息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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辿り着いた領域

早く戻らなければ、そう思えば思うほどレナの焦燥は加速する。

しかし、現実がレナを解放してくれはしなかった。

 

『うっ……!ああっ……!何、この機体のパワー!?』

 

叩いても蹴っても全く手応えがなく、サハクエルの推力さえ足枷にもならない純粋な力。

その全てにレナは驚愕しながらコクピットにかかる負荷に耐え続ける。

 

『GNガンバレル!ウイングビット!』

 

レナの叫びと共に射出されるサハクエルの誘導兵器。

間に合うかは一か八かだけど、やるしかない。

そう考えたレナは誘導兵器が敵機の速度に追いつけることを祈りつつ操作する。

 

だが、射出したガンバレルもウイングビットも照準を敵機に向けた時には既に置き去りとなり、操作範囲外へと一瞬で追放されてしまった。

サハクエルは抱えられたまま移動していく。これでは武装を落として武器を減らしていってるだけだ。

 

『そんな……!』

 

頼みの綱も役に立たない。

こうなったら直接切り離すしかない、その思考に至って肩部からビームサーベルを抜こうとしたが、すぐに腕を絡まれて封じられた。

打つ手全てを失ったレナは焦燥する。

 

そして、微かに推力の上がった敵機によって加速の負担を一心に浴びたのをキッカケに嫌な予感がしてすぐさま後方を確認した。

すると、予感通り、進行ルート上には巨大なアステロイド。敵機の狙いは間違いなくそこにサハクエルを叩き落とすことだ。

 

『そんなこと……させない!』

 

サハクエルのサブマシンガンを敵モビルスーツのメインカメラに照準を合わせ、引き金を引く。放った弾丸は敵機の頭部に装備されたマシンキャノンによる発砲で相殺――否、サハクエルよりも威力が高いそれは、サハクエルのマシンキャノンの銃口を破壊した。

 

それでもレナは足掻きをやめない。できる限り思考を巡らせてあの手この手を使う。彼女らしくない無駄な抵抗の反復。

動くもハズもない舵に何度も力を込め、意味もなくウィングバインダーを扇ぐ。そんな行動の中でレナは閃いた。

 

『そうだ!これなら……!』

 

成功する、その確信を得たレナは早速行動に移す。

彼女が取った行動はウィングバインダーで両機を包み込んだ後での、1基のウイングビットの射出。

だが、さっきのように宇宙空間へ向けて放つのではなく、機体と機体の僅かな隙間に射出した。

そして、同時並行して操作し、強引に展開したレール砲の銃口を、両機が挟み込んでいることにより行く場を失ったウイングビットへと合わせる。

 

『狙い撃ち!』

『………っ』

 

通信機器に息が漏れるような音が聞こえる。

粒子ビームに貫かれたウイングビットは爆破し、その衝撃で爆発を抱擁していた両機は切り離された。

両機はそれぞれアステロイドになんとか着地する。

 

『やっと離せた……!』

『ぐっ……!』

 

ようやく両機が対峙する。

共に体勢を立て直し、レナは改めてその全貌を確認した。

 

「ハロちゃん。見てわかる武装は全部言うから記録して」

『マカセロヤイ。マカセロヤイ』

「まず頭にマシンキャノン……だけどサハクエルと違ってただの実弾じゃないと思う。多分GNミサイルとかと同じかな。それと右腕と両腰部にビーム砲。あと左手首にも。これは多分サブマシンガン。それと……アンカーかな?これはよく見えないや。最後に左腕にシールドと腰部にビームサーベル。記録はデルたちに送って」

『リョウカイ。リョウカイ』

 

黒HAROが耳を開閉させ、瞳を点滅させながら応答する。レナが声にあげなかった敵モビルスーツの外見的特徴。

まるで鮮血のような真紅のカラーリングに騎士を彷彿とさせる頭部のデザインに複眼。

 

各部装甲も鎧のようだった。レナから言わせれば悪趣味でしかないが、その威圧感は記録には言い表せないものだ。

だが、彼女が最も気になることはそんな見た目のことではない。

 

『さっきのあの推力……』

 

そう。敵機の圧倒的な出力。

レナはサハクエルを建造する時、人体が耐えられるギリギリの負荷に合わせた出力をサハクエルに与えた。

しかし、敵機はその限界すら遥かに凌駕している。

 

もちろん個人によって多少無理をすればサハクエル以上の出力を持つ機体も耐えられるだろう。サハクエルの出力設定はあくまで平均的な値を参考にしたものだ。

しかし、相手はそれを考慮しても敵機の推力調整はさすがにやりすぎだ。レナからすればそうとしか評価できない。

 

開発者の正気を疑ってもいい、そもそもそんな機体を操れる者がいるのかも疑いたい。

イノベイドでも同じだ。人間より多少丈夫かもしれないが、もはやそんな領域の話ではない。

それだけ今回の敵機はイカれてる、とレナは恐怖すら抱いた。

 

