息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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お久しぶりです。
最終話まで書き溜めしようとしていた時期が私にもありました。
プロット書いた時点で最低でもあと35話は必要なことに気付いて轟沈、ということで不定期でいきます。


翼持ち再来

謹慎処分から4日が経った。

俺とソーマはその間、ホテルに泊まっている。

スミルノフ大佐にも当然謹慎は言い伝わったが、ソーマの要望によりソーマは俺が預かる事になり、事情を話すと大佐は俺達の交際をお許しになった。

大佐のことを信じていたとはいえ、一抹の不安はあったが大佐は寧ろ快く祝福してくれた程だ。

本当に有難い。

 

ちなみに謹慎処分は言わばリボンズからの帰還命令だったが、俺達が降り立ったのがモスクワだったこともあり、脳量子派でお叱りを受けて解決した。

内容は割愛するが、リボンズもそれなりに遺憾なようだ。

あまり好き勝手するとあの手この手を回して俺が反逆者のような扱いになってしまうかもしれない。

まあ、恒久和平実現をこれ以上に邪魔するよなら……という前提だが。

 

『アザディスタンへの攻撃、連邦が中東再編に着手に失敗しました。一説ではガンダムの妨害を受けたとの情報もあり、現地で撮られた写真にはガンダムと思わしき姿が―――』

「………」

 

端末で同じニュースを繰り返し見ている。

リボンズがアザディスタンを解体しようとして送り出した傭兵のアリー・アル・サーシェス。

【GNW-20000 アルケーガンダム】を駆るサーシェスの腕は俺も一度対峙した時に実感している。

あの戦闘センスとアルケーの性能があればさらに恐ろしい力を発揮するだろうと俺は睨んでいた。

だが、そのサーシェスがたった1機のガンダムに退けられた。

何度も報じられる映像で紹介される一枚の写真。

そこに映る白翼を有するシルエットは見間違いでもなく、【ガンダムサハクエル】だ。

 

「レナ……」

 

写真の全貌は把握出来ないが、俺にはその正体が断定できる。

例えサハクエルでもアルケーに乗るサーシェスを凌駕できるパイロットはレナだけだ。

ならばこれはレナが起こした行動……。

正直、アザディスタンをこうも無理矢理解体しようとしていることは後から知った。

それでなければ事前に止めている。

リボンズのやり方は分かっているつもりだ。

だから、常に目を光らせているつもりだがそれはリボンズも同じ。

サーシェスを動かすことで俺の目を盗んだようだ。

 

だが、それよりも気になることがある。

サーシェスを退けたまでは納得できる。

しかし、レナの行動にいくつか疑問を持つことがあった。

ひとつは『ヴェーダ』にアクセスして目を通したアルケーの戦闘データ。

その中でアルケーはサハクエルに撃墜された。

そこまでならまだしも、コア・ファイターで逃亡しようとしたサーシェスをあろう事かサハクエルは照準を合わせていた。

『奪い合いの連鎖』を断ち切る、その為に俺達も『奪わない』。

二人で決めた誓いだった筈なのに、サハクエルは――レナは確実にサーシェスの命を狙っていた。

 

そして、二つ目はレナがアザディスタン解体に否定的なことだ。

サーシェスを退けた後、特に何をするまでもなくサハクエルは去った。

つまりアザディスタンの解体を意図的に防いだことになる。

……何故だ。

アロウズによる統一世界の実現。

それにより達成される恒久和平の為にアザディスタンの解体自体は必要なことで、中東の再編も必須だ。

俺はリボンズのやり方は許容できないが、行動は肯定している。

現に目指す目標は同じなんだ。

ただ、これ以上奪う必要はどこにもないだけで……。

 

「なのに何故あいつは邪魔をするんだ……俺に分かっていて、あいつに分かってない筈がないのに……」

 

レナが何を考えているのか、全く理解できない。

一体あいつは何がしたくて何を目指してるんだ……?

