息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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イノベイドの可能性

長椅子に腰掛けた自らを上位種と謳うイノベイターが一人、同種のリジェネ・レジェッタの報告に溜息を漏らした。

 

「やれやれ、困ったものだね」

 

瞳に輝きを宿らせたリボンズ。

その先には戦場を掻き回して姿を消した黒いモビルスーツの姿があった。

リボンズの反応に手前のソファーに腰を下ろしたリジェネもほくそ笑む。

 

「ホーマー・カタギリからも苦情が来ているよ。リボンズ」

「分かっているさ。それにしても考えたものだね。アロウズでのイノベイターの地位をわざと落としていくとは……」

 

リボンズが瞼を伏せて肩を落とす。

今現在、戦場での有用性を訴えている彼らにとってレイ・デスペアの起こした行動の影響は無視できないものだった。

計画的に事を進めていたにも関わらず乱された。

これには彼らイノベイターも打撃を受けたと言わざる負えないだろう。

 

「それでどうするんだい?」

「そうだね。事前に忠告はしたんだ。それ相応の対応をさせてもらうとしようかな」

「へぇ。それは楽しみだ」

 

リボンズの返答に表面は笑みを貼り付けるリジェネ。

口では簡単に片付けたものの実際はそう簡単に進む事ではないことを知っている故の嘲笑的な意味を込めてだ。

そんな隠しきれていないリジェネの本心も、輝く瞳の奥で把握しているリボンズは表面を取り繕いつつも事実を認めることが出来ず、脳裏で瞑想する。

すると、奇しくも名案ではないが背後から近付く者を確認することが出来た。

当然、イノベイドだ。

 

「助けてやろうか?リボンズ」

「君は……!」

「レン・デスペア。珍しいね、君の方から接触してくるなんて」

 

リジェネすら驚愕を隠せず目を見開く人物、レンの登場にリボンズは視線だけを寄越して対応する。

彼の言葉通りレンが必要以上に絡んでくることはほぼ無い。

裏を返せば今は必要があって現れたということになる。

 

「随分余裕な面してるけど本当は相当やばい状況なんだろ」

「……どうかな」

「別に隠さなくていいって。よっ、と」

 

長椅子を飛び越えて見向きしなかったリボンズの前に姿を晒したレン。

振り返る彼の表情に薄らと浮かび上がる口角の上がりに、リボンズは忌まわしげに眉を揺らした。

図星の合図だ。

 

「もし良かったら僕との交渉、少しだけ譲歩してやってもいいぜ」

「………」

「リボンズ?」

 

レンの挑戦的な笑みに対して普段ならば即座に否定するであろうリボンズが押し黙る。

リジェネも怪訝に思い、顰めた面で顔を覗いたがリボンズは似たような表情で思考するのを読まれないように必死に隠していた。

その様子に見開くリジェネの目も確認し、レンは口角の上がりを強くしていく。

やがて、表情の戻っていくリボンズを見て彼も真面目に向き合う。

 

「いいよ。君の条件を呑もう」

「な……っ!?」

「はっ、そうこなくっちゃ」

 

予想していなかった妥協にリジェネが驚愕する中、レンは再び笑みを浮かべ、舌で下唇をなぞる。

だが、リボンズの賛同に反対の意を唱える者が同じ場にいた。

 

「リボンズ!彼を信用するのかい?」

「おい、黙ってろよ。三下が」

「何……っ!」

「止めないか、リジェネ」

「リボンズ!」

 

リボンズの制止に歯を食いしばるリジェネ。

しかし、止められたとしても引き下がらなかった。

 

「リボンズ!そもそも彼は―――」

「僕が止めたのを聞いていなかったのかい?」

「……っ!」

 

鋭い眼光。

リボンズのほんの少し横に動いた瞳に射抜かれ不満を顔に貼り付けたリジェネは仕方なしに退る。

そもそも彼はまだ話の内情を明らかにはしていない、そう言い掛けたのは分かっていた。

そして、それは正しい。

 

交渉の内容を譲歩するとしかレンはまだ口にしていない。

だというのに条件を飲み込んでしまうほどリボンズが切迫しているというのを彼に晒してしまった。

それがリジェネにとって混乱に値することでもあり、漬け込む隙として睨むのもリボンズは理解している。

その上で彼は話を進めていった。

 

