息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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強襲

レナが俯く中、足元で転がる黒HAROの瞳が点灯する。

 

『レナ。デンタツ。レナ。デンタツ。デルカラ。デルカラ』

 

「デルから…?」

「おや、お呼び出しか」

 

デル・エルダ、本名はデルフィーヌ・ベデリア。

元人革連のパイロットだった彼女は今ではレナや子供たち技術士のサブチーフだ。

レナが格納庫にいない時は基本、デルの指示で現場は動く。

 

そのデルからの呼び出しとなればそれなりの報告事情でもあるのだろう。

もしくは彼女にも手に負えないことか。

そうなるとレナが出向くしかない。

 

「ごめんなさい。途中なのに」

「いや、大丈夫だ。今日はここまでにしよう。行ってきたまえ」

「はい」

 

モレノに断りを入れて黒HAROを抱えたレナは医務室を後にする。

そのまま格納庫に向かった。道中、レナは自身の犯してしまったことの軽率さを思い返していた。

レナの意思は今やレナだけのものではない。彼女の決定が彼女を支持する者たちの総意となり、それが世界に影響をもたらすものでもある。

 

軽率だった。重圧に負けたなんて言い訳に過ぎない。

もはや組織と言ってもいいほどに膨らんだこの集団は以前のようにレナが子供たちを寄せ集め、(ワン)家に支えられていた頃とは比べ物にならない。

アロウズ艦隊を退けられる戦力。イノベイターに対抗できる情報量。

 

そして、レナ・デスペアとガンダムサハクエル。最近サハクエルを作ったのは間違いだったのではないかとレナは考え始めた。

塩基配列パターン0000はまだ全貌は把握できていないのかもしれないが、戦闘面だけ見ても特殊なイノベイドであることがわかる。

 

転生者のために用意されたボディだが、ナオヤ・ヒンダレスのような無能力も存在するため、全個体が同じ仕様であるというわけでもないのかもしれないが、少なくともレイとレナには特殊能力タイプの能力をマイスタータイプにカスタムしたものが備わっている。

しかし、レイは、能力は明らかになってるもののその力を最大発揮できるモビルスーツに出会っていない。

 

彼が搭乗した第2世代ガンダムのアストレアやプルトーネも充分優れた機体だが、どちらもレイとの相性が飛び抜けて良い機体ではなかった。

元は第2世代のガンダムマイスターに合わせて製造された機体なのだから当然といえば当然だ。

 

だが、逆にレナは自身の能力・肉体に最適なモビルスーツであるサハクエルを自らの手で生み出してしまった。

レナとサハクエルが起こした化学反応は凄まじい力を発揮し、今も尚、進化し続けている。

 

レナはそれが恐ろしくてたまらない。

彼女とサハクエルという絶対的な個の存在に欠如していた組織力、勢力が身についてしまった今、他の勢力も無視できない存在となり、引き返しがつかなくなった。

 

どれほど恐れていてもレナはもうサハクエルから降りることはできない。必要性と後悔だ。

どうしても今は捨てることができない。世界を変えるために、犠牲をださないために、仲間を失わないために。失って、後悔しないために。

 

「………」

 

格納庫へと向かう道中、少しだけ兄のレイが羨ましく思った。

彼はまだ自身の能力の全てを解放しているわけではない。レナにとってのサハクエルのようにレイだけに合わせた最高の相性を、それを持つガンダムと出会わなければ彼の操縦時の負担無効による高機動能力は最大発揮されることはない。

 

つまり、レイはまだ引き返せる。まだ選択肢がある。

レイはサハクエルとレナのようにこの塩基配列パターン0000に与えられた強大な力に呑まれることを知らない。

それが本当に羨ましく思える。

一度この力を手にしたらこれ以下の力なんて考えられない。

 

「あはは……」

 

―――醜いな。そう自分を嘲笑しながら前髪を掻き上げる。

そんなことを思ってるうちに道順を誰よりも覚えているレナはすんなりと最後の扉まで辿り着いた。

最後の扉を通り、格納庫に現れたレナに、気付いたデルが無重力で浮遊してレナの前に降りてくる。

 

