息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

69 / 88
故国の女神

アザディスタン王国上空。

遥か高度に浮かぶ二つの機影。

強く風がなびく中、レナが自身の髪を抑える。

レナと対峙するサーシェスは彼女の発言の意図を掴めずにいた。

 

「話し合いだとぉ?冗談も程々にしときな、嬢ちゃん」

「冗談じゃないよ」

「はっ、だったらなんだってガンダムなんて兵器に乗ってきやがった……っ!えぇ!?」

 

腰のホルダーから銃を抜き、即座に引き金を引くサーシェス。

しかし、サーシェスの銃は銃口をレナに見せることすら許されず、刹那の間に走った閃光に弾かれた。

 

「んだとっ!?馬鹿な……っ!撃ち落としやがった!?」

「実は早撃ち()得意なんだ、私」

「……っ!」

 

凄まじいセンスを暴露したレナに舐めてかかっていたサーシェスも気を引き締めて睨む。

正直、サーシェスにはレナが引き抜いた銃を目に捉えることはできなかった。

 

「てめぇ……っ!」

「話し合うのに銃は要らないよね」

 

そう言ってレナも銃を捨てる。

遥か高度で投げ落とされた銃はサーシェスのものを追うように地上に吸い込まれていく。

 

「さっきも言ったでしょ?私は、話し合いに来たの」

「そうかい。生憎俺ぁ、この国を焼け野原にしに来たんだよ。茶を飲みてぇなら相手を選びな!」

「お茶?お茶飲みたいの?うーん……、でも中東で美味しいところあるのかなぁ」

「……話通じてねえのか?」

 

話し合いを所望した側の会話が成立していない。

サーシェスもいつもの調子が狂い、頭を悩まされる事態になってしまった。

そんなサーシェスを見てレナは小さく微笑む。

 

「あははっ。さすがに冗談だよ。でも、お茶飲みに行きたいなら付き合うよ?」

「いつまでもそんな下らねぇ話する気ならいい加減ぶち殺すぞ、嬢ちゃん」

 

瞬間、サーシェスが殺意を込めた鋭い視線をレナに突き刺す。

殺気を感じ取ったレナも笑みを止める。

そして、真剣な表情で向き合った。

 

「じゃあ、ここからは本題だよ。……ねえ、貴方はなんの為に戦うの?」

「何?」

 

レナの問いに虚を突かれたサーシェスが目を見開く。

以前にも聞かれたことはある。

あの時はクルジスのガキに問われた。

なぜ戦うのか。あんたの信じる神はどこにいるのか、と。

だが、レナの問いは違う。

ただ単純にサーシェスの戦う理由を、動機を聞いている。

普段なら一蹴していたその答えを。

サーシェスは意外な行動からか、レナのペースに飲まれて口を開く。

 

「はっ、嬢ちゃん。そりゃ野暮な質問ってやつだぜ。俺は傭兵だぜ?それにな……俺は戦争が好きで好きでたまらない、人間のプリミティブな衝動に準じて生きる最低最悪の人間なんだよ」

「ほんとに?」

「あ?嘘をつく必要なんてどこにあんだよ。ははっ、人が良すぎるぜ、嬢ちゃん。俺の言ったことは全て真実だ。今も嬢ちゃんのガンダムと戦争がしたくてしたくてうずうずしてんだよ……!」

「……そっか」

 

サーシェスの狂気じみた戦争への執着心。

それを目にしてもレナは動じない。

ただ、哀しそうに視線を落とすのみ。

 

「じゃあ、戦争が無くなったらどうする?」

「さっきからなんなんだその質問は……っ!いい加減イライラしてきたぜ、嬢ちゃん!いっその事、戦わせろや!!その為のガンダムだろうが……っ!えぇ!?」

 

元々機嫌が悪かった上に質問続きで一行に戦えないことに苛立ち始める。

目の前にガンダムがいるのに。

戦争が起きないなんて有り得ない、それがサーシェスの思考だった。

戦いに飢えるサーシェスに対し、レナは静かに目を瞑り、餌を吊るすことにする。

 

