今からおよそ300年前。
地球上に突如現れた、後に『霧の魔物』と呼ばれるソレは世界中で侵略を始めた。
もちろん人類とてなすがままに侵略されていった訳ではない。軍事力でもって抵抗をしたが霧の魔物には効果が薄く、徐々に人類はその生存圏を狭めていった。
このまま淘汰されゆくしかないのかと人々が匙を投げかけたが、ある時を境に、霧の魔物の侵略速度は低下していった。
霧の魔物が侵略速度を落としたわけではない。では何故か。
『魔法使い』の登場である。
それまでは空想上のものだとされていた魔法。魔法使いは魔力と呼ばれる、それまでの科学では見つけることのできなかった力を用いて無から火炎や雷撃を生み出すことができた。
そしてそれらの魔法はまるであつらえたかのように霧の魔物に効果的で、霧の魔物と人類は膠着状態を迎えた。
──そして300年の月日が経ち、現在。
日本関東エリア埼玉地区のはずれに位置する一つの施設。それは世界にいくつか存在する、魔法使いに覚醒した子供たちに教育を施す魔法学園の一つである私立グリモアール魔法学園──通称『グリモア』。
そのグリモアに転校してきた一人の少年が、人類と霧の魔物との長きにわたる争いを変えてゆく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「──もかっ、智花っ!」
「しっかりしなさい、智花っ!」
遠くから、音が聞こえる。まるで油膜が鼓膜を覆ってしまっているかのようにその音はくぐもっていて、意味をなさない。
しかし私はその音の発生源を探ろうと、ゆるゆると目を開けようとする。しかし、脳のその命令に反して瞼は一向に持ち上がらない。重石をつけられているかのように感じる。
「智花っ、智花っ、起きろ! 死ぬな!」
「ゆかり! 智花が、智花がっ!」
ああ、何を言っているのだろう。誰なのだろう。薄ぼんやりとした意識が今にも落ちてしまいそうだった。眠気にも似た抗い難い何かが私を襲う。
もう、いいや、と私はそれに身を任せた。
「智花、ともかーっ!」
「……夏海、私はあれの相手をする。数秒でも、時間を稼ぐ」
「怜!」
「だから夏海。お前はその男の子を避難させるんだ」
「あたしも……!」
「智花が! 助けた命だ。無意味にするな!」
「っ! ……怜……」
「ではな……夏海」
直後の轟音に、私はかすかに意識を浮上させられた。誰かが叫んでいる。そんな感じの音がなんとか鼓膜をうった。
──一緒に、卒業したかった──
そんな文字列が、脳裏に浮かび──刹那、私は何も感じなくなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「っ!?」
ガバッと、僕はベッドから身を起こした。気が付くと僕は汗びっしょりになっていて、部屋に響いているのではないかと言うほどに心臓が速く強く鼓動している。
何か悪夢でもみたのだろうか。しかし、何も思い出せない。
「まあ、夢ってそんなもんか……」
しかし、転校初日から悪夢を見るなんて、幸先悪いなぁ……。
「……よしっ」
軽く気合いを入れてベッドから飛び起きる。
今日は、転校初日。
すこし普通ではない学校への転入だから、緊張しているのかもしれない。
──頑張ろう!