「ごめん。遅くなっちゃったかな」

「大丈夫。でも忙しいから要件だけ先に伝えておく。たった今【GNR-02】がロールアウトした」

「……っ!ほんと!?」

「あぁ」

 

頷いた後、格納庫の奥の方にデルが目配せする。

レナも柵に手をかけ、乗り出して見ると、今まではそこにいなかった純白のモビルスーツと目が合った。

間違いなく、レナが設計し、デザインも施した機体、ガンダムだ。

訳あってほとんどレナが一人で建造を担当した機体だが、最終調整はみんなに任せていたのだ。

デルがその報告書を読み上げる。

 

「各部特に問題はない。システムもレナが調整した通りだ。……まあ我々には確認できないところもあったが、装備の欠陥もないだろう」

「そう。ありがとう、手伝ってくれて」

「我々は特に何もしていない。というより、何もしなかった」

「……うん。そうだね」

 

デルの言葉をレナは否定しなかった。

事実、あの機体を建造する時と言った時は誰も賛同しなかった。

それどころか誰もが謝罪を口にしてまでレナの手伝いを拒んだのだ。

それだけはできない、と。

しかし、誰もが建造を中止すると思っていたそのモビルスーツをレナは一人で建造し始めた。

 

見るに耐えず、助けてくれた子供もいるがそのほとんどがデルの制止を受けて手を止めてきた。レナも止められたが、その制止を払い除けてきたのだ。

そんな多くの反対を買ってでもレナが建造を諦めなかった純白のモビルスーツ、【GNR-02】。

 

アロウズやイノベイターの動きが活発になり、戦いが激化した今、レナが現場に駆り出される機会も増えたため手がつけられなかった最後の調整だけは子供たちが協力してくれた。

しかし、それはあくまで【GNR-02】がレナの予備機であるという説明を受けて納得したがためだ。

 

実際は4年前のフォーリンエンジェルスでプルトーネブラックを修復した少年、今は青年となった子供たちの中で最年長の男の子、シンがデルを納得させるため他の子供たちが協力しやすいようにするためについた嘘であるが、皆なんとなく気付いているにも関わらず最後の調整を手伝った。

理由はもちろん子供たちがレナを慕っているからだ。

だが、その違和感を無視しない者もいる。

 

「それで、本当に私たちが予備機であることを信じてるとでも思ってるのかい?」

「……あなたは信じてないの?」

「さぁね。ただ私はあまり嘘に敏感じゃない。でも、あの子達はどっちかと言うと鋭い方だよ」

 

デルに言われてレナは辺りを見渡す。

4年前は全員が子供だった子達が、一部はもう大人の仲間入りを果たしていた。

そして、その全員が今は格納庫にいて、GNR-02に嫌悪感を抱いている。

 

だが、誰も口には出さないのはそのモビルスーツにレナの想いが詰まっているからだろう。

彼らはそれを知っている。

ずっと見てきたのだから。

 

「……そう、だね」

 

奥から引っ張り出してきたにも関わらず、誰にも良い印象を抱かれないGNR-02を見遣り、ポツリと呟くレナ。

サハクエル同様、レナが生み出したGNR-02にとってレナは生みの親のようなものだ。

だからこそ、致し方ないとは分かっていても寂しく感じる。

そんな私情は押し込め、思考ごと振り払うように首を振るうレナにテルが尋ねる。

 

「ところであのモビルスーツの名前は?」

「もう決めてあるよ」

 

デルに問われ、再びGNR-2と見つめあったレナは手すりを蹴り、GNR-02の方へと浮遊する。

そんな彼女に周囲で作業がてらにGNR-02に見遣っていた元超人機関出身の子供らも注目した。

そして、レナはGNR-02の名を口にする。

 

「『涙の天使(イスラフィム)』。ガンダム……イスラフィム」

 

格納庫にいた全員がその名を聞き、デルも嫌悪感を忘れてその名を小さく反復する。

GNR-02のどこか清楚的なフェイスにそっと手をあてるレナを含め、その名を聞いた誰もが神秘を感じていた。

 

