没案にはない場面もあるのでお気をつけください。
機体そのもので、鬱陶しい雲を裂く。
すると、広範囲に散布された擬似GN粒子が視界に膜を張り、その下に覆われた見渡す限りの荒野が目に映った。
その中央――前方に追い求めたものがある。
『追いついた……!』
Eセンサーでも先行するモビルスーツ部隊を捕捉している。
アヘッドを隊長機とした、2機のジンクスIIIで編成された部隊が合計6機と異彩を放つアヘッドが2機で8機の編隊。
地上に配備されていた第1小隊と第2小隊。
そして、ネルシェン機とブシドー機だ。
俺が到着した頃には既にカタロンのモビルスーツとの交戦は開始されており、ちょうど第1小隊の隊長機と思われるアヘッドがカタロンの軍事基地へと降下し始めている時だった。
その腰部にはコンテナが装着されていて、あの中にはオートマトンが内蔵されている。
あれを落とさせるわけには―――!
『やめろぉぉぉーーーーーっ!!』
『なんだ!?』
通信越しに響く俺の叫びが届いたのか、第1小隊のアヘッドがこちらへ振り向く。
同時にGNサブマシンガンで牽制し、モビルスーツ部隊をカタロンの軍事基地周辺から散らした。
『デスペア機!何を!?』
『カタロンは俺がやる!お前達は手を出すな!!』
『そんな勝手が……!』
文句を垂らすが知ったこっちゃない。
そうこうしているうちにもカタロンの軍事基地からモビルスーツ部隊がわらわらと出てきた。
『……っ!敵モビルスーツ部隊です!』
ジンクスIIIのうち1機から警告が届く。
この声はアンドレイ・スミルノフ少尉か。
警告と同時にGNランスの散弾を薙ぎ払おうとする姿勢を取るのでGNビームサブマシンガンで牽制し、邪魔をする。
『デスペア大尉!?』
『俺がやるって言ってるだろ!邪魔をするな!!』
『―――邪魔なのは貴様だ』
『……っ!』
鋭い一閃、振り落とされた刀身を咄嗟に抜刀したGNビームサーベルで防ぐ。
刀身の正体はGNバスターソード。
対峙するのはネルシェン機のアヘッドだ。
『ネルシェン……っ!!』
『気安く呼ぶなと何度言えば分かる』
『ぐっ……!』
一瞬の競り合いの末、蹴り飛ばされる。
吹き飛んだ俺のアヘッドを駆けつけたソーマのアヘッド・スマルトロンがキャッチしてくれた。
『デスペア大尉……っ!グッドマン大尉、何を!?』
『先に銃口を向けてきたのはこいつだ。作戦の邪魔をする者は私が排除する』
『ネルシェン……っ!!』
モニター越しにネルシェンを強く睨む。
だが、そんな眼光など簡単に受け流し、GNバスターソードの剣先を俺に向けて行く手を阻んだ。
『作戦をこなせ。デスペアの相手は私がする』
『わかった!』
『なっ……!?』
ネルシェンの申し出を肯定して第1、第2小隊が降下する。
させるかよ……!
『待て!―――っ!!』
二個小隊を追いかけようと肩部のスラスターを噴射し、推進したが横薙ぎに叩き込まれたGNバスターソードに阻まれる。
GNビームサーベルで防いたが、勢いを殺し切れずに機体は後方に飛んだ。
『貴様の相手は私だと言っている。貴様はここで指を咥えて掃討作戦を見ているがいい』
『ぐっ…!お前……っ!』
『デスペア大尉!』
俺のアヘッドを支えるスマルトロンからソーマの心配する声が漏れる。
クソ、オートマトンの射出を止めるにはネルシェンを倒すしかないのか!?
『……グッドマン大尉。命令だ、剣を収めろ』
『なに?』
『ソーマ…?』
突如背後のソーマから鋭い声音が放たれた。
……っ!
そうか!今のソーマは特別小隊の隊長だ。
ネルシェンに命じる権利は確かにある。
しかし―――。
『断る』
『グッドマン大尉……っ!』
『なぜ貴様のような小娘の命令に従わねばならん。私に命令するな』
『そんな……っ』
やはり聞く耳を持たないか。
ネルシェンは人に従うような性じゃない。
例外はあれども通常の対応なら一蹴されるのが目に見えていた。
『クソ!そうこうしてるうちにも……』
ネルシェンの後方を見遣る。
第1小隊が既にオートマトン射出体勢に入っていた。
このままじゃ……っ!
