多忙な雑用職員さんとオルタ二人   作:グナードン

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遅くなりました。
遅くなった理由について少しだけ後書きの方で話させてください。
言い訳になるかもですが話させてください。
今回も長いです。暇な人はどうぞ見てください。


サーヴァントが召喚されました

高校二年の時だった。

自分は友人達と一緒にテスト勉強に励んでいた。俺のいた学校は進学校でかなりの人がもうその時期から大学へ向けての勉強をやり始めていた。大半は、どこそこの国立大学やらどこそこの私立大学など、有名なとこばっかだった。

無論、俺もそうである。俺は有名な私立大学を既にその頃から狙っていた。倍率は非常に高かった。

俺の友達もまたそれぞれの違う国公立や私立を志望していた。

……テスト。その言葉が書かれたカレンダーの日付は明日に迫っていた。俺等は必死になってやった。

よく深夜遅くまでやると逆にダメだ。なんて言葉を先生達は言っていたが、あの時分ではその言葉に耳を傾けなかった。

結局、朝までやり続けた。時計を見ると五時だった。ふと、友人等を見ると少なくとも二人は寝ていたような気がする。こいつ等はダメだなと何処かでそう思ったのは覚えている。

気分を変えようと閉め切っていたカーテンを開けた。眩い日差しが一気に入り込んだ。太陽は光輝いてその強さと存在を大きく強調していた。お前はよくやった。と言われているような気がした。頭はいい方向に働いていく感覚があるし、倦怠感や疲労感などといった負のオーラはどこかに飛んでいった。まるで聖女を見たような気になった。俺は太陽を凝視して目を瞑るという行為を何度も行なった。その行為の意味は未だに分かってない。ただ、紅葉をハンカチに叩きつけてそれを写すように太陽を目に焼き付けたかったのかもしれない。俺のこういう行動は「眩しいからやめろ」という友人の声が聞こえるまでやっていた。俺は綺麗な笑顔をして「やっぱ……こういうのいいよな」と言った。友人はただ訝しそうに俺を見つめていた。

 

 

 

二時間が経つと嫌な機械音が鳴った。

端末に手を触れ、その音を止める。やけに耳に残るその音は俺を不快にさせ頭を痛くさせる。しかし、これがないと起きられない。試しに無しでやるものなら体内の水分が無くなるまで寝ていると思う。

ベッドから上半身を起こすと直ぐに頭痛と気怠さが襲ってきた。徐々に増していくその感覚にやはり寝るべきでなかったという後悔をした。俺は近くにある冷蔵庫からお茶を飲み、全ての倦怠感を何処かに排出するために深いため息をついた。しかし、その行為が逆に倦怠感を増していく。むしろ少ししかなかったやる気や、モチベーションが出て行ったような気がした。今日は一段と冗談が言えないレベルで疲れているのではないかと思う。

端末のロックを解除し時間を見ると時刻は午前十時になっていた。それを見てもう一度ため息をつきたくなった……。ヤバい、マジでモチベーションがゼロになる。俺は頭を振った。

 

「さて、やりますかね」

 

肩を二、三回回して無理矢理そう言ってみる。今までの経験上からしてこの行為は価値がある。無理にでも言えばその通りに体が動いてくる……。嘘、ウソついた。動くはずがない。どう考えても無理だ。

それでも、重たい体を動かして自身のパソコンの前に座る。まだやる事があるからだ。

 

つい先日にあったカルデア職員会議の報告書を作成しなければいけないからだ。くだらない作業だ。

カルデア職員会議というものはつい最近出来たばかりである。此処では各部署のそれぞれの方針の確認や必要経費、今迄の結果などをそれぞれ話し合う。本来、このような会議はなかった。何故なら、これらのものは全て所長さんかレフさんが全て一人でやっていたからである。一番上の人に報告書と方針を伝えれば、後は上が妥当であろう予算を考え、それぞれの部署にその報告をするだけであった。

しかし、一番上の人がいなくなった今、この会議は月一くらいの間隔でやっている。これにも理由がある。それは、予算の問題だ。一つの部署にお金が集中するとバランスが崩れるからである。要は皆が集まり納得がいく割合にするまで話し合う。それがこのカルデア職員会議をやる意味だ。だからといって月一でやるのはどうかと思うが……。それぞれの部署のお偉いさん三人から五人が集まり今後について話し合う。どの部署も出来るだけ予算を取りたいので中々結果が見えてこない。俺はその話し合いの記録を残す作業と参加していないロマンさんとダヴィンチさん、そして各部署に向けての報告書を作成しなければならない。

 

「技術部ではカルデアの唯一のマスターに新たな魔術礼装を作る為さらなる費用がいる」

 

「研究部はサーヴァントのスキルを向上が日々の課題となっている。しかもサーヴァントの数も増えているのだ。我々の方が費用が膨らむと思うがね……」

 

「いやいや、こちらの開発部の方が……」

 

そのような言葉を互いに言いながら、自分達が出来るだけ獲得できるよう工夫をする。時には相手の前回の成果を嫌みたらしく言いながら自分のところの部署の成果の功績をちらつかせるといった企業顔負けの事までしている。

こういうものを俺は記録に残し、それらを一時的に保管する。せめてこのカルデアが前までの活気に戻るまでデータとして保存しとかなければならない。一語一句間違えるなとは言われてないが、できるだけ正確な記録を残す必要があるので常に神経を働かせなければいけない。

結局、今回の話し合いは技術部に少し多く譲渡するという事で決まった。だが、技術部は不服といった感じであり、勿論他の部署も同じである。

ここまでの話し合いは深夜の二時を超えていた。朝から始まり昼食をとりそこからまた話し合いという結果である。やっと終わった……。というのはそれぞれの部署の人々であり、俺は違う。むしろ、そこから俺の作業といっていいのである。

最優先するものを終わらすだけでも一つに何時間とかかる。途中から「なんでやってるんだろ」という事まで考え出す始末。一応、ロマンさん用とダヴィンチさん用のものは終わらし、そこから二時間だけ睡眠をとり、今はそれぞれの部署の方面に正式な書類を作成中である。どうせなら上の奴らが下にそのまま教えればいいのにそうしない。単純にバカなのか、それともそれだけ丁寧に扱わなければならないものなのか……。後者であってほしい。でなければ俺の作業の意味が……。

