息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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主人公の傲慢諸々ここが最高潮です。


共に生きてる

暗くて静かだ。

俺は艦内の自室で一人、何をする訳でもなく床を見つめていた。

 

「………」

 

脳内に過ぎるのはレナの言葉とサハクエルの姿。

話し合いだとか人と人とが分かり合える道だの言って、結局は力でねじ伏せてきたレナの考えがまるで読めない……。

 

「クソ……ッ」

 

目を瞑れば俺を見下ろすサハクエルの翠色の瞳が瞼の裏に映り、こべりついたそれは全くといっていいほど取れない。

ベーリング級海上空母への攻撃を行ったレナが駆るサハクエルに俺は淘汰された。

さらに共に掲げた理想、犠牲のない恒久和平をよりによってあのレナに否定された。

何故だ。

何故、こうなった?

分からない。

それが酷くもどかしくてイライラする。

 

「クソ……ッ!」

 

床に吐き捨てるように悪態をつき、拳に力が自然とこもる。

そんな時、艦内通信が届いた。

 

『デスペア大尉。至急、司令官室へ。先の作戦の報告をお願いします』

「……了解した。ご苦労だったな」

『はっ!』

 

伝令に敬礼で返して通信を切る。

……報告、か。

もう全て晒してしまおうか……なんてまだ冷静じゃないな。

少し頭を冷やしながら行くとしよう。

 

『デスペア』

「うおっ、びっくりした……」

 

突然通信が繋がったから驚いた。

なんだネルシェンか。

今しがた伝令を聞き終えたところだから油断してた。

それにしても珍しいな。

 

「どうした?出撃前と作戦後以外で接触してくるなんて初めてだな」

『……昨日の戦闘データを寄越せ。要件はそれだけだ』

「戦闘データ?」

 

モニター越しにネルシェンの顔を見遣る。

昨日行った戦闘といえばたった一つしか心当たりがない。

なにせ謹慎から解放されてすぐに作戦に投入されたからな。

 

「……まあ、別に構わないが。何に使うつもりだ?」

 

一応尋ねておく。

 

『試したいことがある』

「そうか」

 

目を伏せ、簡略的に答えるネルシェン。

詳しいことは言いたくないようだがそれでも答えたのは頼み事をする側だからだろう。

だが、やりたいことは大体わかる。

寧ろ俺も考えていたことだ。

部屋の端末に手をかけて操作した。

 

「ほら、送ったぞ」

『受け取った。……貴様も必要か』

「そうだな」

 

ほんと脳量子波使えないのか疑いたいくらい見透かすのが上手いな。

ネルシェンからアヘッドのメインカメラで撮った映像が送られる。

そこには俺の知らないサハクエルの武装が映っていた。

あいつ、他にも積んでたのかよ……。

それも誘導兵器か。

 

「すまん。助かる」

『奴を倒すのは私だ。そこだけは譲らん』

「あ、おい……!切りやがった……」

 

言い残すだけ残してネルシェンは一方的に通信を切断した。

勝手なやつだ。

それにしても……私が倒す、か。

心のどこかでそれを許している自分がいる。

いや、あいつはもう連邦の敵だ。

もはや恒久和平実現の妨害をする反乱分子、カタロンと同列にある。

あいつは俺の邪魔もした、それに明らかな敵意も存在する。

倒してもいい……とは何故か割り切れない。

それが俺の激情の大元だ。

 

「クソ……」

 

せっかく立ち上がったのに再度ベッドに腰を下ろす。

座った衝撃でギシリと響く音を耳に入れ、端末に映したサハクエルを見つめる。

すると、徐々に沸き上がる何かが俺の中で沸騰した。

 

「クソ……ッ」

 

自分自身でも、翼持ちに対して忌む視線を送っているのが分かる。

今の俺には翠色の瞳が悪魔の目に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です」

「そうか。下がれ」

「はっ!」

 

司令官室にて、マネキン大佐に報告を済ませる。

室内には俺と並ぶネルシェン、そしてマネキン大佐の隣に長椅子に腰掛けるリント少佐が嫌味な笑みを俺に向けていた。

 

「……何か?」

 

居心地が悪いのでいい方向に転ぶ訳がないが声を掛ける。

すると、リント少佐は眉を歪めた。

 

「いやぁ?これまで随分と好き勝手してきたライセンス持ちのデスペア大尉が……これまた随分な醜態を晒したものだと思いましてね」

「何?」

「やめろ、少佐」

 

