息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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この回は飛ばしても内容に支障はありません。
なのでアレマリ絶対派はこの回を読まないでください。その為に2話連続投稿にしたので。
レイ×ソマを許容できる方のみに推奨します。
読まなくても許容できない方は公式いってください。追いません。




では許容できる方のみどうぞ。


幸福の時間

妙な脱力感を感じる。

さらに微動すると何かと触れ合う感触。

とても柔らかく、暖かい純白の肌。

何処か重い瞼を開ければ胸に添えられた華奢な腕が映った。

そして、隣に気持ち良さそうに寝息を立てるソーマの輪郭を認識してようやく意識が覚醒する。

 

「……っ。朝、か…。頭が痛てぇ」

「んっ……」

 

頭部を抑えつつ白い布を剥がして身を起こすと、眠っているソーマも少し揺れる。

どうやらまだ夢の中らしい。

起こすのは忍びない。

 

「それにしてもここは……」

 

辺りを見渡す。

隅々まで掃除の行き届いた清楚なワンルーム。

部屋の中央には俺とソーマが一晩を過ごしたと思われる大きなダブルベッド、隅には二人分の荷物が纏められている。

俺達は何も身にまとっておらず、軍服だけが脱ぎ散らかされていた。

そこまで状況を見てなんとなく思い出してきた。

 

「あぁ、そうか。結局泊まったんだったな……」

 

未だ本調子でない思考力で現状を理解する。

先の作戦の不始末で謹慎を食らったが、俺には帰る家なんてあるわけもなく、ソーマも大佐に連絡していないことからホテルに宿泊することになった。

昨日、ソーマが落ち着いた後に二人で決めたことだ。

まあリボンズは暗に本拠に戻ってこいって伝えたかったのかもしれんが、元々モスクワからじゃどこかで一泊しなきゃいけない距離ではあった。

その上、モスクワに着いた頃には夕暮れだったからな。

言い訳はできそうだ。

 

「……ソーマ」

「んんっ」

 

隣で寝息を立てているソーマの髪を耳に掛けてやる。

触れる度に眉は揺れ、潤いのある唇が震える。

そんなソーマを見てると愛おしく思う自分がいた。

 

「愛してるよ、ソーマ」

「………んっ……」

 

無意識に俺の手を掴むソーマによって温もりが伝わってくる。

同時に、脳内に一筋の閃光が過ぎ去った感覚を覚えた。

俺の瞳が金色に輝き、脳に直接声が響く。

 

「リボンズか」

 

自然と名を呟く。

ある程度要件を聞いて交信は途絶えた。

どうやらもう会う必要はないらしい。

今こうして直接脳内で話し合いは終えた。

 

「ま、当然お叱りは受けるか。それにしても……俺の専用機、か。注文通りならいいんだがな……」

「デスペア大尉?」

「あっ。ごめん、起こしちゃったか?」

「いや、そんなことは……。それよりここは……」

 

シーツに溶けそうな純白の髪を連れてソーマも起き上がる。

寝惚け眼を擦るソーマが俺と同じように辺りを見渡した。

暫くすると合点がいき、昨晩を思い出したようで顔を紅潮させる。

 

「あ、あの……私…っ。昨日は、変なところはなかっただろうか?」

「もちろん。綺麗だったよ、ソーマ」

「……っ!そ、そうか。なら良かった……」

 

安堵してソーマは胸をなで下ろす。

俺はその手を取り、頬に空いた片手を添えた。

ソーマは一瞬目を見開き、愛おしそうに俺の手に触れる。

 

「デスペア大尉……」

「ソーマ……」

 

熱を帯びた目で見つめ合い、次第に互いの距離が近づいて行く。

ソーマは俺の胸に両手を添えて、柔らかい真紅の唇を主張し、目を瞑る。

そして、二人の息が掛かり、交じり合ったと同時に室内に発信音が鳴り響いた。

 

「あっ……」

「あー、そういやモーニングコール頼んでたっけ……」

 