デル、子供たち、デュナメスのコクピット内ではニールが。

プルトーネブラックのコクピット内ではレオが。

それだけではない。

もう一人、その名を聞いた者がいた。

 

「そう。それがこのガンダムの名前なのね」

「………っ」

 

聞き覚えのある声にレナが振り返り、格納庫の入口を見遣る。

子供たちや声の主の最も近くにいたデルも彼女に注目した。

レナがその名を叫ぶ。

 

「絹江さん…!」

「久しぶりね、レナちゃん。みんなも!」

 

レナが絹江のところまで浮遊し、飛んできた彼女を絹江が受け止めるように手を取る。

ある事情で一定期間不在だった絹江は、束の間の再会を堪能した後、すぐに見たことのないガンダムへと視線を走らせた。

 

「ねえ。あの新しいガンダムの話を聞かせて?……レナちゃんが一人で作ったんでしょ?その、レイさんのために……」

「別に全部私だけってわけじゃないよ。最後はみんな手伝ってくれたし、ネーナもできる限りは手助けしてくれたから……」

「そ、そう……。それなら少しだけ安心したわ」

 

後ろのデルに聞こえないよう小さな声で配慮して話を振ってきた絹江。

そんなところからも彼女の気遣いをレナは感じる。

モレノは自分を含め、レナに重圧をかけてしまったみんなを責めたが、レナはそうは思わない。

 

絹江の気遣いやニールの想い、デルたちも今ではみんな手助けしようとしてくれている。

彼らの気持ちも理解しているレナにはそんな彼らを責めることはできない。

やはり自身の心の弱さが原因なのだろう。

レナはそう結論づけた。

 

「レナちゃん、どうしたの?」

「え?」

「なんだか追い詰めた表情してるから……」

「あっ……えっと、大丈夫です」

「そう?」

「……はい」

 

絹江に指摘されて、レナは慌てて誤魔化し、絹江に背を向けて軽く自分の頬を叩く。

心が弱いのならそれを表に出してはいけない。

きっとさらけ出してしまえばそこから崩れ落ちるようにさらに脆くなってしまう。

それにレナはみんなを引っ張る立場にいる。

 

自分が弱くなればみんなが不安になり、そこから乱れてしまう。

それだけはダメだ。

レナはなんとか頬を揉んで表情を柔らかくしようとする。

絹江はデルに声をかけられて気付いていない。

 

「絹江。再会に浸るのはそれくらいにして、報告を聞かせてくれ」

「あぁ、ごめんなさい。ここに全部入ってるわ。カタロンの情報もこれからしばらくの活動予定も。それと連邦の動きや現状の情勢もね」

「ゆ、優秀だな……」

「これでも元ジャーナリストだもの。これくらいはするわ」

 

絹江の持ってきた情報の量にデルは少々度肝を抜かれる。

データの入ったメモリを受け取り、さっそく端末に指してコピー作業を始めた。

その作業中、突然振り向いた絹江にレナは慌てて頬を揉んでいた両手を後ろに隠す。

 

「そういえばレナちゃん。アロウズについて調べてる時、凄い情報が手に入ったのよ……!」

「凄い情報?」

「なんだそれは」

 

レナだけでなく、デルも端末の待機画面から顔を上げて注目する。

元ジャーナリストとしての絹江の腕を完全に認めたデルも彼女の言うことは虚偽ではないことを理解していた。

 

ならば、絹江が凄い情報と言ったらただごとではないだろう。

たまたま通りがかったレオも物を取りに来たついでに傍目を向けて、耳を傾けている。

 

「あ、えっと……みんな聞く感じ?」

 

デルやレオも聞き耳を立てることに気まづそうにする絹江。

まさか2人にも聞こえているとは思っていなかった。

なんとなく察しがついたデルとレオの2人だが、顔を見合せたその反応は対照的に顰めっ面と苦笑いだ。

 

「……まあ仕方ないか。それじゃあ言うけど、実は―――」

『レナ!』

 