「一体誰が乗ってるの?めちゃくちゃだよ……」

『サハクエルキラー!サハクエルキラー!』

 

黒HAROも敵機に危機感を感じたのか、台座の上でレナに警告を伝える。おそらく黒HAROはさっき取った記録からサハクエルとの相性を算出したのだろう。

レナも黒HAROと同意見だ。敵機の身につけるものはサハクエルの対サハクエル用武装(アンチウエポン)と見ていい。

 

敵の身につける砲撃武器の形状から大体どれほどの威力を持つ武装なのかわかる観察眼を、レナは持っている。

レナの予想ではバスターライフルと同威力、また、砲身を展開できるであろう形状ラインからして最高威力はツインバスターライフルと同等もしくはそれ以上と見ている。

 

完全にサハクエルの得意なスタイルで、同じ土俵で力押しするつもりだ。

また、その逆にその他武装もまだ、一般的な武装でもどんなカラクリがあるか油断できないものや明らかにサハクエルの攻撃手段を潰しにきているものもある。

と、いうことはつまり―――。

 

「サハクエルを……ううん、完全に私を意識してる」

 

感じるのは完全な敵対心。

そして、レナにだけ的を絞った殺意。レナは多くの人物に狙われてもおかしくない行動を起こしてきた。そんな彼女にとって特定された敵意の正体は候補が多すぎて見当もつかない。今わかるのは一瞬も気を許せないということ。

 

正面に意識を戻すレナ。真紅の騎士はバイザーの奥にある複眼に光を灯し、目が合う。

敵機との間合い。二機のモビルスーツの間に走る緊張を肌で感じながらレナは瞬きすら隙として封じ、ハンドルを強く握った。

 

そして、力を込めたその瞬間に敵モビルスーツの背後から粒子が煌めく。

ビームサーベルと思わしき柄を抜刀して地を蹴り始めた。それを視認してすぐレナは脳に受信された視覚情報を命令に変換して指先にまで飛ばす。

 

「動いた……!」

 

バスターライフルを一丁振り上げて引き金を引く。銃口が粒子ビームを噴くが、その粒子ビームは直進する敵機のシールドで弾かれた。

レナは即座にもう一丁のバスターライフルを構えようとしたが、敵モビルスーツの凄まじい推進力はサハクエルとの距離を一気に詰め、その速さにレナの反射神経はバスターライフルではなくビームサーベルの抜刀を選択する。

 

「速い!」

『それだけではない』

「この声……っ」

 

敵モビルスーツが生成したビームサーベルとサハクエルが生成したビームサーベル。互いのビーム刃が衝突し、敵モビルスーツは自慢の推進力でサハクエルを圧していく。

だが、機体の推進力(パワー)の他にレナは違和感に気付いた。

その正体は敵モビルスーツの持つビームサーベル!

 

「このビームサーベル、出力が強い……!」

 

威力差により、途切れ途切れになっているサハクエルの刃が敵モビルスーツのビームサーベルに圧され、サハクエルの肩部へと迫る。機体においても武装においてもサハクエルの上をいく敵機に圧され、レナは焦燥に駆られる。

しかし、それ以上に気になるのは―――。

 

『ビームサーベルではない。ビームソードだ』

「………っ!」

 

聞き覚えのある低い女の声が通信越しに一言放つ。

一方、レナは相手を振り切れず通信回線を開く余裕がない。このままではビームソードにサハクエルは両断されてしまう。

必死に対抗策を探るレナの視界には、端末が伝える宙域移動時に落としたGNガンバレル二基の帰還情報が映った。分離直後に自律で本体を探索・帰還するシステムを即座に構築し、搭載した機転が功を奏した。

 

「あと少し……!」

 

操作範囲内に入れば頑張れるも発砲できる。それを狙い、モニターを確認しながらレナは踏ん張る。

その間にも刃は迫り、サハクエルの肩部とビーム刃が擦れて火花を散らし始めた。

 

『無駄な足掻きだ』

「調子に乗らないで!」

 

相手が応じられないことをいいことに好き勝手なことをいう。追い詰めている自覚があるらしい彼女にレナも頭にきた。

その意思に従うように両機のいるアステロイド上に途中ではぐれたGNガンバレルが一基合流し、敵機へ向けて砲門から粒子ビームを放つ。

 

『………っ!』

 

死角からの攻撃だが恐らくセンサーで感知した敵モビルスーツは粒子ビームを躱すためにその場から後退して離れる。それと同時に押されつけられていたサハクエルは解放された。

自由を得てすぐ、レナはGNガンバレルの操縦系統に触れる。邪魔をしたガンバレルが間合いから逃げる前に、レナの予測通り敵モビルスーツはビームソードを振るった。

 

『させない!』

『………っ!』

 