発信音に気を取られてキスは直前で止まってしまう。

顔を顰めるソーマに俺は苦笑いする。

だが、受話器を取らないわけにもいかないのでソーマとは一旦離れた。

するとソーマは明らかに肩を落とす。

 

「続きはまた後でな」

「そんな……っ」

「とりあえず一緒に朝食に行こうか?」

「……っ!」

 

俺が誘うとソーマは一転して表情を明るくして、顔を上げる。

期待の眼差しで嬉しそうに俺を見ていた。

 

「い、いいのか?」

「恋人だろ。今更遠慮することはない」

「……恋人」

 

目を見開くソーマが呟きを繰り返す。

そんなに喜んでもらえるならこっちも冥利に尽きるってもんだな。

実際、俺もソーマと結ばれて嬉しい。

だからというわけでもないがソーマの気持ちはわかる。

俺もソーマも5年間想い合い、すれ違ってきたからこそ今の関係が心満たされる。

現にソーマは布で身体を隠しつつ胸に手を当てて実感していた。

 

「ほら。歩けるか?」

「……あぁ」

 

手を差し伸べるとソーマは微笑を浮かべて掴んでくる。

そのまま引いてベッドから抜け出し、露わになった柔肌は俺に飛び込むことでまた隠す。

すると、二人の胸の高鳴りが、鼓動が重なった。

 

「おっと。大丈夫か?」

「あ、あぁ。凄い……デスペア大尉をこんなにも感じる……」

「そ、そうだな。俺もソーマを感じるよ……」

 

ソーマが俺の胸に密着し、心臓に耳を傾ける。

かろうじて冷静に返したが、この体勢はまずい。

あまりにも密接し過ぎてソーマの柔らかい肌や凹凸物がダイレクトに伝わってくる。

さらにソーマの髪から甘い匂いが鼻孔をつつく。

俺の理性が吹き飛びそうだ……。

 

「なあ、ソーマ。その……とりあえず服着ようか。お互いに」

「え?あっ……す、すまない…」

「いや、いいんだ」

 

触れ合うことに夢中になっていたソーマが自分の姿を見下ろして赤面する。

俺も非があるためなんとも言えない気持ちになる。

とりあえずお互いに背を向けながら部屋着を身に纏う。

ホテルの朝食時間も限られてるので、最低限の用意を済ませて玄関に向かおう……と思ってドアノブに手を掛けたところで後ろから裾を引かれた。

振り返るとソーマが頬を紅潮させて上目遣いで俺を見つめている。

 

「な、なんだ?ソーマ。どうかしたか?」

「その……やっぱり……」

 

ソーマの年相応の乙女な表情に、僅かに揺れる瞳。

あまりに暴力的な魅力に思わず息を呑む俺に対してソーマは言い出すのに勇気がいるのか震える唇を強く噤んだ後、振り絞って言葉を繋いでいく。

 

「デスペア大尉ともう一度、キスがしたい。ダメだろうか?」

「……っ!」

 

そんな顔を真っ赤にしたソーマの甘えた声に俺の理性は簡単に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出る前に厚い接吻を交わした俺とソーマはそのままホテル内のレストランで朝食を取った。

ちなみに謹慎が解けるまでホテルに泊まり続ける予定だ。

出費は高いが仕方ない。

 

「そういえばスミルノフ大佐に連絡はしたか?」

「い、いや……まだしていない」

 

朝食を終えてレストランの座席を借りてソーマに尋ねると案の定の返事が返ってきた。

まあ昨日から一緒だしそんなことだろうとは思ってた。

 

「俺達の謹慎が大佐に伝わるのも時間の問題だ。後でいいから連絡しとけよ」

「あぁ。分かっている」

「ほんとかよ。俺達の関係も話さなきゃいけないんだぞ?」

「そ、そうか。確かに……」

 

そこまでは考えてなかったのかよ。

流石に四年間もソーマの親代わりを担った大佐に何の報告もなしではいられない。

俺は既に覚悟を決めている。

絶対に大佐に認められてソーマの傍に居続ける。

例え認められなかったとしても離れるつもりはない。

ソーマとの約束の為に。

なにより、ソーマの幸せの為に。

俺が幸せにすると誓ったからだ。

 