絹江が話し始めたと同時、彼女の護衛として共に宇宙(そら)に上がってきたネーナが通信越しに慌てた様子で割って入ってくる。

突如として格納庫の端末に映し出された尋常じゃないネーナの様子にレナは即座に対応した。

 

「ネーナ、どうしたの?」

『て、敵襲……!!』

「ええっ!?」

 

レナが思わず漏らした声を合図にしたかのようにコロニー内に緊急事態を知らせるブザーが鳴り響く。

格納庫も赤いランプの点灯で照らされ、場に緊張が走った。

その中で状況を把握しようとレナがネーナに切迫する。

 

「敵の数は!?どこまで侵入されたの!?」

「えっ……あっ、えっと……」

「早く!」

「は、はい!」

 

コロニーの周辺を取り囲むアステロイドには敵の侵入を知らせるためのセンサーが張り巡らされている。

その警戒領域は三段階に分かれ、第三の外郭には監視衛生を設置している。

それら全てを設計、建造したのはレナだ。

 

そのおかげで早い段階に察知できているはずだが、侵攻速度が設備の許容範囲を超えた場合、対応も間に合わなくなる。

情報が鍵となると理解しているレナは緊急事態でも冷静に必要な情報を求めた。

 

ネーナが返答を詰まらせている間、痺れを切らしたレナは髪をひとつに結っている若い女性に声をかける。

4年前、地上での拠点防衛において戦いに敗れたレナを介抱した時の女の子だ。

 

「第一警戒領域超えました!」

「じゃあ第二から防衛システム作動して!他のみんなはモビルスーツをカタパルトへ!」

「迎撃するのか?我々に接触してきた協力要請者という可能性も」

「ネーナが敵襲って言ってたでしょ。信じられない?」

「……いや、すまなかった」

 

謝罪を口にして子供たちへの指示を飛ばすデル。

別に彼女に悪意があったわけではないことはレナも理解している。

だが、この緊急時に丁寧に対応している場合はないがためにネーナをダシに使った。

内心では申し訳ないが、ネーナには脳量子派能力があるため、彼女が敵と断定したのならその可能性は高いのも事実であり間違ったことは言っていない。

 

『レナ!迎撃するならあたしも行くよ!』

「待って。焦ならないで。まだ敵の戦力がわからない。とりあえず第三防衛ラインまでネーナは下がって」

『で、でも多分すぐに突破されちゃうよ!』

「……それだけの戦力ってことだよね。でも、ここでネーナを犠牲にして後に繋ぐ選択が正しいかなんて今はまだ決められない。それにネーナを犠牲にしたくないし、失いたくもないの」

『レナ……』

 

絹江を連れて帰ってきた後もコロニー周辺の警戒を担当していたネーナは確かに敵の近くにいて、先に手を打つことが出来る。

だが、4年前と違い、もう連邦のモビルスーツとの性能差はあまりない。

 

襲撃してきたのが何者であれネーナもタダでは済まない。

そして、ここでの時間稼ぎにまだ意味を見いだせない今、レナはネーナの早とちりを止めた。

レナは本心も混ぜることで彼女の制止に成功する。

 

『わかったわ。でも、敵は多分あいつらよ!』

「………っ。そう。ありがとう、ネーナ。第一防衛ラインまで下がってドライで待機しておいて」

『了解ね』

「クリスさん。監視衛生の映像をこっちに回してください」

『もうこっちで敵は捕捉してる……ってそれはもう分かってるんだ。さすがレナ!格納庫の大型モニターでいい?』

「はい」

 

周囲がデルの指示で慌ただしく動く中、管制室にいるクリスによって格納庫の大型モニターに熱解析画像が映し出される。

そっちに気を取られた子供をデルが注意し、レナは熱反応の型から敵のモビルスーツを考察した。

さらに脳量子波も感知する。

 

「間違いない。ネーナの言う通り……イノベイドの専用機!」

 

以前、レイの残した情報を頼りに照合した。

間違いなくイノベイドが自身らのために開発したモビルスーツとモビルアーマーだ。

名称は【GNZ-005 ガラッゾ】、【GNZ-003 ガデッサ】、【GNMA-Y0001 エンプラス】。

 