 

「本当にバカバカしいな」

 

「本当ね」

 

ふと、後ろから誰かの声がした。椅子を回転させるとジャンヌが俺のパソコンを覗き込むように見ていた。そんなジャンヌはめんどくさそうな口調で言った。

 

「いつからいたんだ?」

 

「さっき。ノックしても返事がなかったから勝手に入ったわよ」

 

「……反応なかったら勝手に入るもんか?」

 

「悪い?」

 

「……いや、別に」

 

そう言いながら椅子を回転させ再びパソコンに集中する。暫く文字とデータとを睨めっこしながら少し霞んでいる頭で考える。俺の中にある余裕というものが今は欠如している。頭は遠く薄れていく景色を望んでいるが現実はハッキリとした景色を望んでいる。この白と黒の狭間にある俺の精神はハッキリといって正常ではない。

 

「今日はダメかもな」

 

突然とそんな独り言を呟いてしまった。後ろにいたジャンヌに案の定「何が?」と言われた。俺はそれに答えるつもりで右手をヒラヒラと振ってなんでもない事を示した。こいつに知られると何かと言われると思ったからだ。

そんな漠然とした考えをしている時にパソコンにメールが入った。宛先を見るとダヴィンチと書かれていた。そんなメールを不思議に思いながら、開けてみると、たった二、三行の短いものであった。

『新しいサーヴァントを召喚した。今すぐ来てほしい。

ついでにカルデア会議の資料もよろしく』

ため息が何処と無く出た。今日で何回出してるんだよ。鬼畜だな。あの人の正体って天才画家とかじゃなくて天才資本家とかじゃね……?何か産業革命時代にいそうじゃん?『働けー!私のためにーー!』とか言ってるところなんか脳内再生余裕だわ。『嫌ならいいよ?代わりならいくらでも……』とか言いながら笑ってそう……。ダヴィンチさんヤバいな。

 

「……大丈夫?」

 

「うん?ああ、ブルジョアジーに対抗できるのは団体で抗議する事だよな。俺は一人だからクビになって終わりそうだわ」

 

「………………大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。産業革命なんてなかった事にすればいい。そうだろ?俺が終わらしてやる。これは俺の革命だ。革命はいつもここから始まるんだぜ」

 

「……誰か呼ぼうかしら」

 

「……うそ。嘘だから。本気で心配するのやめて」

 

冗談がキツかったのか本気で心配したジャンヌに俺は椅子から立ち上がり、彼女を宥めた。彼女は目を細めながら「本当に?」と聞いてきたので親指を立てた。その後、引き出しを開けて資料を出しる。鉛筆で小さく「ダヴィンチ」と書かれたプリント。そこには必要予算の事と研究の依頼など様々なことがびっしりと書かれている。一番早く提出しなければならないもので、一番長く時間がかかるものでもある。優先順位はダヴィンチさんが一番でその次はロマンさんのものである。

彼女はこの内容をザッと見てサインをするだけである。これが彼女のカルデア職員会議の仕事である。正直すごい。あんな手間と労力をかけたものを僅か何分間で終わらせるなんて……。

 

「尊敬するわー……本当に天才死ね」

 

「さっきから、アンタの口から愚痴と訳がわからない言葉しか出てないわよ」

 

「なんだと?じゃあ、真面目な話をしよう……お前はだれ?」

 

「……本当に大丈夫なの?死ぬとかないわよね?」

 

「俺か?俺は雑用。分かってねぇジジィどもはちとばか泣かす」

 

「……ちょっと本当に休みなさい」

 

「冗談だ。マイケル」

 

「ジョーダンとか言いたいの?兎に角もうそういうの言いから」

 

そう言いながらジャンヌは近くの冷蔵庫からお茶を取り出した。

 

「ジャンヌ、ついでにそこから茶色い瓶を取ってくれ」

 

ジャンヌは一瞬こちらを見たが、何も言わず茶色い瓶を取りだした。ラベルには『眠いと言ったな?』から続く例のやつが書かれている。俺の冷蔵庫には現在第一段階と第二段階の瓶が数本あるだけでそれ以外は何もない。唯一あるのはアイスくらいである。

あれはいいよな。甘いし、手軽に食べれるし……なんか栄養高そうだし。

ジャンヌから瓶をとり、それを一気に飲み干す。体内に溜まるような感じがした。吸収されていない液体が胃の中で暴れているのが伝わってくる。

 

「……行くか」

 

「ちょっと……」

 

扉に向かって歩こうとした瞬間にジャンヌに止められた。ジャンヌの右手には何かの薬があった。左手には当然お茶を持っている。

一瞬、訳がわからなかったがそれを俺に差し出した。

 

「なに?それ俺が飲むの?」

 

「当然よ。これ、栄養剤だから」

 

「……白い粉とか中に入ってないよね?」

 

「入ってない。ロマンっていう人から調達したのよ。安心なさい。あんな液体よりも安全です」

 

ジャンヌは無理やり俺の手に薬をのせ、コップを渡してきた。ここまでされてしまったら、飲み干すしかない。俺は一気に飲み干した。確かにロマンさんがくれたのなら安心する。あの人が俺の多忙さを知ってるかどうかは別として、あの人は優しいイメージがあるからな。

 

「……どう?」

 

「どうと言われてもな……薬とかそういうのは吸収されるまで時間がかかる。大体四十分くらいはかかるぞ。だからそんな早くに効果はでない」

 

「…………流石ね」

 

「だろ?社畜の神とでも呼べ」

 

「神は私の敵よ」

 

「……そうだったな」

 

ジャンヌにそう言いながら哀れみの目をおくった。こいつ憎悪を求めてるようだが、ジャンヌってこんな負を求める女性だったのか?何か自分が思っているような女性とは違う。イメージ的に『神は……』とか言いながら導いていそうだったが……。やっぱり歴史って当てにならない。