俺達の理想は二人で掲げたものじゃなかったのか。

 

「なんで……」

「デス―――レイ、どうかしたのか?」

 

俺が思い悩んでいるとソーマが心配して隣に腰掛けてきた。

ちなみにこの4日間で俺達の距離も縮まり、名前で呼び合うようになっている。

ソーマに声をかけられて、眉間に寄っていたシワに気付いた。

どうやら随分と思い悩んでた姿を晒してしまったみたいだな。

 

「あ、あぁ……いや、なんでもないよ」

「だが、なにか苦しそうだ。私で良ければ相談に乗ろう」

「……本当に大丈夫だ。ありがとう、心配してくれて」

 

本気で想ってくれるソーマにかろうじて笑みを作る。

ソーマはそれを見破っていたが、追求もしたくはないのだろう。

視線を落とすだけでそれ以上は聞いてこなかった。

 

「そうか……。なら朝食に行こう」

「そうだな」

 

ソーマの提案に頷いて端末を閉じる。

俺がずっと同じ件に執着していることにソーマは当然気が付いているため、それを目で追ったが例の如く何も聞いては来ない。

その気遣いが俺の心を締め付けていく。

だが、それでもレナのことを話すわけにはいかない。

 

……と思ったが、少し触れるくらいなら問題ないか。

なんだか心配してくれているのに無下にするのは申し訳なくなってきたからな。

 

「なぁ、ソーマは『翼持ち』って知ってるか?」

「えっ……」

 

バイキング形式で皿に料理を盛りながら藪から棒にソーマに尋ねる。

ソーマは一瞬戸惑い、取り直すように頷いた。

料理を盛り終えた俺は近くの席に腰掛け、ソーマもそれに続く。

そして、『翼持ち』について話を進めた。

 

「4年前、『フォーリンエンジェルス』の時に突如現れたガンダム……通称『翼持ち』。私もスミルノフ大佐も対峙したことは一度しかないが、軌道エレベーターへのガンダム襲撃の際に『不殺』だったことでそのインパクトを残してはいた」

「あぁ。その後にもそれらしき痕跡はあったらしいが記録として残せたのはあの時だけだな」

 

ソーマの言う通り、【ガンダムサハクエル】が公の姿を晒したのは一度だけ。

俺とレナがトリニティと共に行動していた時、『犠牲のない恒久和平』を目指してアレハンドロ・コーナーが暗躍する国連軍の軍事用ファクトリーを襲撃していた。

だが、唯一軌道エレベーターに秘匿されたファクトリーだけは破壊に失敗し、さらには頂武ジンクス部隊と鉢合わせた。

その時に初めてサハクエル、『翼持ち』は目撃された。

それ以降は目撃情報を聞いていない。

 

「『翼持ち』の外見は覚えてるか?」

「いや……だが、名の通り生物的な白翼を有していたことはこの目に焼き付いている」

 

やはりそこには誰もが目を付けるか。

サハクエルの最大の特徴といっていいウイングバインダーは一度目にすると相当のことがない限り記憶から抜け落ちることはないだろう。

モビルスーツには不可解な白く大きな双翼。

その特徴をソーマから聞き出したところで、端末を立ち上げてさっきのニュースを見せた。

画面は固定し、アザディスタンの空に浮かぶシルエットを映す。

 

「これ、ソーマには何に見える?」

「……っ!まさか『翼持ち』!?」

 

直前の話もあって、白のシルエットに対してソーマは即座にイメージが浮かぶ。

中東国に出没したガンダムの正体を看破してみせた。

サハクエルの今回の行動について説明するとしよう。

 

「『翼持ち』がアザディスタンに現れた理由は中東再編の為の布石に連邦がアザディスタンへ攻撃を仕掛けたからだ」

「そうか、虐殺を防ぐ為に……」

「以前と行動理念が同じなら、そうだろうな」

 

少しぶっきらぼうに肯定した。

無意識に皮肉を込めてしまったようだ。

レナに対する不安と懸念が隠し切れない。

 

「レイ?」

「………」

 

ソーマに即刻看破された。

ダメだな、どうもレナのことになると感情がコントロールしにくい。

どうしてなんだろうな。

 

「……私は『翼持ち』とレイにどこか近いものを感じる。根拠はないが、何故か……そう…感じる」

「どうだかな」

 

