友軍が到着した。
思えば随分とペルシャ湾に留まっていたが、これでようやく動ける。
実行部隊は大破した母艦から友軍を乗せてきたベーリング級海上空母に移動し、艦内にはMSも積んでいたため、先の作戦で損害を受けた機体は改修する必要はなくなった。
俺達が元に乗っていた艦に積まれてそのままファクトリーに帰投するらしい。
やれやれ……ここまでやってまだブリーフィングがあるのか。
悠長にしてるとカタロンに逃げられるぞ。
「やはりここに居たか」
「ジニン」
海を眺めているとジニンがやってきた。
そういやこいつに会うのも久々だな。
「招集だ」
「やっとか……」
「随分とせっかちだな、今日のお前は」
「寧ろなぜ焦らない。俺達は一週間近く足止めを食らったんだぞ?」
「悪いが俺は現場にいなかったんでな」
チッ。
気楽な奴だ。
俺達がどれだけもどかしい思いをしたことか……。
ソレスタルビーイングが地上にいる今、宇宙の方は大層暇だろうよ。
いや、こっちの戦力が地上に偏ってる分カタロンは宇宙での活動が活発になる筈。
その対応に追われる……と考えるとお互い様か。
……まったく、いっそのことイノベイターで統括すればいいのに。
リボンズのやつはケチり過ぎだ。
早くブリングかリヴァイヴか誰でもいいから寄越せ。
「そろそろ行くぞ」
「あぁ」
ジニンと共に甲鈑を後にする。
ちょうどその時、ソーマがこっちに向かってきた。
当然俺達と目が合う。
「あっ……」
「………」
「ピーリス中尉。いや、昇進して大尉となったのだったな。遅れて祝辞を送らせてもらう」
「あ、いえ。感謝します。ジニン大尉」
ジニンの祝辞に対して返礼を返すソーマ。
そういやこいつら階級が一緒になったんだったな。
俺もだが。
「それで、その……」
「行くぞ。ブリーフィングに遅れる」
「あっ……」
一声だけ掛けて館内へと向かう。
過ぎった俺に振り向いたのか、すれ違い様になびく白髪が見えた。
だが、俺は気にせず歩みを進める。
「なんだ?あいつ」
「……」
二人の視線を背に受けつつ、振り返りはしない。
別に昨日のことでソーマを嫌悪したわけではない。
ただ……俺の中で整理がつかないだけだ。
指揮官であるマネキン大佐を筆頭にMS小隊隊員が一室に集められた。
どうやらまだカタロンは逃げ切っていないらしい。
4日間の遅れ、まだ間に合うか。
「監視衛星がソレスタルビーイングの所在を掴んだ。モビルスーツ隊には新たに戦術を―――」
「肩に動力のある2個付きのガンダムは私が相見える。干渉、手助け、一切無用!」
「何だと?」
ブリーフィング中、隅で傍観に徹していたブシドーが主張する。
随分と勝手な発言だが、こいつにはライセンスがあるからな。
一応は筋が通っている。
マネキン大佐は否定的なようだが。
「良いではありませんか、大佐。ライセンスを持つ噂のミスター・ブシドー、その実力……拝見したいものです」
「ご期待にはお答えしよう。然らば」
立ち上がり、発言したジニンの挑発にブシドーは目を瞑って許容し、退室する。
……中々面白いじゃないか。
ジニンのおかげで追求を逃れたブシドーに対して目を細めるマネキン大佐は、顎に手を当てて何やら思考している。
あの表情はこの状況を利用しようとしている顔か。
果たして何を持ち出してくれるのやら……。
「あの、デスペア大尉―――」
「ピーリス大尉、デスペア大尉。貴官らに頼みたいことがある。少しいいか?」
ソーマが俺の裾を掴んだと同時に大佐が俺達を見下ろす。
ほう、あれだけの口論を繰り広げてまだ俺を起用するか。
面白い。
「はっ、なんでしょう?」
「……」
少し口角を上げて姿勢を整える。
同時にソーマの手が力なく離れたのも感じた。
「ミスター・ブシドー。そして、グッドマン大尉を含め貴官ら特別小隊にはガンダムの各個撃破を担当してもらいたい」
「各個撃破……ですか?」
「つまり一人につきガンダムを1機仕留めろと、それが今回のノルマということですか」
「いや、モビルスーツ2機の支援は付ける。ミスター・ブシドーは不要なようだがな」
なるほど。
