リリカルな戦闘民族 (ドラゴンボールZ×リリカルなのは)   作:顔芸の帝王

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第十八話 正体

(ごめんなさい…バーダックさん)

 

そんな言葉が無意識に頭の中を駆け巡る。あきらめようなんて気は毛頭ない。そんな事をすればなのはを見捨てる事になってしまう。しかし頭では分かっていても絶望的な状態を前にどうすることも出来なかった。

 

(約束守れない…かも…)

 

人間としての本能が無意識に目を閉じさせ、全身の筋肉が萎縮する。しかし、いつまでたっても来るはずの痛みがない事に困惑しつつ瞼を開くと、目の前に馴染みのある背中があった。

 

「バ、バーダック…さん…?」

 

「全く…手間をかけさせやがって…」

「なっ、てめぇは…!」

「貴様は地下に向かったはず…何故こんな場所に…」

「フン…知るかよ。てめぇらがチンタラやってっからだろ?」

「ククッ…愚かな。こいつらを助けに来たつもりか?貴様が来た所で死ぬ時が少しばかり延びるだけだ」

「…随分と大口叩くじゃねぇか。だったらかかって来いよ!」

「言われなくともそのつもりだ!」

 

互いに戦闘態勢を取り直し、今まさに戦いの火蓋が切って落とされる──そう思われた時だった。

 

『お二人共、もう結構ですよ』

「なっ…」

 

彼らの仲間からだろうか。通信があったようだがどうにも様子がおかしい。目の前の二人は先程の強気な態度が嘘のように怯えているよう様子が伺えた。

 

「ご、ご心配には及びません!あんなゴミ共すぐに片付けて見せます!」

 

『既に有力な他の局員が向かっているそうです。いくらあなた達でも正体を隠しながら戦うのは難しいでしょう』

「し、しかし…」

 

 

『私の言う事が聞けないのですか?』

 

 

「っ…!り、了解致しました。…おい、戻るぞ!」

「お、おう」

「…貴様ら、命拾いしたな」

「なんだ!今更臆病風にでも吹かれたのかよ!」

「なんとでも言うがいい。次に会う時が貴様らの…最期だ!」

 

男が腕を振り抜くと、周囲に強烈な風が吹き荒れる。大した威力はないものの、こちらが一瞬怯んだ隙に間に二人は遥か彼方へと飛び去っていた。

 

「逃がさねぇぞ…フェイト、お前は残って──

 

振り返り目に入ったフェイトの姿は、予想よりも酷いものだった。ざっと見ただけでも出血している箇所が多数見受けられ、特に腕の怪我は重傷で指先から血液が滴っており、力が入らないのかだらりと垂れ下がっている。今の所意識はしっかりしているが、この分では倒れるのも時間の問題だった。

 

「バーダックさ…ん…」

「お、おい!」

(クソッ…早く奴らを追わねぇと…)

「わ…私は大丈夫です。それよりも早く、あいつらを…」

 

この間にも敵はどんどん遠ざかっている。このままでは折角の機会を逃すことになってしまう。しかし、フェイトの大丈夫という言葉とは裏腹に彼女の血液はとどまることを知らずに彼女の腕を伝う。

 

悩んだバーダックだったが、彼が最後に下した決断は───

 

 

「クソッ…おいなのはっ!」

「は、はい!」

 

近くのなのはを呼ぶと、バーダックはフェイトの肩を担ぎゆっくりと降下する。

 

「フェイトちゃん!」

「なのは、バーダックさん…ご、ごめんなさい…私のせいで…」

「…少し黙ってろ」

 

まずは出血を何とかしなければならないが、バーダックは勿論、なのはも治癒魔法を使うことは出来ない。バーダックは何も言わず自らのバンダナを手に取ると、傷口に巻き付ける。

 

「バーダックさん、それ…!」

「今はこれしかねぇんだ。我慢しやがれ」

「そうじゃなくて、それって大切な物じゃ…」

 

普段から肌身離さず持っていた赤いバンダナ。物に頓着のない彼が大切にしている所を見れば、語らずともどれだけ大事な物かは理解出来た。

 

「変な気を使うんじゃねぇ。…別に大したモンじゃねぇよ」

「そう…ですか」

「奴らの気は…チッ、もう追えねぇな。…おいロングアーチ、そっちでも確認できないのか?」

『すみません、既に転移されてしまっています。これ以上は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は親から生まれる。