不殺という共通理念は似ていた……というよりは同一のものだった。

寧ろあれはレナと掲げたものだ。

それ以前に仲間を失うことを俺は苦悩し、守る為に戦うことを決意したが、『犠牲』を無くそうと取り組んだのはレナと出会ってからになる。

まあ、ソーマが言っているのはそういう理屈的なことじゃないんだろうが。

どちらかというと直観的な方だ。

 

「同じ、だと思ってたんだがな……」

「……?」

 

案の定ソーマには伝わらない呟きを漏らして朝の珈琲を口に含む。

いつもは心地いいはずの苦味が今日は少々不快に感じた。

だからといって苦手な甘いものを手に取ろうとは思わないが。

 

そんな俺とは対称的に、ソーマは見るからに甘そうな苺のジャムをパンに塗り付けていく。

そして、それを幸せを噛み締めるように美味しそうに頬張りながら自身の端末を確認して、怪訝そうにした。

 

「どうかしたのか?」

「この時間になればマネキン大佐が親切に報告をくれる筈なのだが……どうやら今日はないらしい」

「へぇ、マメそうに見えるがな。それにしても謹慎中にも関わらず連絡を取ってくれるなんてソーマを想ってくれてる人は……多いんだな」

「……あぁ、ほんとうに…その通りだ」

 

俺に指摘されるとソーマは一瞬目を見開き、視線を落としたかと思ったら何か心に染みる温かいものを抱えるように胸に手を重ねた。

確かマネキン大佐は4年前の『フォーリンエンジェルス』でスミルノフ大佐との交流ができたと言っていた。

だから、ソーマを気遣ってくれるのだろう。

ソーマはそんな思い遣りを大切に受け入れるようになった。

 

「良かったな」

「あぁ…っ」

 

微笑む俺にソーマも頬を緩ませて返す。

と、同時に俺の端末が振動した。

 

「誰だ……ってマネキン大佐?」

「えっ?」

 

つい今しがた話題に出ていた本人から俺の方に連絡が来た。

ソーマも困惑気味に声を漏らす。

どういう意図があってソーマではなく、俺に送ってきたんだ?

というかいつの間にあの人は俺の連絡先を知ったんだ……教えた覚えがない。

とにかく、ソーマには了承を得て、見せないようにメッセージを開いた。

 

「なんだこれ。母艦への帰艦命令……?」

 

なにかソーマに言えないことなのかと思ったが、指令は俺だけでなく、ソーマも含まれている。

特にそれ以外のことは記載されていなかった。

特段問題はないので気まづそうにしていたソーマにも内容を見せる。

するとさらに眉を顰めた。

 

「こんなにも早く帰艦命令が?」

「謹慎ってなんだったんだろうな……」

 

この4日間、ソレスタルビーイングを含む交戦は未だ行われていないと昨日までマネキン大佐と繋がっていたソーマが断言する。

普通ならカタロンの軍事基地追撃の作戦が現場で決行しなくとも上層部が指令を下しそうなものだが、どうも動かなかったらしい。

なんでもここ最近電波障害が激しかったとかが原因とのことだ。

それでもなんとか乗り切っていたらしいが、謹慎処分中の俺達を呼び戻す程、状況が切迫してるのか?

だとしたら無視はできないな。

 

「ソーマ、チェックアウトを済ませるぞ。今から迎えを寄越す」

「了解した」

 

『ヴェーダ』に接続して近くの軍事基地に機体を要請する。

何故かは知らないが俺達が行きに乗ってきた機体が迎えるに来るという内容も合流地点も記されてなかった。

マネキン大佐のミスか。

いや、でもあの人はもっと几帳面な気がするが……。

 

とにかく返信は送ってみたが、返事を待つ時間も惜しい。

間に合えばそれでいいが機体を呼んだのは念の為だ。

どっちが早くても問題はない。

一通り段取りを済ませて俺とソーマは即座に軍服に着替え、荷物を纏めて宿泊場所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

カティ・マネキンの名義で偽装メッセージをレイに送ったレナは、端末を閉じ、サハクエルのコクピットで視線を上げる。

監視衛生からは捕捉されない孤島にGNステルスで姿を隠す【ガンダムサハクエル リペア2】。

レナはそこから直線上に位置するベーリング級海上空母の動きを探っていた。

空には広域に大量散布された擬似GN粒子が赤に染めて支配しており、その範囲はペルシャ湾の殆どを覆っている。

 