マネキン大佐が宥めるもリント少佐は止める気がない。

肩を竦め、さらに挑発的な態度で俺を見る。

 

「これはもはや人類を超えた存在であるイノベイターという話も信じ難いものですねぇ。作戦の妨害に続きこの失態……連邦の盾となり矛となる我々アロウズの兵士ともあろう者が中々どうして……」

「………」

「おっと。怖いお顔だ。なんだ?上官に対して何か口答えでも?」

「やめろ!少佐。デスペア大尉も落ち着け!」

 

マネキン大佐の制止の声で溢れそうな感情を押し殺し、なんとか留まる。

だが、リント少佐は気にも止めない。

 

「モビルスーツ1機如きにこうも惨敗し、掻き乱されるとは……イノベイターもたかが知れますね」

 

鼻で笑い飛ばしたリント少佐の一言。

それが起因で俺の中の何かが切れた。

 

「……黙れ」

「はぁ?」

 

リント少佐はあくまで挑発げに耳を傾ける。

俺は彼との間合いを瞬間的に詰め、ナイフの刃先を少佐の首を充てた。

薄い肌に触れる切っ先は鮮血を一筋流させる。

リント少佐が目前に迫った俺に気付いたのは数秒してからだ。

 

「ひ、ひぃ!?」

「―――人間風情に下に見られるのは我慢ならないな」

 

怯える人間の目に金色の輝きが映る。

それでも容赦なく刃先を首に突きつけてやった。

身動きを取ろうにも抑え込んでいるから為す術はない。

首を動かそうとすればさらに刃は刺し込まれる。

たかが人間を封じるのはこんなにも簡単だ。

 

「デスペア大尉……っ!!少佐から離れろ!貴官は一体自分が今なにをしているのか分かっているのか!?」

「そ、そうだ!これは上官に対する―――」

「黙れ」

「………っ」

 

さらに刃先を動かし、鮮血が垂れる。

睨みを効かせると人間の男もついに力を抜き、俺を忌々しげに睨む。

……上官を完全に敵に回した。

だが、俺の立場が危うくなることはない。

寧ろこの人間の俺達に対する軽蔑は我らイノベイター総意で許容できないものだ。

俺達は人類の進化系、人類を超えた存在。

卑下にされるなんてありえないんだよ。

 

「グッドマン大尉!」

「……了解」

 

今まで傍観に徹していた女が五月蝿い女の指示で動き出す。

そして、俺を見遣った。

 

「近付けばもっと深く刺す」

「ならばそれよりも早く間合いを詰める」

 

警告に対して即答で淡々と返すネルシェン・グッドマン。

既にいつでも切迫できるように、瞳は獲物を狙う獣の如き俺を捉えている。

 

「……失礼する」

「ほう、やらないのか」

 

少佐を解放し、ナイフを仕舞うとネルシェンは挑発じみた視線を向けてくる。

だが、ここでこいつとやり合うのは不毛だ。

必要性を感じない。

 

「貴様がこうも態度に表したのは初めてだ。だからこそ、少しは期待したがやはり乗らないか」

「………」

 

ネルシェンの言葉を無視してオート式の扉に近付くと、俺に反応して扉が開く。

 

「デスペア大尉、どこへ行く?」

「大佐。奴がいようがいまいが次の戦術会議に支障はありません。放って置いてもいいでしょう」

「しかし……!」

「グッドマン大尉の言う通りですよ、マネキン大佐。彼はライセンサーですからねぇ。これまで通り、作戦なんて無視しますよ……ふんっ」

「私は大佐の指揮下に入ります。どうぞ、次のプランを―――』

 

一通り耳に入れてやった後、ネルシェンの言葉の途中で扉が閉まる。

それ以降の会話は聞き取れなくなった。

……アヘッドの様子でも見に行くか。

 

「チッ」

 

盛大に舌打ちを残してその場を去る。

俺のアヘッドは『翼持ち』に解体されて改修中だ。

今は修復が可能か整備班が検討しているだろう。

全く……ヴェーダに任せれば一瞬で解決するものを……。

骨が折れるな。

 

「アヘッドはどうだ?」

『ハッ。現在、切断部を確認しています』

「そうか」

 

格納庫に辿り着いて真っ先に近くにいた整備士を捕まえて尋ねたが、結果は予想通りだった。

クソ、じれったいな……。

 

「シミュレーションは動くな?」

『えぇ。それはもちろん』

「なら借りるぞ」

 

