息抜きで書いたイノベイター転生   作:伊つき

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タグに『オリキャラ』を追加しました。
前回は前書きに注意書きで書こうとして忘れてしまい、申し訳ありません。
1stにおいて登場するオリキャラはあと1人、合計2人出す予定です。
オリジナルのMS、ガンダムも少しだけ考えています。
苦手な方はブラウザバックをお勧めします。


初陣

ソレスタルビーイングの武力介入から早4ヶ月。

その間に介入行動した回数は60回。

ソレスタルビーイングの行動を支持する者もいれば反対する者もいる世の中、どちらにせよ戦争を望まないことには一致していた。

ユニオンやAEUは同盟国領内の紛争事変のみソレスタルビーイングに対して防衛行動を行うと公表。

しかし、モラリア紛争以来大規模な紛争は一度も起きていない。

そんな中、唯一ソレスタルビーイングに対して対決姿勢でいる人革連ではある匿秘作戦が決行されようとしていた。

 

確かリボンズのナレーションでそんなことを言っていた気がする。

人革連(ブラック企業)の頭はいつまでも堅いようだ。

作戦の主軸を担うスミルノフ中佐の専任特設部隊『頂武』である俺やソーマ、他の精鋭達。

招集された全員が隊列を組んで前に立つスミルノフ中佐の宣言を聞く。

 

「特務部隊『頂武』隊員諸君。諸君らは母国の代表であり、人類革新連盟軍の精鋭である。諸君らの任務は世界中で武力介入を続ける武装組織の壊滅、及びモビルスーツの鹵獲にある。この任務を全うすることで我ら人類革新連盟は世界をリードし、人類の発展に大きく貢献することになるだろう。諸君らの奮起に期待する!」

 

スミルノフ中佐の言葉に敬礼する『頂武』の精鋭達。

三国家群の中で唯一対決姿勢である人革連は私設武装組織ソレスタルビーイングに対して本格的な作戦に出た。

指揮官はロシアの荒熊、または俺の上司のセルゲイ・スミルノフ中佐。

最終目標はガンダムの鹵獲だ。

 

作戦は通信子機を人革連の静止軌道衛星領域にばら撒き、プトレマイオスまたはガンダムのGN粒子によって通信子機の接続が途絶えたところを探り出す。

通信の遮断はすなわちプトレマイオスかガンダムが居るということ。

つまりは物量作戦だがかなりいい的を射ている。

さすがはロシアの荒熊、スミルノフ中佐。

本筋でもこの作戦でトレミー等は苦しめられた。

 

この物量作戦の要を中佐専任の部隊『頂武』が担っており、もちろん俺も重要な役割を持っている。

まだ作戦は始まってはいない。

準備段階中、俺はアレハンドロとリボンズの手回しで手に入れたティエレンチーツーを見上げていた。

ライトに照らされる専用の機体。

暗転している赤い瞳が俺を捉えている。

 

「……」

「デスペア少尉」

「ソーマか。どうした?」

 

出撃前に緊張を抑えているとソーマがやって来た。

確かソーマは俺と同じ部隊なので一緒に居ても問題はない。

 

「これがデスペア少尉のMS(モビルスーツ)…」

「あぁ。射撃が苦手だってのに加速砲なんてもんを積んでるらしい。弾数は5、当てられる気がしないな」

「それは…上には進言しなかったのか?」

「折角用意して貰ったんだ。無下にはできないだろ」

「……少尉は優しいのだな」

「そんなことないさ」

 

優しいなんて事はない。

なんなら内心でめっちゃ文句言ってる。

リヴァイヴは俺の何を見てたんだって。

後からヒリングに聞いた話じゃ何かに絶望し過ぎて最近あまり気分が宜しくないらしい。

よく、酷いものを見た…、と呟いているらしい。

そんなにか。

流石に泣きそう。

 