「じゃあさっそく譲歩してくれる条件を聞かせて貰ってもいいかい?」

「あぁ、いいよ」

「……っ!」

 

下唇を噛むリジェネの表情を一瞥で楽しみながらレンはリボンズと向き合う。

そして、順を追って話を始めた。

 

「レイを唆したのはレナだ。それはあんたも分かってるんだろ?」

「……勿論。何が踏ん切りとなったのかは不明だけどね。彼女が彼の前に現れたことがキッカケであることは君の睨んだ通り間違いない」

「そうだ。レナがレイを惑わせ、揺れたあいつが今になってあんたの手から零れ落ちた」

 

卓上の瓶を手に取ったレンが瓶の水が手のひらに注ぎ、指の隙間から漏れて床を濡らしていく。

レンが掴むも流水は止まらない。

同様に、離反したレイはもうリボンズの元には戻らない。

そのことも充分に理解していた。

 

「構わないさ。彼は離れてもどうとでもなる。それこそ、生かすも殺すもね。問題は……」

「レナ・デスペア。組織力をもってる上に技術も力も何でも揃ってる。さすがにあんたでも手を焼く」

「あぁ。彼女は厄介だね。レイに関しては離反した方が後始末はしやすいけれど、彼女を落とすのは実際難しい」

「だから譲歩してやるよ、僕が」

 

語尾を強め、腰を卓上に飛び乗らせて恩着せがましくほくそ笑む。

そんなレンに対してリボンズは一切揺るがぬ表情のまま無言で受け入れた。

それを確認したレンはさらに口角をあげる。

 

「よし。僕に乗ったな?それじゃあレナはもういいからちゃっちゃと殺っちゃえよ」

「なっ……」

 

レンの言葉に絶句したのはリジェネだった。

逆にリボンズは冷静に彼の真意を探る。

 

「なぜ急に心変わりしたんだい?」

「別に?どうせあっちの方も僕のこと覚えてないだろうし。それに―――この前のはちょっとウザかったからな」

「……っ!」

 

底冷えたレンの感情にまたもリジェネが背筋を伸ばし、表情を強ばらせる。

リボンズは当然のこと、リジェネもレンの素性を知っている。

故にその狂気性を理解することが出来た。

一方、リボンズは対象的に笑みを零すだけ。

狼狽するリジェネの目線が移ることに目もくれず、リボンズはレンの提案に乗った。

 

「なるほど、ようやく納得出来たよ。では改めて君の譲歩に乗ろう。それにしても上手く状況を利用したね」

「ハイエナ具合はそっちの犬に負けるけど?」

「な、何のことやら……」

 

思わぬ矛先に目を泳がせるリジェネ。

レンの視線に目を逸らし、動揺を晒す。

慌ててリボンズを見遣ると瞼を閉じてほくそ笑んでいる様子が確認できて何とも言い難い反応にリジェネはさらに狼狽するが、レンが一通り楽しんだ後、悪戯っぽい笑みを向けてきたことに気付いた。

 

「くっ……!」

 

弄ばれた。

その屈辱と羞恥心に染まるリジェネが機嫌を損ねて視線を外したのを確認して、レンは立ち上がる。

 

「レナをやりたくてもやれなかった。なぜなら僕との交渉を踏みにじることで僕の離反を恐れたから。レイも一緒だな、あんたは混成種(ハイブリッド)になりうる因子を一人でも多く手元に置いて置きたかった。一人は捨てられても三人捨てる覚悟はない……結局あんたもそんなもんか」

「ふっ、勝手なことを言う」

「はは。強がりがよく持つじゃん。まあそういうことにしておいてやるよ」

 

リボンズに向ける嘲笑。

失望、否。

初めから見下していたレンがとうとう本性を剥き出しにしてきた。

その態度に対してリボンズは依然としている。

レンが目を細めて注視するもやはり表情は揺るがない。

揺さぶりが通じなかったことを確信したレンはちぇっ、とつまらなさそうに後頭部を搔いた。

 

「まあいいや。そんじゃ、そういうことだから。後はよろしく」

「最後に一つだけいいかい?」

「あぁ?なんだよ」

「いや、そんなに邪魔なのに君自ら手を下さないことが気になってね」

 

