息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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イノベイターの使命(前)

護衛を務め終えた俺とネルシェンはネルシェンの新型モビルスーツを乗せた飛行艇と共に元ユニオンの軍事用ファクトリーの格納庫にガルムガンダムとアヘッドを収容した。

そして、今は格納庫に隣接する一室にて機体を見下ろす位置にいる。

 

「さて、と。僕が新型機の開発やらで忙しいのを承知で頼み事をしてきたということでいいかな?」

「引き受けたのは貴方だ」

「ははは……。それを言われると痛いね」

 

苦笑いしつつも端末を起動して作業に取り掛かるカタギリ技術大尉を他所に俺はガルムガンダムに目を向けた。

世論に対するガンダムの印象は最悪だ。

その中でアロウズにその存在を置くことは避けたい。

だから、まずはフェイスカバーを用意しなければならないが、それだけでわざわざこんな所に足を運んだりはしない。

 

俺が望むのは―――『答え』を見つけた時に必要になる力だ。

その為に『ヴェーダ』からガラッゾとガデッサのデータを盗んできた。

データの入ったメモリをカタギリ技術大尉の前にかざす。

 

「これを参考に汎用機にしてもらいたい」

「汎用機?つまりどんな状況にも対応出来る機体が欲しい……ということかい?」

「あぁ」

 

カタギリ技術大尉の返答に頷く。

俺が求めるのはガラッゾのように鋭く、ガルムガンダムのようにバランス良く、ガデッサのように高火力を持ったモビルスーツだ。

果たしてそれが実現するのか分からないが、俺はカタギリ技術大尉が実現させるだけの能力を持っていると睨んでいる。

俺の要望を聞き受けたカタギリ技術大尉は次に奥で壁に背を預けて腕を組む、いつものスタイルのネルシェンに目を向けた。

 

「なるほど……。大体理解したよ。ところで君も彼と同じかな?」

「そうだ。私はあの機体の出力向上を求める」

 

事前の交渉もなしにここまで来たネルシェンは遠慮なく淡々と要望を述べる。

結構無礼だな、こいつ……。

俺は苦労して改装を受託してもらったってのに。

まあそんなことはどうでもいい。

ネルシェンの要望も聞いたカタギリ技術大尉は片手間にネルシェンの新型モビルスーツのデータを開き、目を通す。

すると、すぐに目を見開いた。

 

「え、えっと本当にいいのかい?現状でもアヘッドの3倍は出力があるよ」

「お前……やっぱりハッタリだったのか」

「ハッタリではない、これからそうなる。構わん。10倍に上げろ」

「じゅ、10倍!?いくらなんでもそれは無茶だ!」

 

10倍という数字にカタギリ技術大尉は思わず立ち上がった。

正直、俺も絶句した。

アヘッドの3倍の推力を持つモビルスーツなんてツインドライヴでもない限りはコクピットへの負担が尋常じゃない。

それが10倍となれば……。

 

「駄目だ。とても容認できない。パイロットが、君が死ぬ可能性がある」

「構わん」

「冗談で言ってるわけじゃない!僕は本気で――!」

 

反対を押し切ろうとしたカタギリ技術大尉だが、言葉を詰まらせて黙ってしまった。

当然だ。

それ程までにネルシェンが一寸の迷いのない力の込もった瞳をしているからだ。

俺もここまでの覚悟をねじ伏せることはできない。

 

「……分かった。だけど、責任は君自身に取ってもらうよ」

「端からそのつもりだ。10倍でなければあの機体に乗る意味はない」

 

断言するネルシェンは瞼を閉じてそれ以降の意見を一切聞き入れない態度を取った。

これにはカタギリ技術大尉の呆れて溜息をつく。

 

「なんだか彼がもう一人増えた気分だよ……。それで、君の方の期限はいつまでに?」

「悪いが一週間で頼む」

「……もう一人増えた」

 