まあそんなわけでリヴァイヴからリボンズには何も伝わってないらしい。

酷い話だ。

原因は俺だが。

ソーマと暫く雑談しているととある男が訪れた。

『頂武』に所属しているなら誰でも知っている者だ。

 

「ピーリス少尉、デスペア少尉。出撃前に緊張でもしているのですか?」

「ミン中尉。今作戦はよろしくお願いします!」

「中佐が信頼する手腕、私も足を引っ張らないよう尽力致します!」

「そんなに畏まらなくても良いですよ」

「はっ!」

 

現れたのはミン中尉、スミルノフ中佐の副官で優秀な上司だ。

真面目な男だが実はかなりいい上司。

原作ではハレルヤに殺されていい所なし、人物像も掴みにくいが中佐が頼りにする程の手腕を持ち、操縦能力も『頂武』の中では上位だろう。

俺やソーマ、スミルノフ中佐を抜けば次に実力のある頼れる上司だ。

 

なんで人革連はこうも優れていて良い上司が集まるのか不思議だ。

ブラック企業は人材を雇うのが上手い。

良くあるよな、ブラック企業程優秀な上司が酷くこき使われている光景。

どうでもいいか。

 

「大規模作戦になりますが、どうか肩の力を抜いて。発揮できるものもできなくなってしまうから。二人には期待していますよ」

「ミン中尉…恐縮です」

「ありがとうございます」

 

ミン中尉の言葉に敬礼する俺とソーマ。

ソーマはどうか知らないが俺は重要な戦力として見られていることに緊張していた。

出撃前にこうやって声を掛けてくれる上司がいるのは有難い。

この後死んでしまうことになるなんて考えたくない。

本当にいい上司だ。

 

「では、これにて。共に頑張りましょう」

「了解…!」

 

微笑みを残してミン中尉は戻って行った。

中尉は中佐の副官だけあって忙しい。

だというのに俺達に声を掛けにくれた。

思い返すとなんて素晴らしい人だ。

もう何度目でも言おう、いい上司だ。

 

「ミン中尉の期待に応えるためにも頑張らなきゃな…」

「あぁ」

 

ソーマが頷く。

超兵としてではなく、部下として接してくれるミン中尉。

もちろん能力を評価しているけどそれでもそういう存在は割と少ない。

ソーマの目からしてもミン中尉は頼もしい上司なんだろう。

 

ソーマのスーツに関しては弄ってしまったが、今回は本筋通り進めなくてはいけない。

俺が下手に介入すると改変が起きてしまう。

その為には例え信頼している上司でも犠牲にしなくては。

勿論辛い、だが非情になることで最悪の結末を回避できるかもしれない。

 

改変で必ずしも本筋より良い方向にいくとは限らない。

寧ろその逆の方が実例は多い。

人革連、『頂武』のメンバーである限り物量作戦の参加は免れない。

本来ならこれだけでも介入し過ぎなんだ。

変な感情論を持ち込んでバットエンドなんて笑えないからな。

 

「デスペア少尉?」

「ん…なんだ」

「いや、考え事をしているように見えた」

「あぁ…ちょっとな。大したことじゃない」

「そうか」

 

ソーマに見抜かれてしまった。

ダメだな、どうも表情に出てる。

まだまだ甘い。

転生者なんだ、少しくらいは弁えないとどう影響が出るか分からない。

軍人や超兵はやはり鋭い。

本来は一般人の俺から見抜くのは簡単なことなんだ。

葛藤するのも極力減らさないといけない。

非情になり切れないのは駄目という残酷な世界だ。

誰だ、転生なんてさせたやつ。

……今更か。

 

「初陣だ。お互い緊張してると思うがサポートし合おう」

「私に緊張はないが、任せるがいい」

「そうか」

 