「いいから、答えて。返答次第では私と戦えるよ」

「……チッ。乗せるのが上手いこって。戦争が無くなったら?んなもん、決まってんだろ。俺が戦争を起こしてやんよ!俺は戦争が生き甲斐なんでね」

「でも、サーシェスさんが死ぬかもしれないよ?」

「戦争で死ねるなら本望っもんだ。それが戦争屋の生き様なんだよ……!おら、満足な答えか!?なら戦えよ、ガンダムッ!」

「―――分かった」

 

我慢ならず叫ぶサーシェスにレナは頷く。

充分な答えではなかったが、彼の思考は理解した。

心の底から戦争を望み、その中に悦びを見出す。

そして、戦争で利益を得て、戦争の中でしか生きられない存在。

彼と『解り合う』のは不可能だ。

 

『やっとその気になりやがったか』

『………』

 

互いにヘルメットを被り、コクピットに戻る。

同時にハッチが閉まり、緑の双眼と赤の凶悪な四つ目が煌めいた。

空で2機のガンダムが起動する。

 

『さぁ、始めようじゃねぇか!ガンダム同士による、とんでもねぇ戦争ってやつをよぉ!!』

『サハクエル、目標を淘汰するよ』

 

アルケーがGNバスターソードを抜刀して構え、対するサハクエルはGNツインバスターライフルを抜く。

双翼が広げられ、羽ばたいたサハクエルにアルケーは惜しみなく腰部の収容ユニットを展開した。

 

『いけよぉ、ファングーーっ!!』

 

10基のGNファング、無線式の誘導兵器がサハクエルを捉える。

それぞれの搭載されたビーム砲から放たれる粒子ビームがサハクエルへと迫っていた。

それでもサハクエルは動かない。

GNツインバスターライフルの銃口をただ向けるだけ。

 

『ははっ!んだよ、嬢ちゃん!もう諦めてやがんか!?そんなんじゃ張合いが―――なに!?』

 

アルケーのコクピットでサーシェスが目を見開く。

真正面から襲い来るGNファングと粒子ビームに為す術もないように見えたサハクエルが突如として姿を変えた。

両肩と両腰に見たこともないようなビーム砲が現れる。

上部のはウイングバインダーから、下部のは腰からその姿を見せ、砲門が一気に四つも増える。

さらにウイングバインダーからGNガンバレルが放たれ、計10もある砲門が展開された。

そして―――。

 

『フルバースト!』

 

ガンダムサハクエル リペアIIの武装。

ウイングバインダーに格納されたGNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲。

両肩部のGNクスィフィアス・ビームレール砲。

無線式に改良されたGNガンバレルII。

サハクエルの主武装であるGNツインバスターライフル。

その全ての砲門をレナは自らの操作で、GNファング10基をロックオンし、粒子ビームを放つ。

サハクエルの『フルバーストモード』により、GNファングは一つも漏らさず消し飛ばされた。

 

『馬鹿な……っ!?ファングを!』

『行くよ』

『……っ!』

 

レナの宣言にサーシェスが引き締める。

GNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲とGNクスィフィアス・ビームレール砲を収容して飛翔するサハクエルに、サーシェスの本能が告げていた。

こいつは危険だ、と。

油断をすれば―――次は命を消される。

 

『虫も殺せねえ嬢ちゃんかと思いきや、とんでもねえバケモンじゃねえか!!えぇ?そうだろっ!?』

『どうかな』

 

サーシェスの言葉にも表情一つ変えずに対応する。

さっきまで対峙していた優しさの垣間見える少女とは全く違う姿に、サーシェスは舌打ちを漏らす。

 

『オラオラオラァ!逝っちまいな!』

『そんな射撃じゃ当たらないよ』

『クソ……っ!』

 

GNバスターソードを右腕に装着し、ライフルモードにしたアルケーがサハクエルを粒子ビームで狙う。

だが、サハクエルは容易く躱し、掠る様子もなく旋回してバスターライフルをアルケーへと向けた。

 

『来るか!』

『遅い!』

 

攻撃の姿勢から回避に移ろうとしたアルケーだが、サハクエルがバスターライフルの引き金を引く方が早かった。

速射が、アルケーの動きを止め、バスターソードを盾にすることで防ぐ。

そこにサハクエルは接近し、至近距離で銃口を向けてきた。

 