「スローネ ドライのステルスフィールド起動から約30分……。あとはお兄ちゃんが、レイ・デスペアが釣れれば……」

『狙イ通リ。狙イ通リ』

 

レナの呟きを拾って黒HAROが呼応する。

作戦決行に踏み切り、今も尚、一抹の抵抗があるレナは瞼を閉じて【あの人】の言葉を思い出す。

 

 

―――『大事なのは分かり合うこと。戦いは、哀しみしか生まないわ』

 

 

可憐で清楚な黒く清い長髪。

世界の悪意を、紛争の哀しみを理解している寂しい表情。

それでも人と人とが分かり合える道がきっとあると信じる微笑み。

彼女の『歌』がレナを……満たしていく。

 

「連鎖は、力では断ち切れない……。だから、分かり合う必要がある……」

『レナ。こっちの準備はできた。いつでも狙い撃ち可能だ』

「わかった。ごめんね、こんなことに付き合わせて……」

『おいおい、今更気にしなさんな。もうそんなこと気にするような間柄じゃあない筈だぜ?』

「……うん、そうだね。ごめん」

 

モニターで対面するニールに苦笑いを浮かべるレナ。

どうしても自責の念があって、レナは気付かず謝罪を口にしていた。

そんな彼女にニールは嘆息する。

4年前、レナと出会い、それからというもの互いに惹かれあった仲である二人。

ニールにとってレナは優しくて思い遣りがあって魅力的だった。

だが、唯一の不満を言うとすればすぐに謝罪を口にすることだ。

レナは4年前とそれより過去の過ちで自責が癖になってしまっていることにニールは手を焼いている。

 

『そうすぐ謝りなさんな。レナは何も悪くない。俺は好きでレナに付いて行ってるんだ』

「う、うん。ごめん……」

『……全く。仕方のない奴だな』

 

注意しても口に出てしまうレナにニールは呆れるように笑みを浮かべる。

やれやれ、とでも言いたげだ。

 

『それにしてもほんとにレナの兄貴は来るのか?もうあの艦には乗ってないんだろ』

「……来るよ。お兄ちゃんは、来る。例え罠だと気付いても……お兄ちゃんは優しいから」

 

謹慎処分でベーリング級海上空母にレイが搭乗していないことはレナもニールも既に把握している。

それ故の今回の作戦だ。

ここ最近は『ヴェーダ』には追跡できないサハクエルの擬似太陽炉を使って、上空から擬似GN粒子による電波障害でカタロンの追撃を防いできた。

サハクエルには、GNステルスとは別に迷彩システムがある。

それを使えば監視衛生に捉われることなく作戦行動をこなし、人知れず帰還することが可能だった。

あとは夜になるまで連日で同じことを繰り返すのみ。

 

そんなことを繰り返し、敵に勘繰られるか否か丁度いいタイミングでトレミークルー、ソレスタルビーイングの戦術予報士、カタロンの軍事基地襲撃によって脳裏に過ぎった過去の記憶で倒れ込んでしまった、スメラギ・李・ノリエガが目を覚ましたとの報告が紅龍(ホンロン)から伝えられた。

その期を待っていたレナは作戦を第二段階に移行し、行動に出る。

それは、アロウズの直接部隊であるベーリング級海上空母への接触。

【ガンダムスローネ ドライ】のステルスフィールドで外部との通信をジャミングし、援軍を呼ぼうにも呼べず、あちら側の上層部もベーリング級海上空母の正確な座標が分からない以上まずは捜索から始まることになる。

 

そして、その間にレナは事前にハッキングしたカティ・マネキンの端末を利用してレイにメッセージを送り、艦の座標も同時に添付する。

これでアロウズの誰よりも早くレイが援軍として向かうことが出来るのだ。

唯一の懸念材料は『ヴェーダ』を有するイノベイターだが、そこはレイを信じるしかない。

レナにとってそれは何よりも容易いことだ。

 

『レナ。これだけは聞かせてくれ。正直、俺にはここまでする意味がまだハッキリとは見えていない……レナの兄貴を呼び出して、何が目的だ?』

「……そうだね、ニールには言うべきかな」

 