特別小隊を分担し、それぞれをリーダーとして他二人と小隊を組む、と。
確かに俺もネルシェンもガンダムを抑えつける力はある。
今までは4機による連携に苦戦したが、敵を分担すればそれも解決する。
さらに念の為のサポートがあるなら充分だろう。
まあミスター・ブシドーの分の人員を削減してもガンダムを実質4小隊で抑えることができる。
そうすれば必然的に二個小隊分の戦力が残る筈だ。
その分を―――。
「残りの二個小隊で敵艦を叩く。その指揮はジニン大尉、貴官に任せるぞ」
「了解しました。お任せを」
ジニンが即答する。
なんとも潔いな。
「貴官らも良いか?」
「構いませんよ」
「はっ!」
ソーマは敬礼し、俺も承諾する。
ブシドーは命じなくても勝手にダブルオーの相手をするだろう。
ここが……腕の見せ所だ。
「作戦を開始する!」
マネキン大佐のその一言でブリーフィングは終了した。
戦いが始まる。
各自、パイロットスーツに着替え、格納庫にて
アヘッドに乗り込んだ俺もすぐさまシステム全てに目を通した。
『太陽炉、マッチングクリア。システムオールグリーン』
『レイ』
『……なんだ』
作業を終え、端末から手を離すと共にモニターに人の顔が表示される。
特徴の腰まである長く艶のある白髪はパイロットスーツに呑まれ、ヘルメットのバイザーからは分けた前髪から垣間見える白い肌と小さく収まる輪郭、綺麗な橙色の瞳が映っている。
特別小隊の隊長、ソーマ・ピーリスだ。
俺の素っ気ない態度に彼女は困ったような表情を浮かべる。
『いえ、その……』
『何もないなら切るぞ』
『待って!』
一押しだけで繋がりを断とうとしていた指を止める。
目線を上げるといつになく不安げなソーマが俺の目を捉えていた。
『約束を……』
『はぁ?』
『いえ……やっぱりなんでもない』
なんだそれ。
言いたいことは大体わかる。
脳量子波でな。
だが、毎度同じものを交わす意味もないだろうに……。
ハッキリ言って時間の無駄だ。
『ふん』
通信を切って、全周囲モニターを起動する。
すると、格納庫の開け放たれたハッチから青い空が見えた。
操縦舵を強く握る。
各個撃破。
特別小隊の分担で例えガンダムを墜とせなくとも、二個小隊もあれば敵艦を墜とせる。
奴らが監視衛生に姿を晒したのはまだカタロンが逃げ切っていないからだ。
ならば、早々に後退はしない筈。
叩くなら―――この作戦が好機だ。
『アヘッド、レイ・デスペア!出る……!』
肩のスラスターを噴かせ、空に上がる。
周囲を見渡すと既にモビルスーツ部隊は陣形を組んでいた。
俺とネルシェン、ソーマが率いる6機のジンクスIIIに、2機のジンクスIIIを率いてるジニンらの小隊が二つ。
さらにブシドーのアヘッド・サキガケ。
これだけの戦力とマネキン大佐の戦術があれば、勝てる。
『監視衛生の捉えた敵艦の座標まで残り250。各機武装展開、戦闘態勢!』
ジニンの指示が届く。
アヘッドはGNビームライフルとGNシールドを構え、ジンクスIIIはGNランスを両手で持つ。
敵艦であるプトレマイオスの隠れる山脈まで数十分もすれば辿り着く距離だ。
奴らがモビルスーツを展開することを考えれば戦闘は海上となるだろう――――前方からの粒子反応……っ!!
これは……!
『狙撃か!』
『ぐああっ!?』
『なっ……』
ジンクスIIIが1機墜とされた!
なんだこの射程は!?
『【
『……っ』
ネルシェンの忌々しげな呟きを拾う。
トランザム……そうか、ケルディムの射程をトランザムで伸ばしているいのか。
ならばやりようはある!
『各機散開せよ!制限時間まで迂闊に近付くな』
マネキン大佐からの伝達を受けたジニンが指示を叫ぶ。
その指示を受けて俺達は小隊ごとに散らばり、陸地からさらに距離を取った。
俺の後ろにもジンクスIIIが付いてくる。
だが、既に一個小隊が潰された。
『クソ……!』
『アヘッドの射程では届かん。制限時間を待つ他はない』
『わかってる!』
頭で理解はしていても焦るのは仕方ない。
どう考えてもこれは時間稼ぎだ。
現に迂闊に近づけない今、奴らの戦略は成功している。
その事実が酷く歯痒いんだよ……!
