「すみません、寝坊してしまって……っ」
少し息を乱しながらそう告げる少女。落ち着いたブラウンの髪色に肩の上まで伸びた髪。この子が案内役で間違い無さそうだ。
そのままじっと目の前の少女を観察する。なるほど、確かに可愛い。
「あ、あのぅ……顔に何か付いてます?」
怪訝に思われたのか、困惑気味に少女が口を開いた。
「いや、別に。これからよろしくお願いします、えっと……」
「南、智花です。智花で良いですよ転校生さん。それに同い年ですよね? 敬語じゃなくて良いですよ」
敬語は良いと言いつつ智花自身は敬語をやめる気は無いようだった。僕のもの言いたげな視線を受けて、智花は苦笑いを浮かべた。
「すいません、私くだけた物言いが苦手で……」
「そうなんだ。丁寧な人なんだね、智花は」
「そう言ってもらえると助かります」
はは……と軽く笑いあう。智花とは良好な関係が持てそうだ。
「じゃー智花、転校生のことよろしくな! オレからも軽く説明はしといたからさ」
「はい。兎ノ助さん」
智花が頷く。
「智花はこの兎がなんなのか知ってるの?」
「兎ノ助さんですか? いえ……そう言えば詳しいことは知りませんね。私が転入したときには当たり前のようにいました」
「オレはだいたい五十年前くらいから居るぞ!」
「五十年?」
五十年前からって……何歳だこの兎は。
胡乱な目つきになっていたのか、智花が取り繕うように言う。
「兎ノ助さんのことなら、宍戸さんがよく知っていると思いますよ」
「ししど……さん?」
「はい」
そう言われても分からん。まあいいか。
「それはとりあえずいいや。それじゃあ智花。学校案内してもらってもいい?」
「はい! もちろんです!」
「じゃあな転校生! 青春しろよ!」
「アラ還が青春とか言ってると思うとちょっとあれだな……」
「転校生!?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何やら喚き立てる兎ノ助を置いて智花と校舎へと向かう。
「あっちに見えるのが男子寮です。これからはあそこから通うことになると思います。あっちは対抗戦っていう模擬戦を行う施設です。それから……」
智花は一つ一つの目に見える建物を指差して丁寧に説明してくれている。
それをしっかり頭に入れながら、学園内を見回す。
白を基調とした清潔感の漂う雰囲気の校舎。遠目にバラ園が見えたり、噴水があったりして随分と絢爛豪華なイメージがする。外観だけを見ると立派な洋館にしか見えない。
と、そのときこちらに駆け寄ってくる人影を発見。
「とーもかー!」
「夏海ちゃん?」
どうやら智花の友達のようだ。ゼハゼハと荒い息を吐きながらも、智花に話しかける。
「その人ってもしかして噂の転校生!?」
「そ、そうだけど……」
「あんたが転校生で間違いないのね?」
「ああ、そうだけど」
ずいっと距離を詰める彼女に気圧されて一歩退くも、また距離を詰められる。かと思うと全身を観察された。
「ふーん、あんたが、ねぇ……」
「え、っと……夏海さん? 何か用で?」
「夏海で良いわよ転校生」
この人もとてつもなくフレンドリーというか壁がないな。
「それにしても転校そうそう智花と二人で学園デート? やるわね転校生」
「な、夏海ちゃん!?」
事実無根な勘ぐりをされて慌てる智花を尻目に、夏海が耳元でこそっと告げる。
「智花はおすすめよ? 顔よし、スタイルよし、性格よしで人気高いのよ?」
「そうなんだ?」
まあ優しそうだし美少女だしな……男子の人気は高そうだ。
「そんなことないです! 全然!」
「と、本人は言ってるけど?」
「まーあたしも実際調べた訳じゃないから分かんないけどね」
「夏海ちゃん!」
そのまま軽くじゃれあうように言い合う二人。傍目からはとても仲良く見えるし、実際そうなのだろう。
「まあ確かに、智花は家庭的って感じがするよ。料理とか得意そう」
と、なんの気のなしに呟いたのだが。
「……どうしたんだ、夏海?」
「あんた…………」
なぜか夏海が顔を笑えなくひきつらせていた。反して智花はというと目をきらきらとさせている。
「分かりますか! そうなんです、私料理好きなんですよ! 今度作ってきましょうか?」
「いいの?」
「はい!」
同年代の女子の手作り料理を食べるなんてしたこと無いからなぁ。少し楽しみだ。
そう言えばさっきから夏海が一言もはなさない。なぜか僕を同情するような、憐れむような目で見ている。
「夏海?」
「転校生……グッドラック」
「?」
なぜか親指をたててそう言う夏海。顔を青くしながらのその言葉に少し引っかかったが、気にしないことにした。
「それで夏海ちゃんは転校生さんになんの用があったの?」
「そうなのよ。部長から今度の転校生は凄いヤツだって聞いたから、取材に来たのよ!」
「遊佐さんが?」
転校生……僕か。
凄いヤツ、てどういうことだ?
「転校生さんが、どうかしたの?」
「それがね、にわかには信じがたいんだけど、こいつ魔力を他人に受け渡すことが出来るんだって!」
「……ええ!?」
智花はその言葉を理解するのに少し時間がかかったらしい。一息開けてから目を見開いて猜疑の入り交じった声を上げる。
そして二人してことの真偽を見定めるかのようにこちらを窺ってくる。
「……一応、そう言われたけど……何か凄いことなの?」
「そりゃ凄いことに決まってるでしょ! あんたそれに加えてとんでもない魔力量してんでしょ? 魔法使い十人分はくだらないって聞いたわよ?」
「魔法使い十人分!?」
再び智花が驚く。少々大袈裟ではないだろうかと思うほどだ。まだ要を得ていないような僕の表情を見たのか、夏海が続ける。
「魔法使い十人分ってのも、計れないから一応そういうことになってるけど、もしかしたら無限に有るんじゃないかとも言われてんのよ?」
「無限の魔力……それで、それを他人に受け渡せるって、それって……」
「そうよ、つまり転校生がいれば魔力切れを気にしないで戦うことが出来るのよ」
「す、凄いです転校生さん!」
「あ、うん……」
二人の勢いに思わず後ずさった。何やら自分の力は思ってた以上に凄いものだったらしい。
「それなら確かに、人類の希望だって言うのも納得できますね」
「いや、それは大げさだと思うけど」
「大袈裟なんかじゃないわよ」
「人類の希望っていうのは、コズミックシューターみたいな人のことだと思うんだけど」
「コズミックシューターは勿論だけど、あんたのはそれとは全く別物の希望よ。あんたがいれば魔法使い一人一人が大幅に戦力強化される」
魔力が多くなると戦力があがる? いや、継続戦闘能力は上がるだろうけど……。
「まあそれは良いわ。いずれ分かることだろうし。それより転校生は生徒会に用があるんでしょ? 行ってきたら?」
「夏海ちゃんが止めたんだけどね……」
と智花は苦笑いを浮かべた。
悪い奴じゃないんだろうけど、マイペースな人なんだな。