ニールの問いにレナは引き金を無造作に引きつつ、今最も胸に秘めていることが故に一度、瞼を閉じる。

サハクエルのGNバスターライフルの銃口から噴かれる粒子ビームは敵母艦の武装を的確に奪っていき、ニールの【ガンダムデュナメス リペア】と共に艦の動きを制限させる。

そして、レナが瞳を再び開いた時、それは色彩に輝いていた。

 

「私は……正したいの」

『正す?そりゃ一体どういうことだ……?』

「そのままの意味だよ。私は……4年前にお兄ちゃんに間違った誓いをしちゃったから……」

 

レナの表情が暗くなり、俯く。

4年前。

兄の深也(しんや)と再会し、彼の想いを聞いて二人で理想を掲げた。

 

―――『犠牲のない恒久和平』。

 

それが、あの時二人が望んだもの。

だが、レナは数年前に出会ったとある王妃の言葉を受け入れてから自身の過ちを、理想の間違いを認識した。

レイとレナが掲げたのは言わば、『犠牲を出さない』ということを除いた過程をすっ飛ばし、『恒久和平』という結論を急いだものだった。

後にレナは『奪い合いの連鎖』を断ち切りたいと願うが、二人の掲げたものは『奪う』ことで達成される。

それは、単に物理的なものだけではない。

他人の意思を、想いを踏みにじる。

力に訴え掛けた結果は必ず心の傷を伴う。

 

しかし、レナは連鎖を無くす方法を教わった。

まだ不器用で、以前は傭兵の男を相手に失敗してしまったが、『奪う』ことでは連鎖を増幅させるだけだということに気付いた今のレナは思い描くやり方は間違いではないという確信があった。

そう……分かり合い―――理解し合う―――そのことで、未来を……築くのだと。

 

「――今度も、私がお兄ちゃんに気付かせてあげないと。それが私がお兄ちゃんにしてあげれる唯一の償いなの」

『レナ……』

 

またしても自責の念を背負うレナにニールは顔を顰める。

それでも、口出しはできない。

レナにとってレイが、兄がどれだけ大切な存在なのかをニールは知っているから。

レナが決めたこと、彼女なりにレイと向き合いたいと言うのなら、ニールにそれを止める気はない。

故に彼も覚悟を決めてスコープから目を離し、レナの瞳を真っ直ぐ捉えた。

 

『オーライ。俺も全力を尽くす。レナの邪魔をする奴は誰であろうとも俺が狙い撃ってやるさ』

「ニール……」

 

彼の心遣いが温かい。

レナは密かな幸福に満たされながらニールへの想いを胸に抱える。

そんな時、黒HAROの耳がパカパカと開閉し出した。

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

「……っ!向こうの指揮官が対応してきた?」

 

黒HAROの警告にレナはサハクエルのレーダーを確認する。

既にステルスフィールドを抜け出し、捕捉できる範囲にまで接近している機体が1機のみ。

さらにデュナメスにも1機同系列の機体反応が向かって来ている。

監視衛生と向こうの艦のレーダーも使えない中でサハクエルとデュナメスの位置は特定されていた。

 

「ニール!エースパイロット機が1機ずつ分担して来てる!気を付けて、相手はこっちの位置を完全に把握してるよ……!」

『うおっ!?マジかよ、そいつはヤバイな。

―――了解!デュナメス、ニール・ディランディ。目標を狙い撃つ……っ!!』

「……っ!他のMS(モビルスーツ)部隊は?」

 

レナの指示でデュナメスが狙撃体勢に入り、レナもサハクエルを飛翔させる。

エースパイロットだけを分担して向かわせるこの戦術―――恐らくは他のMS(モビルスーツ)部隊をステルスフィールドを発生させるスローネ ドライに当てたのだと予測したレナだが、それは的中した。

スローネ ドライのパイロット、ネーナからの連絡に目を通して唇を噛む。

 

「エースパイロット級の対応に負われてる間、私達は狙撃を行えない……。ドライへの攻撃の妨害を防ぐ為のこのタイミング、私とニールの狙撃能力を見破った上での作戦……これが、『鉄の女』の判断力と決断力……っ!」