『あと大体何秒だ!?』
『……およそ30secondだ。安心しろ、今作戦の目的はカタロンの追撃から敵母艦の轟沈に変更された』
『それもわかってる!』
確かにソレスタルビーイングを先に破滅に追い込むとはいった。
だが、恒久和平の実現には必ずカタロンの解体が必要だ。
今は後者に最も都合のいい状況……ソレスタルビーイングに標的を変えて、「はい、墜とせませんでした」では話にならないんだよ。
『砲撃が止んだ!』
『全機、突撃せよ……!!』
ケルディムのトランザムが終了したのか、粒子反応が消える。
被害状況は……プトレマイオスに強襲する筈だった二個小隊のうち一個小隊とネルシェンの部隊が2機やられたか。
ということはネルシェンは単独でガンダムを相手にすることになる。
まあ、あいつの腕なら心配はないだろう。
『ガンダム2機、捕捉した。これより各小隊に別れ、ガンダムを各個撃破する!ドライヴ2つのガンダムは任せますよ、ミスター・ブシドー」
『望むところだと言わせてもらおう』
ジニンに対して挑戦的に返答するブシドー。
しかし、おかしいな。
ケルディムを除いて他に3機のガンダムが存在する。
だが、ジニンの発言の通りレーダーに捉えられる機影は2つのみだ。
戦闘開始の導入といい……これはスメラギ・李・ノリエガの戦術プランか。
となると残りの1機は……。
『我が隊の目標は羽付きだ!』
『了解です、中尉』
『遂にこの時が来たよ。ママ、パパ……』
ソーマの部隊が陣形から外れる。
レーダーに映る2機のうち1機に確かに頭角を露わにした先行する機体がいる。
どうやらこれが【アリオスガンダム】らしい。
超兵の為せる技でもある、か……。
ちなみにあいつの部隊にはアンドレイ少尉とルイス・ハレヴィ准尉が所属している。
『ガンダムを視認。全機、攻撃開始!!』
ジニンの合図と共に出現した2機のガンダム。
アリオスの他は【ダブルオーガンダム】か。
……待て、セラヴィーはどこだ?
『―――っ!海中から粒子反応!』
『ひっ!?うわああああーーーっ!?』
『デスペア大―――っ!!』
辛うじて俺は回避したが、海中から突如飛び出した粒子ビーム砲撃に俺に付いていたジンクスIIIが2機溶かされ、手脚の一部を残して蒸発した。
コクピットも消え、味方機の反応も消失する。
間違いなく絶命だ。
あの野郎……っ!!
『避けた!?』
『てめぇ!』
海中から【セラヴィーガンダム】が姿を現す。
何度俺の仲間を奪う気だ。
何度俺に恥をかかせる気だ。
また守ってやれなかった……!
重力に従うジンクスIIIの残骸を目に歯を食いしばり、セラヴィーを睨む。
『許さねえ!!』
『この感覚、またしても……!』
GNビームライフルから噴射された粒子ビームがGNフィールドに阻まれる。
フィールドを解いたセラヴィーはGNバズーカIIで俺のアヘッドを狙った。
当然、俺は飛来する粒子ビームを避ける。
『お前を墜とす!!』
『目標を破壊する!!』
互いに抜刀したGNビームサーベルを手に俺達は衝突した。
味方機との通信間で他の戦闘音を拾う。
ソーマは標的通りアリオスとの交戦に開始したようだ。
『この感覚!』
『被験体E-57!』
『まさか!う……っ、マリーなのか!?』
ブシドーはダブルオーに接近する。
飛来する粒子ビームを掻い潜り、激しく火花を散らしてぶつかり合った。
『あの新型は……!』
『射撃も上手くなった。それでこそだ!少年っ!!』
『くっ……!』
衝突の余波で互いに一瞬だけ退き、その隙でブシドーは己の身を酷使してダブルオーに蹴り込む。
そのままブシドーの優勢に持ち込んだ。
そして、ネルシェンは何故かハレヴィ准尉とアンドレイ少尉を連れてジニンの小隊の後に続くように敵母艦へ進行している。
『グッドマン大尉、ハレヴィ准尉が敵母艦に!そちらへ向かいます!』
『貴様がサポートしろ。私は山脈の影に隠れた機体を叩く』
『了解です!』
なるほど。
どうやらハレヴィ准尉の暴走に付き合わされているらしい。
ネルシェンは上手く流しているが、押し付けられるのが面倒なだけだ。
