リリカルな戦闘民族 (ドラゴンボールZ×リリカルなのは)   作:顔芸の帝王

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第十九話 予言

先の戦闘から数日の後、なのははシグナムとブロリーを連れ聖王教会へと向かっていた。一番の目的は救助した少女の今後について教会側と話し合うこと。そしてもう一つ、もし可能ならば直接彼女から話を聞くことだ。

教会とはある程度繋がりのあるシグナムはともかく、ブロリーは選出されたのは特別な理由が……あった訳ではなく、ある程度歳の近い人間がいた方が心を開いてくれそうだという単純なものだ。

 

「ブロリー君もシグナムさんもすみません、お忙しい中付き合わせちゃって…」

「構わんさ。私なら聖王教会に顔が利くし、車もテスタロッサからの借り物だ。それで…」

 

シグナムは僅かに表情を曇らせながら言葉を紡ぐ。それもそうだ。あんな状態で発見され、まして親の愛を受けずに生まれてきた子供。守護騎士プログラムという出生の都合上、親子関係という物に疎いシグナムでも、あの子がどんな心持ちでいるかは想像に難くない。

 

「…何らかの区切りがついたとして、あの子はどうなるのだろうな」

「…当分は私達か教会に預けるしかないでしょうね。長期の安全確認が取れてからでないと」

「その子は…そんなに危険なのか?」

「まだ分からないが、もし本当に人工的に生を受けた存在なら…本人の意思に関わらず、周囲に危害を加える可能性がある」

「そう…か」

(ブロリー…お前…)

 

『騎士シグナム!聖王教会のシャッハ・ヌエラです!』

 

どこか悲しげに窓を見つめるブロリーの心を汲んでいる暇も無く、突然向かっていた教会から通信が入る。

 

「どうしましたか?」

「すみません、こちらの不手際がありまして…検査の合間にあの子が姿を消してしまいました…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません…私がしっかりと見ていれば…」

「状況はどうなってますか?」

「特別病棟とその周辺の封鎖、避難は既に完了しました。今の所内外部からの怪しい反応もありません」

「そうですか…ブロリー、気で居場所は分かるか?」

「俺は親父達のように細かい場所までは分からないが…微かに気は感じる。方角は…あっちだな」

「この子、探索型のスキルを?」

「正確には少し違いますが…まぁその認識で大丈夫です」

「よし…なら手分けして探しましょう。私はブロリーと建物の外を左回りで探しますから、シグナム副隊長はシスターシャッハと建物の中をお願いします」

「「了解しました」」

 

こうして始まった捜索だったが、ブロリーの探知のお陰もあり、意外にもすぐに彼女は見つかる事になる。

 

「ブロリー君、どうかな?」

「気が近い。この辺りに居るはず……なのは、あれを見ろ」

 

ブロリーが指さした場所を見ると、綺麗に手入れされた垣根の向こうで、黄金色の丸い頭がヒョコヒョコと動いている。二人はすぐに姿の確認できる位置まで回り込んでみると、歩き疲れたのだろうか、なのはが贈ったウサギのぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら地面に座り込んでいた。

 

「あ、そこにいたの」

「…!」

 

少女は声を掛けられると、こちらを警戒してすぐに立ち上がる。と言っても敵対するという雰囲気はなく、急な出来事にただただ怯えている様子だった。

 

「なのは…」

「大丈夫。私に任せて」

 

そんな様子を見かねたなのはは、優しく語りかけながらゆっくり彼女に近づいて行く…そんな時だった。

 

「逆巻け!ヴィンデル・シャフト!」

「えっ…」

 

鋭い声の主はシスター・シャッハ。少女に近付いた事を危険だと判断したのか、突如背後の建物から飛び出すと、なのはと少女の間に割って入り少女と相対する。

 

「大丈夫ですか!」

「あ…あぁ…」

 

危機を察知してから臨戦態勢まで、その間約一秒弱。一介の騎士として、この反応スピードは誇って良いレベルだ。しかし…

 

「う…うぇ…」

 

一介の母親としては落第点もいい所である。

 

「うぇ…っくっ…」

 

あんなにギュッと抱きしめていたぬいぐるみすら手元から離してしまい、自身も腰が抜けて地面に腰を落としてしまう。

突然の事に声すら出せずにいる彼女を見て、いよいよシャッハも良心が痛んだ。

 