「先生、敵の数は?」

「全部で4。でも1機だけ照合不能の機体がいるから、聞いてたイノベイド専用機は3機かな」

「照合不能は情報がないからどうしようもないとしても……もう1機のイノベイド専用機はどこに行ったんでしょう?」

「多分この時期は衛生兵器の護衛かな。衛生兵器の完成は紅龍(ホンロン)さんからの情報で確認してるから可能性は高いと思う」

「問題はそこじゃあねえだろ」

 

レオとレナ、二人の状況分析の間にニールもやってくる。

これでネーナを含めればマイスターが揃う。

デルはレオの申請で手が足りない時以外はパイロットの数には含まれていない。

 

「いない敵より目の前の敵だ。その照合不可能な機体ってのはレナの目で見て何かわかることはないのか?」

「……私から言えるのはこの機体がもの凄く速くてどの映像にもハッキリした姿は映ってないから情報が取りにくいってことくらいかな」

「イノベイド専用機の新型でしょうか?」

「わからないよ。とにかく侵攻を止めなくちゃ」

 

防衛ラインが破られるのも時間の問題。

今のうちに手を打たなければならない。

ネーナが回線をオープンにしていることを確認してレナは作戦会議を始める。

 

「第二防衛ラインで足を止めてる間に私とニールが出るよ。第二防衛ラインは突破された同時に出れたら理想かな」

「そこから先生たちが食い止めるんですね」

「そう。サハクエルとGNアームズの遠距離射撃で今度は私たちが防衛の役目を果たすの。その間にレオは出撃してネーナと一緒にコロニーの砲台を守って欲しいんだけど……お願いできる?」

「了解です」

『了解ね』

 

レオとネーナが同時に頷く。

だが、ニールが不満げだった。

 

「おい、レナ。お前はやめとけよ」

「……そうはいかないよ。ここで私が戦わないとみんなを守れない」

「レオがいるだろ」

「プルトーネ ブラックとサハクエルとじゃ砲門の数が全然違うよ。役割も交代できない。ニールの気持ちは嬉しいけどみんなの命には変えられない、そうでしょ?」

「………っ」

 

傷痕の残るニールの右眼に触れるレナ。

レナは傍目で第二防衛ラインの状況データを確認して、維持できる猶予を脳内で導き出していた。

だから、強行手段に出た。ニールは右眼を負傷した状態で、かつての仲間の制止を無視して出撃した。

故にニールにはレナは止められない。彼にもそれがわかっていた。

 

「……あぁ、悪かった」

『ニール……』

 

話だけ聞いていたクリスから呟きが漏れる。

彼女にはニールの気持ちがわかる。

逆にレオとネーナは事情を知らなかった。

 

「えっと……先生、どこか悪いんですか……?」

「ううん。大丈夫。それよりもう時間が無いよ。作戦を始めよう」

 

レナの一言にマイスター全員の気が引き締まる。

アステロイドに設置した砲台は敵によって駆逐されていく。

もう全滅も近い状態だ。

砲撃武装を持つ機体が3機いるのが原因だろう。

 

なににせよ、今のうちに行動を起こさなければ間に合わなくなる。

レナ達はパイロットスーツとヘルメットを抱えてそれぞれの機体へと散らばった。

移動中にもレナは指示を飛ばす。

 

「みんな、整備は下がって!デルの指示に従ってプトレマイオス改とネオ・トリニティ鑑をコロニーの砲台にセットして。急いで!」

「でも先生!艦長が1人足りないよ!」

「それなら俺が行く。いいだろ?先生」

『うん。お願い、シン』

「わかった。みんな下がれ!」

 

シンと4年前地上拠点を襲撃された際、レナを介抱していた女の子、共に最年長のリンの2人が他の子供たちを引率して行動する。

レナはサハクエルへと乗り込み、システムを確認しながら回線をデルと繋ぐ。

 

『デル、絹江さんも連れていって。きっとそっちの方が安全だから。あと医務室にいるモレノさんとリヒティさんも!』

『わかった。任せて』

 