『見たところ武装は少ないね、やっぱり。誘導兵器を失って、バスターソードを盾にしてたら攻めの手を失うよ?』

『てめぇ……っ!』

 

余裕を見せつけるかのように指摘するレナに舐められてたまるかとサーシェスが睨む。

しかし、直後に凶悪な笑みに変え、アルケーの脚部爪先からGNビームサーベルが発生した。

 

『はっ!!隠し武器ならこっちにもあんだぜ?嬢ちゃん!!』

『そうだね。こうして接近してもらえないと使えないけど』

『なっ……!?』

 

レナの言葉に目を見開く。

瞬時に理解した。

サハクエルは()()()間合いに入ってきたのだと。

蹴り上げたGNビームサーベルは空を斬る。

完全に見切られて回避されていた。

 

『この動き、最初から予測して……ぐっ!?』

 

モーション後の僅かな隙をGNガンバレルIIをサハクエルとは別に操ることで、埋める。

蹴り上げた直後にGNガンバレルIIがサハクエルとは個別の意思を持つかの如く飛来し、アルケーの脚を墜とした。

さらに辺りを飛び交う残りの3基がGNマイクロミサイルでアルケーを追撃する。

さすがのサーシェスも回避に専念する以外の選択は消された。

 

『クソ、なんだってんだ!?』

 

決してサーシェスが弱いわけではない。

寧ろ彼の持つハイセンスは殆どのパイロットが理解出来ぬまま墜とされるであろう現状をハッキリと理解していた。

アルケーの隠し武器による斬撃を回避したサハクエルもまた、アルケーと同じようにモーションを終えた後、必然的に僅かなコンマの間は動きが取れなくなる。

だが、GNガンバレルIIはそんなサハクエルとは統一性のない、まるで意思を持ち、共闘する援軍機のような役割を担っている。

それがあの対応力。

GNガンバレルIIが自動(オート)操作ではなく、手動操作である証拠だ。

 

『なんなんだこのセンスは!?本気でバケモンかよ!!』

 

マイクロミサイルをライフルモードのバスターソードで一つ残らず爆炎に変えつつ悪態をつくサーシェス。

だが、さらに絶望的な技量差(センス)が彼に襲いかかる。

 

『ぬおっ!?ビームサーベルだと!?』

 

突如、空を駆けた一筋の閃光。

サハクエルがアルケーを狙って蹴り飛ばしたGNビームサーベルを、サーシェスはバスターソードで斬り捨てる。

が、バスターソードを振るい、刀身が視界を過ぎった後の視界にはバスターライフルをドッキングし、GNツインバスターライフルでアルケーを完全に捉えたサハクエルが映っていた。

 

『なっ――』

『狙い撃ち!』

 

放たれる大型の粒子ビーム砲撃。

回避行動の間に合わないアルケーは咄嗟にGNバスターソードを盾に構える。

ツインバスターライフルの粒子ビームはバスターソードに直撃し、強大な破壊力でバスターソードを粉々に打ち砕いた。

 

『武装が……っ!?』

『どうしたの?戦争、好きなんでしょ』

『てめぇ!』

 

ツインバスターライフルから連射される粒子砲撃をアルケーで躱し、サーシェスはコクピットの中で表情を苦くする。

簡単に言うが、何気ないこの砲撃を回避するのにもサーシェスは脳が焼ききれるほどに集中して、感覚を鋭くしなければならない。

そうでなければいつの間にか誘導されて粒子ビームによる挟撃なんてものが起きてもおかしくはない。

反射と予測、そのどちらをも駆使しても被弾しないようにするのが精一杯だった。

 

『クソ!!さすがに分が悪い……っ!!』

 

不利を悟ったサーシェスは目の前のサハクエルと対峙することを諦め、背を向けて逃亡する。

その間にも残った片足を撃ち抜かれ、完全に武装を失った。

だが、それはサーシェスの反射能力が優れたから起きたこと。

サハクエルはアルケーのコクピットを狙っていた。

 

『待ってよ。逃がすわけにはいかないんだから』

『冗談じゃねえ……っ!!』

 

一目散に逃げに力を入れるアルケーにトップスピードのサハクエルが追いつく。

アルケーの真上に構えたサハクエルはまたしても全武装展開の『フルバーストモード』へと移行し、六つの砲門でアルケーを捉える。

 