通信回線を繋いだことにより相手の息遣いが耳に入ってくる。向こうの驚愕を生み出したビームソードの空振りは、間一髪で回避したGNガンバレルによって生み出されたもの。

まるで意思を持っているような感覚を誘導兵器に覚えるが、敵モビルスーツのパイロット―――ネルシェン・グッドマンはそのカラクリを瞬時に看破した。

 

自動(オート)と手動の切り替えか……っ!』

『狙い撃ちっ!』

 

次はこちらの番だとでも言うように、空振りにより僅かにできた隙を利用してサハクエルがバスターライフルを二丁構えて粒子ビームを放つ。

その動きにも一切の無駄はなく、銃口を向ける速度も引き金を引くタイミングも最短だ。

 

後者に至っては照準が真紅のモビルスーツ―――ギルスを捉えた瞬間と引き金を引いた時の誤差も殆どない。洗練された早撃ち。

少なくともネルシェンが生きてきた中でこれ以上のものには出会ったことがない。

 

『甘い!』

 

だが、その早撃ちのモーションを認識している時点でネルシェンは発砲された粒子ビームを捉えている。即座に体勢を立て直して左腕に装備されているシールドで全て後方に弾いた。

軌道が逸れた粒子ビームはギルスの遥か後方のアステロイド地表面に着弾して爆発する。

 

それを背景にネルシェンは次なる攻撃に備えようとするが、相手に動きがないことに気づいた。彼女の瞳に映るサハクエルは次弾発射のためバスターライフルを構えていたが、そのまま静止している。おそらく初撃を防いだその隙を狙ったのだろう。

だが、ネルシェンもそれは読んでいた。

 

故に次の攻撃を回避し、【翼持ち】へと接近し、近接をしかけるつもりだった。それもおそらく許されることはないだろうが。

だが、それ以前に相手にはこれから行われるであろう激戦に移ろうという気が全くないらしい。それを察したネルシェンは当然落胆する。

 

『また以前のような寝言を吐くつもりか』

 

ビームソードの剣先を向けてくるギルス。挑発のつもりだろう、とレナは睨んだ。勘づいた彼女はその挑発に乗るつもりはない。至極冷静に返答を返す。

 

『冗談じゃなくて本気だよ。今もこの前と同じ気持ち、何も変わらない』

『ほう』

 

動揺を見せないよう嘘をつき、本心を隠すレナ。対するネルシェンは心の余裕の有無を見透かすように目を細める。

両者の間合いには緊張が走り、互いに動かない。睨み合いの硬直が続いた。

 

『以前、言ったはずだ。貴様のやっていることは一方的な押し付けに過ぎん。なぜそうなるか考えたことはあるか?』

『………っ』

 

ネルシェンの問いかけにレナは瞳孔を見開く。それは彼女が最も知りたいことだ。なぜ誰も耳を貸してくれないのか。どれほど戦場で叫んでも、イノベイドに問いかけてみても、なぜ誰も応えてくれないのか。

 

誰もがただ戦い、奪い合うだけ。もうレナにはこの先どうしたらいいのか分からない。答えがあるというのなら知りたかった。

レナの動悸が早くなり、喉につっかえ物があるかのように息を詰まらせる。その様子を感じ取ってネルシェンは"答え"を突きつけた。

 

『それは貴様が自分自身を理解していないからだ』

『………えっ?』

 

思わぬ回答にレナは意表をつかれたように困惑の表情を浮かべる。

そんな彼女の反応も気にせずネルシェンはたたみ掛ける。

 

『貴様がどこで今の愚かな考えを教え込まれたのかは知らんが、これだけは言ってやろう。貴様に他者との相互理解は不可能だ』

『そ、そんなこと……っ!』

『事実だ。貴様には向いていない。なぜなら、貴様の本質は私と……いや、この世界と同じ―――』

 

意志とは関係なく漏れているであろう荒い息遣いの相手に、一拍置いて告げる。

 

『―――力が全てだからだ』

 

ネルシェンの一言に呼応するようにギルスの瞳に光が宿り、ビームソードを構える。

対するレナは無意識に舵を握る手に力を入れていく。

 

『……違う』

 

呟く。

自身の意志とは関係なく増長していく力。それがレナ・デスペアを構成する全てなのか。

―――そんなことは、ない!

 

『違う!』

 

────《Zero Mode Burst System》────

 

レナの叫びに呼応するようにサハクエルの瞳に光が宿り、動き出す。

吹き荒れるGN粒子。

跳び退るサハクエルの手に握られたバスターライフルから放たれる粒子ビーム。それをギルスがまたもや弾く。

 

『そうだ。それでいい』

『見透かしたようなこと言って、わかったような態度を取らないで!』

 

ギルスが弾いた粒子ビームから僅かに遅れて次弾が既にギルスのフェイスプレートにまで迫っていた。ネルシェンは初撃に対応したと同時に次弾に反応し、次にきた粒子ビームをアステロイドから離れて大きく避ける。

両機ともに戦場を宇宙空間へと変えた。

 