「もし大佐が私達の交際に反対したら私と大尉は離れ離れになってしまうのだろうか?」

 

いざ自覚するとソーマが不安になったのか尋ねてくる。

大佐に限ってそんなことはない、とは思いたいが実際は分からない。

俺達の気持ちを尊重してくれるとは思うんだが……所詮は憶測に過ぎない。

何も大佐を信じていないわけじゃない。

だが、どうしても不安は過ぎってしまうんだ。

ソーマの気持ちも分からなくはない。

 

「何とも言えないな。大佐は部下としての俺を認めてくれてはいるがソーマに見合う男となると話は別だ」

「私は大尉と一緒にいたい……」

「なら説得しないとな。大丈夫、大佐なら分かってくれるさ」

「あぁ」

 

ソーマがなんとか頷く。

大佐を信じることでソーマの肩の荷も少し楽になったようだ。

やはりあの人の存在は大きいな。

 

「そういえば大尉。この前の掃討作戦の前に何か言いかけていたが、結局あれは何を言いたかったんだ?」

「あぁ……大佐と養子の件で話した後のことか」

 

確かに途中で艦内アナウンスに遮られたなあの時は。

ソーマは俺が避けていたにも関わらず、ずっと寄り添ってくれていた。

その御礼をしようと思ってある誘いをしようとはしていたが、結局タイミングを失っていた。

以前なら感謝の意を込めてってことになるが、今の関係性だとまた違った意味になってくるな。

さて、どうしたものか……。

 

「デスペア大尉?」

「あぁ、いや……結局その件はどうするんだ?やっぱり大佐の養子になるのか」

「それは、大佐が良ければ是非話を進める方向へと思っている……ってそうではない。今はデスペア大尉の話をしている。誤魔化すな」

「ははっ、やっぱりそうだよな」

 

話を逸らそうとしたことを見透かされ、とうとう逃げ場がなくなった。

勢いできたここまでと違って改めて正面から誘うのは中々恥ずかしい。

あの時は軽い気持ちだったが今は無自覚ではいられないからな。

やはりこういう関係となるとどうしても意識してしまう。

だが、いつまでも言い出せずにウジウジしてるとソーマに嫌われてしまいそうだ。

ソーマはあまり好まないからな、そういうやつ。

仕方ない、切出すか。

 

「あの時はソーマに日頃の感謝も込めて御礼をしようとしていたんだ」

「御礼?」

「まあ要するに……デートのお誘いってことになるな」

「デート……」

 

羞恥心のあまり目を逸らしつつ伝えるとソーマが唖然としながら言葉を復唱する。

そして、言葉を遅れて認識したのか一気に頬を紅く染めて、どうしていいのか視線を泳がせた後に下に落ち着く。

 

「デ、デート……デスペア大尉と……」

「いや、でも謹慎中だから実現不可能な話だ。悪い、この話は忘れてくれ」

「そんな……っ。忘れるなんて無理だ、私は大尉とデートがしたい」

「そう言われてもな……」

 

我儘になってくれたことはいいが、不可能なものは不可能だ。

今や連邦の目は中東以外に行き届いている上に俺とソーマともなれば特定しやすい。

その中で隠し通すのはかなり難易度が高いだろう。

 

「今回は諦めるしかないだろ」

「そ、そうか……」

 

うっ、ソーマが見るからに肩を落とす。

ここまで弱られるとこちらにも来るものがある。

いや、しかし無理なものは無理だ。

今回ばかりはどうしようも―――。

 

「すまない。我儘を言って……デスペア大尉に迷惑をかけてしまった。私はただ、大尉と…その……恋人らしいことを……したかったんだ」

 

俯き加減で謝るソーマ。

さらにバツが悪そうにしょんぼりする。

よし、デートに行こう。

 

 

 

 

 

 

「我ながら弱い……弱過ぎる……」

 