「あ、あの…ええっと…」

「ごめんね…?ビックリしたよね」

 

困惑する彼女を他所に、なのはは泣きそうな少女をそっと撫でながら、ぬいぐるみを拾い服の砂を払ってやる。すると幾らか落ち着いたのか、目に涙を溜めながらもなのはの目をじっと見据え、話を聞く意思を見せた。

 

『緊急の危険は無さそうです。ありがとうございました、シスターシャッハ』

『は、はい…』

 

(なのはさん…余裕あるなぁ…)

 

いくら子供といっても事情が事情。ましてや子育てどころか未婚の彼女に母親として云々などと言うのは酷かもしれないが、いきなり子供を泣かせてしまった後に見せられたなのはの母性溢れる対応は、確実に彼女の将来への不安を募らせてしまった。

 

「はじめまして。私、高町なのはって言います。こっちは…」

「…ブロリーだ」

「あなたのお名前も教えて欲しいな」

「……ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオか…ふふっ、かわいい名前だね。ヴィヴィオはどこかに行きたかったのかな?」

「ママ…いないの」

「……!」

 

彼女の言葉に胸が詰まった。おそらく彼女の言う”ママ”はもうこの世の人ではない。仮に生きていたとしても、その人物はヴィヴィオの母親ではなく、元になった人物の母親。

しかしその事実を突きつけるには、彼女はまだ幼すぎる。

 

「…それは大変。それじゃあ一緒に探そうか」

 

敢えて明るいトーンで語りかけるなのは。その言葉にヴィヴィオはコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

(今はこれで…いいんだよ…ね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの様に鍛錬を終え、食堂に向かう。ここに来てからはほぼ毎日このルーティンワークを繰り返す。食券とかいう面倒なシステムにも慣れた物だ。

 

現在の時刻は二時少し前。ピークを過ぎた食堂は閑散としていて、調理を担当している人間以外の局員の姿は殆ど見受けられない。…それを狙って来ているのだから当然と言えば当然なのだが。

 

しかし、今日は見慣れた人影が一つ、黒の制服に腰まで届きそうな金色の髪…間違いなくフェイトの姿だった。

 

「あ、バーダックさん」

「お前…こんな所で何してんだ」

「いえ、体もだいぶ良くなって来ましたし、今日は自分でできる事はやってみようかな…と」

 

口ではそう言ったものの、正直体は万全には程遠い。しかし、皆が事件解決に向けて動いている中、隊長である自分だけが寝てなどいられなかった。

 

「バーダックさん、今日は牛丼バケツ盛り…」

「………」

「…が三杯ですか」

 

正しくバーダックの為に生み出されたような料理。頼む人間がサイヤ人の他に居ないことを考えると事実そうなのかもしれないが、ここまで来ると普通の人間は見るだけで胸焼けを起こしてしまいそうだ。

 

「それじゃあ私も同じのにしようかな。すみません、私も牛丼でお願いします」

「はいよ。盛り付けるだけだからここで待っててね」

「はい、わかりました」

「それにしてもフェイトさん、よくアレ見た後に同じ物食べる気になるねぇ。あたしゃ見てるだけで満腹になっちまうよ」

「アハハ…ま、まぁ私は慣れてますから」

「そんなもんかねぇ…」

 

先程から一向に衰えない彼の早食いっぷりを見る限り、彼は自分の食欲のせいで周囲の人々を困惑させているなんて微塵も思っていないのだろう。

内心そんな事を考えている内にフェイトの分が盛り終わり、彼がお椀…もといバケツを一つ空にした所で彼女はバーダックの向かい側に腰をかけた。

 

「バーダックさん。私が見てあげられなかった間、エリオとキャロの引き受けて貰ったこと…改めてお礼させてください。ありがとうございます」

「フンッ…そう思うならさっさと怪我を直して、俺の面倒を減らして欲しいもんだ」

「アハハ…すみません」

「…まぁ、奴らも前よりはマシになって来たがな。特にチビ二人はやけに張り切ってやがったぞ」

「エリオとキャロが…ですか」

「大方理由は分かるがな。だが行き過ぎればティアナの二の舞になる。それを抑える意味でも今日はキツく絞ってやったが、後でお前からもなんか言っとけ」

「わかりました。…ありがとうございます」

「………」

 