俺は瓶を机に置いて部屋を出た。機械音とともに横にスライドされる扉が開くと、一人の男性がいた。彼は俺を見ると「おう」と言った。その声と顔立ちで、いつか会った男性だとわかった。彼は相変わらずの笑顔で俺の前に立っている。俺はそれに嫌悪感を抱きつつも小さくお辞儀した。

 

「相変わらずの無愛想だな、お前が笑ってるところなんて見たことねぇーぞ」

 

彼は以前やったように肩を組んだ。横で小さな声をあげながら笑っている彼に若干の怖さを感じた。時に嫌悪は恐怖に変わるのだ。ジャンヌに助けを求めるように顔を向けた。彼女は俺を見ず、彼を怪訝そうに見つめていた。

「……ん?お前相当やつれてるな」

 

「……まぁ、最近寝てないので」

 

「夜更かしか?そんなことしてるといざという時ダメになるぜ」

 

「……まぁ、そうですね」

 

軽い返事をしながら視線を斜め下にやる。原因はお前らの資料まとめたりしてるからなんだけど……。そんな事を言うとまた面倒なことになりそうだから言わないけどね。

 

「あの……何すかね?」

 

「お、そうだったな」

 

彼はポケットに手を突っ込みSDカードを取り出した。それを俺の顔の前に見せてきた。彼は相変わらずの笑顔でそうやっている。もしや……と、思いながらも彼の言葉を待った。

 

「これ……新しい魔術礼装のデータ。といっても大まかでまだまだ実験とか必要なんだがな……。昨日の職員会議に間に合わなかったんで上の人は怒りまくりなのよ」

 

「……で、どうするんですか」

 

「だからこの大まかなやつをお前にきっちりとしたものにして欲しいわけ」

 

「…………」

 

「つってもまだ実験が必要だからよ、現段階のやつをまとめてくれればオッケーだから。そしたらさ、幾分か上の人の怒りも治るだろうってことよ。なにぶんこういうのできないやつ多くてよ。お前ならできるだろ」

 

 

彼はSDカードを俺の左手に渡した。俺が彼に反論を言おうとしたが、彼は「あと……」と俺の言葉を待たずに次の目的に話を変えた。

 

「会議の方の書類、あれもう出来たか?」

 

「…………いえ」

 

「……ふーん。まあ、昨日の今日だしな……できれば明後日くらいには欲しいからそこんとこ頭に入れといてくれよ」

 

彼はそれだけ言い、扉に向かって歩き出した。部屋を出る直前に何を思ったのか突然振り返り、付け足すように「夜更かしして何かするのはいいけど、やることやれよ」と言って今度こそ出て行った。取り残された形の俺はただ呆然と立ち尽くしながら彼が出て行った扉を見てるだけで、その他の行為ができなかった。頭の回転が一瞬だけストップし回転しだすかと思うと深い溜息吐いただけだった。

俺はSDカードを机に置いた。もうね……ここまで来たら仕事とかそういうレベルじゃないと思う。いうならそうだな……機械、ロボットとかのレベルだな。

 

「休みてー……仕事多すぎ。でも、やるしかねーよな。俺の仕事だし」

 

「……休めば?」

 

「…………いたのかペリー」

 

「何それ?大体ねアンタも断りなさいよ」

 

「……つってもなお前も見ただろう?断る隙も作らなかったじゃないか」

 

「そんなのアイツの目の前でそれを燃やせばいいじゃない」

 

人間そんなことできたら、サーヴァントなんか召喚してねーよ。第一あんな自己中心的なやつにそれやったところで効果なんざ目に見えてるだろ。絶対に『……ま、パソコンにデータあるからそっから送るわ』みたいに言うだけだな。

おそらく、自己中心的な彼からすればあれが普通なのだろう。見た目は若いし、就職だってここが初めてだろうから社会なんざしらない野郎だと思うわ。あんなの社会に出たら一発でアウトだな。せめて人に有無を問え。たとえそれがイエスマンだろうとな……。

 

「……俺はお前じゃねーからできねーよ」

 

「……比喩よ。人間そんな能力あったらサーヴァントなんか召喚してないわよ」

 

「……おうむ返しみたいだな」

 

「……は?」

 

「何でもねーよ。そういう事じゃなくてだな……要はお前みたいに単調にいかねーってことだよ。解るか?イヤイヤやらなきゃでもやらなければいけない事もあるんだよ。お前の単調な考えを押し付けるな」

 

彼女に少し辛辣な言葉を言うと、彼女は表情を変えた。彼女の癪に障ったのだろう。視線を下に落とすと白い手にグッと力を入れている。俺はそれに気付きながらも言葉を重ねる。彼女がここにいてはいつまで経っても何も出来ない。実際に早くダヴィンチさんのところに行かないとマズイ。もうかれこれ十分は経過してる。

 

「……なにそれ」

 

「べつに悪気があって言ってるつもりはない」

 

「だったらなに?私を怒らせたいわけ?」

 

「それも違う。ただ思った事を言ったまでだよ。誇張でも何でもない。ただの本音だ」

 

「…………そうですか。じゃあもういいです。勝手になさい」

 

そう言って彼女は出て行った。もう一回溜息を吐き、暫く経ってから出て行った。

廊下を歩いている途中に何人かの人に書類はどうだと聞かれた。その度に「まだ……」と言うと全員興味のないような無表情の顔をして出来るだけ早くというのを言って通り過ぎて行く。人員が不足してるのは解るがだからといってあの膨大な量を一人でやらすのはどうかと思うのだが……。

そんな事を考えながら工房に向かった。向かってる途中、後ろから小さく「おい」と聞いた事のある声がした。振り返ると案の定アルトリアがこっちに向かって歩いてきていた。

 

「……どうした。俺は今から工房に行かないといけないから」

 

「知っている。あいつから聞いた」

 

「ジャンヌから?」

 

「ああ、いきなり私の部屋に来て何を言うかと思ったら『後はよろしく』と言われてな……」

 

「……まじかよ」

 

アルトリアはスッと俺の前を通り過ぎていった。その時に俺と目を合わせた。俺は少し早歩きをし彼女と並立に歩く。どうやらアルトリアも工房へ行くようである。

 

「……で、何をやらかした」

 

「ああ…………ジャンヌは何処に?」

 

「貴様の部屋で冷蔵庫を漁ってたぞ」

 