『フルバースト!!』

『………っ!』

 

飛翔後、宇宙に漂う無数のアステロイドを利用して砲撃武装を全て展開したサハクエルが死角から一斉掃射をギルスに放つ。

ギルスはそれをアステロイドを盾に後退しながら回避した。

 

『狙い撃ち!』

 

だが、回避した先のギルスの周囲にはアステロイドに囲まれており、逃げ場が完全に消えていた。そこにアステロイドの影から姿を現した三基のウィングビットがギルスを補足し、狙う。

レナの得意な誘導攻撃だ。

 

『くどい!』

 

しかし、ネルシェンからすれば誰よりも見た光景だ。

彼女は【翼持ち】の戦い方を幾度のシミュレーションと敗北し続けた実践で熟知している。

 

故に即座にGNシールドに収容されていたGNヒートロッドを手に取り、粒子の熱を帯びた鞭を展開し、それを振るう。

すると、ヒートロッドは周囲を取り囲むアステロイドごとウィングビットを全て砕き、ギルスを檻の中から解放した。

 

『そんな……!』

 

力技で状況をこじ開けた敵機を前にレナが絶句する。

だが、動揺も束の間。

彼女も即座に次の手に出る。

 

『ならこれなら!』

 

ビーム砲を一斉放射し、僅かにタイミングをずらしてバスターライフルから粒子ビームを放つ。

至ってシンプルな射撃。ギルスは当然のようにビーム砲から放たれた初撃を回避し、次に迫り来るビームも難なく躱した。

サハクエルの抵抗も虚しくギルスは迫り来るその速度を落とさない。

 

『その程度で私の足を止められるものか!』

『……っ!』

 

瞳に血色の敵機の全貌がハッキリと写される程にレナの目が見開かれる。その目はギルスの姿、さらにその背後まで見通していた。

そう。ギルスの背中を狙う粒子ビームを。

 

『何……っ!?ぐあっ!?』

 

明確な被弾、レナを駆り立てそれを利用して優勢に立っていたネルシェンが与えられたダメージに苦しむ。

背部に直撃した粒子ビームにより、ギルスは体勢を崩し、サハクエルへと無様に無防備で突っ込んでいく。

サハクエルはそれを後方に飛来して避け、バスターライフルの銃口をギルスへ向けた。

 

『ぐっ……!』

 

さらけ出してしまった大きな隙を当然のように逃さないサハクエルの銃撃。

粒子ビームの連射をギルスの力任せの推力で後方へ退り、避ける。

立て直しはしたもののネルシェンは内心で焦っていた。

先程の背後からの攻撃。そのカラクリが全く分からない。

 

恐らくタネは先に放った二度に分けた射撃。あの時、ネルシェンは当然のように回避を選択した。

それが不味かったか?

しかし、あれを防御したとてカラクリを破れるか?まずなぜ回避したはずの攻撃が背後から?

思考すれば思考するほど堂々巡りの嵐が脳内で暴れる。それでも尚、ネルシェンは熟考をやめなかった。

 

『さっきの言葉、撤回して……!』

『………っ!』

 

再びビーム砲が展開され、砲口が煌めく。

次の瞬間、今度はそれぞれが放つ粒子ビームが全て違うタイミングでギルスへと向かってきた。ネルシェンは即座に防御に意識を切り替えて、対応する。

 

『全ては防ぎきれん!』

『はあっ!』

『何!?』

 

捌ききれなかった粒子ビームを目で追おうとしたネルシェンは、ビームの軌道に意識を奪われて迫り来るサハクエルに対して反応が遅れた。

サハクエルはビームサーベルを抜刀し、ギルスへと斬り掛かる。

 

『不意を付けば私を討てるとでも思ったか!』

 

完全に隙を突かれたが、ギルスは即座にビームソードを抜き、対応する。

ビームサーベルの刃は僅かにギルスの胴体へは届かず、ビームソードの刃に阻まれた。

 

『貴様……!』

 

4年前よりかは幾分かマシになったと言える翼持ちの接近戦。

それでもネルシェンに及ぶほどのものではないことをレナも理解している。

そして、ネルシェンもレナが理解していることを理解している。

 

この状況でそんな接近戦をレナから仕掛けてくるのはある意味素晴らしい一手だった。

粒子ビームに気を取られていたネルシェンにレナも気付き、接近戦でギルスの動きを止める。

 

さらに『翼持ちは接近戦を仕掛けてこない』というネルシェンの中で固定概念があったが故にその拘束時間は最短には程遠いものとなってしまった。

そして、次の一手が先程と同じ粒子ビームであることを予測し、唇を噛むネルシェンはレナの狙いに勘づいた。

 

『そうか!貴様まさか……ぐぅっ……!』

 

背後からの被弾。

またしても同様のパターンを繰り返してしまった痛恨のミス。

ネルシェンはモニターからギルスの出力を確認し、予測通りのことを目の当たりにして目の前の翼持ちのツインアイを睨んだ。

 