こんな掛け合いももう何度目だろうか。そんな事を考思いながら、視線を逸らすバーダックをフェイトはにこやかな表情で眺めていた。

しかし、この後はやて達と共に教会に大事な用事があるため、後ろ髪を引かれる思いではあるが早く昼食を済ませ合流しなければならない。

そんなフェイトの思いを知ってか知らずか、一つの慌ただしい声が食堂にやって来た。

 

「バーダックさん、フェイトさん!」

「…騒々しいぞスバル」

「あ、すみません…ってバーダックさんどんだけ食べてるんですか!?」

「あぁ?なんだ急に。それに量に関しちゃお前も大概だろうが」

「いくら私でもそんなには食べませんよ…」

「それで、そんなに慌ててどうしたの?」

「あ、そうだった。フェイトさんはまだ食べてる途中だから…バーダックさんでいいか。ちょっと来てください!」

「な、何だってんだ」

「来れば分かりますから!」

 

初めは拒否したものの、しつこく頼み込んでくるスバルに渋々ついて行くバーダック。

 

「フェイトさんも後で来てください!2階の休憩室ですから!」

「う、うん」

 

静かな午後に訪れた突然の嵐に困惑するフェイト。まさか、この後驚愕の事実を突きつけられる事になるとは、この時はまだ知る由もなかった。

 

 

 

(…というか、バーダックさん食べ終わるの早すぎだよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…で、バーダックさんを連れて来たと』

『あはは…そういう事になるかな…』

『このバカスバル!』

『うっ…』

『ヴィヴィオをあやせそうな人を連れてきなさいって言ったでしょ!?』

『でもティアが誰でもいいって言うから…』

『だからって…よりにもよってなんでバーダックさんなのよ!余計に泣いちゃうでしょうが!』

『ティアさん、それだいぶ失礼ですよ…』

『でも確かにそうかもだよね…』

 

バーダックが連れてこれた部屋には、なのはのスカートにしがみついて駄々をこねる子供と、それに困惑するなのはとその取り巻き達の姿だった。

 

「いっちゃやあぁぁぁだぁぁぁぁぁ!」

 

「…で、俺にこれをどうしろって言うんだ」

「アハハ…もしかして泣き止ませたりとか…できないかなって…」

「…黙らせればいいのか」

「ちょ…なんで指鳴らしてるんですか!?」

「安心しろ。痛みを感じる前に──

「そ、そんなのダメに決まってるじゃないですか!」

「だったら俺にこんな事を頼むんじゃねぇ!」

 

物騒な事態は回避したものの、状況は一向に好転すりどころか、先程よりも悪化しているようにさえ思える。

子供は雰囲気を読み取るのが得意だというが、ヴィヴィオはバーダックの不機嫌そうなオーラを感じたのか、余計に泣き出してしまう。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

(クソッタレ…段々腹が立って来た)

 

元々子供が嫌いなバーダック。特に融通の効かない、まさしく今のヴィヴィオの様な子供は大嫌いだった。

 

(チッ…もうどうにでもなれ…!)

「あっ、ちょっとバーダックさん…」

 

「おい…」

「あう…?」

「さっきからぎゃあぎゃあ喚きやがって。…確かヴィヴィオとか言ったな」

「おじさん…だあれ?」

「…バーダックだ」

「ばーだっく…?」

「それで…てめぇはなんで泣いてんだ?こいつを困らせたいのか」

「ううん…」

「だがこいつは困ってるぞ」

「うぅ…」

 

ヴィヴィオ自身、子供ながらにそれは分かっていた。自分が駄々をこねてなのはを困らせている事も、なのはがどうしても行かなければならない事も。

それでも一緒にいて欲しかった。ここで離れてしまったら、もう二度と会えないような気がしたから。

 

「いいかよく聞け。そういう時はいいやり方がある」

「えっ…」

「約束を取り付けちまえばいい」

「やくそく…?」

「お前が大人しく待ってる代わりに、こいつに我儘を言えば良いって事だ」

「う…ん?」

「ヴィヴィオ、何か私にして欲しい事ない?お仕事に行かないでって言うのは困るんだけど…もしヴィヴィオがいい子に待ってられたら、ヴィヴィオのお願い聞いてあげられるから」