承諾するデルに、ありがとう、と返すレナ。

後のことはデルに一任してサハクエルをコロニーのカタパルトへと移動させた。

隣のカタパルトにはデュナメスが上昇してくる。

 

発射口から見えるのは防衛システムを全て破壊してこちらへ砲門を向けてくるガデッサとエンプラスの姿。

GNバスターライフルを2挺ドッキングさせてツインバスターライフルを構えたサハクエルはカタパルト内部から照準を合わせる。

 

『狙い撃ちっ!』

 

刹那、敵の砲門が煌めき、二本の粒子ビームがコロニーへと迫る。

レナも引き金を引き、サハクエルのツインバスターライフルから粒子ビームが放たれた。

両者は互いにぶつかり、大きな爆発を起こして視界を奪ってくる。

 

『今の照準……』

『デュナメス、ニール・ディランディ。狙い撃つ!』

『GNアーマー射出!』

 

敵の攻撃の違和感を抱きながらレナはニールの発進に合わせてGNアーマーを異なるカタパルトから放つ。

敵は第二防衛ラインから遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 

だが、もう1機の【UNKNOWN】とガラッゾの姿はない。

おそらく死角からの強襲だ。

ガラッゾの出力から考えて今の敵の侵攻具合を算出する。

 

『ニール!敵はすぐ近くにいるよ。気をつけて』

『あぁ、わかってる』

 

デュナメスとGNアーマーがドッキングし、GNアームズとなってコロニーの防衛に駆り出す。

それを確認してレナも宇宙(そら)を見据えた。

 

『サハクエル、レナ・デスペア。飛ぶよ!』

 

カタパルトの台座がスライドし、火花を散らしてサハクエルを宇宙(そら)へと放る。

そこからレナの細かな姿勢制御を得てサハクエルは大きな白翼を左右同時に展開して降臨した。

両手にはバスターライフルが2丁握られている。

 

『フルバースト!』

 

レナの掛け声とともに展開するサハクエルの腰部、双翼にマウントされていたビーム砲。

その全ての砲門がGNメガランチャーと大型GNキャノンの砲門に粒子を蓄積しているガデッサとエンプラスに狙いをつける。

ガデッサとエンプラスはそれに気付いて回避行動を取った。

 

砲撃体勢に入った状態ではエンプラスはGNフィールドを張れない。

仕方なしに粒子ビームを放ち、レナも後退して回避運動を取りながら引き金を引いた。

バスターライフル2丁の分も含めた8筋の光の柱が交差する。

 

『………っ!』

 

サハクエルが躱した粒子ビームはコロニーへと直撃し、一部区域が爆発を起こしている。

コクピットの中、ヘルメットのバイザーの奥で冷や汗を垂らすレナは全員を艦に移した自身の判断が幸をそうしたことに安堵した。

そして、すぐに目前の敵に意識を戻す。

 

『ニール。あっちの足を止めるよ。砲撃準備して!』

『悪いな、レナ。もう少し……っ!待ってくれ!』

『……?』

 

返答の歯切れの悪さに違和感を覚えてGNアームズの方を確認するレナ。

すると、GNアームズは1機のモビルスーツに追われていた。

ガラッゾだ。

 

『ニール!』

 

ガラッゾは指部からビームクローを形成してGNアームズに襲い掛かっていた。

GNアームズは逃げる一方。

それも仕方ない。

デュナメスが換装しているGNアーマー TYPE-Dは近接用の武装が脚部のクローしか装備されていない。

 

だが、それでガラッゾとやり合うのは不利だ。

現にニールは反撃の機会を伺っているが実行できていない。

そんなGNアームズにビームクローの光刃が迫る。

 

『貰ったぞ』

『やあっ!』

『何!?』

 

ビームクローと交わるビームサーベル。

競り合う刀身から火花を散らし、GNアームズの元に駆けつけたサハクエルは隙のあったガラッゾの腹部を蹴り飛ばす。

 

『ぐっ……!』

『狙い撃ち!』

『デヴァイン!』

 