 

男でも、女でも。

 

生まれた場所が何処であろうと。

 

どんなに優れた人間でも、どんな悪人でも。

 

ずっとそう思って生きてきた。別に強い信念があった訳じゃない。ただ世界の理の一つとしてそう思っていただけ。

 

だから自分の生まれを知った時は衝撃を受けた。

 

でもそんな事よりもっとショックだったのは、母さんの中で私はただの駒、それどころか娘を語る忌々しい存在でしかなかったという事。

 

…いや、本当は薄々気付いていたのかもしれない。でも頑張っていれば、言う事を聞いていれば、また昔のように笑顔を見せてくれると信じていた。信じたかった。信じるしかなかった。

 

でも現実は残酷。虚しい希望にいつまでも縋っていられるほど甘くはない。

 

母さんの欲しかった物は、私には絶対手に入れられない物で。

 

私が取り戻したいと思っていた物は、元々私のものなんかじゃなかった。

 

 

私はどうしたらいいか分からなかった。

この先どうなるのか、何を頼りに生きていけばいいのか…何も見えなかった。

 

 

そんな抜け殻だった私だけど、存外その後の暮らしは楽しいことが沢山あった。新しい家族ができて、沢山の友達ができて、戦いの中で分かり合えた人達がいた。

 

 

だけど一人だけ──未だに分からない人がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『息子の誕生祝いだと?へっ…下らねぇ冗談だ』

 

『未来を予知…?』

 

『お前らには呪われた未来しかないぞ!我が一族と同じように…滅び去るのみなのだ!』

 

『■■■!どうしたんだ一体…!ここで何があった!』

 

『■■■■だ…■■■■が裏切りやがったんだ…』

 

『何故だ!何故俺達を…!』

 

『奴らに…■■■■の強さを…』

 

『クソッ…■■■■様は本当に俺達を…』

 

『俺が…この俺が…』

 

 

 

 

 

『未来を…変えてみせるっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん………えっ…あれ?」

 

気がつくと先程の声は消え、代わりに病室の天井が視界に入ってくる。

 

(今の…夢…?)

 

一度深呼吸をしてから夢の内容を思い出そうとしたが、断片的にしか記憶がなく、なんの夢だったのかは分からない。そして腕の痛みが夢よりも昼間の戦いを思い起こさせた。

 

(そうだ…私、あの後治療を受けてそのまま…)

 

ふと怪我をした腕に目をやると、見覚えのある布が手首に巻かれていた。

 

(赤い生地だからよく分からないけど、多分血が付いちゃってるよね…)

 

物への執着が殆どないバーダックが、ただ一つ肌身離さず身に付けていた特別な品。この一見襤褸切れにしか見えない物を何故あれ程大事にしているのかは分からなかったが、それほど大事な物を自分の為に使ってくれた事が嬉しく思う一方、使わせてしまったという罪悪感が頭を巡った。

 

「はは…こんなんじゃあ力になるどころか…足手まといもいいとこだよ…」

 

ポツリと口から出た自虐めいた言葉を口にすると、自分がますます情けなく思えて来る。そんな時、病室のドアをノックする音が部屋に響いた。

 

「おいフェイト、起きてるか?」

「バ、バーダックさん…!お、起きてます!」

 

突然やって来た事に驚き慌ててしまったが、そんな事はお構い無しとばかりに彼は扉を開いた。

 

「バーダックさん…」

「…怪我はどうなんだ」

「は、はい。ちょっと痛いですけど、私は大丈夫です。それよりも皆は…」

「他に大した怪我した奴はいねぇよ。レリックの方も外箱は奪われたが、ティアナの奴が機転を利かせたお陰で無事だ」

「そう…ですか」

 

全員の無事を聞きホッとする一方で、隊長の一人でありながらこんな事になってしまった事が無様で仕方なかった。

 

「私以外は…みんなしっかり自分の仕事ができたんですね」

 

「………」

 

「私は駄目だなぁ…こんな大事な時に怪我なんかして…おまけになのはやバーダックさんにも迷惑かけて…」

 

「………」

 

「強くなるって約束も…結局…守れな…くて…」

 

あぁ、本当に最低だ。よりにもよってこの人の前で泣いてしまうなんて。

 