『さようなら。ごめんなさい』

『クソ、この俺があああああああーーーっ!?』

 

刹那、粒子ビームがアルケーの胴体を貫く。

アザディスタンの空に爆炎が浮かび、ダメージに耐えきれなかったアルケーは爆散した。

その中から1機の飛行物が飛び出す。

アルケーの緊急脱出用コア・ファイターだ。

 

『機体だけじゃねえ。あの動き、なんなんだあいつは……っ!?ぐっ…!』

 

負傷した肉体。

血反吐を吐き、バイザーを鮮血で染めながらも手を休めずファイターを操縦する。

だが、報われないことにサハクエルの射程から逃れることは不可能だった。

 

『不味い!?捕捉されてやがる……!!』

 

『これで――』

 

自身から逃げるコア・ファイターのブースター部にGNツインバスターライフルで照準をロックする。

後は引き金を押すだけで一つの命を塵すら残さず消し飛ばすことが出来る。

しかし、そんなレナの元にタイミング悪く通信が入った。

 

『レナ!そっちに連邦の機体が向かってる!すまねえ、撃ち逃した!』

「……ニール。撃ち逃した?」

『あぁ。あの機体のパイロット、とんでもねえ操縦技術を持っていやがる』

「エースパイロット級の擬似GNドライヴ搭載型…。分かった、合流ポイントに向かうよ」

 

モニターに映るニール・ディランディに応えるレナ。

彼の言葉から狙いを外したのではなく、射程から外れたのでもなく、接近中の機体はニールの狙撃を掻い潜ってやって来たことを把握した。

すぐさま戦場を離脱すべく、その場を離れる。

 

『了解。野郎はどうなった?』

「……ごめん、逃がしちゃった」

 

少し語気を強めたニールに申し訳ないと思って俯く。

アリー・アル・サーシェス。

10年以上前のアイルランド自爆テロに関わったテロ組織の主犯格でもあるサーシェスによって、ニールは家族を失った。

その憎しみをこの4年で断ち切ったとは言い難い。

本人もレナに充てられて変わりつつあるが、それでも憎しみはあった。

だからこそ、レナは一層申し訳なくなる。

 

『……そうか。ま、気にすんなって。俺のことはいい。それより、あいつと話せたか?』

「うん。でも、やっぱりニールの言った通りだった……。あの人はもう戦争に囚われてる。戦争に生きている。抜け出すのは、きっと難しいよ」

 

哀しみを含むレナの表情と呟き。

ニールもそんな彼女を見て、少し肩を落とした。

 

『まあそんな気はしてたがな……。そうか、レナでもダメか。オーライ、俺も合流ポイントへ向かう。野郎を仕留められなかったのは今後に影響しそうだが、こうなっちまったもんは仕方ない』

「うん。ごめんね」

『だから気にすんなって。俺が連邦の機体を狙い撃てなかったのも悪い。それより、帰ったら上手い飯でも作ってくれよ』

「あはは……。冷蔵庫に何か残ってたらね」

 

悔やみや自責の報告から他愛のない話へとニールが気を使ってくれた。

ニールに心の底から温かい想いを抱き、レナは柔らかく微笑みを返す。

こうして、サハクエルは戦闘空域を離脱した。




【解説】

・ガンダムサハクエル リペア2(RII)
分類:可変モビルスーツ(第3.5世代ガンダムにあたる)
全高:16.7m
主動力:GNドライヴ[Τ]
出力:不明
開発組織:(ワン)家→独自開発
パイロット:レナ・デスペア
特殊機能:Zero Mode System
武装:マシンキャノン、GNツインバスターライフル、GNビームサーベル×4、GNガンバレルII、GNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲、GNクスィフィアス・ビームレール砲、GN(マイクロ)ウイングビット×20
詳細:【フォーリンエンジェルス】から4年。その間に大破したサハクエルを一度改修し、本機はさらに改修を重ねた機体。追加武装の殆どは4年前のレイが残した前世の知識を元にフリーダムガンダムから流用したものが多い。尚、レール砲だけはビームと実弾切り替え可に変更されている。


追記でサハクエル リペア2の情報載せました。(2018/08/10 20:54:14)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。