魔物を倒し終わり、風飛の街に戻ってきた。
クエスト終了後は生徒会へ報告の義務があるらしい。やり遂げたという事実確認と、霧の魔物に何か大きな異変がないかどうかの確認を行うようだ。
ともあれ、生徒会の人達と会うのは初めてになる。生徒会というと気難しいイメージがするからすこし身構えてしまう。
「そんなに固くならなくても大丈夫ですよ? 会長さんは良い人ですから」
「その言い方だと他の人達はおっかないように聞こえるんだけど……」
「もちろん皆さん良い人です」
まあ、これまで会った人達も良い人ばっかだったし、大丈夫か。言えるほど会ってはいないけれど。
とうとう生徒会室の前に着いた。これから長らくお世話になることだし、良好な関係が築ければいいんだけど。
智花がドアをノックすると、入ってこいと返事が返ってくる。妙に格好良い声だ。
「失礼します」
「失礼します……」
智花に続いて入室する。軽く中を見渡すが、特に変わったようなところはない。長机がコの字型に並べられていて、書類が積み重なっている。いかにも生徒会といった雰囲気だ。中にいたのは三人の女生徒。彼女らが生徒会の人間なのだろう。そのうちの一人が口を開いた。
「智花か。クエストは無事終わったようだな」
「はい。少し前情報よりも数が多かったように感じましたが、転校生さんの助力もあって殲滅に成功しました」
智花がそう報告すると、生徒会長らしきその女子生徒がこちらに視線を向ける。そして何かを見定めるかのように目を細める。
「転校生……なるほど、お前があの……」
そこで言葉を切ると、じっと見つめてくる。こちらも生徒会長であろう目の前の女生徒を観察する。煌びやかな金髪に、整った容姿。言葉遣いがやや尊大な感じだが、生徒会長らしい威厳を感じる。
いつまでもそうしているわけにもいかないので、自己紹介をしようと口を開く。
「初めまして。今日から転校生としてお世話になります」
「ああ、よろしく、転校生。私はグリモアの生徒会長、武田虎千代だ」
武田虎千代。やたらと格好良い名前だ。
「後ろの二人は副会長と会計だ」
「こんにちは転校生さん。私は水瀬薫子。副会長をやっております。どうぞよろしくお願いしますね」
「私は結城聖奈。会計をやっている。よろしく頼むぞ、転校生」
スタイルのよい艶麗な女子生徒が水瀬薫。眼鏡をかけたやや目つきの鋭い女子生徒が結城聖奈か。そしてやはりこの三人も美人ぞろい……容姿端麗な女子生徒が多いのは母数が多いから?
「ところで、転校生の能力は本物なのか?」
「そうなんです。転校生さん、本当に凄いんですよ! 魔力が尽きる心配が無かったので、素早く殲滅できたんです」
「ほう……まさか本当のことだったとはな……」
「そうなると、転校生さんはまさに希望と呼ぶに値する存在ですね……」
智花の言葉に、結城さんと水瀬さんが驚きの表情を浮かべる。会長も同様に驚いているようだ。
魔力の受け渡しとは本当に凄い力のようだ。
と、水瀬さんがこちらに近寄ってくる。そしておもむろに体に触れてくる。とっさに身を引くも、手を掴まれてそれも封じられる。表情は至って真剣なので無理に振り解く訳にもいかない、が……。
「み、水瀬さん? あの、ちょっと説明を……!」
健全な男子高校生としてはこの状況は辛い。いや、幸せだが辛い。柔らかさとかいい匂いとかで、ちょっとマズい。
と、それが伝わったのかどうかは定かではないが、水瀬さんは離れてくれた。
「すみません、すこし興味があったもので……しかし、触った限りでは特に普通と違った様子は無いですね……」
「薫子、いきなりそんなことをしたら転校生も驚くだろう」
「そうですね。本当に、失礼いたしました」
生徒会長に窘められ、水瀬さんが頭を下げる。
「いえ、別に大丈夫ですが……」
驚いたけど、基本的にはラッキーだった……いや、なに考えてんだ僕は。
「ふむ……。まあ、転校生の体質については後にしよう。初クエストだったんだ。疲れているだろう?」
「智花が主に戦っていたので、僕は殆どなにもしていないんですけどね……」
「それでも、疲れはあるでしょう? 戦闘を間近で体感したのですから」
副会長がそう言う。
「まあ、今日はゆっくり休むと良い。クエストを受けたその日の授業は免除される。無論、出てもかまわないが」
「そうですね。取りあえず失礼させて頂きます」
「ああ、これからよろしく頼む」
「こちらこそ」
生徒会長の言葉には期待がこもっている。正直前評判へのみんなの期待が大きすぎる気はするが、やれることは精一杯やろう。
用も終わったので退出しようとすると、水瀬さんに呼び止められた。
「転校生さん。最後に一つだけ」
「何ですか?」
「報道部には、特に、部長の遊佐鳴子にはご注意をこれから何かとちょっかいをかけられることになると思います」
「薫子、あまりそういうことはだな」
「分かっています、会長。しかし、何をしてくるか分かりませんから、注意を促して間違いはないかと」
報道部部長の、遊佐鳴子。なんだか知らないが、とりあえず気にするようにしよう。
「それでは失礼しました」
智花と一緒に生徒会室を後にする。生徒会役員の人たちも、きっと良い人なのだろう。生徒会と言うだけあってやや威圧感があったが……。
さて、と。今日は授業免除って言ってたけど、初日だしな……。出ておいた方がいいだろうか。
と、袖に引っかかりを覚える。
「智花?」