「フン…馬鹿野郎が」

 

彼はがっしりと頭を掴みながら、こちらをぐいっと覗き込む。

 

「一度負けたぐらいでウジウジしやがって。お前がそんな事でどうすんだ」

「ご、ごめんなさい…」

「いいか。人間手痛い経験をした奴の方が強ぇんだ。十回負けようが百回負けようが、最後の最後に勝てばそれでいいんだ」

「最後の最後に…勝つ…」

「そうだ。だからてめぇも次は絶対に叩きのめすぐらいの気概でいやがれ。…それから…フェイト」

「は、はい!」

「てめぇは約束…破っちゃいねぇよ」

「えっ…あ、あの…」

そう小さく呟くと、照れ臭かったのか聞き返す間もなく部屋を後にしてしまう。

 

(何度負けても…か)

 

本当に厳しい人。多分私がいくら甘えても、彼は優しい言葉なんて掛けてはくれないだろう。でも…とやかく言ってもあの人は私を助けてくれた。頑張れと言ってくれた。

 

そんな彼の心に応えたい。感謝の気持ちよりも、今はそんな想いが私の心に湧き上がっていた。

 

 

(私…貴方の期待に答えて見せます。絶対に…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭をもたげながら、一人考えを巡らせるパラガス。突如徒党を組んで襲撃して来た犯罪者、バビディと名乗る魔導師、レリックを携えボロボロの状態で発見された少女、海上のガジェット掃討作戦の時から現れ始めた強力な気を放つ男達…。

ここの所色々と考え込む事が多くなっている事は前々から自覚していたが、一局員としても、八神家の一員てしても、ぼうっとしてなどいられなかった。

 

(今回の敵…まさかよりによってフェイトが…)

 

「随分と考え込んでるみてぇじゃねぇか」

「ん…バーダックか」

「すっかり局員が板に付きやがって。たまにはサイヤ人らしく体を動かしたらどうだ」

「…そう呑気な事も言ってられんのだ。そんな事より丁度いい所に来た。お前の話を聞きたいと思った所だ」

「昼間の奴らの事か?」

「…ああ。あれは明らかに俺達と同じ気を使っていた。それになのはの話じゃスカウターも付けていたらしい」

…っと、確かお前は直接戦ったのだったな。単刀直入に聞くが、奴らの実力はどう見る?」

「そうだな…フェイト達と戦った二人、奴らは2万は超えてるだろうな」

「二万…」

「…だが問題はそいつじゃねぇ。初めに会った方だ」

「地下でレリックを奪おうとした奴らか。…それで強いのか?」

「そうだな…軽く見積もっても5万ってとこだ」

「なっ…ごっ、5万だと…!」

 

戦闘力5万強。かつてサイヤ人の頂点に君臨していたベジータ王の戦闘力が1万、エリート戦士でもその半分程度という事を鑑みると、5万という数字はかなりの脅威だ。

 

「そんな奴がスバル達と出くわしたら…」

「スバル達だけじゃねぇ。他のどの局員でも同じ事だ。奴が本気になれば苦もなく殺されるだろうな」

「一体、奴らは何者だと言うんだ…」

「それだ…」

「ん…?」

「何故奴らは正体を隠す?あれだけの戦闘力があるんだ。やろうと思えば局と正面からぶつかれる筈だ」

「それは、監視の目を避けてレリックを探すのには都合が良いとしか…」

「なら全員が顔を隠しているのが自然だろ。しかも気を使う連中はことごとく正体を隠してやがる」

「つまり正体はバラしたくないが、俺達の誰かに顔を知られている…という事か」

「何か…嫌な予感がするな。外れてくれれば良いのだが…」

 

未だに敵の正体さえ掴めないまま、状況だけは刻一刻と変化してゆく。裏で何かが起こっているという不気味な雰囲気に既視感を覚えつつも、今の彼らにできる事は何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…やっと戻ってこれたぜ。早く部屋に戻ってパフェでも食いてぇな〜」

「おい、今日は俺の分つまみ食いするなよ!」

「へいへい、わかってるわかってる」

 

薄暗い基地の中には不釣り合いな、男達の能天気な掛け合いが響く。そんな堅物のトーレは心底呆れているらしく、ため息をつきながらなのは達と戦った二人に愚痴をこぼす。

 