指定された場所で頭を抱えながらソーマを待つ。

ホテルから出る時間はズラして私服を調達し、待ち合わせ時間もズラした。

最低限の対策だ。

ちなみにソーマはまだ時間が掛かってる。

連絡によるとスタイリストさんに捕まっただとかなんだとかで長くなるらしい。

まあ素材はいいからな。

目を付ける気持ちもわかる。

凄く分かる。

 

「それはいいんだが……あれは反則だろ……」

 

あの時のソーマを見てるとどうにかしてあげたいという気持ちが先走って、気が付いたら行動に起こしていた。

リスクは充分にある。

その中で即決できたのだから恐ろしい……。

 

「まあ上手くやるしかないか。ん?」

 

ふと顔を上げるとソーマがやって来るのが見えた。

だが、その姿はいつもとは違う。

落ち着いた色合いの民家や建造物と集合場所である駅前にある噴水。

周辺で交差する人の流れの中からなびく白髪を抑えてソーマは現れる。

 

上は紺のニットに、下は黒を基調としたリバーシブルのスカート。

それらを包み込む純白のフーディコート。

さらに紺と黒の混色のブーツで大人らしさを感じさせ、そのことによりフーディの甘さが際立つ。

そして、服装で色を抑えた分明るい色合いのお洒落なバッグを持ち、バランスが取れていた。

コートからチラつくタイツといい首から掛けられたネックレスといい色気を漂わせる一方、フーディの甘さで可愛らしさが引き立てられていてソーマの美貌は妖艶っぽくクールに、人形のような愛らしさはより一層目立った。

そんなソーマに俺は魅入られて暫く何も言えずに見つめ続ける。

 

「ど、どうだろうか?」

「……っ」

 

ソーマが恥ずかしそうに赤面しながら俺にコーデを見せつける。

果たして俺に気に入ってもらえるのだろうかというあくまでそれだけが気かがりなソーマに早く声を掛けてやらねばと思う一方、あまりに魅了されて息を呑むことしかできない。

結局返事のない俺にソーマが不安を抱えてしまった。

 

「似合って……ないか」

「い、いやそんなことはない!その、あまりに綺麗だったから圧倒されて……ごめんな」

「いや、だ、大丈夫だ。そうか、綺麗……私が…」

 

視線を逸らしながらソーマは髪を耳に掛ける。

その仕草一つ一つが色っぽく俺を虜にする。

ダメだ、ここは謝るところじゃなくて褒めるところなのに上手く言葉が出ない!

な、何か言わなくては……。

 

「ソ、ソーマ」

「なんだ?」

「その……行こうか」

「あぁ!」

 

本当に情けないことに目を合わせるのに精一杯で大したことを思い付けず、手を差し伸べる。

ソーマは満面の笑みでその手を取って柔らかく、けれど大事そうに握ってくる。

それだけで俺の心臓は破裂しそうだった。

 

なんなんだ、この制御できない胸の高鳴りは。

どこか調子が悪いのか?

困惑する俺は後で『ヴェーダ』に頼ることくらいしか思いつかなかった。

 

繋いだ手を離さぬよう二人で歩き始める。

特に行先は決めてないが、元々はソーマへ日頃の感謝を込めて誘ったんだ。

ソーマの行きたいところを優先していこうと思う。

 

「ソーマ、何処か行きたいところあるか?」

「デスペア大尉と一緒なら何処でもいい」

「お、おう……」

 

めっちゃ可愛いこと言うな。

ソーマは無自覚なのか楽しそうに歩みを進めていく。

足取りは軽く、とても機嫌がいい。

とりあえずこの感じだと俺がリードする形か……。

 

「無難だが映画でも見に行くか。それと一応フードは被っとけ。どこに軍の目があるか分からないからな」

「あ、あぁ。すまない」

 

浮かれ気分だったソーマが取り直してフードに手を掛ける。

俺も最低限、頭を隠しておいた。

あとは呼び方をなんとかしないとな。

 

「ソーマ。今から俺のことを階級で呼ぶのは禁止だ。一発で軍人だってバレる」

「そうか。しかし、何と呼べば……」

 

ソーマが顔を顰めて悩み始める。

確かにデスペアじゃあ随分と他人行儀だよな。

となると、やはり……。

 