許可を得て四肢と顔面部のない俺のアヘッドに乗り込まさせてもらい、端末と接続してシミュレーションを起動した。

どうもむしゃくしゃして何かしてないと落ち着かないんだよ。

ここで発散しておきたい。

ま、どうせ後でやろうとしてたことでもある。

 

設定をアヘッドの標準武装にしてあとは状況を選択する。

5年前のガンダムのデータはほぼ軒並み揃ってるな……。

特にスローネ系列は随分と幅広く設定できる。

選択肢も細かい。

……が、それよりも目を引くものがあった。

 

「【GNR-01 GUNDAM SAHAKELL】……」

 

端末に保存されていた戦闘データの映像。

これには俺のアヘッドのメインカメラで撮ったものに、ネルシェンから貰ったもの、さらには【アルケーガンダム】から入手した映像データも含まれている。

このデータを元に用いれば『翼持ち』のシミュレーションをすることが可能になる。

 

「……武装さえ分かれば、俺は負けない」

 

そうだ、あの時は虚を突かれた上に4年前にはなかった新武装に戸惑ってやられたんだ。

戦闘になると分かっていて、武装を把握していれば技量は五分……いや、間合いさえ詰めれば俺が有利の筈だ。

とにかくあいつに完膚なきまでに淘汰されたこの苛立ちを晴らしたい。

 

「どんだけ誘導兵器積んでんだよ……」

 

愚痴を零しつつシステムにデータを入力してシミュレーションに新型の枠で【WING】を組み込む。

言うまでもないが『翼持ち』の意味を込めてだ。

操作して目の前に出現させると4年前からカラーディングを変えた『翼持ち』が姿を晒した。

青と白の塗装で翠色の瞳を俺に向ける。

 

「……ッ!レナ……!」

 

反射的に鋭い眼光を向けた。

こいつのせいで……俺達は多大な損害を受けて、戦力を失い、カタロンの軍事基地への追撃の絶好の機会を失った。

次に俺達が動くのは明日に来る海上空母艦に乗り換え、モビルスーツを一新してからだ。

その頃にはもうソレスタルビーイングが態勢を立て直しているだろう。

全て、こいつのせいで……っ!

 

「レナァァァーーーーーーーーーっ!!」

 

GNビームサーベルを抜刀してスラスターを噴かせる。

アヘッドの最大推進力を発揮してGNシールドを構えつつ接近した。

対する『翼持ち』のガンダムはGNバスターライフルを一丁こちらへ向ける。

 

「当たらねえ!」

 

放たれた赤黒い粒子ビームを避け、もう一丁から追撃される粒子ビームもGNシールドを横向きに投げてわざと当て、角度を変える。

これで間合いに入れる!

 

「貰った……!」

 

右肩にマウントされているGNビームサーベルも抜刀して振り上げる。

アヘッドと『翼持ち』のガンダムの間合いは一拍空く程のもの。

この距離なら恐らくアヘッドの腕を吹き飛ばそうとウィングバインダーか腰部からビーム砲を展開する筈だ。

それを切り落とせば近接で押し切れる!

 

『甘いよ』

 

「えっ?」

 

冷酷な一言が淡々と告げられる。

そうか、そういえば拾った声を元に自動音声も付けたな。

今思えば要らなかった―――そんなことより『翼持ち』のガンダムが武装を展開しない。

どういうことだ?このままじゃ腕を落としてコクピットを貫けば終わるが……。

最悪、後から展開されるビットで相打ちなら有り得る。

 

「なっ……」

 

だが、俺の予想は全て裏切られた。

『翼持ち』のガンダムは頭部に輝く銃口をアヘッドのメインカメラへ向ける。

 

『狙い撃ち』

 

「……っ!?」

 

またしても淡々と吐き出される冷たい吐息と共に『翼持ち』のガンダムの頭部からマシンキャノンの銃弾がアヘッドの頭部に撃ち込まれる。

断続的に破損していくメインカメラはすぐに暗転した。

 

「くっ……!」

 

しまった、視界を失った。

奴との対峙でそれが何を意味するのか俺は十二分に理解している。

こうなったら……っ!

 

「このまま押し切る!」

 

距離を取られる前に切り刻もうとGNビームサーベルを振るう。

だが、手応えのなさが一瞬で伝わった。

空を斬る軽みが背筋まで嫌な冷気を通していく。

 

「まさか―――!」

 

『フルバースト』

 

起動したサブカメラが見たこともないサハクエルの姿を目に焼き付けさせる。

それは、数えるのも嫌になる程展開された砲門、目で追うのも馬鹿らしくなる数のガンバレルとビットが全て俺を捉えていた。

そして―――。

 

『さようなら』

 

その一言でアヘッドは原型を崩され、木っ端微塵で空に消えた。

最後に確認できたのは三十を超える粒子ビームの閃光が一筋足りともコクピットを貫いていないことだけ。

 

「なっ……あっ……!?」

 

言葉が出ない。

なんだ、この化け物は!?