淡白ではあるが決して冷たいわけではない。

そんな感じのソーマの対応。

確か物足りない初陣となったという中佐の台詞にそのような気持ちはない、作戦を完遂することが全てとか言ってたな。

兵器として扱われてきたわけだし、『超兵』であるという自己意識が高い時期だから仕方ないっちゃ仕方ないな。

多少の改変はあれども本質は変わっちゃいない。

俺は隣にいるソーマに声をかける。

 

「ソーマ。1番大切なのは生きて帰ってくることだ。忘れるなよ」

「だ、だが作戦を完遂させることが私の……」

「いいから、約束だ」

「やく、そく……」

 

反復するように呟き、俯くソーマ。

俺はソーマの顔を覗き小指を立てる。

 

「な…?」

「……うん」

 

戸惑いながらもソーマはゆっくりと小指を絡めた。

 

「いい子だ」

「……」

 

本当に愛いやつだ。

ソーマを再度撫で、微笑む。

上手く笑えたか不安だが確認出来ないからどうしようもないな。

ソーマの表情はよく見えないがこれで少しは生きることを優先してくれるかな。

そもそも俺がいる時点で改変が起こる危険性はある。

そんなことでソーマには死んで欲しくない。

必ずアレルヤに会わせてみせる。

 

それはそうともうすぐ作戦が始まるのでソーマを後ろに従えて行動を開始する。

それにしてもどうもソーマに構ってしまう癖がある。

……妹と歳が近いからかもしれない。

ダメだな。

別人と別人を重ねるのはよくない。

反省するとしよう。

 

『緊急出撃準備。0655より一番艦から順次出撃する。全搭乗員は加速に備えよ。140秒後に緊急加速を開始する!』

 

オペレーターからの通達が入る。

俺は既にティエレンチーツーに乗り込んでおり、機体の状態を確認。

すると、ミン中尉から通信があった。

 

『デスペア少尉。全周囲モニターのシステムに不備はありませんか?他にも確認してください』

「オールグリーンです。出撃準備完了しました」

『了解。武運を祈ります』

「はっ!中尉こそご武運を」

『ありがとう』

 

ミン中尉との通信を終え、出撃に備える。

ちなみにティエレンチーツーは元々複座式だが、俺の専用機として改造が施され、単座式になっている。

本来は前部座席だけに全周囲モニターがあったが、改造後も変わらず採用。

広い視野を持っている。

射撃が下手な俺からしたら回避行動は命、とても有難い。

 

ティエレンタオツー、ティエレン全領域対応型のプロトタイプにあたるこの機体。

タオツーが完成したことにより他にも改良は施されている。

 

『全艦、加速可能領域に到達。加速開始します』

 

そんなチーツーやソーマのタオツーなどの機体を載せた艦を含めて加速した。

プトレマイオスとの距離を縮め、作戦を開始。

 

その後、通信遮断ポイントが2箇所増え、トレミーはガンダム2機を出撃。

生憎人革連側なので本筋通りキュリオスとヴァーチェなのかはわからないが、状況から見てそこの改変ないだろう。

スメラギが指示を変える要素がない。

 

ガンダム2機による陽動に中佐は陽動で応え、一番から三番艦はモビルスーツ全機発進。

二番、三番の操舵士を自動操舵に切り替えブリッジ分離の後、基地へ帰投させ、三番艦に第三通信遮断ポイントをトレースするのを忘れるなと的確な指示。

心底中佐が味方で良かったと思う采配だ。

 

一番艦後方でMS(モビルスーツ)部隊が縦列隊形となり、二番、三番艦はブリッジを分離後に各々第二、第三通信遮断ポイントへと向かう。

本筋を知っていれば分かる通り、無人艦を2隻、ガンダムキュリオスとヴァーチェにぶつけたのだ。

2機が無人艦を相手に時間を取らせる作戦はそのままだ。

ちなみにこちらの艦船は多目的輸送艦EDI402ラオホゥが4隻だ。

これも変わっていない。

 