声に鬱陶しい感情が混じっている。
陸地に上陸すると、ネルシェンはすぐさま降下した。
『敵機を確認した。私が殺る』
「クソ!ハロ、敵が来る!」
『GN粒子チャージチュウ。GN粒子チャージチュウ』
「早くしろ―――ぐっ!」
ネルシェンの射撃を躱し、即座にGNビームピストルIIのブレード部分を展開し、GNバスターソードを振り下ろすネルシェンに対応する。
だが、その物量に堪えるので手一杯だ。
『増援はない。ここで貴様を狩らせてもらうぞ』
『ちくしょう……!』
火花を間にアヘッドとケルディムが競り合いを行う。
だが、肩のスラスターの推進力もあってアヘッドの優勢は誰が見ても明らかだ。
ケルディムの腹部にネルシェン機が膝部を打ち込む。
『ぐあっ!?』
『はあああ……っ!』
パイロットのライル・ディランディが怯んだ隙にネルシェンはさらにケルディムを蹴り飛ばした。
ケルディムは山肌に叩きつけられる。
『がは……っ!』
『落ちろ!』
『しまっ―――うああああああーーっ!?』
追撃とばかりにネルシェンはGNビームライフルで的確に照準を合わせ、ケルディムに粒子ビームを浴びせる。
引き金を引く手は止められる気配はない。
ケルディムはただ両腕で精一杯コクピットを守り続け、装甲は散弾で削られていく。
ふっ……まずは1機落ちたか。
『ケルディムが……っ!』
『お前の相手は俺だ!』
『ぐあ……っ!?』
仲間に意識を割いたティエリア・アーデの隙を突き、競り合いの最中、セラヴィーに蹴り込む。
セラヴィーは体勢を崩しつつもGNバズーカIIを2艇連結させ、ダブルバズーカの砲口で俺のアヘッドを捉えてきた。
『ハイパーバースト!!』
『当たるかよ!』
さらにGNキャノンII4門とも連結したダブルバズーカの砲口に、小型のGNフィールドによって粒子が収束され、放たれた特大の球状に圧縮された粒子ビームを俺は双眼を金色に煌めかせて回避する。
これにはティエリア・アーデも目を見開いた。
『外した!?馬鹿な……!』
『貰った!』
大掛かりなモーションを終えたセラヴィーにまたしても隙が生まれた。
俺はそれを見逃すほど甘くはない!
GNビームサーベルを手に一気に距離を詰め、セラヴィーの上から振り翳し、緋色の弧を目前で描く。
アヘッドのGNビームサーベルは丁寧にセラヴィーのダブルバズーカを切断した。
『しまった!ぐあ……っ!?』
『もう一撃!!』
ダブルバズーカが爆散し、それにより生じた爆風でセラヴィーは吹き飛び、体勢を崩す。
海上にて、奴は格好の餌となった。
GNビームライフルで照準を合わせ、引き金を引く。
『くっ……!』
追撃の粒子ビームはセラヴィーが咄嗟に展開したGNフィールドによって防がれた。
そのままGNキャノンIIの砲門が俺を狙う。
『チッ……!』
4門から放たれた粒子ビームは正確に回避ルートを塞ぎ、コクピットも捉えていた。
こうなればGNシールドで防ぐ手立てしかなくなる。
仕方なく、守りに入った。
さすがはパイロットがイノベイターなだけはある。
やるな、ティエリア・アーデ……!
『焦り過ぎたか!』
『まだだ……!まだやられる訳にはいかない!!』
手持ち無沙汰だったセラヴィーがGNビームサーベルを両手に生成する。
瞬間、奴の背中の巨大なフェイスが展開され、機体が赤く輝いた。
『トランザム!!』
『なっ―――』
赤い光を全身に宿すセラヴィー。
背部と両脚部に煌めく4門の砲門、GNキャノンIIから粒子ビームが速射され、俺はアヘッドで咄嗟に躱す。
だが、その対応に追われている間に詰めてきたセラヴィーが目前にまで迫り、GNビームサーベルを振るってきた。
それもさっきまでGNキャノンIIだった砲門から新たに4つの隠し腕が出現し、その手にもそれぞれ1本ずつ握られていることから、計6本。
六閃の斬撃が俺に襲いかかる。
『はあああーーーっ!!』
『………っ!!』
思わず左肩のスラスターだけを噴かせて最後の接近を前に宙を転がるように回避する。
クソ、左肩のスラスターを斬られた……!