「えっと、そのですね……もしよければ、なんですが。……一緒にお出かけしませんか?」
智花はそういうと、何故か顔を赤くして俯いてしまう。きっと男子を誘うというのは初めてで、緊張しているのだろう。
「うん、いいよ」
「本当ですか!?」
断る理由はとくに思いつかなかったので、了承する。それを聞いた智花は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
取りあえず街へ出ようと校舎を後にする。
「あ、智花ー! 転校生ー!」
そんな騒がしい声とともに、夏海がこちらへ駆け寄ってくる。そして僕の手を掴むと、グイグイと引っ張ってきた。どうやらどこかへ連れて行こうとしているようだ。
しかし智花との先約があるので、付いていくわけにはいかない。
「えっと、夏海?」
「噂の転校生の初クエスト! これは取材しかないでしょ!?」
「あー、悪いけど、智花と出かける予定があるから」
と、夏海が智花へと視線をずらした。そして少し考えた後に、にやぁと笑みを浮かべる。
「へぇー、智花と転校生が、ねー……」
「ち、違うよ、夏海ちゃん!? ただ私は転校生さんに街を案内しようと……!」
「何もいってないんだけどなー」
「夏海ちゃん!」
揚げ足を取るような夏海の言葉に、智花が顔を真っ赤にして叫ぶ。僕も智花に加勢しようと口を開く。
「初クエスト終了祝いをしてくれるつもりじゃないかな、智花は。良かったら夏海も来る?」
そう言ったのだが、なぜか夏海の目が冷たいものになった。何か不味いことをいっただろうか。
そうしてしばしば冷めた視線を僕に向けていたが、やがて、はぁ、とため息を付いた。
「転校生は朴念仁なのね……。智花、苦労するね?」
「な、なんで転校生さんが朴念仁だと私が苦労しなきゃならないのかなー……」
「わっかりやすいわねー……ま、応援してるわ」
彼女たちがなにを話しているのかがよく分からない。いきなり話題飛んでない?
夏海は元のにやにやした笑顔に戻ると、ひらひら~と手を振りながら言う。
「私は遠慮しとくわ転校生。後は若いもの同士で仲良くやるのよ~」
「もう、夏海ちゃん!」
「あはは、それじゃあね」
それだけいって夏海はたたっと走り去っていく。来るのも去るのもあっという間だ。まるで嵐みたいな子だな。
「まあ、それじゃあ、行こうか」
「え!? あ、そ、そうですね……行きましょう!」
声をかけると、やや慌てたような表情で智花は答える。心なしか顔が赤い。どうかしたのだろうか。
再び歩いて、また今朝のようにMOMOYAの前を通りかかったところで、また声をかけられた。
「ん? 智花に、転校生じゃないか。クエストは無事に終わったのか」
声をかけてきた人も今朝と同様、怜だった。そしてそのまま近づいてくる。
「怜ちゃん、どうしたの?」
「ああ、学習用具を少し見ていた。ところで転校生とのクエストはどうだった?」
「え!? ど、どうだったって、言われても……!」
「? なにかミスでもしたのか?」
なぜか動揺する智花に、怜は怪訝な目をする。
「あ、ああー……く、クエストの攻略はどうだったってことだよね!」
「初めからそう訊いているつもりだったのだが……」
戸惑ったように怜が零す。智花は一体どういう問いだと思ったのだろう。と、怜がこちらに目を向ける。
「転校生、初めてのクエストは大丈夫だったか?」
「うん、ありがとう。とくに問題はなかったと思うよ。まあ、僕は魔力を渡しただけで、何もしてないんだけどね」
「いや、魔力の補充というのは十分すぎる支援だ。だから、引け目を感じる必要なんてない」
別にそんなつもりでは無かったが、怜はそう励ましてくれた。すると、あの妙なテンションから回復したのか、智花も怜の言葉に同調する。
「そうですよ転校生さん! 転校生さんのおかげで安心して戦えたんです」
「ははは……ありがとう、怜、智花」
取りあえず感謝の意を述べると、智花はうんと頷いた。すると、再び怜が口を開いた。
「智花、実際に、転校生の力はどうだった?」
「うん、凄いと思う。魔力が枯渇しないって言うのは思ったより戦いやすくて。それに、なんだか魔法の威力も上がってたの」
「魔法の威力が?」
「そうなの。多分、無意識に魔力を注ぎすぎたんだと思うんだけど……」
「ふむ……なるほど」
怜はそこで一旦言葉を切り、僕をみる。
「何はともあれ、初クエストお疲れ様だ。今日はよく休め、転校生」
「うん……あ、そう言えば、これから智花と街に行くんだけど、怜は来る?」
「これから? ……もしかして、私は邪魔をしてしまったのだろうか」
「だ、大丈夫だから!」
「それで、怜はどうする?」
「いや、私は遠慮しておこう。頑張れよ、智花」
「怜ちゃんまで……!」
顔を赤くしながら、なにやら憤慨するように智花が言う。それを怜は軽く受け流すと、ではな、と去っていった。
「え、えっと、転校生さん」
「ん?」
「えっと、行きましょうか……?」
「そうだね」
どこか不安げに訊いてくる智花を不思議に思いながらそう返すと、智花は安心したようにふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
その表情はとても魅力的で、思わず目を奪われる。
「転校生さん?」
黙ってしまった僕を、不思議そうに智花がのぞき込んでくる。僕は軽く頭を振って心を落ち着ける。
「なんでもない……行こっか」
「はい!」