電磁波干渉領域に自らトレミーが移動しているため、キュリオスとヴァーチェへの通信は不可能。

中佐はそこまで計算しているのだろう、陽動は後から出た指示だからな。

おそらくこの調子ならプトレマイオスがオービタルリングの影に隠れるのも変わらないだろう。

司令塔にいない俺には当然連絡は入ってこないが、これで中佐がプトレマイオスを初めて映像に捉えることになる。

 

ソレスタルビーイングの組織力にさぞ驚くだろう。

イオリアの時代から計画されていたことだ。

仕方ないとしか言えない。

イノベイターもその一部だから元を辿れば俺はイオリアによって作られたことになるのか。

ふざけんな。

 

と、まあ俺の出番はキュリオスを鹵獲する時まで無い。

目的地に向かいながら食ってるゼリーが美味しい。

二番、三番艦によりガンダム2機が足止めを喰らい、残ったラオホゥ1隻とMS(モビルスーツ)部隊がプトレマイオスへと向かっている。

スミルノフ中佐の采配によりスメラギの戦術プランは失敗、挟み撃ちは出来なかっただろう。

 

無人艦が特攻、デュナメスによって破壊。

しかし、無人艦の後ろに隠れていた36機のMS(モビルスーツ)部隊が出現。

等など戦況が入ってくる入ってくる。

ここまで本筋通り、改変は起きてない。

 

「こりゃ今回は大丈夫そうだな…」

 

なんとか安心だ。

操縦中のティエレンチーツー操縦席で安堵する。

無人艦の特攻が失敗したことからデュナメスはやはりプトレマイオスの防衛に徹している。

万全かどうかは現場にいないのでわからないが、どちらにせよ防衛には回るだろう。

まあ戦況から見て万全ではないと思うが。

 

エクシアとヴァーチェに関してはどちらがどちらか分からない。

判断材料としては本筋ではヴァーチェが潰す予定の無人艦だが戦闘時間を見ても微妙、元素人の俺にはよく分からん。

そして、ティエレンチーツーのモニターに映るのは機雷群に気付くも持ち前の飛行能力によって回避できずに突っ込んでしまう機体が1機。

 

羽付のガンダム、ガンダムキュリオス。

まさか再戦する羽目になるとはな。

まあ本筋通りなら戦う必要はないが。

中佐の指示で向かった場所に罠に掛かるキュリオスを捕捉。

確実にガンダムを鹵獲するために組まれた部隊が隊列を組んで向かう。

 

『ガンダムを確認した。行くぞ、ソーマ』

『了解』

 

ティエレンチーツー、タオツーその他ティエレン。

俺がいるが経過を見るに改変はないと信じたい。

ならばこれから改変が起こる可能性は俺が何かしらの行動を起こした時だ。

キュリオスが鹵獲された後、四番艦に収容することになる。

本筋ではアレルヤがハレルヤになり暴走、四番艦が内側からが破壊され、作業兵など多くの命が――仲間が死んでしまう。

ミン中尉も、折角出会った良き上司ではあるがハレルヤに殺されなければ改変の危険性がある。

 

そうだ、非情に。

非情にならなくてはならない。

知っているからといって行動を起こしてはいけない。

俺がやるべきことは、やらなきゃいけないことは決まってるんだ。

この世界に転生して最初に考えた事は世界の鑑賞だ。

それ以上でも以下でもない。

戦うのはリボンズの差金であってそれ以上の意味はない。

生きる為というのも戦いが当然の上での回答だ。

 

まったく、とんだ皮肉だ。

ソーマに生きろと言った癖に俺は命を見捨てる。

今思うと笑えてくる。

自分で巻いた種で苦しむとは酷い有様だ。

だが、どうしようもない、してはいけない。

だから俺はティエレンチーツーでキュリオスへと近付く。

 

『くっ……うぁ…っ!』

『……非情にでもなんでも、なってやる』

 

俺はアレルヤの苦しむ声を耳に入れながら覚悟を決めた。


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