サハクエルの一斉射撃(フルバースト)をエンプラスがGNフィールドを展開して、ガラッゾを守るように防ぐ。

だが、守りに入った敵をそのまま逃がすレナではない。

腰にマウントしてあるGNガンバレルの砲口、その上部を展開し、内蔵されていたGNマイクロミサイルを一斉に発射した。

 

『チッ!』

 

舌打ちを漏らすエンプラスのパイロット、デヴァイン・ノヴァ。

GNフィールドをも突破することのできるマイクロミサイル攻撃にエンプラスを操縦するデヴァインはブリングの乗るガラッゾを巻き込みながら後退していく。

 

その入れ違いのように前に出たガデッサのメガランチャーによる砲撃をサハクエルとGNアームズは躱し、サハクエルの一斉射撃でガデッサも退く。

敵の侵攻の足を止めたことを確認したレナは即座にニールに通信を繋いだ。

 

『ニール、今だよ!とにかく撃ちまくって!』

『オーライ。弾幕を張る!』

『ホウゲキカイシ!ホウゲキカイシ!』

 

ハロの掛け声と共にニールが引き金を引く。

GNアームズは大型GNキャノン、GNツインライフル、大型ミサイルコンテナからありったけの弾幕を張った。

一斉に飛来する粒子ビームとミサイルに相手は回避を強いられる。

 

『これは……!』

『厄介な!』

『旧式のモビルアーマーのくせにやってくれる……!』

 

ガデッサのパイロット、リヴァイヴ・リバイバルを含め襲撃に参加したイノベイドたちが表情を歪める。

GNアームズの弾幕も厄介だが、問題はそのタイミング。間違いなく指示を出してるのは『翼持ち』のパイロットだ。

 

レナ・デスペア、それが彼らの標的。彼らはレナだけを狙っている。

コロニーの襲撃、レナの一味への攻撃は二の次だった。

それがレナの感じていた違和感の正体でもあった。

 

『調子に乗って……!』

『フルバースト!!』

『なっ!』

 

GNアームズの弾幕から無理に抜け出したリヴァイヴを待っていたのは全砲門を展開したサハクエル。

放たれた粒子ビームは機転を利かせたブリングがガラッゾのGNフィールドで防ぎ、ガデッサを下がらせた。

 

それを合図にするかのようにサハクエルは無数のGNウィングビットをウィングバインダーから射出する。

腰部にマウントされていたGNガンバレルも本体から分離し、遊撃体勢に入った。

そして、サハクエルとGNアームズの双方の持ちうる限りの砲門がヒリングたちに向けられた。

 

『乱れ撃ちっ!』

『圧倒するぜ!』

 

一斉に放たれる粒子ビームとミサイルの数々。

その圧倒的な物量にイノベイドたちは戦線は押し上げられていく。

 

『ぐっ……!』

『この程度で……!』

 

GNフィールドを張りつつ後退していくガラッゾとエンプラスとは別に強気になりながらもリヴァイヴは回避に専念するしかなくなる。

視界一面が砲撃に包まれる中、反撃など以ての外。

ここで機体を被弾してコア・ファイターで逃走するには敵が恐ろしすぎる。

丸腰になった彼らなど『翼持ち』にかかれば瞬殺、決して逃げられはしない。

 

故にリヴァイヴに、ブリングとデヴァインも焦りを感じ始めていた。

襲撃したのは彼らだと言うのにあっという間に形勢を逆転されてしまった。

それもこれもレナ・デスペアの仕業というのが恐ろしい。

 

だが、向こうの対応力を見越した作戦は用意してきている。

相手の反撃に怯み、焦燥していたリヴァイヴも一変して笑みを浮かべた。

 

『思っていたよりやる。しかし、我々が賭けているのはここからだ!』

『リヴァイヴ、ここから攻めるぞ』

『了解!』

 

ブリングの合図でガラッゾ、ガデッサ、エンプラスが動く。

先程とは侵攻ルートを変え、狙いをGNアームズに変更した。

その行動を目にしたニールは相手の思惑に気付く。

 

「野郎共、俺の方に来やがった……!」

『ビンボークジ!ビンボークジ!』

「わかってるよ……!」

 

