は我慢弱いぞ……っ!』

 

ネルシェンは冷静にGNバスターソードを抜刀し、ブシドーはアヘッド・サキガケのGNビームサーベルを構えて今か今かと待ちかねている。この観察眼優れる二人が既に戦闘態勢に入っている。

ということはやはりこの場面に作戦の穴があると睨んでいるのか……!

 

『ならば信じよう。人間のお前達を』

 

俺もGNビームライフルとGNビームサーベルを構えて待機する。

トリロバイトの近接戦闘から2分が過ぎようとしている―――瞬間、海面から飛び出す音速の機影が視界を過ぎった。

 

『来た!速い!トランザムか……!』

『ほう』

『会いたかった。会いたかったぞ、ガンダムッ!』

 

海面から飛び出した機影は1機かと思ったが、どうやらそれはトランザムを使用した【アリオスガンダム】らしい。勢い余って上空で旋回しているのを目に捉えた。

だが、問題はそのアリオスを利用して共に飛び出したもう1つの機影。

なんとか視覚で確認したその正体は両肩にツインドライヴを積んだ機体、【ダブルオーガンダム】だ。

そのダブルオーが無防備なベーリング級海上空母に直進した。MS(モビルスーツ)部隊の発進も間に合わない、このままでは母艦がやられる……!

 

『ソーマが……っ!くっ、トリロバイトの隊員は……っ。いや、今はそれよりも!ネルシェン、二個付きを止めろ!!』

『私よりも奴の方が早い』

『なに……?』

 

ネルシェンの発言に疑問を持ち、母艦に目を向ける。すると、ベーリング級海上空母を切り裂こうと接近するダブルオーに横から衝突する機体があった。

母艦からダブルオーを放すと刹那の間に斬り結び、対峙する。

―――アヘッド・サキガケだ。

 

『ブシドー!無茶するな、その機体は他とは――』

 

『その剣捌き……。間違いない、あの時の少年だ!なんという僥倖ッ!!生き恥を晒した甲斐が――あったというもの!!』

 

『全然話聞いてねえ!!』

 

何故かブシドーは興奮状態でダブルオーに斬り掛かった。いや、だが都合がいい。ダブルオーの相手はブシドーにやってもらおう。

咄嗟の連携に対応出来る技量は持ち合わせてるだろうが、あいつの性格じゃそういうのは嫌うだろう。

なら好き勝手やらせた方がこっちの為になる。

 

『ならば俺は―――ッ!!』

 

突如海面から飛び出した粒子ビーム砲撃を避ける。

何度も受けたことのある攻撃。

これは―――!

 

『バスターキャノンを……っ!またしてもあの時のエースパイロットの片割れ!!』

 

『やはりか!ティエリア・アーデ……っ!』

 

俺のアヘッドの真下から現れた【セラヴィーガンダム】が左手に握ったGNビームサーベルを振るってくる。

事前に察知したおかげか、俺もビームサーベルで衝突を防ぐことができた。セラヴィーとアヘッドの間に火花が散る。

 

『その機体で近接を……っ!』

『ぐあっ!?』

 

隙だらけの腹部から蹴り落とした。

セラヴィーは海へと一直線のルートを辿っていくが、肩のGNキャノンII1門にシングルバズーカモードのGNバズーカII1挺を連結させた状態で砲門を俺のアヘッドに向ける。

まさか……!

 

『バスターキャノン!』

『当たるかよ!』

 

通常より威力の高い粒子ビーム砲撃が迫ったが難なく避けた。

だが、追撃の接近を拒まれた上に常にバスターキャノンの体勢を維持しつつGNビームサーベルも常に展開している。いつもとは違う近距離と遠距離に対応出来るスタイルだ。

面倒な!

 

『だが、だからこそ倒し甲斐がある。いい加減白黒付けるぞ、イノベイター同士なぁ!』

 

『君との戦いを今度こそ終わりにする!』

 

バスターキャノンによる砲撃を躱し、接近するとGNビームサーベルで弾かれて近距離からのバスターキャノンを受けそうになり、何とか避け切る。そんな攻防を続ける俺のアヘッドとセラヴィーに母艦から射出されたアヘッド 脳量子波対応型―――【アヘッド・スマルトロン】。

俺のセンサーも味方機として捉えた。

 

『デスペア大尉!』

『ソーマ……!』

 

『ティエリア!』

『アレルヤ……!』

 

だが、同時にセラヴィーには援護に入ろうとしたアリオスが駆け付ける。

飛行形態からMS形態になったアリオスとアヘッド・スマルトロンが自然と互いを認識し合うようになった。

 