何やら頭を抱えてしまった。

まあ酷だとは思うが俺も早急に機体が欲しい。

仕方のないことなんだ。

その代わりは報酬は弾ませてある。

と、俺とネルシェンの両方の要望を言い揃ったところでもう一人の来客が到着し、自動(オート)式の扉がスライドした。

現れたのは仮面で顔を覆い隠し、改造したアロウズの制服に身を包むミスター・ブシドーだ。

 

「……新型モビルスーツの開発をしていると思ったが」

「グラ―――いや、今はミスター・ブシドーだったね」

 

突然の来客にも関わらずカタギリ技術大尉は特に嫌な素振りを見せず、寧ろ友好的な笑みを浮かべてブシドーの対応をする。

本名を呼びそうで言い直したところを見るに二人の間柄は親しい。

勿論ブシドーのことを調べた時点でビリー・カタギリの名は出てきているから俺は二人の仲を知っている。

だからこそ、ここに来れたんだ。

 

「勝手にそう呼ぶ。迷惑千万だな」

「気に入ってるのかと思ったよ」

 

ブシドーの雰囲気もいつもとは違う。

時々俺達に視線を向けるが特に反応を示すつもりはないらしい。

カタギリ技術大尉もそんなブシドーに合わせて気さくに返答している。

俺とネルシェンは空気を読んで黙りだ。

というかブシドーって自称じゃなかったのか……。

 

「ところで、今日は何の用だい?見ての通り今は手が回らない状況なんだけど」

「貴官の開発主任就任の祝福を」

「それはそれは」

「それと、試作段階のあの機体を私色に染め上げて欲しい」

「えっ?」

 

ブシドーが見遣る先にある佇む黒を基調とし、赤のラインの入った新型のモビルスーツ。

アヘッドに似たフォルムをしているが未だ開発中の機体だ。

 

「……君もか、やれやれ。どうやらそっちがここに来た本命のようだね。要望はあるかい?」

「最高のスピードと、最強の剣を所望する」

 

もう既に答えは出ているように、ブシドーは即答する。

一瞬、呆気に取られたビリー・カタギリ技術大尉もすぐ様承諾した。

 

「合点承知。こうなったらこの仕事、全部完璧にこなしてみせるよ。誰にも譲る気はないね」

「む?私以外にも先客がいたか」

 

ブシドーがやっとこっちに興味を示す。

まあ他に対象となる奴はこの場にはいないから必然だな。

 

「あぁ。俺達も彼に新型の依頼をしている」

「……言っておくが、先着だ。貴様は最後だな」

「なんとっ!?」

「こらこら、喧嘩しない。どうせみんな期限が短いと見た。なら片っ端から片付けるよ!」

 

ネルシェンとブシドーを宥めたカタギリ技術大尉はやる気に満ちている。

何処か楽しそうだ。

クリエイターや技術屋は忙しい方が時に充実するというのは本当らしいな。

まあそれはそれとして少しやり過ぎたかもしれないとは思っているが。

 

流石に一週間は酷だったか……でも撤回するにできない空気になってしまった。

仕方ない。

それよりも笑みを消し、真剣な表情になったカタギリ技術大尉の方が気になる。

その様子に気付いたネルシェンとブシドーも彼に注目した。

 

「その代わり、確実に仕留めて欲しい。ソレスタルビーイングを」

「無論だ。私はその為だけに生きている」

「……言われるまでもない」

 

―――なんだ、この憎悪の感情は。

俺の知らない恨みがカタギリ技術大尉から漏れている。

それを気にすることもなくブシドーとネルシェンは承諾した。

何故こうも憎しみ合うのか……。

俺も以前は5年前に武力介入をした奴らが許せなかったが今はただねじ伏せればいいとは思えない。

だからこそ、レナの『分かり合うこと』は正しいのかもしれない。

だが、何とどう分かり合えばいいのか俺にはまだ分からない―――。

 

 

 

 

 

 

ガルムガンダムはカタギリ技術大尉に任せて久方ぶりにイノベイターの本拠に戻ってきた。

もちろん用はある。

先の作戦以降、姿を眩ませたプトレマイオス2は恐らく海中を潜航して身を隠している。

 