『退け、ソーマ。ネルシェンは俺が引き受ける。ソーマは先行部隊を止めるんだ!』
『了解!』
『させるかっ!!』
『……っ!』
迂回しようとしたソーマの機動をネルシェンが塞がる。
その隙に、俺は空いたルートを潜り抜けて障害を突破した。
『なに!?』
『ソーマ……!』
『あぁ、分かっている!』
モニター越しのアイコンタクトでソーマと意図を交わす。
ソーマの協力でネルシェンを欺くことに成功した。
俺のアヘッドは一直線に先行部隊へと接近する。
当然、それをネルシェンが逃すことはない。
『デスペア!』
『ここは通させん!』
『なっ……!?小娘が…っ!』
今度はネルシェンの行く手をソーマが阻む。
左右どちらに傾いても超兵の反射能力がそれを捉え、その度にネルシェンが表情を苦くする悪態が耳に入った。
エース級のセンスにソーマが食らいついている。
『ほう、私の反応速度に付いてくるとはな!』
『私は超兵だ!デスペア大尉、今のうちに……!』
『あぁ!』
ネルシェンのアヘッドとソーマのアヘッド・スマルトロンが衝突する中、俺は先行部隊まで加速する。
だが、遅かった。
『敵基地の掃討作戦に移行する。オートマトン、射出!』
『了解。オートマトン、射出!』
『なっ!?よ、止せ……!』
間に合わなかった…!
第1小隊、第2小隊の
先行部隊に合流した頃には既にオートマトンが全機投下されて後だった。
『そんな……っ!?』
『フッ。無駄な足掻きだったな』
『くっ…!』
ソーマの悔しそうな嘆きをネルシェンが嘲笑する。
そして、地獄が始まった。
『――――――!』
「軍用オートマトン!?」
「う、うわあああああああああああーーーっ!?」
「ぎゃあああああああああああああーーーっ!?」
「ひ、ひぃ!?」
悲痛の叫びが。
死に際の断末魔が。
戦場に響き渡り、満ちていく。
『し、しまった……』
『デスペア大尉!!』
ソーマが俺に寄り添うのを確認しつつ、眼下に広がる殺戮の血飛沫がモニターに映るのを目に焼き付ける。
逃げ惑うカタロンの構成員の胸が凶弾に貫かれ、頭を吹き飛ばされ、四肢が撃ち抜かれる。
身体中に穴を開けられた挙句、肉体ごと弾圧に塵にされる者もいた。
『あっ……こ、これは……っ』
ソーマも眼下の悲劇を見下ろして思わず口を抑える。
衝撃的な映像だったらしく絶句していた。
そういえば、ソーマもパイロットスーツを着てないようだ。
今はどうでもいい。
『この惨状を、止める……っ!!』
『デスペア大尉!?』
GNビームサブマシンガンを捨ててカタロンの軍事基地へと降下する。
奥に逃げる者達に当てぬよう照準は入口に屯うオートマトン共だ。
まだ被害は最小で間に合う!
『これ以上殺らせるか……っ!!』
『Eセンサーに反応!これは、ガンダム!』
『なに!?』
レーダーが捉えた3機の機影、その速度からソーマが特定した通りソレスタルビーイングのガンダムが戦場に介入してくる。
オートマトンを破壊しようとした矢先に粒子ビームの横槍が入った。
俺のアヘッドも回避誘導を優先させられる。
『クソ!こんな時に……!』
『各機、ガンダムを迎撃する!』
ガンダムに対し、第1小隊と第2小隊が迎え撃つ。
だが、1機だけ先行して掻い潜り特別小隊の元へ突っ込んできた機体がいた。
先の粒子ビームの発射元、【ケルディムガンダム】だ。
『ソーマ、指示を!』
『……っ!あぁ!』
上手く行けばネルシェンを動かせるかもしれない。
その意図を脳量子波で汲み取ったソーマが力強く頷く。
相手はケルディム、つまりネルシェンにとっては
さらにガンダムが相手となればブシドーも乗るかもしれない。
さっそくソーマが特別小隊総員に通信を繋ぐ。
『我が隊は先行するガンダムを迎撃する!私に続け!』
『私は抜けさせてもらおう』
『ミスター・ブシドー、なぜ!?』
『興が乗らん!』
なっ!?
ブシドーのやつ、勝手に帰投しやがった。
だが、呼び止めてる暇はない。
ケルディムが目前に迫っている。
『ネルシェン!俺と同時にあのガンダムをフォーメーションで叩く!いいな!?』
『………』
ネルシェンからの返事はない。
同時にソーマに脳量子波で意図を伝えた。
ケルディムを迎撃する為に俺はネルシェンを連れて先行、その隙にソーマはカタロンの軍事基地に降りてオートマトンを破壊する。
ケルディムに対応しているネルシェンはその間、妨害できない。
意図を理解したソーマは無言で頷く。
『邪魔すんなよ、アロウズ……っ!!』
『来るぞ、ネルシェン!』
『私も抜けさせてもらうぞ』
『な、なに!?』
突如ネルシェンも武装を解き、退っていく。
スラスターで方向転換し、戦線を離脱していった。
『お、おい!』
呼び止めるがネルシェンのアヘッドは制止を聞かずに飛び去る。
それにしてもあいつ、帰還ルートから大きく逸れてないか?