「レイでいい。ほら、呼んでみろ」

「えっ……そ、それは…」

 

戸惑いを隠せないソーマ。

名前で呼ぶのは気恥しいようだ。

恋人なら普通だと思うがな。

寧ろ初対面の時に名前呼びでいいと言ったのに階級を貫いたのはソーマだ。

まさかそのことで苦しめられるとは思ってもみなかっただろう。

ソーマは暫く恥ずかしそうに口を紡ぎ、やがておずおずと小さく口を震わせ始める。

 

「レ、レイ」

「んっ。なんだ?ソーマ」

 

微笑んでわざと顔を覗いてみる。

すると、ソーマは顔を真っ赤に紅潮させた。

 

「い、意地悪するな!」

「ははは。ごめんごめん」

 

照れ隠しするように目線を逸らすソーマに謝りつつも悪戯に笑ってみせる。

ソーマは不満げに唇を尖らせるが、後から釣られるように笑った。

そんなソーマを連れて街のデパートへと入る。

最上階の映画館まで行くとそれなりのデパートリーで公開中の項目が端末に並んでいる。

 

「どれか気になるのあるか?」

「え、えっと……ならこれを」

「了解」

 

端末を操作してソーマが指定した作品をタップする。

料金を挿入すると、チケットが2枚出てきたのでそれを受け取って列から抜け出した。

 

「私が選んだもので良かったのか?それにお金も……」

「気にするな。ソーマにお礼したいって言っただろ。ほら、これ」

「あ、あぁ……ありがとう」

 

ソーマの分のチケットを手渡し、飲食物の購入も済ませる。

丁度開場開始の時間だったのでソーマを連れて薄暗い通路へと進んでいった。

今はポップコーンやジュースで手が空いていないのでソーマは自然と俺の腕に自身のを絡めてくる。

そのまま劇場へと入っていき、二時間ほどで映画の視聴を終えた。

退場するとソーマは興奮のままに感想を口ずさむ。

 

「ま、まさか大男の方の機械人間にあんな使命があったとは……」

「それにしても死闘だったな。確かに大男の機械人間が現代に送り込まれた理由には驚いたが、女の機械人間が液状化したのが一番度肝を抜かされた気がするよ、俺は」

「あぁ。性能差では大男の方が完全に劣っていた。それでも使命を果たす為に戦い続ける姿は中々かっこよかったぞ。迫力も充分あった」

「そうだな」

 

ソーマの意見には同意できる。

どんなに性能差があろうとも立ち向かい、使命に生きる姿は痺れるものがあった。

 

「そういえば、以前スミルノフ大佐とも同じ作品を見に行ったことがある。恐らく前作なのだろうが……あれはラストシーンで今回の大男の機械人間が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンが涙無しには見られなかった」

「へぇ。シリーズものだったんだな。ソーマがそこまで言うなら最初から見るのもアリかもな」

「ふふっ、大佐と私のイチオシだ。デスペア大……じゃなくてレイもきっと感動するだろう」

「そうか」

 

意気揚々と語るソーマに俺も微笑を返す。

スミルノフ大佐に先を越されたみたいだが、その経験もあってソーマは実に満足してくれた。

ひとまず成功でいいだろう。

呼び名についてもまだ慣れてはいないようだが気恥しさは軽減してきている。

いい調子だ。

 

「さて、次は何処へ行こうか」

「レイとならどこへでも構わない」

「はは……またそれか……」

 

ソーマはブレない。

コートを掛けている腕とは逆の腕を俺のものと組んで身を寄せてくる。

頻りに俺の反応を上目遣いで確認しているのが堪らなく愛おしい。

 

「へ、変だろうか?」

「いや、可愛いよ」

「……っ!」

 

スキンシップに不安があったのか尋ねてきたソーマに本音を伝えるとまた頬を紅潮させ、身を震わせる。

あぁ、ほんとに……。

 

「丁度いい時間だし昼食でも取るか?」

「あっ……いや、私はさっきの映画館で食べたものが溜まっていてできれば軽いものがいい」

「了解。となると喫茶店とかで済ませるのがいいか」

「あぁ。それがいい」

 