アイスが……俺の唯一の食べ物が……。ジャンヌよお前はいつからそんないじめっ子になったんだよ。俺と関わった時は…………変わってねーな。やっぱりジャンヌだな。

 

「やっぱりジャンヌだったわ」

 

「聞いてはいたが今日の貴様はいつもの何倍もおかしいな」

 

「何時もおかしいみたいな言い方はよせ」

 

「おかしいさ。そうでなければ私は貴様なんぞと関わっていない」

 

「……何そのかっこいいセリフ。よくそんなの言えるな。カルデアマスターくらいだぞ」

 

 

そう言いながらアルトリアを見ると相変わらずの凛々しい顔で前を見続けていた。嘘や讒言などを絶対に言わない。彼女の言う言葉は何時も本心であり、他人の心に刺さる。良くも悪くも彼女の言葉は的確だ。いや、俺が彼女を信頼しているから、あたかもそう思ってしまうだけかもしれないが……。

 

「まあ、お前が言うなら本当だろうな」

 

「……貴様があいつにどんな事をしたのかは知らん。だが、悪気があったわけではない。あいつは何かと心配しいる。そういう奴は大切にするべきだ」

 

「知ってるよ。だから後で謝るよ……」

 

俺はそっぽを向きながら、ばつが悪そうに頭を掻いた。あまり経験がない謝るという行為に自分がどれだけできるかは分からないがやるしかない……。まあ、素直に許すとは思わないけど。

 

「謝るけど、素直に許してくれるとは思わないけどな。そうなったら気まずいな」

 

「そうでもない。あいつは貴様の事となれば態度が変わる」

 

「理由になってないだろ」

 

「許してくれる」

 

「だと良いんだがよ……まあ謝るよ。完全にこっちに非があるからな」

 

「……だが、その必要はないかもしれながな」

 

「……は?どういう事だよ」

 

アルトリアは小さな声でそう言った。まるで独り言のように。俺の口から腑抜けた声が出ると彼女は俺がジャンヌにしていたように手をヒラヒラと振り何でもないといった感じで会話を終わらせた。俺もそれについて言及はしなかった。少しだけそこに怖さを感じたからだ。こうして俺とアルトリアは前だけを見てゆっくりとカーブのある廊下を歩き続けた。誰一人として廊下ですれ違う事はなくただ歩くという単純な音だけが廊下に響いた。彼女と俺の足から出るこの音に今後の不安が少しだけ和らいだように感じた。

 

 

工房につくともう既にマスターの姿が見当たらなかった。もう挨拶等のものを済ませたのだろう。因みにだが、俺がマスターに会ったのはつい一ヶ月前のことだ。そりゃあそうだ。カルデアの職員と戯れるほどマスターは暇じゃない。けど、渡さなければならない書類とかあるから出来るだけマスターと会って大抵何処にいるのかとか把握しておきたい。

ダヴィンチさんは俺に「やあ、久しぶりだね」と言いながら近づいてきたので俺は苦笑を浮かべながら一礼する。ダヴィンチさんは俺のその反応を見ながらいつもの笑顔でうんうんと頷いた。

 

「君みたいな良い子が増えればいいけどね。世の中そう上手くいかないもんだね」

 

「……翻訳すると『組織に忠実な人間が増えないものかね』という事ですね」

 

「君は言葉を素直に受け取るべきだよ。捻くれ者さん」

 

「…………」

 

俺は彼女を濁った目で見つめるだけで、敢えて何も言わなかった。これ以上言っても拉致があかない。ここは何も言わない方が良い。国連の先輩風に言えば『生産性のない会話は省け。それは自分自身の向上の妨げとなる』これを言ってのけるのは流石だと思う。国連に勤める人の言葉は違うなと思わせられる。カッコいい。

ダヴィンチさんに書類を手渡し端末にサインするよう促す。彼女は書類を確認する事なくそのまま端末にサインをしていく。俺はその行動に少しだけ違和感を覚えた。その行動は普段しない。仮に俺を信頼しているのだとしても誤字脱字くらいは見るはずだ。俺がここのところ寝てないのを知っているなら尚更だ。

 

「……確認は」

 

「確認?何の?まさかこの書類に関してかい?だったら必要ないよ。何故なら君が作ったんだ。幾ら多忙でも君はしっかりとしたのを作ると信じてるからね」

 

ダヴィンチさんは相変わらずの笑顔でそう言った。その笑顔に優しさが見られた。しかし、俺の違和感はまだ心の中にある。そう、これは本音じゃない。何か企んでいる……。

 

「……本音は」

 

「これで信用を勝ち得て次の仕事をお願いする」

 

やっぱりか。違和感の正体が分かったわ。この人やっぱり産業革命時代の資本家だろ。天才とかじゃなくて工場の経営者だろ。

 

「本音がだだ漏れですよ」

 

「気付かれているのに隠す事はしないさ」

 

「……上手くいくという確率は?」

 

「半分かな。けど君の反応を見てもう言った方がお願いしやすいと思ってね……。つまり、茶番になったということだ」

 

「……鬼ですね」

 

「鬼?理解できないね……あ、君の言葉で言うなら『ちょっと何言ってるよくわからない』」

 

「……ホタテはありませんよ」

 

「茶番はそこまでにしておけ。他にやるべき事があるだろう」

 

俺の後ろにいたアルトリアが少し声を張り上げてダヴィンチさんと俺にむかってそう言った。つい先程国連の先輩がどうのと言ったが本当にその通りだな。生産性のない会話って自分自身の向上に繋がらない……いや、単純に恥ずかしいだけだな。

俺風に言い換えれば『生産性のない話は省け。誰かに聞かれたら恥ずかしいから』だな。

ダヴィンチさんは突然の声に少し驚いていた。俺と話していたためかアルトリアの姿を捉えていなかったらしい。目を俺から外しアルトリアの姿を確認すると少しだけ彼女の特徴的な笑顔が歪んだように感じた。歪んだというのは誇張しすぎたが確かに反応がおかしい。俺はそれを不思議に思いアルトリアの方を向くが別段と変わった様子はない。アルトリアもその反応を見て不思議に思っている様子だ。