『あの機体、被検体E-57!デスペア大尉の邪魔はさせん……っ!』

『……っ!新型!?』

 

セラヴィーとの間を阻むようにアヘッド・スマルトロンがアリオスにGNビームサーベルで斬り掛かった。

アリオスも抜刀して対応するがソーマの方が動きにキレがある。

 

『弱い!』

『ぐああああーーっ!?』

 

あっという間にソーマの優勢になり、蹴り飛ばした衝撃でアリオスは吹き飛んだ。

その後をアヘッド・スマルトロンの推力で追っていく。

 

『デスペア大尉。羽付きは私が…!』

『分かった。デカブツは任せろ!』

 

短いコンタクト。

一瞬の間のやり取りで互いに頷き合い、敵を分担する。

そこにさらに海上から飛び出した【ケルディムガンダム】が現れた。

 

『なっ……!?』

 

『こいつはラッキーだな。この距離、遠慮なく狙い撃つぜぇ!』

『よし…!』

 

丁度俺の背後にGNスナイパーライフルIIを構えるケルディム。

バスターキャノン回避後の俺には回避できない。

不味い…!

 

『私に任せろ』

『なんだって!?』

 

ケルディムが放った粒子ビームをアヘッド ネルシェン機が蹴り上げる。

俺のアヘッドとケルディムの間にネルシェンが割り込み、ケルディムをGNバスターソードで斬り飛ばした。

 

『うおっ!?』

『貴様、狙撃手(スナイパー)か。面白い……っ!今の私が奴にどれだけ通用するか貴様で試させてもらおう!!』

『ふざけんな、おい!?』

 

激しい攻防でケルディムを連れ去るネルシェン。

声を掛ける暇がないほどに迅速な対応だった。

これで俺はセラヴィーに集中できる。

 

『くっ……!』

『この好機、逃さねえ!!』

『まだだ!』

『……っ』

 

GNビームライフルを捨て、GNビームサーベル二刀による急接近を試みるとセラヴィーもGNビームサーベルを捨てた。

そして、今度は両肩のGNキャノンIIにシングルバズーカモードのGNバズーカII2挺を連結させる。

回避コースを狭めるのが狙いか!

 

『ツインバスターキャノン!!』

『俺を舐めるなぁぁぁぁあ!!』

 

広範囲高威力の粒子ビームが放たれる。

同時に俺の瞳が金色に輝き、バレルロールで回避と共にセラヴィーの横に潜り込む。

セラヴィーからすれば突如アヘッドが隣に出現したように錯覚する程に。

 

『なに!?馬鹿な、またしても……っ!!』

『隙だらけだ!』

 

GNビームサーベル二刀を手に容赦なく接近する。

間合いはもはや近接の域、この距離じゃ射撃体勢のセラヴィーには避けられない。

これで……!

 

『今度こそ!』

 

『斬り捨て御免ェェェーーーーン!!』

 

『墜ちろ、ガンダムー!!』

 

『貰ったぞ……っ!』

 

各々の通信に決めを確信した言葉が漏れる。通信で聞こえるが、誰も彼もが目前を墜とすことだけに集中していた。

アヘッド・サキガケは体勢を崩したダブルオーに剣を振り下ろし、アヘッド・スマルトロンは斬撃で負傷させたアリオスにビームサーベルを手に推進する。ネルシェンはGNバスターソードを叩き込んで武装を剥がされた無防備なケルディムに、バスターソードを捨ててGNビームライフルでケルディムのコクピットを的確に捉えていた。

 

―――しかし、戦闘に突如割り込んできた銃弾に各々の動きは止まる。

 

『なんだ!?』

『実弾だと?』

『……っ!』

 

ネルシェンの言葉で気付いた。

俺達を阻んだのは粒子ビームではなく、実弾だった。

ということはまさか――!?

 

『あ、あれは……っ。まさかカタロン!?』

『そのようだな』

 

飛来してきた飛行形態のMS(モビルスーツ)の正体をソーマが看破する。

ネルシェンが同意したと同時に盛大に舌打ちした。

斯く言う俺もこれは少し頭に来た。

 

『いい所で邪魔を……!』

 

『ガンダムを援護しろーー!』

 

カタロンのモノと思わしき濃青のフラッグが俺に接近してくる。

仕方なくGNビームサーベルを振るい、羽を奪って海に落としてやった。

 

『うわあああーー!?』

 

『邪魔をするな!!』

 

無事に海に落ちたのを確認して周囲を睨む。

俺達を取り囲むようにカタロンのモビルスーツは飛び回っていた。

まるでハエのように鬱陶しい……!