よし、ソーマの同意も得たことだし辺りに喫茶店がないか見渡す。

デパートとなれば大抵は内装にあるものだ。

俺とソーマのいるフロアにも出入口付近に有名なチェーン店があった。

 

「あそこに行こう」

「わかった」

 

俺が目をつけたところを指すとソーマも頷く。

彼女を連れて入店した。

 

「何名様でしょうか」

「二人です」

「かしこまりました。あちらの席へどうぞ」

 

ウェイトレスの案内で向かい合う形の二人席にソーマと共に腰掛ける。

席に着くと先程のウェイトレスが来たので注文をすることになった。

手始めに頼むものは決めている。

 

「お決まりでしょうか」

「俺は珈琲を、ブラックで。あとドミグラスのバーガーを頼む」

「わ、私も同じものを……」

 

思わずソーマを見遣る。

視線に気付いたのか、ソーマは澄ました顔で笑みを俺に向ける。

どこか胸を張っているので、もうブラックを飲める歳になったのだと暗に主張しているようだ。

まあ、止めはしないが……。

 

「大丈夫か?」

「問題ない。私とて成長している」

 

ソーマは断固として言い切る。

そこまで言うなら自由にさせるか。

 

「お待たせしました」

「あぁ、ありがとう」

「……っ」

 

暫くしないうちにテーブルの上に真っ黒な液体が注がれたコップが置かれる。

ソーマは改めてその色を見て息を飲んだ。

全くコップの奥底が見えないことに身震いしているようだ。

 

「ほんとに大丈夫か?震えてるぞ」

「も、問題ない。私は大人だ!」

「あっ……」

 

そう言って勢いよく口に付けるソーマ。

直後、急激な熱さと強烈な苦味で顔を顰めて仰け反った。

 

「うっ……!」

「言わんこっちゃない……仕方ないな」

 

ウェイトレスを呼び出してカフェオレを頼む。

ソーマは不服そうだったが、彼女の苦しんでる姿を好んで見る趣味はない。

 

「二杯とも俺が飲むから安心してくれ」

「い、いや、これは私のだ」

「……大丈夫。俺はソーマのこと子供だなんて思ってない。それにソーマが無理してるのを見たくない」

「それは……」

 

そっと微笑んで頬に触れるとソーマも意地を曲げ始める。

それとは別に赤面しているようだが。

 

「ソーマはそのままでいい、無理して俺に合わせなくていい。俺はそのままのソーマが好きなんだ」

「レイ……」

 

俺の想いを伝えると頬をほんのり紅く染めていたソーマが目を見開く。

そして、私もそんな優しいレイが好きだ……と小さく俺に告白した。

その時の俺の胸の高鳴りは言うまでもないだろう。

 

喫茶店で軽い食事を済ませると、一旦外へ出る。

実はソーマが恋人らしいスポットに行きたいというので端末で調べたところ、モスクワにはその類で有名な場所があることが判明した。

そうと決まれば次の目的地は自ずと確定し、数十分共に歩くと俺達はとある『橋』に辿り着いた。

 

「……と、見えてきたな」

「あれが噂の橋とやらか?」

「そうみたいだな」

 

橋の名前が記されたプレートも事前に確認したものと一致する。

間違いないだろう。

なんでも橋の上に植えられた木に二人で南京錠を掛けて、鍵を川に放り投げることで永遠の愛を誓うのだとか、そんな言い伝えが広がっている。

俺とソーマも互いに顔を見合わせ、少し照れながら南京錠を掛ける。

 

「それで鍵を投げれば……いいのか」

「あぁ。ソーマ、投げるか?」

「いや、どうせなら二人で投げよう」

「……可能なのか、それ」

 

ちょっと二人で投げる姿が想定しにくい。

俺が微妙な表情をしているとソーマは取り繕うように目を逸らす。

 

「ぜ、善処する……っ。というよりやらなければ分からないだろう!」

「まあ、それもそうか」

 

なんとなく納得して鍵を握るソーマの手を上から包む。

 