『ギルスの足を止める気か!』

『やあっ……!』

『ぐっ!』

 

直後に腹部に入ったサハクエルの蹴りと追撃のバスターライフルとビーム砲から放たれる粒子ビーム。ギルスは破損したバーニアやブースターから火の粉を散らしながらシールドを構えて受身を取る。

しかし、ここで再度距離を取られたのはネルシェンにとって痛い。

 

まだ完全ではないとはいえギルスの機動力が落ちた今、サハクエルに追いつけるかどうかも怪しい。

幸い、ネルシェンが確認した限りではサハクエルを遥かに上回る機動力は失ったものの同等の機動力はまだ有していた。

 

『初手で機動力の差を潰したか。常に最良の手を打つその頭の回転の早さ、それを実行できる圧倒的な力……まさしく私の求めるものだ』

『またそんなこと……!何度も言わせないで!力だけが私の全てじゃない!』

『ほざけ!』

 

ビーム砲を展開し、バスターライフルを構えるサハクエル。

それぞれから段階的に放たれる粒子ビーム。

ネルシェンは敵機に吐かせたその一手を無駄にしないよう、即座に打てる手を思考し、選択した。

 

裏ではここで畳み掛けて手を引き、味方のために元の宙域へと戻る算段をしていたというのに、彼女の煽りに本心で応えてしまったレナは先程有効だと分かった手に頼よりきってしまったことに気付かず、無意識に実行してしまった。

ネルシェンはせっかく用意したこの舞台を逃さまいとしたことに成功し、罠にかかったレナに思わず口角を緩める。

 

『見抜けずとも……何度も同じ手には掛からん!』

 

第一段階、最初に迫り来るビームをなるべく防ぎ、後になって背後から来るであろう粒子ビームの数を減らす。

次にカラクリを見破りに行かず、先程のようにサハクエルの接近を許すようなミスはおかさまいとギルスは右腕に装着されたビーム砲から粒子砲撃を放ち、サハクエルに接近の隙を与えない。

 

向こうも簡単に当たる的ではないため、当然のように回避され、バスターライフルによるビーム追撃が来るが、それをシールドで防御。

そして、背後から迫る粒子ビーム―――それをギルスは振り返ってシールドで弾いてみせた。

 

『なっ……』

 

完璧なタイミングで対応したギルスにレナが思わず驚愕で目を見開く。

相手の動揺を感じ取り、ネルシェンは通信を投げかけた。

 

『防ぐ分にはカラクリを知る必要はない。最初の射撃と背後から来る粒子ビームの組み合わせパターンを覚えさえすれば攻撃を予測できる』

『そ、そんなこと……っ』

 

確かに防ぐだけなら彼女の言う通り、パターンさえ暗記できれば不可能ではない。

しかし、暗記できれば、の話だが。

あまりの衝撃にレナは狼狽する。それが大きな隙であることに気付くのは充分な隙を漏洩してしまってからだ。

だが、そんなことに陥ってしまうのも無理はなかった。

 

なぜならネルシェンも言うパターンとはおよそ暗記できる量ではないからだ。カラクリを理解していれば余計にそう思える。

レナの躱したはずが背後から返ってくる粒子ビームのカラクリは端的に言えば屈折を利用したもの。

粒子ビーム同士で衝突し合い、その弾みで起きた爆発により、もう一筋の粒子ビームが爆風で屈折する。

 

レナは最初に起こる爆発の規模、ビームの屈折タイミング・角度、跳ね返りその後に伸びるビームの射程、その全てを調整している。

全て分析し、計算するその数は膨大。レナでさえ状況に合わせて最適なルートを算出しているだけであって、全てのパターンを覚えている訳ではない。

 

当然、そんなカラクリを半分程度も見破れていないネルシェンはもっと不可能である。

そこでレナは自身の失敗に気づいた。

ネルシェンは決して全パターンを覚えたわけでも、算出したわけでもない。レナがミスをしたからこそ、防げたのだ。

レナが先程勝負を焦って放ったパターンは一度目に彼女に見せたパターンと全く同じだ。とっさの行動で、異なるパターンを算出せず、同じパターンを雑に放ってしまった。

 

だから、ネルシェンはそれを防げたのだ。

ならば問題はない。異なるパターンならば彼女は対応できない。

それに、宇宙空間ならば背後の爆発の音は響かない。

この戦場が地上で、相手が同じネルシェン・グッドマンならば、彼女ならば恐らく爆発音から導き出してカラクリを見抜き、爆発音の規模でパターンを予測し、対応してくる。

しかし、ここは宇宙空間。レナの方が有利な状況下にある。

 