「じゃあ…」

「ん?」

「じゃあ帰ってきたら…ずっと一緒に居てくれる?」

「ふふっ…それなら大丈夫だよ。ヴィヴィオが寝るまでずっと一緒に居ようね」

「うん…」

 

まだ納得しきっている訳ではないようだが、それでも先程のわんわんと泣きじゃくっていたのが嘘のように、今はなのはを見送ろうとしていた。

 

「それともう一つ、約束ってのは絶対に破るな。それが大事な奴としたもんなら尚更だ。もし破ったら、そいつはぶん殴られても文句は言えねぇ。…それ以前にまた泣き出しやがったら…なのはがやらなくても俺が殴ってやるからな」

「うう…それはいや…」

「フン…だったら、大人しく待ってるんだな」

「うん…」

 

相変わらずの口の悪さはともかく、バーダックの知られざる手腕に唖然とする四人。ある意味戦闘能力を見せられた時よりも驚いていた。

 

「す、すごい…」

「なんか…バーダックさん、お父さんみたいですね…」

「あんな一面があったなんて…」

「フェイトさんが前に言ってた事、今分かった気がします…」

「ふふっ…そうでしょ?」

「あっ、フェイトさん…!はやて部隊長まで…」

「急いで来てみたんやけど、もう私達の助けはいらなかったみたいやなぁ」

「というかフェイトさん、もう出歩いても大丈夫なんてすか?」

「うん。戦線復帰はもう少し時間がかかるかもだけど、これぐらいは大丈夫だから。ごめんね、二人には特に心配かけちゃって…」

「いえ…僕達は大丈夫ですから」

「フェイトさんはゆっくり療養してください」

「…ありがとう二人共。とっても心強いよ」

 

本来、局員ではなくもっと安全な道に進んで欲しかったと常日頃から思っていたフェイトだったが、今のヴィヴィオ同様、一回り逞しくなった二人を見れた事は純粋に嬉しかった。

 

「バーダックさん、ありがとうございました」

「ったく…連れてくるのは勝手だが、こっちにまで面倒押し付けるんじゃねぇ」

「そんな事言うて、案外こういうの得意なんやないですか?」

「ふざけるな。次こんな事頼みやがったら首の骨をへし折ってやるからな」

「またまた冗談を…」

「………」

「…冗談ですよね?」

「頼むにしても、こういうのはガキの居るパラガスにだな…」

「それを言ったらバーダックさんだってお子さんがいるじゃないですか」

 

その時だった。ピキッと空気にヒビが入る。実際に聞こえた訳ではないが、明らかに空気が変わったのは確かだ。

 

「…奴らに関しちゃ俺は何もしてねぇよ。それよりも教会に行くんだろ?こいつの気が変わらねぇ内にさっさと行くぞ」

「あ、そうですね。それじゃあ早速教会に───

 

「あー…ごめんなのは、ちょっと私疲れてるみたい。さっきのもう一回言ってくれる?」

「えっ…それじゃあ教会に…」

「そこじゃなくて、その前をお願い」

「なのはちゃん何か特別な事言ってたか?」

「その前…あ、バーダックさんも子供いるってとこ?」

 

なのはの何気ない言葉を聞いた途端、目を見開いたままフリーズして動かないフェイト。嫌な予感が二人の脳裏に走る。

 

「ま、まさかとは思うけどフェイトちゃん…知らなかったんか?」

「バーダックさんが…既婚者だったってこと…」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオの泣き声が小さく感じる程の悲鳴が、この日隊舎中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、またこんなもん着せやがって…」

 

例の制服に身を包んだバーダック。初日の事をまだ根に持っているのか、あからさまに不機嫌そうな面持ちではやてを睨む。

 

「一応今日は公式の場ですからね。制服で居てもらわんと…」

「そんな面倒な場所に何故俺を駆り出したんだ。てめぇらで勝手に会ってくりゃいいだろ」

「まぁまぁ、そう言わんでください。会うって言うてもクロノ君とカリムだけですから」

「フン…まぁいい。それよりも、あいつはさっきから何をやってんだ?」

 

 

「こどもがひとり…こどもがふたり…」

 

 