「全く…平和な奴らだ。お前達の世界の奴らは皆こうなのか?」

「…一緒にするな。特選隊の奴らが異常なだけだ」

「実力はホンモノなんっすけどね〜。どうしてこうも能天気なのか…」

(…セインがそれを言うのか)

「そんな事よりセインちゃん、ケースの中身の確認してくれる?」

「ん、はいよ~」

 

セインは近くにケースを置くと、能力を器用に使い箱を開ける。

 

「じゃじゃーん!」

 

景気よく蓋を持ち上げたセインだったが、中身を見るや否や一同はすぐに表情を曇らせた。

 

「おい、何にも入ってないじゃないか!」

「セインちゃん!貴方まさか…」

「わ、私はちゃんと運んだぞ!」

 

セインは慌ててモニターを映し出すと、どうだとばかり解析した画像を指さした。

 

「ほれこの通り!それにこいつらが付けてるスカウターとか言うのも、ドクターが改造してレリックを見つけられるようになってんだ。お前らも見ただろ?」

「あ?そんな機能付いてたっけか?悪いな、戦闘力しか見てなかったぜ」

「こ、この…」

 

しかし、映し出された画像ではレリックの反応はきちんとケースの中にある。そんな中まじまじと画像を見つめていたトーレが、局員の一人の帽子の中に反応がある事に気が付いた。

 

「チッ…お前らの目は節穴か!ここだ!」

「えっ…これってまさか…!」

「…してやられたという訳か」

「あーあ。骨折り損だったな」

「おい、何を他人事のような事を言ってる…お前達がきちんとスカウターで確認していれば…」

「あぁ?俺達のせいだってのかよ」

「そうっすよ!そりゃあ…私だって判断が甘かったかもだけど…アンタらはスカウターで確認する時間があったんだ!」

「仕方ないだろ!こっちはまだそういうのに慣れてないんだ。スカウターには元々こんな機能ついてなかったんだよ」

「…どうだかな。何にせよ、部下がこれではお前達の主も底が知れるな」

「貴様…我々はともかくあの方の中傷は許さんぞ!」

「ちょ…ちょっとトーレ姉様、それ以上は…」

 

止めるクアットロの声も聞かず、トーレは厳しい言葉をぶつけ続ける。

 

「我々は遊んでいるのではない!だから私は反対だったのだ!こんなどこの馬の骨とも知れん奴らの手を借りるなど…」

「てめぇ…こっちが下手に出れば付け上がりやがって…」

 

 

 

「何を…しているのですか?」

 

 

 

一触即発の状況の中、冷ややかな雰囲気の声色が互いの会話に割って入った。

 

「こ、これは…」

 

ナンバーズの一同は驚きや不信感のこもった目でその人物を見る一方、男達は声の主に気が付くとすぐに地面に膝を付き頭を垂れる。

 

「…私の部下が何か不都合な事でも?」

「フン…白々しい。どうせ聞いていたのだろう。いいか、我々の協力者で居たいなら次からは死ぬ気で任務を遂行するんだな。…お前達、行くぞ」

「あ、待ってくださいよ!」

 

言葉を吐き捨て去ってゆく彼女らの背中をあからさま気に入らないと言った表情で見つめる四人。プライドの高い彼らにとって、あれだけ言われて何も言い返せないのは屈辱以外の何者でもなかった。

 

「よろしいのですかい!?あそこまで言われて黙ってるなんて…」

「落ち着きない。ドドリアさん」

「不老不死なら力ずくでこの地を支配してからでも良いではありませんか!」

「………」

「っ…貴方様は…何を恐れていらっしゃるのですか!?」

 

 

 

 

「私が…恐れるですって…?」

 

 

 

 

「お、おいザーボン!」

「あっ…これは…その…」

 

先程までの柔和な声が嘘のように、場を一気に凍りつかせるような冷徹な声が体を貫いた。視線を合わせている訳でもないのにも関わらず、声を聞いた瞬間から手足がガクガクとと震え、身体中から嫌な汗が吹き出してくる。

 

「…まぁいいでしょう。私とてこの状況は気に食わないですからねぇ。ですが心配はいりませんよ。時が来れば全員が知ることになる…」

 

 

 

 

 

 

 

「この私…フリーザの力を…ね」

 

 

 


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