―――そこまで考え着くのになぜここまで時間が経ってしまったのか。

―――否、どうしてこんなにも悠長に思考してしまったのか。

―――ここは戦場、今は戦闘中。そんなことを忘れて思考に耽ってしまったことに今更なぜ気付いたのか。

全てが遅かった。レナは熟考の間、大きな隙を晒していたことに今更ながらに気付いた。

そして、もう既におそらくビーム砲から放たれた砲撃クラスの粒子ビームが目の前に迫っていた。その強い光が目前まで迫り、視覚を覚醒させたことでレナは我に返った。

 

『あっ……!』

 

現実に戻ったレナはついさっきまで操縦舵に添えていただけのマヌケな自身の手の神経に刺激を与え、急いで倒した。

すると、サハクエルは咄嗟のところで極大の粒子ビームを避けたが、反射で利き手側に回避したのを相手に読まれ、ビームソードを手に待ち受けていたギルスと目が合う。

 

『マヌケめ』

『………っ!』

 

バスターライフルを構えるが、もう遅い。

レナは全てがスローに体感される世界で、瞬時に判断を下した。

ただの反射だが、以前は射撃以外はめっきりだったことが幸いし、レナにはバスターライフルを守る本能が備わっていた。

自身の一番の武器を失う訳にはいかない、そう神経に呼びかける本能により、サハクエルはバスターライフルの破壊を防ぐために銃身を胸の前まで畳み、右翼側のウイングバインダーを盾のように前方に畳んだ。

 

既に間合いに侵入しているギルスが振り下ろすビームソード。その刃がバスターライフルへと迫る前にウイングバインダーは身代わりとなり、ネルシェンはその入れ替わりを見て即座にビームソードの出力を上げた。

いわゆるハイパービームソードとなった刀身はさらに長く、厚くなり、熱量も上がった。その刃は容易に厚みのあるウイングバインダーの入刀に成功し、いとも容易くウイングバインダーを裂いていった。

 

だが、瞬時な判断で飛ばした刀身もバスターライフルへは届かず、微かにサハクエルの右腕に掠り、ウイングバインダーを完全に両断した上で、ようやくその勢いが止まった。

振り終えたハイパービームソード。両断されたウイングバインダーの断面が開かれ、盾となったウイングバインダーが隠していたギルスのツインアイが煌めきを灯してサハクエルを捉える。

その凍りつくような視線にレナは冷や汗を背に思わず息を飲んだ。

 

『なるほど、それを捨てるか。宇宙(そら)ならば当然の選択だ』

『………っ!』

 

地上では平衡感覚を調整し、保つために使用するウイングバインダー。宇宙(そら)では威圧などに使える程度の飾りでしかない。

折れた翼。片翼を失い、レナは後退しようとする。

だが、それを逃がすギルスではない。

 

『ガンバレル!ウィングビット!』

『無駄だ!』

 

ギルスの進行を阻もうと誘導兵器たちが果敢に挑んでいくも、ビームソードで全て両断されていく。

誘導兵器を破壊したことによる爆発の中を意に介さず推進していくギルス。

その装甲は分厚く、零距離ならまだしも爆発を直接喰らわなければ、その余波程度の衝撃ならばダメージもなく、パイロットに大して負荷も掛からない。

 

それをいいことに強行突破したネルシェンだが、レナは敵機のデータをある程度の把握していた。

初遭遇時、そして戦闘中も収集をやめず、常に情報は更新していく。

当然、レナは敵機の強度も理解していた。それを利用してくるであろうネルシェンの心理も。

故に誘導兵器を差し向け、それを斬り伏せさせることで爆煙を煙幕代わりにして巻いたのだ。

相手が思っているように無駄な抵抗、多少の障害などの意味は一切込めていなかった。

 

『何っ!?』

 

視界を一瞬遮った煙幕を切り分けて飛び出たギルス。

突如、目の前に広がった光景にネルシェンは意表を突かれ、驚愕した。

待ち構えていたのは腰部のビーム砲を展開していたガンダムサハクエルの姿。その内蔵が変動し、銃身に込められる弾がビームから実弾に代わる。

レール砲と化したその装備の砲口はギルスのコクピットに一寸違わず照準が合わせられていて、ネルシェンが認識した時には既に発砲され、ギルスに実弾が命中していた。

 

『ぐう……っ!?』

 

強い衝撃。

粒子ビームと違い、物理威力の高い実弾だったため、ギルスは突き飛ばされるように後退を強制された。

その勢いは推進力で支えても無にはできない。

大きく隙を見せたギルス。それを見逃しはしないサハクエル。

レナは即座にその距離を詰めようと舵を前に倒そうとした。

 

「ミンナキケン!ミンナキケン!」

『えっ?』

 

耳を開閉させ、警告を知らせる黒HAROにレナの動きが止まる。

それは同時にサハクエルの動作停止に繋がり、ネルシェンがそれを見逃すことはない。

 

『逃がしはせん!』

『……っ!』

 

ギルスの左腕から射出されたワイヤーがサハクエルに向けて放たれ、ピアサーロックに内蔵された小型ブースターによりワイヤーはサハクエルの腕の周りを周回し、その腕に巻き付き両機を繋ぎ止めた。