『退きやがれ、アロウズ!』
『ぐっ……!しまった!?』
ネルシェンに気を取られてケルディムを通してしまった。
射撃を避けた後の俺じゃ間に合わない!
『ソーマ!』
『りょ、了解』
ソーマに声をかけてケルディムの迎撃に向かわせる。
アヘッド・スマルトロンの銃撃にケルディムは回避行動を取りつつ下に潜り込み、上空に銃口を向ける。
GNスナイパーライフルIIを片手で構え、スマルトロンを牽制した。
『こ、この動き……!』
『邪魔すんじゃねえっ!!』
ソーマも回避を優先させられ、その間にケルディムはカタロンの軍事基地に到達。
勢いよくGNスナイパーライフルIIを投げ捨てると、即座にGNビームピストルIIを抜いてオートマトンを撃ち抜き始める。
そして、ライル・ディランディの怒りが連射された。
『これが……こいつが、人間のやる事かっ!!』
ケルディムがオートマトンを破壊していく。
凄まじい撃墜速度だ。
……都合のいい話だが、俺が介入すると余計に時間を取る。
ここはライル・ディランディに任せて俺は仲間を優先させてもらおう。
今回の作戦を許容したあいつらに思うところはあるが、それとこれとは別だ。
『ソーマ。他のガンダムを迎撃する』
『あ……あぁ……っ』
『ソーマ……?』
様子がおかしい。
セラヴィーとアリオスとの交戦に入った第1小隊と第2小隊が心配だが、ソーマを放ってはおけない。
ソーマのアヘッド・スマルトロンに近寄った。
『大丈夫か?ソーマ』
『あっ……デス…ペア大尉』
『……分かった。もう帰ろう』
『えっ?』
アヘッド・スマルトロンの腕を引く。
どうせブシドーもネルシェンも戦線を離脱したんだ。
特別小隊が消えても文句は言われないだろう。
それに、味方機もジンクスIIIを2機失って後退しつつある。
『除去目標は達成した。第1小隊、第2小隊撤退する!』
ほらな。
『ソーマ。行くぞ』
『あ、あぁ……』
アヘッド・スマルトロンの手を取って第1小隊と第2小隊のあとを追う。
だが、後方より照準を捉えられた反応があった。
『ケルディムか!』
『待てよ!』
『……っ』
ソーマを連れて粒子ビームを回避する。
帰還ルートからズレてしまったが、後で旋回すればいいだろう。
ソーマは時々視線をカタロンの軍事基地へと移らせ、ケルディムが撃ち抜くオートマトンの傍で血溜まりとなって倒れ込む人々を目にしては戦慄している。
そして、ケルディムのGNビームピストルIIの銃口が戦場に残った俺達へと向けられていた。
俺達『アロウズ』は撤退行動を取り始める。
そんな俺達をケルディムはしつこく追撃し、戦慄の中、俺とソーマはその銃弾を避け続ける。
『許さねぇ……許さねぇぞアロウズ!!逃げんなよ……っ!逃げんなよ!!アロウズーーーッ!!』
憎しみの生まれた戦場で怒号の叫びがこだまする。
その叱責から逃げる俺達はどうしようもなく『悪』だった。
『私は超兵、戦う為の存在……そんな私が、人並みの幸せを得ようとした……。これはその罰なのですか?大佐……っ』
『ソーマ……』
違う。
こんなのが罰なわけがない。
そう伝えたいが、涙を飲むソーマを見るとどんな言葉も喉に突っかかってしまう。
こうして俺達は自らの手を汚さず奪った戦場を置いて、後にした。
雇い主から与えられた任をこなすべく、気流によって吹き荒れる赤い粒子を散らしながら空を裂く。
とうにカスピ海は超え、ペルシャ湾との狭間にある大陸へと侵入している。
【アルケーガンダム】を駆るアリー・アル・サーシェスは中東に位置するアザディスタン王国を捉えたもののとある疑念を抱いていた。
『おいおい、先行部隊は何やってんだよ。連絡取れねえじゃねえか。クソがっ』
悪態をつきながら昔の好で任務に参加させた傭兵達との連絡が数十分前を境に一切取れなくなってしまった。
旧式のモビルスーツを用いる彼らといえど普段から中東に屯う彼らがサーシェスより到着が遅いことはまず有り得ない。
だというのに常に情報を求めている『ヴェーダ』からはアザディスタンでのテロの報告が一向に来ない。