カタギリ司令らによってその大体の潜航ルートを探るのにも、その報告がマネキン大佐やリント少佐に届き、作戦プランを錬るまでもそれなりに時間を要する。

その間にリボンズは白黒つけたいんだろう。

ソーマがいるプトレマイオス2を墜とせるのか、どうかを。

 

「この先でリボンズが待ってるよ」

「………」

 

いつものテラスの扉付近で待機していたリジェネを無視して入室する。

見慣れた赤い長椅子、半螺旋で上階へ繋がる階段、窓から見える広大な景色。

その中でリボンズはやはり長椅子に腰掛けて俺に見向きもしなかった。

 

「遅かったね」

「俺も暇じゃない」

 

何度目か分からないやり取りをしてようやくこちらへ視線を向けるリボンズ。

俺もわざわざ目の前まで行って向かい合った。

それを確認したリボンズは一瞬ほくそ笑み、足と手を組んで目を伏せる。

 

「そういえば、ソーマ・ピーリスの件は本当に残念だったよ」

「思ってもないことを言うんじゃない」

「本心さ。彼女はアロウズに……いや、恒久和平に貢献してくれる良い兵士だと思っていたんだけどね」

「それで?そんなことを言うためにわざわざ呼び戻したのか?」

「いや。そろそろ君の真意を聞きたくてね、忙しい所申し訳ないけど少しだけ君の時間を僕にくれないかな」

 

また回りくどい言い方を……。

こいつと話そうとするといつも本題に入るまでの導入が長い。

ここは素直に言ってしまおう。

じゃないと日が暮れる。

 

「要件は大体分かってる。手短に頼む」

「随分と急いでるね。分かったよ、手短に行こう」

 

まあ別に急いでる訳ではないがリボンズは承諾してくれた。

ここにあまり長居したくないとは言わないでおこう。

 

「単刀直入言うと僕は君を疑っている」

「……俺を仲間として信用出来ないということか」

「少なくとも仲間であるというのなら証明して欲しいと思っているよ」

 

証明か。

難しいな。

相手が何を求めてるのか見定めなければならない。

だが、今の俺にそんな余裕があるだろうか……。

 

「安心していい。ちゃんと僕から提案があるからね」

 

リボンズが屈託のない微笑みを向けてくる。

嫌な予感がする―――そう考えた直後、リボンズの表情から笑みは落ちた。

金色の瞳が俺の心を覗く。

 

「ソレスタルビーイングの壊滅」

「………っ!」

 

予想していたものがリボンズの口から零れた。

その瞳は酷く冷徹で、ただ見つめ合っているだけで全てを見透かされる。

リボンズは見つけた。

動揺の原因を。

俺の心の弱さを。

 

「出来ないかい?君に、彼等を討つことが。ソーマ・ピーリスを討つことが」

「そ、それは……っ」

 

息が詰まる。

来るとは分かっていた。

頭では理解していたが、実際に引き金に手を掛けさせられると震えが止まらなくなる。

イノベイターである限り、計画遂行の為に必要なことをしなければならない。

それが間違っているとしても代わりの答えを見つけていない俺はどうすることもできない。

 

ただ一つ分かるのはここで肯定しなければ俺は……イノベイターではなくなるということだけ。

それは死ぬことと何が違うんだ?

俺は一体何として生きていけばいい?

……結局、リボンズの問いに対してただ立ち竦むことしかできなかった。

 

「答えは急がないよ。その代わり、君が証明するまでは僕らは君に一切の手助けもしない。悩むのは勝手だけれどあまりに遅過ぎると先に僕が計画を完遂するかもしれない。そのことを……覚えておくといい」

 

立ち上がったリボンズはすれ違い様にそれだけ言い残してこの場を後にした。

取り残されたのは俺一人。

リジェネもどこかへ消えてしまった。

広い空間を静寂が支配し、その中で俺はただ床を見つめたまま決めかねている。

 

「俺は……」

 

どうすればいいのか。

それは、誰も教えてはくれない。

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