あんなもの撃たれたら小隊を三つは潰せるぞ!?

 

「だ、だが最大火力は分かった……今度こそ!」

 

そうだ。

危険なことは分かっていた。

その度数が上がっただけだ。

あんなもので為す術なくこちらの行動を止められては打つ手がなくなる。

もう二度と仲間を失わないためにもこいつを攻略しなければ守れない。

それに……犠牲のない恒久和平を実現させるために俺はもっと強くならなければならないんだ。

 

「だからこそ、お前を倒す!」

 

再度シミュレーションを起動して『翼持ち』のガンダムに仕掛けた。

今回はGNビームライフルを投げ、GNバルカンで奴の目前で爆発を起こした。

その隙にGNシールドも投擲し、GNビームサーベルを二刀構えて接近する。

 

だが、GNビームライフルでの爆破はウィングバインダーで防がれ、投擲したGNシールドはGNバスターライフルを二丁ドッキングさせたGNツインバスターライフルで破壊。

さらにウィングバインダーと腰部から展開した例のビーム砲で避けたにも関わらずこちらは破損し、その隙を利用して射出されたガンバレルとビットで対応に追われた。

結果、後からバスターライフルとビーム砲四門も加わってアヘッドは塵となる。

 

「つ、次こそは……!」

 

諦めずに所定の位置に戻して、今度は武装を増やして挑む。

それから4回。

……全て惨敗した。

 

「あぁ、クソ……っ」

 

さすがにこれだけ回数を積むと苛立ちを感じる。

なんなんだ、あの機動は。

距離を取られて勝てるわけがない。

必中狙撃を誘導兵器に追われながら対応するほど俺は器用じゃない!

というかあの弾幕にGNマイクロミサイルまで追加された時は本気で死を覚悟した。

イノベイターである俺が怯えるなんて……クソ!

 

「チッ」

 

やり返して気晴らしになるかと思ったが、GNバスターソードは圧倒的な火力で木っ端微塵にされる上に重武装(ヘビーウェポン)で挑んでも結局それが足枷になって誘爆で体勢を崩した。

とにかく手数が多過ぎる。

さらに恐ろしいのはこれで全武装とは限らないっていうことだ……。

ここまで戦った『翼持ち』のガンダムはあくまで過去3回程度の記録を元に設定されたものに過ぎない。

もしまだ隠された武装があるのなら……全く勝てるビジョンが見えない。

 

「はぁ……」

 

嘆息と共にシミュレーションを終える。

全周囲モニターが暗転し、景色が海上からいつもの格納庫に変わった。

すると、コクピット前にいる人影が目に入る。

 

「ソーマ……?」

『……っ。レイ?』

 

俺の声に反応したソーマが一拍遅れて顔を上げる。

軍服に身を包んでいるソーマはいつからか分からないがずっと待っていたようだ。

 

「すまない。気付かなかった」

「いや、私は大丈夫だ。それよりも……」

「あぁ……そういうことか」

 

心配そうに顔を覗き込んでくるソーマ。

そんな彼女を見遣って大体の事情を察した。

先程から周囲の視線が突き刺さるのを感じる。

つまり、リント少佐への行動が言い伝わったのだろう。

ソーマはそれを聞いてやって来た、と。

 

「別に大したことじゃない。誰に何を言われようと俺のやることは変わらない。ただ……少し気が立っていただけだ」

「そうか……。でも、レイは……大尉は少し、無理をしている」

「え?」

 

思わず反応する。

俺が無理を?

……心当たりがないな。

 

「無理なんてしてないさ」

「いえ、その……大尉は心のどこかで誰かを想ってる……その痛みが大尉を苦しめて……いる、気がする……。ごめんなさい、ただそれだけだ」

「……いや」

 

そういうことか。

どうやら俺はあいつに裏切られて随分と堪えてるらしい。

ソーマは脳量子波で悟ったんだろう。

 

「そうか。大体わかった。だが、もう解決したことだ。気にするな」

「え……あっ…」

 

レナは敵、それが結論だ。

ソーマから預かったタオルを返して格納庫を後にする。

戸惑いつつもソーマが俺を追い、俺は気にせず歩みを進めた。

 

「………」

「………」

 