連絡が途切れてから、まさかやられたのか?と思考が過ぎったことはあったがアザディスタンという国は王女の地位に座する女が甘いせいか大した軍事力は持ち合わせていないことからそれも有り得ないと結論付けた。
しかし、現実は連絡も取れず、テロも起きていない。
一体何が起こっているのか、サーシェスは半ば苛立ちながら急いでいた。
『この下がアザディスタンか……。チッ、中東ってのはこれだから―――ん?なんだ!?』
アザディスタンの国土に入り、雲を裂いたその時。
サーシェスの目にはまるで降り頻る雪の如く舞う純白の羽根が空一面に映っていた。
眼下に広がるアザディスタン王国はテロの雰囲気など微塵もなく、それどころかもうすぐ日常が一日を終えようとしている。
サーシェスの視界を覆う白い世界、天使の羽根を思わせるその景色にサーシェスは驚愕という意味で唖然とした。
『一体何がどうなってやがんだ……』
白く染まった空に混じった異色のアルケー。
燃え盛る煉獄の焔、溢れ満ちる鮮血を求めてきた赤色はあまりに場違いだった。
サーシェスにはこの不可思議な何なのか全く推測できない。
洞察力の優れる彼には過去に数回しかない経験だった。
『……っ!この反応は…!』
暫く飛び回り続けたアルケーのEセンサーに引っかかった機影。
恐らく先行部隊を退けた機体と睨むサーシェスは瞬時に振り返る。
だが、そんなサーシェスが見つけたのはさらに常識の範疇をぶち破ったものだった。
『なんだ……ありゃあ……っ!?』
『────────────────っ』
雲を裂き、サーシェスの目前に舞い降りたのは1機のモビルスーツ。
しかし、その背からは生物的な白翼が広げられている。
白翼から微かに漏れて映るのは赤いGN粒子。
その事がこの不可解な機体の正体を表している。
『ガンダムだと!?』
正体を看破し、アルケーで一定の距離を確保して警戒するサーシェス。
アルケーと対峙する『翼持ち』のガンダムは特有のフェイスにある緑の双眼でアルケーを捉える。
その瞳に機体のフォルム、翼を見てサーシェスは以前にも巡り会ったことを思い出す。
4年前の【フォーリンエンジェルス】にて
確かあの時は自慢の白翼も燃え尽きていた。
『そうか……っ!てめぇ、あの時の【翼持ち】のガンダムか!』
『そうだよ』
『通信……っ!』
アルケーのコクピットに響いた透き通る少女の声。
少女はモニターにその姿を晒す。
『アリー・アル・サーシェスさんだよね?』
『俺の名を……!てめぇ、一体
GNバスターソードを構えるアルケー。
それに対し、【ガンダムサハクエル】は
『んだとっ!?』
『サーシェスさんにも、出てきて欲しいな』
明らかに敵意のない柔らかい声音を発する少女。
コクピットハッチからその姿を現し、ハッチの上でヘルメットを脱ぐ。
すると、白翼の雪景色とは対称的な芯まで黒い髪が彼女の肩へと落ち着いた。
自ら正体を晒す少女にサーシェスは目を見開くと同時に脳内で何かが切り替わり、凶悪な笑みを浮かべる。
それは、サーシェスが誘いに乗る時の表情だ。
「コクピットから出てこいってのは、気でも狂ってやがんのか?嬢ちゃん!」
「さぁ、どうかな」
「……こいつ」
少女と同じように開いたコクピットハッチに立ち、アルケーを自動浮遊に設定する。
顔を晒した少女に対するお返しとばかりヘルメットを取ったサーシェスの挑発にも少女は意に介さず受け流す。
その態度が気に食わなかったサーシェスはさらに挑発を加える。
「それで?対面してどうする?素手でやりあう気か?えぇ?ガンダムのパイロットさんよぉ!!」
「違うよ。今日は、話し合いに来たの」
「……………………は?」
予想外の返答にサーシェスも虚を突かれて唖然とする。
そんな彼を待たずに少女は口を開いた。
「私の名前はレナ・デスペア。さぁ、話そうよ」
困惑するサーシェスにレナは色彩に輝く瞳で微笑んだ。
あぁ……アレルヤのセリフとかプルツーのセリフのオマージュとか……全部儚く散ってしまった…。
まあ久々にレナも書けたし、ひとつの教訓として覚えて頑張ろうと思えました。
やっぱり妹は最高だぜ。