腕に巻きついたワイヤーにレナは目を見開く。ダメージを負い、実弾による衝撃を与え、体勢を立て直すのにも時間を要するはず。

だが、そのレナの計算はひとつの武装によって砕かれた。

 

ピアサーロックを放ったギルスの左腕。そこに装備されたシールドは通常のGNシールドではない。

レナは判断材料は少ないが、ギルスの持つ特殊なシールドが実弾の衝撃を吸収したと考えた。逆を言えばそれ以外の可能性を導き出せなかったのだが現実はその予想が的中していた。

ギルスの装備するシールドは通常のGNシールドと同じくビームも防ぎ、実弾による被弾のダメージも吸収するいわばハイブリッドシールド。故にレナが想定していたほどギルスを突き放せていなかった。

 

『どうして……』

 

サハクエルとギルスの推力(パワー)はギルスが先の被弾で落ちて、互角。両機を繋ぐワイヤーがどららになびくでもなく、引き合いは均衡が続き、今にもギチギチと音が聞こえそうなほど張り詰めている。

睨み合う両機、一刻も早くこの場を離れたいレナは責めの意味を込めた歪めた表情でギルスのツインアイを見る。

 

『どうしてそこまで私にこだわるの……!私が4年前、ネルシェンさんを倒したから?だから、私に固執するの!?』

 

レナの悲痛な叫びにネルシェンはサハクエルとの綱引きを継続しながら応じる。

 

『そうだ。貴様は4年前、私から私が唯一持っていたものを奪った。この世界は力こそが全て。強き者が奪い存在を赦され、弱き者は奪われ存在を赦されない。貴様は私より強かった!故に貴様に虐げられた。だが、この機体を手に入れることで私は貴様への挑戦権を得たのだ。この機体を使って私は貴様を倒し、強さを手に入れる!この世界で生きるために……!!』

『私だって何度も奪われた!私は強くなんかない!私を倒しても何も変わらないよ!そうやって……奪われては奪って、それを繰り返して……結局みんな滅びるのが望みなの!?』

『滅ぼすのはいつも貴様たち強者だ!力にものを言わせて貴様たちは多くを奪ってゆく!弱者は淘汰されるもの……この世界に弱者の居場所などない!父に母、この世界を生き抜くための強さ……貴様たちは次に私から何を奪う!そうなる前に貴様を超えて私は本当の強さを手にするのだ!!』

 

はち切れそうになりながらも均衡するワイヤーの引き合いとは逆に激化する両者の意思の衝突。

両機の繋がりを切断しようとビームサーベルを取り出す思考を巡らせたレナだが、それにより生じたサハクエルの予備動作で相手の思惑に勘づいたネルシェンはワイヤーを引く。

 

腰部にマウントされているサーベルの柄に手を伸ばそうとしていたワイヤーに絡まれた腕とは別の手は、サーベルの抜刀をしようとするレナの意識が分散されたことにより油断し、ギルスに引かれてそれどころでなくなる。引き負けそうになったことでもっていかれそうになった身を引き戻すために意識を引き合いに戻したレナは焦りと共に元の均衡に戻そうと力を入れ直すが、押しとどめるので精一杯。

 

一切気の抜けない綱引きのおかげで操縦舵から手を離せなくなったレナには腰部やウイングバインダーにマウントされた火器を展開する手段もサーベルと同じ原理でライフルも取り出す手段もない。

唯一使える筈だったマシンキャノンは破損。完全に手詰まりになってしまった。

 

否、一つだけ打開策は存在する。

トランザムシステムによる出力向上で引き合いに勝ち、加速を利用して衛星に叩きつけるか、または引き離す手段だ。

これならば上手くいけばそのままギルスを置いて元の宙域へと戻り、みんなと合流することができる。

 

だが、その手段に移行しない理由も存在する。

それは万が一引き離すことに失敗した時、具体的にはネルシェンが何らかの対応で乗り切った時だ。

正直そんな事態に陥る可能性は通常ならばほぼ無いに等しい。が、相手はレナを幾度となく苦戦させ、人の手で生み出されたとは思えない規格外のモビルスーツを持ってきた人物だ。

 

そんな非常識な人間を、それもかなりの技量を持つ彼女を前にして必ず成功する確証はどこにもない。

自信が無い訳では無い。一応、自分の力をコントロールできない現状でもトランザムのアドバンテージがあればコントロールできる範疇でこの状況を打破できると予測している。さらに、切り離すだけならば、相手を完封させなくてはいけない状況に追い込まれない限り、力加減を誤って殺しに発展してしまうことはない……筈だ。

 

(だったら……)

 

間違いなく使うのが吉。既に確証に近いのは明確だ。

あとは、レナの決断次第。

トランザムを使うかどうかはトラウマを超え、今の自分自身を信じることと同義だ。

今のレナにそれができるか。正直、不安だ。

 