 

「あの……どうされました」

 

ダヴィンチさんは俺に視線を戻しつつ、首を横に振りなんでもないといった感じで俺に端末を返した。明らかに動揺していたダヴィンチさんに俺も少しだけ驚いていた。

 

「君が……いや、ここの職員がある特定のサーヴァントと仲がいい事に少しだけ驚いただけだよ」

 

「……そうですか」

 

「君たちは付き合いが長いのかい?」

 

「その通りだ」

 

ダヴィンチさんの質問に答えたのはアルトリアだった。彼女は即答するように俺たちの会話に割って入った。ダヴィンチさんはまたアルトリアの返答を聞き、またしても何時もとは違う笑顔を作った。なんだかダヴィンチさんは俺とサーヴァントとが仲がいい事を危惧してるみたいだ。何でかははっきりいって解らない。しかし、彼女にとっての都合が悪いのかもしれない。俺はそこにあえて何も聞かない事にした。

 

「あの……本題に入りましょう。新しいサーヴァントは?」

 

「ああ、そうだね……。こっちだよ」

 

ダヴィンチさんに案内してもらいながら召喚システムがあるところまで行く。召喚されたサーヴァントは召喚システムのすぐ隣にある椅子に座っていた。

召喚されたサーヴァントの特徴はクリーム色の髪を三つ編みにしているところであった。その髪は長く、彼女の腰のところまでいくのではないかと思う程だった。俺は彼女の青色の瞳に吸い込まれそうになりながらも全体を見るよう心掛けた。身につけている鎧や腰に備わっている剣まで事細やかに見た。そして魅了されるその容姿にどこかしらの既視感を感じた。

 

「……あの」

 

サーヴァントの言葉で俺は我に返った。そして急激にに耳が熱くなる。俺は反射的に視線を外した。

そして外した先に目に入るのはアルトリアの姿だった。アルトリアは俺をあの凛々しい顔で見つめていた。

 

「……惚れたか」

 

「いや、違うからね?可愛いとか思ってないよ?本当だよ?」

 

「惚れたな」

 

「いや、違うから。違うからね?違う?あれ?違うのか?違うな。アレだから。少しだけ誰かに似てると思っただけだから。それだけだから。決してあのクリーム色の髪とか顔とか別に何とも思ってないし、本当だよ?本当だから。俺はクリーム色を見るとついシチューを思い出して食べたいなーと思っただけで決して可愛いとか可愛いとかあと可愛いとか思ってないから」

 

「そうか。つまり惚れたでいいな」

 

「違うと言ってるの解らないの?アルトリアさんは話し通じない人だったけ?何かずうっとローマとか言ってる人だっけ?叛逆のとか言ってるごっつい人だった?あれ?そもそもお前アルトリアか?違うな。お前はアレだなアルトリアになりたがってる別のやつだろそうだろ?なあ、そうだと言え。令呪をもって命ずる。肯定しろ。俺の言葉に肯定しろ」

 

途中から何を言ってるのか分からなかったが何か口から込み上げてきた。ヤバいと思った時には遅かった。俺は肩で息をしながらアルトリアが何か言うまで待ったが、アルトリアもダヴィンチさんもサーヴァントも何も話さなかった。一瞬だけ時が止まったのではと思った。一番最初に口を開いたのはダヴィンチさんだった。

 

「……今日の君は情緒が激しいね」

 

「……まあ。正直言ってこの三週間本当に寝てませんよ。唯一の食事がアイスって笑えるでしょ?」

 

「そうだね。笑えるね。まあ、それだけの会話ができるならまだいけるよ」

 

「……正直言うとガタきてます。もう第二段階とか飲んでも効果がないくらいですよ」

 

「まだいけるよ」

 

「いけませんよ……。もうやめましょうこれ以上はキリがない」

 

俺は改めて新しく召喚されたサーヴァントを見る。やはり、何処かで見たような感じがする。やはり先程感じている既視感というべきものか、それともまた別の……。俺がじっと彼女の顔を見ながら思い出すように考えていると彼女は困った顔でこちらを見つめてきた。

 

「あ、あの……」

 

「……すみません。何処かで見たような顔だったので。気をつけます」

 

「い、いえ……お気になさらず」

 

そう言って俺と彼女はほぼ同時に目を逸らした。初々しいカップルのようで嫌だ。童貞感溢れてるよ。もう今は何をやっても恥ずかしいと思う。

それを見ているアルトリアは呆れたように俺を見ていた。その目にはやはり「カップルか」みたいな事を言っている。悪かったな。童貞で。こういうのに慣れてねーよ。

 

「けど童貞をなめるなよ」

 

「貴様はさっきから何を言ってる。あいつが言っていたように、やはり素直に休むべきだったな」

 

「アルトリア……俺はまだいけるぞ。常に冗談を言ってないと死ぬ性格だから言ってるだけだ」

 

「冗談の域ではない。貴様は崩壊しかけている」

 

「確かにボキャブラリーは決壊してるけどなーー」

 

「まあまあ、もういいじゃないか」

 

そう言って無理に入ったダヴィンチさん。嘘くさい咳を一回してこの場を一旦落ち着かせた。俺は小さくため息をつき、端末を取り出し空いてる部屋の確認をする。

部屋の番号が赤くなっているところは誰かが既に入っているという証拠である。部屋の管理は全て俺がやる事になっているため俺の端末に部屋の番号を登録しないと正式に自分の部屋にはならないのである。もし俺の端末に登録せずに勝手に部屋に住むのであればそれは即ち『誰がやってきても文句言うなよ』と言う事になる。

俺は新しいサーヴァントに端末を渡して適当なところに選ぶよう促した。彼女は少しだけ迷いながらも選択し俺に端末を渡した。確認のため選択した箇所を見ると……俺の隣だった。えー……なんで?と思いながらも顔に出さないように我慢する。彼女は俺の左側を選択した。因みに俺の右側は空き部屋である。

部署の人間もそれぞれ部屋はあるが全員固まっている。当然仕事とかの都合がいい事がそれの理由であるが、俺は違う。サーヴァントが召喚される前からどの部署にも属していないため俺は一人だけ離れた位置に部屋を取ったのだ。それが今ではどうだろうか……。俺の左に女子が住もうとしてるではないか……。ていうかなんでそこ選んだんだ?理由を聞きたいわ。