機体から煙が巻き上がる。
『逃がさない!』
『トランザムか。厄介な……!』
後退する俺のアヘッドをしつこくセラヴィーは追う。
6本の刃は高速で様々な弧を描き、空を赤く彩っていく。
俺が下がってはセラヴィーが迫って刃を振るい、それを避けてはまたセラヴィーが向かってくる繰り返し。
だが、徐々に圧されている……!
今はまだ回避が間に合っているが、もう持たない!
『そこだ!』
『ぐっ……!』
遂に海面に触れるか否かに追いやられ、振り下ろされた刃はGNシールドで防ぐが、当然、シールドは両断されて海に落ちる。
逃げ場のない俺はセラヴィーの攻撃に対する対応の手立てを失い始めた。
『くそ……!』
『クァッドキャノン!』
セラヴィーの前方に小型GNフィールドが展開され、粒子が圧縮される。
そして、数秒の合間もなく収束されたGNキャノンII4門の粒子ビームが放たれ、俺の構えたGNビームライフルは破壊された。
さらに振るわれたGNビームサーベルをこちらも抜刀して衝突させるが、それすらも脚部から伸びるGNビームサーベルを蹴り上げるが如く俺のアヘッドの右腕を切断し、ビームサーベルごと海中へと沈んだ。
これで俺に残された装備は完全に尽きたことになる。
『ここで君との因縁も終わらせる……!!』
『―――――っ!!』
背には海面、目前には赤い輝きを放つセラヴィー。
迫り来るGNビームサーベルを防ぐことはできない。
そんな俺にティエリア・アーデは無慈悲にサーベルを振るった。
脳内に一筋の閃光が走る。
脳量子派が彼の危機を察知した。
戦闘中なのは理解している。
けれど……あの人は私の大切な人だから、つい目の前の羽付きのガンダムから目線を外し、少し離れた所でデカブツのガンダムと交戦する彼のアヘッドを見遣った。
―――その瞬間、私が目に焼き付けたのは彼に迫る刃が彼の機体を八つ裂きにしようとする姿。
すぐに私の脳内のアラームは鳴り響いた。
『ダメ!』
涙が滲むのを感じる。
私のアヘッドは既に目前の敵を放棄して彼の機体へと向いていた。
羽付きに突き刺したビームサーベルをそのままに意識は彼の元へと走る。
『レイ……!』
早く彼の元に駆けつけないと。
彼を助けないと。
また失う。
また……私の前から消えてしまう。
そんなのは嫌だ。
私は、彼が好きだ。
レイが好きだ。
だから、彼を失いたくない。
ずっと一緒にいたい。
だから―――!
『嫌……!やめて、やめて……っ!!』
私からもう彼を奪わないで!
やっと気持ちが通じ会えたの!
ようやくあの人の傍に寄り添えるようになったのに……!
だから、殺さないで。
『ぐああっ!マ、マリー!!』
『……っ!?』
羽付きから離れてレイの元へ、彼を助けにいこうとしたが羽付きのガンダムが私のアヘッドの背部に手を回し、ホールドする。
くっ……絡まって解けない!
『離せ!私は……私は………っ!!』
『もう離さない!マリー!!』
『こいつ……!』
羽付きのガンダムに突き刺さった私のGNビームサーベルがさらに羽付きにダメージを与えて、羽付きが損傷する。
羽付きは煙を上げ、滞空能力を失った。
奴にホールドされた私のアヘッドも当然―――高度を失う。
『うう……っ!』
『ぐぅ……!』
激しいコクピットの揺れを感じつつ、機体が孤島に向かって落ちていくのを確認する。
このままでは彼と……レイと離れてしまう……っ!
『そんな……っ!』
激震の中で私は彼のアヘッドに視線を走らせる。
視界が揺れて彼の機体とデカブツとの交戦がどうなっているのか分からない。
でも、私には直感で察することが出来る。
あのままじゃレイは―――。
『レイ……。待っ、て…レイ……っ!!』
舵から手を離し、私は彼に手を伸ばす。
数秒後、私の手は彼に届かず、地上に機体が衝突した衝撃で私は気を失った。