 

カティ・マネキンの対応に感嘆すると同時に表情を苦くするレナ。

即座に目の前の相手――【GNX-704T アヘッド】に意識を向ける。

機体の信号から考察して、向かってくるのはレイからの報告で聞いた要注意人物のライセンス持ち、4年前の好敵手であるネルシェン・グッドマンだ。

 

『やはり生きていたか……―――【翼持ち】』

 

『……また、戦いに身を投じてるんだね。貴女は』

 

姿を表したサハクエルを前に、ネルシェン専用のアヘッドが空中停止した。

そして、GNバスターソードを抜刀して剣先をサハクエルへと向ける。

 

『そうだ。私は、貴様と遭遇するのを待ち侘びていた。……4年だ。貴様を超える為に私が己の身を費やし、鍛え上げたのは。全ては私の強さを取り戻す為……いや、更なる『強さ』を手に入れるため』

『そうやって、また力に訴えて誰かの未来を奪うの?』

『奪うのではない。力こそが、未来を切り拓く唯一無二のものだ』

『……そう』

 

断言するネルシェンにレナは目を細める。

これ程の固定概念、簡単に覆せるものではない。

彼女の認識を変えるにはぶつかり合い、その末に分かり合う必要がある。

今のネルシェン・グッドマンは『強さ』への固執に身を宿す者。

そして、【翼持ち(レナ)】を強者と認め、乗り越えることで新たな自分へ進化しようとしている。

だが、そうなってしまえば彼女は二度と戻れない、強さのみに囚われた操り人形になってしまう。

 

『……貴女に何があったのかは分からないけど、違うよ。力が為せることは……連鎖を生むこと。未来を奪うことだけだよ』

『違うな。弱ければ奪われ、強ければ存在が許される。それがこの世の摂理だ』

 

否定するレナをさらに否定するネルシェン。

互いに譲らない理念が衝突する。

 

『御託はここまでだ。今ここで、私自身の復讐を果たさせてもらうぞ……っ!!』

『……私達に必要なのは強さじゃない。それを教える為に、貴女に倒される訳にはいかない』

 

肩部のスラスターを噴かせ、アヘッドが斬り掛る。

サハクエルはGNバスターソードの軌道を飛び越え、GNバスターライフルの銃口でアヘッドの背後を捉える。

レナによって引き金が引かれ、放たれた粒子ビームはネルシェンの反射能力によってGNバスターソードに防がれた。

 

『くっ……!』

『サハクエル、目標を淘汰するよ』

 

淡々と呟くレナと全装備を解放してフルバーストモードを晒すサハクエル。

その機体を回転しつつ距離を取ることで、間合いを稼ぐと同時に、至近距離での散弾で、ネルシェンのアヘッドは後方に退り切れずに粒子ビームの嵐が直撃する。

なんとか堪えたネルシェンはGNバスターソードを捨て、GNビームライフルを構えて反撃に出ようとするが、知覚で感じた包囲網に目を見開いた。

 

『なっ……!新装備か!?』

 

鳥類の羽根を連想させる小型のウイングビット。

その数、20基のビーム砲がアヘッドを四方八方から捉える。

そこから注ぎ込まれた粒子ビームをネルシェンは機体の体勢をコントロールして反射を研ぎ澄ませ続けた。

 

『チッ!数が多過ぎる……!だが、この程度では―――ッ!?』

 

4年間、人であることすら捨て、ひたすらに好敵手を超える為に磨いてきた。

その努力は4基のGNガンバレルII、その誘導兵器に内蔵されたGNマイクロミサイルの発射門の開門、サハクエルのフルバーストモードによる六つの銃口、その全てに捕捉され、踏みにじられる。

そして―――。

 

『……狙い撃ち』

『―――――――――――っ!?』

 

弾圧の悪夢がアヘッドを木っ端微塵に仕立て上げた。

爆炎の中からは、コクピットだけが重力に従って落ちてゆく。




展開変更に対するリクエスト、設定改変の強要は一応サイト内ルール違反なので気をつけてください。
個人的には前者が以前から感想欄で目立つ気がしたので忠告させていただきます。

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