俺が暫く端末を持ったまま固まっているとアルトリアが端末を覗き込んだ。俺はそれに気づいたが隠そうとせず彼女に端末を渡した。

 

「……俺が選んだとかじゃないからな」

 

「ああ、承知している」

 

「あの……ダメでしたか?」

 

「いえ、そうじゃないです。ただ俺の横というだけで……選び直しますか?」

 

「え……べつにいいですよ」

 

サーヴァントは俺に向かって微笑んだ。『え……』とかいう辺り本当に適当に選んだっぽいな。というか普通は空いてる部屋ならどこでもとかいったら左右誰もいないところ選ぶのが普通だと思うが……。

これで何度目か分からない気まずさが漂いだすと、俺はダヴィンチさんがやったように軽く咳をして話をずらす事にする。まあ、話す話題とかないから咳払いしても意味ないけど。もう行くか……。

 

「あの……。行きませんか?」

 

「はい……あ、申し遅れました。ジャンヌ・ダルクといいます。宜しくお願いします」

 

「…………は?」

 

俺は目を点にした。その反応を見てサーヴァントからも「へ?」という腑抜けた声が出た。いや、出したいのは俺だから……。だってジャンヌはもう……。

 

「アルトリア」

 

「どうした。まさか貴様は知らずに会話をしていたのか。私はてっきり知っていると思っていたが……」

 

アルトリアは既に知っていたかのように驚きもせず話した。俺はダヴィンチさんに目を合わせるとダヴィンチさんは首を傾げた。

 

「……ジャンヌって既にいますよね?」

 

「あれ?君に話さなかったけ?オルタのこと」

 

「……オルタ?」

 

「あれ?君書類とか作成してるよね?オルタの事とかサーヴァントの種類とか必ず一枚はあるとは思うけど……」

 

サーヴァントの種類に関してなら確かあったような……気がしない事でもない。けど、あまり覚えてない。いや、そんな一々記憶してたらどんだけ時間が掛かることか。答えを写すか考えてやるかの違いだ。答えを写す方が絶対に時間が短縮になる。それも多ければ多いほどそっちの方が手っ取り早い。俺は勉強をしているのではなく飽くまで仕事をしている。だからそんな一々記憶に留めていない。

 

「サーヴァントに関してなら何枚かは……けど覚えてませんよ」

 

「そうかもね。じゃあ凄く簡単で手短に言おう……同じサーヴァントでもタイプが違って召喚される事もあるんだよ。オルタに関してはまた違うけど……まあ、それは君が知っていても何も役に立たないから同じだと思ってくれいい。以上、天才ダヴィンチちゃんの説明でした」

 

ダヴィンチさんはにっこりと笑いながら本当に手短で簡単に言った。確かにサーヴァントなんて俺が知っていても、だからどうしたのという具合で終わるのが落ちだしな。あまり聞かなくても問題ないかもしれない。だって雑用だし。何も所属してないし……肩が軽い身分なのはいいことかもしれない。

 

「……じゃあアルトリアも?」

 

「ああ、私はオルタだ。私と同じタイプでいうならばもう一人いる」

 

「……アルトリアでいい?なんかオルタつけるの面倒だし長い」

 

「それでいい。今さらそんな呼び方されても私が反応に困るだけだ」

 

「ジャンヌに関してもオルタなしでいいかな?」

 

「いい。寧ろそっちでないと怒るかもしれん」

 

「なんでだよ」

 

「なんとなくだ」

 

俺は疑問に思いながらもアルトリアとの会話を終わらせる。いい加減この工房から出て自室に戻って作業をしないと今日も徹夜になってしまう。あと部屋にいるジャンヌにアイスを食われる。俺はジャンヌさんに部屋の案内をする事を伝えこの工房を出た。途中、アルトリアがいない事に気づいたが彼女なりの都合があるのだろうと思いそこまで気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……ジャンヌさん行きましょうか。案内しますよ」

 

「は、はい。宜しくお願いします」

 

彼のいきなりの呼び声に少し驚きつつもジャンヌはしっかりとした返事をして工房の扉へと歩いて行った。するとそのタイミングでダヴィンチが彼に声をかけた。しかし、アルトリアがそれを制止する。

 

「あ、ちょっとーー」

 

「おい」

 

小さな声でダヴィンチに言うと彼女は驚きながらもアルトリアに目を合わせた。何時ものあの笑顔はまた歪んだものになっていた。アルトリアは横目で彼が工房を出たのを見送った。早い段階で制止したので彼に対しての呼び声は彼の耳に届いていなかった。

 

「なんのつもりだい?」

 

「それはこちらの台詞だ」

 

アルトリアは目線を下げダヴィンチの手元を見た。ダヴィンチの手には数枚の紙がある。彼に渡す予定だったものだ。

 

「貴方はそれを彼に渡すべきではない」

 

「………なぜ?彼の仕事だよ。君には関係がない」

 

「ああ、私には関係がない」

 

「だったらーー」

 

「だが、私はそれを止めなければならない」

 

アルトリアは何時もの凛々しい表情を一切崩さずそう言った。ダヴィンチはアルトリアの言葉を聞き小さく「何故?」と呟いた。アルトリアはそれに答えるように「約束だ」と答えた。そして後ろを向き、扉に向かって歩き出した。

 

「そういう約束だからだ」

 

「……彼との約束かい?」

 

「違う……別の馬鹿とだ」

 

「もう一人いるのかい?それにしてもオルタのする事じゃないね」

 

「そうだ……。だがら私も馬鹿だ。しかしそれでいいと思っている。貴方ならその意味が解るだろう」

 

アルトリアはそう言い終わると同時に扉が開いた。アルトリアは振り向くことなく出て行った。工房には数枚の紙を握りしめているダヴィンチだけが残っている。ダヴィンチはアルトリアの出て行った方を暫く見続けた。そしてクシャッと紙を丸めた。

 

「……いただけない」

 