暫く沈黙が続く。

俺はただ自室へ戻ろうと歩いているだけなのだが、ソーマもついてくるので随分と空気が重い。

……今は一緒に居たい気分じゃないんだけどな。

 

「大尉」

「……なんだ」

 

ソーマに声をかけられ、振り返る。

そこには5年前と比べて凛々しい表情を作るようになったソーマが、それでも俺より小さくて見上げていた。

 

「リント少佐との口論を聞いた」

「だから……どうした」

 

触れて欲しくない話題を出してきたので眉が少し揺れ、目を細める。

普段のソーマならそんなことはしない。

何か意味があるのだろうが俺は単純に苛つきを感じた。

まあ、聞くだけ聞いてやろう。

 

「なんだ」

「今日の貴官は何処かおかしい。いや、おかしいのは……再会してからずっとだ」

「なんだと?」

 

思わず顔を顰めてしまった。

俺は何処もおかしくはない。

確かに5年前とは違う。

今はあの時にはなかった理想がある。

だが、それも至って平和的なもので……誰もが望むもの。

それ以外はなんら変わらない。

 

「私の知らない間にデスペア大尉は変わってしまった」

 

だというのにソーマはそんなことを言う。

俺は、無意識のうちに眉間に力が入っていくのを感じる。

 

「貴方は他人を見下している。慕うべき仲間も……敵も……そして、私でさえも」

「なっ……!?」

 

俺が、ソーマを見下している……?

そんな……ことが…。

 

「そんなことはない!!」

「いえ、私にはわかる。脳量子波を操れる私なら、貴方の本心が……例え、それが無意識でも」

「……っ!」

 

何を言ってるんだ?

冗談を言ってる風ではない。

ソーマは至って真剣だ。

ならなぜそんな脈略のないことを告げだした?

心を読み取ろうとしても上手くいかない。

俺が取り乱してるからか。

それとも……。

 

「私は何もしていない。貴方は目を逸らしているだけ――」

「違う!」

 

俺に寄り添い、頬を触れようとしたソーマの手を弾く。

ソーマは驚愕し、目を瞠目させて俺を酷い表情で見つめる。

 

「俺は……っ、見下してなんかいない!俺は……俺達はイノベイターだ!!だから―――!」

「また、無理をしている……」

「―――っ!」

 

どれだけ狼狽しただろう。

目の前のソーマが恐ろしく怖い。

温かな手が俺の頬に触れ、その温もりに、彼女に全て委ねたくなるような不可思議な誘惑がある。

しかし、俺の思考はそれに対して必死に拒否反応を示している。

 

「俺…は………」

「レイは私に兵器でないことを教えてくれた。私が……人と変わらないことを。ならば、今度は私から言わせてもらう」

「なに、を……?」

 

嫌だ。

自分が自分でない感覚に襲われる。

これ以上は危険だ。

脳内でアラームが鳴り響いている。

誰かがここから逃げろと警告している。

だが、後退りしたところでソーマに手を握られた俺は……動けなくなる。

 

「レイも私も人と変わらない。己を卑下することも、何かを背負い込む必要もない。私達はこの世界を―――共に生きている」

「………っ!?」

「共に生きているからこそ、皆同じだ」

「おな……じ…?」

 

……違う。

違う、違う!違う違う違う違う!

俺達はイノベイター。

人類を超越した存在、選ばれた者だ……!

俺達こそが世界を変え、導くことができる。

だからこそ、この力で争いを無くす。

犠牲を生まずして理想を叶えるなんていう夢物語を語れる。

この力があるから……っ。

―――俺は、やれるんだ!!

 

「あ、あぁ……っ。俺、は……」

「レイ?」

 

歩き出そうとするが、足取りが酷く重い。

思わず壁に手を付き、ソーマが寄ってくる。

 

「レイ……」

「退け!!」

「……っ」

 

俺に触れようとするソーマを振り払って足を踏み出す。

思考が乱れる……っ。

なんだ、なんなんだこの感じは?

俺は何も間違っていない。

イノベイターだからこそ、力があるからこそ――。

 

……なのに、なんだ?

俺の中の何かが今の俺を否定している。

―――一体()()()()()()()!?

 

「俺は……俺は、イノベイターなんだ……っ」

「……レイ。まさか貴方も……」

 

視界が点滅する。

知らない記憶がフラッシュバックする。

映像が切り替わって上手く歩けない……っ。

 

 

クソ……。

また、あの……少女の涙か……。




諸事情により暫く投稿期間を空けさせて頂きます。

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