パカパカと耳を開閉させ、瞳を点滅させるハロ。

そんなハロに悪態をつきつつニールは敵の対応をする。

彼らがニールに狙いを絞ったのは、レナと違って回避不可能な砲撃ではないからだ。

ニールの得意スタイルは狙撃、早撃ちや多数の敵への掃射攻撃は得意ではない。

 

GNアームズでの物量攻撃でそれを誤魔化していたが、イノベイドたちは看破し、性格の悪いことにニールとレナの射程が被るGNアームズ側から仕掛けてきた。

これではレナの狙いが絞られ、彼女の持ち味である最適な射撃ルートの算出が難しくなる。

 

ここは自分の攻撃を止めて、レナに自由に撃ってもらった方がいい。

そう考えたニールは引き金から手を離そうとした。

だが、レナの通信が割って入る。

 

『待って、ニール。そのまま撃ち続けて』

『なんだって?だが、レナ―――』

『私一人の弾数じゃ相手の動きを全て止めるのはどのみち無理だよ。なら弾圧だけでも数が欲しいの。それに、この程度の動きで私は出し抜けない』

『何か対策でもあるのか?』

『やりようはいくらでもあるよ』

 

言ったそばからGNアームズの放った粒子ビームやミサイルをレナが狙い撃ち、爆発の衝撃で敵モビルスーツを押し戻す。

この攻撃パターンも含めればレナとニールの攻撃範囲が被っても問題はない。

驚きで目を見開くニールを置いてレナはデルにも通信を繋ぐ。

 

『プトレマイオスとトリニティ艦の準備は?』

『どっちもコロニーの砲台にセットできてるよ。これから援護する』

 

コロニーの迎撃システムもデルたちが担当している。

これで一気に物量が増す算段だ。

あとはレオとネーナにも鑑の周辺から援護をしてもらう予定だったが……ここに来てレナは違和感を覚えた。

 

『ねえ、何か見落としてるような気がしない?』

『見落とし?』

 

通信越しにデルが顔を顰め、思考に神経を集中させるレナ。

まず敵の攻撃パターンと戦力が気になる。

敵の構成はイノベイドのみで、アロウズの部隊の気配もない。そのどうにも少な過ぎる戦力が気掛かりとなり、不安を呼んでいる。

それに露骨にレナを狙った分かりやすい攻撃も彼女からすれば無視できない行動だ。

 

それとも思い過ごしか。イノベイドはこんな露骨に狙いを定めているというのに、レナがそれに気付かないとでも思っているのだろうか。

もしそうならそれで、イノベイドを買い被ってただけならいいけど……。

でも、そっちの望みは薄いとレナは睨んでいる。

何か狙いがある。

その予感があたっているなら―――。

 

『私の意識を逸らそうとしているの?何から……』

『レナ!どうした……!』

『あ、ううん。なんでも―――待って!確かもう1機敵がいたはずだよ!そういえば見失ってる!』

 

深く思考にはまり過ぎてイノベイドたちの侵攻を阻止する手が止まっていたレナ。

そんな彼女を一喝するニールの声に応じた丁度その時、レナはようやく見落としていた敵の存在に気付いた。

 

だが、レナは同時にもう一つの見落としに気付く。

センサーが敵機を感知した時は既に遅い。

レナの肉眼の方が早く、近付いていた敵を捉えた。

しかし、彼女の反応より僅かに機体同士の衝突の方が早い。

 

『きゃあっ!?』

『こいつは貰うぞ』

『なんだ!?』

『ニール……っ!!』

 

突然の強襲に対応できたにも関わらず、舌を噛むほどの衝撃がレナを襲い、突如として出現した真紅のモビルスーツは目にも止まらぬ速さで戦場からサハクエルをかっさらって離脱する。

コクピット内でレナは背中を強打したが、そこからすぐに立て直し、舵を握った。

レナの意思によってサハクエルはなんとか真紅のモビルスーツを振り払おうとするが、凄まじい推進力がそれを許さず、ガッチリと腰部をホールドされたまま、レナはただみるみるうちに戦闘宙域から離れていくのを焦りと共に目にすることしか許されなかった。

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