ダヴィンチにとっては彼がサーヴァントと関わることは都合が悪かった。彼にはもっと仕事をしてもらなければならない。彼はこのカルデアにおける仕事のほぼ八割を担っている。彼がいなければほぼ機能しないのに等しい。いや、正確に言えば機能しないのではなく情報が回らない。このカルデアにおいてそれは致命的というしかない。しかし、どうしようもない。どの部署にもそれを担うような人数が揃っていない。だから彼には全ての部署の『雑用』が回ってしまう。だからこそ彼のやる事は沢山増える。

ダヴィンチがその事を知ったのは彼から所属している部署はないと言われた時だった。彼の事に探りを入れると彼に関する書類が見つかり、そこには雑用とだけ書かれていた。それで不審に思い聞いてみると彼は自分の仕事を話した。彼の多忙さを知ったダヴィンチは彼の助けになるようなものを開発しそれを与えた。それはこの多忙さを改善するのは無理と言っているのと同じ意味であるが、ダヴィンチはそれを肯定した。つまり、彼の多忙さがなければ回らないこの現状を肯定した。実際本当に回らないのだから……。更にそれを肯定するのに拍車をかけたのは彼に対しての多忙さがはっきりとした形で誰一人知らないという事だった。ダヴィンチだけが彼の多忙さを知っているだけ。ロマンもマスターもだれも知らない。また彼も性格上そういうことをあまり公言しない性格であったのも好都合だった。

だから彼には休まれては困るのだ。いや、少しならいい。具体的には二週間に一度。それ以上はこのカルデアに支障をきたす。ダヴィンチはそう推測している。未来を担っているこのカルデアに一人の人間が犠牲になる事はやむを得ない。天才はそう結論を出した。だがらこそ彼の味方がいる事が都合が悪い。そいつはきっと彼の多忙さを知り休むよう促し、彼に対して仕事の意識を薄くさせる要因に繋がってしまう……。

 

「……いただけない。彼にはもっと頑張ってくれなければならないのに。その為に彼専用のドリンクまで作ったんだから……」

 

ダヴィンチは上を向いた。シミ一つない天井が眼に映る。面白さを感じない天井をジッと見つめていると頭の中でアルトリアの顔がぼやけながらも浮かんできた。ダヴィンチは手に力を入れながら苦笑する。

 

「君がやっているのはエゴだ……させないから。君の思い通りには……彼にはまだやるべき事がたくさんあるんだよ」

 

ダヴィンチはパソコンを起動させて彼のパソコンにメールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はジャンヌさんと会話をしながら廊下を歩いた。この時には俺の中に既視感はなかった。部屋に着くと俺は何か分からない事があったら隣に来るよう伝え、その場を去ろうとした。するとジャンヌさんが俺を呼び止めて変な質問をした。

 

「あの……具合とか悪いんですか?」

 

「……へ?」

 

ジャンヌさんの質問に俺は腑抜けた返事で答えてしまった。彼女は心配そうに俺を見つめている。俺はどう答えたらいいか分からず曖昧な言葉しか出なかった。

 

「えっと……」

 

「いえ……その、別に私の個人的な感想なんですが顔がやつれているように見えます」

 

自分で言うのも何だか歯がゆいが、俺は疲れなどが顔に出てこないタイプの人間でその所為もあってよく勘違いされてしまう。ここに気づけるとは流石ジャンヌだなと思ってしまった。ジャンヌは最初に気づいた一人目だ。

 

「まあ、そうですね。正直いえば二、三週間本当に寝てませんよ」

 

「二、三週間……ですか?」

 

「まあ、大丈夫ですよ。いざという時は倒れるだけですから」

 

そう言ったその時だった。視界が揺れた。揺れは時間が経つとともに大きくなり、ジャンヌさんの姿も捉えれないほどになった。どうやら俺の言葉はフラグだったようだ。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

揺れる世界でジャンヌさんの声がする。俺はそれに答えるように手を振ったが体は思うようにいかず、ジャンヌさんにもたれるように倒れる。彼女は俺を支え、ベッドに寝かせた。

 

「誰か呼んできます!」

 

「……お、お願いします」

 

頭が異様に重い。それに瞼も重くなってくる。意識が薄れそうになりながらもそう答えるともうダメだった。まだやるべき事があるのに…………。

 

 

 

 

 

ジャンヌは部屋を出ようとしたがその前に扉が開いた。ジャンヌが振り返るとそこには先ほど彼といたアルトリアがいた。

 

「……どうした」

 

「あの……彼が」

 

そう言ってベッドを指した。アルトリアはベッドまで寄って彼の容態を見た。規則正しい寝息を立てながら寝ていた。

 

「どうやら効いたようだな」

 

「……ど、どういう意味ですか?」

 

ジャンヌの質問に答えずアルトリアは彼を抱きかかえる。そしてチラッとジャンヌを瞥見し、そのまま扉に歩いて行った。

 

「あ、あの……」

 

「貴様に答えるつもりはない。これ以上突っ込むのならもう一人の貴様に聞け。それだけだ」

 

ジャンヌは呆然としたままアルトリアの後ろ姿を見ているだけでそこから暫く動く事が出来なかった。

 

「……どういう意味なんでしょうか」

 

当然、誰もその質問に答える者はいない。ジャンヌは何だか自分が取り残されたような感じがした。彼女にとって召喚されてからまだ数時間しか経ってないのにとても濃い一日となったのはいうまでもない。

 

 

アルトリアは彼の部屋に入ると、ジャンヌの姿が目に入った。ジャンヌはベッドで寛ぎながらアイスを食べていた。近くのゴミ箱を見ると無数のアイスの棒などがある。アイスだけをためていた彼にも呆れるがそれを食べるジャンヌにもまた同じように呆れる。

 

「許可なしに食べるのは文句は言わないが、食べ方は考えるべきだ」

 

「それ貴方が言うの?お互い様よそんなもの……」

 

ジャンヌの言葉にアルトリアの口からため息が漏れた。これ以上言ったところで何も変わらないのなら言わない方がいいと判断した。アルトリアはベッドに近づきながらジャンヌに退くように目配せをした。彼女はそれに素直に従った。

 

「……寝てるわね」

 

「効いたのはついさっきだがな」

 

「……あの瓶ってそんなに強いの?」

 