だが、レナの心はほぼ使用することに傾いていた。

当然といえば当然だ。ここでネルシェンを引き離さなければ、みんなを救うことができない。

みんなを失うくらいなら、自分の決断不足で仲間を見捨ててしまうくらいならば。

 

---例え、自分が壊れたとしても後悔はない。

 

『さぁ、どうする?向こうの戦況もかなり変貌してきたようだぞ』

『………っ!』

 

ネルシェンの一言にレナは動揺をどうにか唇を噛み締めることで表に出すことを押しとどめる。綱引きにもその影響が及ぶのをなんとか防いだ。

彼女の言葉でレナは確信した。トランザムを使用すること、それは相手の思う壺であり狙いであることを。

当然ネルシェンも共に引き連れてきたイノベイド達から元の戦場の情報を得ることができる。

 

故に彼女が状況を認知していることに不思議はない。

しかし、レナからトランザムを引き出すことを狙う理由がわからない。

どう転がっても相手に得はない、とは言い切れないが少なくとも先程のレナの思考でもあったようにトランザムを使用したとしてもこの状況を打破する上では四年前の前回の対決のように暴走する可能性は低いことをネルシェンも把握している筈だ。

 

つまり、なぜトランザムを引き出した場合にネルシェンが不利になる可能性の方が明らかに高いことを知っていながらそれを望むのか、レナには理解できない。

狙いはない。自身の計算が正しければ、そう言い切れる。なら計算ミスをしている?そんなはずは……ないと思いたい。

ならばどうして---どうして---。

 

(どちらにせよ、使うしかないでしょ!?今の私にできる思考は全部した!分からないことは考えても仕方ない。とにかく、みんなを助けるにはトランザムに頼るしかない……!)

 

考えに考えた末、行き詰まった人間は爆発(パンク)する。

ショートしたレナはここまで書き続けた原稿を全て白紙にデリートするように分からない方に蓋をして、自分の納得のいく結論を無理やり叩きつけた。

すなわち、相手に狙いはない。ただの揺動、罠があるとわかったレナにトランザムという切り札を切らせないようにするためのデマカセだと。

例え罠でも構わない。ヤケクソになったレナはトランザムシステム作動のスイッチに手を伸ばす。

 

(そうだ、使うがいい。使え……!四年前、私に見せたあの輝きを。貴様の本当の強さを解放しろ……!)

 

レナが操縦舵から手を離したことで敵機の引き合いが弱くなったことで、ネルシェンも相手が思惑通りに動くことがわかった。

力みが消えたサハクエルが摂理に従い、ギルスへ勢いよく引き寄せられると同時にネルシェンも次の行動へのシフトを脳内で身体に命じる。

 

それは、無防備に迫るサハクエルへの攻撃……ではなく、彼女もまた端末へと意識を移しつつサハクエルの次の一手を待っていた。

どうせ無防備なのは一瞬。だから、攻撃の仕草を見せないことにレナは違和感を覚えなかった。

そうして二人の思惑が交差する。

 

 

 

『トランザム……!!』

 

 

─────《TRANS-AM SYSTEM》─────

 

 

刹那、ギルスの前から赤い粒子を残して姿を消すガンダムサハクエル。

ネルシェンは肉眼でそれを確認し、即座に操縦舵を強く握り、体感を意識する。

サハクエルが力負けしたが、それも一瞬。ギルスは凄まじい力で引き込まれ、気づいた時にはアステロイドが目前に迫り来る。

 

ギルスが今まさにアステロイドに叩きつけようとされる時、事前に備えていたネルシェンは全てがスローモーションに捉えられていた。

最初の衝撃には耐え、アステロイドを捉えたその瞬間に片手を操縦舵から離し、スイッチに触れた。

 

そして---両者を繋ぐワイヤーは突如切断され、サハクエルは一機のモビルスーツを振り回していたその感覚を失った。レナの肉眼に映る見覚えのある赤い粒子を残して。

 

『えっ……?』

 

赤い粒子を確認して瞠目するレナ。理解が追いつかないことよりも先に危機感知が働き、周囲にその姿を探す。

すると、先程まで近くにいた機体が遥か離れた場所から迂回してこちらへと飛行機の頭を向けて進行してくる機体を確認した。

それを目にしてレナは初めて状況を飲み込み、動揺する。

 

『そんな……どうして……あれは……!』

 

こちらを、サハクエルを目掛けて加速するギルス。

オリジナルの太陽炉を所有するソレスタルビーイングのガンダムを除いて現状、トランザムを使用できるそのアイデンティティを持ったガンダムはサハクエルのみのはず。

しかし、レイの持っていた本来の歴史を記す物語、それを記憶したもので想定されていた時期より遥かに早い登場にレナは絶望する。

見間違いではない。確かにそれは―――

 

『トランザム!?』

 

驚愕から一拍の余裕すらなく、赤い輝きを纏う両機は衝突を目前にする。

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