立ち去ろうとして制止され、投げかけられた問いにレンはなんだそんなことかと面倒くさそうに溜息をつく。

振り返り際にレンは答えた。

 

「別に邪魔ってわけじゃない。居てもいなくても僕には影響ないし。ただちょっと鬱陶しかったから、やってくれるんならそれに越したことはないでしょ。ただ、それだけさ」

「イカれてる……!」

「はぁ?はっ、情なんてあるわけないだろ。随分と人間的だな、リジェネ・レジェッタ。人間向いてるんじゃない?」

「何!?」

「リジェネ、やめないか」

「……っ」

「ふっ、はは!また言われてやんの」

 

レンの挑発に目くじらを立てるリジェネに、それを制止するリボンズ。

幾度も繰り返すやり取りにレンが腹を抱え、笑いを漏らさぬよう口を抑える。

その様子を見てリジェネはさらに険しい表情で彼を睨んだ。

 

「レン・デスペア……!」

「おっと。じゃあ今度こそ僕はおさらばってね。とりあえずそういうことだから、僕に感謝しろよ。せっかく譲歩してやったんだ、無駄にしたら殺すから」

「もちろん分かっているよ。任せて欲しい」

「くっ……!リボンズ!」

 

リジェネは不服そうに歯を食いしばるがリボンズは特に左右されず、そんなリジェネを見てレンはまた嘲笑して去っていく。

室内からレンが消えると、リジェネも腹をすねかねた。

 

「リボンズ。……今日は僕もお暇させてもらう」

「好きにするといい」

「ふん、レン・デスペアめ!」

 

レンの後を付けてリジェネも消える。

取り残されたリボンズは足を組み替え、嘆息を漏らす。

そして、小さく笑みを浮かべた。

 

「まったく。まだまだ愚かだね……」

 

レイの離反、それは望んでもないことだった。

彼が手元にいても彼は進化しない。

そのことにリボンズは気付いていた。

イオリアの提唱する混成種(ハイブリッド)のイノベイター。

本当にその進化の過程が存在するのなら。

イノベイターの出現を促す為に生み出されたイノベイドにも、進化の道が実在するというのなら。

まずはその存在を実際に目に焼き付け、見極めなければならない。

 

そして、最も進化の可能性のあるレイ・デスペアが見せてくれるというのならば、喜んで手放そう。

ほんの少し予定は狂ったが、変更した進路には沿っている。

まだ全てはシナリオ通りだ。

レンが焦れてけしかけ始めたのも想定通り。

二人に敢えて隙があるようにも見せることができた。

これでいつ反旗を翻しくるかはリボンズ自身が舵取りすることになる。

これほどの完璧な進行具合、本人も自惚れずにはいられない。

混成種(ハイブリッド)のイノベイターの存在がそれを更に加速させる。

 

「もしイオリア・シュヘンベルグがイノベイドの進化も想定していたのならば……僕、リボンズ・アルマークは真のイノベイターすらを凌ぐ存在になり、本当の意味で人類を救う神になれる」

 

全ては混成種(ハイブリッド)のイノベイターの実態次第。

レン・デスペアの言うように純粋な塩基配列パターン0000にしかなれないものなのか。

もしくは、それが虚言なのか。

はたまた、イオリアの予測していないことが起こる可能性の有無も。

仮にレンの発言が真実だとしても何かしらの方法で通常のイノベイドにも可能性が生まれるのならば。

これほど実態のわからない今。

―――充分に試す価値はある。

 

「今度こそ、僕らイノベイドが……いや、この僕が世界を導くことになる」

 

その為にまずはレイの進化を妨げる者を排除しなければならない。

言葉巧みに彼を惑わせる存在。

彼女が居る限り、レイは路頭に迷い続ける。

しかし、彼女は強さも組織力も持つ厄介な人物だ。

だからこそ落とすのならば相当の準備をする必要があった。

 

「ふっ、大丈夫さ。そのための切り札ならもう切っている。後は時間が経つのを待つのみ……心配事は彼らがちゃんと土産を忘れずに持って帰って来てくれればいいんだけどね」

 

そう、冗談めかして彼は笑った。

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