「そうらしいな。だがとりあえずはこれでいいだろう。明日には起こすが……」

 

「……二日くらい寝かせても問題ないわよ」

 

「ああ。だがそれはダメだ。何せこいつには仕事がある」

 

「あんなの仕事じゃない」

 

「仕事だ……。少なくともこいつにとってはな」

 

そう言ってアルトリアはまだ言い足りないような表情を浮かべるジャンヌから離れて近くの椅子に座る。ジャンヌはそんな彼女を見て小さくため息を漏らし再び彼を見た。小さな寝息が聞こえる彼を見て少しだけ安心した。

ジャンヌが彼に渡した薬は眠気を誘う薬と眠気を促す薬を調合されたものだった。ロマンから貰った薬で彼には「最近眠れてない」と言い薬をもらった。ロマンは「サーヴァントに効くか分からないけど」と言いながら素直に渡した。ジャンヌがこの薬について聞くと一番効くものだと答えた。だが……。

 

「……負けてるじゃない」

 

彼が愛用していたドリンクに負けていた。結局効果が効きだしたのはドリンクの効きめが薄くなってきてからだった。

それでは意味がない。ジャンヌは手に力を入れた。

 

「……どうでもいいが召喚されたサーヴァントはもう一人の貴様だ」

 

「本当にどうでもいいわね。誰が来たところで変わらないわ」

 

「…………そうだな。では、これはどうだ」

 

アルトリアの言葉にジャンヌは疑問をもちつつアルトリアの方へと歩いた。彼女は彼のデスクに置いてあるパソコンをジャンヌに見せた。パソコンにはメールが一つ入っていた。ダヴィンチからだった。

 

「これが何よ。どうせ仕事のメールでしょ?そんなもの無視に決まってーー」

 

「ああ、これがそうなら私もそうする。しかし……」

 

アルトリアはメールを開き内容を見せる。ジャンヌは横から覗くようにそれを見る。そして、アルトリアは小さな声で「こういうことだ」と言った。ジャンヌは目を細めながら無表情で小さく「へぇ……」と言った。

 

「……あの天才は敵ってことね」

 

「貴様もそうだが、大げさに捉えすぎている。そこまでの事ではない」

 

「大げさ?勝手に言ってなさい」

 

「……どうするつもりだ」

 

「別に?むこうがやってきたら私もやるだけよ」

 

ジャンヌの答えに「そうか……」と呟いた。彼女の彼に対する思いはアルトリアよりも強い。それは自覚をしていたつもりでいたアルトリアだが自分が想像していた以上のものになっていた事に少し驚いた。真剣さを感じるジャンヌを見ていると彼女の口が再び開いた。

 

「聖杯を使いましょう」

 

「……言っている意味が分からない」

 

「死んだらよ。彼がここで死んだら聖杯を使いましょう」

 

ジャンヌの真剣さは今だ消えていない。むしろ、強くなっているように感じる。アルトリアは改めてメールを見る。一文で『彼はカルデアのものだ』と書かれている。

 

「……貴様は馬鹿ではなくなったな」

 

「馬鹿よ。だから私は彼と一緒に地獄に行く運命にあるのよ。馬鹿同士でお似合いでしょ?」

 

「貴様は狂ってる……」

 

「狂ってる?何を今更……。貴方もそうじゃない」

 

「私は違う。私は狂ってなどいない」

 

ジャンヌはその言葉に小さく舌打ちをしパソコンから離れ彼が寝ているベッドの端に座った。そんなジャンヌを見てアルトリアは「だが……」と言った。アルトリアの言葉に彼女は訝しそうに見つめた。

 

「だが、その時は私も一緒に堕ちよう。貴様とこいつでは心配だ。堕ちるところまで行けば私も狂うようになるだろう」

 

そう言ったアルトリアにジャンヌは驚きつつも小さく鼻で笑った。

 

「貴方も既に狂ってるじゃない」

 

「私は馬鹿なだけだ。でなければこんな事は言わない……。貴様と一緒にするな」

 

「そう……狂ってるのは私だけね。いずれ解るわよ。貴方も私と同じだって事に」

 

「ああ、それを待とう。私はもう行こう……貴様はどうする」

 

「アイスはあるからここでゆっくりする」

 

「そうか……」

 

アルトリアはそう言って出口に向かって歩き出そうとしたが、もう一度パソコンの前に座った。そしてダヴィンチに対する返信を送った。それを不思議そうに見つめていたジャンヌはアルトリアが出て行って暫くした後、返信の内容を見た。ジャンヌはそれを見てクスッと笑った。

返信のメールには一言だけ『だが断る』と書かれていた。

 

「なんであいつも知ってるのよ」

 

ジャンヌの質問は寝ている彼の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい。ね?長いでしょう?

では、言い訳を……。

一月の終わりぐらいに喉が痛かったんですよ。
でも、風邪なんて直ぐに治ると思ってたので何もしないで過ごしてたんです。

けど、二月に入っても治らない。けど、病院も行かずに過ごしてたんです。それである日友人と一緒にカラオケ行ったんですよ。

「誰の連れかワッチャネームブラザー!誰の女かーー」

友「お前声ガラガラじゃね?」

「そう?まあ風邪だしな。別に大したことじゃないっしょ」

友「いやいや、インフル流行ってるから安静にしろ」

「あ、はい」

私はねそう言って渋々安静したわけなんですよ(歌いましたけど)。だけど次の日熱が上がってきてウワッと思ったら三十八度オーバーしてるんですよ。病院行ったら医者に「インフル」と言われてこれまた安静にしたんですよ。
けどねそこからなんですよ。どうやらインフルをこじらせたかなんか知らないけど持病だった喘息をね引き起こしたんですよ。
それはもう酷いのなんの……。
ですからただいま入院してます。
それくらい酷いです。はい。

「病院食まず」

ナース「我慢して食わんかい!」

「すいやせん!」

みたいな感じです。今回はそういう状況下の中でやっているのでもしかしたら「うん?」と思った人もいるかもですが、ご了承ください。

もうすぐ退院できそうで何よりなんですが……そんなわけで皆様も気をつけてください。ではお休みなさい。
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