「…誰のせいやと思ってるんですか」

「…俺のせいだってのか」

「どうしてフェイトちゃんにだけ言わなかったんですか?私とユーノ君には初めて会った時に話してくれましたよね?」

「聞かれなかったからだ」

「はぁ…そんな事だろうと思いましたよ」

「たかがガキの一人や二人…いくら何でもあそこまで驚く事はねぇだろ」

「そういう事じゃなくて…はぁ…もういいです」

(…訳の分からん奴らだ)

「…っと、カリム達はこの部屋やな」

 

約束の部屋の前に辿り着いた一同だったが、フェイトの意識は何処かへ飛び立ったまま。普段の彼女からは想像できない腑抜けた表情が事の深刻さを表していた。

 

「どうでもいいが、あんな調子で話ができるのか」

「それもそうですね…ほらフェイトちゃん!そろそろ戻って来て!」

「…はっ…!な、なのは?」

 

(こりゃ思ったより重症やなぁ…)

 

一抹の不安を抱えつつもはやては部屋の扉を叩く。すると、どうぞというカリムの凛とした声が返ってくる。

 

「ようこそお越しくださいました」

「管理局地上部隊機動六課部隊長、八神はやてです」

「同じく、スターズ分隊隊長の───

 

全員見知った顔ではあるが、形式上の挨拶を交わす。

 

「…とまぁ、堅苦しい挨拶はこの辺にして、普段通りに話しましょうか」

「久しぶりだな、バーダック」

「お前…クロノか」

「おいおい、まさか忘れてたんじゃないだろうな」

 

元々大人びていた彼だが、以前よりもどこか態度に余裕が感じられる。この10年で、彼は本当の意味で大人の雰囲気を纏うようになっていた。

 

「いや、あのいけ好かねぇガキが十年で変わるもんだと思ってな」

「口の悪さは相変わらずか。君は変わらないな。…それにしても十年か…早いものだな」

「フン…ジジくせぇ事言いやがって」

「ハハハ…あれから十年、こっちも色々あったってことさ。今じゃ僕にも子供が二人───

「こ…ども…?」

 

 

『クロノ君!』

『な、なんだ、急に念話なんて…』

『今その話題は厳禁や!』

『はやてまで…一体何だって言うんだ…?』

 

困惑する彼だったが、結局二人のプレッシャーに押され、訳も分からぬまま話題を変えざるをえなかった。

 

「そ、それじゃあこの辺で閑話休題。はやて、頼むよ」

「コホン、それじゃあまずは…」

 

一度咳払いをした後、先程と打って変わって彼女の表情が真剣な物へと変わる。余程重要な話なのか、窓のカーテンを全て締め切り、照明も小さなものを残して全て電源が切られた。

 

「まずは先日の敵の動きについてのまとめと、六課設立の裏表について、それから…今後の具体的な話や」

「おい待て、本当の理由だ?ロストロギアを探すことじゃねぇってのか」

「レリックの対策、及び独立性の高い少数部隊の実験…無論これらも目的の一つではある。だがあくまでこれは表向きの話だ。六課設立の真の理由…それは、騎士カリムの能力が関係してくる」

「能力…?」

「実際に見てもらった方が早いでしょう。…プロフェーティン・シュリフテン」

 

カリムは古びた札の束を手に取り、小さく詠唱を開始する。すると何の変哲もなかった紙達が黄金に輝き始め、彼女を中心に円を描き出した。

 

「これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出し、預言書の作成を行う事の出来る能力…」

 

(未来を予知…か。クソッ、思い出したくもねぇ)

 

「二つの月の魔力が上手く揃わないと発動出来ないという制約上、ページ作成は年に一度しかできません。肝心の内容も世界に起こる事件をランダムに書き出すだけ。文章自体も古代ベルカ語で、解釈によって意味の変わる事もある難解な文章。解釈ミスを含めれば、的中率は割とよく当たる占い程度。…つまり、あまり便利な能力ではないんです」

 

自嘲気味にそう呟くカリムだったが、根拠のない占いよりかは圧倒的に信憑性のある物であるという事は、バーダックを含めこの場の誰もが確信していた。

 