「ひゃっ!?」

「あっ……す、すまん」

「いや、いいんだ……」

 

突然触れたからか、ソーマの肩が跳ね、震える。

俺は謝罪しつつゆっくりとソーマを後ろから抱いた。

そして、投げるというよりは落とすように俺とソーマの手から鍵が重力に従って離れていく。

 

「……これで、私達の間にできた四年間の空白は埋まるだろうか」

「ソーマ……」

 

川に呑まれる鍵を見つめてソーマが不安げに呟く。

ソーマは言っていた。

俺がいなくなってから胸に穴が空いたような締め付けられる感覚で苦しんだと。

スミルノフ大佐との日々は確かに大佐の思い遣りに満たされていた。

だが、時々思い出すあの日、俺を失った時が()ぎると苦しくなる。

そんな四年間をソーマは過ごしてきた。

俺と誓ったこの永遠の愛がその分を取り戻してくれるのか。

ソーマは微かに期待している。

 

「そうだな。ここに誓ったように、俺はもうソーマから離れない」

「デスペア大尉……っ」

 

あの日破ってしまった『約束』は『誓い』となり、俺達を強く結びつける。

俺達はもう決して離れ離れにならないように思い切り抱擁し合い、誓いの口付けを交わした。

肩に触れて離した時、ソーマの瞳は揺れていて、火照るように紅潮した彼女の柔らかい唇に俺は二度と離さないことを誓った。

 

 

 

 

その後も二人でモスクワの街並みを散策し、最低限の注意は払いながら充実した一日を過ごすことが出来た。

最後に帰路を歩みながらソーマが顔を顰める。

 

「もう帰るのか……?」

「ホテルのディナーに間に合わなくなるからな。それに隠蔽したとはいえ、さすがに一日部屋を空ければチェックアウトしたことがバレる」

「そ、そうか……」

 

言葉では頷いたもののソーマは納得していない。

それも当然で、ソーマは『ヴェーダ』のこともリボンズのことも知らない。

俺が敏感になっている理由が分からないのだろう。

だからか、街道を進んでいくうちにソーマの足が止まる。

必然的に手を繋いでいる俺はそれを見逃すことはない。

 

「ソーマ?」

「………」

 

ソーマはなにやらフロントガラスを眺めていた。

具体的にはその奥にある宝石店のショーウィンドウ、展示されているペアのブレスレットだ。

 

「欲しいのか?」

「いや……」

 

俺に尋ねられてソーマは首を振る。

だが、見ない振りをしても視線は自然とブレスレットへ向かっていた。

余っ程欲しいらしい。

俺も少し見遣るが、どうやらそれほど高価なものでもない。

……なら買ってやるか。

 

「欲しいのはこれだな?中に入るぞ」

「えっ……いや、私は別に……」

「遠慮しなくていい。記念だ、このままじゃ味気ない気もするしな」

「………ありがとう」

 

ソーマは小さな声で礼を呟いて嬉しそうに微笑を作っていた。

俺に手を引かれて入店し、ペアブレスレットを購入する。

店員に説明を聞いていると、バングルの側面に本物の赤い糸が入っているらしい。

ずっと一緒に居たい気待ちを表現したのとのことだ。

 

「"私たちは赤い糸で結ばれている"……」

 

ソーマがブレスレットに彫られている文字を読み上げ、目を細める。

そして、左腕に付けて満たされるように胸に抱えると、熱っぽい視線で俺を見た。

 

「デスペア大尉……今日は本当にありがとう……」

 

ブレスレットを胸に抱え、ソーマが小さく微笑む。

夕闇の中での彼女はとても綺麗だが……。

 

「だから、階級はやめろって」

「あっ……」

 

ソーマが思わず口を覆う。

気が抜けてしまったようだ。

そんなソーマを見て俺も口元を緩め、手を差し出す。

 

「帰るか」

「あぁ」

 

ソーマが俺の手を取り、絡め合ったまま俺達は密かな幸福の時間を終えた。




手元の資料が全部春物で関係なかったです。
気に食わないのに読んだ人は自己責任でお願いします。

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