 

『反政府組織が……っ!私の道を阻むな!!』

『貴様らでは物足りん!失せるがいい』

 

ブシドーとネルシェンは視界の邪魔をする虫を払うかのようにカタロンのモビルスーツを薙ぎ倒していく。

あいつら、躊躇なくコクピットを……!

 

『軍人だから当然ではあるが……!』

 

『隙ありぃぃいーー!!』

 

『……っ!?』

 

いつの間にか背後にリアルドが1機迫っていた。

リニアライフルの銃口が俺のアヘッドの背を捉えている。

 

『しまっ――』

『デスペア大尉!!』

 

俺を守るようにアヘッド・スマルトロンが割って入る。

そして、接近していたリアルドを――両断した。

 

『うあああああああーーーっ!?』

 

『あっ……』

『……っ!!』

 

空中で爆散するリアルドを見てソーマが声を漏らしそうになったのを咄嗟に抑えたのが伝わってきた。

そうか、初めて人を……っ!

 

『クソ!ガンダムは!?』

『……どうやら、手合わせを拒まれたようだ』

『なんだと!?』

 

ブシドーの言葉を拾って、リアルドやらヘリオンを払いつつ味方側の母艦とは逆方面を見遣ると撤退していくガンダムの背がモニターに映っているのを確認した。

クソ、逃げられた!

 

『カタロン……っ!!』

 

空を徘徊する旧世代のMS(モビルスーツ)部隊を忌む気持ちで睨む。

人が出来るだけ犠牲のないように手を回して、ソレスタルビーイングに邪魔されようと諦めずにやってきたってのになんだこの仕打ちは!?

 

『ソーマ!』

『あっ……。デ、デスペア大尉……』

 

飛び交う弾丸は躱しつつもアヘッド・スマルトロンは攻撃をしない。

敵モビルスーツを照準で捉えても引き金が引けないでいた。

このままソーマを放っておけはしない!

 

『ソーマ、撤退するぞ!』

『し、しかし……』

『俺じゃない。マネキン大佐の指示だ。頼む、ソーマ。……生きてくれ』

『……っ。デスペア大尉っ』

 

アヘッド・スマルトロンを連れてベーリング級海上空母へと戻る。

ブシドーとネルシェンがカタロンを散らし、母艦と共に俺達は撤退した。だが、ソーマは心に大きな傷を受けてしまった。

生きて帰ることが大切だということを知っているソーマだからこそ、さらに辛い。コクピットから出てきたソーマの顔色は酷く悪かった。そんなソーマの手を俺は決して離さず、寄り添った。




【解説】
結構これまでも伏線だとか工夫した描写とかあるのですが、それを伝えられる程の文才は果たしてあっただろうか、あるのだろうかという思考に至ったので解説コーナーをこれから設けることにしました。
特に解説することのない回はしません。

まずは、多分アニメ第4話って1日の出来事だと思うのですが、夕焼け背景のソーマが書きたくて2日間の出来事にしました。
まあカタロンと合流するCBとか書かないし大丈夫だよね(てきとー)。
ブシドーVS刹那、レイVSティエリア、ソーマVSアレルヤと因縁やら関係性のある面同士でぶつからせましたが、一応ネルシェンもライル(スナイパー)に因縁の相手を被せて勝負を仕掛けるという展開にしました。まあライルは早撃ちの方が得意なんですけど。
とりあえず決して余ったから戦わせたわけではなく、一応意味ありますよって話です。
そして、最後の場面ですがなんといってもソーマの初殺し。実はこれ、筆が踊った結果で全く計画してませんでした。どうしよう。
ガチでノープラン案件ですが、なんとか頑張ってみます。(一応プランは立ててるのでご安心ください)

ちなみにネルシェンの「貴様、狙撃手か。面白い……っ!今の私が奴にどれだけ通用するか貴様で試させてもらおう!!(ルビ省略)」というセリフでの『奴』とは。

『奴』=翼持ち=サハクエル=レナって感じです。

こんなところかな。


【次回予告】

自らの過ちに苦しむソーマ。血に濡れた手が彼女を追い詰める。
そんな中、ある作戦が決行されてしまった。
次回『カタロン掃討作戦』
非道で無慈悲な虐殺にレイの怒号が響く。


>追記
前話の次回予告の内容を変更しました。

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