「…預言書か。出した予言が覆った事はあるのか?」

「…いいえ。預言を聞いた事によって危機を回避できた、という事はあっても、預言そのものが覆ったという事はありません」

「…そうか」

「意外だな。君はこういう類の物は話半分に聞くタイプだと思っていたんだが」

 

思いの他カリムの話に興味を示したバーダック。そんな様子を物珍しそうに見つめる一同の中、ハッと何かを思い出したなのはが声を上げる。

 

「そうだ…!バーダックさん、昔、未来予知ができるって言ってましたよね?」

「バーダックさんが…?」

「未来予知…」

「まさか…本当ですか!?」

 

この手のレアスキルとは無縁だと思われていたバーダックが持っていたまさかの能力に、驚きと疑念の声が上がった。

 

「…昔の話だ。この世界に来た時にはもう見えなくなってたしな。それに、あれは元々俺の能力じゃねぇ。…今回の件に関係することは何もねぇよ」

「そうですか…」

「それより話を戻せ。わざわざ俺達を呼びつけたんだ。よっぽどの事が書いてあるんだろうな」

「…はい。では読み上げます」

 

 

 

 

 

無欠の帝が夢見た夢の大地

 

 

悪しき魔導と悪魔の剛力が大地を蹂躙し、一切の夢もただ凍てつくばかり

 

 

神をも震わす力に、数多の欲望も為す術もなく崩れ落ち

 

 

正義が消え去った後、忘れ去られた舞台で伝説は終焉を迎える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎めいた文と不吉な単語。抽象的な物が殆どだが、少なくとも明るい未来では無いことは分かる。

 

「正義…仮にこれが管理局の事を指すのだとしたら…」

「それって…まさか…」

 

「…管理局システムの…崩壊や」

 

質量兵器が無秩序に拡散し、力無き者は全てを奪われる。管理局の消滅は、そんな旧暦の時代の無法地帯の再来を意味する。

 

「神をも震わす力…何らかのロストロギアか、それとも新兵器か…」

「確かな事は分かりません。しかしこの預言が出始めてからすでに数年経っています。そう遠くない内にその力は牙を剥いてくるでしょう」

 

重い空気が場を包む中、バーダックが呟いた。

 

「フン…下らねぇ」

「バーダックさん…?」

「要するに、いつものように敵が来るってだけじゃねぇか」

「それは…そうかもしれないですけど…」

「こういう時の為にお前らは色々準備してきたんだろう?だったら、どんな化け物が来ようが全力で叩き伏せるだけだろうが」

「いっそ開き直ってしまえと言うことか。全く、君らしい意見だな。だが…」

「怯えて縮こまってしまうよりは、よほどいいのかもしれませんね」

決意に満ちた若き戦士達。相手取るのは底の知れない力、先の見えない恐怖。しかし、彼らの眼には恐れの色は無い。それはバーダックの言葉に奮い立ったからか、それとも彼女達の強い心がそうさせるのか──

 

 

 

──或いは、相手を知らぬが故の安易な心持ちからか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西の海に沈みかけた太陽の光が部屋を照らす中、すっかりご機嫌になったヴィヴィオと、それを見守るブロリーの姿があった。

最近は思いつめた表情をすることが多かった彼だが、子供の無垢な笑顔を見ていると、それだけでも口元が緩む。

「みてみて!かけたよ!」

「ん、これはなのはと…俺か。よく描けているな。次はエリオとキャロを…ん?」

 

先程まで隣で会話をしていた筈の二人だったが、どうやら寝てしまったようだ。

 

「二人とも寝ちゃったね…」

「あぁ。毎日訓練で疲れているからな。しばらくは向こうで遊ぼうか」

「うん。それじゃあ次はあの本が──

(ヴィヴィオ…か)

 

 

『あの子は人造魔導師の素材として作り出された子供ではないかと…』

 

『何らかの区切りがついたとして…あの子はどうなるのだろうな』

 

(…俺には、人造魔導師の事はよく分からない。でも…ヴィヴィオも俺と同じなんだ。望まなかった力に振り回されて、知らぬ間に周囲を傷つけてしまう)

 

 

「………」

「…どうしたの?」

「ん…?」

「なんか怖い顔してた…」

「すまない、何でもないんだ。…よし、絵本か」

 

 

(この子も…いつか自分を恨むようになるのか。…この俺のように)

 

 


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